説明

有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール

【課題】 有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールにおいて、有機蒸気分離を行う際に中空糸エレメントの管板が破損することを防止する。
【解決手段】 選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントであって、
透過側空間にのみ開放された穿孔が、管板の無垢部にあることを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、固着され、結束されている有機蒸気分離用の中空糸エレメント、および、前記中空糸エレメントを容器内に収納した有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに関する。また、前記ガス分離膜モジュールを用いて有機蒸気分離を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、選択的透過性を有する分離膜を用いて分離する方法(有機蒸気分離)が、注目を集めている。その中でも、含水有機化合物を脱水して高純度の有機化合物を得る方法が、近年、特に、注目を集めている。この方法に用いられるガス分離膜モジュールとしては、プレートおよびフレーム型、チューブラー型、中空糸型などがある。そのなかでも、中空糸型のガス分離膜モジュールは、単位体積当たりの膜面積がもっとも大きいという利点を有するだけでなく、耐圧性、自己支持性の点においても優れているので、工業的に有利であり、広範囲に利用されている。
【0003】
中空糸型のガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離は、以下のように行われる。有機化合物を含む液体化合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、混合ガス導入口からガス分離膜モジュールに供給する。有機蒸気混合物が中空糸膜に接して流通する間に、中空糸膜を透過した透過蒸気と、中空糸膜を透過しなかった非透過蒸気とに分離し、透過蒸気を透過ガス排出口から、非透過蒸気を非透過ガス排出口から回収する。中空糸膜は選択的透過性を有するため、透過蒸気は分離膜の透過速度が速い成分(以下、高透過成分と記載することもある)に富み、非透過蒸気は高透過成分が少なくなる。この結果、有機蒸気混合物は、高透過成分に富んだ透過蒸気と、高透過成分が少ない非透過蒸気とに分離される。
【0004】
中空糸型のガス分離膜モジュールは、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、固着され、結束されている中空糸エレメントを、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を備えた容器に収納しているものである。
【0005】
管板は、糸束を一体に固着する役割のほか、中空糸と中空糸の間、および、中空糸と容器の間を密封することにより、中空糸膜の内部空間と外部空間を隔絶し、内部空間と外部空間との気密性を保持する役割を持っている。中空糸型のガス分離膜モジュールは、前記管板による気密性が失われると、好適な分離が行われなくなる。
【0006】
中空糸型のガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離として、例えば、有機化合物を含む水溶液を脱水して、純度の高い有機化合物を精製・回収する方法が特許文献1で提案されている。まず、有機化合物を含む水溶液を加熱気化させて有機化合物の蒸気(有機蒸気)と水蒸気とを含む有機蒸気混合物を生成させ、次いで、この有機蒸気混合物を70℃以上の温度にて中空糸型の芳香族ポリイミド製気体分離膜(中空糸膜)の一方の側に接触させて流通する間に水蒸気を選択的に透過分離し、これにより水分を除いた高純度の有機化合物を得ている。
【0007】
比較的少ない面積で効率よく有機蒸気混合物の脱水を行う方法が、特許文献2に提案されている。中空糸束の外周部がフィルム状物質で被覆されているガス分離膜モジュールを用いることによって効率的な脱水を実現している。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−267415
【特許文献2】特開2000−262838
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機蒸気分離においては、有機化合物を含む液体混合物を加熱した有機蒸気混合物をガス分離膜モジュールに供給して分離するため、管板は、有機化合物の沸点より高い温度、および高い圧力の有機蒸気にさらされる等の厳しい条件下で用いられている。
【0010】
有機蒸気分離、特に含水有機化合物を脱水する方法において、ガス分離膜モジュールに供給された有機蒸気混合物は、直接もしくは中空糸膜を介して管板と接触する。その結果、有機蒸気混合物の一部は管板内部に浸透する。管板内部に浸透している有機蒸気混合物は、管板の樹脂を膨潤させ、変形を促す。管板の、中空糸膜埋設部(中空糸膜が埋設された部分)と、無垢部(中空糸膜の埋設されていない部分)とにおける、有機蒸気分離を行っている際の、有機蒸気混合物の浸透および樹脂の膨潤ならびに変形は、以下のように異なっていると考えられる。
中空糸膜埋設部においては、中空糸膜と中空糸膜との間を樹脂が埋めている構造となっており、樹脂の厚みが薄くなっている。したがって、中空糸膜埋設部の樹脂は、ほぼ均一に膨潤していると考えられる。しかも、樹脂が膨潤したことにより変形した場合でも、中空糸膜埋設部には、中空糸膜の内部空間があるため変形の余地が存在し、少々の変形は吸収することができる。
それに対して、無垢部は、樹脂のみで構成されているために、無垢部に浸透している有機蒸気混合物は、樹脂内を拡散することによってのみ輸送される。樹脂内の拡散は、一般に早いものではないので、無垢部において、浸透している有機蒸気混合物の濃度は、場所により異なると考えられる。管板内に浸透している有機蒸気混合物は、接触面積および拡散距離の問題から、主として中空糸膜を介して中空糸膜埋設部から無垢部に向かい拡散しているため、特に中空糸膜埋設部との境界部分と、管板の外縁部とでは、浸透している有機蒸気混合物の濃度が大きく異なり、樹脂の膨潤の程度も同様に大きく異なっていると考えられる。しかも、無垢部の樹脂が、膨潤したことにより変形しようとすると、無垢部は樹脂のみにより構成され変形の自由度が少なく、かつ、管板の外縁部においては、容器に制約されて変形できない。よって、無垢部に内部応力が生じやすい。また、変形方向が中空糸膜埋設部を向くこととなるので、中空糸膜埋設部と無垢部との境界部分に、特に応力が集中しやすい。
