説明

有機化層状ケイ酸塩及び該有機化層状ケイ酸塩を含有する樹脂組成物

【課題】分子鎖内にフラン環を有する樹脂に対して高い分散性を有する有機化層状ケイ酸塩を処方し、当該樹脂の耐久性や剛性を向上させることが本発明の課題である。
【解決手段】本発明に係る樹脂組成物は、フラン環を有する有機化剤で有機化された層状ケイ酸塩を、分子鎖内にフラン環を有する樹脂に混合することで得ることができ、該樹脂組成物は耐熱性や剛性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラン環を有する有機化剤により有機化された層状ケイ酸塩及び該有機化層状ケイ酸塩を含有する樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から化石資源の使用を極力抑え、温暖化効果ガスの排出を低減するために、再生可能資源を利用して合成した樹脂が注目を集めている。現在、多く作られているバイオポリマーは、脂肪族ポリエステルであるが、化石資源から合成した汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックに比べて物性が劣るために、化石資源から作ったベンゼン環などを含有する樹脂を混合して物性を上げているのが現状である。しかし、化石燃料から作った樹脂を混合すると、環境負荷低減効果が小さくなってしまう。一方、フラン環は、糖化合物から合成することができるため、分子鎖内にフラン環を有する樹脂は、化石資源からではなく、再生可能資源を利用して合成することが可能である。
【0003】
ここで、一般に、熱可塑性樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐候性、耐薬品性などの優れた性質を利用して、フィルムや整形用材料など多岐に用いられている。さらに、これらの熱可塑性樹脂に強化充填剤を配合することによって、樹脂の強度や耐熱性が向上するため、こうして得られる強化組成物は機械部品用素材として好適である。このような強化充填材の一つとしてタルク、ガラスファイバー、層状ケイ酸塩などの無機粉体が挙げられる。このような粉体状の充填剤を用いた場合、溶融混練等で樹脂組成物を得る際には高い混合比での添加が必要であり、また、加工性、分散性に問題があった。
【0004】
そこで、層状ケイ酸塩の層間に存在する交換性陽イオンを有機オニウムイオンで交換して有機化層状ケイ酸塩とすることにより、層の剥離を起こしやすくするとともに、樹脂との親和性を高める工夫がなされている。特許文献1には、ポリエステル樹脂と、構造中にベンゼン環を含む有機オニウムイオンを層状ケイ酸塩に結合させて製造した有機化層状ケイ酸塩とを混合する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−261947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、構造中にベンゼン環を含む有機オニウムイオンを層状ケイ酸塩に結合したものを用いることにより、特定の樹脂に対する分散性は向上するものの、上述の分子鎖内にフラン環を有する樹脂に対する分散性は満足できるものではなかった。
【0006】
層状ケイ酸塩の分散性が不足し、偏在した場合、樹脂組成物の強度や耐熱性が向上しないばかりでなく、樹脂組成物にかかった応力が特定部位に集中する原因ともなる。したがって、分子鎖内にフラン環を有する樹脂に対して高い分散性を有する有機化層状ケイ酸塩を処方することが本発明の課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機化層状ケイ酸塩は、特定の有機オニウムイオンを層間に有している。これを分子鎖内にフラン環を有する樹脂と溶融混練することで、容易にナノレベルで均一に層状ケイ酸塩を樹脂中へ分散させることが可能である。ナノレベルの分散とは、層状ケイ酸塩を形成する厚さ約1ナノメートルの層が単層ずつ剥離して樹脂中に分散した状態のことをいう。
【0008】
すなわち、本発明に係る有機化層状ケイ酸塩は、フラン環を有する有機化剤で有機化された層状ケイ酸塩であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る樹脂組成物は、分子鎖内にフラン環を有する樹脂に、前記有機化層状ケイ酸塩を混合させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は新規の樹脂組成物に関する。本樹脂組成物は機械的強度、耐熱性など良好な物性を有し、かつリサイクルにも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本発明に係る樹脂組成物は、フラン環を有する有機化剤で有機化された層状ケイ酸塩、つまり本発明に係る有機化層状ケイ酸塩を分子鎖内にフラン環を有する樹脂に混合することで得ることができ、該樹脂組成物は耐熱性や剛性に優れている。
【0013】
本発明に係る樹脂組成物を構成する樹脂としては、その分子鎖内にフラン環を有するものであれば特に限定されないが、例えば、分子内にフラン環を有するジカルボン酸あるいはそのエステル形成誘導体とジオールあるいはそのエステル形成誘導体とを主成分とし、それらの重合反応により得られる重合体又は共重合体である分子鎖内にフラン環を有する熱可塑性ポリエステル樹脂を用いることができる。また、例えば、分子内にフラン環とカルボキシル基とアルコール基を有する化合物を主成分とし、それらの重合反応により得られる重合体又は共重合体である分子鎖内にフラン環を有する熱可塑性ポリエステル樹脂を用いることができる。また、例えば、分子内にフラン環を有するジカルボン酸あるいはそのエステル形成誘導体とジアミンあるいはそのエステル形成誘導体とを主成分とし、それらの重合反応により得られる重合体又は共重合体である分子鎖内にフラン環を有する熱可塑性ポリアミド樹脂等の樹脂を用いることができる。
【0014】
分子鎖内にフラン環を有する樹脂の具体例としては、ポリブチレンフランジカルボキシレート(化1)、ポリプロピレンフランジカルボキシレートやポリエチレンフランジカルボキシレート等のポリアルキレンフランジカルボキシレート、ポリブチレンフランカルボキシアミド、ポリプロピレンフランカルボキシアミド、ポリエチレンフランカルボキシアミ
ド、ポリブチレンフランジアミド、ポリプロピレンフランジアミド、ポリエチレンフランジアミドなどが好ましく用いられる。これらの中で、本発明において、ポリブチレンフランジカルボキシレート(化1)、ポリプロピレンフランジカルボキシレート、ポリエチレンフランジカルボキシレートが好ましく用いられ、ポリブチレンフランジカルボキシレート(化1)が特に好ましく用いられる。
【0015】
【化1】

