説明

有機素子封止パネルの製造方法

【課題】脆性基板上に形成された有機素子が、外部回路との接続を行う電極接続部を除いて封止膜で封止された構成の有機素子封止パネルの製造方法において、脆性基板上に複数の有機素子をマトリックス状に形成し、湿式法により封止膜を形成しても、スクライブ工程でのスクライブ不良の発生を低減する。
【解決手段】有機ELパネルの製造方法は、大型ガラス基板上に複数の有機EL素子をマトリックス状に形成する有機EL素子形成工程と、有機EL素子と外部回路との接続を行う電極接続部をマスキングテープで覆った状態で、湿式法により封止膜を形成する封止膜形成工程と、マスキングテープを剥がした後、糊残りを除去する糊残り除去工程と、大型ガラス基板にスクライブラインを形成するスクライブ工程と、スクライブラインに基づいて大型ガラス基板を分断するブレイク工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機素子封止パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子等、大気中の水分や酸素によって劣化を生じる素子では、素子部を保護するため、封止缶や封止膜で素子部を覆う必要がある。
封止膜で素子部を覆う膜封止を行う場合、CVDやスパッタあるいはディップコートやスプレーコート等の方法で無機膜や有機膜を単独であるいは複合化(積層化)させて用いる。
【0003】
一方、有機EL素子等の電気で駆動される素子の場合、これらの膜封止を行うと、外部から素子を駆動させるための電極接続部まで封止され、素子が電気的に絶縁されてしまうので、シャドーマスクやマスキングテープ等で電極接続部を覆い、封止膜の成膜時に、電極接続部が封止されないようにする必要がある。
【0004】
また、有機EL素子等を製造する場合、1枚の大型脆性基板上に複数の有機EL素子等がマトリックス状に形成され、封止缶や封止膜で素子部を覆った後に、大型脆性基板にスクライブ装置などを用い、複数のスクライブラインを形成する。その後、スクライブラインに添って力を加えることによって大型脆性基板が複数に分断(ブレイク)され、複数の有機EL素子等が製造される。
【0005】
従来、電極及び有機層を保護膜で被覆し、当該保護膜から電極接続部を表出させるようにした有機EL素子の製造方法において、メタルマスクによる保護膜成膜やウェットプロセスを用いることなく、電極接続部を適切に表出させることができるようにする有機EL素子の製造方法が提案されている(特許文献1参照。)。特許文献1の方法では、基板上に、陽極、発光層を含む有機発光材料よりなる有機層、陰極を積層してなる積層体を形成した後、この積層体を被覆して保護する保護膜を成膜する前に、陽極及び陰極のうち外部との接続を行う電極接続部にマスキングテープを貼り付ける。そして、保護膜を成膜した後、マスキングテープとともに保護膜を除去して、当該電極接続部を表出させるようにしている。
【特許文献1】特開2002−151254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、メタルマスクを用いずに電極接続部にマスキングテープを貼り付け、保護膜(封止膜)を成膜した後、マスキングテープとともに保護膜を除去して、当該電極接続部を表出(露出)させるようにしている。しかし、真空蒸着法、CVD法等の真空状態あるいは減圧下で薄膜を形成する乾式法で封止膜を形成する際に、この方法のように電極接続部にマスキングテープを貼って、封止膜の形成後にマスキングテープを剥がして電極接続部を露出させる方法では、マスキングテープを剥がす際に、封止膜の端が欠けたり封止膜に亀裂が生じたりし易い。
【0007】
有機EL素子の電極接続部をマスキングテープで覆った状態で封止膜を湿式法で形成し、封止膜を形成した後に、マスキングテープを剥がして電極接続部を露出させた場合、封止膜とマスキングテープが貼付された電極接続部との境界部分に、膜材料とマスキングテープの糊とが反応した化合物である糊残りが残る。一枚の大型脆性基板に複数の有機EL素子等がマトリックス状に形成される場合、糊残りは、大型脆性基板を横断又は縦断するライン状に形成される。一方、複数の有機EL素子等は、大型脆性基板上にマトリックス状に形成されているため、個別の有機EL素子等に分離するためには、大型脆性基板を横断及び縦断するスクライブラインを形成する必要がある。従って、大型脆性基板の糊残りが形成されている側の面からスクライブラインを入れると、糊残りと交わる部分でスクライブラインが途切れるスクライブ不良が発生する。このスクライブ不良が発生すると、スクライブラインに力を加えて大型脆性基板を分断するブレイク工程で分断された脆性基板の一部が不良となり、歩留りが低下する。