また、有機蒸気分離の操作を停止した際には、管板に浸透している有機蒸気混合物が乾燥することにより管板は収縮する。乾燥の際においても、前述の膨潤の際と同様に、中空糸膜埋設部では均一に乾燥されやすく、無垢部においては不均一に乾燥されやすい。したがって、膨潤の場合と同様に、無垢部に内部応力が生じやすく、中空糸膜埋設部と無垢部との境界部分に応力が集中しやすい。
前述のとおり、管板の中空糸膜埋設部と無垢部とは、有機蒸気分離を行っている際、および、有機蒸気分離を静止した際において、樹脂の膨潤および変形のメカニズムが異なっており、管板の無垢部における中空糸膜埋設部に近接した部分に応力が集中しやすい。結果として、管板の無垢部、特に中空糸膜埋設部に近接した部分が破損することがある。前述の応力により管板が破損すると、管板の気密性が失われることにより、有機蒸気分離を行う際の分離性能が低下する。したがって、有機蒸気分離を、長期間、安定した分離性能で行うことが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、有機蒸気分離を行う際に、中空糸エレメントの管板が破損する危険性を著しく低下させ、長期間安定した分離性能を発揮させながら有機蒸気分離を行うための手段を種々検討した結果、以下の発明に至った。
【0012】
本発明は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントであって、
透過側空間にのみ開放された穿孔が、管板の無垢部にあることを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメントに関する。
【0013】
さらに本発明は、穿孔が、管板の外縁部にある無垢部にあることを特徴とする前記の有機蒸気分離用の中空糸エレメントに関する。
【0014】
さらに本発明は、穿孔が、中空管を管板に埋設することにより形成されていることを特徴とする前記の有機蒸気分離用の中空糸エレメントに関する。
【0015】
さらに本発明は、中空管が、前記中空糸束を形成する中空糸膜と同様の中空糸膜からなることを特徴とする前記の有機蒸気分離用の中空糸エレメントに関する。
【0016】
さらに本発明は、選択的透過性を有する中空糸膜が、芳香族ポリイミド中空糸膜であることを特徴とする前記の有機蒸気分離用の中空糸エレメントに関する。
【0017】
また、本発明は、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を有する容器内に、前記の有機蒸気分離用の中空糸エレメントが収納されて構成されていることを特徴とする有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに関する。
【0018】
さらに本発明は、容器が、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口およびキャリアガス導入口を有することを特徴とする前記の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに関する。
【0019】
さらに本発明は、混合ガス導入口および非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じ、透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じるように構成されていることを特徴とする前記の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに関する。
【0020】
また、本発明は、有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、前記の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに導入し、選択的透過性を有する中空糸膜を用いて分離することを特徴とする有機蒸気分離を行う方法に関する。
【0021】
さらに本発明は、有機蒸気混合物を混合ガス導入口から80℃以上で導入し、高透過成分を中空糸膜を選択的に透過させ、透過蒸気又は非透過蒸気として高純度化した有機蒸気を得ることを特徴とする前記の有機蒸気分離を行う方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の中空糸エレメント、および、ガス分離膜モジュールを用いることによって、有機蒸気分離を行う際に管板が破損する危険性を著しく低下させることができる。その結果、有機蒸気分離を行う際に、長期間安定した分離性能を発揮させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の有機蒸気分離用の中空糸エレメント、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール、および、前記の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いて有機蒸気分離を行う方法について詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0024】
なお、本発明における中空糸エレメントとは、少なくとも選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、中空糸膜の開口を維持した状態で、固着され、結束されているものを意味する。
【0025】
また、ガス分離膜モジュールとは、前記中空糸エレメントの少なくとも一つ以上を、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を備える容器内に内蔵して構成されたものを意味する。
【0026】
なお、本発明において、有機蒸気分離とは、常温で液体である有機化合物を含む液体混合物を加熱した蒸気状態の混合物(有機蒸気混合物)を、混合ガス導入口からガス分離膜モジュールに導入し、有機蒸気混合物が中空糸膜に接して流通する間に、中空糸膜を透過した透過蒸気と、中空糸膜を透過しなかった非透過蒸気とに分離し、透過蒸気を透過ガス排出口から、非透過蒸気を非透過ガス排出口から回収する方法のことを意味する。
中空糸膜は選択的透過性を有するため、透過蒸気は中空糸膜を透過する速度が速い成分(以下、高透過成分と記載することもある)に富み、非透過蒸気は高透過成分が少なくなる。この結果、有機蒸気混合物は、高透過成分に富んだ透過蒸気と、高透過成分が少ない非透過蒸気とに分離される。
【0027】
有機蒸気分離としては、例えば、水を含むエタノールを、ポリイミド製中空糸膜を用いて脱水する例があげられる。ポリイミド製中空糸膜を透過する速度は、水蒸気のほうが速いため水蒸気が高透過成分となり、水蒸気を主成分とする透過蒸気と、エタノール蒸気を主成分とする非透過蒸気とに分離、回収される。その結果、脱水されたエタノールが得られる。
【0028】
一般に、ガス分離膜モジュールは、ガス分離膜(本発明においては中空糸膜)を挟んだ二つの空間を、原料のガスを供給する一次側空間(以下、供給側空間とも記載する)と、透過ガスが透過してくる二次側空間(以下、透過側空間とも記載する)の二つに分ける。
