説明

有機性廃棄物の嫌気性消化方法

【課題】 有機性廃棄物すなわち下水処理やし尿処理に伴って発生する有機性汚泥の減容化、安定化を行う嫌気性消化槽、または畜産廃棄物、食品廃棄物などの減容化と安定化を行う嫌気性消化槽において、生物分解性有機物の嫌気性消化による低分子化、液化、ガス化の促進と、嫌気性消化槽内およびその周辺設備のスケールトラブルの解消とを同時に実現できる、有機性廃棄物の嫌気性消化方法を提供する。
【解決手段】 有機性廃棄物1を嫌気性消化槽5で嫌気性消化処理するに際し、有機性廃棄物1を可溶化装置2で可溶化して、有機性廃棄物1中のマグネシウムを溶出させ、可溶化された有機性廃棄物からマグネシウム除去装置4においてマグネシウムを取除き、マグネシウムが取除かれた有機性廃棄物を嫌気性消化槽5にて嫌気性消化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機性廃棄物の嫌気性消化方法に関し、特に、有機性廃棄物を嫌気性消化してメタンガスを回収するときの嫌気性消化の効率化を図るために、嫌気性消化槽で処理される有機性廃棄物をあらかじめ破砕処理などの可溶化処理するようにした有機性廃棄物の嫌気性消化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理やし尿処理に伴って発生する有機性汚泥を処理する嫌気性消化槽、あるいは畜産廃棄物、食品廃棄物などのバイオマスを処理する嫌気性消化槽においては、嫌気性微生物の働きで生物分解性有機物の低分子化、液化、ガス化を行い、消化ガスおよび消化汚泥に転換し、汚泥発生量の低減と汚泥の性状安定化を図ってきた。
【0003】
しかしながら、嫌気性消化槽へ投入される有機性廃棄物中の有機分がガス化し減少する割合である消化率は、下水処理場で多く採用されている中温消化の嫌気性消化槽において50%程度であり、固形物減少率としても40%程度に過ぎない。
【0004】
このような点を改善するために、嫌気性消化槽に汚泥の可溶化処理を組み合わせる方法が各種提案されてきた。そうした方法の例としては、嫌気性消化槽から排出された消化済み汚泥の一部をアルカリで処理した後に嫌気性消化槽に戻す方法(特許文献1参照)、嫌気性消化に先立ち超高圧ジェットポンプにより汚泥をノズルから噴出させて破砕する処理を行う方法(特許文献2参照)、消化済み汚泥の一部をオゾン反応により可溶化した後に嫌気性消化槽に戻す方法(特許文献3参照)、消化汚泥をミル破砕して再度嫌気性消化する方法(特許文献4参照)などがある。これらの方法によれば、消化槽における有機性廃棄物の低分子化、液化、ガス化がさらに促進され、従来のように嫌気性消化槽単独で処理を行う場合に比べて固形物減少率が高まり、最終処分すべき汚泥の減量化が可能であるとされている。
【0005】
一方、嫌気性消化槽の維持管理上の問題として、嫌気性消化槽内で有機性廃棄物の処理が進むと共に窒素、リン成分が溶出し、嫌気性消化汚泥内でマグネシウムイオンなどと反応して、スケールを発生する場合があった。スケール問題は、下水処理場だけでなく、し尿処理施設(非特許文献1参照)や豚舎廃棄物処理施設(非特許文献2参照)などにおいても発生し、深刻な問題となっている。スケールが嫌気性消化槽内や嫌気性消化汚泥の移送管内などで発生すると、配管閉塞などのトラブルにつながり、その場合は配管を強酸で洗浄する或いは配管を敷設しなおすなどの作業が必要となり、維持管理上の大きな問題であった。このように嫌気性消化槽内とその周辺で発生するスケールの主成分は、リン酸イオンとマグネシウムイオン、アンモニウムイオンとが結合した結晶であるリン酸マグネシウムアンモニウムであると言われている(非特許文献3参照)。
【0006】
