説明

有機溶剤含有ガス処理システム

【課題】濃度変動する吸着濃縮装置から得られる脱着ガスを燃焼装置で処理する際に、燃焼装置の燃焼温度の振れによる不完全燃焼によるCO濃度の発生の抑制や、燃焼装置の炉の耐久性低下の問題を解決することを課題とする。
【解決手段】下記(1)〜(3)を備えた有機溶剤含有ガス処理システム。
(1)吸着材を含有した吸着素子が設置され、吸着操作時に低濃度の揮発性有機溶剤を含むガス中の有機溶剤を吸着させ、脱着操作時に有機溶剤を吸着した吸着素子に脱着用加熱空気を吹き付けることにより濃縮された脱着ガスを排出する吸着濃縮装置。
(2)吸着濃縮装置より排出された脱着ガスを導入し、有機溶剤を加熱により酸化分解させる直接燃焼装置。
(3)直接燃焼装置の滞留室内に設置する蓄熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や事業所から排出される揮発性有機溶剤を含む有機溶剤含有ガス中の有機溶剤を、活性炭やゼオライト等の吸着材を用いて吸着濃縮処理し、濃縮された有機溶剤含有ガスを直接燃焼装置で酸化分解処理する有機溶剤含有ガス処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体工場、液晶工場、塗装工場、印刷工場、フィルムのラミネート工場などでは、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどの揮発性有機溶剤を使用しており、蒸発した上記有機溶剤が工場内の空間に拡散し、浮遊すると人体に悪影響を与える。また、有機溶剤含有ガスが処理されることなく大気に放出されると、環境を汚染することになる。
【0003】
そこで、大気汚染防止の観点から、規制対象となる工場や事業所では有機溶剤の排出基準が設けられ、その排出基準を守ることが義務付けされている。
【0004】
有機溶剤含有ガスを分解または除去するガス浄化方法としては、例えば有機溶剤含有ガスを直接、バーナーで予熱して燃焼させる直接燃焼方式、触媒により酸化分解する触媒燃焼方式、蓄熱材で予熱して燃焼させる蓄熱式燃焼方式などが知られているが、特に濃度の低い揮発性有機溶剤(VOC)含有ガスを処理する際には、燃焼時に発生するエネルギー使用量をより低減するために低濃度ガスを濃縮処理する吸着濃縮装置が設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図3は、一般的な吸着濃縮装置を示したものである。
【0006】
この吸着濃縮装置60は、例えば1000Nm/minの有機溶剤含有ガスを吸着材により吸着除去し、清浄空気を排出する一方で、例えば200Nm/minの180℃加熱空気にて吸着材より有機溶剤を脱着して、小風量で高濃度の濃縮ガスを得る装置である。
【0007】
図4は、一般的な吸着濃縮装置を用いた有機溶剤含有ガス処理システムを示したものである。
【0008】
吸着濃縮装置60により得られた脱着ガスを、燃焼装置61にて酸化分解処理して、清浄空気として排出するシステムである。吸着濃縮処理を行なうことで燃焼時に使用される燃料使用量を低減でき、経済的に有機溶剤含有ガスを処理できるシステムとなる。
【0009】
【特許文献1】特開平10−330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記低濃度の有機溶剤含有ガスを濃縮して処理する吸着濃縮装置において、固定型やシリンダー式濃縮装置を使用した場合や、ディスク式濃縮装置でもリブ等の補強により脱着風速の変動がある場合には、脱着ガスの濃度に例えば図5のような変動が見られる。
【0011】
脱着ガスの濃度の変動により、例えば燃焼装置等の後処理装置において、有機溶剤を酸化分解するのに必要な燃焼温度の制御が安定せず、温度が低く振れる場合には、不完全燃焼を起こして高濃度のCOを発生させる問題があり、温度が高く振れる場合には燃焼装置の炉の耐久性が低下する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決することを目的に、脱着ガスが濃度変動を起こしても、後処理装置の直接燃焼装置で安定した処理が可能な方法に関して鋭意検討した。その結果、直接燃焼装置の滞留室にセラミック等の蓄熱体を設置することで、脱着ガスの濃度変動に対しても問題なく、安定して酸化分解処理できることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.下記(1)〜(3)を備えた有機溶剤含有ガス処理システム。
