説明

有機発光素子

【課題】低コストで高温耐久性が高く長寿命な有機発光素子を提供する。
【解決手段】ホール輸送層として、下記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層が形成され、ホール輸送層を覆って、高分子材料を発光材料として用いた発光層が形成されている有機発光素子である。


(X,Y,Zはそれぞれ独立して一般式(2)で表される。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL(エレクトロルミネセンス)素子などの自発光素子は、高輝度発光が可能であると共に、低消費電力化、装置の薄型化が可能であり、次世代表示装置、光源装置として注目されている。この自発光素子の一種である有機EL素子では、ホール注入電極と電子注入電極の間に設けられる発光層に有機材料を用いており、発光色の自由度が高い。一方で、発光層などが非常に薄膜であって被覆性が低かったりすることによる耐久性の低さや、採用される有機材料自体の耐久性の低さなどの課題があり、耐久性を高めるための研究開発が行われている。
【0003】
このような有機EL素子において、発光有機材料として低分子材料を用いた低分子型有機EL素子と、高分子材料を用いた高分子型有機EL素子とが提案されている。低分子型有機EL素子の場合、発光層だけでなく、ホール輸送層や電子輸送層用にもそれぞれ低分子有機材料が用いられ、各層は、真空蒸着法等によって順次基板上に積層することができる。このような低分子型有機EL素子は、既に実用化が始まっており、用いられる個別の低分子材料だけでなく素子全体として、その信頼性の向上が進みつつある。
【0004】
一方、高分子材料を発光材料として用いたEL素子では、高分子材料の基板上への積層方法として、塗布や印刷などの方法を採用することができる。また、単独の高分子有機材料が発光機能およびキャリア輸送機能の両方を備えることが多く、電極間に単層の高分子有機材料層を形成した簡易な構成の有機EL素子を得ることが容易となっている。また、上記のように印刷法によって高分子有機材料を形成することができるため、RGBの画素毎に高分子有機材料をパターニングすることが容易である。
【0005】
さらに低分子有機材料と高分子有機材料の両方を有機EL素子に採用する試みもある。例えば、特許文献1では、基板上に第1電極が形成され、第1電極上に低分子発光材料から形成される第1有機膜層、第1有機膜層の上に高分子電子輸送材料から形成される第2有機膜層が形成され、この第2有機膜層の上に第2電極が形成された有機EL素子が示されている。この有機EL素子では、第1電極の上に第1および第2有機膜層を順に積層するのではなく、別途採用したドナーフィルムの上にフィルム側から順に第2有機膜層と、第1有機膜層とが設けられ、このドナーフィルムからレーザ熱転写(LITI)法によって、基板の第1電極上に、第1有機膜層(低分子発光物質層)と第2有機層膜(高分子電子輸送物質)とを同時に転写している。
【0006】
特許文献2では、第1電極と第2電極の間に少なくとも発光層を含む機能層を備える有機EL素子であって、機能層として、第1電極側から、高分子有機材料を用いた発光層、この発光層の上に、低分子有機材料で形成された電子輸送層を備えることが提案されている。また、第1電極と発光層との間には、発光層と同様に高分子有機材料を用いたホール注入/輸送層を形成することが提案され、高分子有機材料を用いたホール注入/輸送層および発光層はインクジェット印刷法によって形成されている。
【0007】
特許文献3では、陽極と陰極の間に、陽極側からホール注入・輸送層、発光層が積層されて構成された有機EL素子であり、ホール注入・輸送層には高分子材料を用い、これを湿式法によって形成する。発光層には低分子発光材料を用い、かつ湿式法を用いて積層することが提案されている。
【0008】
また、特許文献4では、第1電極層と第2電極層の間に発光媒体積層体を備え、この発光媒体積層体には、重量平均分子量が1,000以下の低分子材料から成る低分子材料層として形成された層と、重量平均分子量が1,000以上の高分子材料から成る高分子材料層として形成された層とを含んでいる。さらに、少なくとも1層の低分子材料層と、少なくとも1層の高分子材料層とが、それらの表面を互いに接して積層されており、つまり、高分子材料層と低分子材料層とが交互に積層された構成により、低分子材料層の表面に結晶化及び凝集が発生することが抑制できると述べている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−63977号公報
【特許文献2】特開2005−285617号公報
【特許文献3】特開2006−190759号公報
【特許文献4】特開2007−242816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように低分子型有機EL素子は高温耐久性が高く長寿命な有機EL素子の形成が可能である。しかし、真空蒸着法を用いた成膜は、真空チャンバ内で蒸着する必要があり、RGBの画素毎に異なる発光層を形成する場合には、蒸着マスクを用いたパターニングが必要である。また、単独の低分子有機材料として、ホール輸送、発光、電子輸送の全ての機能を有する材料は開発されておらず、多層を積層して素子を形成する必要がある。このため、真空蒸着装置(真空蒸着チャンバ)が何台も連なった大型の装置が必要となり非常に製造コストが高くなる傾向がある。
【0011】
一方、高分子型有機EL素子では真空蒸着工程は陰極形成工程のみであり、それ以外は非真空プロセスを用いることができるので製造コストの低減が図れる。また、上述のようにパターニングが容易であり、その点でも製造コストの低減において有利である。しかし、高分子有機材料を用いた有機EL素子は、低分子型有機EL素子と比較して高温耐久性の低さ、短寿命、駆動に伴う電圧上昇等の点で課題が多い。
【0012】
特許文献1〜特許文献4のように、有機EL素子において、低分子材料と高分子材料の両方を用いることで、高分子/低分子の利点を得られる可能性はあるが、実際には、実用化を目指す上で、耐久性、安定性などの課題や、電圧上昇の抑制等、課題が多い。特に、耐久性、とりわけ、高温、高湿度環境下などにおける耐久性は、高分子/低分子の積層構造を単に採用しても要求を満たすことができない。
【0013】
本発明は、低コストで高温耐久性が高く長寿命な有機発光素子である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ホール注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備え、前記ホール注入電極と前記発光層との間には、ホール輸送層として、下記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層が形成され、前記ホール輸送層を覆って、高分子材料を発光材料として用いた前記発光層が形成されている有機発光素子である。