前述のように、嫌気性消化槽の効率化を目的として嫌気性消化法に汚泥の可溶化処理を組み合わせた場合、嫌気性消化槽において有機物の可溶化が促進される。その結果として、窒素、リン成分の溶出も促進されるため、嫌気性消化汚泥内でスケールが発生するリスクがさらに高まってしまうという問題があった。この問題を解決するために、嫌気性処理工程にマグネシウム源を添加してリン酸マグネシウムアンモニウム生成反応を促進させ、嫌気性消化汚泥中に生成したリン酸マグネシウムアンモニウム結晶を回収する技術(特許文献5参照)が提案されている。しかし、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶の生成をコントロールするのが困難であり、実用化には至っていない。また嫌気性汚泥にリン酸マグネシウムやリン酸マグネシウムアンモニウムなどアンモニア除去剤を添加し、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を構成する主要素の一つであるアンモニア性窒素を難溶性の塩の形で固定化する方法も提案されている(特許文献6参照)。しかし、リンを含有するアンモニア除去剤を添加し続ける必要がある一方、リン資源であるリン酸マグネシウムアンモニウムを回収する術がないという問題があった。
【特許文献1】特開昭64−080499号公報
【特許文献2】特公平03−069599号公報
【特許文献3】特開2002−361291号公報
【特許文献4】特開2000−167597号公報
【非特許文献1】PPM,Vol.19,No.4,p.18〜28,(1988)
【非特許文献2】畜産の研究,Vol.57,No.1,p.83〜90,(2003)
【非特許文献3】用水と廃水,Vol.29,No.7,p.636〜640,(1987)
【特許文献5】特開2004−000941号公報
【特許文献6】特開2004−000910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機性廃棄物処理の基本は、最終処分が必要である量を減量すること、性状の安定化を図ること、さらには有機性廃棄物のバイオマスとしての側面から考えて、加工・調整によりそこに含有されている資源の再利用を行うことである。これらの基本条件を嫌気性消化槽に当てはめた場合、嫌気性消化槽単独では第一の条件である減量を十分に達成することができない。したがって、嫌気性消化槽の効率化のために上述の汚泥の可溶化処理を組み合わせることが必要である。第三の条件である資源の再利用を実施するためには、嫌気性消化槽内およびその周辺設備におけるスケールトラブルの解消が必要である。すなわち、嫌気性消化槽の効率化とスケールトラブルの解消が同時に実現されるシステムが、有機性廃棄物の真に適正な処分方法であるといえる。
【0008】
本発明は、有機性廃棄物すなわち下水処理やし尿処理に伴って発生する有機性汚泥の減容化、安定化を行う嫌気性消化槽、または畜産廃棄物、食品廃棄物などの減容化と安定化を行う嫌気性消化槽において、生物分解性有機物の嫌気性消化による低分子化、液化、ガス化の促進と、嫌気性消化槽内およびその周辺設備のスケールトラブルの解消とを同時に実現できる、有機性廃棄物の嫌気性消化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、スケールトラブルの原因物質としてマグネシウムイオンに着目し、有機性廃棄物の嫌気性消化を行うよりも前段においてこの有機性廃棄物を可溶化し、この有機性廃棄物中のマグネシウムをあらかじめマグネシウムイオンとして溶出させた後、可溶化された有機物廃棄物からマグネシウムイオンを取除いた有機性廃棄物を嫌気性消化することで、スケールトラブルを回避することができるという事実を見いだし、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、有機性廃棄物を嫌気性消化処理する方法であって、以下の工程(イ)(ロ)(ハ)を含むことを要旨とする。
(イ)有機性廃棄物を可溶化して、前記有機性廃棄物中のマグネシウムを溶出させる工程
(ロ)前記(イ)の工程で可溶化された有機性廃棄物からマグネシウムを取除く工程
(ハ)前記(ロ)の工程でマグネシウムが取除かれた有機性廃棄物を嫌気性消化処理する工程
【0011】
また、本発明は、上記において、(ロ)の工程が、可溶化された有機性廃棄物の固液分離により、マグネシウムを含む液相を分離することで、マグネシウムを取除く工程であることを要旨とする。
【0012】
また本発明は、上記において、分離された液相にアルカリ剤を添加することで、マグネシウムを難溶性のマグネシウム塩として取除くことを要旨とする。
