説明

有機発光素子およびその製造方法

【課題】低駆動電圧かつ連続駆動後の電圧上昇が小さく、高信頼性の有機発光素子を提供する。
【解決手段】基板の上方に形成され、正孔注入電極12と電子注入電極14との間に少なくとも発光層26を備える有機発光素子であり、正孔注入電極12と発光層26との間に、少なくとも、正孔注入電極側から正孔注入性の介在層20と、正孔注入層22とを備える。介在層20は、電子吸引性基を有する材料を含み、正孔注入層22は、2種類以上の正孔注入輸送性材料を含み、正孔注入層形成後、この正孔注入層で体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上に加熱処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EL(エレクトロルミネセンス)素子などの自発光素子は、高輝度発光が可能であると共に、低消費電力化、装置の薄型化が可能であり、次世代表示装置、光源装置として注目されている。この自発光素子の一種である有機EL素子では、正孔注入電極と電子注入電極の間に設けられる発光層に有機材料を用いており、発光色の自由度が高い。一方で、発光層などが非常に薄膜であって被覆性が低かったりすることによる耐久性の低さや、採用される有機材料自体の耐久性の低さなどの課題があり、耐久性を高めるための研究開発が行われている。
【0003】
特許文献1では、有機EL素子の電極表面等に付着した導電性異物に起因した凹凸が、単に上から発光材料などを積層しただけでは十分に被覆できず、不良となりやすいことに着目している。そして、特許文献1では、このような被覆不良を解消するため、導電性異物などを覆って形成される複数の有機材料層に対して加熱処理を行って流動させることが提案され、複数の有機材料層を加熱流動させることで、局部的な有機材料層の未形成領域を解消し、有機EL素子の熱的安定性の向上を図っている。
【0004】
特許文献2および特許文献3では、正孔注入電極と発光層との間に設けられる正孔輸送層の材料として、複数種類を混合して用いることが提案されている。このような混合層の採用により、現在開発されている単独の材料では達成できない複数の役割を補完し、正孔輸送層の総合的な能力を向上させ、有機EL素子の特性向上を図っている。
【0005】
非特許文献1では、正孔注入電極と正孔輸送層との界面に、フッ素化銅フタロシアニン層を設け、高効率有機EL素子の実現を図ることが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−5149号公報
【特許文献2】特開2000−68064号公報
【特許文献3】特開2003−272870号公報
【非特許文献1】Musubu Ichikawa, Kana Kobayashi, Toshiki Koyama, Yoshio Taniguchi,“Intense and efficient ultraviolet electroluminescence from organic light-emitting devices with fluorinated copper phthalocyanine as hole injection layer”, Thin Solid Films 515, 3932-3935 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のように、有機材料層を加熱することにより有機EL素子の信頼性向上について効果が期待できる。しかし、複数の有機材料層を採用することにより、有機層の膜厚増加が生じ、有機EL素子の駆動電圧が上昇する。
【0008】
特許文献2または特許文献3のように正孔輸送層に混合層を採用した場合、上記駆動電圧の上昇の問題は、膜厚の増加に加え、正孔注入層のアモルファス性が増すことから、さらに顕著となる。
【0009】
非特許文献3のような正孔注入層を採用することで、上記駆動電圧上昇を抑制することができる。しかし、正孔注入層に採用されるフッ素化銅フタロシアニンなどは、濡れ性が悪い。つまり、多層構造よりなる有機EL素子の積層構造中に、濡れ性が悪い材料を挿入することとなって、界面の密着力が低下するため、素子製造時や素子の駆動時の加熱環境下で界面に欠陥が生じて、連続駆動時の電圧上昇が発生しやすくなる。
【0010】
本発明は、低駆動電圧かつ連続駆動後の電圧上昇が小さく、高信頼性の有機発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基板の上方に形成され、正孔注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備える有機発光素子であって、前記正孔注入電極と前記発光層との間に、少なくとも、前記正孔注入電極側から正孔注入性の介在層と、正孔注入層とを備え、前記介在層は、電子吸引性基を有する材料を含み、前記正孔注入層は、2種類以上の正孔注入輸送性材料を含み、該正孔注入層で体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する前記正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上に前記正孔注入層が加熱されている。
