説明

有機発光素子およびそれを用いた表示装置

【課題】高い発光効率を有し、かつ素子の発光特性の視野角依存性が小さい有機発光素子を提供する。
【解決手段】発光層105から光取り出し電極103に向かう光と、発光層105で発光し、発光層105より反射電極102側にある反射面よって反射される光とが干渉する有機発光素子であって、反射電極102内もしくは光取り出し電極103の発光層105側と反対側に、前記発光層105で発光した光を共振させる共振部(例えば、誘電体層102B)を有し、共振部の膜厚dが、共振部の屈折率n、有機発光素子の外部に取り出される光のスペクトルの最大ピーク波長λ、発光層105で発光した光が共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトφ、整数mに対して、式


を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機発光素子およびそれを用いた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(以下、素子と呼称する場合がある)は、薄膜、自発光を特徴としており、新方式のフラットパネルディスプレイとして応用されている。
【0003】
有機発光素子は、陰極と陽極から成る一対の電極と、この一対の電極の間に形成される有機化合物層とから構成されている。有機発光素子の発光は、陰極から電子、陽極からホールを有機化合物層に注入し、有機化合物層中の発光層で励起子を生成させ、この励起子によって発光層内の分子が励起状態にされ、分子が励起状態から基底状態にもどる際に光が放出される原理を利用している。発光層は、蛍光性有機化合物若しくは燐光性有機化合物、量子ドットなどの発光性材料から成る。
【0004】
これまで、有機発光素子においては、発光色の色純度や発光効率を向上させるために、特許文献1のような共振器構造が導入されている。共振器構造を備えた素子では、共振波長の光が増幅されて素子外に取り出される。このため、素子外に取り出される光のスペクトルのピーク波長の強度が大きく、スペクトル幅の狭い光を取り出すことが可能となる。
【特許文献1】特開2004−127795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の共振器構造を有した有機発光素子では、干渉効果が強くなるため、発光面を斜め方向から見た場合に、取り出される光の波長が短波長側にシフトしたり、発光強度が低下したりと、発光特性の視野角依存性が大きくなるという課題がある。これは、発光面の正面に取り出される光と、発光面から斜め方向に取り出される光の光路長が異なり、共振器構造によって強められる光の波長がそれぞれ異なることに起因すると考えられる。
【0006】
また一般的に、発光効率を向上させるために、素子を構成する一対の電極のうち、光取り出し側とは反対側にある電極が、反射率の高い金属で構成されたり、反射層と透明導電層とが積層された構成であることが多い。このため、発光層から光取り出し側に向かう光と、発光層で発光し、光取り出し側と反対側にある反射率の高い電極や反射層で反射される光が少なからず干渉するため、共振器構造を有していない有機発光素子であっても上記課題が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、高効率かつ素子の発光特性の視野角依存性が小さい有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の有機発光素子は、複数の層からなる反射電極と、発光層を有する有機化合物層と、光取り出し電極とが順にあり、前記発光層から前記光取り出し電極に向かう光と、前記発光層で発光し、前記発光層より前記反射電極側にある反射面によって反射される光とが干渉する有機発光素子であって、前記反射電極内もしくは前記光取り出し電極の前記発光層側と反対側に、前記発光層で発光した光を共振させる共振部を有し、前記共振部の膜厚dが、前記共振部の屈折率n、前記有機発光素子の外部に取り出される光のスペクトルの最大ピーク波長λ、前記発光層で発光した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトφ、整数mに対して、式
【0009】
【数1】