(1)吸着材を含有した吸着素子が設置され、吸着操作時に低濃度の揮発性有機溶剤を含むガス中の有機溶剤を吸着させ、脱着操作時に有機溶剤を吸着した吸着素子に脱着用加熱空気を吹き付けることにより濃縮された脱着ガスを排出する濃縮装置。
(2)濃縮装置より排出された脱着ガスを導入し、有機溶剤を加熱により酸化分解させる直接燃焼装置。
(3)直接燃焼装置の滞留室内に設置する蓄熱体。
2.吸着濃縮装置が、垂直軸まわりに回転可能な円筒形の吸着材を有し、有機溶剤含有ガスは吸着材の外周側からその中心に向けて導入され、浄化された清浄空気は吸着材内側の空間から取り出され、有機溶剤を吸着した吸着材に対し、脱着用加熱空気はその吸着材を挟むようにして配置された一方のダクトである脱着用空気供給管から吸着材に吹き付けられ、有機溶剤を含有している脱着ガスは他方のダクトである脱着出口部から排出されるシリンダー式濃縮装置である上記1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
3.直接燃焼装置の燃焼によって生じた排ガスを脱着用空気と熱交換することにより脱着用空気を加熱する熱交換器が備えられている上記1または2に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
4.直接燃焼装置の脱着ガス燃焼温度が650〜850℃であり、脱着ガス滞留時間が0.5〜1.7秒である上記1〜3のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
5.蓄熱体が、セラミックまたは金属の蓄熱体である上記1〜3のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【発明の効果】
【0014】
脱着ガスが濃度変動を起こしても、後処理装置の直接燃焼装置の滞留室にセラミック等の蓄熱体を設置することで、脱着ガスの濃度変動に対しても問題なく、安定して酸化分解処理できる有機溶剤含有ガス処理システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における吸着濃縮装置の原理を図6に示す。大風量・低濃度の有機溶剤含有ガス中の有機溶剤を吸着するための吸着濃縮装置1は、中心軸2まわりに回転可能な円筒形のケース3を有しており、このケース3内に有機溶剤を吸着するためのハニカム構造(連通路を中心軸方向に向けている)からなる吸着材4が収納されて全体として円柱状吸着体を構成している。
【0016】
円柱状吸着体が回転する移動経路上には吸着部1aと脱着部1bが区画されており、吸着材4がそれら吸着部1aと脱着部1bとを交互に通過するようになっている。
【0017】
吸着部1aには、例えば工場内で発生した有機溶剤含有ガスを導入するための有機溶剤含有ガス供給管5と、吸着濃縮装置1の吸着材4によって浄化された清浄空気を送り出すための浄化空気送出管6が設けられている。
【0018】
また、脱着部1bには、有機溶剤を吸着した吸着材4に対し、例えば180℃の高温乾燥空気、すなわち脱着用加熱空気を吹き付けるための脱着用空気供給管7が設けられており、脱着用加熱空気の風量が有機溶剤含有ガスの風量の1/2〜1/30程度に設定されていることにより脱着されるガスが濃縮されるようになっている。
【0019】
吸着濃縮装置としては、図7に示すディスク式濃縮装置、図2に示すシリンダー式濃縮装置等があり、これらについて説明する。
【0020】
まず、ディスク式濃縮装置について説明する。
図7に示すディスク式濃縮装置10は、ハニカム構造の円柱状吸着体11を回転軸12のまわりに回転させるように構成されており、有機溶剤含有ガスが円柱状吸着体11の一方から導入され、他方から浄化された清浄空気が取り出される。
【0021】
円柱状吸着体11の両側にはダクト13および14が対向するようにして配置されており、脱着用加熱空気はダクト13からその円柱状吸着体11に吹き付けられ、脱着ガスは他方のダクト14から排出されるようになっている。
【0022】
なお、図中矢印Aは円柱状吸着体11の回転方向を示している。
【0023】
次に、シリンダー式濃縮装置について説明する。
図2はシリンダー式濃縮装置20の構成を示したものである。