【化1】


(一般式(1)において、X,Y,Zはそれぞれ独立して一般式(2)で表され、一般式(2)において、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数5もしくは6のシクロアルキル基であり、nは0〜2の整数である。なお、一般式(2)において、*の部分で一般式(1)のN原子と結合する。)
【0015】
また、前記有機発光素子において、前記nが、0または1であることが好ましい。
【0016】
また、前記有機発光素子において、前記Rが、メチル基であることが好ましい。
【0017】
また、前記有機発光素子において、前記X,Yが、同じであることが好ましい。
【0018】
また、前記有機発光素子において、前記X,Y,Zが、同じであることが好ましい。
【0019】
また、前記有機発光素子において、前記一般式(1)で表される低分子材料が、N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサキス−(4’−メチル−ビフェニル−4−イル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンであることが好ましい。
【0020】
また、前記有機発光素子において、前記一般式(1)で表される低分子材料が、N,N,N’,N’−テトラキス−(4’−メチル−ビフェニル−4−イル)−N”,N”−ビスキス−(4’−メチル−フェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンであることが好ましい。
【0021】
また、前記有機発光素子において、前記高分子材料の重量平均分子量が10,000以上であることが好ましい。
【0022】
また、前記有機発光素子において、前記発光層として、前記高分子材料の塗布層または印刷層が形成され、前記ホール輸送層の前記一般式(1)で表される低分子材料は、そのガラス転移温度または融点が、前記発光層の塗布または印刷形成後に実行される乾燥温度以上であることが好ましい。
【0023】
また、前記有機発光素子において、前記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着における昇華温度は、真空度1Pa時において、300℃以上であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、ホール注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備え、前記ホール注入電極と前記発光層との間には、ホール輸送層として、低分子材料を含む少なくとも2層以上の積層構造を備え、そのうち少なくとも1層が下記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層であり、前記ホール輸送層を覆って、高分子材料を発光材料として用いた、塗布法または印刷法によって積層された前記発光層が形成されており、前記ホール輸送層の前記発光層に接する側の第1層の低分子材料は、前記第1層に覆われる第2層の低分子材料よりも、前記塗布法または前記印刷法において前記高分子材料の溶剤として用いられる溶剤物質に対する溶解性が低い有機発光素子である。
【化2】


(一般式(1)において、X,Y,Zはそれぞれ独立して一般式(2)で表され、一般式(2)において、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数5もしくは6のシクロアルキル基であり、nは0〜2の整数である。)
【0025】
また、前記有機発光素子において、前記ホール輸送層の前記第1層の層厚は、前記第2層の層厚よりも、薄いことが好ましい。
【0026】
また、前記有機発光素子において、前記第1層は、前記第2層の上に形成された前記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層であることが好ましい。
【0027】
また、前記有機発光素子において、前記高分子材料の溶剤は、トルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチルのいずれか1種類、または、2種類以上を含むことが好ましい。
【0028】
また、前記有機発光素子において、前記ホール輸送層は、蒸着マスクに応じた形状に前記低分子材料がパターニングされて形成されていることが好ましい。
【0029】
また、前記有機発光素子において、前記素子は、1フレーム期間中に1/3以下のデューティー比で駆動され、またはホール注入電極と前記電子注入電極との間に1フレーム期間の中の表示期間中に発光輝度に応じた所定DC電圧が供給されるDC駆動が行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、有機発光素子において、ホール輸送層として、前記一般式(1)で表される低分子ホール輸送材料の真空蒸着層を用い、このホール輸送層を覆って、高分子材料を発光材料とした発光層を形成することで、低コストで高温耐久性が高く長寿命な有機EL素子を得ることができる。例えば、車載用表示素子等、高温高湿度環境下における耐久性が要求される用途においても好適に採用することができる。また、低コストでの製造が可能であるため、安価であることが強く要求されるセグメント型表示素子等にも採用することも可能となる。
【0031】
本願発明者らの研究の結果、高分子材料を用いた有機発光素子においては、高分子ホール輸送機能材料として現在提案されているPEDOT:PSS(poly(3, 4-ethylenedioxythiophene)-poly-(styrenesulfonate))などの高分子ホール輸送材料の不安定さに起因して素子の劣化が生じていることが判明した。しかし、本発明では、ホール輸送層として、高温耐久性が高く、安定した特性を有する、真空蒸着法で形成された前記一般式(1)で表される低分子ホール輸送材料の低分子ホール輸送層を用いることで、上記のように有機発光素子の高温耐久性、寿命、駆動に伴う電圧上昇を改善することができる。また、電極間に多層積層構造からなる低分子型有機発光素子において全層を真空蒸着によって形成した場合と比較し、発光層製造コストの削減が実現される。これにより車載用表示素子として好適に用いることができる有機EL素子の形成を可能とした。
【0032】
本発明において、ホール輸送層の低分子材料として、前記一般式(1)で表される化合物のような材料を用いることにより、高分子材料からなる発光層の形成に用いられる溶剤に対して溶けにくく、また、多少の溶解性を示しても発光層中への低分子材料の拡散を抑制することが容易となる。
