説明

有機蒸気分離用の中空糸エレメント

【課題】高温・高圧の有機蒸気下での使用においても、中空糸膜の気密性を保持する耐久性を有する管板を備える、中空糸エレメントならびにガス分離膜モジュールを提供する。
【解決手段】中空糸エレメントの管板を、式(1)および(2)で示されるエポキシ化合物(A)および(B)と芳香族アミン化合物(C)とからなり、前記エポキシ化合物(A)および(B)が重量比で90:10〜60:40の範囲の割合で配合されているものとする。(化1)


(化2)


(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基または水素原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束が、特定のエポキシ樹脂組成物を硬化した管板で一体に固着されている有機蒸気分離用の中空糸エレメント、および、前記中空糸エレメントの製造方法に関する。また、前記中空糸エレメントを容器内に収納した有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに関する。さらに、前記ガス分離膜モジュールを用いて有機蒸気を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、選択的透過性を有する分離膜を用いて分離する方法(有機蒸気分離)が、注目を集めている。この方法に用いられるガス分離膜モジュールとしては、プレートおよびフレーム型、チューブラー型、中空糸型などがある。そのなかでも、中空糸型のガス分離膜モジュールは、単位体積当たりの膜面積がもっとも大きいという利点を有するだけでなく、耐圧性、自己支持性の点においても優れているので、工業的に有利であり、広範囲に利用されている。
【0003】
中空糸型のガス分離膜モジュールは、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の少なくとも一端を注型用の樹脂の硬化板(管板)で一体に結束、固着している中空糸エレメントを、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を備えた容器に収納しているものである。
管板は、糸束を一体に固着する役割のほか、中空糸と中空糸の間、および、中空糸と容器の間を密封することにより、中空糸膜の内部空間と外部空間を隔絶し、内部空間と外部空間との気密性を保持する役割を持っている。中空糸型のガス分離膜モジュールは、前記管板による気密性が失われると、好適な分離が行われなくなる。
【0004】
中空糸型のガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離は、以下のように行われる。有機化合物を含む液体化合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、原料ガス導入口からガス分離膜モジュールに供給する。有機蒸気混合物が中空糸膜に接して流通する間に、中空糸膜を透過した透過蒸気と、中空糸膜を透過しなかった非透過蒸気とに分離し、透過蒸気を透過ガス排出口から、非透過蒸気を非透過ガス排出口から回収する。中空糸膜は選択的透過性を有するため、透過蒸気は分離膜の透過速度が速い成分(高透過成分)に富み、非透過蒸気は高透過成分が少なくなる。この結果、有機蒸気混合物は、高透過成分に富んだ透過蒸気と、高透過成分が少ない非透過蒸気とに分離される。
【0005】
中空糸型のガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離として、例えば、有機化合物を含む水溶液を脱水して、純度の高い有機化合物を精製・回収する方法が特許文献1で提案されている。まず、有機化合物を含む水溶液を加熱気化させて有機化合物の蒸気と水蒸気とを含む有機蒸気混合物を生成させ、次いで、この有機蒸気混合物を70℃以上の温度にて中空糸型の芳香族ポリイミド製気体分離膜(中空糸膜)の一方の側に接触させて流通する間に水蒸気を選択的に透過分離し、これにより水蒸気含有量が減少した有機蒸気混合物を得ている。
【0006】
比較的少ない面積で効率よく水−有機物蒸気の脱水を行う方法が、特許文献2に提案されている。中空糸束の外周部がフィルム状物質で被覆されているガス分離膜モジュールを用いることによって効率的な脱水を実現している。
【0007】
中空糸型の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの管板用途に用いられる注型用の樹脂として、例えば特許文献3には、テトラグリシジル化合物を含むエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0008】
また、浸透気化法による有機溶媒の分離に使われる分離膜用の中空糸の接着剤として、特許文献4にはアミノフェノール類とエピハロヒドリンとの反応によって得られる2官能または3官能のエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−267415
【特許文献2】特開2000−262838
【特許文献3】特開平02−31821
【特許文献4】特開平02−218714
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機蒸気分離においては、有機化合物を含む液体混合物を加熱した有機蒸気混合物をガス分離膜モジュールに供給して分離するため、管板は、有機化合物の沸点より高い温度の有機蒸気にさらされる。したがって、膨潤、割れを伴う機械的強度の低下、中空糸との密着性の低下などによって管板の気密性が失われることを防ぐ必要があった。
【0011】
分離膜を用いたガス分離方法において、多くの場合、ガス混合物を高圧の状態で供給することによって好適なガス分離を達成している。ガス分離膜を透過する透過成分ガスの透過量は、ガス分離膜を挟んだ両側の透過成分ガスの分圧差に比例するため、ガス混合物をより高圧で供給したほうがガス分離を効率化できる。
【0012】
一般に、環境の圧力が増加すると、物質の沸点は上昇する。よって、有機蒸気分離において有機蒸気混合物をより高圧でガス分離膜モジュールに供給するためには、ガス分離膜モジュールに供給される有機蒸気混合物の温度をより高温にする必要がある。すなわち、有機蒸気混合物を高圧でガス分離膜モジュールに供給すると、管板はこれまでより高温・高圧の有機蒸気にさらされるために、管板の気密性が失われる危険性が高くなるという問題があった。
【0013】