【0012】
本発明の他の態様では、上記有機発光素子において、前記介在層は、前記正孔注入電極から前記正孔注入層への正孔注入障壁を小さくする効果がある材料を含む。
【0013】
本発明の他の態様では、上記有機発光素子において、前記介在層は、ハロゲンまたは擬ハロゲンを分子中に含む化合物からなる。
【0014】
本発明の他の態様では、上記有機発光素子において、前記介在層の化合物は、フッ素化合物またはシアン化合物である。さらに、他の態様では、このフッ素化合物は、フタロシアニン骨格を有する。また、本発明の他の態様では、上記有機発光素子において、前記フッ素化合物の中心金属は亜鉛、銅のいずれかである。
【0015】
本発明の他の態様では、上記有機発光素子において、前記正孔注入層の前記2種類以上の正孔輸送性材料のうち、少なくとも2種類は、それぞれ体積分率で15%以上、前記正孔注入層に含まれている。
【0016】
本発明の他の態様では、上記有機発光素子において、前記少なくとも2種類の正孔注入輸送性材料は、トリフェニルアミン誘導体である。
【0017】
本発明の他の態様では、基板の上方に形成され、正孔注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備え、前記正孔注入電極と前記発光層との間に、少なくとも、前記正孔注入電極側から正孔注入性の介在層と正孔注入層とを備える有機発光素子の製造方法であって、前記正孔注入電極の上に、真空蒸着法によって、前記正孔注入電極から前記正孔注入層への正孔注入障壁を小さくする効果がある材料を積層して前記介在層を形成し、前記介在層の上に、真空蒸着法によって、2種類以上の正孔注入輸送性材料を積層して前記正孔注入層を形成し、前記正孔注入層の形成後、該正孔注入層で体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上にて加熱処理を行い、前記加熱処理の後に、前記発光層を形成する。
【0018】
本発明の他の態様では、上記有機発光素子の製造方法において、前記加熱処理は、100℃以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、駆動電圧が低く、かつ、長寿命の有機EL素子を提供することができる。また、連続駆動時の電圧上昇を抑制することができる。
【0020】
本発明では、正孔注入層として、正孔注入輸送性材料の2種類以上を用いることにより、正孔注入層のアモルファス性が増す。また、正孔注入層で体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上に加熱することで、介在層と正孔注入層の界面の安定性や濡れ性を向上することができる。このため、有機発光素子の長寿命化をもたらすとともに連続運転時の電圧上昇を抑制することができる。
【0021】
さらに、本発明において、電子吸引性基を有する介在層を採用し、さらに正孔注入電極から正孔注入層への正孔注入障壁を小さくする効果がある材料を用いることで、正孔注入障壁の減少効果を、より効果的に発揮させることができる。よって、正孔注入層に混合材料を用いることによるキャリア(正孔)移動度の低下よりも大きな駆動電圧低下効果を得ることができ、駆動電圧が低い有機発光素子を作製可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を用いてこの発明の最良の実施の形態(以下実施形態という)について説明する。
【0023】
(全体構成)
図1は、本実施形態にかかる有機発光素子の例として採用した有機EL素子100の概略構成を示す。EL素子100は、ガラスなどの透明基板10の上に、正孔注入電極(陽極)として透明電極12、発光層を含む1層以上の有機層200、電子注入電極(陰極)として金属電極14がこの順に積層されて構成されている。有機層200は、少なくとも発光層26を有し、有機層200に採用される材料特性などに応じた多層構造が採用される。
【0024】
本実施形態では、上記発光層26の他、陽極12と発光層26との間に、少なくとも、陽極12側から正孔注入性の介在層20と、正孔注入層22を備える。図1の例では、有機層20は、正孔注入層22と発光層26の間に、ホール輸送層24を備え、発光層26と陰極14との間には、発光層側から順に、電子輸送層28、電子注入層30を備えた多層構造となっている。なお、もちろんこれらの構成に限られず、発光層26がキャリア輸送層(例えば正孔輸送層や電子輸送層)を兼用したり、発光色が異なる多層の発光層26を採用する、電子注入層を省略する、或いは発光層26と電子輸送層28との間に正孔ブロック層を設けるなど、様々な構成の有機EL素子100を採用することができる。
【0025】