【0033】
本発明において、ホール輸送層の低分子材料として、そのガラス転移温度または融点が、発光層の高分子材料の塗布または印刷形成後において、溶媒を揮発させるための乾燥処理の温度以上の材料を採用することで、発光層乾燥処理における特性劣化を防止できる。
【0034】
また、溶剤に溶けにくい低分子ホール輸送層の下に、溶剤に溶けやすい低分子ホール輸送層を積層した構造にすることで有機EL素子の電流効率を向上させることができ、駆動電圧を低減させることが可能である。
【0035】
さらに、ホール輸送層の発光層に接する側の第1層の低分子材料として、第1層に覆われる第2層の低分子材料よりも、発光層の高分子材料形成時に採用される溶剤に対する溶解性が低い材料を用いることで、ホール輸送層の耐溶剤性の向上を低コストにて実現できる。
【0036】
また、本発明において、第1層のホール輸送層の膜厚を、第2層よりも薄くすることで、耐溶剤性が高いことから高価なことが多い第1層用の低分子材料の使用量を削減しつつ、ホール輸送層の上記溶剤性向上と、製造コストの低減とを両立することができる。
【0037】
本実施形態の有機発光素子は、1フレーム期間中に1/3以下のデューティー比で駆動され、またはホール注入電極と電子注入電極との間に1フレーム期間の中の表示期間中に発光輝度に応じた所定DC電圧が供給されるDC駆動が行われる。このような駆動方法を採用することで、高分子材料の発光層と、低分子材料のホール輸送層との界面での変質を抑制でき、輝度低下を防止して素子寿命を延ばすことが容易となる。
【0038】
1/3を超えるデューティー比で駆動される場合には、駆動電圧が高くなり、回路のコストが高くなり、低コストな素子を作製することが困難になる場合がある。さらに駆動電圧が高くなると、クロストークを抑制するために、より高い逆電圧を印加する必要があるので、素子の有機層の膜厚を厚くして素子の耐圧性を向上させることになる。そのため、有機材料の使用量が増えて、高コストになる場合がある。
【0039】
ここで、DC駆動とは、素子に常時、駆動電圧を印加する方法であり、1/3デューティー駆動とは、1サイクルの間に1/3の期間を連続で駆動電圧を印加し、残りの2/3の期間は、駆動電圧を印加しない方法である。1サイクルの時間は、通常、1/150秒〜1/60秒である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の実施形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0041】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子の例として採用した有機EL素子100の概略断面構造を示している。
【0042】
この有機EL素子100は、陽極として機能するホール注入電極12と陰極として機能する電子注入電極14との間に、少なくとも、高分子発光材料を用いた発光層26を備える。本実施形態では、この発光層26とホール注入電極12との間に、少なくとも、ホール輸送層20が形成され、ホール輸送層20にはホール注入・輸送性の下記一般式(1)で表される低分子材料を真空蒸着法によって形成した蒸着膜を採用している。
【0043】
【化3】


(一般式(1)において、X,Y,Zはそれぞれ独立して一般式(2)で表され、一般式(2)において、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数5もしくは6のシクロアルキル基であり、nは0〜2の整数である。)
【0044】
ホール注入電極12の上に、上記ホール輸送層20を真空蒸着によって積層した後、ホール輸送層20の上に、発光層26として高分子発光材料を塗布法または印刷法によって形成する。発光層26の上には、電子注入電極14が、例えば真空蒸着法によって積層されている。このような素子100は、電子注入電極14まで形成した後、最後に乾燥窒素雰囲気中にて図示しない封止缶を基板10の素子形成側に貼り合わせ、封止している。
【0045】
基板10は、例えばガラスなどの透明基板であるが、ガラスには限られず、バリア膜付きの樹脂基板や金属基板等様々なものを用いることができる。
【0046】
ホール注入電極12は、透明または半透明の電極を形成することのできる任意の導電性物質とすることができる。具体的には、酸化物として酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、酸化亜鉛ガリウム、酸化チタンニオブ等を使用し、スパッタリングなどによって積層することができる。このうち、ITOは、特に、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性に優れていることなどの利点を有する材料である。
【0047】
ITOなどの導電性層の表面に、または、基板10の上に、アルミニウム、金、銀等の金属材料を蒸着して半透明導電層を形成しても良いし、ポリアニリン等の有機半導体を用いて陽極としても良い。また、さらにその他の方法を用いてホール注入電極12としても良い。
【0048】
また、ホール注入電極12は、必要に応じて、成膜後にエッチングによってディスプレイなどにおいて要求される形状にパターニングしたり、UV処理やプラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0049】
電子注入電極14は、仕事関数の低い材料を用いること、特に、発光層26との界面が低仕事関数であることが望まれ、例えば、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属とアルミニウム等の金属電極との積層、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のハロゲン化物とアルミニウム等の金属電極との積層などを用いることができる。具体的には、Al/Ca(発光層側)、Al/Ba(発光層側)、Al/Li(発光層側)、Al/LiF(発光層側)、Al/CsF(発光層側)、Al/CaF(発光層側)、Al/Ca/LiF(発光層側)とする積層構造などが採用可能であり、これらの積層構造は、例えば真空蒸着法などによって形成することができる。
【0050】
ホール輸送層20の材料については後に詳しく説明するが、このホール輸送層20には、低分子材料を真空蒸着法を用いて成膜することで、膜の純度・密度・平坦性に優れた高品質な膜を得ることができる。
【0051】