シリンダー式濃縮装置20は、垂直軸V.Aまわりに回転可能な円筒状吸着体21を有し、有機溶剤含有ガスは吸着体21の外周側からその中心に向けて導入され、浄化された清浄空気は吸着体21内側の空間から取り出される。
【0024】
有機溶剤を吸着した吸着体21に対し、脱着用加熱空気はその吸着体21を挟むようにして配置された一方のダクトである脱着用空気供給管22から吸着体21に吹き付けられ、有機溶剤を含有している脱着ガスは他方のダクトである脱着出口部23から排出されるようになっている。
【0025】
吸着濃縮装置は特に限定されるものではないが、より好ましくは円筒状吸着体を使用するシリンダー型濃縮装置である。円柱状吸着体を使用するディスク式濃縮装置は、その構造上、脱着ガス濃度の振れが少ないが、特に円筒状吸着体を使用するシリンダー型濃縮装置は、脱着ゾーンに送られた際の吸着材の個数が変化するため、一定間隔で脱着ガス濃度の変動が必ず見られるため、本発明の効果が顕著に現れるからである。
【0026】
脱着操作時に有機溶剤を吸着した吸着体に吹きつける加熱流体は、80〜230℃の加熱空気であることが好ましい。80℃未満では、脱着効率が著しく低下して吸着濃縮装置の性能を充分に発揮することができず、230℃を超えると、吸着体の熱による変形や活性炭等の吸着材を使用した場合には、燃焼の危険性があるからである。
【0027】
脱着ガスを処理する直接燃焼装置は、可燃性ガスを直接火炎に接触させ、650〜850℃の高温雰囲気に所定時間滞留させて酸化分解させるものであり、その滞留室内に蓄熱体を導入する必要がある。この蓄熱体により、燃焼温度がより下流側でも高温下に保たれると共に、蓄熱体の設置により処理ガスをミキシングする効果があり、良好な温度分布と均一な流動による均一反応を行なわせることができるからである。これにより濃度変動した脱着ガスでも安定した酸化分解処理が可能となる。
【0028】
直接燃焼装置の燃焼によって生じた排ガスを脱着用空気と熱交換することにより脱着用空気を加熱する熱交換器が備えられていることも好ましいい。熱回収することで使用エネルギーを大幅に削減できるからである。
【0029】
直接燃焼装置の脱着ガス燃焼温度は、特に限定される物ではないが650〜850℃程度が好ましい。より最適な燃焼温度は、700〜800℃である。これは燃焼温度が650℃未満になると酸化分解が充分にできず、分解性能が低下し、850℃を超えると直接燃焼装置の炉の耐久性が低下することや、加熱に必要な使用エネルギーが増大して経済的でなくなるからである。
【0030】
直接燃焼装置の脱着ガス滞留時間は、特に限定されるものではないが、0.5〜1.7秒であることが好ましい。滞留時間が0.5秒未満であると酸化分解が充分にできず、分解性能が低下し、1.7秒を超えると直接燃焼装置のサイズが大きくなってしまい経済的でなくなるからである。
【0031】
直接燃焼装置の滞留室に設置される蓄熱体は、特に限定される物ではないが、できるだけ圧損が低く、熱伝導率の良好な物を選択すればよく、セラミックまたは金属のサドル型やハニカムの蓄熱体であることが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下の実施例に基づいて本発明の有機溶剤含有ガス処理システムについて説明する。
図8に示す有機溶剤含有ガス処理システムにて、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を200ppmの濃度で含有したガスを、400m/minの風量で吸着材として疎水性ゼオライトを使用したシリンダー式濃縮装置60により、吸着処理して180℃の加熱空気で脱着して濃縮し、20m/minの風量にて平均4000ppm、濃度変動が1000〜7000ppmの平均温度65℃の濃縮ガスを得た。
【0033】
次に、シリンダー式濃縮装置の脱着ガス出口ライン63より直接燃焼装置61へ濃縮ガスを導入した。この直接燃焼装置の燃焼室にセラミック蓄熱体を10kg設置した。この蓄熱材の設置した場合と無い場合の燃焼温度の振れと除去率、および発生CO濃度を比較した。
【0034】
特にCO濃度については、直接燃焼装置の制御温度を770〜800℃まで変化させてデータを得た。蓄熱体を設置することで、燃焼出口温度は平均770℃で、温度振れが750〜790℃であったものを、平均770℃で、濃度振れが765〜775℃と抑制でき、その結果、除去率が99.2%から99.9%まで向上し、直接燃焼装置は安定した状態で酸化分解処理することが可能となった。また、CO濃度についても図9に示すように蓄熱体を導入することで不完全燃焼が抑制でき、発生CO濃度を低減できるという効果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0035】
