説明

有機薄膜製造装置及び有機薄膜製造方法

【課題】比較的簡易な光学系を用いて、効率的に且つ高精度な有機薄膜を形成することができ、而も転写用基板の再利用が可能であるため、製造コストを低減することのできる有機薄膜製造装置及び有機薄膜製造方法を提供する。
【解決手段】有機薄膜製造装置100のレーザー蒸着装置10は、特定の波長領域のレーザー光を発振するためのレーザー光源11と、レーザー蒸着転写用基板1と、成膜室15と、真空装置19とを備え、レーザー蒸着転写用基板1は、支持基板2と、所定のパターンに形成された、第1の波長領域のレーザー光を高効率で吸収する第1の光熱変換層3と、上記第1の光熱変換層3の上面を覆うように形成された、第1の波長領域のレーザー光を反射し且つ第2の波長領域のレーザー光を吸収する第2の光熱変換層4と、転写層5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の照射により、転写層を昇華させて有機薄膜を形成するための有機薄膜製造装置及び有機薄膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス;Electro luminescence)素子は、自発光性、高速応答及び広い視野角等の優れた性能を有している。これらの優れた性能により、近年、有機EL素子は、高画質の動映像を表現するディスプレイパネル用のデバイスとして開発が進められている。
有機EL素子は、陰極と陽極との間に、有機正孔輸送層、有機電子輸送層、有機発光層等を積層した多層構造の機能層を有している。
【0003】
有機EL素子の発光層等となる有機薄膜の成膜方法としては、一般的にマスク蒸着法が用いられている。マスク蒸着法とは、パターン(透孔)が形成してある蒸着マスクで基板を覆い、パターン(透孔)部分に有機物質を蒸着し、基板上に有機薄膜を形成する方法である。
しかし、マスク蒸着法では、基板を覆うマスク上にも有機薄膜が付着するため、連続して成膜を行うための量産プロセスとして、マスクの洗浄や成膜室内の残膜処理等を行う必要があり、量産効率が低下するという問題がある。
【0004】
近年、有機薄膜を形成するために、レーザー転写用のドナーフィルムを用いる方法が開発されている。レーザー転写用ドナーフィルムは、基材フィルム上に、カーボンブラック、黒鉛等の有機膜や金属等で形成された光熱変換層を設け、この光熱変換層上に、所定の温度で昇華する有機材料から成る転写層を設けている。レーザー光を照射し、レーザー転写用ドナーフィルムの光熱変換層で光が熱に変換されると、その熱で転写層が昇華し、基板上に有機薄膜が転写される。
【0005】
高画質のフルカラー有機EL表示装置等のデバイスを形成するためには、例えば、R(赤)、G(緑)、B(青)等から成る微細なパターンの有機薄膜を基板上に形成する必要がある。
例えば、レーザー転写用ドナーフィルムを用いてパターンを形成する方法として、特定のビーム大きさを有するレーザー光を用いて、このレーザー光で転写層を基板方向に押し出して、有機薄膜を基板上に転写させる方法が開示されている(特許文献1)。このレーザー転写用ドナーフィルムは、光熱変換層と転写層との間に、必要に応じてガス生成層を設けている。
また、レーザー転写用ドナーフィルムとして、光熱変換層と転写層との間に、金属層とバッファー層とを設けたものが開示されている(特許文献2)。このレーザー転写用ドナーフィルムは、金属層でレーザー光を光熱変換層に反射させて、エネルギーを均等化させ、ガスを発生する光熱変換層を全体的に均等に膨張させて、バッファー層と転写層を基板側に押し出して、転写層を基板上に転写させている。
また、レーザー転写用ドナー基板や、このようなドナー基板を用いたレーザー熱転写装置として、ドナー基板と成膜用基板の接着時や脱着時に発生する静電気を防ぐために、レーザー転写用ドナー基板の光熱変換層と転写層との間に帯電防止膜を設けたもの(特許文献3)や、基板が接する部分に導電性物質からなる接地手段を具備するもの(特許文献4)が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10―208881号公報
【特許文献2】特開2005−183381号公報
【特許文献3】特開2006−066371号公報