次に、本実施形態に係る有機EL素子100についてより詳しく説明する。基板10の上に形成される陽極12としては、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明導電性薄膜が採用可能である。この陽極12から有機層200へのキャリア(正孔)注入障壁の低減を目的として、本実施形態では、陽極12と接するように、電子吸引性基を含む有機化合物からなる介在層20を1〜20nm成膜する。
【0026】
介在層20の有機化合物には、陽極12から正孔注入層22への正孔注入障壁を小さくする効果がある材料が採用される。この正孔注入障壁は、陽極12の仕事関数(eV)に対する有機化合物のHOMO(最高占有分子軌道)レベル(eV)の差に応じており、差が小さいほど注入障壁が小さくなる。
【0027】
このような材料としては、分子中に上述のような電子吸引性基を有する化合物を用いる。電子吸引性基としては、例えば、ハロゲンおよびハロゲンを含む特性基の他、シアノ基や、アゾ基などの擬ハロゲンを含む特性基が挙げられる。これらの電子吸引性基を有する化合物の中で、一例としてフルオロ基を有するフッ素化合物やシアノ基を有するシアン化合物が採用可能である。特に、フタロシアニン骨格を有するフッ素化合物を採用することで、作製する有機EL素子の駆動電圧や作製プロセスの制御性の観点で有利となる。
【0028】
また、この介在層20の構成材料としては、さらに、大気に触れても変質しない材料、より具体的には耐酸化性の高い材料であることがより好ましい。変質が起き難いことで、層内でのアモルファス性が維持され、素子の耐久性に悪影響を及ぼしにくくなるためである。
【0029】
上記介在層20の材料として、より具体的には、11,11,12,12−テトラシアノナフソ−2,6−キノジメタン(略称:TNAP)、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(略称:F4−TCNQ)、トリス(4−ブロモフェニル)アンモニウミル−ヘキサクロロアンチモネート(略称:TBAHA)、2,5,8,11,14,17−ヘキサフルオロ−ヘキサ−ペリ−ヘィサベンゾコロネン(略称:F6−HBC)、銅1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18,22,23,24,25−ヘキサデカフルオロ−29H,31H−フタロシアニン(略称:F−CuPc)もしくは亜鉛1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18,22,23,24,25−ヘキサデカフルオロ−29H,31H−フタロシアニン(略称:F−ZnPc)などを選択することができる。
【0030】
なお、これらの介在層材料は、例えば真空蒸着法によって積層することができる。また、上記介在層20の膜厚が1nmよりも薄い場合には陽極からのキャリア注入障壁を低減する効果が発現しにくく、20nmよりも厚い場合には上記フッ素化合物自体の電気伝導性が乏しいことにより素子の駆動電圧が高くなる可能性がある。よって、介在層20の膜厚は、1nmから20nmの間とすることが好ましい。
【0031】
陽極12の上に上述のフッ素化合物等を用いて介在層20を形成した後、この介在層20の上には、2種類以上の正孔輸送性を持つ材料を用いて正孔注入層22が形成される。正孔注入層22は、介在層20と同様に真空蒸着法などによって積層することができ、少なくとも2種類以上の正孔注入輸送性材料が用いられ、この複数の材料を共蒸着することによって所望の体積割合の混合層を形成することができる。
【0032】
正孔注入輸送性材料としては、トリフェニルアミン誘導体等を採用することができ、この材料を共蒸着などによって混合した正孔注入層22を20〜200nm成膜する。正孔注入輸送性材料の混合比は、互いに異なる少なくとも2種類の材料は、層内のアモルファス性を保つ観点から、それぞれ体積分率で15%以上含まれていることが好ましい。
【0033】
正孔注入層22の厚さは、20nmよりも薄い場合、積層後に加熱処理を実行しても形成表面の凹凸を覆うことが困難となる。つまり十分な被覆性を発揮することが難しく有機EL素子の信頼性を損ないやすい。一方で、200nmよりも厚くすると、正孔注入層自体の電気抵抗が大きくなり、フッ素化合物等の介在層20によってキャリア注入障壁を低減したことによる低駆動電圧化の効果を打ち消してしまうほど、有機EL素子の駆動電圧が高くなってしまう。したがって、正孔注入層22の積層厚さは、20nm以上、200nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0034】
正孔注入層22の形成後には加熱処理が行われる。加熱温度は、正孔注入層22内での体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上の温度とする。このような加熱処理により、正孔注入層22を溶融流動させ、介在層20を介して形成面に引き継がれる下層の(陽極表面における)凹凸を覆う。なお、上位80%までを占める構成材料以外の残りは、存在する場合であっても微量であり、正孔注入層22の全体を下層の介在層を覆うように流動させる上で、この微量の構成材料のガラス転移温度の影響は低い。
【0035】