【0010】
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高効率かつ素子の発光特性の視野角依存性が小さい有機発光素子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の原理を構成例に基づいて説明する。なお、共振器構造とは、1つの層あるいは複数の層から成る層と、その1つの層の両端もしくは複数の層から成る層の両端にある2つの反射面で構成され、その2つの反射面の間で光が多重干渉される構造を指す。共振部とは、共振器構造を構成する1つの層あるいは複数の層のことを指す。
【0013】
図1に、本発明の有機発光素子の概略断面図を示す。なお、図示例では有機発光素子を示したが、QD−LED素子などであっても実施できる。図1に示した有機発光素子は、基板100上に、反射層102A、誘電体層102B、透明導電層102Cが積層され、陽極となる反射電極102が形成されている。この反射電極102上に、発光層105を有する有機化合物層101が形成され、さらに陰極となる光取り出し電極103が形成されている。光取り出し電極とは、発光層で発光した光を素子の外に取り出すために、光透過性を有した透明もしくは半透明な電極のことである。なお、ここで用いる「光透過性」とは、可視光に対して50〜100%の透過率を有する性質のことを指す。
【0014】
反射層102Aは、Al合金やAg合金などで構成されている。また、反射層102は、可視光の波長域(λ=380nm〜780nm)で分光反射率75%以上の高反射率であることが望ましい。誘電体層102Bは、光透過性のあるSiO、SiO、SiN、アクリル樹脂などで構成される。透明導電層102Cは、ITOやIZOなどの透明酸化導電層である。また、光取り出し電極103は、透明導電層102Cと同様の透明酸化導電層を用いることができるし、AgやAl、またはAg合金やAl合金などの金属薄膜からなる電極(金属半透明電極)としてもよい。または、光取り出し電極103は、透明酸化導電層と金属薄膜の積層構成からなる電極としても良い。
【0015】
有機化合物層101は、図1に示すように、通常、ホール輸送層106、発光層105、電子輸送層107が積層された構成を採っている。また、有機化合物層は発光層のみの構成を採っても良いし、必要に応じて陽極とホール輸送層との間にホール注入層を、陰極と電子輸送層との間に電子注入層を設けても良い。つまり、有機化合物層は、少なくとも発光層を有し、必要に応じて、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層などの機能層のうち一つまたは複数を有する構成を採っても良い。また、有機化合物層は同じ機能を持った機能層を複数有していてもよい。また、発光層105は、それぞれの発光色に応じた蛍光性有機化合物もしくは燐光性有機化合物を含んでいる。
【0016】
有機発光素子を構成する反射電極102と光取り出し電極103の間に電圧を印加すると、陽極(反射電極102)からホールが、陰極(光取り出し電極103)から電子が有機化合物層101に注入される。注入されたホールと電子が、発光層105において励起子を形成し、この励起子により発光層内の分子が励起状態になり、分子が励起状態から基底状態に戻る際に光が放射される。ここで、図1に示した有機発光素子の構成例では、発光層105で発生した光に対して光取り出し電極103側から素子外に光が取り出される。
【0017】
反射電極102は、反射層102Aと透明導電層102Cとの間に、透明導電層102Cと屈折率の異なる材料からなる誘電体層102Bを有している。この場合、この誘電体層102Bが、反射層102Aと有機化合物層101との間にある中間層である。誘電体層102Bの光路長を変化させることで、反射電極102と有機化合物層101との界面での発光光に対する反射率を調整することができる。
【0018】
有機発光素子では、発光層で発光して光取り出し電極に向かう光と、発光層で発光し、反射電極側にある反射面(この場合、反射電極と有機化合物層との界面)で反射される光との干渉効果により、発光層で発光した光の発光効率を高め、色純度を向上している。この干渉効果によって得られる干渉強度分布の最大ピーク波長は、素子の発光面から傾いた角度で見た場合に、その角度が大きくなるにつれ、短波長側にずれる(短波長シフト)。このため、干渉効果を利用した有機発光素子では、素子の発光特性の視野角依存性が大きくなり、発光面の正面から見た場合の光の色度と、発光面から傾いた角度で見た場合の光の色度との色度ずれが大きくなる。一般に、反射電極の反射率を大きくすると、干渉効果が強くなるので、発光効率が向上する一方、有機発光素子の発光特性の視野角依存性が大きくなる。
【0019】
本発明の有機発光素子は、正面を基準とした、光の取り出される角度が大きくなるのに伴い、反射電極102と有機化合物層101との界面での反射率が大きくなるように、誘電体層102Bの光路長が調整されている。それと同時に、素子外に取り出される光の最大ピーク波長の反射電極102と有機化合物層101との界面での反射率が低下しないように、誘電体層102Bの光路長が調整されている。
【0020】
つまり、本発明の有機発光素子は、反射電極102内の誘電体層102Bの膜厚を所望に設定することによって、素子外に取り出される光の最大ピーク波長の強度を大きくしながら、正面から傾いた角度で取り出される光の短波長シフトを抑制している。
【0021】
このことにより、有機発光素子の発光効率を向上させると同時に、素子の発光特性の視野角依存性を小さくすることが可能となる。
【0022】
より詳しく本発明の原理を述べる。図1に示すように、反射電極102と有機化合物層101との界面の複素反射係数をr=|r|exp(iφ)とする。さらに、光取り出し電極103の光取り出し側の界面(光取り出し電極103と電子輸送層107との界面とは反対側の面)での複素反射係数をr=|r|exp(iφ)とする。ここで、位相シフトの定義域を−π<φ,φ≦πとする。また、反射電極102と光取り出し電極103の光取り出し側の界面との間の距離をd、この間の各層の平均屈折率をnとし、反射電極102と発光層105内の発光点108との間の距離をd、この間の層の平均屈折率をnとする。
【0023】
有機発光素子の発光強度I(λ)は、発光層105から有機発光素子の外部に取り出される光のスペクトルの最大ピーク波長をλとし、波数をk=2π/λ、正面を基準にした光の取り出される角度をθとすると、数2で与えられる。
【0024】
【数2】