【0008】
また、大型脆性基板の糊残りが形成されている側の面とは反対側の面からスクライブラインを形成することも考えられる。しかし、大型脆性基板の糊残りが形成される側の面とは反対側の面からスクライブラインを形成した場合、糊残りがあるために大型脆性基板にうねりが生じる。大型脆性基板にうねりが生じるとスクライブラインの深さが変わりやすくなり、場合によっては、スクライブラインが糊残り直上で途切れる。また、柔らかい糊残りは、スクライブライン形成時に粘弾性変形してワークが逃げるため、大型脆性基板の糊残り直上では、スクライブ不良が発生してしまう。そして、同様にブレイク工程で分断された基板の一部が不良となり、歩留りが低下する。
【0009】
また、有機EL素子に限らず、有機トランジスタや有機ダイオード等の有機素子においても、酸素や水分が悪影響を与えるため封止膜で封止するのが好ましく、同様の問題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、脆性基板上に形成された有機素子が、外部回路との接続を行う電極接続部を除いて封止膜で封止された構成の有機素子封止パネルの製造方法において、脆性基板上に複数の有機素子をマトリックス状に形成し、湿式法により封止膜を形成しても、スクライブ工程でのスクライブ不良の発生を低減することができ、ひいては有機素子の歩留りを向上することができる有機素子封止パネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため請求項1に記載の発明は、脆性基板上に形成された有機素子が、外部回路との接続を行う電極接続部を除いて封止膜で封止された有機素子封止パネルの製造方法である。そして、脆性基板上に複数の有機素子をマトリックス状に形成する有機素子形成工程と、前記電極接続部をマスキングテープで覆った状態で、湿式法により封止膜を形成する封止膜形成工程と、前記マスキングテープを剥がした後、糊残りを除去する糊残り除去工程とを備えている。さらに、前記脆性基板に複数のスクライブラインを形成するスクライブ工程と、前記スクライブラインに基づいて前記脆性基板を分断するブレイク工程とを備えている。ここで、「有機素子」とは、有機EL素子、有機トランジスタ、有機ダイオード等の有機材料を使用して構成されるとともに電気で動作する素子を意味する。また、「湿式法」とは、溶液状態の封止膜の原料を塗布した後、乾燥、反応などにより固体の封止膜を形成する方法を意味する。
【0012】
この発明では、封止膜は湿式法で形成され、有機素子の電極接続部がマスキングテープで覆われた状態で封止膜が形成される。その際、マスキングテープと封止膜の境界部にマスキングテープの糊と封止膜の原料などの混合物が糊残りとして一部残る。糊残りが存在する状態でスクライブ工程により脆性基板にスクライブラインを形成すると、糊残りが原因でスクライブ不良が生じる。スクライブ不良が発生した状態で脆性基板を分断するブレイク工程を行うと分断された脆性基板の一部が不良となり、有機素子の歩留りが低下する。しかし、マスキングテープを剥がした後、糊残りの部分を除去する除去工程を備えているため、そのような問題の発生を抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記封止膜形成工程は、乾式法による乾式封止膜形成工程の後に行われる。ここで、「乾式法」とは、真空蒸着法、スパッタ法(スパッタリング法)、イオンプレーティング法、イオンビーム法、CVD法等の真空状態あるいは減圧下で薄膜を形成する方法を意味する。一般に、同じ膜厚においては乾式法で形成された膜(蒸着膜)の方が、湿式法で形成された膜(塗布膜)に比較して水分や酸素の透過性が低い。しかし、乾式膜は下地の凹凸や、異物を起点とするピンホールなどの膜の微小な欠陥が生じやすい。この発明では、柔軟で微小な欠陥を埋める湿式の塗布膜とを組み合わせることで、封止膜の封止機能(封止性能)が高くなる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記糊残り除去工程において、前記電極接続部を研磨する。この発明では、糊残りの除去の際に、電極接続部の研磨が行われる。