ここで、正孔注入層22内での体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する正孔注入輸送材料は、体積分率で15%以上、例えば20%以上含まれている材料である。上位80%を占める構成材料のうち、最も高いガラス転移温度の温度以上に加熱することで、積層した正孔注入層22を下層の凹凸を被覆できる程度に流動させることが可能となる。
【0036】
このように正孔注入層22の積層後、流動する程度に加熱処理することで、有機EL素子の信頼性、耐久性を向上させることが可能となる。なお、加熱時における正孔注入層の酸化やホール注入層内部への水分の侵入を防ぐ目的から、この加熱処理は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、もしくは真空中で行うことが好ましい。
【0037】
また、上記の体積分率15%以上含まれる2種類以上の正孔輸送性の材料は、その後の製造工程に際して施される加熱処理や有機EL素子の信頼性を考えると、100℃以上のガラス転移点を持つ材料であることが好ましい。
【0038】
正孔注入層22を形成する材料としては、例えば、4,4’,4”−トリス(N,N−(2−ナフチル)フェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:2−TNATA、ガラス転移温度:110℃)、N,N’−ビス(4−ジフェニルアミノ−4’−ビフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(略称:DAP−DPB、ガラス転移温度:140℃)、およびN,N−ジフェニル−N,N−ビス(3−メチル−フェニル)−1,1−ビフェニル−4,4−テトラアミン(略称:TPTE,ガラス転移温度:143℃)等が挙げられる。なお、混合する材料は、層のアモルファス性を高め、かつこのアモルファス性を維持する上で、互いに基本骨格が異なる材料であるか、基本骨格は共通していても全体的な分子構造が異なる材料を採用すればよい。基本骨格が共通する混合の例としては、例えば基本骨格を共通とする2量体化合物と、2より大きい3量体、4量体化合物との混合などが挙げられる。
【0039】
上記のような材料を混合して正孔注入層22を形成し、かつ加熱処理を実行した後、本実施形態では、さらに正孔輸送層24、発光層26、電子輸送層28、電子注入層30を積層する。さらに、電子注入層30の上に陰極14を順次成膜し、有機EL素子100を得る。正孔輸送層24の材料としては、正孔輸送機能を備えていれば特に限定されないが、一例として、正孔注入層22の材料としても利用可能なDAP−DPB等を利用できる。
【0040】
発光層26としては、目的とする発光色に応じて採用する材料を変更できるが、例えば、緑色の発光色が得られるトリス(8−キノリノラート)アルミニウム(略称:Alq3:キノリノール3量体)を採用することができる。なお、このAlq3は、電子輸送機能も備えているため、このAlq3を採用する場合、発光層26と電子輸送層28とを、単一層によって構成することも可能である。
【0041】
電子注入層30としては、例えばLiF(フッ化リチウム)等を採用することができ、陰極14としては、例えばアルミニウムや銀などを採用することができる。なお、LiFからなる電子注入層30は、厳密には有機化合物ではなく、このような場合、電子注入層30は、陰極14の一部として考えることもできる。
【0042】
上述のような有機EL素子100において、陽極12の上に形成される有機層200および陰極12は、一例としていずれも真空蒸着方法によって成膜することができる。上述のように正孔注入層22の形成後においては、加熱処理を施すが、それを除けば、ほぼ連続して各層を真空蒸着にて形成することができる。もちろん、スパッタリングや、印刷方法など、他の方法によって形成しても良い。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示す。
[実施例1]
150nmの酸化インジウム錫(ITO)を陽極12として配したガラス基板10の上に、介在層20としてF−ZnPcを採用し、これを真空蒸着により3nm成膜した。
【0044】
その後、正孔注入層22として、2−TNATAとDAP−DPBを体積比1:1(体積分率は、2−TNATAが50%、DAP−DPBが50%)で、混合した膜厚100nmの膜を真空中で共蒸着することにより形成した。正孔注入層22を成膜した後、窒素雰囲気中において加熱温度155℃で15分間の加熱処理を行った。なお、2種類の正孔注入輸送性材料の合計体積比率は100%であり、加熱温度155℃は、2つの構成材料の内の高い方のガラス転移温度140℃以上となっている。
【0045】
加熱処理の後、正孔輸送層24として50nmのDAP−DPB、発光層兼電子輸送層26として60nmのAlq3、電子注入層30として0.5nmのフッ化リチウム、陰極14として150nmのアルミニウムを順次真空蒸着により成膜し、有機EL素子100を形成した。
[実施例2]