【0025】
数2の分母の位相部分より、整数mに対して、多重干渉が強め合う位相条件が数3で与えられる。また、数2の分子の位相部分より、整数mに対して、広角干渉が強め合う位相条件が数4で与えられる。これらから、光の取り出される角度θが大きくなるのに従い、干渉により強め合う波長が短波長シフトしていき、その結果、色度ずれが生じることがわかる。通常は、正面(θ=0)に取り出される光の発光強度を向上させるために、反射面(反射電極102と有機化合物層101との界面、及び、光取り出し電極103の光取り出し側の界面)での反射率、つまり、複素反射係数の絶対値|r|、|r|が大きくされる。これに伴い、正面(θ=0)に取り出される光の発光強度が向上する一方、取り出される発光色の視野角依存性が大きくなってしまう。
【0026】
【数3】

【0027】
【数4】

【0028】
本発明では、光の取り出される角度θが大きくなるのに伴い、最大ピーク波長λでの反射電極102の複素反射係数の絶対値|r|が大きくなるようにして、視野角依存性を低減するものである。つまり、取り出される角度θが大きくなるのに伴い、素子外に取り出される光の最大ピーク波長λでの干渉の強め合いが低下する分を、複素反射係数の絶対値|r|の増加により補うことで、発光強度I(λ)の視野角依存性を低減する。これは、最大ピーク波長λよりも長波長側にある波長で反射電極102と有機化合物層101との界面での反射率が干渉により高められるように、誘電体層102Bの光路長を調整することで可能である。この条件は、数5で与えられる。ここで、図1の構成において、反射層102Aと誘電体層102Bとの界面の複素反射係数をr=|r|exp(iφ)とし、誘電体層102Bと透明導電層102Cとの界面の複素反射係数をr=|r|exp(iφ)とした。さらに、誘電体層102Bの膜厚をd、誘電体層102Bの屈折率をnとした。mは整数である。この有機発光素子において、反射層102Aと誘電体層102Bとの界面と誘電体層102Bと透明導電層102Cとの界面との間で、発光層105で発生した光が多重干渉する共振器構造が得られる。つまり、この場合、共振器構造の共振部は、反射電極102内の中間層、つまり、誘電体層102Bである。
【0029】
【数5】