また、管板の成形法として遠心成形、静置成形などが行われている。遠心成形は大型の装置が必要であり、生産性を向上させるのが困難であるという問題がある。一方、静置成形は、簡便な装置で成形が可能であり、生産性を向上させるのが容易である。しかし、注型用の樹脂として、例えば特許文献3に開示されている樹脂を用いた場合には、均一な厚みの管板を成形することが困難であるという問題があった。
【0014】
本発明は、高温・高圧の有機蒸気下での使用においても、中空糸膜の内部空間と外部空間との気密性を十分に保持する耐久性を有し、かつ好適に静置成形が可能である管板を備える有機蒸気分離用の中空糸エレメント、ならびに有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の少なくとも一方の端部が、エポキシ樹脂組成物の硬化物により形成される管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントであって、
前記エポキシ樹脂組成物の樹脂成分が、下記式(1)で示されるエポキシ化合物(A)、下記式(2)で示されるエポキシ化合物(B)、芳香族アミン化合物(C)とからなり、
前記エポキシ化合物(A)と前記エポキシ化合物(B)が重量比で90:10〜60:40の範囲の割合で配合されていることを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメントに関する。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】


(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基または水素原子を表す。)
【0018】
エポキシ化合物(B)としては、トリグリシジル−4−アミノフェノールが好ましい。
【0019】
芳香族アミン化合物(C)としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタンが好ましい。
【0020】
さらに、中空糸エレメントが、多数の中空糸膜からなる糸束の略中心部にガスを導入する機能を持つ芯管を持つことが好ましい。
【0021】
さらに、中空糸エレメントが、多数の中空糸膜からなる糸束の外周部をキャリアガスガイドフィルムによって覆われていることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の端部を金型に入れ(配置し)、次いでエポキシ樹脂組成物を金型内に注入した後、エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより糸束の端部に管板を形成して、中空糸膜の端部の固着、結束を行う有機蒸気分離用の中空糸エレメントの製造方法において、
前記エポキシ樹脂組成物として、
式(1)で示されるエポキシ化合物(A)、式(2)で示されるエポキシ化合物(B)、芳香族アミン化合物(C)とからなり、前記エポキシ化合物(A)と前記エポキシ化合物(B)が重量比で90:10〜60:40の範囲の割合で配合されている樹脂成分を含有するエポキシ樹脂組成物を用いる
ことを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメントの製造方法に関する。
ここで、エポキシ化合物(B)としては、トリグリシジル−4−アミノフェノールが好ましく、また、芳香族アミン化合物(C)としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタンが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の製造方法において、金型に注入したエポキシ樹脂組成物を静置した状態で硬化させ、管板を形成することが好ましい。
【0024】
また、本発明は、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を有する容器内に、有機蒸気分離用の中空糸エレメントが収納されて構成されていることを特徴とする有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに関する。
【0025】
この有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールにおいて、さらに、容器が、さらにキャリアガス導入口を有することが好ましい。
【0026】
この有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールにおいて、さらに、混合ガス導入口、非透過ガス排出口が中空糸膜内部に通じ、キャリアガス導入口および透過ガス排出口が中空糸膜外部に通じるように構成されていることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いることを特徴とする有機蒸気混合物を分離する方法に関する。
【0028】
この方法において、さらに、有機蒸気混合物を混合ガス導入口から80℃以上で導入し、高透過成分を中空糸膜を選択的に透過させ、透過蒸気又は非透過蒸気として高純度化した有機蒸気を得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、高温、高圧の有機蒸気雰囲気下においても十分な耐久性を発揮して気密性を失わない管板を備え、有機蒸気分離に好適に使用することが出来る有機蒸気分離用の中空糸エレメント、ならびに有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを提供することが出来る。
【0030】
また、本発明によって、高温、高圧の有機蒸気雰囲気下においても気密性を失わない管板を備えた有機蒸気分離用の中空糸エレメントを、遠心成形法を用いなくても容易に製造することが出来る。
【0031】
本発明のガス分離膜モジュールを用いれば、高温、高圧の条件においても耐久性良く有機蒸気分離を行う事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの一例を示す概略図である。
【図2】本発明における有機蒸気分離用の中空糸エレメントの作成法を示す概略図である。
【図3】エポキシ化合物(A)とエポキシ化合物(B)の混合物の混合比と粘度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 混合ガス導入口
2 キャリアガス導入口
3 透過ガス排出口
4 非透過ガス排出口
5 筒状容器
6 中空糸束
6a 中空糸膜
7 管板
7a 第一管板
7b 第二管板
8 キャリアガスガイドフィルム
9 芯管
10 芯管の通連孔
11 金型