また本発明は、上記において、(イ)の工程が、湿式ビーズミル撹拌破砕工程であることを要旨とする。
【0013】
また本発明は、上記において、さらに、以下の工程を含むことを要旨とする。
(ニ)(ハ)の工程で処理された消化汚泥を脱水処理し脱水ろ液を得る工程
(ホ)前記(ニ)の工程で得られた脱水ろ液に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウム晶析法によって回収する工程
【0014】
また本発明は、上記において、(ロ)の工程で取除いたマグネシウムを(ホ)の工程におけるマグネシウム源として利用することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有機性廃棄物の嫌気性消化を行う前段において有機性廃棄物を可溶化し、これによってスケール原因物質の一つであるマグネシウムを可溶化させた後に、そのマグネシウムを取除いたうえで嫌気性消化処理を行っているため、嫌気性消化槽へ流入するマグネシウム量を著しく減少させることができる。その結果、嫌気性消化槽内や嫌気性消化汚泥の移送管内でスケールが発生することを抑制できる。また、嫌気性消化を行う前段において有機性廃棄物を可溶化しているので、嫌気性消化槽における有機物のガス化が促進され、単位有機性廃棄物あたりのメタン発生量を高めることができる。その結果として、固形物減少率を高めることができ、最終処分すべき汚泥の減量化を実現できる。
【0016】
また本発明によれば、可溶化された有機性廃棄物からマグネシウムを含む液相を分離するので、分離後の液相をマグネシウム源として利用することが可能である。また、液相からのマグネシウム回収を行う場合には回収操作が容易になり、液体サイクロンによる分離、重力濃縮による分離、加圧浮上装置による分離、砂ろ過による分離、繊維ろ過による分離、膜ろ過による分離など様々な分離法が適用可能になる。
【0017】
また本発明によれば、可溶化された有機性廃棄物を固液分離し、マグネシウムを含む液相を分離し、分離された液相にアルカリ剤を添加して析出させた難溶性のマグネシウム塩は、マグネシウム資源として再利用することが可能である。
【0018】
また本発明によれば、有機性廃棄物の可溶化の程度を、湿式ビーズミル装置における滞留時間によって操作できるので、現場における管理項目が少なく工程の維持管理が容易である。
【0019】
また本発明によれば、処理された消化汚泥を脱水処理し脱水ろ液を得る工程と、この工程で得られた脱水ろ液に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウム晶析法によって回収する工程とを含むため、従来法ではスケール化していたリン酸塩、すなわち嫌気性消化槽内で不溶化していたリン酸塩が、溶解したまま脱水ろ液中へ含まれることになるので、従来の嫌気性消化汚泥の脱水ろ液よりもリン酸塩濃度を高めることができる。したがって、脱水ろ液から回収するリン酸マグネシウムアンモニウム量を従来法に比べて増加させることができる。
【0020】
また本発明によれば、有機性廃棄物の嫌気性消化を行う前段において取除いたマグネシウムを、脱水ろ液に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウム晶析法によって回収する工程におけるマグネシウム源として利用するため、系外からのマグシウム供給量を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において処理の対象となる有機性廃棄物は、従来嫌気性消化槽で処理されてきた有機性廃棄物であり、下水処理あるいはし尿処理、生活排水処理によって発生する有機性汚泥や、畜産廃棄物や、食品廃棄物などが挙げられる。特に下水処理汚泥、し尿処理汚泥、豚舎廃棄物を処理する嫌気性消化槽においては、装置と周辺機器に関する上述のスケール問題が多く報告されており、本発明によって大きな便益を受けることができる。
【0022】