【0030】
しかし、誘電体層102Bの膜厚dが大きくなればなるほど、素子外に取り出される光の最大ピーク波長λの、反射電極102と有機化合物層101との界面での反射率が大きく低下してしまう。このために、誘電体層102Bの膜厚dは、数6を満たすようにすればよい。数6は、素子外に取り出される光スペクトルの最大ピーク波長λで、反射電極102全体の反射率が誘電体層102B内での多重干渉により高められ、有機発光素子の発光強度が向上する条件である。数6で与えられた条件を満たすと、発光層で発光した光のうち、最大ピーク波長λの強度が誘電体層102B内で弱くなり、それにともなって、誘電体層102Bよりも光取り出し側では、最大ピーク波長λの強度が強くなる。そのため、反射電極102全体の最大ピーク波長λに対する反射率が大きくなる。
【0031】
【数6】

【0032】
よって、数5、数6から、有機発光素子において、発光強度を向上し、かつ、視野角依存性を低減するための誘電体層102Bの膜厚の条件は、数7で与えられる。本発明では、誘電体層102Bの膜厚dが、数7の条件を満たすように調整されている。ただし、数7では、φ=φ+φとしている。このφは、発光層105で発光した光が共振部の両端(反射層102Aと誘電体層102Bとの界面、及び、誘電体層102Bと透明導電層102Cとの界面)で反射する際に生じる位相シフトと呼ぶことができる。
【0033】
【数7】

【0034】
整数mは、その絶対値|m|が大きくなると、素子の発光色の視野角依存性が大きくなったり、発光効率が低下したりするので、|m|=0,1において、数7を満たすように誘電体層102Bの膜厚を調整することが望ましい。
【0035】
なお、これまでは、反射電極102を陽極、光取り出し電極103を陰極とする構成で説明してきたが、反射電極102を陰極、光取り出し電極103を陽極とする構成であっても良い。この場合には、ホール輸送層106と電子輸送層107を発光層105に対して逆に位置する構成にすればよい。
【0036】
また、共振部である誘電体層102Bの屈折率nが、共振部と隣り合う2つの層の屈折率と異なる方が、共振器構造で多重干渉する効果が大きくなり、より反射電極102全体の反射率を大きくする効果を奏するので好適である。共振器構造で多重干渉する効果をさらに大きくするには、図1の構成で、透明導電層102Cとホール輸送層106との屈折率比よりも、誘電体層102Bと透明導電層102Cとの屈折率比が大きくなるような材料で、誘電体層102Bを形成することが好ましい。
【0037】
これまで、中間層として誘電体層102Bを例にとって述べてきたが、この中間層は、誘電体から成る層でなくても、光透過性を有する層であれば良い。また、中間層を構成する材料の屈折率は、反射層102Aと透明導電層102Cの屈折率と異なることが好ましい。さらに、中間層は、透明導電層102Cとホール輸送層106との屈折率比よりも、中間層と透明導電層102Cとの屈折率比が大きくなるような材料から成る層がよい。
【0038】
図1の構成において、誘電体層102Bを構成しない場合には、共振部を透明導電層102Cとし、その透明導電層102Cの膜厚を適宜設定することによって、本発明の効果が得られる。具体的には、この透明導電層102Cの膜厚dが、透明導電層102Cの屈折率n、発光層105で発光した光が共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトφ、整数mに対して、数8を満たすようにすればよい。この場合、共振部の両端は、透明導電層102Cと有機化合物層101との界面と透明導電層102Cと反射層102Aとの界面である。
【0039】
【数8】