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の有機蒸気分離用の中空糸エレメント、前記中空糸エレメントの製造方法、前記中空糸エレメントを収納した有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール、および前記分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法について詳しく説明する。
【0035】
図1は、本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの一例である、中空糸束の略中心部にキャリアガス供給用の芯管を有し、中空糸束外周部にキャリアガスガイドフィルムが被覆されている有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの概略を表す断面図である。図1に示すガス分離膜モジュールは、その外枠が混合ガス導入口1、キャリアガス導入口2、透過ガス排出口3および非透過ガス排出口4を有する筒型容器5からなり、前記筒型容器5には選択的透過性を有する多数の中空糸膜6aを束ねて形成した糸束6が、次の態様の中空糸エレメントとして内蔵されているものである。すなわち、前記糸束6は、図中透過ガス排出口3側の端部で、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる第二管板7bにより、また、図中非透過ガス排出口4側の端部で同じくエポキシ樹脂組成物の硬化物からなる第一管板7aによりそれぞれ固着され、全体として中空糸エレメントを形成している。この中空糸エレメントにおいて、前記中空糸束6を形成する各中空糸膜6aは、前記管板7a,7bを貫通して、開口した状態でそれぞれ固着されている。また、前記中空糸束6の外周部には、キャリアガスが導入され、排出されるまでの位置に、キャリアガスガイドフィルム8が被覆されている。また、前記管板7aを貫通して、かつ中空糸束6の略中心部に前記中空糸束に沿って配せられる芯管9を設け、キャリアガス導入側の管板7aの近傍に位置する前記芯管に、前記芯管内部空間と中空糸束とを連通する連通孔10が形成されている。
【0036】
図1に示す分離膜モジュールを用いて有機蒸気混合物を分離する方法の一例を以下説明する。有機蒸気混合物は好ましくは過熱され、混合ガス導入口1から中空糸膜の開口を経て中空糸膜6aの内部空間に導入される。有機蒸気混合物が中空糸膜の内部空間を流れる間に、高透過成分が選択的に膜を透過した透過蒸気は管板7a,7bの間の中空糸束が収納されている空間に移動する。透過しなかった非透過蒸気は中空糸膜のもう一方の開口が面している空間を経て非透過ガス排出口4から排出される。キャリアガスは芯管9のキャリアガス導入口2から導入され、芯管9の連通孔10から管板7a,7bの間の中空糸が装着されている空間へ導入され、中空糸膜6aの外側に接して流れ、中空糸膜からの透過ガスと共に透過ガス排出口3から排出される。したがって、有機蒸気混合物とキャリアガスのモジュール内部での流れは分離膜を挟んで向流となる。また、高透過成分の分圧は供給側よりも透過側が低くなるように操作される。
【0037】
次に、本発明における中空糸エレメントについて説明する。本発明における中空糸エレメントとは、少なくとも選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、エポキシ樹脂組成物の硬化物により形成される管板によって中空糸の開口を維持した状態で固着され、結束されたものである。実施形態の一つは、図1の概略図および前記の説明のとおりであるが、その形態のみに限定されるものではない。
【0038】
本発明の中空糸エレメントに用いられる選択的透過性を有する中空糸膜は、分離対象や分離条件に適合した材料で形成される。例えば、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ブチルゴム、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリカーボネートなどで例示される、エラストマーやガラス状高分子などの材料で好適に形成される。有機蒸気分離用途においては、特に耐熱性、耐有機溶剤性、および、透過性能において優れている芳香族ポリイミド製の中空糸膜が最も適当である。
【0039】
前記の中空糸膜の構造は、均質性のものであっても、複合膜や非対称膜などの非均質性のものであっても良い。有機蒸気分離用途においては、芳香族ポリイミド製の非対称膜が、選択性と透過性能において優れているため最も適当である。膜厚は20〜200μmで、外径が50〜1000μmのものが好適に使用できる。
【0040】
本発明における中空糸束は、前記選択性を有する多数の中空糸膜を集束したものである。通常、100〜1,000,000本程度の中空糸膜を集束している。集束された中空糸束の形状には特に制限はない。例えば、中空糸膜が角柱状や平板状に集束された中空糸束、および、直方体の形状をもった管板であっても良い。製造の容易さ、および容器の耐圧性の観点からは、円柱状に集束された中空糸束、および円盤状の管板が好適に用いられる。中空糸は、軸に対して実質的に平行であっても、一定の角度を持っていても良いが、軸方向に対して5〜30度の角度を持って交互に交差配列するように集束されていることが好ましい。
【0041】
本発明の中空糸エレメントは、管板が前記中空糸束の両端部を固着していても、前記中空糸束の一方の端部だけを固着していても良い。さらに、管板が中空糸束の両端部を固着している中空糸エレメントにおいても、一方の端部において中空糸の開口が維持されていれば、一方の端部が閉塞されていても構わない。管板が一方の端部だけを固着している中空糸エレメントにおいては、もう一方の端部は、中空糸端部を閉塞する、中空糸を折り返す等の手段により、中空糸が開口しないように構成される。好ましくは、中空糸束の両端部が開口を維持した状態で管板によって固着されて構成される。
【0042】
本発明の中空糸エレメントの管板に用いられるエポキシ樹脂組成物は、前記式(1)で示されるエポキシ化合物(A)、前記式(2)で示されるエポキシ化合物(B)、および芳香族アミン化合物(C)からなる組成物であり、エポキシ化合物(A)と、エポキシ化合物(B)とが、重量比で(A):(B)=90:10〜60:40の範囲、好ましくは85:15〜65:35の範囲、より好ましくは80:20〜70:30の範囲で配合された組成物である。
【0043】
前記式(1)で表されるエポキシ化合物(A)としては、ジャパンエポキシレジン(株)製;jER604、大日本インキ化学工業(株)製;EPICLON 430、東都化成(株)製;エポトートYH−434などがあげられる。
【0044】