本発明においては、まず有機性廃棄物を可溶化してこの有機性廃棄物中のマグネシウムを溶出させる工程を実行することが必要である。この工程での有機性廃棄物の可溶化方法としては、湿式ビーズミル撹拌処理などの機械的破砕方法、超音波照射方法、高温状態で熱可溶化処理する方法、オゾン処理などの薬剤添加処理方法など、公知の可溶化処理方法を適宜に用いることができる。なかでも、マグネシウムの溶出性と工程の維持管理性とを考慮すると、湿式ビーズミル撹拌処理が好ましい。湿式ビーズミル撹拌処理による可溶化率は、ビーズミル装置における滞留時間によって操作できるが、ビーズの素材や、撹拌周速によっても影響を受ける。
【0023】
嫌気性消化槽においてスケールの発生を抑制するためには、可溶化工程後の溶解性マグネシウムの全マグネシウムに対する割合を少なくとも50%、好ましくは70%以上とする必要がある。一例を挙げると、下水処理場で発生するMLSS=3〜4%の濃縮余剰汚泥をビーズミル装置によって可溶化する場合は、ガラスビーズよりも比重の大きいファインセラミックスのビーズを使用する方が可溶化率を高める効果がある。このとき、ビーズミル装置における滞留時間は少なくとも5分以上、好ましくは10分程度で、所望の可溶化率を得ることができる。また、この湿式ビーズミル撹拌処理に先立ち、硫酸、塩酸などの酸を有機性廃棄物に添加して弱酸性状態にする工程を設けることで、さらに可溶化効果を高めることができる。
【0024】
この工程により、有機性廃棄物、特に汚泥を構成する微生物の菌体中に存在していたマグネシウムが、微生物が破砕されることによって菌体外に溶出してくる。下水処理場で発生するMLSS=3〜4%の濃縮余剰汚泥をビーズミル装置によって可溶化した場合、溶存マグネシウム濃度は100〜200mg/L程度にできる。
【0025】
可溶化処理によって、マグネシウムのほか、有機性廃棄物中に含まれている有機物、カリウムなどの金属、有機性の窒素やリンなども溶出する。この状態では可溶化有機性廃棄物のpHは中性域から酸性域にあり、溶出したマグネシウムは可溶化した有機性廃棄物中に溶解した状態で存在する。
【0026】
本発明においては、次に、上記の工程で可溶化された有機性廃棄物からマグネシムを取除く工程が必要である。そのための簡易な方法としては、可溶化した有機性廃棄物を固液分離する方法があげられる。最適な固液分離法は、可溶化される有機性廃棄物の濃度によって異なる。具体的には、重力濃縮分離装置、加圧浮上装置、膜ろ過装置などが利用できる。固形物濃度が1%を越えるような有機性廃棄物の場合は、高分子凝集剤などを添加して濃縮することによっても固液分離は可能である。
【0027】
また、可溶化された有機性廃棄物からマグネシムを取除くためのより具体的な方法として、可溶化された有機性廃棄物を固液分離してマグネシウムを含む液相を分離し、分離された液相にアルカリ剤を添加して難溶性のマグネシウム塩として取除く方法も採用できる。このようにすると、マグネシウムが液相に可溶化している状態に比べてマグネシウム含有率を高めることができる。マグネシウム塩の一例を挙げると、水酸化マグネシウムは溶解度積Ks=10−10.74であり、アルカリ性域では白色沈殿になる性質がある。すなわち、アルカリ剤の添加によりマグネシウムイオンを難溶性の水酸化マグネシウムとし、分離することで、マグネシウムの除去が可能である。アルカリ剤としては、苛性ソーダ、消石灰などが使用できる。対象となる有機性廃棄物を可溶化処理した結果、可溶化するマグネシウム濃度の範囲があらかじめわかっている場合には、実用的にはアルカリ剤添加後のpHによってアルカリ剤添加量を決めることも可能である。また、分離された液相に少なくともアルカリ剤を添加して難溶性のマグネシウム塩として取除いた後の上澄水については、溶解性有機物が含まれているので、嫌気性消化槽へ投入してバイオガスを回収することもできる。
【0028】
本発明においては、次に、マグネシウムが取除かれた有機性廃棄物を嫌気性消化処理する工程を実行する。この嫌気性消化工程は、中温処理又は高温処理のいずれでもよい。中温処理条件で行う場合には、消化温度30〜37℃、処理期間10〜20日が適当であり、高温処理条件で行う場合には、消化温度50〜55℃、処理期間7〜10日が適当である。また、嫌気性消化方式は1段消化または2段消化のいずれでもよい。
【0029】