ポリブチレンフランジカルボキシレート(式中Rは(CH24を表す。)
【0016】
本発明に係る樹脂組成物には、機械的特性や耐熱性を大幅に損ねることのない範囲で、必要に応じてその他の樹脂成分を共重合ないしは混合することもできる。その他の樹脂の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロン酸、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリブタジエン、ABS樹脂などが挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる層状ケイ酸塩は、膨潤性の層状ケイ酸塩であり、例えば、モンモリロナイト、サポナイト等のスメクタイト、膨潤性の合成マイカ、グラファイト、イモゴライトなど一般的なナノコンポジット材料を使用することができる。中でも、モンモリロナイト、合成マイカは好適である。
【0018】
これらの層状ケイ酸塩を有機化するためのフラン環を有する有機化剤としては、フラン環を有するオニウムカチオンであり、本発明の効果を奏するものであれば限定されることはないが、特にオニウムカチオンのカチオン原子にフラン環を有する化合物が結合している化合物を用いることができる。
【0019】
本発明におけるフラン環を有する有機化剤の好適な態様は、下記一般式(I)で示されるオニウムカチオンである。
【0020】
【化2】

【0021】
上記一般式(I)は次の条件を満足する。すなわち、Mは窒素原子またはリン原子である。R1は炭素原子数1〜24のアルキル基である。R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、又は直鎖若しくは分岐鎖構造を有する炭素原子数1〜6のアルキル基である(該アルキル基は置換基としてヒドロキシ基を有してもよい)。R4はフラン、又は炭素原子数1〜6の炭素鎖であって置換基としてフランを有しているものである(該炭素鎖はカルボニル、エーテル又はエステルを含んでいてもよい。該フランは置換基として炭素原子数1〜4のアルキル基を少なくとも1つ有していても良い。また、該フランは縮合環を有していてもよい。)。
【0022】
上記R1は、層状ケイ酸塩の層間距離を拡大させる効果の観点から、より好ましくは炭素原子数6〜20のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素原子数8〜18である。
【0023】
上記R2及びR3はそれぞれ独立に、より好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基である。
【0024】
上記R4は、より好ましくはフラン又は炭素原子数1〜4のアルキル基であって置換基としてフランを有するものであり、さらに好ましくはフランである。
【0025】
したがって、上記一般式(I)は次の条件を満足することがより好ましい。すなわち、Mは窒素原子またはリン原子である。R1は炭素原子数6〜20のアルキル基である。R2及びR3は炭素原子数1〜6のアルキル基である。R4はフラン又は炭素原子数1〜4のアルキル基であって置換基としてフランを有するものである。
【0026】
さらに、上記一般式(I)は次の条件を満足することが特に好ましい。すなわち、Mは窒素原子またはリン原子である。R1は炭素原子数8〜18のアルキル基である。R2及びR3は炭素原子数1〜3のアルキル基である。R4はフランである。
【0027】