【0040】
また、図1において、誘電体層102Bと透明導電層102Cを共に反射電極102内の共振部とする構成も可能である。この場合、誘電体層102Bの膜厚dが数7を満たし、さらに、透明導電層102Cの膜厚dが数8を満たすようにすれば、より本発明の効果が高くなる。この構成の場合、数8において、位相シフトφは、透明導電層102Cと有機化合物層101との界面と透明導電層102Cと誘電体層102Bとの界面で光が反射される際に生じるものであることに注意する。また、共振部は、中間層である誘電体層102Bと透明導電層102Cである。
【0041】
一方、図1において、誘電体層102Bは共振部とせず、透明導電層102Cのみを共振部としても本発明の効果を奏する。
【0042】
また、図2に示すように、反射電極102が、有機化合物層101側から、透明導電層102C、金属薄膜層102D、誘電体層102B、反射層102Aの順にある構成であってもよい。図1の構成では、「発光層105より反射電極102側にある反射面」とは、透明導電層102Cと有機化合物層101との界面であったが、図2の構成では、透明導電層102Cと金属薄膜層102Dとの界面である。この構成の場合、共振部は、誘電体層102Bであり、この誘電体層102Bの膜厚dが数7を満たすように、誘電体層102Bを形成すれば、本発明の効果を奏する。この際、数7において、位相シフトφは、誘電体層102Bと金属薄膜層102Dとの界面と誘電体層102Bと反射層102Aとの界面で光が反射される際に生じるものであることに注意する。そして、この金属薄膜層102Dとして、Al合金やAg合金を用いることことが好ましく、その厚さは10〜20nmが好ましい。この構成でも誘電体層102Bと金属薄膜層102Dの屈折率が異なる。
【0043】
さらに、図3のように、金属半透明電極103B(光取り出し電極)の発光層105側と反対側(光取り出し側)に、共振部(例えば、誘電体層104)を有する構成で、その共振部の膜厚を規定するようにしても、本発明の効果を奏する。この場合、共振部の屈折率をn、素子の外部に取り出される光のスペクトルの最大ピーク波長をλ、発光層105で発光した光が共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトをφとすると、整数mに対して、数7を満たす膜厚dで共振部を形成すればよい。このとき、位相シフトφは、共振部と金属半透明電極103Bとの界面、および、共振部と金属半透明電極103Bとは反対側の面で光が反射される際に生じるものであることに注意する。
【0044】
また、図1、図2、図3では、基板100と反対側から光を取り出すトップエミッション型の有機発光素子を例に説明してきたが、基板100側から光を取り出すボトムエミッション型の有機発光素子であっても本発明の効果が得られる。この場合には、反射電極102と光取り出し電極103の基板100に対する積層順を入れ替えればよい。つまり、基板100側から、光取り出し側の光取り出し電極103、有機化合物層101、反射電極102が順に積層された構成となる。
【0045】
また、有機化合物層101の各層に用いられる有機化合物としては、低分子材料、高分子材料若しくはその両方により構成され、特に限定されるものではない。さらに、必要に応じて無機化合物のみから成る層を含んでいても良い。
【0046】
また、必要に応じて、反射層102Aと誘電体層102Bとの間に、劣化防止やスパッタプロセスのダメージ防止などのために光透過性の保護層を積層しても良い。
【0047】
また、本発明の有機発光素子は、表示装置を構成する発光素子として利用することができる。具体的には、表示装置とは、テレビ受像機、パーソナルコンピュータのディスプレイ、撮像装置の背面表示部、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等の電子機器のディプレイで挙げられる。この表示装置は、複数の有機発光素子と、その複数の有機発光素子の各々の発光を制御する駆動回路とを備えており、その複数の有機発光素子のうち少なくとも一つとして本発明の有機発光素子を用いれば、発光特性の視野角依存が小さな表示装置が得られる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
図4に、反射層102AがAl合金、誘電体層102BがSiO(屈折率1.46)、透明導電層102CがIZO(膜厚60nm、屈折率1.95)で構成される反射電極102を有する緑色を発光する有機発光素子を示す。この素子において、誘電体層102Bの膜厚変化に対する輝度と色度ずれの計算結果例を示す。このとき、λ=520nm、φ/(2π)=−0.3951+0.5=0.1049としている。また、誘電体層102Bの膜厚を0nmから160nmまで変化させている。輝度による発光効率を比較するために、CIE色度が(0.21、0.70)で一定となるように、ホール輸送層106(屈折率1.80)の膜厚を調整している。誘電体層102B、ホール輸送層106以外の各層の膜厚は同一である。図4の実線は誘電体層102Bの膜厚dに対する輝度変化を示しており、誘電体層102Bの膜厚dが0の値を基準としている。図4の破線は誘電体層102Bの膜厚dに対する素子外に取り出される発光色の色度ずれΔxyを示している。この色度ずれΔxyは、光が取り出される角度をθ°として、θ=0(正面)のCIE色度座標を(x0、y0)、θ°≦60°のある角度のCIE色度座標を(xθ、yθ)として、数9により定義されている。色度ずれΔxyが小さいほど、発光色の色度の視野角変化が少ない。
【0049】
【数9】

