説明

有機汚水の処理方法および処理設備

【課題】薬剤を使用せず、汚水中の有機物を二酸化炭素と水蒸気に完全分解する。
【解決手段】粉砕したざくろ石と無機バインダとを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させた成形ボードを濾過ます1のフィルタとして使用し、濾過残液は曝気槽92〜94およびマートンチップを充填した濾過反応槽96を循環させて分解する。したがって、薬剤を使用せず、焼却処理も行わずに大量の有機汚水からSS、BOD、CODを安定して除去し、汚水の放流を可能とし、運転コストを大きく削減できる。また濾過残液の有機物を二酸化炭素と水蒸気に完全分解して無害化するという、いずれもすぐれた効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の研ぎ汁や豆腐工場の廃液などの有機汚水の処理方法および処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
学校や病院などの給食施設やレストラン等では、毎日大量の米の研ぎ汁などの有機汚水が発生する。また、豆腐工場でも大量の有機汚水が発生する。これらの有機汚水は、比較的濃度は薄いが汚水の発生量が大きく、大型の処理施設を必要とする。例えば豆腐の製造には大豆1俵に水5トンと言われ、中規模程度の製造業者でも毎日100トン程度の汚水を処理しなければならない。
【0003】
通常、凝集剤などの薬品を使用して有機質を沈殿させ、上澄み液を排水しているのが一般的であるが、対象となる廃液の量が大きいため薬品の使用量も大きく、食品の製造コストに与える影響も少なくない。また、沈殿物は埋め立て用などに使用することもあるが、多くは焼却処理により減量するので、多大なエネルギーコストを必要とする。
【0004】
フィルタによってSS(浮遊物質量)を除去する方法もあるが、網目のような機械的なフィルタでは粒子が細かいため濾過できず、布などのエレメントを使用すると液量が大きいために施設が膨大なものとなるという問題点がある。
【0005】
特許文献1に記載のフィルタは、金属等のコイルばね状の素材の表面に微小な突起を形成して間隙を構成し、素材の表面にケイソウ土などの濾過助剤を塗布し、間隙を通過する液中の微細な懸濁物を濾過するようにしたものであるが、コイルばねの間隙を所定寸法に保持することが困難な上、液流の振動等でばねが共振して性能を発揮できないなどの問題点がある。
【0006】
一方、本出願人は、粉砕したざくろ石と無機バインダを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させた断熱材を発明し、その内容は特許文献2により公開されている。この板状の断熱材は、発泡させたざくろ石を成形したものであるから、内部の空隙が大きく通気性にすぐれ、通水性も同様であることから、特許文献2の段落[0016]にはフィルタとして使用することも示唆されている。
【0007】
さらに本出願人は、有機質汚泥を必要に応じて水で希釈し、曝気処理を行った後、マートンチップを充填した濾過反応槽を通過させ、その排出液をさらに循環させることで有機質を二酸化炭素と水に完全分解して残渣を生じない有機質汚泥の処理方法ならびに処理設備を開発し、その内容は特許文献3に記載されているので、図6によりこれを簡単に説明する。
【0008】
図6は特許文献3に記載の有機質汚泥の処理施設を示す系統図で、符号91は調整槽、符号92〜94は曝気槽、符号95,97は移送ポンプ、符号96は濾過反応槽、符号961は濾過反応槽96の表面に液を撒水する撒水管、符号962は濾過反応槽96の底部からの流出液を集める流出樋である。
【0009】
有機質汚泥を必要に応じて水で希釈しながら調整槽91に投入し、ついで曝気槽92〜94に移送して曝気処理を行った後、その処理液をマートンチップを充填した濾過反応槽96の表面にスプレイして槽内を通過させ、その排出液を前記の調整槽91に戻し、このルートを繰り返し循環させると、有機質は二酸化炭素と水に完全分解されて、残渣を生じない。実績によれば、マートンチップに付着した微生物の働きにより循環する液の温度は30℃程度となり、24時間で汚泥の約60%が分解される。
【0010】