前記フラン環を有する有機化剤としては、具体的には以下に示す化合物が挙げられる。フラン環を有する第4級フォスホニウムとしては、例えば、ジメチルステアリルフランフォスフォニウム、2−フランカルボキシジメチルステアリルフォスフォニウム、ドデシルジブチルフランフォスフォニウム、ヘキサデシルジブチルフランフォスフォニウム、オクタデシルジブチルフランフォスフォニウム、ドデシルジメチルフランフォスフォニウム、ヘキサデシルジメチルフランフォスフォニウム、オクタデシルジメチルフランフォスフォニウム、ジドデシルブチルフランフォスフォニウム、ドデシルジブチルフランフォスフォニウム、ジヘキサデシルブチルフランフォスフォニウム、ヘキサデシルジブチルフランフォスフォニウム、ジオクタデシルブチルフランフォスフォニウム、オクタデシルジブチルフランフォスフォニウム、ジドデシルメチルフランフォスフォニウム、ドデシルジメチルフランフォスフォニウム、ジヘキサデシルメチルフランフォスフォニウム、ヘキサデシルジメチルフランフォスフォニウム、ジオクタデシルメチルフランフォスフォニウム、オクタデシルジメチルフランフォスフォニウム等が挙げられる。
【0028】
フラン環を有する第4級アンモニウムとしては、例えば、ジメチルステアリルフランアンモニウム、2−フランカルボキシジメチルステアリルアンモニウム、ドデシルジブチルフランアンモニウム、ヘキサデシルジブチルフランアンモニウム、オクタデシルジブチルフランアンモニウム、ドデシルジメチルフランアンモニウム、ヘキサデシルジメチルフランアンモニウム、オクタデシルジメチルフランアンモニウム、ジドデシルブチルフランアンモニウム、ドデシルジブチルフランアンモニウム、ジヘキサデシルブチルフランアンモニウム、ヘキサデシルジブチルフランアンモニウム、ジオクタデシルブチルフランアンモニウム、オクタデシルジブチルフランアンモニウム、ジドデシルメチルフランアンモニウム、ドデシルジメチルフランアンモニウム、ジヘキサデシルメチルフランアンモニウム、ヘキサデシルジメチルフランアンモニウム、ジオクタデシルメチルフランアンモニウム、オクタデシルジメチルフランアンモニウム等が挙げられる。また、その他にも、例えば、トリメチルフランアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルフランアンモニウム、2―アセトキシエチルジメチルフランアンモニウム、ジオクチルメチルフランアンモニウム、ポリオキシプロピレンメチルエチルフランアンモニウム、メチル/タロービス(2−ヒドロキシエチル)フランアンモニウム、ジメチルベンジル水素化タローフランアンモニウム、ジメチル水素化タロー−2−エチルヘキシルフランアンモニウム、メチルジ水素化タローフランアンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
これらのフラン環を有する有機化剤の中でも、特に好ましいものとしては、ジメチルステアリルフランアンモニウム及びジメチルステアリルフランフォスフォニウムが挙げられる。
【0030】
これらのフラン環を有する有機化剤は単体で用いても良いが、2種以上の化合物の混合物として使用しても良い。
【0031】
前記フラン環を有する有機化剤は、公知の方法で製造することができる。例えば、化3から化11に示すようなハロゲン化したフラン環を有する化合物を、例えばジメチルステアリルアミン(化12)と反応させることによって、フラン環を有する4級アンモニウムが得られる。具体的には、ジメチルステアリルアミン(化12)と3−クロロフラン(化3)を反応させることによって、ジメチルステアリルフランアンモニウムを得ることができる。なお、反応は求核置換反応である。
【0032】
【化3】