ホール輸送層20の形成方法としては、真空蒸着法以外にも、インクジェット法や一般的な押圧による転写法及びレーザ転写(LITI)法などによる印刷法や、スピンコート等による塗布法、気相成長法などもある。ただし、有機EL素子の高温度高湿度耐久性の向上の観点から、ホール輸送層20の膜質が重要であり、上記のように、膜の純度・密度・平坦性などの観点より、真空蒸着法を用いることが最も望ましい。
【0052】
また、真空蒸着法によって低分子材料を蒸着形成した後、後述するように高分子材料を用いた発光層26を形成する前に、熱処理をしてもよい。この熱処理により、ホール輸送層20、特に発光層26との界面となる表面を平滑かつ緻密な状態とすることができ、発光層形成に用いられる溶剤への耐性(耐溶剤性)を向上させることができる。
【0053】
熱処理温度は、ホール輸送層20の上記一般式(1)で表される低分子材料のガラス転移温度以上か、ガラス転移温度がない材料の場合には、融点以上の温度とすることが好ましい。なお、熱処理は、真空蒸着の成膜室内でも良いし、別途加熱部に搬送されて実行されてもよいが、いずれの場合も、低分子材料の酸素、水分などによる劣化を防ぐため、非酸化雰囲気で加熱することが望ましく、例えば窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスの雰囲気中で実行する。
【0054】
なお、真空蒸着において、ホール輸送層20を例えば画素毎の所望形状にパターニングする必要がある場合には、蒸着源と被蒸着対象である基板との間に、目的とするパターンに開口部が形成された蒸着マスクを配し、蒸着と同時にホール輸送層20をパターニングする。
【0055】
ホール輸送層20の上に形成する高分子材料を用いた発光層26の形成方法としては、いわゆるウエット処理と呼ばれる方法が採用できる。このウエット処理は、溶剤に高分子材料を分散させてこの溶剤を被形成面に付着させる方法であり、スピンコート法、ディップコート法、スプレー法などの塗布法や、上述のようなインクジェット法、転写、LITI法などの印刷法などがあげられる。
【0056】
以上に説明した有機EL素子100の各層を形成する際の各工程間の搬送は、特に限定されるものではないが、乾燥雰囲気中で搬送することが望ましい。
【0057】
素子の封止方法は、封止缶による封止以外にも、ガラスもしくはバリア付きフィルムを基板10の素子形成側に貼り合わせる封止方法や、シリコン窒化膜などの保護薄膜を、電子注入電極14の形成後、基板全体を直接覆うように形成して外界から素子を封止する方法などが適用可能である。このような封止工程及び発光層26の成膜工程は、限定されるものではないが、例えばグローブボックス中で行うことができる。
【0058】
次にホール輸送層20及び発光層26について具体的に説明する。
【0059】
(低分子ホール輸送材料)
低分子ホール輸送層材料は、上記一般式(1)で示されるベンゼントリアミン誘導体材料である。上記一般式(1)で示されるベンゼントリアミン誘導体材料は、薄膜にした場合に分子が配列しやすく、耐溶剤性に優れる。低分子材料はホール輸送層20として用いられるため、ホール輸送性の高い材料であることが望ましい。
【0060】
一般式(2)において、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数5または6のシクロアルキル基である。このうち、ホール移動度などの点から、ホール輸送性に優れたメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0061】
一般式(2)において、nは0〜2の整数であり、製造のし易さなどの点から、0または1であることが好ましい。
【0062】
一般式(2)において、耐溶剤性を向上させるなどの点から、X,Yが、同じもの、もしくはX,Y,Zが、同じでものであることが好ましい。
【0063】
上記一般式(1)で示される化合物の具体例としては、例えば、以下のものが挙げられる。これらのうち、耐溶剤性と蒸着性を両立させるなどの点から、N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサキス−(4’−メチル−ビフェニル−4−イル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン[N,N,N’,N’,N”,N”−Hexakis−(4’−methyl−biphenyl−4−yl)benzene−1,3,5−triamine](化合物(A))、N,N,N’,N’−テトラキス−(4’−メチル−ビフェニル−4−イル)−N”,N”−ビスキス−(4’−メチル−フェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン[N,N,N’,N’−Tetrakis−(4’−methyl−biphenyl−4−yl)−N”,N”−biskis−(4’−methyl−phenyl)benzene−1,3,5−triamine](化合物(B))であることが好ましい。
【0064】
【化4】

【0065】
上記一般式(1)で示される低分子ホール輸送材料の分子量は約660以上、約2,000以下である。分子量が660以上、好ましくは700以上であることで、高分子材料を塗布または印刷するための高分子発光材料分散液の溶媒に少量溶解した場合でも、低分子材料の発光層中への拡散を抑制することができる。分子量が2,000以下であることで、真空蒸着法で膜を形成する場合に、この材料を加熱蒸着させることが容易となる。低分子ホール輸送材料の分子量が700未満であると、高分子発光材料分散液の溶媒の影響を受けやすく、所望の有機層構造が得られず、素子の発光効率および輝度低下寿命が悪化する場合がある。また、分子量が2,000より大きいと、蒸着膜形成時の蒸着温度が高くなり、材料の分解が起こり、素子の発光効率および輝度低下寿命が悪化する場合がある。
【0066】
また、発光層26の高分子材料の積層後、溶媒乾燥工程が施されるが、この乾燥工程では120℃程度に加熱される。この乾燥工程における温度が、ホール輸送層20の低分子材料のガラス転移温度またはガラス転移温度がない場合の融点より高いと、乾燥工程において、低分子材料の凝集による界面荒さの増大や、低分子材料と高分子材料との混合などが発生し、素子特性が悪化する場合がある。本実施形態においては、ホール輸送層20の低分子材料として、そのガラス転移温度または融点が、高分子材料塗布後溶媒乾燥温度以上、例えば120℃以上の材料を採用することが好ましい。一方、溶媒乾燥工程の温度を120℃よりも低くした場合は、高分子材料層中に溶媒が残存し、車載等の高温使用環境において、溶媒が蒸発し、素子の特性を悪化させる場合がある。さらに、溶媒乾燥工程の温度を120℃よりも低くすると、溶媒を蒸発させるのに数時間以上を必要とし、量産時などにおいて、時間がかかりすぎる場合がある。
【0067】