【特許文献4】特開2006−114506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のレーザー転写用ドナーフィルムは、予め微細なパターンに形成した転写層を、この微細なパターンのまま転写させなければならず、レーザー光を選択的に通過させる開口部に焦点を持たせたり、レーザー光を特定の光束に絞るための光学レンズを用いたりして、転写層に均一な光強度のレーザー光が照射されるように複雑な光学系が必要である。
【0008】
また、上記特許文献1や2のレーザー転写用ドナーフィルムは、ガスを発生する光熱変換層やガス発生層の材料が、不純物となって転写層中に混入し、基板上に形成された有機薄膜中に不純物が含まれてしまう場合がある。
【0009】
また、上記特許文献3や4のように、レーザー転写用ドナーフィルムは、静電気の発生を防止するために、帯電防止膜等を設ける必要がある。通常、レーザー転写用ドナーフィルムは、ロール状に巻き取って保存するが、ロール状に巻き取る際に、又は、ロール状から引き延ばす際に、静電気が発生し易く、この静電気を抑制するために、フィルムの裏面に導電性の無機薄膜をバックコーティングする必要もあり、製造コストを低減することが難しい。
【0010】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたものであり、比較的簡易な光学系を用いて、効率的に且つ高精度な有機薄膜を形成することができ、しかも転写用基板の再利用が可能であるため、製造コストを低減することのできる有機薄膜製造装置及び有機薄膜製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、吸収するレーザー光の波長領域が各々異なる第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層とを備えたレーザー蒸着転写用基板を用いることによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の有機薄膜製造装置は、特定の波長領域のレーザー光を発振するためのレーザー光源と、該レーザー光源から発振されたレーザー光の照射によって、成膜用基板上に有機薄膜を転写させるためのレーザー蒸着転写用基板と、上記レーザー蒸着転写用基板と成膜用基板とを設置する成膜室と、上記成膜室内を真空雰囲気にする真空装置とを有するレーザー蒸着装置を備えた有機薄膜製造装置であって、
上記レーザー蒸着転写用基板が、所定の波長領域のレーザー光を透過する支持基板と、上記支持基板上に所定のパターンに形成され、上記レーザー光源から発振される特定の波長領域のレーザー光を吸収する第1の光熱変換層と、上記第1の光熱変換層の上面を覆うように形成され、上記特定の波長領域のレーザー光を反射し、且つ、上記特定の波長領域とは異なる波長領域のレーザー光を吸収する第2の光熱変換層と、上記第2の光熱変換層上に形成された転写層を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の有機薄膜製造方法は、真空雰囲気中の成膜室内に、特定の波長領域のレーザー光を透過する支持基板と、第1の波長領域のレーザー光を吸収する、上記支持基板上に所定のパターンに形成された第1の熱変換層と、上記第1の波長領域のレーザー光を反射し、第2の波長領域のレーザー光を吸収する、上記第1の光熱変換層の上面を覆うように形成された第2の光熱変換層と、上記第2の光熱変換層上に形成された有機薄膜から成る転写層を備えたレーザー蒸着転写用基板を設置する工程と、上記成膜室内に、上記レーザー蒸着転写用基板に対向するように成膜用基板を設置する工程と、上記第1の波長領域のレーザー光を上記レーザー蒸着転写用基板に照射して、上記成膜用基板上に所定のパターンの有機薄膜を転写する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸収する波長領域の異なる第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層を備えたレーザー蒸着転写用基板を用いたことにより、比較的簡単な光学系を用いて、効率的に且つ高精度なパターンの有機薄膜を成膜用基板上に形成することができる。また、有機薄膜を形成した後に、レーザー蒸着転写用基板上に残存する転写層を簡単に除去することができ、装置や工程を煩雑にすることなく製造効率を向上させて、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の有機薄膜製造装置の好ましい実施形態の一例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、有機薄膜製造装置のレーザー蒸着装置の概略構成を示す説明図である。