中空糸型ガス分離膜モジュールにおいては、中空糸膜の内部空間を供給側空間とするボアフィード型、反対に中空糸膜の外部空間を供給側空間とするシェルフィード型の2種類がある。ボアフィード型ガス分離膜モジュールにおいては、中空糸膜の内側空間および、連通する混合ガス導入口および非透過ガス排出口が供給側空間となり、容器内側であって中空糸膜の外側空間および連通する透過ガス排出口が透過側空間となる。また、シェルフィード型ガス分離膜モジュールにおいては、容器内側であって中空糸膜の外側空間が供給側空間となり、中空糸膜の内部空間および連通する透過ガス排出口が透過側空間となる。
本発明のガス分離膜モジュールは、ボアフィード型、シェルフィード型のどちらであっても良い。
【0029】
ボアフィード型ガス分離膜モジュール、およびシェルフィード型ガス分離膜モジュールのいずれにおいても、管板はガス分離膜モジュールの容器内の空間を供給側空間と透過側空間とに隔絶する機能を有している。すなわち管板の一方の端面は供給側空間に、他方の端面は透過側空間に面している。
【0030】
本発明の特徴は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントにおいて、管板の無垢部に、透過側空間にのみ開放された穿孔がある点にある。以下に、本発明の特徴である管板の無垢部に備える透過側空間にのみ開放された穿孔について説明する。
【0031】
本発明における穿孔は、管板内部に通気可能な空間を形成し、前記空間は透過側空間にのみ開放されている。そしてこの穿孔は、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を、開口から透過側空間へ容易に排出することができる機能を備えている。穿孔は、前記機能を備えていればどのような形態でも構わないが、通常は中空糸束と平行な方向を向いた円柱状の形態をとる。有機蒸気混合物を容易に排出するためには、穿孔の形成する空間が、開放端に向かって断面積が等しいか、拡大する形態が好ましい。また、穿孔を形成する際に、断面が円形などの簡単な形状であると、形成が容易である。よって、通常は円柱状の形態が好ましい。穿孔が中空糸束と平行な方向を向いているのは、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を効率的に排出するために、透過側空間への最短距離をとるためである。
【0032】
穿孔は、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を排出する機能を発揮するために、透過側空間にのみ開放されていることが重要である。一般に、有機蒸気分離を行っている際には、透過側空間において、高透過成分の分圧が、供給側空間の分圧より低くなるよう運転する。また、通常、透過ガスを効率的に排出するために透過側空間を減圧にするために、高透過成分以外の成分についても、透過側空間における分圧が、供給側空間における分圧よりも低くなる。したがって、透過側空間と連通した穿孔が、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を排出するのに適当である。
【0033】
もし、穿孔が透過側空間と連通するのではなく、供給側空間と連通している場合には、分離膜モジュールに供給される有機蒸気混合物が、穿孔の形成する空間に導入される。管板内部に浸透している有機蒸気混合物は、中空糸膜の内部空間に供給された有機蒸気混合物が、直接もしくは中空糸膜を介して接触した後、管板内部に拡散したものなので、分離膜モジュールに供給される有機蒸気混合物の濃度より低い。したがって、穿孔が供給側空間と連通していると、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を排出するどころか、穿孔を設けることにより、管板内部に浸透する有機蒸気混合物を増加させることとなるので、好ましくない。
穿孔が、供給側空間と透過側空間との双方と連通している場合には、供給側空間と透過側空間とが連通することとなる。したがって、管板の機能を損なうこととなり、分離膜モジュールの性能を低下させるため、適当ではない。
【0034】
穿孔の大きさに関しては、有機蒸気混合物を容易に排出する機能を果たすことが可能であり、かつ、管板の強度を損ねることがない大きさであれば良い。穿孔が小さすぎた場合には、有機蒸気混合物を排出する際に抵抗が大きく、排出が容易に行われないので好ましくない。穿孔が大きすぎる場合には、管板の強度を損ねるためにやはり好ましくない。例えば、円柱状の形状であれば、0.001mm〜10mmの径が好ましい。
【0035】
穿孔は、供給側空間と連通しないことが必要であるが、管板内部に浸透している有機蒸気混合物の排出を十分に行うためには、供給側空間に近接した部分まで存在することが、有利である。例えば、穿孔が中空糸束と平行な方向を向いた円柱状である場合、穿孔は、管板の透過側空間に接した面に開口を持ち、供給側空間に接した面に向かう空間を形成している。穿孔の、透過側空間に接した面から、供給側空間に近接した内壁面までの距離を、
穿孔の深さとすると、穿孔の深さは、管板の厚み(管板の透過側空間に接した面から供給側の空間に接した面までの距離)の80%以上である事が好ましく、さらに好ましくは90%以上である。穿孔の深さが深すぎると、供給側空間の圧力により、穿孔が連通してしまうことがあるため、穿孔の深さは、管板の厚みの99.5%以下、より好ましくは99%以下であることが好ましい。
【0036】
穿孔の密度は、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を透過側空間へ排出する機能を果たすことができ、管板の強度を損ねることがないものであれば、特に制限されるものではない。穿孔の密度が少なすぎる場合、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を透過側空間へ十分に排出することができないので好ましくない。穿孔の密度が高すぎると、管板の断面積に占める穿孔による空孔の断面積の割合(以下管板の空孔率と記載することもある)が大きくなり、管板の穿孔を備える部分の強度を損ねるために好ましくない。
【0037】
穿孔を設ける部分は、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を排出できる機能を満たすことができれば、特に制限はないが、穿孔を備える部分が必要以上に広い場合、管板全体の大きさが必要以上に大きくなり、ガス分離膜モジュール全体の大きさが大きくなるために好ましくない。
【0038】
穿孔は、管板の無垢部における中空糸膜埋設部との境界部分に備えることが好ましい。管板内部に浸透している有機蒸気混合物は、直接接触して、無垢部に拡散したもの割合と比較して、中空糸膜を介して管板の無垢部に拡散したものの割合が多いと考えられる。したがって、中空糸膜を介して無垢部に向けて拡散する有機蒸気化合物を効率的に排出するために、管板の無垢部における中空糸膜埋設部との境界部分に、穿孔を備えることが好ましい。