また、車載等の場合、環境温度が100℃以上の高温になる場合があり、低分子材料はガラス転移温度または融点の−20℃付近から分子運動が活発になるため、低分子材料層が形態を維持するためには、低分子材料のガラス転移温度または融点は、120℃以上であることが好ましい。
【0068】
以上のようなベンゼントリアミン誘導体材料は、真空蒸着法により低分子ホール輸送層20を形成することができる。なお、例示したベンゼントリアミン誘導体材料のガラス転移温度Tgまたは融点は、上記化合物(A)の融点が402℃、上記化合物(B)のTgが180℃であり、上述のように高分子発光層26の積層後の加熱乾燥工程における加熱温度が、例えば120℃であれば、上記のいずれの材料も加熱温度以上のガラス転移温度または融点を備えており、乾燥工程においてホール輸送層20の変質を防止できる。
【0069】
低分子ホール輸送層材料として、上記ベンゼントリアミン誘導体材料のうち、対称性の高い材料は、比較的球体に近い分子形状となり、薄膜にした場合に分子が配列しやすく、耐溶剤性が向上するので好ましい。その中でも特に化合物(A)は分子が配列しやすく、耐溶剤性に優れた薄膜が形成されるのでより好ましい。
【0070】
ここで、本実施形態において、低分子材料の真空蒸着において、その昇華温度は、真空度1Pa時において、300℃以上であることが好ましい。昇華温度が300℃未満であると、10−5Pa以下の高真空下で蒸着膜を形成する場合に、蒸着温度が200℃以下になり、蒸着速度を制御することが困難となるため、均一な膜密度の蒸着膜を形成することができない場合がある。そのため、その上部に高分子有機発光材料層を形成する際に、その溶媒により低分子材料が溶解しやすくなる。低分子材料の分子量が2,000を超えると、蒸着の効率性が低下すると共に、昇華温度はさらに高温となるため、加熱により昇華するだけでなく、分子の分解が発生する可能性がある。分解が起きる場合、ホール輸送能力などに悪影響を及ぼし、有機EL素子の駆動電圧上昇等につながる。したがって、分子量は、2,000以下の材料を採用することが好ましい。
【0071】
(ホール輸送層の多層構造)
ホール輸送層20は、2層以上の多層とし、発光層26に接する側を第1層、この第1層に覆われる下層を第2層とし、少なくともこの第1層と第2層とで異なる低分子ホール輸送材料を採用することができ、そのうち少なくとも1層が前記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層である。
【0072】
例えば、第1層の低分子ホール輸送材料として、少なくとも、高分子材料の溶剤として用いられる溶剤物質に対する溶解性が低い(難溶性)材料を用い、第2層には溶剤物質に対して難溶性ではない材料を採用することもできる。
【0073】
ホール輸送層20として単層構造を採用した場合には、このホール輸送層20の材料として、発光層26の高分子材料の溶剤への耐溶解性を備えることが望ましい。一方、多層構造の場合、少なくとも、発光層26に接する第1層にこの耐溶解性があれば、第1層に覆われる第2層の低分子材料の耐溶解性が低くとも第2層の低分子材料の溶出を防止できる。このため、第2層の材料の選択の自由度が高い。つまり、発光層26に接する側の第1層に溶剤物質に対する難溶性材料を利用すれば、第2層の材料として、特に難溶性でない材料を用いることも可能である。この場合、多層構造のホール輸送層20は、その第2層の高分子発光材料溶剤に対する第2層の溶解性よりも第1層の溶解性が低いという関係となる。
【0074】
一例として、第1層、第2層に、前記一般式(1)で表されるベンゼントリアミン誘導体材料を採用することができる。また、第1層に、前記一般式(1)で表されるベンゼントリアミン誘導体材料を採用し、第2層には、前記一般式(1)で表されるベンゼントリアミン誘導体材料以外の材料、例えば、下記化合物(C)に示すα−NPBのような、低分子ホール輸送材料としてよく知られているが、耐溶剤性の低い材料を採用してもよい。前記一般式(1)で表されるベンゼントリアミン誘導体材料以外の低分子ホール輸送材料は、ホール輸送性を有していればよく、その分子量は700以上、2000以下が好適である。
【0075】
【化5】

【0076】
上記化合物(C)のα−NPBは、分子量588、ガラス転移温度98℃であるが、この材料を第2層に用いても安定性の高い有機EL素子が得られる。もちろん、第2層の低分子ホール輸送材料としては、このα−NPBには限定されない。例えば、他のホール輸送性に優れ、真空蒸着によって、純度・密度・平坦性に優れた安定した膜を形成することができる材料を採用して、耐久性に優れた有機EL素子を得ることができる。
【0077】
また、ホール輸送層20の多層構造のうち、第1層は、他の層(例えば第2層)よりも薄く形成することもできる。この第1層の厚さは、少なくとも、高分子発光層26の溶剤に対し、耐溶解性のない場合の第2層の溶出を防止できる程度の厚さが有れば良く、5nm以上〜50nm未満の範囲、例えば10nmの厚さとすることができる。上述のように、高分子発光層26の溶剤に対して難溶性を示す第1層の低分子ホール輸送材料(例えば上記化合物(A),(B)のようなベンゼントリアミン誘導体材料)は、分子が嵩高く、高価であることも多い。しかし、溶出防止の効果を得られる程度で、できるだけ薄く形成することにより、材料使用量を最小限に抑えることが可能となり、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0078】
なお、多層構造のホール輸送層20の各層は、単層の場合と同様に、いずれも真空蒸着法によって形成することが膜の純度・密度・平坦性の観点から好ましい。この場合、第2層と第1層の境界は必ずしも明確でなくとも良く、第2層成分のみの積層領域から、共蒸着により徐々に第1層成分との混合領域、第1層成分のみの積層領域と濃度が段階的に変化する層構造であっても良い。
【0079】
(ホール注入層)
図1の有機EL素子100において、上述のホール輸送層20と、ホール注入電極12との間に、さらにホール注入層を設けても良い。ホール注入層の材料としては、ホール輸送層20よりもホール注入電極12からのホール注入障壁の小さい材料を用いることで発光層26へのホール注入効率を高め、駆動電圧の低減などを図ることを可能とする。
【0080】
ホール注入層の材料としては、銅フタロシアニン、Tetracyanoethylene、2,3,5,6−Tetrafluoro−7,7,8,8−tetracyanoquinodimethane、2−[4−((Bis(2−hydroxyethyl)aminophenyl)−cyanomethylene)−2,5−cyclohexadien−1−yldiene]malononitrile、2,3−Dichloro−5,6−dicyano−1,4−benzoquinone、2,6−Dimethylbenzoquinone、ポリアニリン等があげられる。