電極接続部に糊残りから発生する異物が付着した場合であっても、電極接続部が研磨されるため電極接続部の表面とフレキシブルプリント基板との良好な接続が可能な状態にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脆性基板上に形成された有機素子が、外部回路との接続を行う電極接続部を除いて封止膜で封止された構成の有機素子封止パネルの製造方法において、脆性基板上に複数の有機素子をマトリックス状に形成し、湿式法により封止膜を形成しても、スクライブ工程でのスクライブ不良の発生を低減することができ、ひいては有機素子の歩留りを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルの製造方法に具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1(a),(b),(c)に示すように、有機素子封止パネルとしての有機ELパネル11は、ガラス基板12と、ガラス基板12上に順に、第1電極13、発光層としての有機EL層14及び第2電極15が設けられた有機素子としての有機EL素子16が設けられている。有機EL素子16は、有機EL層14が水分(水蒸気)及び酸素の悪影響を受けないように、封止膜(保護膜)17で封止されている。
【0017】
なお、図1(a)〜(c)は、有機ELパネル11、ガラス基板12、第1電極13、有機EL層14、第2電極15、封止膜17等の構成を模式的に示したものであり、図示の都合上、一部の寸法を誇張して分かり易くしているために、それぞれの部分の長さ、厚さ等の寸法の比は実際の比と異なっている。
【0018】
この実施形態では、第1電極13が陽極を構成し、第2電極15が陰極を構成する。第1電極13は、透明な材料で形成されている。ここで、「透明」とは、少なくとも可視光を透過可能なことを意味する。第1電極13は、公知の有機EL素子で透明電極として用いられるITO(インジウム錫酸化物)により形成されている。第2電極15は、金属(例えば、アルミニウム)で形成され、光を反射する機能を有する。有機EL素子16は、有機EL層14からの光がガラス基板12側から取り出される(出射される)所謂ボトムエミッションタイプに構成されている。
【0019】
有機EL素子16は平面ほぼ矩形状に形成されるとともに、第1電極13は有機EL層14より大きく、第2電極15は有機EL層14より小さく形成されている。第1電極13の長手方向の一端(図1(a)における右端)に位置する辺の外側には、第1電極13用の電極接続部13aが形成されている。電極接続部13aは、第1電極13と同一材料で形成され、かつ、第1電極13と一体的に形成されている。
【0020】
第2電極15の長手方向の一端(図1(a)における右端)に位置する辺の外側には、第2電極15用の電極接続部15aが形成されている。電極接続部15aは、第1電極13及び電極接続部13aと同一材料で形成され、第2電極15の一部が外側に延出した第2電極延出部15bと接続されている。
【0021】
封止膜17は、少なくとも水分(水蒸気)及び酸素の透過を抑制する機能を有する材料で形成されている。この実施形態では、封止膜17は乾式法により形成される第1封止膜17aと、湿式法で形成される第2封止膜17bの2層構造に形成されている。第1封止膜17aは、例えば、窒化ケイ素で形成され、第2封止膜17bは、例えばポリシラザンで塗布膜を形成した後、シリカ(二酸化ケイ素)に転化された二酸化ケイ素で形成されている。第2封止膜17bは第1封止膜17aを覆うように形成されている。
【0022】
次に前記のように構成された有機ELパネル11の製造方法を説明する。有機ELパネル11の製造は、図2のフローチャートに示す手順で行われる。
ITO膜からなる第1電極13が形成された脆性基板としての大型ガラス基板1を準備し、先ずステップS1の基板洗浄工程において、大型ガラス基板1の洗浄が行われる。次にステップS2の有機素子形成工程としての有機EL素子形成工程で、図4に示すように大型ガラス基板1上に複数の有機EL素子16がマトリックス状に形成される。この実施形態では、大型ガラス基板1上に3行3列に9つの有機EL素子16が形成される。
【0023】
有機EL素子形成工程では、第1電極13の形成、有機EL層14の形成、第2電極15の形成が順に行われる。第1電極13は、大型ガラス基板1上にITO膜を公知の薄膜形成方法によって成膜し、次に、このITO膜に対してフォトリソグラフィ法でレジストパータンを形成してエッチングを行い、第1電極13のパターニングを行うことで形成される。このとき、電極接続部13a,15aが第1電極13と同時に大型ガラス基板1上の所定位置に形成される。
【0024】