【0039】
穿孔は、特に管板の外縁部にある無垢部にあることが好ましい。中空糸エレメント、特に、着脱可能な中空糸エレメントにおいて、通常、管板の外縁部分は、ガス分離膜モジュールの容器の内部空間を隔絶する機能のみならず、中空糸エレメントをガス分離膜モジュールの容器に固定する機能を有している。また、管板外縁部は、ガス分離膜モジュールの容器と接しているため、変形の自由度が少ない。よって、有機蒸気分離を行う際には、管板の外縁部分には特に応力が集中する。したがって、管板外縁部にある無垢部は、管板内部に浸透している有機蒸気混合物による影響が特に大きく発現するため、管板外縁部の無垢部に穿孔を備えることが好ましい。
【0040】
穿孔の態様としては、以下に示す中空管を穿孔として設置する態様が挙げられる。
ガス分離膜モジュール用の中空糸エレメントにおいて、中空糸膜を集束した中空糸束の周囲に、管板の厚みと同程度の長さの中空管を配置した後に、管板を形成することにより、管板の無垢部に中空管を埋設する。前記中空管は、管板の面のうち、供給側空間と接する面においては、閉塞させ、かつ、管板のもう一方の、透過側空間と接する面では開口させた状態で設置される。管板の供給側空間と接する面においては、閉塞させた中空管の端部が管板の内部に埋設されている(管板の面に露出していない)事が好ましい。ボアフィード型ガス分離膜モジュール用の中空糸エレメントにおいては、中空管の中空糸束の端部(選択透過性を有する中空糸膜の開口部)を向いた方向の端部を閉塞し、中空管中空糸束の中央方向を向いた方向の端部を開口させている。
【0041】
中空管は、少なくとも有機蒸気混合物の透過性を有しており、管板内部に浸透している有機蒸気混合物を透過側空間に排出する機能を備えていれば、形状、材質等に特に制限はない。例えば、高分子製の中空糸膜、セラミック製の多孔質中空管等が挙げられる。中空管の外径は、0.01mm〜10mmが好ましい。中空管の外径が大きすぎると、管板内の中空管が占める割合が大きくなり、管板の強度が損なわれるため好ましくない。したがって、中空管の外径は、好ましくは、10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。中空間の内径は、十分に管板内に浸透している有機蒸気混合物を排出するために、中空管内部の有機蒸気混合物がクヌーセン流れとならないことが必要であるため、0.01mm以上であることが好ましい。中空管の管厚に関しては、中空管の材質にもよるが、中空管の外径の5%〜40%程度が好ましい。管厚が薄すぎると、中空管を設置する際に中空管が潰れてしまい、中空管の内部空間を維持できないため好ましくない。管厚が厚すぎると、ガス分離膜モジュールが必要以上に大きくなるため好ましくない。
【0042】
中空管が特に硬い材質であると、中空管を設置した部分が、中空糸膜埋設部や無垢部と比較して機械的強度が高くなり、それらの部分との境界部分に応力が集中し、破損する危険性が高くなる。また、中空管が特にやわらかい材質であると、管板を形成する時に潰れてしまい、有機蒸気混合物が透過してくる空間を維持することが困難である。前記の点から、中空管として、中空糸束を形成するものと同様の中空糸膜を用いることが好適である。特に、中空管としての中空糸膜を中空糸束と同程度の密度で配置した場合には、中空糸埋設部と中空管が配置された部分とで管板の空孔率が同程度となり、機械的性質も同程度となるため、より好適である。通常は、管板の無垢部における中空糸膜埋設部との境界部分に、中空糸束の同程度の密度で1〜5層を配置される。
【0043】
別の態様として、管板の無垢部に、中空糸膜側の端面から、中空糸膜開口部の存在する端面に向かって錐などの手段により非貫通孔を穿つことが挙げられる。穿孔の径が0.01mm以下であると、穿孔内の気体の流れが粘性流からクヌーセン流れに移るために管板内に浸透している有機蒸気混合物を十分に排出することが困難であるため好ましくない。穿孔の径が大きすぎる場合には、管板の強度を低下させるため好ましくない。したがって、穿孔の径は、好ましくは0.01mm〜1mmである。
【0044】
ボアフィード型モジュールにおいては、中空糸束の両方の端部(混合ガス導入口側端部と非透過ガス排出口側端部)に管板が存在する。有機蒸気混合物は、混合ガス導入口において、非透過ガス排出口におけるものより高透過成分に富んでいるため、少なくとも混合ガス導入口側端部に穿孔を設置することが必要である。非透過ガスも有機蒸気であり、非透過ガス排出口側端部においても、有機蒸気混合物は管板内部に浸透しているため、非透過ガス排出口側端部においても穿孔を設置することが好ましい。
【0045】
具体的な態様について、図に沿って説明する。図1は、本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの一例である、ボアフィード型の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの概略を表す断面図である。図1に示すガス分離膜モジュールは、混合ガス導入口1、透過ガス排出口3および非透過ガス排出口4を有する筒型容器5からなり、前記筒型容器5には選択的透過性を有する多数の中空糸膜6aを束ねて形成した糸束6が、次の態様の中空糸エレメントとして内蔵されているものである。すなわち、前記糸束6は、図中混合ガス導入口1側の端部で、硬化樹脂からなる第一管板7aにより、また、図中非透過ガス排出口4側の端部で同じく硬化樹脂からなる第二管板7bによりそれぞれ固着され、全体として中空糸エレメントを形成している。この中空糸エレメントにおいて、前記中空糸束6を形成する各中空糸膜は、前記管板7a,7bを貫通して、開口した状態でそれぞれ固着されている。第一管板7aの無垢部に、中空管11(穿孔として機能する)が埋設されている。前記中空管11は、透過側空間(管板7a,7bの間の中空糸束が収納されている空間)に向かってのみ開放され、供給側空間(混合ガス導入口1と第一管板7aとの間の空間および中空糸膜の内部空間および非透過ガス排出口3と第二管板7bとの間の空間)とは連通していない。
【0046】
図2は、本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの別の一例である、中空糸束の略中心部にキャリアガス供給用の芯管を有し、中空糸束外周部にキャリアガスガイドフィルムが被覆されているボアフィード型の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの概略を表す断面図である。図1に示したモジュールに加え、第二管板7bの無垢部に、第一管板7aと同様に中空管11が埋設されている。さらに、容器5はキャリアガス導入口を設けており、中空糸束6の外周部のキャリアガスが導入され排出されるまでの位置に、キャリアガスガイドフィルム8が被覆されている。また、管板7bを貫通して、かつ中空糸束6の略中心部に前記中空糸束に沿って配せられる芯管9を設け、キャリアガス導入側の第二管板7bの近傍に位置する前記芯管に、前記芯管内部空間と中空糸束とを連通する連通孔10が形成されている。