前記式(2)で表される3官能エポキシ化合物(B)の具体例としては、4−アミノ−フェノール、4−アミノ−m−クレゾール、4−アミノ−o−クレゾール、2−エチル−4−アミノフェノール、3−エチル−4−アミノフェノールなどのトリグリシジル誘導体が挙げられるが、これらの中で、トリグリシジル−4−アミノフェノールが特に好ましい。
トリグリシジル−4−アミノフェノールとしては、ジャパンエポキシレジン(株)製 jER630などがあげられる。
【0045】
芳香族アミン化合物(C)としては、芳香環を1〜3個持つ芳香族ジアミンが好適であり、その中でも、4,4’−ジアミノジフェニルメタンが特に好適である。4,4’−ジアミノジフェニルメタンとしては、三井化学ポリウレタン(株)製 MDA−220などがあげられる。
【0046】
前記エポキシ樹脂組成物は、式(1)で示されるエポキシ化合物(A)と、式(2)で示されるエポキシ化合物(B)とが、重量比で(A):(B)=90:10〜60:40の範囲で配合された組成物である。
エポキシ化合物(A)が90重量%を超え、エポキシ化合物(B)が10重量%未満となると、充填性が著しく劣るなど成形性が悪くなり、また、耐有機溶剤性が悪くなるため好ましくない。エポキシ樹脂(A)が60重量%未満となりエポキシ化合物(B)が、40重量%を超えると、エポキシ樹脂組成物を硬化した際に大きいひけが生じ、成形がうまくいかない傾向が強いため好ましくない。
【0047】
前記エポキシ樹脂組成物において、硬化用の芳香族アミン化合物の使用割合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量および芳香族アミン化合物の活性水素当量から計算される化学量論乃至はその化学量論量の約6割であることが好ましい。さらに、化学量論量〜その化学量論量の8割となるような割合で配合されていることが好ましい。
化学量論量以上の芳香族アミン化合物を使用すれば、エポキシ樹脂組成物の硬化の際に発熱が大きくなり過ぎて、耐久性の高い管板が形成されないので、好ましくない。また、芳香族アミン化合物の使用割合を化学量論量の6割より少なくすると、エポキシ樹脂組成物の硬化が不十分となり、強固な管板が形成されないので、好ましくない。
また、エポキシ樹脂組成物は、上述の樹脂成分以外の成分、例えば充填剤等を含有していてもよいが、含有せずに樹脂成分だけでもよい。
【0048】
本発明の中空糸エレメントにおいては、中空糸束の略中心部にガスを導入する機能を持つ芯管を持つことが好ましい。中空糸束の略中心部に導入するガスは、キャリアガスであることが好ましい。ここでいう中空糸束の略中心部とは、導入されたガスが中空糸全体に広がることを目的とするものであるので、その目的を達成できる程度であれば良く、厳密な中心部に限定するものではない。
【0049】
前記芯管は、所定の気密性および耐圧性を備えたものであれば、その形成材料は特に限定されず、金属、プラスチック、又はセラミック等により好適に形成できる、
また、前記図1に示した場合には、芯管の先端は閉じており、第二管板7bに埋設されているが、必ずしも管板によって固着されている必要はなく、熱膨張によるずれなどを吸収する程度の隙間があるのが好ましい。
【0050】
本発明の中空糸エレメントにおいては、中空糸束の外周部にあらかじめキャリアガスガイドフィルムを設けることが好ましい。
前記キャリアガスガイドフィルムの材料は特に限定されないが、装置内に供給された混合ガスを実質的に透過しない材料か、又は難透過性の材料であれば如何なるもので形成してもよい。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド等のプラスチックフィルムあるいはアルミニウムやステンレスの金属箔が好適に用いられる。特に、耐熱性、耐溶剤性、加工性の点でポリイミドフィルムが好適である。また、キャリアガスガイドフィルム8の厚さも特に制限されないが、厚いフィルムが用いられると中空糸が装着される空間を占有して有効膜面積が減少するので、数10μm〜2mm程度の厚みを好ましい範囲として挙げることができる。
前記キャリアガスガイドフィルムは、管板によって中空糸と同様に固着されることが好ましい。更に、芯管の連通孔に近い側の第一管板7aに固着され、第二管板7bには固着せず間隙をあけて、キャリアガスが有機蒸気混合物と向流となるように配置されるのが分離効率を高めるうえで好ましい。
【0051】
次いで、本発明の中空糸エレメントの製造方法について説明する。まず、中空糸膜を中空糸束として集束する方法について説明する。
【0052】
中空糸膜を軸方向に対して5〜30度の角度を持って交互に交差配列するように集束させる方法としては、例えば、下記の方法があげられる。1〜100本の中空糸膜は、芯になる管状物(芯管)の軸方向に一定の速度で往復する配糸ガイドによって芯管に配糸されるが、同時に芯管が一定の速度で回転する。このため、中空糸膜は軸に平行に配糸されないで、軸方向に対して芯管が回転しただけ角度を持って配糸される。配糸が一方の端部までくると、そこで中空糸膜は固定され、配糸ガイドは逆方向へ引き返して更に配糸をおこなう。芯管は同方向へ回転し続けるので、こんどは軸方向に対して前回とは角度が同じで丁度反対の方向となる角度をもって配糸される。これを繰り返していくと、配糸される中空糸膜は反対の角度で配糸されている中空糸膜の上に交互に交叉して配列されて中空糸束に集束される。
【0053】
次に、本発明における管板を形成する方法について、以下に説明する。前記の方法等で、所定の長さおよび本数の中空糸膜6aを集束した中空糸束6を、芯管を取り外すか或いは芯管をそのまま束の略中心部に有したまま、金型11内の所定の位置に設置し、前記中空糸束を、端部を下にして実質的に垂直に保持する。この状態の模式図を図2bに示す。
【0054】
次いで金型11に、管板を形成するために前記エポキシ樹脂組成物の所定量を注入する。エポキシ樹脂組成物が注入された状態の模式図を図2cに示す。エポキシ樹脂組成物の注入方法は特に限定されないが、容器下部の複数場所からシリンジを用いて注入することが、均一に注入しやすいため好ましい。エポキシ樹脂組成物の注入速度が速すぎると、エポキシ樹脂組成物を充填すべき部位に均等に注入することが困難となるため、十分時間をかけて注入することが好ましい。エポキシ樹脂組成物を金型に注入する間、金型の温度を適宜制御することが好適である。同様に、エポキシ樹脂組成物の温度を制御することが好適である。
【0055】
金型11にエポキシ樹脂組成物を注入した後、中空糸束を一定温度に保持することでエポキシ樹脂組成物を硬化させ、管板を形成する。このときの温度は100℃以下好ましくは30〜80℃が好適である。温度が高いと、エポキシ樹脂組成物の硬化反応が激しくなり、管板の強度に問題が出るため好ましくない。
【0056】