工場や事業所から排出される揮発性有機溶剤を含む有機溶剤含有ガス中の有機溶剤を、活性炭やゼオライト等の吸着材を用いて吸着濃縮処理し、濃縮された有機溶剤含有ガス(脱着ガス)を直接燃焼装置で酸化分解処理する有機溶剤含有ガス処理システムにおいて、脱着ガスが濃度変動を起こしても、後処理装置の直接燃焼装置の滞留室にセラミック等の蓄熱体を設置することで、脱着ガスの濃度変動に対しても問題なく、安定して酸化分解処理できる有機溶剤含有ガス処理システムを提供でき、産業界に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】直接燃焼装置と蓄熱体の設置に関する説明図である。
【図2】シリンダー式濃縮装置の構成を示したものである。
【図3】一般的な吸着濃縮装置を示した説明図である
【図4】一般的な吸着濃縮システムを示した説明図である。
【図5】脱着ガスの濃度振れの一例を示したものである。
【図6】吸着濃縮装置の原理を示したものである。
【図7】ディスク型濃縮装置の構成を示したものである。
【図8】実施例に示す有機溶剤含有ガス処理システムの説明図である。
【図9】実施例のCO濃度の低減効果を示したものである。
【符号の説明】
【0037】
1 吸着濃縮装置
1a 吸着部
1b 脱着部
2 中心軸
3 ケース
4 吸着材
5 有機溶剤含有ガス供給管
6 浄化空気送出管
7 脱着用空気供給管
10 ディスク式濃縮装置
11 円柱状吸着体
12 回転軸
13 ダクト
14 ダクト
20 シリンダー式濃縮装置
21 円筒状吸着体
22 脱着用空気供給管
23 脱着出口部
60 吸着濃縮装置
61 直接燃焼装置
62 吸着体
63 脱着ガス出口ライン
70 直接燃焼装置
71 蓄熱体
72 滞留室
73 バーナー
74 脱着ガス
75 処理ガス
76 熱交換器
77 混合機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)を備えた有機溶剤含有ガス処理システム。
(1)吸着材を含有した吸着素子が設置され、吸着操作時に低濃度の揮発性有機溶剤を含むガス中の有機溶剤を吸着させ、脱着操作時に有機溶剤を吸着した吸着素子に脱着用加熱空気を吹き付けることにより濃縮された脱着ガスを排出する吸着濃縮装置。
(2)吸着濃縮装置より排出された脱着ガスを導入し、有機溶剤を加熱により酸化分解させる直接燃焼装置。
(3)直接燃焼装置の滞留室内に設置する蓄熱体。
【請求項2】
吸着濃縮装置が、垂直軸まわりに回転可能な円筒形の吸着材を有し、有機溶剤含有ガスは吸着材の外周側からその中心に向けて導入され、浄化された清浄空気は吸着材内側の空間から取り出され、有機溶剤を吸着した吸着材に対し、脱着用加熱空気はその吸着材を挟むようにして配置された一方のダクトである脱着用空気供給管から吸着材に吹き付けられ、有機溶剤を含有している脱着ガスは他方のダクトである脱着出口部から排出されるシリンダー式濃縮装置である請求項1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項3】
直接燃焼装置の燃焼によって生じた排ガスを脱着用空気と熱交換することにより脱着用空気を加熱する熱交換器が備えられている請求項1または2に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項4】
直接燃焼装置の脱着ガス燃焼温度が700〜800℃であり、脱着ガス滞留時間が0.5〜1.7秒である請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項5】
蓄熱体が、セラミックまたは金属の蓄熱体である請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−32178(P2010−32178A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197305(P2008−197305)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】