本発明においては、マグネシウムが取除かれた有機性廃棄物を嫌気性消化処理する工程の後に、この嫌気性消化工程で処理された消化汚泥を脱水処理し脱水ろ液を得る工程と、この脱水工程で得られた脱水ろ液に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウムとして晶析し回収する工程とを実行することが好適である。
【0030】
脱水ろ液を得る工程において、消化汚泥の脱水に際しては、ベルトプレスろ過機、遠心脱水機、スクリュープレス脱水機などの脱水機を用いれば良い。このとき、鉄塩やアルミニウム塩やカルシウム塩などの無機系凝集剤を添加して脱水を行うと、脱水ろ液中のリン酸塩濃度が著しく低下するので、このような脱水処理は、リン酸マグネシウムアンモニウムをリン資源として回収するためには適当ではない。
【0031】
脱水工程で得られた脱水ろ液に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウムとして晶析し回収する工程において、脱水ろ液中に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウム結晶として回収するためには、リン酸塩と等モル濃度以上のマグネシウムが必要である。たとえば、リン酸マグネシウムアンモニウム晶析装置にマグネシウム源として水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウムなどのマグネシウム化合物のいずれか、あるいは海水を供給し、晶析装置内のpHをアルカリ剤の添加により8〜9の範囲に制御して、晶析装置内をばっ気撹拌することでリン酸マグネシウムアンモニウムを晶析させる方法をとることができる。
【0032】
本発明においては、上述した可溶化された有機性廃棄物からマグネシムを取除く工程で得られたマグネシウムを、リン酸マグネシウムアンモニウム晶析装置でマグネシウム源の一部として再利用することもできる。この場合において、上述のように可溶化された有機性廃棄物を固液分離してマグネシウムを含む液相を分離し、分離された液相にアルカリ剤を添加して難溶性のマグネシウム塩として取除いたものを利用するときには、このアルカリ剤を、晶析装置内のpHを上述の8〜9の範囲に制御するために用いるアルカリ剤の一部として再利用することができる。
【0033】
図1は、本発明の有機性廃棄物の嫌気性消化方法を実施するための装置の一例の概略構成を示す。有機性廃棄物1は可溶化装置2によって可溶化され、これによって有機性廃棄物1中に含有されていたマグネシウムの一部が可溶化する。可溶化汚泥3はマグネシウム除去装置4に送られ、マグネシウム除去済み汚泥6とマグネシウム回収物7とに分離される。マグネシウム除去済み汚泥6は、嫌気性消化槽5に送られ、メタンガス17と消化汚泥8とを生成する。
【0034】
図2は、嫌気性消化槽5で処理された消化汚泥8を脱水機14で脱水処理し脱水ろ液15を得る工程と、脱水ろ液15に含まれる窒素およびリンを晶析装置としてのリン回収装置12においてリン酸マグネシウムアンモニウム13として晶析し回収する工程とを含む装置の一例の概略構成を示す。
【0035】
ここで、有機性廃棄物1は可溶化装置2によって可溶化され、有機性廃棄物中に含有されていたマグネシウムの一部が可溶化する。可溶化汚泥3は、固液分離装置9で、可溶化濃縮汚泥10と分離液11とに分離される。ここで、可溶化したマグネシウムは分離液11側へ移行し、嫌気性消化槽5へ流入するマグネシウム量が著しく低減される。可溶化濃縮汚泥10は嫌気性消化槽5で消化され、消化汚泥8は脱水機14で脱水ろ液15と脱水汚泥16とに分離される。脱水ろ液15はリン回収装置12へ供給され、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶としてリン酸塩とアンモニウム塩が回収される。リン回収装置12においては、リン酸マグネシウムアンモニウム晶析反応を進行させるためマグネシウム源を添加する必要があるが、分離液11をマグネシウム源の一部として再利用することも可能である。
【0036】