本発明において、エポキシ樹脂組成物が硬化する前に、中空糸束の間がエポキシ樹脂組成物により均一に充填され、かつ不要な液上がりが生じないことが重要である。充填が不十分であると管板に薄い部分が生じて強度が不足したり、そもそも管板が形成できない場合がある。一方、液上がりは、中空糸の間を表面張力により組成物が上がる現象である。液上がりにより中空糸表面が樹脂硬化物で覆われるため、有効膜面積が減少する問題がある。本発明の製造方法では、エポキシ樹脂組成物が、適度な粘度、表面張力および中空糸材料との親和性を有していると考えられる。このため、エポキシ樹脂組成物が、中空糸束の間の充填性に優れ、かつ不要な液上がりも小さいと推定される。特に、40℃で測定したとき、2.0〜10Pa・sの粘度を有する組成物が好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂組成物が硬化した後、エポキシ樹脂組成物を加熱する事により後硬化を行うことが管板の耐久性、機械特性において好ましい。後硬化時の温度は100℃〜250℃が好ましい。後硬化時の温度が100℃より低いとエポキシ樹脂組成物の硬化が不十分と成るため、好ましくない。また、後硬化時の温度が高すぎると、エポキシ樹脂組成物の硬化反応が激しくなり、管板の強度に問題が出るため好ましくない。エポキシ樹脂組成物を後硬化する際には、複数回に分けて、それぞれ別々の温度に加熱しても構わない。
【0058】
エポキシ樹脂組成物を後硬化させた後、管板を切断し、中空糸膜を端部で開口させることによって、端部で中空糸が開口状態を保持して管板で固着された中空糸エレメントとする。
【0059】
ここで、中空糸束の両端部に管板を形成する場合には、前記の手順により中空糸束の一方の端部に管板を形成した後に、他方の端部に同様の手順によって管板を形成することによって行われる。一方の端部に管板を形成した後というのは、管板を切断して、中空糸膜を開口させた後であっても良い。また、金型にエポキシ樹脂組成物を注入、硬化した後、後硬化を行う前に他方の端部に管板を形成し、後硬化以降の手順を両端部に行うことも好適である。
【0060】
また、中空糸束6の外周部に形成されたキャリアガスガイドフィルム8は、例えば次のようにして作製することができる。まず、中空糸膜を集束した中空糸束を前記の方法等で作製し、その周囲にキャリアガスガイドフィルム8を形成するための、例えばポリエステルフィルムを巻き付け、その重なり部分を糊付けする。次いで、フィルムを巻きつけた状態で、前記束状物の両端部を前記の方法等で、管板相当部を形成する。その際、キャリアガス導入口側の管板7aに対応する端部では前記フィルム末端をも一緒に固着し、透過ガス排出口側の管板7bに対応する端部では前記フィルムの他の末端を管板7bに固着せず、透過ガスおよびキャリアガスが中空糸束から透過ガス排出口に流出するよう隙間を確保する。また、中空糸束の外周に、中空糸エレメントを保護するためのメッシュや2個の半割ケースからなる内套を、有機蒸気混合物の流路を確保できるようにして、備えても構わない。
【0061】
本発明における有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールとは、前記有機蒸気分離用の中空糸エレメントの一つあるいは二つ以上を、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を備える容器内に内蔵して構成されたものである。ガス分離膜モジュールの形態は特に限定されるものではなく、中空フィードタイプでもシェルフィードタイプでも良く、キャリアガスを用いるタイプでもキャリアガスを用いないタイプでも良い。キャリアガスを用いるタイプでは、容器にキャリアガス導入口を配置されたり、中空糸エレメントにキャリアガス導入管が配置されたりすることが好適である。
【0062】
本発明のガス分離膜モジュールは、中空糸エレメントが着脱可能であることが好ましい。容器内に中空糸エレメントを内蔵したガス分離膜モジュールは、管板で区切られ蒸気の流路を除いて密閉され、気密性を保持した空間を形成する。密閉方法は、特に限定されないが、弾性O−リングやパッキンが好適に用いられる。
【0063】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、内蔵される中空糸エレメントの形状や混合ガス導入口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口などの配置によって種々の形態をとり得る。例えば、円筒状であっても箱型のものであっても良い。いずれの場合もモジュール内では、中空糸膜の内部空間に通じる空間と、中空糸膜の外部空間に通じる空間とは互いに隔絶され、気密性を保持している。
有機蒸気の分離を行う際には、高温流体や高圧流体、あるいは減圧条件にさらされるものであるから、ガス分離膜モジュールの容器には、充分な強度と使用条件下での安定性が必要である。材質には特に限定はないが、金属、プラスチック、ガラス繊維複合材料、およびセラミックが好適に使用される。
【0064】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、混合ガス導入口、非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じ、キャリアガス導入口および透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じるように構成されていることが好ましい。特に、キャリアガス導入口が中空糸エレメントの略中心部にある芯管に配置されていることが、より好ましい。
【0065】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法について説明する。
【0066】
分離膜によるガス分離においては、分離膜を挟んだ二つの空間を、原料のガスを供給する空間(一次側)と、透過ガスが透過してくる空間(二次側)の二つに分ける。
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法において、中空糸膜の内部空間を一次側(原料ガス供給側)とする中空フィード、反対に中空糸膜の外部空間を一次側とする場合をシェルフィードのどちらであっても良い。中空糸膜を有効に利用するためには、原料ガスの偏流が起こりにくい中空フィードが好ましい。
シェルフィード、中空フィードのいずれの場合においても、ガス分離膜モジュールによる有機蒸気混合物を分離する方法は、下記の方法によって行われる。すなわち、混合ガス導入口からガス分離膜モジュール内の一次側の空間に供給された有機蒸気混合物は、中空糸膜の表面に接しながら流れて、非透過ガス排出口からモジュール外へ排出される。その間、中空糸膜を透過した透過ガスは、二次側の空間に設置された透過ガス排出口からモジュール外に排出される。中空糸膜は選択的透過性を有しているので、膜を透過した透過ガスは、高透過成分に富んでおり、非透過ガス排出口から排出される非透過ガスは、高透過成分の濃度が減少している。