なおマートンチップとは、特許文献3の段落[0008]に記載のとおり、杉材をたたき潰した「バター材」を0.5〜4.0mmの大きさに粉砕したもので、セルロース約65%、ヘミセルロースのペントサン約10%、リグニン約20%で構成される。マートンチップはここでは濾過のためのフィルタとして、また醗酵、分解、消化反応を行う微生物の担体として機能する。保水性、水切り、保温力に富み、脱臭力、醗酵力には特にすぐれ、有機質汚泥の消化のための接触材として最適である。
【0011】
【特許文献1】特許第3124901号公報
【特許文献2】特開2004−69060号公報
【特許文献3】特許第4030496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術における上記の諸問題点を解消し、第1に、薬剤を使用せず、フィルタに関する不安定要素もなく、有機質を含む大量の汚水を放水可能とすること、第2に濾過残液を完全分解して無害化すること、の2点を達成する有機汚水の処理方法および処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の本発明は、粉砕したざくろ石と無機バインダとを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材をフィルタとして使用する有機汚水の処理方法である。
【0014】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のボード状の多孔質材を複数枚重ね合わせ、合わせ面を削って生じた空間内に粉末の濾過助材を充填したものをフィルタとして使用する有機汚水の処理方法である。
【0015】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2に記載のフィルタを備える濾過ます内から吸引した排水を放流するとともに、濾過残液を調整槽に投入し、ついで曝気槽に移送して曝気処理を行った後、その処理液をマートンチップを充填した濾過反応槽表面にスプレイして槽内を通過させ、その排出液を前記の調整槽に戻して繰り返し循環させることを特徴とする有機汚水の処理方法である。
【0016】
請求項4に記載の本発明は、濾過ますの側面、あるいは底面の少なくとも1面を、粉砕したざくろ石と無機バインダと混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材で構成したことを特徴とする有機汚水の処理設備である。
【0017】
請求項5に記載の本発明は、濾過ますの側面、あるいは底面の少なくとも1面を、粉砕したざくろ石と無機バインダとを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材を複数枚重ね合わせ、合わせ面を削って生じた空間内に粉末の濾過助材を充填したもので構成したことを特徴とする有機汚水の処理設備である。
【0018】
請求項6に記載の本発明は、有機汚水を受け入れる受水池に請求項4または5に記載の濾過ますを沈設し、この濾過ます内から吸引ポンプで吸い出して排水することを特徴とする有機汚水の処理設備である。
【0019】
請求項7に記載の本発明は、有機汚水を受け入れる受水池と、この受水池内に沈設した請求項4または5に記載の濾過ますと、この濾過ます内の液を吸い出して放流する吸引手段と、濾過残液を受け入れる調整槽と、曝気処理を行う複数の曝気槽と、これら曝気槽からの排出液をスプレイする撒水管を有し、マートンチップを充填した濾過反応槽とを備え、前記調整槽以下濾過反応槽までを一巡する閉じた回路でこの順番に直列に接続した濾過残液処理手段とからなることを特徴とする有機汚水の処理設備である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1または2あるいは4ないし6に記載の本発明によれば、薬剤を使用せず、焼却処理も行わずに大量の有機汚水からSS、BOD、CODを安定して除去し、第1の課題である汚水の放流を可能とし、運転コストが大きく削減される。また請求項3または請求項7の本発明によれば、濾過残液の有機物を二酸化炭素と水蒸気に完全分解して無害化するという、いずれもすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明の望ましい実施例を図面により説明する。
【0022】
図1は本発明の原理ともいうべき最も簡単な構成を示す説明図で、符号1は濾過ます、符号11はその底面を構成するフィルタ、符号2は有機汚水が排出されて来る排水管である。
【0023】