3−クロロフラン
【0033】
【化4】

3−ブロモフラン
【0034】
【化5】

フラン−2−カルボニルクロライド
【0035】
【化6】

3−メチルフラン−2−カルボニルクロライド
【0036】
【化7】

5−メチルフラン−2−カルボニルクロライド
【0037】
【化8】

2−メチルフラン−3−カルボニルクロライド
【0038】
【化9】

5−t−ブチル−2−メチルフラン−3−カルボニルクロライド
【0039】
【化10】

3−メチルベンゾフラン−2−カルボニルクロライド
【0040】
【化11】

2−クロロメチレン−5−メチルフラン
【0041】
【化12】

ジメチルステアリルアミン
【0042】
続いて、本発明に係る有機化層状ケイ酸塩の製造方法について、とくに、層状ケイ酸塩の有機化について説明する。まず、層状ケイ酸塩のスメクタイトを60℃から90℃の温水中に膨潤させつつ分散させる。これにフラン環を有する有機化剤を徐々に加え、20時間から30時間ほど温水中で攪拌し、層状ケイ酸塩の層間に存在する交換性イオンを有機化剤がイオン化したものに交換する。この懸濁液をろ過し、得られた固体を温水で繰返し洗浄し、残存するナトリウムイオンと余剰の有機化剤を除去する。最後にオーブン中で乾燥させ、粉砕機により粉砕することにより粉末状の本発明に係る有機化層状ケイ酸塩を得る。
【0043】
このとき、フラン環を有する有機化剤の添加量は、例えば、層状ケイ酸塩のイオン交換容量の1当量に対して0.5当量から1.5当量とすることができ、0.7当量から1.2当量とすることが好ましい。
【0044】
次いで、2軸混練機で本発明に係る層状ケイ酸塩を樹脂中に分散させる。まず、分子鎖内にフラン環を有する樹脂を該樹脂の融点以上で温調された2軸混練機に投入し、その後、定量フィーダーを用いて本発明に係る有機化層状ケイ酸塩を添加しつつ混練する。混練機のスクリューによって生じるせん断応力で有機化層状ケイ酸塩は徐々に層剥離し、層状ケイ酸塩を形成する厚さ約1ナノメートルの層が単層ずつ剥離した状態で樹脂中に分散する。この時、有機化層状ケイ酸塩を形成する層の表面にはフラン環を有する有機化剤がイオン的に結合していると考えられる。フラン環を有する有機化剤はフラン環を有するため、分子鎖内にフラン環を有する樹脂との親和性が高い。したがって、本発明に係る有機化層状ケイ酸塩は、分子鎖内にフラン環を有する樹脂中に分散されやすい。
【0045】
本発明に係る有機化層状ケイ酸塩の添加量は、樹脂と有機化層状ケイ酸塩の合計100重量部に対して0.1重量部から30重量部とすることができ、1重量部から15重量部とすることが好ましく、1重量部から10重量部とすることがより好ましい。有機化層状ケイ酸塩の添加量が0.1重量部未満の場合は樹脂組成物の強度や耐熱性の顕著な向上が認められない場合があるからである。一方、30重量部を超えると層間化合物中の4級アンモニウムイオン成分の影響でマトリックス樹脂の劣化が促進され成形に支障を来す場合があるからである。なお、有機化層状ケイ酸塩は単独で用いてもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0046】
作製された樹脂組成物は、ペレタイザーでペレット化することができる。
【0047】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、衝撃改良材、着色防止剤、熱安定剤、滑剤、難燃剤、離型剤、核剤、加水分解抑制剤などを添加することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変形可能であることは言うまでもない。
【0049】
〔実施例1〕
1リットルの誘導回転式オートクレーブに化12(ジメチルステアリルアミン)300gとイソプロピルアルコール100g、水10gを充填した。4級化剤として化3で示すフラン環を有する化合物(3−クロロフラン)(和光純薬工業株式会社)を使用し、反応器中に導入しつつ、反応温度を90℃に保持した。4時間反応を行ったところ、化13で示すジメチルステアリルフランアンモニウムの塩化物が得られた。
ジメチルステアリルアミン
【0050】
【化13】