【0050】
図4において、ドットで示された領域がm=0の場合に数7の条件を満たす領域であり、発光効率(輝度)が向上すると同時に、発光色の色度ずれが抑制され、素子の発光特性の視野角依存性が軽減されることがわかる。
【0051】
(実施例2)
図5に、反射層102AがAg合金、誘電体層102BがSiO、透明導電層102CがIZO(50nm)で構成される反射電極102を有する青色を発光する有機発光素子の場合の、誘電体層102Bの膜厚変化に対する輝度と色度ずれの計算結果例を示す。このとき、λ=460nm、φ/(2π)=−0.3012+0.5=0.1988としている。また、本実施形態では、誘電体層102Bの膜厚dを0nmから100nmまで変化させている。また、輝度による発光効率を比較するために、CIE色度が(0.135、0.09)で一定となるように、ホール輸送層106の膜厚を調整している。誘電体層102B、ホール輸送層106以外の各層の膜厚は同一である。図5の実線は誘電体層102Bの膜厚dに対する輝度変化を、破線は誘電体層102Bの膜厚dに対する素子外に取り出される発光色の色度ずれΔxyを示している。図5においても、ドットで示された領域がm=0の場合に数7の条件を満たす領域であり、発光効率(輝度)が向上すると同時に、発光色の色度変化が抑制されることがわかる。
【0052】
したがって、本発明によれば、有機発光素子の発光効率を向上すると同時に、素子外に取り出される光の発光特性の視野角依存性を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の有機発光素子の概略断面図である。
【図2】本発明の有機発光素子の他の例の概略断面図である。
【図3】本発明の有機発光素子の他の例の概略断面図である。
【図4】図1に示した有機発光素子における誘電体層の膜厚変化に対する緑色を発光する有機発光素子の輝度と色度ずれの計算結果例である。
【図5】図1に示した有機発光素子における誘電体層の膜厚変化に対する青色を発光する有機発光素子の輝度と色度ずれの計算結果例である。
【符号の説明】
【0054】
100 基板
101 有機層
102 反射電極
102A 反射層
102B,104 誘電体層
102C 透明導電層
102D 金属薄膜層
103 光取り出し電極
103B 金属半透明電極
105 発光層
106 ホール輸送層
107 電子輸送層
108 発光点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層からなる反射電極と、発光層を有する有機化合物層と、光取り出し電極とが順にあり、
前記発光層から前記光取り出し電極に向かう光と、前記発光層で発光し、前記発光層より前記反射電極側にある反射面によって反射される光とが干渉する有機発光素子であって、
前記反射電極内もしくは前記光取り出し電極の前記発光層側と反対側に、前記発光層で発光した光を共振させる共振部を有し、
前記共振部の膜厚dが、前記共振部の屈折率n、前記有機発光素子の外部に取り出される光のスペクトルの最大ピーク波長λ、前記発光層で発光した光が前記共振部の両端で反射する際に生じる位相シフトφ、整数mに対して、式
【数1】

を満たすことを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記反射電極が前記有機化合物層側から、透明導電層と、中間層と、反射層とを順に有し、前記共振部が、前記中間層又は/及び前記透明導電層であることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記反射電極が前記発光層側から、透明導電層と、金属薄膜層と、中間層と、反射層とを有し、前記共振部が、前記中間層であることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記反射電極が前記有機化合物層側から、透明導電層と、反射層とを順に有し、前記共振部が前記透明導電層であることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
複数の有機発光素子と、前記複数の有機発光素子の各々の発光を制御する駆動回路とを備えた表示装置であって、
前記複数の有機発光素子のうち少なくとも一つは、請求項1乃至4のいずれかに記載の有機発光素子であることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−129452(P2010−129452A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304607(P2008−304607)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】