フィルタ11として、前記特許文献2に記載した板状の断熱材を使用する。本発明においては断熱の目的は特にないから、以下「成形ボード」の名称を使用する。繰り返しになるが、これは粉砕したざくろ石と無機バインダとを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材である。つまり、ざくろ石を粉砕して素材としてもよいし、粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものも農業用の水はけ材として「パーライト」の名称で市販されているから、これを使用してもよい。成形ボードのフィルタ性能(目の粗さ)は、20μm程度と推定される。
【0024】
このような装置で米の研ぎ汁を処理し、その処理前および処理後の水質を検査した結果を図2にまとめて示してある。なお、この検査は、CODについてはJIS K0102の17項、BODについてはJIS K0101の21項および32.3項により行い、SSについては昭和41年環境庁告示第59号付表8によって行った。この図2に示す結果から、フィルタ11によって、有機汚水のうちのSS、BOD、CODのすべてが下水道に放流できるレベルにまで除去されていることがわかる。なお、バクテリアなどが問題になる場合は、適宜除菌、あるいは殺菌を行った後に放流すればよい。
【0025】
図3は、図1の装置を具体化したもので、符号12は金網、符号13は枠体、符号14は上板である。この実施例の濾過ます1は4つの側面と、底面とにフィルタ11として成形ボードを使用している。成形ボードは建材用として、例えば610mm×910mm、厚さ20mmのものが多く製造されるが、カッタナイフ等で容易に切断できるから任意の大きさにして使用すればよい。厚みも、枚数を重ねることによりさまざまに変更できる。成形ボードを大きい寸法のまま使用するとき、あるいは厚みが少ないときなど、水圧に対して強度が不足するおそれがあれば、この図3のように金網12を片面、あるいは両面に当てればよい。また耐久性の面で、ステンレス鋼等で枠体13を作り、これに成形ボードを嵌めるようにすることも望ましい。上板14には排水管2が直接取り付けられているが、後に示す例のように、排水管2に代えて吸い出し管3を取り付ける場合もある。
【0026】
また、成形ボードを複数枚重ね合わせ、少なくとも1枚の合わせ面を削り、生じた空間内に活性炭、貝殻粉、川砂、前記のパーライトの粉末などの濾過助材を充填するようにすると、フィルタ性能を調整できるばかりでなく、フィルタに殺菌、吸着などの新たな機能を付与することができる。
【0027】
図4は実際の有機汚水処理設備における有機汚水の受け入れ部分を示す構成断面図で、符号はこれまでに示したものの他、符号15は濾過ます1を支持する架台、符号3は吸い出し管、符号31は吸い出しポンプ、符号4は有機汚水を受け入れる受水池である。受水池4内には必要に応じて攪拌手段を設けてもよい。
【0028】
有機汚水は、排水管2から一旦受水池4に受け入れる。有機汚水の発生量を1日100トンとすれば、受水池の容量は300トン程度が必要である。図3に示した濾過ます1を液中に沈め、フィルタ11を通過して内部に流れ込む液を吸い出し管3で吸い出す。つまり図1に示したのとは逆に、濾過ます1の外側から液を濾過して内部に集め、真空ポンプなどの吸い出しポンプ31で濾過ます1内を負圧にしてこれを吸い出すのである。ここまでが放流可能な濾過液を吸引する吸引手段である。
【0029】
この構成の場合、濾過ます1の全体、特に上板14と排水管2とは気密構造で接続されていなければならない。時間経過によりフィルタ11が目詰まりするから、適当なタイミングで加圧用の配管(図示せず)を接続して濾過ます1の内部を正圧にし、フィルタ11を逆洗する。吸い出し管3から吸い出された濾過液は有害物質が除去されているから、そのまま下水道等へ放流できる。
【0030】
このまま運転を続けていれば受水池4内の液は段々濃縮されてくるから、適宜これを処理しなければならない。図5はその受水池4内の液の処理を含めた有機汚水全体の処理設備を示す構成図で、符号はこれまでの図で示したものの他、符号5は受水池4内の液を汲み出す汲み出し管、符号51は汲み出しポンプである。なお汲み出しポンプ51は常時運転しなくてもよいし、場合によってはポンプを使用せず、バケツ等で人力で汲み出してもよい。
【0031】
汲み出した濃縮された廃液は、先に図6で示した調整槽91に投入するが、特許文献3で示した有機汚泥の場合と異なり、投入に際して水で希釈する必要はほとんどない。以後の処理工程は特許文献3に記載の場合と全く同様であり、本発明においては汲み出し管5以降の処理設備全体が濾過残液処理手段であるが、以上の構成により、濾過ますの濾過液と濾過残液の双方が無害化され、有機汚水全体が低コストで安定して処理されたことになる。