図1及び図2に示すように、本例のレーザー蒸着装置10は、特定の波長領域のレーザー光を照射するためのレーザー光源11と、上記レーザー蒸着転写用基板1と、このレーザー蒸着転写用基板1を用いて有機薄膜を製造するための成膜室であるチャンバ15と、このチャンバ15内を真空雰囲気にするための真空装置19とを備えている。
【0016】
レーザー蒸着装置10は、レーザー光源11と、アッテネータ12と、光学系13と、反射ミラー14と備えている。レーザー蒸着装置10は、焦点や光速を絞るために特別な装置を必要せず、比較的簡単な光学系を用いて、高精度なパターンの有機薄膜を製造することができる。図1及び図2中、太い矢印は、レーザー光源11から発振したレーザー光又はレーザービームを表す。
【0017】
チャンバ15は、レーザービームを透過させる合成石英ガラス等で形成された透過窓16と、この透過窓16に対して平行且つ水平にレーザー蒸着転写用基板1を設置するための転写用基板支持治具17と、レーザー蒸着転写用基板1に対向して成膜用基板6を設置するための成膜用基板固定治具18とを備えている。
なお、レーザー蒸着転写用基板1と成膜用基板6との位置調整(アライメント)は、レーザー蒸着転写用基板1に設けられたアライメントマーク(図示略)に基づいて、手動又は自動で行われる。
【0018】
図1に示すように、レーザー光源11から発振されたレーザー光は、アッテネータ12によって強度変調され、光学系13で収束されてレーザービームとなり、このレーザービームが、反射ミラー14によって、チャンバ15内に導かれる。
このレーザービームが、チャンバ15の透過窓16を透過して、レーザー蒸着転写用基板1に支持基板2側から照射される。
レーザー光源11から発振されたレーザー光がレーザービームとなって、レーザー蒸着転写用基板1に照射されると、第1の光熱変換層3が特定の波長領域のレーザービームを吸収して、吸収した光を熱に変換し、第1の光熱変換層3が昇温する。
【0019】
図2に示すように、第1の光熱変換層3で発生した熱は、第2の光熱変換層4を介して転写層5aに伝達され、第1の光熱変換層3及び第2の光熱変換層4が積層された部位上の転写層5aが昇華して、成膜用基板6上に、高精度なパターンの有機薄膜7が転写される。
一方、第2の光熱変換層4は、レーザー光源11から発振されたレーザー光(レーザービーム)を反射するため、第1の光熱変換層3が形成されていない部位、即ち、第2の光熱変換層4のみが形成された部位上の転写層5bは昇華せず、そのまま残存する。
【0020】
図1及び図2に示すレーザー蒸着装置10においては、反射ミラー14を水平方向に動かして、レーザー蒸着転写用基板1に均等にレーザービームを照射するようにしているが、本例に限らず、レーザー蒸着転写用基板1を水平方向に動かして、レーザービームを均等に照射するようにしてもよい。図1及び図2中、破線の矢印は、反射ミラーの稼動方向を示す。
【0021】
次に、本発明の有機薄膜製造装置に用いるレーザー蒸着転写用基板について説明する。
図3は、レーザー蒸着転写用基板の好ましい実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【0022】
図3に示すように、レーザー蒸着転写用基板1は、所定波長のレーザー光を透過する支持基板2と、この支持基板2上に所定のパターンに形成された第1の光熱変換層3と、この第1の光熱変換層3の少なくとも上面を覆うように形成された第2の光熱変換層4とを備えている。第2の光熱変換層4は、支持基板2の全面を覆う必要はなく、成膜用基板に有機薄膜を転写しない部分、例えば、支持基板2の周縁部には、第2の光熱変換層4を設ける必要はない。
図3に示す例においては、第2の光熱変換層4上に、有機材料から成る転写層5を設けている。
【0023】
レーザー蒸着転写用基板1は、第1の光熱変換層3で吸収される波長領域のレーザー光が照射されると、第1の光熱変換層がレーザー光を吸収して光を熱に変換し、第1の光熱変換層3の温度が急激に上昇する。この温度上昇によって第1の光熱変換層3と第2の熱変換層4が積層された部位上に形成された転写層5aが昇華し、レーザー蒸着転写用基板1に対向して設置された成膜用基板上に、効率的に且つ高精度なパターンの有機薄膜を形成する。