実施例1の正孔注入層の材料として、2−TNATAとDAP−DPBを採用し、その混合割合を体積比5:1(体積分率は、2−TNATAが83.3%、DAP−DPBが約16.7%)に変更し、他は上記実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した。
[実施例3]
実施例1の正孔注入層の材料として、2−TNATAとDAP−DPBを採用し、その混合割合を体積比1:4(体積分率は、2−TNATAが20%、DAP−DPBが80%)とし、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した。
[実施例4]
正孔注入層を形成する材料として、2−TNATAとTPTEを採用し、その混合割合を1:1(体積分率は、2−TNATAが50%、TPTEが50%)とし、他は上記実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した。
[実施例5]
正孔注入層を形成する材料として、DAP−DPBとTPTEを採用し、その混合割合を体積比1:1(体積分率は、DAP−DPBが50%、TPTEが50%)とし、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した。
[実施例6]
正孔注入層を形成する材料として、2−TNATAとDAP−DPBおよびTPTEを採用し、その混合割合を体積比2:1:1(体積分率は、2−TNATAが50%、DAP−DPB25%、TPTEが25%)とし、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した。
[実施例7]
陽極上に形成する介在層20の材料として用いるフッ素化合物の材料をF−ZnPcではなく、F−CuPcとし、他は実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
[実施例8]
陽極上に形成する介在層20に用いるフッ素化合物の材料として、TNAPを採用し、他は実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
[実施例9]
陽極上に形成する介在層20に用いるフッ素化合物の材料として、F4−TCNQを採用し、他は実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
[実施例10]
陽極上に形成する介在層20に用いるフッ素化合物の材料として、TBAHAを採用し、他は実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
[実施例11]
陽極上に形成する介在層20に用いるフッ素化合物の材料として、F6−HBCを採用し、他は実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
[比較例1]
実施例1の構成から、介在層20としてのF−ZnPc層を除いた構成とし、陽極12の上に、直接正孔注入層22を形成した。また、この正孔注入層22としては、2−TNATAのみを用い、成膜後の加熱処理を含め他は上記実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した(介在層なし、単独正孔注入層、加熱処理有り)。
[比較例2]
実施例1の構成から、介在層20を除き、かつ正孔注入層22の形成後の加熱処理を省略した条件にて、他は実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した(介在層、加熱処理なし)。
[比較例3]
実施例1の正孔注入層22を2−TNATAのみで構成し、かつ、正孔注入層22の形成後の加熱処理を省略し、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した(単独正孔注入層、加熱処理無し)。
[比較例4]
実施例1の正孔注入層22を2−TNATAのみで構成し、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した(単独正孔注入層、加熱処理有り)。
[比較例5]
実施例1の構成から、介在層20を除き、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した(介在層なし、混合正孔注入層、加熱処理有り)。
[比較例6]
実施例1の構成から、加熱処理のみを省略し、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した(介在層有り、混合正孔注入層、加熱処理なし)。
[比較例7]
実施例1の正孔注入層22をDAP−DPBのみで構成し、他は実施例1と同様の条件にて有機EL素子を作製した。
【0046】
以下の表1に、輝度2400cd/m2における初期駆動電圧と、この条件における100時間(h)の定電流駆動による電圧上昇、および連続駆動試験後の短絡破壊の割合を示す。
【表1】