【0047】
図3は、本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールのさらに別の一例である、シェルフィード型の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの概略を示す断面図である。図3に示すガス分離膜モジュールは、混合ガス導入口1、透過ガス排出口3および非透過ガス排出口4を有する筒型容器5からなり、前記筒型容器5には選択的透過性を有する多数の中空糸膜6aを束ねて形成した糸束6が、次の態様の中空糸エレメントとして内蔵されているものである。すなわち、前記糸束6は、図中混合ガス導入口1側の端部で、硬化樹脂からなる第一管板7aにより固着され、全体として中空糸エレメントを形成している。この中空糸エレメントにおいて、前記中空糸束6を形成する各中空糸膜は、前記管板7aを貫通して、開口した状態で固着されている。第一管板7aの外縁部のうち中空糸束が埋設されていない部分に、中空管11が埋設されている。前記中空管11は、透過側空間(透過ガス排出口3と管7aとの間の空間および連通した中空糸膜の内部空間)に向かってのみ開放され、供給側空間(混合ガス導入口1および非透過ガス排出口4と連通した、中空糸束が収納されている空間)とは連通していない。
【0048】
図1に示すボアフィード型ガス分離膜モジュールを用いて有機蒸気分離を行う方法の一例を以下説明する。有機蒸気混合物は好ましくは過熱され、混合ガス導入口1から中空糸膜の開口を経て中空糸膜の内部空間(供給側空間)に導入される。有機蒸気混合物が中空糸膜の内部空間を流れる間に、高透過成分が選択的に膜を透過した透過蒸気は管板7a,7bの間の中空糸束が収納されている空間(透過側空間)に移動して、透過ガス排出口3から排出される。透過しなかった非透過蒸気は中空糸膜のもう一方の開口が面している空間を経て非透過ガス排出口4から排出される。また、透過側空間を排気し、減圧状態にすることによって、高透過成分の分圧が供給側空間(一次側)よりも透過側空間(二次側)が低くなるように操作される。
有機蒸気混合物は、有機蒸気分離を行っている間に一部が管板内部に浸透する。管板内部に浸透している有機蒸気混合物は、中空管11を通路として透過側空間へ移動して、透過蒸気と共に透過蒸気排出口3から排出される。
【0049】
図3に示すシェルフィード型ガス分離膜モジュールを用いて有機蒸気分離を行う方法の一例を以下説明する。有機蒸気混合物は好ましくは過熱され、混合ガス導入口1から管板7a,7bの間中空糸膜が収納されている空間(供給側空間)に導入される。有機蒸気混合物が中空糸膜の表面に接して流れる間に、高透過成分が選択的に膜を透過した透過蒸気は中空糸膜の内部空間(透過側空間)に移動して、透過ガス排出口3から排出される。透過しなかった非透過蒸気は非透過ガス排出口4から排出される。また、透過側空間を排気し、減圧状態にすることによって、高透過成分の分圧が供給側空間(一次側)よりも透過側空間(二次側)が低くなるように操作される。
有機蒸気混合物は、分離する間に一部が管板内部に浸透する。管板内部に浸透している有機蒸気混合物は、中空管11を通路として透過側空間へ移動し、透過蒸気と共に透過蒸気排出口3から排出される。
【0050】
以下に、本発明における中空糸エレメントについて説明する。
【0051】
本発明の中空糸エレメントに用いられる選択的透過性を有する中空糸膜は、分離対象や分離条件に適合した材料で形成される。例えば、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ブチルゴム、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリカーボネートなどで例示される、エラストマーやガラス状高分子などの材料で好適に形成される。有機蒸気分離用途においては、特に耐熱性、耐有機溶剤性、および、透過性能において優れている芳香族ポリイミド製の中空糸膜が、最も適当である。
【0052】
前記の中空糸膜の構造は、均質性のものであっても、複合膜や非対称膜などの非均質性のものであっても良い。有機蒸気分離用途においては、芳香族ポリイミド製の非対称膜が、選択性と透過性能において優れているため最も適当である。膜厚は20〜200μmで、外径が50〜1000μmのものが好適に使用できる。
【0053】
本発明における中空糸束は、前記選択性を有する多数の中空糸膜が集束されたものである。通常 100〜1,000,000本程度の中空糸膜を集束している。集束された中空糸束の形状には特に制限はない。例えば、中空糸膜が角柱状や平板状に集束された中空糸束、および、直方体の形状をもった管板であっても良い。製造の容易さ、および容器の耐圧性の観点から、円柱状に集束された中空糸束、および円盤状の管板が好適に用いられる。公知の方法で得られた各中空糸膜が実質的に平行に配列されている中空糸束または各中空糸膜が交叉配列されている中空糸束のいずれであっても良いが、軸方向に対して5〜30度の角度を持って交互に交差配列するように集束されていることが好ましい。
【0054】
本発明の中空糸エレメントは、ボアフィード型のモジュールにおいては、硬化樹脂からなる管板が、前記中空糸束の両端部において、中空糸膜の開口を維持して固着していることが好ましい。
シェルフィード型のモジュールにおいては、硬化樹脂からなる管板が、前記中空糸束の両端部を固着していても、前記中空糸束の一方の端部だけを固着していても良い。さらに、管板が中空糸束の両端部を固着している中空糸エレメントにおいても、一方の端部において中空糸膜の開口が維持されていれば、もう一方の端部においては、中空糸膜の開口が閉塞されていても構わない。管板が一方の端部だけを固着している中空糸エレメントにおいては、もう一方の端部は、中空糸端部を閉塞する、中空糸膜をループさせる等により、中空糸膜が開口しないように構成される。
【0055】
また、例えば、網状物またはフィルム状物によって中空糸束周囲を覆う、もしくは、中空糸束を適当な結束材料で結束することは、中空糸束がバラバラにならないで取り扱いが容易になるので好適である。
【0056】
本発明の中空糸エレメントの管板を形成する硬化樹脂は、有機蒸気に対する十分な耐久性を備え、中空糸モジュール内の気密を保持出来る物であれば、特に制限はない。有機蒸気の脱水用途に用いる場合には、水蒸気に対する耐久性を併せて備えていることが好ましい。通常、ポリウレタン、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に用いられる。有機蒸気に対する耐久性の面、および、強度の面からエポキシ樹脂が特に好適に用いられる。
管板は、遠心成型、静置成型等の公知の手法によって好適に形成される。
【0057】
本発明の中空糸エレメントにおいて、管板の無垢部に穿孔が設置されている。穿孔の態様としては、管板内に浸透している有機蒸気混合物を排出できる機能を備えていれば特に制限はないが、中空糸束を構成するものと同様の中空糸膜を、無垢部における中空糸膜埋設部との境界部分に一層配置することが好ましい。
