説明

有機化合物の分解触媒および分解方法

【課題】Ni等の卑金属を活性成分とする触媒を用い、気体中の揮発性有機化合物をより低温で分解するための、触媒燃焼装置を提供する。
【解決手段】加熱・保温可能な装置内に、本触媒や本触媒を固定した反応器を設け、そこに分解したい有機物成分を含む気体を通過させることにより、揮発性有機化合物の分解が行われる。特に、触媒として、弱酸性陽イオン交換樹脂に卑金属活性成分を担持した触媒を用いると、従来よりも低温において、揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を触媒燃焼により効率的に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物や粒子状有機化合物などの気体中に含まれる有機物成分を分解する触媒、および当該触媒を用いた気体中の有機物成分の分解方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国の大気汚染状況として、浮遊粒子状物質による人の健康への影響や光化学オキシダントによる健康被害が深刻化している。浮遊粒子状物質やオキシダントの生成には、有機溶媒を用いる設備や半導体などの製造工程からの排気中に含まれる揮発性有機化合物や粒子状有機化合物が関与しているとされ、これらの排出抑制対策は急務である。このような気体中の有機物成分を分解する有効な手段の1つである触媒燃焼では、活性の高いPt等の貴金属が使用されており、貴金属以外は触媒としてあまり検討されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Miura et. al, Low-temperature conversion of NO to N2 by use of a novel Ni loaded porous carbon, Chemical Engineering Science 56, 1623-1629 (2001)
【非特許文献2】Atul Sharma et. al, Uniform dispersion of Ni nano particles in a carbon based catalyst for increasing catalytic activity for CH4 and H2 production by hydrothermal gasification, Fuel 85, 2396-2401 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の触媒燃焼に用いられる触媒は貴金属を用いるため高価となり、このことが揮発性有機化合物等の除去のために触媒燃焼装置を導入する際の妨げになっている。また、従来の貴金属触媒、例えばPtアルミナ触媒で揮発性有機化合物の燃焼を行う場合、燃焼温度はトルエンで210℃程度、酢酸エチルで350℃程度と、比較的高温であり、ランニングコストがかかることも、触媒燃焼装置の導入の妨げになっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、Ni等の卑金属を活性成分とする触媒を用いることにより、気体中の揮発性有機化合物が分解されることを見い出し、これを用いた触媒燃焼装置を提供することにより、上記課題を解決した。
本発明による触媒燃焼除去は、加熱・保温可能な装置内に、本触媒や本触媒を固定した反応器を設け、そこに分解したい成分を含む気体を通過させることにより行われる。本発明の触媒により、気体中の有機物成分は燃焼され、二酸化炭素と水に転化された後、大気中に放出される。
【0006】
本発明においては、特に、触媒として、弱酸性陽イオン交換樹脂に卑金属活性成分を担持した触媒を用いると、従来よりも低温において、揮発性有機化合物を触媒燃焼により効率的に除去することができる。
【0007】
本発明の触媒活性成分として用いられる卑金属としては、Ni, Cu, Fe, Mn, Zn, Cd, Co, Ce, W, Moがあげられ、これらを単独で、または組み合わせて、微細粉末として、あるいは、担体に高分散させて、用いることができる。これらの触媒活性成分うち、Ni, Fe, Ceが好ましく、なかでも、Niが特に好ましい。
本発明の触媒に用いられる担体としては、通常用いられるものが用いられるが、イオン交換樹脂、特に弱酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。
本発明の触媒の作成方法自体は、公知の窒素酸化物の還元や石炭ガス化に用いられる卑金属触媒のものと同様であり、既知のものである(非特許文献1、2)。
本発明触媒燃焼装置は、上記触媒を所要の温度にし、ここに有機物成分を含む気体を通過させて、気体中の有機物成分を当該触媒に接触させることで、有機物成分を分解する。
【0008】
本願は、具体的には、以下の発明を提供するものである。
〈1〉 卑金属を活性成分とする、気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を燃焼するための触媒。
〈2〉 卑金属活性成分が、Ni, Cu, Fe, Mn, Zn, Cd, Co, Ce, W, Moから選ばれ、これらを単独で、または組み合わせて、微細粉末として、あるいは、担体に高分散させて、用いることを特徴とする、〈1〉の触媒。
〈3〉 卑金属活性成分が、Ni, Fe, Ceから選ばれ、これらを単独で、または組み合わせて、微細粉末として、あるいは、担体に高分散させて、用いることを特徴とする、〈1〉または〈2〉の触媒。
〈4〉 卑金属活性成分が、Niであることを特徴とする、〈1〉〜〈3〉のいずれかの触媒。
〈5〉 担体として、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、〈2〉〜〈4〉のいずれかに記載の触媒。
〈6〉 〈1〉〜〈5〉のいずれかの触媒を用いて、気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を燃焼、除去する方法。
〈7〉 加熱・保温可能な装置内に、〈1〉〜〈5〉のいずれかの触媒もしくは当該触媒を固定した反応器を設け、そこに揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を含む気体を通過させることにより、当該気体中の有機物成分を燃焼、除去する装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、卑金属を触媒として用いることにより、従来の貴金属を触媒として用いることなく、気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を効率的に分解できる。
特に、担体として弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた本発明の触媒は、従来の触媒より低温で気体中の有機物成分を分解できる。例えば揮発性有機化合物の1種である酢酸エチルでは、従来の貴金属を用いた触媒燃焼では350℃程度必要とされているが、本発明では200℃で完全に分解できる。
本発明により、低価格の触媒を用い、さらに、運転温度をより低温にすることでランニングコストが低下し、気体中有機物成分の触媒燃焼装置導入の促進に繋がる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0010】
以下に、本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0011】
実施例1.触媒の調製
本発明の触媒を、以下の手順に従って、調製した。
(1) 三菱化学 ダイヤイオンWK-11(弱酸性陽イオン交換樹脂) 10gをカラムに詰め、HCl 1mol/l水溶液200mlを約6時間かけて上記カラムに滴下、その後蒸留水で洗浄する。
(2) NiSO4・6H2O 10.5gを200ml蒸留水に入れる。
(3) (1)で前処理したWK-11を(2)で調製した溶液に加え、アンモニア水でアルカリ性に調整して24時間攪拌し、ろ過、蒸留水で洗浄後、24時間70℃で真空乾燥する。
(4) 上記処理後のWK-11を窒素雰囲気下で、10K/minで昇温して、600℃で90分間保持した後、常温に戻し、本発明の触媒を得る。
【0012】
実施例2.
実施例1において調製したNi/WK-11触媒を用いて、以下の手順で、気体中の有機物成分の燃焼実験を行った。
(1) 内径6mmの石英管に触媒0.4gを入れ、石英管を電気炉内に設置して所定の温度に昇温する。
(2) 10% 酸素、90% 窒素の混合ガスに、シリンジポンプで有機物成分を気化・混合し、有機物成分1%の模擬ガスを作り、上記石英管に100ml/minで導入する。
この実施例では、有機物成分としてトルエンを用いた。トルエンは、揮発性有機化合物として最も多く排出される物質の1つである。実験の結果は、以下のとおりであった。
150℃では、反応開始直後に僅かに分解するが、その後分解率0%となる。
200℃, 250℃, 300℃では、分解率100%となる。
【0013】
実施例3.
有機物成分として酢酸エチルを用い、実施例2と同様の実験を行った。酢酸エチルは、触媒燃焼では高い燃焼温度が必要な物質の1つである。
実験の結果は、以下のとおりであった。
150℃, 180℃では、反応開始直後に僅かに分解するが、その後分解率0%となる。
200℃, 250℃, 300℃では、分解率100%となる。
【0014】
実施例4.
各種の卑金属触媒を用い、有機物成分として酢酸エチルを用いて触媒燃焼実験を行った。結果を以下の表に示す。
【0015】
【表1】