次に大型ガラス基板1のITO面、即ち第1電極13側の面がプラズマオゾン洗浄された後、有機EL層14が形成される。有機EL層14は、有機EL層14を構成する各層が公知の真空蒸着法により順次形成されることで形成される。有機EL層14の形成後、第2電極15が例えば、Alの蒸着により形成されて有機EL素子16が完成する。この時、第2電極延出部15bが電極接続部15aの一部と接続するように形成される。
【0025】
次に有機EL素子16と外部回路との接続を行う電極接続部13a,15aを除いて膜封止する封止膜17の形成が行われる。この実施形態では封止膜17の形成は、乾式法により第1封止膜17aを形成する乾式封止膜形成工程(ステップS3)と、乾式封止膜形成工程の後に行われ、湿式法により第2封止膜17bを形成する封止膜形成工程(ステップS4)の2工程で行われる。
【0026】
ステップS3の乾式封止膜形成工程では、シャドーマスクを用いてプラズマCVD法で窒化ケイ素膜が成膜されて第1封止膜17aが形成される。
ステップS4の封止膜形成工程では、電極接続部をマスキングテープで覆った状態で、湿式法により第2封止膜17bが形成される。図3(a),(b)に示すように、マスキングテープ18は、第1封止膜17aで覆われていない電極接続部13a,15aの一部が露出する状態で貼付される。また、マスキングテープ18は、大型ガラス基板1を縦断するように電極接続部13a,15a以外の部分にも貼付されている。その状態でポリシラザンを疎水性の有機溶媒(例えば、キシレン)に溶解した溶液がスプレーコートで塗布される。ポリシラザンは塗布膜として形成された後、シリカ(二酸化ケイ素)に転化されて第2封止膜17bになる。
【0027】
次にマスキングテープ18を剥がした後、糊残りを除去する糊残り除去工程がステップS5として実施される。なお、一般に有機EL層14、第2電極15は厚さが1μm未満であり、封止膜17も厚さが数μm以下と薄いため、物が当たったとき等の外力に対する耐衝撃性が弱く破損し易い。耐衝撃性を高めるために封止膜17の外側に保護フィルムを貼付する構成が採用される場合がある。
【0028】
図3(c)に示すように、マスキングテープ18を剥がした状態では、マスキングテープ18が貼付されていたときの封止膜17との境界部20に対応する位置にマスキングテープ18の糊と封止膜の原料などの混合物が糊残り19として一部残る。糊残り19は、マスキングテープ18の糊と、第1封止膜17aの原材料(シリコン化合物)とが混じりあった物で、目視で確認できるほどの大きさを持ち、主にマスキング部の端部に生じる。また、ここが発生源となり微小な異物(パーティクル)として、電極接続部13aの表面と、フレキシブルプリント基板(以下、FPCと記載する。)との接合面で噛み込み異物となる場合もある。
【0029】
糊残り除去工程では、糊残り19を研磨により除去する。研磨方法としては、バフ研磨が好ましい。
ステップS6のスクライブ工程では、図5に示すように大型ガラス基板1に公知のスクライブ装置を用いて複数のスクライブライン22を形成する。この実施形態では、大型ガラス基板1を縦断及び横断するようにそれぞれ2つのスクライブラインが形成される。
【0030】
ステップS7のブレイク工程では、スクライブライン22に基づいて大型ガラス基板1が9つのガラス基板12に分断される。
次に糊残り19の除去の一実施例を詳しく説明する。
【0031】
研磨バフとしてスエードクロス(リファインテック株式会社:型式52-108)を使用し、研磨材としてダイヤモンドペースト(油性のバインダに粒径1μmのダイヤモンド粒子入り、リファインテック株式会社:型式41-101油性)と、ラッピングオイル(合成油、リファインテック株式会社:型式70-401)を用いた。
【0032】
研磨方法は次の手順で行った。
1.スエードクロスにラッピングオイルを染み込ませる。
2.スエードクロスの表側にダイヤモンドペーストをつける。
【0033】
3.スエードクロスの裏側から数センチ角のプラスチックブロックを当てる。
4.ダイヤモンドペーストがスエードクロスに馴染むよう、適当なガラス板に擦りつける。
【0034】
5.有機ELパネル11の電極接続部13a,15aを上にして、有機ELパネル11を水平で硬いガラス板の上などに載置する。
6.ブロックを裏から当て、ラッピングオイルとダイヤモンドペーストが良く馴染んだスエードクロスの表面で境界部20及び電極接続部13a,15aを擦る。
【0035】
7.このとき、ストロークが約0.02m、荷重が0.02〜0.03kgとし、10往復程度擦る。
8.擦る方向は、有機ELパネル11に保護フィルムが張ってある場合は、有機ELパネル11の長手方向に直角とし、保護フィルムを剥さないようにした。
【0036】