【0058】
穿孔の配置方法としては、例えば、中空糸膜からなるシート状の中空糸膜編織物を、集束された中空糸束の端部に中空糸束の周囲に巻きつける方法が挙げられる。シート状の中空糸膜編織物は、緯糸として中空糸膜、経糸として合成繊維等の糸(テトロン糸等)を用いて、一定間隔で経糸を簾状(畳状)に織った後、中空糸膜を切断し、一端を封止することにより作成する(図4を参照)。シート状の中空糸膜編織物の幅(中空糸膜の長さ)は管板の厚みと同程度として、封止した端部を、管板の供給側空間に面した端部の方向に向ける。例として、ボアフィード型モジュールにおいては、中空糸束の端部方向に中空糸膜編織物の封止端部を向ける。次いで中空糸の端部の封止が維持された状態で、かつ、もう一方の端部が露出した状態で管板を形成することにより構成する。
【0059】
本発明の中空糸エレメントにおいては、中空糸束の略中心部にガスを導入する機能を持つ芯管を持つことが好ましい。中空糸束の略中心部に導入するガスは、キャリアガスであることが好ましい。ここでいう中空糸束の略中心部とは、導入されたガスが中空糸全体に広がることを目的とするものであるので、その目的を達成できる程度であれば良く、厳密な中心部に限定するものではない。
【0060】
前記芯管は、所定の気密性および耐圧性を備えたものであれば、その形成材料は特に限定されず、金属、プラスチック、又はセラミック等により好適に形成できる、
また、前記図1に示した場合には、芯管の先端は閉じており、第一管板7aに埋設されているが、芯管は必ずしも管板によって固着されている必要はなく、熱膨張によるずれなどを吸収する程度の隙間があるのが好ましい。
【0061】
本発明の中空糸エレメントにおいては、中空糸束の外周部にあらかじめキャリアガスガイドフィルムを設けることが好ましい。
【0062】
前記キャリアガスガイドフィルムの材料は特に限定されないが、装置内に供給された混合ガスを実質的に透過しない材料か、又は難透過性の材料であれば如何なるもので形成してもよい。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド等のプラスチックフィルムあるいはアルミニウムやステンレスの金属箔が好適に用いられる。特に、耐熱性、耐溶剤性、加工性の点でポリイミドフィルムが好適である。また、キャリアガスガイドフィルム8の厚さも特に制限されないが、厚いフィルムが用いられると中空糸が装着される空間を占有して有効膜面積が減少するので、数10μm〜2mm程度の厚みを好ましい範囲として挙げることができる。
前記キャリアガスガイドフィルムは、管板によって中空糸膜と同様に固着されることが好ましい。更に、芯管の連通孔に近い側の第二管板に固着され、第一管板には固着せず間隙をあけて、キャリアガスが有機蒸気混合物と向流となるように配置されるのが分離効率を高めるうえで好ましい。
また、中空糸束の外周かつ分離膜モジュールの内部に、中空糸エレメントを保護するためのメッシュや2個の半割ケースからなる内套を、有機蒸気混合物の流路を確保できるようにして、備えても構わない。
【0063】
本発明における有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールについて説明する。ガス分離膜モジュールの態様は特に限定されるものではなく、ボアフィード型でもシェルフィード型でも良く、キャリアガスを用いるタイプでもキャリアガスを用いないタイプでも良い。キャリアガスを用いるタイプでは、容器にキャリアガス導入口を配置されたり、中空糸エレメントにキャリアガス導入管が配置されたりすることが好適である。
【0064】
本発明のガス分離膜モジュールは、中空糸エレメントが着脱可能であることが好ましい。
容器内に中空糸エレメントを内蔵したガス分離膜モジュールは、管板で区切られ蒸気の流路を除いて密閉され、気密性を保持した空間を形成する。密閉方法は、特に限定されないが、弾性O−リングやパッキンが好適に用いられる。
【0065】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、内蔵される中空糸エレメントの形状や混合ガス導入口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口などの配置によって種々の形態をとり得る。例えば、円筒状であっても箱型のものであっても良い。いずれの場合もモジュール内では、中空糸膜の内部空間に通じる空間と、中空糸膜の外部空間に通じる空間とは管板により互いに隔絶され、気密性を保持している。
【0066】
有機蒸気の分離を行う際には、高温流体や高圧流体、あるいは減圧条件にさらされるものであるから、ガス分離膜モジュールの容器には、充分な強度と使用条件下での安定性が必要である。材質には特に限定はないが、金属、プラスチック、ガラス繊維複合材料、およびセラミックが好適に使用される。
【0067】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、キャリアガスを用いるボアフィード型モジュールであり、混合ガス導入口、非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じて供給側空間(一次側)を形成し、キャリアガス導入口および透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じて透過側空間(二次側)を形成するように構成されていることが特に好ましい。特に、キャリアガス導入口が中空糸エレメントの略中心部にある芯管に配置されていることが、より好ましい。
【0068】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離を行う方法について説明する。
【0069】
ガス分離膜モジュールがシェルフィード型、もしくはボアフィード型のいずれの場合においても、下記の方法によって有機蒸気分離を行う。すなわち、有機化合物を含む液体を加熱気化した有機蒸気混合物は、混合ガス導入口からガス分離膜モジュール内の一次側空間(供給側空間)に供給され、中空糸膜の表面に接しながら流れて、非透過ガス排出口からモジュール外へ排出される。その間、中空糸膜を透過した透過ガスは、二次側空間(透過側空間)に設置された透過ガス排出口からモジュール外に排出される。中空糸膜は選択的透過性を有しているので、膜を透過した透過ガスは、高透過成分に富んでおり、非透過ガス排出口から排出される非透過ガスは、高透過成分の濃度が減少している。
【0070】
中空糸膜に供給された有機蒸気混合物は、一部が中空糸膜を介して、また、一部が管板の供給側空間に接した面から、管板内に浸透する。本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、管板の無垢部に穿孔が設けてあり、管板内に浸透している有機蒸気混合物を、穿孔を通して透過側空間に排出する。したがって、管板の無垢部に浸透している有機蒸気混合物の濃度は、低く、かつ濃度分布が小さく保たれる。したがって、管板の無垢部が受ける応力は軽減されるため、管板が容易には破損しない。