酢酸エチルの分解率 [%]

【0016】
表1中、試料1〜5は、以下の触媒を意味する。
1. Ni粉末(3〜7μm)をそのまま触媒として使用。
2. 担体としてPK228(ダイヤイオン、強酸性陽イオン交換樹脂) を使用し、実施例1と同様にして作成した触媒。
3. 実施例1において(2)の金属塩としてFeSO4・7H2O を用いた点を除き、実施例1と同様にして作成した触媒。
4. 実施例1において(2)の金属塩としてCe2(SO4)3・6H2Oを用いた点を除き、実施例1と同様にして作成した触媒。
5. 担体として活性炭を使用し、実施例1と同様にして作成した触媒。
【0017】
以上の実験結果から、各種の卑金属触媒を用いることにより、気体中の有機物成分を燃焼、除去できることが示される。
従来技術のPtアルミナ触媒で揮発性有機化合物の燃焼を行う場合、燃焼温度はトルエンで210℃、酢酸エチルで350℃程度である(著名な酸化触媒メーカーである、N.E.CHEMCATのカタログによる。)から、上記の結果は、従来の白金族触媒を用いた結果に匹敵するものである。
特に、弱酸性陽イオン交換樹脂を担体とする触媒は、従来、触媒燃焼に高温を要していた酢酸エチルなどの揮発性有機化合物についても、より低温での処理が可能であるという、きわめて優れた効果を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の燃焼触媒は、気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を分解する装置用の触媒として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卑金属を活性成分とする、気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を燃焼するための触媒。
【請求項2】
卑金属活性成分が、Ni, Cu, Fe, Mn, Zn, Cd, Co, Ce, W, Moから選ばれ、これらを単独で、または組み合わせて、微細粉末として、あるいは、担体に高分散させて、用いることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
卑金属活性成分が、Ni, Fe, Ceから選ばれることを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
卑金属活性成分が、Niであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
担体として、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の触媒を用いて、気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を燃焼、除去する方法。
【請求項7】
加熱・保温可能な装置内に、請求項1〜5のいずれかの触媒もしくは当該触媒を固定した反応器を設け、そこに揮発性有機化合物を含む気体を通過させることにより、当該気体中の揮発性有機化合物や粒子状有機化合物を燃焼、除去する装置。



【公開番号】特開2011−230087(P2011−230087A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104688(P2010−104688)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】