9.研磨後は、ウエス等でラッピング液をパネルから拭取り、エタノールなどを含浸させたウエスで電極接続部13a,15aを拭き、油分を取り除いた。
以上の作業により、境界部20の糊残り19及び電極接続部13a,15aの汚染が除去される。
【0037】
糊残り19が単純にマスキングテープの糊の一部が付着したものであれば、有機溶剤を用いた拭き取りで除去可能であるが、糊残り19は、シリコン化合物が混じったものであるため、有機溶剤を用いた拭き取りでは除去できない。糊残り19が除去されていない状態で、大型ガラス基板1の糊残り19が形成されている側の面からスクライブ装置によりスクライブライン22を形成する場合、糊残り19と直交する部分でスクライブライン22が途切れ、スクライブ不良が発生する。また、大型ガラス基板1の糊残り19が形成されている側の面とは反対側の面からスクライブ装置によりスクライブライン22を形成する場合、糊残り19のために大型ガラス基板1にうねりが生じる。大型ガラス基板1にうねりが生じるとスクライブライン22の深さが変わりやすくなり、場合によっては、スクライブライン22が大型ガラス基板1の糊残り19直上で途切れ、スクライブ不良が発生する。さらに、柔らかい糊残り19は、スクライブライン22形成時に粘弾性変形してワークが逃げるため、大型ガラス基板1の糊残り19直上では、スクライブ不良が発生する。そして、同様にブレイク工程で分断された基板の一部が不良となり、歩留りが低下する。
【0038】
しかし、有機ELパネル11の製造工程に、研磨により糊残り19を除去する糊残り除去工程を設けた場合は、糊残り19が良好に除去され、大型ガラス基板1にスクライブライン22を形成する際に、スクライブ不良の発生を低減でき、ひいては有機ELパネル11の歩留りが向上する。また、糊残り除去工程において電極接続部13a,15aの表面が研磨され、電極接続部13a,15aとFPCとの接続がより良好になる。
【0039】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)有機ELパネル11の製造方法は、大型ガラス基板1上に複数の有機EL素子16をマトリックス状に形成する有機EL素子形成工程と、電極接続部13a,15aをマスキングテープ18で覆った状態で、湿式法により第2封止膜17bを形成する封止膜形成工程と、マスキングテープ18を剥がした後、糊残り19を除去する糊残り除去工程と、大型ガラス基板1に複数のスクライブライン22を形成するスクライブ工程と、スクライブライン22に基づいて大型ガラス基板1を分断するブレイク工程とを備えている。 この発明では、糊残り除去工程において、マスキングテープ18を剥がした時に発生するマスキングテープ18の糊と第2封止膜17bの原料との混合物である糊残り19が除去される。従って、大型ガラス基板1に複数のスクライブライン22を形成するスクライブ工程で、スクライブ不良の発生が低減され、ひいては有機ELパネル11の歩留りが向上する。
【0040】
(2)湿式法により第2封止膜17bを形成する封止膜形成工程は、乾式法による乾式封止膜形成工程の後に行われる。一般に、同じ膜厚においては乾式法で形成された膜(蒸着膜)の方が、湿式法で形成された膜(塗布膜)に比較して水分や酸素の透過性が低い。しかし、乾式膜は下地の凹凸や、異物を起点とするピンホールなどの膜の微小な欠陥が生じやすい。この発明では、柔軟で微小な欠陥を埋める湿式の塗布膜とを組み合わせることで、封止膜の封止機能(封止性能)が高くなる。この実施形態では、封止膜17が乾式法で形成された第1封止膜17aと湿式法で形成された第2封止膜17bとの複合膜のため、封止膜17の封止機能(封止性能)が高くなる。
【0041】
(3)糊残り除去工程において、電極接続部13a,15aを研磨する。したがって、糊残りの除去に加えて、電極接続部13a,15aの研磨が行われるため、封止膜17が乾式法で形成された第1封止膜17aと湿式法で形成された第2封止膜17bの複合膜として構成される場合でも、電極接続部13a,15aの表面をFPCとの接続がより良好な状態にすることができる。
【0042】
(4)糊残り除去工程における研磨が、スエードクロスのような軟らかいバフに砥粒を付着させて被研磨体である電極接続部13a,15aの表面に押し当てて磨くバフ研磨で行われる。したがって、ショットブラストのように乾式で砥粒を吹き付ける研磨方法に比較して、電極接続部13a,15aの表面を研磨する量が少ない状態で糊残り19の除去を容易に行うことができる。
【0043】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