【0081】
なお、これらのホール注入層についても、成膜品質の高い真空蒸着法によって形成することができる。
【0082】
(高分子発光材料)
高分子発光材料は塗布形成後の表面平坦性や低素子駆動電圧化を考えて、重量平均分子量が10,000以上であることが望ましい。高分子発光材料としては、例えば、ポリフルオレン(PF)系高分子、ポリフェニレンビニレン(PPV)系高分子、ポリビニルカルバゾール(PVK)系高分子などを用いることができ、蛍光性色素や燐光性色素を前記高分子やポリスチレン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子等に分散させたもの等も用いることができる。
【0083】
さらに、他の高分子としては、ポリフェニレンエチニレン(PPE)系高分子、ポリフェニレン(PP)系高分子、ポリパラフェニレン(PPP)系高分子、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系高分子などを採用することも可能である。なお、これらの高分子は、単独で用いても良いが、2種以上を混合して用いても良いし、低分子材料などと混合して用いても良い。
【0084】
これら高分子有機発光材料の溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水などの、単独または混合溶媒(溶剤)を用いることができる。これら溶剤に溶解させて発光層溶液を調製し、得られた発光層溶液を、上述のように、塗布法や印刷法などのウエット処理によってホール輸送層20の上に付着させる。その後、溶媒を乾燥除去することで高分子材料の発光層26をホール輸送層20を覆って形成することができる。
【0085】
上記溶媒のうちでも特に、トルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチル等の芳香族系溶媒は、高分子有機発光材料の溶解性が良く扱いも容易であることから、より好ましい溶媒である。また、塗布法としてはスピンコート法、ディップコート法、スプレー法など、印刷法としては、インクジェット法、転写法等の手法を用いることができる。
【0086】
ポリフルオレン系高分子の一例としては、発光材料の一種であるPoly[9,9−di−(2’−ethylhexylfluorenyl−2,7’−diyl)]高分子発光材料が挙げられる。この発光材料は、例えばキシレン溶媒に溶解させることができる。
【0087】
ポリフェニレンビニレン系高分子の一例としては、発光材料の一種であるPoly(2−methoxy−5−(2’−ethylhexyloxy)−1,4−phenylenevinylene)高分子発光材料が挙げられる。この発光材料も、例えばキシレン溶媒に溶解させることができる。
【0088】
ポリビニルカルバゾール系高分子材料は、例えば、2−(4−Biphenylyl)−5−phenyl−1,3,4−oxadiazole低分子材料と混合して溶媒に溶かして用いることができる。この場合の溶媒としては、例えば、ジクロロエタンを用いることができる。
【0089】
なお、いずれの高分子及びこれを溶かした溶媒を用いて、発光材料層をホール輸送層20の上に形成した後には、溶媒を除去するための乾燥処理を実行する。乾燥処理は120℃程度で、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスなど非酸化雰囲気中にて実行される。
【0090】
図2は、本実施形態に係る有機EL素子を利用したディスプレイの一例を示す。本実施形態に係る有機EL素子は、低コストにて製造可能であって、かつ、高温高湿度環境への耐久性が非常に高い。このため、一例として、車載用のディスプレイなどとしても非常に有用であり、図2は、この車載用のセグメント型ディスプレイの例を表している。
【0091】
ディスプレイは、大別すると各画素にスイッチ素子の付いたアクティブマトリクス型と、スイッチ素子のないパッシブマトリクス型がある。パッシブマトリクス型は、陽極と陰極とがそれぞれ間に発光層等を挟んで互いに直交するようにストライプ状に形成された方式や、陽極と陰極の一方が、最初から表示する形状を備え、他方が共通電極となり、画素が表示する形状を備えているセグメント方式がある(セグメント型ディスプレイは、パッシブマトリクス型ディスプレイと区別して分類される場合もある)。
【0092】
このようなセグメント型ディスプレイや、画素数の少ないストライプ電極(例えば1/3デューティー比)によるパッシブマトリクス型ディスプレイは、各画素に構成されるEL素子が、1フィールド期間中のほぼ全期間、または1/3期間程度の期間、選択され続けて表示期間となる。
【0093】
このため、各表示期間中、各画素のEL素子には、表示内容に応じた一定の電圧が供給される。なお、アクティブマトリクス型ディスプレイの場合も、画素内の回路構成などによりEL素子に表示期間中一定の電圧が供給される。本実施形態に係るEL素子は、このような表示期間中一定の電圧が印加されるような駆動方法(DC駆動)において、長時間、高い信頼性で表示を行うことができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例について、図1に示す素子構成を参照して説明する。
【0095】
<化合物(A)の合成>
500mL容量のセパラブルフラスコにキシレン250mLを入れ、これに酢酸パラジウム 0.026g、1,3,5−トリブロモベンゼン 2.4g、ビス−4−メチル−ビフェニルアミン 8.9g、ナトリウム−t−ブトキシド 4.5gおよびトリ−t−ブチルホスフィン 0.080gを加え、撹拌しながら、105℃に加熱し、7時間反応させた。反応混合物にエタノール200mLを加えて、反応を終了させた。生成した固体を濾取し、これをカラムクロマトグラフィ(溶媒トルエン)にて精製した。得られた固体をさらにトルエン2.1Lから再結晶して、白色固体の化合物(A)(分子量:1119、ガラス転移温度:観測されず、融点:402℃)4.7gを得た(収率59%)。
【0096】
<化合物(B)の合成>
1L容量のセパラブルフラスコにキシレン600mLを入れ、これに酢酸パラジウム 0.031g、(3,5−ジクロロフェニル)−ジ−p−トリルアミン 4.7g、ビス−4−メチル−ビフェニルアミン 11.9g、ナトリウム−t−ブトキシド 11.9gおよびトリ−t−ブチルホスフィン 0.056gを加え、撹拌しながら、105℃に加熱し、12時間反応させた。反応混合物にエタノール400mLを加えて、反応を終了させた。生成した固体を濾取し、これをカラムクロマトグラフィ(溶媒トルエン)にて精製した。得られた固体をさらにトルエン400mLから再結晶して、白色固体の化合物(B)(分子量:967、ガラス転移温度:180℃)7.5gを得た(収率56%)。