ジメチルステアリルフランアンモニウム
【0051】
〔実施例2〕
実施例1でジメチルステアリルアミン(化12)のかわりにジメチルステアリルフォスフェートを使用した以外は同じ方法により化14で示されるフラン環を有するフォスフォニウムの塩化物を得た。
【0052】
【化14】

ジメチルステアリルフランフォスフォニウム
【0053】
〔実施例3〕
実施例1で化3のかわりに化4を使用した以外は同じ方法によりフラン環を有する第4級アンモニウム塩を得た。
【0054】
〔実施例4〕
実施例2で化3のかわりに化4を使用した以外は同じ方法によりフラン環を有するフォスフォニウム塩を得た。
【0055】
〔実施例5〕
実施例1で化3のかわりに化5を使用した以外は同じ方法によりフラン環を有する第4級アンモニウム塩を得た。
【0056】
〔実施例6〕
実施例2で化3のかわりに化5を使用した以外は同じ方法によりフラン環を有するフォスフォニウム塩を得た。
【0057】
〔実施例7〕
層状ケイ酸塩のモンモリロナイト(ナトリウム型)(ベンゲルE、株式会社ホージュン)100gに60℃の温水0.99リットルを攪拌しながら加え、膨潤させつつ分散させた。次に、実施例1で得られた化13で示される第4級アンモニウム塩を5重量部含有する水溶液1リットルを徐々に添加し、60℃に保って24時間攪拌することによりナトリウムイオンとイオン交換反応させた。その後、沈殿物をろ別し、超純水で洗浄を繰り返して残留ナトリウムイオンを除去したのち乾燥し、粉砕機することにより、粉末状の有機化層状ケイ酸塩を得た。
【0058】
〔実施例8〕
実施例7で、化13のかわりに実施例2で得られた化14で示されるフラン環を有するフォスフォニウム塩を用いた以外は同様の方法で、有機化層状ケイ酸塩を得た。
【0059】
〔実施例9〕
実施例7で、化13のかわりに実施例3で得られたフラン環を有する第4級アンモニウム塩を用いた以外は同様の方法で、有機化層状ケイ酸塩を得た。
【0060】
〔実施例10〕
実施例7で、化13のかわりに実施例4で得られたフラン環を有するフォスフォニウム塩を用いた以外は同様の方法で、有機化層状ケイ酸塩を得た。
【0061】
〔実施例11〕
実施例7で、化13のかわりに実施例5で得られたフラン環を有する第4級アンモニウム塩を用いた以外は同様の方法で、有機化層状ケイ酸塩を得た。
【0062】
〔実施例12〕
実施例7で、化13のかわりに実施例6で得られたフラン環を有するフォスフォニウム塩を用いた以外は同様の方法で、有機化層状ケイ酸塩を得た。
【0063】
〔実施例13〕
二軸混練機TEM−26SS(東芝機械株式会社)を用いて、温度条件180℃、2軸同方向回転、回転数800rpmで化1の樹脂95重量部に実施例7で得られた有機化層状ケイ酸塩を5重量部定量添加しつつ溶融混練し、樹脂組成物を作製した。
【0064】
得られた樹脂組成物をペレット化し、そのペレットを用い、射出成形機FN1000−5ADN(日精樹脂工業株式会社)にて短冊試験片(80mm×10mm×t4.0mm)を作製した。
【0065】
得られた短冊試験片についてX線回折計測装置(XRD):X‘Pert Pro(商品名、フィリップス社製)を用いて有機化層状ケイ酸塩の面間隔を各n=1にて測定したところ、有機化層状ケイ酸塩の回折ピークが低角度側にシフトし、ピークが小さくなっていたことから、有機化層状ケイ酸塩の面間隔が広がっていることを確認した。つまり、有機化層状ケイ酸の層間に、有機化剤と親和性の高い樹脂がインターカレートしたことがわかった。
【0066】
また、得られたペレットをウルトラミクロトームを用いて薄片状にスライスし、透過型電子顕微鏡及び走査型透過電子顕微鏡で有機化層状ケイ酸塩の分散状態を確認した。図1に概念図を示したように、層状ケイ酸塩を形成する厚さ約1ナノメートルの層が単層ずつ剥離した状態で薄片が樹脂組成物中に分散していることを確認した。
【0067】
〔実施例14〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに実施例8で得た有機化層状ケイ酸塩を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。また、樹脂組成物中に該有機化層状ケイ酸塩が分散していることを確認した。
【0068】
〔実施例15〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに実施例9で得た有機化層状ケイ酸塩を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。また、樹脂組成物中に該有機化層状ケイ酸塩が分散していることを確認した。
【0069】
〔実施例16〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに実施例10で得た有機化層状ケイ酸塩を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。また、樹脂組成物中に該有機化層状ケイ酸塩が分散していることを確認した。
【0070】
〔実施例17〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに実施例11で得た有機化層状ケイ酸塩を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。また、樹脂組成物中に該有機化層状ケイ酸塩が分散していることを確認した。
【0071】
〔実施例18〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに実施例12で得た有機化層状ケイ酸塩を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。また、樹脂組成物中に該有機化層状ケイ酸塩が分散していることを確認した。
【0072】
〔比較例1〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに化15で示される有機化剤により有機化されている市販の有機化層状ケイ酸塩(エスベンE、株式会社ホージュン)を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。しかし、該有機化層状ケイ酸塩は、樹脂組成物中に層状構造を維持したまま局在しており、層剥離状態で分散していることを確認できなかった。
【0073】
【化15】