【0071】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法においては、一次側での高透過成分の分圧が、二次側での高透過成分の分圧より高く保つように操作される。
具体的には、中空糸膜の透過側空間を減圧に保持して、中空糸膜の両側における高透過成分の分圧差を確保する方法が挙げられる。また、中空糸膜の二次側表面にキャリアガスを流通させる方法が挙げられる。その中で、中空糸膜の二次側表面にキャリアガスを流通させる方法が好ましく、かつ、キャリアガスが中空糸膜を挟んで有機蒸気混合物と向流になるように構成することが好ましい。
【0072】
前記キャリアガスは、高透過成分を含まないか、少なくとも高透過成分の分圧が非透過ガスより小さい濃度であるガスであれば特に制限はなく、例えば、窒素、空気などが使用できる。窒素は中空糸膜の二次側空間から一次側空間への逆浸透が起こりにくく、不活性であるために、防災上も好ましいキャリアガスである。そのほか、高透過成分を分離した非透過ガスの一部をキャリアガス導入口に循環し、キャリアガスとして使用することも好適である。
【0073】
ボアフィード型のガス分離膜モジュールにおいて、キャリアガスは中空糸膜の外側に沿って流れることで透過を促進する働きを有している。したがって、キャリアガスは中空糸膜の外側に沿ってショートパスがなく均一に流されることが好ましい。
【0074】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離において、分離対象となる有機蒸気混合物は、有機化合物の蒸気を含む2種以上のガス混合物であれば特に制限されるものではない。例えば、水蒸気と有機蒸気の混合蒸気からの水蒸気の分離(有機蒸気の脱水)や、メタノールとジメチルカーボネートとの混合蒸気からのメタノールの分離などに好適に使用することが出来る。
【0075】
前記の有機化合物としては、常圧における沸点が0℃以上200℃以下であるものが好ましい。有機化合物の沸点が0℃以上200℃以下であるのは、中空糸膜の使用温度範囲、有機蒸気混合物を過熱蒸気化するための設備、精製分離成分を凝集し回収するための設備や取扱いの容易さを考慮したときに実用的だからである。
【0076】
常圧における沸点が0℃以上200℃以下である有機化合物としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s-ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコールなどの脂肪族アルコール類、シクロヘキサノールなどの脂環族アルコール類、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸類、酢酸ブチル、酢酸エチルなどの有機酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど環式エーテル類、ブチルアミン、アニリンなどの有機アミン類、および、前記の化合物の混合物を挙げることができる。
【0077】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法においては、有機蒸気混合物は蒸発(蒸留)装置などによって加熱蒸発させて、常圧状態乃至0.1〜6気圧(ゲージ圧)程度の加圧状態の有機蒸気混合物として有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される。加圧状態の有機蒸気混合物は、加圧蒸発器で直接加圧状態の有機蒸気混合物を得ても良いし、常圧蒸留器で得られた常圧状態の有機蒸気混合物をベーパーコンプレッサーによって加圧することで得ても構わない。
また、有機蒸気混合物は有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給され中空糸内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない程度以上に十分高温に過熱された有機蒸気混合物として供給されることが好ましい。
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される有機蒸気混合物は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上の温度のものである。
【0078】
過熱された有機蒸気混合物を得る方法としては、具体的には、有機化合物を含む溶液混合物を加熱装置付蒸発装置などによって気化すると同時に加熱(過熱)処理することが好適である。また、気化した有機蒸気混合物を、別に備えた加熱装置を用いて加熱(過熱)処理を行い、過熱された有機蒸気混合物を好適に得ることもできる。
また、必要に応じて有機蒸気混合物を、その温度を保持しながら圧力を低下させる処理をおこなった後、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給しても構わない。圧力を低下させる処理方法は、通常の減圧弁等に拠っても良いし、気化したガス混合物をデミスター(ミストセパレーター)などで処理してミストを除去すると同時に圧損を発生させることに拠っても良い。
【0079】
前記処理後の有機蒸気混合物はその温度での飽和蒸気圧未満の圧力を有するガス混合物になっており、その状態を保持したまま(具体的には、保温されて)有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給されるのが好適である。そうすれば、有機蒸気混合物が中空糸膜内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない。
【実施例】
【0080】
(中空糸エレメントの作成)
選択的透過性を有するポリイミド製中空糸膜(外径0.5mm、内径0.3mm)を、芯管の周りに公知の手法で集束することにより、芯管を有する中空糸束を作成した。前記ポリイミド製中空糸膜を、テトロン糸で拘束したシート状の中空糸膜編織物を作成し、中空糸膜が6cmとなるように切断した後に一方の端部を封止した(図4)。前記中空糸膜編織物を、前記の芯管を有する中空糸束の両端部に、封止端を中空糸束の端部に向けて、一層分だけ巻きつけることより、中空糸膜を配列した。前記中空糸束の端部に中空糸膜を配列した状態で、ポリイミドフィルムを中空糸束に巻きつけ、重なり部分を糊付けした後に、両端部をエポキシ樹脂で固着することにより、管板の無垢部に穿孔を設けた中空糸エレメントを作成した。管板の厚みは、5cmとし、中空糸膜の有効膜面積は1.9mとした。
【0081】
(実施例1)