【0097】
[実施例1]
実施例1として、ガラス基板10上にホール注入電極12としてITO電極を150nm形成した。次に、ホール輸送層20として、化合物(A)を、真空蒸着法で60nmの厚さ蒸着形成した。
【0098】
次に、アメリカンダイソース社製ADS233YE高分子発光材料をキシレン溶媒に溶解させた発光層溶液を用い、この液をスピンコート法でホール輸送層20の上に高分子発光層として100nm形成した。溶剤の乾燥工程を経て、この発光層26の上に、電子注入電極14として、Al/Ca電極を真空蒸着法で形成した。
【0099】
最後にグローブボックス中で金属缶と有機EL素子100が形成されたガラス基板とを光硬化樹脂で貼り合わせ、有機EL素子を封止した試料を作製した。
【0100】
[実施例2]
化合物(A)の代わりに、化合物(B)を用いた以外は実施例1と同様の条件で試料を作製した。
【0101】
[比較例1]
化合物(A)の代わりに、ホール輸送層20として、PEDOT:PSS高分子材料(重量平均分子量10,000以上)のスピンコート層(厚さ100nm)を用い、それ以外は、実施例1と同様の条件で試料を作製した。
【0102】
[比較例2]
化合物(A)の代わりに、ホール輸送層20の材料として、下記化合物(D)(N,N’−Diphenyl−N,N’−di(m−tolyl)benzidine、分子量:516、ガラス転移温度:60℃)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で試料を作製した。
【0103】
【化6】

【0104】
図3は、実施例1及び比較例1の有機EL素子を、常温(25℃)にて電流密度50mA/cmで定電流でDC駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す。ここで、定電流駆動とは、常時その一定電流を素子に印加することを示す。比較例1では10時間で、駆動電圧比が20%以上増加したのに対して、実施例1では100時間駆動しても20%を超えることはなく安定した駆動特性が得られた。
【0105】
図4は、実施例1及び比較例1の素子を常温にて電流密度50mA/cmで定電流でDC駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す。比較例1では10時間で輝度が半減したのに対して、実施例1では10時間駆動でも10%程度しか輝度は低下せず、安定した発光特性が得られた。
【0106】
図5は、実施例1及び比較例1の有機EL素子を、85℃にて電流密度50mA/cmで定電流でDC駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す。比較例1では3時間で、駆動電圧比が40%以上増加したのに対して、実施例1では14時間駆動しても40%を超えることはなく安定した駆動特性が得られた。
【0107】
図6は、実施例1及び比較例1の素子を85℃にて電流密度50mA/cmで定電流でDC駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す。比較例1では2時間で輝度が半減したのに対して、実施例1では2時間駆動でも20%程度しか輝度は低下せず、安定した発光特性が得られた。
【0108】
したがって、実施例1の構造の有機EL素子は、高温耐久性が強く要求される用途、例えば車載用途などの素子としても好適に用いることが可能である。
【0109】
図7に、実施例2及び比較例1の素子を、常温にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す。
【0110】
実施例2は比較例1よりも駆動に伴う電圧上昇率が抑制されており、安定した駆動特性が得られていることがわかる。また、図8に示すように、発光特性及び高温耐久性も同様の傾向を示した。この結果から、材料が異なっても実施例1,2のような条件を満たしていれば効果が得られることが示された。
【0111】
図9は、実施例1及び比較例2の有機EL素子を、85℃にて電流密度50mA/cmで定電流でDC駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す。比較例2では1時間で、駆動電圧比が40%以上増加したのに対して、実施例1では14時間駆動しても40%を超えることはなく安定した駆動特性が得られた。
【0112】
図10は、実施例1及び比較例2の素子を85℃にて電流密度50mA/cmで定電流でDC駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す。比較例1では1時間で輝度が10%以下になったのに対して、実施例1では2時間駆動でも20%程度しか輝度は低下せず、安定した発光特性が得られた。
【0113】
この結果から、上記一般式(1)で表される化合物とは構造が異なり、分子量が700よりも小さい材料を用いた場合は、耐久特性が悪くなった。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の概略断面構造を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る有機EL素子を用いたディスプレイの一例を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例1に係る有機EL素子を、常温にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す図である。
【図4】実施例1及び比較例1に係る有機EL素子を、常温にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す図である。
【図5】実施例1及び比較例1に係る有機EL素子を、85℃にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す図である。
【図6】実施例1及び比較例1に係る有機EL素子を、85℃にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す図である。
【図7】実施例2及び比較例1に係る有機EL素子を、常温にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す図である。
【図8】実施例2及び比較例1に係る有機EL素子を、常温にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す図である。