図3は、このように分離液11をマグネシウム源の一部として再利用するための装置の一例の概略構成を示す。図2の装置との相違点を詳細に説明すると、18は薬品添加槽で、固液分離装置9からの分離液11にたとえば苛性ソーダなどの薬品を添加することによりマグネシウム塩のフロックを形成して沈降分離させるものである。マグネシウム塩を含む沈殿物19は、晶析装置としてのリン回収装置12に供給され、上述のようにリン回収装置12においてマグネシウム源の一部として再利用される。薬品添加槽18においてマグネシウム塩が沈降分離された後の上澄液20は、可溶化濃縮汚泥10と混合されて嫌気性消化槽5に供給される。
【0037】
[実施例]
図3に示される装置を用いて処理を行った。すなわち、処理の対象となる有機性廃棄物1は、標準活性汚泥法による濃縮余剰汚泥0.01mとした。この濃縮余剰汚泥に対して硫酸を添加し、撹拌機(60rpm)で30分間撹拌した後、可溶化装置2によって可溶化処理を行った。硫酸の添加量は、汚泥1mあたり1.2kgとした。可溶化装置2は、湿式ビーズミル装置を用い、ここでの処理時間は10分とした。
【0038】
次いで、可溶化汚泥6を、遠心分離機を用いた固液分離装置9によって固液分離し、可溶化濃縮汚泥10(4L)と分離液11(6L)とを得た。そしてマグネシウムを含む分離液11に対して薬品添加槽18にて苛性ソーダを添加することによりpHを11として撹拌し、マグネシウム塩のフロックを形成した。苛性ソーダの必要添加量は、分離液11の1mあたり2.5kgであった。このマグネシウム塩フロックを薬品添加槽18での遠心分離により沈殿させて得られた白色沈殿物19(0.6L)を回収した。沈殿分離後の上澄水20は、可溶化濃縮汚泥10と混合した。
【0039】
この可溶化濃縮汚泥10と上澄水20とを混合したものを、種汚泥として消化汚泥0.5Lを充填した小型嫌気性消化槽5(有効容量1L)を用いて20日間バッチ式で消化し、消化汚泥8とバイオガスとしてのメタンガス17とを得た。20日間のバイオガス発生量は、投入汚泥に対して、300NL/kg−VSであった。消化汚泥8を脱水機14でろ過し、ろ液15(0.4L)と汚泥16とに分離した。
【0040】
上述のプロセスの各段階における水質を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
脱水ろ液15のリン酸イオン濃度に対して、そのアンモニウムイオン濃度は、リン酸マグネシウムアンモニウムを生成するのに十分であったが、マグネシウム濃度は不足していた。そこで、分離液11から回収したマグネシウム塩の沈殿物19を晶析装置としてのリン回収装置12において添加した。このとき、マグネシウム塩の沈殿物濃度は水酸化マグネシウムについて5.4g/Lとなっており、脱水ろ液15の0.4Lに対して沈殿物19の添加量は30mLで十分であった。その結果、晶析を行うリン回収装置12の内部のpHは8.2まで上昇したので、アルカリ剤を添加する必要もなかった。リン酸マグネシウムアンモニウム晶析はバッチ式で行い、撹拌時間30分、沈殿時間30分とし、晶析物13を得た。
【0043】
[比較例]
処理の対象となる有機性廃棄物1は、実施例と同様の標準活性汚泥法の濃縮余剰汚泥0.01mであった。この濃縮余剰汚泥に対して硫酸を添加し、撹拌機(60rpm)で30分間撹拌した後、可溶化装置2によって可溶化処理を行った。硫酸の添加量は、汚泥1mあたり1.2kgとした。可溶化装置2は、湿式ビーズミル装置を用い、ここでの処理時間は10分とした。
【0044】
次いで可溶化汚泥3を、固液分離することなしに、すなわちマグネシウムを取り除くことなしに、種汚泥として消化汚泥0.5Lを充填した小型嫌気性消化槽5(有効容量1L)を用いて20日間バッチ式で消化し、消化汚泥8とバイオガス17とを得た。20日間のバイオガス発生量は、投入汚泥に対して、250NL/kg−VSであった。そして脱水機14で消化汚泥8をろ過し、ろ液15(0.4L)と汚泥16とに分離した。ろ液15の性状を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