前記中空糸エレメントを収納した図2の構成の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いて、イソプロパノールの脱水を行った。イソプロパノールを94〜96重量%含有する水溶液を蒸発器で蒸発させ、過熱して120℃の有機蒸気混合物としてガス分離膜モジュールへ供給して、脱水操作を行った。供給ガスの圧力は0.1MPaG、流量は1.8kg/hrとした。
【0082】
分離膜モジュールにおける脱水操作においては、乾燥窒素ガス(キャリアガス)を120℃に加熱し、中空糸膜の外側(中空糸の周辺部、透過側)に1.6L/minで流通させると共に、透過側を100mmHgに減圧して、混合ガス中の水蒸気を選択的に膜透過させ、分離することによって混合ガスの脱水操作を行った。分離膜モジュールの透過蒸気および非透過蒸気は、冷却して凝縮させた。イソプロパノール濃度99.8重量%以上の非透過蒸気を1.7kg/hrで回収した。1年間連続で運転を行ったが、性能の変化は認められなかった。また、運転後に管板の外観を目視で確認したところ、クラックなどは見られず、良好であった。
【0083】
(実施例2)
エタノールの脱水を行った。エタノールを85〜87重量%含有するの水溶液を、蒸発器で蒸発させ、過熱して120℃の有機蒸気混合物としてガス分離膜モジュールへ供給して、脱水操作を行った。供給ガスの圧力は0.18MPaG、流量は4.1kg/hrとした。
【0084】
分離膜モジュールにおける脱水操作においては、非透過ガスの一部を、中空糸膜の外側(中空糸の周辺部、透過側)に0.17kg/hrで流通させると共に、透過側を60mmHgに減圧して、混合ガス中の水蒸気を選択的に膜透過させ、分離することによって混合ガスの脱水操作を行った。分離膜モジュールの透過蒸気および非透過蒸気は、冷却して凝縮させた。エタノール濃度99.5重量%以上の非透過蒸気を3.2kg/hrで回収した。1年間連続で運転を行ったが、性能の変化は認められなかった。また、運転後に管板の外観を目視で確認したところ、クラックなどは見られず、良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の有機蒸気分離用の中空糸エレメントおよび、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いることで、有機蒸気分離において高温・高圧の条件下においても気密性を保ち、分離性能を維持して、有機蒸気の分離を効率よく行う事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの一例を示す概略図である。
【図2】有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの別の一例を示す概略図である。
【図3】有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールのさらに別の一例を示す概略図である。
【図4】中空糸膜編織物の模式図である。
【符号の説明】
【0087】
1 混合ガス導入口
2 キャリアガス導入口
3 透過ガス排出口
4 非透過ガス排出口
5 筒状容器
6 中空糸束
6a 中空糸膜
7 管板
7a 第一管板
7b 第二管板
8 キャリアガスガイドフィルム
9 芯管
10 芯管の通連孔
11 穿孔(中空管)
12 中空管(中空糸膜)
13 合成繊維の糸(中空糸膜編織物の経糸)
14 中空糸膜の封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、硬化樹脂からなる管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントであって、
透過側空間にのみ開放された穿孔が、管板の無垢部にあることを特徴とする有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項2】
前記穿孔が、管板の外縁部にある無垢部にあることを特徴とする請求項1記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項3】
前記穿孔が、中空管を管板に埋設することにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至2に記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項4】
前記中空管が、前記中空糸束を形成する中空糸膜と同様の中空糸膜からなることを特徴とする請求項3記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項5】
前記選択的透過性を有する中空糸膜が、芳香族ポリイミド中空糸膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメント。
【請求項6】
少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を有する容器内に、請求項1乃至5のいずれかに記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメントが収納されて構成されていることを特徴とする有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【請求項7】
前記容器が、さらにキャリアガス導入口を有することを特徴とする請求項6に記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【請求項8】
混合ガス導入口および非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じ、透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じるように構成されていることを特徴とする請求項6乃至7に記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【請求項9】
有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、請求項6乃至8のいずれかに記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールに導入し、選択的透過性を有する中空糸膜を用いて分離することを特徴とする有機蒸気分離を行う方法。
【請求項10】
有機蒸気混合物を混合ガス導入口から80℃以上で導入し、高透過成分を中空糸膜を選択的に透過させ、透過蒸気又は非透過蒸気として高純度化した有機蒸気を得ることを特徴とする請求項9に記載の有機蒸気分離を行う方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−131752(P2009−131752A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308664(P2007−308664)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】