【0067】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法においては、一次側での高透過成分の分圧が、二次側での高透過成分の分圧より高く保つように操作される。
具体的には、膜の二次側を減圧に保持して、中空糸膜の両側における高透過成分の分圧差を確保する方法が挙げられる。また、膜の二次側表面にキャリアガスを流通させる方法が挙げられる。その中で、膜の二次側表面にキャリアガスを流通させる方法が好ましく、かつ、キャリアガスが中空糸膜を挟んで有機蒸気混合物と向流になるように構成することが好ましい。
【0068】
前記キャリアガスは、高透過成分を含まないか、少なくとも高透過成分の分圧が非透過ガスより小さい濃度であるガスであれば特に制限はなく、例えば、窒素、空気などが使用できる。窒素は膜の二次側から一次側への逆浸透が起こりにくく、不活性であるために、防災上も好ましいキャリアガスである。そのほか、高透過成分を分離した非透過ガスの一部をキャリアガスの供給口に循環し、キャリアガスとして使用することも好適である。
【0069】
中空フィード型のガス分離膜モジュールにおいては、キャリアガスは中空糸膜の外側に沿って流れることで透過を促進する働きを有している。したがって、キャリアガスは中空糸膜の外側に沿ってショートパスがなく均一に流されることが好ましい。
【0070】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法において、分離する有機蒸気混合物(混合ガス)は、有機化合物の蒸気を含む2種以上のガス混合物であれば特に制限されるものではない。例えば、水蒸気と有機蒸気の混合蒸気からの水蒸気の分離(有機蒸気の脱水)や、メタノールとジメチルカーボネートとの混合蒸気からのメタノールの分離などに好適に使用することが出来る。
【0071】
前記の有機化合物としては、常圧における沸点が0℃以上200℃以下であるものが好ましい。有機化合物の沸点が0℃以上200℃以下であるのは、中空糸膜の使用温度範囲、有機蒸気混合物を過熱蒸気化するための設備、精製分離成分を凝集し回収するための設備や取扱いの容易さを考慮したときに実用的だからである。
【0072】
常圧における沸点が0℃以上200℃以下である有機化合物としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s-ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコールなどの脂肪族アルコール類、シクロヘキサノールなどの脂環族アルコール類、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸類、酢酸ブチル、酢酸エチルなどの有機酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど環式エーテル類、ブチルアミン、アニリンなどの有機アミン類、および、前記の化合物の混合物を挙げることができる。
【0073】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法においては、有機蒸気混合物は蒸発(蒸留)装置などによって加熱蒸発させて、常圧状態乃至0.1〜6気圧(ゲージ圧)程度の加圧状態の有機蒸気混合物として有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される。加圧状態の有機蒸気混合物は、加圧蒸発器で直接加圧状態の有機蒸気混合物を得ても良いし、常圧蒸留器で得られた常圧状態の有機蒸気混合物をベーパーコンプレッサーによって加圧することで得ても構わない。
また、有機蒸気混合物は有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給され中空糸内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない程度以上に十分高温に過熱された有機蒸気混合物として供給されることが好ましい。
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される有機蒸気混合物は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上の温度のものである。
【0074】
過熱された有機蒸気混合物を得る方法としては、具体的には、有機化合物を含む溶液混合物を加熱装置付蒸発装置などによって気化すると同時に加熱(過熱)処理することが好適である。また、気化した有機蒸気混合物を、別に備えた加熱装置を用いて加熱(過熱)処理を行い、過熱された有機蒸気混合物を好適に得ることもできる。
また、必要に応じて有機蒸気混合物を、その温度を保持しながら圧力を低下させる処理をおこなった後、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給しても構わない。圧力を低下させる処理方法は、通常の減圧弁等に拠っても良いし、気化したガス混合物をデミスター(ミストセパレーター)などで処理してミストを除去すると同時に圧損を発生させることに拠っても良い。
【0075】
前記処理後の有機蒸気混合物はその温度での飽和蒸気圧未満の圧力を有するガス混合物になっており、その状態を保持したまま(具体的には、保温されて)有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給されるのが好適である。そうすれば、有機蒸気混合物が中空糸膜内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない。
【0076】
本発明は、前記の有機物のうち、さらに、アルコールを含有する水溶液の脱水に好ましく利用でき、特にエタノール又はイソプロパノールを含有する水溶液の脱水に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0077】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限られるものではない。
【0078】
(エポキシ樹脂組成物の調製方法)
エポキシ化合物(A)として jER604(ジャパンエポキシレジン(株)製)、エポキシ化合物(B)として jER630(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および芳香族アミン化合物(C)としてMDA−220(三井化学ポリウレタン(株)製)を用いた。