表1に示されるとおり、実施例1〜11のいずれにおいても、比較例に対して初期駆動電圧が高くなることなく(むしろ、傾向として、比較例より低い)、電圧上昇が低く抑制され、かつ短絡破壊の割合が0/10または1/10と低くなっている。
【0047】
一方、比較例1〜7では、初期駆動電圧、電圧上昇、短絡破壊の割合について、個別に、優れた数値となっている例もある。しかし、電圧上昇が抑制され、かつ短絡破壊の割合が低くなるという、両立した効果は得られていない。
【0048】
このことからも、本実施形態によれば、初期駆動電圧も低く、かつ、その後の電圧上昇が低く、そして高信頼性で長寿命の有機EL素子が得られることが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 基板、12 陽極(正孔注入電極)、14 陰極(電子注入電極)、20 介在層、22 正孔注入層、24 正孔輸送層、26 発光層、28 電子輸送層、30 電子注入層、200 有機層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方に形成され、正孔注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備える有機発光素子であって、
前記正孔注入電極と前記発光層との間に、少なくとも、前記正孔注入電極側から正孔注入性の介在層と、正孔注入層とを備え、
前記介在層は、電子吸引性基を有する材料を含み、
前記正孔注入層は、2種類以上の正孔注入輸送性材料を含み、該正孔注入層で体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する前記正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上に前記正孔注入層が加熱されていることを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機発光素子において、
前記介在層は、前記正孔注入電極から前記正孔注入層への正孔注入障壁を小さくする効果がある材料を含むことを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の有機発光素子において、
前記介在層は、ハロゲンまたは擬ハロゲンを分子中に含む化合物からなることを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機発光素子において、
前記介在層の化合物は、フッ素化合物またはシアン化合物であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】
請求項4に記載の有機発光素子において、
前記フッ素化合物は、フタロシアニン骨格を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機発光素子において、
前記フッ素化合物の中心金属は亜鉛、銅のいずれかであることを特徴とする有機発光素子。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の有機発光素子において、
前記正孔注入層の前記2種類以上の正孔輸送性材料のうち、少なくとも2種類は、それぞれ体積分率で15%以上、前記正孔注入層に含まれていることを特徴とする有機発光素子。
【請求項8】
請求項7に記載の有機発光素子において、
前記少なくとも2種類の正孔注入輸送性材料は、トリフェニルアミン誘導体であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項9】
基板の上方に形成され、正孔注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備え、前記正孔注入電極と前記発光層との間に、少なくとも、前記正孔注入電極側から正孔注入性の介在層と正孔注入層とを備える有機発光素子の製造方法であって、
前記正孔注入電極の上に、真空蒸着法によって、前記正孔注入電極から前記正孔注入層への正孔注入障壁を小さくする効果がある材料を積層して前記介在層を形成し、
前記介在層の上に、真空蒸着法によって、2種類以上の正孔注入輸送性材料を積層して前記正孔注入層を形成し、
前記正孔注入層の形成後、該正孔注入層で体積分率が上位から80%までを占める構成材料の内、最も高いガラス転移温度を有する正孔注入輸送材料の該ガラス転移温度以上にて加熱処理を行い、
前記加熱処理の後に、前記発光層を形成することを特徴とする有機発光素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の有機発光素子の製造方法において、
前記加熱処理は、100℃以上であることを特徴とする有機発光素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−283491(P2009−283491A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131041(P2008−131041)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】