○ 糊残り除去工程において、バフ研磨に水性のダイヤモンドペースト(41-101水性)を使用するとともに、水性のラピングリキッド(70-501:水性液)を使用し、ラピング液を拭取った後、更に純水を含浸させたウエスで拭取っても良い。
【0044】
○ バフ研磨に使用する砥粒の粒径は1μmに限らず、1μm未満でも、1μmより大きくてもよい。
○ 糊残り除去工程における研磨方法はバフ研磨に限らず、被研磨部である電極接続部13a,15aを除いた部分にマスク処理をした状態で、砥粒、鉄粒、ガラス粒、砂粒等の粒状の研磨材を圧縮空気によって吹き付けるブラスト処理であってもよい。また、砥粒と液体を混合させたものを圧縮空気で被研磨部の表面に噴射して研磨を行ってもよい。
【0045】
○ 糊残り除去工程における研磨方法として、砥粒等の粒状の研磨材を用いない方法、例えば、砥石やサンドペーパー等で電極接続部13a,15aの表面を研磨しても良い。
○ 乾式法で形成される第1封止膜17aは、窒化ケイ素膜に限らず、他の無機材料で形成された膜であってもよい。無機材料として、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、ガラス等のケイ素系化合物が挙げられる。ケイ素系化合物に限らず、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物等の電気的絶縁材であってもよい。
【0046】
○ 乾式法で形成される第1封止膜17aは、一層で形成されるものに限らず、複数層積層された構成であってもよい。積層される膜は、ケイ素系化合物あるいは他の電気的絶縁材で形成された膜が積層された構成に限らず、電気的絶縁性の膜の上にアルミニウム、銀、銅等の金属膜が積層された構成としてもよい。膜の積層数は2層に限らず、3層以上でもよい。第1封止膜17aを単層あるいは複数層の金属膜で形成した場合は、電極接続部13aと電極接続部15aとの電気的絶縁性を確保するのが難しいが、第1封止膜17aを積層構成とし、金属層を2層目以上に形成すれば支障はない。金属膜はセラミック膜に比較して同じ厚さにおいてピンホールが発生し難く、外力に対する耐衝撃性も高いため、封止膜17の性能が向上する。
【0047】
○ 第1封止膜17aを乾式法で形成する場合、乾式法として、プラズマCVD法に限らず、他のCVD法や真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム法等の真空状態あるいは減圧下で薄膜を形成する他の方法を用いても良い。
【0048】
○ 第1封止膜17aは無機材料(無機系材料)で形成された膜に限らず、透湿性の低い有機材料(有機系材料)で形成された膜であってもよい。有機材料としては、エポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、アクリル(アクリル樹脂)等の透湿性の低い樹脂がある。有機材料の膜は単層に限らず、異なる材料で形成された膜が積層された膜、あるいは異なる材料が複合して形成された複合膜であってもよい。
【0049】
○ 第1封止膜17aは、無機材料で形成された膜と有機材料で形成された膜とが積層された構成であっても、無機材料と有機材料が複合した状態で蒸着された膜であってもよい。
【0050】
○ 封止膜17が、乾式法で形成された第1封止膜17aと湿式法で形成された第2封止膜17bとから構成される場合、湿式法で形成された第2封止膜17bが第2電極15に接触する状態で形成され、乾式法で形成された第1封止膜17aが第2封止膜17bの上に積層された構成としてもよい。即ち、湿式法により封止膜を形成する封止膜形成工程の後に乾式法による乾式封止膜形成工程を行うようにしてもよい。
【0051】
○ 湿式法で第2封止膜17bを形成する場合、溶液状態の封止膜の原料をスプレーコートで塗布する代わりに、スリットコーターやスピンコーターを使用して塗布したり、ディップコートで塗布したりしてもよい。
【0052】
○ 封止膜17は湿式法により形成される膜のみで構成されてもよい。例えば、封止膜17をポリシラザン溶液から形成した第1封止膜17aのみで形成してもよい。
○ 封止膜17を湿式法のみで形成する場合、ポリシラザンから形成した第2封止膜17bの他に、水分及び酸素の透過性が低い他の材料で形成された塗布膜を積層して設けても良い。塗布膜をエポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、アクリル(アクリル樹脂)等の透湿性の低い樹脂で形成しても良い。
【0053】