所定量のjER604、jER630およびMDA−220を均一に混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0079】
(試験片の作成方法)
前記の手法で調製したエポキシ樹脂組成物を、キャストすることにより形成した薄膜を、180℃で4時間硬化させて、厚さ100μmのエポキシ樹脂硬化物からなる薄膜を作成した。前記薄膜を、幅2mm、長さ30mmの短冊状に切断して試験片とした。
【0080】
(機械特性の測定方法)
前記試験片を、引張り試験機を用いて、引張り速度2mm/min、チャック間距離20mmとして、引張り破断強度、弾性率(ヤング率)、引張り破断伸度の測定を行った。測定は、温度23℃、湿度50%RHの調湿条件下で行った。
【0081】
(耐有機蒸気性の評価(エタノール抽出量の測定))
前記試験片を120℃で2時間真空乾燥を行った後重量(初期重量)を測定した。その後、130℃のエタノールに5日間浸漬した。エタノールから試験片を取り出し、120℃で3日間真空乾燥し、その後で、重量(浸漬後重量)を測定した。
エタノール抽出量(%)は、下式によって算出した。
エタノール抽出量(%)=(初期重量−浸漬後重量)/(初期重量)×100
エタノール抽出量は、エタノール浸漬によって溶出される量を測定したものであって、耐有機蒸気性の指標になる。すなわち、この値が大きいと、有機蒸気分離を行う際に、有機蒸気による影響を受けやすいことを意味する。
【0082】
(管板の成形性の評価)
ポリイミド中空糸膜(長さ;100cm、外径;500μm)を12000本集束した糸束を、図2bに示す様にφ100mmの金型内に配置した。糸束を金型を下にして実質的に直立させ、前記の手法で調製した60℃のエポキシ樹脂組成物を40℃に保温した金型内にゆっくりと注入した後、120℃に加温してエポキシ樹脂の硬化を行うことにより管板の成形を行った。管板の厚みが90mm程度となるようにエポキシ樹脂の注入量を制御した。硬化後、中空糸エレメントを容器から取り出して目視により観察し、更に管板を略半分に割って中心部の状態についても目視により観察した。
【0083】
この管板の成形における成形性について、下記のように評価した。
糸束内充填性に関しては、エポキシ樹脂組成物を充填すべき領域の全ての部分にエポキシ樹脂組成物が充填されている場合を○、充填すべき空間の50%以上が充填されなかった場合を×と評価した。
液上りに関しては、成形された管板の平均の厚みと比較して、厚みのもっとも厚い部分が平均の厚みより20mm以上厚いものを×、差が20mm未満であるものを○と評価した。
ひけに関しては、成形された管板の外周部に直径20mm以上の範囲でひけが生じているのを×、5mm以上のひけが生じなかったものを○と評価した。
【0084】
(実施例1)
前記方法により、jER604 70重量部、jER630 30重量部およびMDA−220 44.1重量部からなる組成のエポキシ樹脂組成物を調製した。
このエポキシ樹脂組成物を硬化した試験片の機械特性とエタノール抽出量を測定した結果を表1に示す。ヤング率は2.9GPa、伸度は6.6%となった。エタノール抽出量は1.0%と低い値であった。このエポキシ樹脂組成物を用いて管板の成形性の評価した結果を表1に示す。
管板の成形性の評価方法と同様の方法で中空糸束の両端部に管板を成形して、中空糸エレメントを製造したところ、良好な形状の管板を得ることができた。
【0085】
(実施例2,3)
表1に示した組成のエポキシ樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。また、管板の成形性の評価方法と同様の方法で中空糸束の両端部に管板を成形して、中空糸エレメントを製造したところ、良好な形状の管板を得ることができた。
【0086】
(比較例1)
前記方法により、jER630 100重量部およびMDA−220 50.6重量部からなる組成のエポキシ樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0087】
(比較例2)
エポキシ樹脂組成物の組成を、jER604 50重量部、jER630 50重量部、およびMDA−220 46.0重量部として、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
また、管板の成形性の評価方法と同様の方法で中空糸束の両端部に管板を成形して、中空糸エレメントを製造したところ、液上りが激しく、またひけが大きくでき、良好な管板を得ることができなかった。
【0088】
(比較例3)
前記方法により、jER604 100重量部およびMDA−220 41.3重量部からなる組成のエポキシ樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
このエポキシ樹脂組成物を用いて管板の成形性の評価した結果を表2に示す。また、管板の成形性の評価方法と同様の方法で中空糸束の両端部に管板を成形して、中空糸エレメントを製造したところ、エポキシ樹脂組成物が金型内に十分に充填されず、良好な管板を得ることができなかった。
【0089】
【表1】


【0090】
【表2】

【0091】
(参考例)
エポキシ化合物(A):jER604と、エポキシ化合物(B):jER630との混合物の粘度を回転粘度計(ローターのずり速度10sec−1)を用いて温度40℃で測定した結果を、図3に示す。エポキシ化合物(A)とエポキシ化合物(B)が混合比により変化していることから、重量比が90:10〜60:40の範囲で使用時に適切な粘度を有すると推定される。
以上の結果より、本発明において使用されるエポキシ樹脂組成物は、成型性に優れ、静置成形により、簡便に管板を成形できることが判った。また、その硬化物は、水蒸気が共存する条件(調湿条件)下でも、機械的特性に優れ、エタノール抽出量が少なく有機溶媒に対する耐久性が高い。従って、静置成形で成形した管板を用いた有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールにより、長時間安定して有機混合物の分離を行う事ができることが示された。
【0092】
(実施例4)
ポリイミド中空糸膜(膜面積 1.9m)を集束した糸束の両端部に、実施例1での組成のエポキシ樹脂組成物を用いて管板を作成し、有機蒸気分離用の中空糸エレメントを作成した。前記中空糸エレメントを収納した図1の構成の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いて、イソプロパノールの脱水を行った。イソプロパノール95.13重量%及び水4.87重量%を含有する溶液を、加熱して120℃の有機蒸気混合物としてガス分離膜モジュールへ供給して、脱水操作を行った。