トリメチルステアリルアンモニウム
【0074】
〔比較例2〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに化16で示される有機化剤により有機化されている市販の有機化層状ケイ酸塩(エスベンNZ、株式会社ホージュン)を用いた以外は同様の方法で、樹脂と有機化層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。しかし、該有機化層状ケイ酸塩は、樹脂組成物中に層状構造を維持したまま局在しており、層剥離状態で分散していることを確認できなかった。
【0075】
【化16】

ジメチルステアリルベンジルアンモニウム
【0076】
〔比較例3〕
実施例13において、実施例7で得た有機化層状ケイ酸塩のかわりに市販の有機化されていない層状ケイ酸塩(ベンゲルFW、株式会社ホージュン)を用いた以外は同様の方法で、樹脂と層状ケイ酸塩を溶融混練し、樹脂組成物を作製した。しかし、樹脂中に該層状ケイ酸塩はまったく分散せず、凝集体として存在することを確認した。
【0077】
〔比較1〕
実施例13、比較例1及び2で用いた有機化層状ケイ酸塩に担持された第4級アンモニウム塩(それぞれ化13、化15、化16)、及びフラン環を有する樹脂(化1)についてHansenの方法により溶解度パラメータ(SP値)の極性項δpを算出し、表1のデータを得た。なお、SP値とは、分子間力を表す尺度として使用される値であり、分子組成から計算する方法が提案されている。この値が近い物質ほど溶解しやすい性質を示す。とくに、極性を有する樹脂に有機化層状ケイ酸塩を分散させる場合においては、層状ケイ酸塩の有機化剤の極性項の値が樹脂の値と近いほど、分散性が向上することがわかっている。表1より、化13が最も化1に近い値であることを確認した。
【0078】
【表1】