脱水ろ液15のリン酸イオン濃度に対して、アンモニウムイオン濃度はリン酸マグネシウムアンモニウムを生成するのに十分であったが、マグネシウム濃度は不足していた。そこで、晶析装置としてのリン回収装置12において、マグネシウム薬剤として塩化マグネシウム水溶液(1g−Mg/L)を用いて、リン酸イオン濃度と等モルになるようMg塩を添加した。晶析のためのリン回収装置12の内部でのpHは7.6と低かったので、晶析反応を進めるためにアルカリ剤として苛性ソーダを添加する必要があった。リン酸マグネシウムアンモニウム晶析はバッチ式で行い、撹拌時間30分、沈殿時間30分とし、晶析物としてのリン酸マグネシウムアンモニウム13を得た。回収した晶析物は、室温で乾燥した後計量した。すると、回収量は300mgであり、本発明の実施例の場合の回収量に対して40%程度しかなかった。
【0047】
以上の結果から、有機性廃棄物の嫌気性消化を行う前段において有機性廃棄物を可溶化して、有機性廃棄物中のマグネシウムをあらかじめマグネシウムイオンとして溶出させた後、この可溶化された有機物廃棄物からマグネシウムイオンを取除いた有機性廃棄物を嫌気性消化することで、スケールトラブルを回避しつつ、汚泥中のリンの殆どをリン酸マグネシウムアンモニウム結晶化して回収できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の有機性廃棄物の嫌気性消化方法を実施するための装置の一例の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の有機性廃棄物の嫌気性消化方法を実施するための装置の他の例の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の有機性廃棄物の嫌気性消化方法を実施するための装置のさらに他の例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 有機性廃棄物
2 可溶化装置
6 マグネシウム除去済み汚泥
5 嫌気性消化槽
9 固液分離装置
12 リン回収装置
14 脱水機
18 薬品添加槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を嫌気性消化処理する方法であって、以下の工程(イ)(ロ)(ハ)を含むことを特徴とする有機性廃棄物の嫌気性消化方法。
(イ)有機性廃棄物を可溶化して、前記有機性廃棄物中のマグネシウムを溶出させる工程
(ロ)前記(イ)の工程で可溶化された有機性廃棄物からマグネシウムを取除く工程
(ハ)前記(ロ)の工程でマグネシウムが取除かれた有機性廃棄物を嫌気性消化処理する工程
【請求項2】
(ロ)の工程が、可溶化された有機性廃棄物の固液分離により、マグネシウムを含む液相を分離することで、マグネシウムを取除く工程であることを特徴とする請求項1記載の有機性廃棄物の嫌気性消化方法。
【請求項3】
分離された液相にアルカリ剤を添加することで、マグネシウムを難溶性のマグネシウム塩として取除くことを特徴とする請求項2記載の有機性廃棄物の嫌気性消化方法。
【請求項4】
(イ)の工程が、湿式ビーズミル撹拌破砕工程であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の有機性廃棄物の嫌気性消化方法。
【請求項5】
さらに、以下の工程を含むことを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の有機性廃棄物の嫌気性消化方法。
(ニ)(ハ)の工程で処理された消化汚泥を脱水処理し脱水ろ液を得る工程
(ホ)前記(ニ)の工程で得られた脱水ろ液に含まれる窒素およびリンをリン酸マグネシウムアンモニウム晶析法によって回収する工程
【請求項6】
(ロ)の工程で取除いたマグネシウムを(ホ)の工程におけるマグネシウム源として利用することを特徴とする請求項5記載の有機性廃棄物の嫌気性消化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−159045(P2006−159045A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352115(P2004−352115)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000176752)三菱化工機株式会社 (48)
【Fターム(参考)】