【0032】
フィルタとして、長方形のボードのみを例示したが、前記のとおりこの成形ボードはカッタナイフ等で自由に切断できるので、設計によって円、その他任意の形状に切断して使用できる。
また、側面に対して、ボードを縦向きに使用してもよいし、短冊状に切断したボードを縦方向に積み重ねてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の最も簡単な実施例を示す説明図である。
【図2】本発明による浄化効果を確認するために行った試験結果をまとめて示す図表である。
【図3】本発明の実施例のひとつを示す説明図である。
【図4】本発明の実施例の有機汚水受け入れ部分を示す構成断面図である。
【図5】本発明の実施例の有機汚水全体の処理設備を示す構成図である。
【図6】特許文献3に記載の有機質汚泥の処理施設を示す系統図である。
【符号の説明】
【0034】
1…濾過ます、 2…排水管、 3…吸い出し管、 4…受水池、 5…汲み出し管、 11…フィルタ、12…金網、 13…枠体、 14…上板、 15…架台、 31…吸い出しポンプ、 51…汲み出しポンプ、 91…調整槽、 92,93,94…曝気槽、 95,97…移送ポンプ、 96…濾過反応槽、 961…撒水管、 962…流出樋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕したざくろ石と無機バインダとを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材をフィルタとして使用する有機汚水の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のボード状の多孔質材を複数枚重ね合わせ、合わせ面を削って生じた空間内に粉末の濾過助材を充填したものをフィルタとして使用する有機汚水の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフィルタを備える濾過ます内から吸引した排水を放流するとともに、濾過残液を調整槽に投入し、ついで曝気槽に移送して曝気処理を行った後、その処理液をマートンチップを充填した濾過反応槽表面にスプレイして槽内を通過させ、その排出液を前記の調整槽に戻して繰り返し循環させることを特徴とする有機汚水の処理方法。
【請求項4】
濾過ますの側面、あるいは底面の少なくとも1面を、粉砕したざくろ石と無機バインダと混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材で構成したことを特徴とする有機汚水の処理設備。
【請求項5】
濾過ますの側面、あるいは底面の少なくとも1面を、粉砕したざくろ石と無機バインダとを混合して型枠内に充填し、焼成して発泡、成形させたボード状の多孔質材、あるいは粉砕したざくろ石を焼成して発泡させたものと無機バインダとを型枠内に充填し加熱して圧縮、成形させたボード状の多孔質材を複数枚重ね合わせ、合わせ面を削って生じた空間内に粉末の濾過助材を充填したもので構成したことを特徴とする有機汚水の処理設備。
【請求項6】
有機汚水を受け入れる受水池に請求項4または5に記載の濾過ますを沈設し、この濾過ます内から吸引ポンプで吸い出して排水することを特徴とする有機汚水の処理設備。
【請求項7】
有機汚水を受け入れる受水池と、この受水池内に沈設した請求項4または5に記載の濾過ますと、この濾過ます内の液を吸い出して放流する吸引手段と、濾過残液を受け入れる調整槽と、曝気処理を行う複数の曝気槽と、これら曝気槽からの排出液をスプレイする撒水管を有し、マートンチップを充填した濾過反応槽とを備え、前記調整槽以下濾過反応槽までを一巡する閉じた回路でこの順番に直列に接続した濾過残液処理手段とからなることを特徴とする有機汚水の処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−131502(P2010−131502A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308789(P2008−308789)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(593193756)株式会社三和製作所 (17)
【Fターム(参考)】