○ 封止膜17は、積層面に平滑性を与える目的で積層された有機膜を備えていても良い。
○ 有機ELパネル11は、光の取出し方向がガラス基板12側であるボトムエミッションタイプに限らず、光の取出し方向が封止膜17側であるトップエミッションタイプであってもよい。
【0054】
○ 有機素子封止パネルを構成する基板は、ガラス基板に限らず、脆性基板であればよく、基板の材質が、シリコンであっても良い。
○ 有機素子封止パネルは、基板上に形成された有機素子が、外部回路との接続を行う電極接続部を除いて封止膜で封止されたものであればよく、有機ELパネル11に限らない。例えば、有機トランジスタや有機ダイオード等の有機素子が基板上に形成されて回路を構成する有機素子封止パネルであってもよい。
【0055】
○ 有機素子封止パネルは、基板(パネル)上の素子が有機系のものだけでなく、無機系、その複合体のものを含んでいても良い。素子の機能が、光発電、光センサー、演算回路等の電気電子素子であって、その単体や複合体であっても良い。
【0056】
○ 有機素子封止パネルは、基板上に形成された有機素子だけが封止膜17で封止された構成に限らず、例えば、有機トランジスタで光る有機EL素子に低温ポリシリコンで構成された駆動回路が同一基板上に形成されたような無機、有機材料からなる駆動回路を基板上にシステムオンしたディスプレイであっても良い。
【0057】
○ 大型ガラス基板1上に3行3列に9つの有機EL素子16が形成されていたが、これに限らず1つの基板上に複数の有機EL素子16がマトリックス状に形成されていればよい。
【0058】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項3に記載の発明において、前記電極接続部の研磨はバフ研磨である。
(2)請求項1〜請求項3及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載の発明において、前記有機素子は有機EL素子である。
【0059】
(3)請求項1〜請求項3及び前記技術的思想(1),(2)のいずれか一項に記載の発明において、前記湿式法による封止膜形成工程では、前記封止膜はポリシラザンの塗布により形成される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)は一実施形態の有機ELパネルの概略平面図、(b)は(a)のA−A線模式断面図、(c)は(a)のB−B線模式断面図。
【図2】有機ELパネルの製造プロセスを示すフローチャート。
【図3】(a),(b)はマスキングテープの貼付位置を示す模式断面図、(c)は糊残り等の位置を示す有機ELパネルの封止膜を省略した模式平面図。
【図4】スクライブ工程前の有機ELパネルの概略図。
【図5】スクライブ工程後の有機ELパネルの概略図。
【符号の説明】
【0061】
1…脆性基板としての大型ガラス基板、12…ガラス基板、13a,15a…電極接続部、16…有機素子としての有機EL素子、17…封止膜、18…マスキングテープ、19…糊残り、22…スクライブライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性基板上に形成された有機素子が、外部回路との接続を行う電極接続部を除いて封止膜で封止された有機素子封止パネルの製造方法であって、
脆性基板上に複数の有機素子をマトリックス状に形成する有機素子形成工程と、
前記有機素子と外部回路との接続を行う電極接続部をマスキングテープで覆った状態で、湿式法により封止膜を形成する封止膜形成工程と、
前記マスキングテープを剥がした後、糊残りを除去する糊残り除去工程と、
前記脆性基板上に複数のスクライブラインを形成するスクライブ工程と、
前記スクライブラインに基づいて前記脆性基板を分断するブレイク工程とを備えていることを特徴とする有機素子封止パネルの製造方法。
【請求項2】
前記封止膜形成工程は、乾式法による乾式封止膜形成工程の後に行われる請求項1に記載の有機素子封止パネルの製造方法。
【請求項3】
前記糊残り除去工程において、前記電極接続部を研磨する請求項1又は請求項2に記載の有機素子封止パネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−270018(P2008−270018A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113052(P2007−113052)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】