【0079】
〔比較2〕
実施例13から18及び比較例1から3で得られた樹脂組成物中の有機化層状ケイ酸塩の分散性評価を行い、表2の結果を得た。表2において、○とは、透過型電子顕微鏡および走査型灯火電子顕微鏡観察にて、有機化層状ケイ酸塩の層状構造が崩れ、単層にまで剥離した状態を確認し、また、XRDを用いて面間隔の拡大およびピークの縮小を確認した結果である。一方、×とは、層状構造が維持されたままであったり、凝集した状態であることを確認した結果である。
【0080】
【表2】

【0081】
〔比較3〕
化1の樹脂ペレット、実施例13、比較例1及び比較例3で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機を用いて成形した短冊試験片を用いて、以下の物性試験により耐熱性及び剛性の評価を行った。
【0082】
(1)耐熱性評価
作製した短冊試験片を用いて上記実施例及び比較例の樹脂組成物の耐熱性を、荷重撓み温度(DTUL)にて評価した。なお、耐熱性評価はISO 75に準拠し、フラットワイズ、応力:0.45MPa、昇温速度:2℃/min、測定装置:HDT/VSPT試験装置TM−4126(商品名、株式会社上島製作所製)、各n=2にて測定した。
【0083】
(2)曲げ物性
作製した短冊試験片を用いて本実施例の熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率を三点曲げ試験にて評価した。なお、ISO 178に準拠し、測定装置:精密万能試験機オートグラフAG−IS(商品名、株式会社島津製作所製)、各n=4にて測定した。
【0084】
物性試験の結果、実施例13で得られた樹脂組成物の試験片では、DTULが130℃、曲げ弾性率が5500MPaであった。一方、比較例1及び比較例3で得られた樹脂組成物の試験片では、DTULがそれぞれ105℃及び90℃であり、曲げ弾性率はそれぞれ4000MPa及び3500MPaであった。層状ケイ酸塩を添加していない化1のヴァージン材では、DTULが105℃、曲げ弾性率が3200MPaであることから、フラン環を有する有機化剤で有機化された層状ケイ酸塩を添加した樹脂組成物の耐熱性及び剛性が向上することを確認した。
【0085】
〔実施例19〕
実施例13で得られた樹脂組成物を用いて、射出成形機で、プリンターや複写機の筐体を成形し、製品として使用可能であることを確認した。
【0086】
また、この筐体部品(成形物)をリサイクルすることを想定して破砕し、再成形したところ、耐熱性など、問題なく同じ成形品として使用可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、プラスチック等の樹脂の物性を向上させる際の強化添加材の分散に関し、耐熱性や剛性を必要とする樹脂を用いる幅広い産業分野において大変有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】走査型透過電子顕微鏡の観察結果の模式図
【符号の説明】
【0089】
1 層状ケイ酸塩
2 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン環を有する有機化剤で有機化された層状ケイ酸塩。
【請求項2】
前記有機化剤が、下記一般式(I)で示されるオニウムカチオンであることを特徴とする請求項1に記載の層状ケイ酸塩。

(Mは窒素原子またはリン原子である。R1は炭素原子数1〜24のアルキル基である。R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、又は直鎖若しくは分岐鎖構造を有する炭素原子数1〜6のアルキル基である(該アルキル基は置換基としてヒドロキシ基を有してもよい)。R4はフラン、又は炭素原子数1〜6の炭素鎖であって置換基としてフランを有しているものである(該炭素鎖はカルボニル、エーテル又はエステルを含んでいてもよい。該フランは置換基として炭素原子数1〜4のアルキル基を少なくとも1つ有していても良い。また、該フランは縮合環を有していても良い。)
【請求項3】
分子鎖内にフラン環を有する樹脂に、請求項1又は2に記載の層状ケイ酸塩を混合させたことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂がポリアルキレンフランジカルボキシレートであることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記層状ケイ酸塩と前記樹脂の合計100重量部に対して、前記層状ケイ酸塩が0.1重量部から30重量部であることを特徴とする請求項3又は4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記層状ケイ酸塩の各層が剥離した状態で前記樹脂中に分散していることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかの請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれかの請求項に記載の樹脂組成物を用いて成形された成形物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−46316(P2009−46316A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210762(P2007−210762)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】