その分離膜モジュールにおける脱水操作においては、乾燥窒素ガス(キャリアガス)を120℃に加熱し、中空糸膜の外側(中空糸の周辺部、透過側)に流通させると共に、中空糸膜の透過側を100mmHgに減圧して、混合ガス中の水蒸気を選択的に膜透過させて分離することによって混合ガスの脱水操作を行った。分離膜モジュールの透過蒸気および非透過蒸気は、冷却されて凝縮させて、透過蒸気および非透過蒸気の凝縮液を得て、回収した。その脱水操作の結果を、表3に示す。1年間連続で運転を行ったが、性能の変化は認められなかった。また、運転後に管板の外観を目視で確認したところ、クラックなどは見られず、良好であった。
【0093】
【表3】


【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の有機蒸気分離用の中空糸エレメントおよび、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いることで、有機蒸気分離において高温・高圧の条件下においても気密性を保ち、分離性能を維持して、有機蒸気の分離を効率よく行う事が出来る。また、本発明の中空糸エレメントは、静置成形で簡便に作成が可能であり、生産性を向上させるのが容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の少なくとも一方の端部が、エポキシ樹脂組成物の硬化物により形成される管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントであって、
前記エポキシ樹脂組成物の樹脂成分が、下記式(1)で示されるエポキシ化合物(A)、下記式(2)で示されるエポキシ化合物(B)、芳香族アミン化合物(C)とからなり、
前記エポキシ化合物(A)と前記エポキシ化合物(B)が重量比で90:10〜60:40の範囲の割合で配合されている
ことを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【化1】


【化2】


(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基または水素原子を表す。)
【請求項2】
エポキシ化合物(B)が、トリグリシジル−4−アミノフェノールであることを特徴とする請求項1に記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項3】
芳香族アミン化合物(C)が、4,4’−ジアミノジフェニルメタンであることを特徴とする請求項1乃至2に記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項4】
前記中空糸エレメントが、多数の中空糸膜からなる糸束の略中心部にガスを導入する機能を持つ芯管を持つことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項5】
前記中空糸エレメントが、多数の中空糸膜からなる糸束の外周部をキャリアガスガイドフィルムによって覆われていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項6】
選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の端部を金型に入れ、次いでエポキシ樹脂組成物を金型内に注入した後、エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより糸束の端部に管板を形成して、中空糸膜の端部の固着、結束を行う有機蒸気分離用の中空糸エレメントの製造方法において、
前記エポキシ樹脂組成物として、
式(1)で示されるエポキシ化合物(A)、式(2)で示されるエポキシ化合物(B)、芳香族アミン化合物(C)とからなり、前記エポキシ化合物(A)と前記エポキシ化合物(B)が重量比で90:10〜60:40の範囲の割合で配合されている樹脂成分を含有するエポキシ樹脂組成物を用いる
ことを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメントの製造方法。
【化3】


【化4】


(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基または水素原子を表す。)
【請求項7】
金型に注入したエポキシ樹脂組成物を静置した状態で硬化させ、管板を形成することを特徴とする請求項6に記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメントの製造方法。
【請求項8】
少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を有する容器内に、請求項1乃至5のいずれかに記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメントが収納されて構成されていることを特徴とする有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【請求項9】
前記容器が、さらにキャリアガス導入口を有することを特徴とする請求項8に記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【請求項10】
混合ガス導入口、非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じ、キャリアガス導入口および透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じるように構成されていることを特徴とする請求項8乃至9に記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかに記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いることを特徴とする有機蒸気混合物を分離する方法。
【請求項12】
有機蒸気混合物を混合蒸気導入口から80℃以上で導入し、高透過成分を中空糸膜を選択的に透過させ、透過蒸気又は非透過蒸気として高純度化した有機蒸気を得ることを特徴とする請求項11に記載の有機蒸気混合物を分離する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−82496(P2010−82496A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251251(P2008−251251)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】