【図9】実施例1及び比較例2に係る有機EL素子を、85℃にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期駆動電圧に対する駆動電圧比の時間依存性を示す図である。
【図10】実施例1及び比較例2に係る有機EL素子を、85℃にて電流密度50mA/cmで定電流駆動した場合の初期輝度に対する発光輝度比の時間依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0115】
10 基板、12 ホール注入電極(陽極)、14 電子注入電極(陰極)、20 ホール輸送層、26 発光層、100 有機EL素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備え、
前記ホール注入電極と前記発光層との間には、ホール輸送層として、下記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層が形成され、
前記ホール輸送層を覆って、高分子材料を発光材料として用いた前記発光層が形成されていることを特徴とする有機発光素子。
【化1】


(一般式(1)において、X,Y,Zはそれぞれ独立して一般式(2)で表され、一般式(2)において、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数5もしくは6のシクロアルキル基であり、nは0〜2の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の有機発光素子であって、
前記nが、0または1であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の有機発光素子であって、
前記Rが、メチル基であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記X,Yが、同じであることを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記X,Y,Zが、同じであることを特徴とする有機発光素子。
【請求項6】
請求項1に記載の有機発光素子であって、
前記一般式(1)で表される低分子材料が、N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサキス−(4’−メチル−ビフェニル−4−イル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンであることを特徴とする有機発光素子。
【請求項7】
請求項1に記載の有機発光素子であって、
前記一般式(1)で表される低分子材料が、N,N,N’,N’−テトラキス−(4’−メチル−ビフェニル−4−イル)−N”,N”−ビスキス−(4’−メチル−フェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンであることを特徴とする有機発光素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記高分子材料の重量平均分子量が10,000以上であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記発光層として、前記高分子材料の塗布層または印刷層が形成され、
前記ホール輸送層の前記一般式(1)で表される低分子材料は、そのガラス転移温度または融点が、前記発光層の塗布または印刷形成後に実行される乾燥温度以上であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着における昇華温度は、真空度1Pa時において、300℃以上であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項11】
ホール注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を備え、
前記ホール注入電極と前記発光層との間には、ホール輸送層として、低分子材料を含む少なくとも2層以上の積層構造を備え、そのうち少なくとも1層が下記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層であり、
前記ホール輸送層を覆って、高分子材料を発光材料として用いた、塗布法または印刷法によって積層された前記発光層が形成されており、
前記ホール輸送層の前記発光層に接する側の第1層の低分子材料は、前記第1層に覆われる第2層の低分子材料よりも、前記塗布法または前記印刷法において前記高分子材料の溶剤として用いられる溶剤物質に対する溶解性が低いことを特徴とする有機発光素子。
【化2】


(一般式(1)において、X,Y,Zはそれぞれ独立して一般式(2)で表され、一般式(2)において、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数5もしくは6のシクロアルキル基であり、nは0〜2の整数である。)
【請求項12】
請求項11に記載の有機発光素子であって、
前記ホール輸送層の前記第1層の層厚は、前記第2層の層厚よりも、薄いことを特徴とする有機発光素子。
【請求項13】
請求項11または12に記載の有機発光素子であって、
前記第1層は、前記第2層の上に形成された前記一般式(1)で表される低分子材料の真空蒸着層であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記高分子材料の溶剤は、トルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチルのいずれか1種類、または、2種類以上を含むことを特徴とする有機発光素子。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記ホール輸送層は、蒸着マスクに応じた形状に前記低分子材料がパターニングされて形成されていることを特徴とする有機発光素子。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の有機発光素子であって、
前記素子は、1フレーム期間中に1/3以下のデューティー比で駆動され、またはホール注入電極と前記電子注入電極との間に1フレーム期間の中の表示期間中に発光輝度に応じた所定DC電圧が供給されるDC駆動が行われることを特徴とする有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−56364(P2010−56364A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220853(P2008−220853)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】