本例のレーザー蒸着転写用基板1は、第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位上に形成された転写層5aに、第1の光熱変換層で発生した熱エネルギーを、第2の光熱変換層を介して伝達しているので、転写層を構成する有機材料に与えるダメージも少ない。
【0024】
一方、第2の光熱変換層4は、第1の光熱変換層が高効率で吸収する波長領域のレーザー光を反射するため、第2の光熱変換層4のみの部位上に形成された転写層5bは昇華せず、第2の光熱変換層4上に残存する。
【0025】
支持基板2としては、特定の波長領域のレーザー光、具体的には、150〜2000nmの波長領域のレーザー光を透過するものであればよく、例えば、石英ガラス、合成石英ガラス、無アルカリガラス等を用いることができる。
支持基板2の厚さは、取扱性や装置間における搬送性等を考慮して、0.5〜5.0mmのものが好ましい。
【0026】
第1の光熱変換層3は、150〜450nmの波長領域のレーザー光を、吸収係数αが1.0×10cm−1以上の高効率で吸収するものであることが好ましい。
第1の光熱変換層3は、150〜450nmの波長領域のレーザー光を吸収して熱に変換することによって、第1の光熱変換層3が常温(20〜25℃程度)から200〜600℃程度まで急激に昇温し、この熱エネルギーを第2の光熱変換層4を介して転写層5aに伝達することによって、転写層5aを昇華させ、成膜用基板上に所定のパターンの有機薄膜を転写する。
【0027】
ここで第2の光熱変換層4は、150〜450nmの波長領域のレーザー光を反射するものであるため、第2の光熱変換層4のみが形成された部位は、上記の波長領域のレーザー光を照射されても昇温せず、第2の光熱変換層4のみが形成された部位上の転写層5bは昇華しない。即ち、第1の光熱変換層3及び第2の光熱変換層4が積層された部位上の転写層5bのみが、第1の光熱変換層3のパターン通りに高精度で転写される。
【0028】
第1の光熱変換層は、シリコン又はシリコンを30原子%以上含む合金から成るものであることが好ましい。
図4に各波長のレーザー光と、シリコンを含む樹脂の吸収係数α(cm−1)の関係を示す。図4に示すように、シリコン又はシリコンを30原子%以上含む合金は、150〜450nmの波長領域のレーザー光を吸収係数αが1.0×10cm−1以上の高効率で吸収する。
【0029】
シリコンを30原子%以上含む合金としては、シリコンと、Ti,Ta,Nb,Hf,Zr,W,Mo,Y,Vから選ばれた少なくとも1種を含む合金が例示される。具体的には、Si−Hf合金,Si−Ta合金,Si−Ti合金,Si−W合金,Si−Mo合金等が挙げられる。
合金中に含まれるシリコンが30原子%未満であると、波長が150〜450nmのレーザー光の吸収率が低下し、レーザー光を熱に変換する効率が低下するため好ましくない。
シリコン又はシリコンを30原子%以上含む合金は、石英ガラス、合成石英ガラス、無アルカリガラス等から成る支持基板との密着性が良好であり、耐久性に優れている。
また、シリコン又はシリコンを30原子%以上含む合金は、フラットパネルディスプレイ用の材料として広く使用されており、大面積のパターン形成技術が確立されているため、レーザー蒸着転写用基板の第1の光熱変換層の材料として好適である。
【0030】
第1の光熱変換層3の層厚は、好ましくは100nm〜100μm、より好ましくは500nm〜50μm、特に好ましくは1μm〜20μmである。
第1の光熱変換層の層厚が100nm未満であると、150〜450nmの波長領域のレーザー光を吸収させても、第1の光熱変換層の温度が十分に上昇しない。
一方、第1の光熱変換層の層厚が100μmを超えると、150〜450nmの波長領域のレーザー光を吸収させると、十分に温度が上昇するものの、第1の光熱変換層の内部応力が大きくなり、支持基板と第1の光熱変換層の密着性が低下する。
【0031】
第1の光熱変換層3を形成する方法としては、例えば、プラズマCVD法やスパッタリング法により、シリコン又はシリコンを30原子%以上含む合金を支持基板2上に蒸着した後、ドライエッチング法により、所定のパターンを形成して第1の光熱変換層とする方法が挙げられる。
また、パターンサイズが大きい場合には、インクジェット法により、支持基板上にシリコンを含む有機材料等で所定のパターンを形成した後、400〜600℃の酸化雰囲気中で不要な有機材料を除去して、シリコンから成る第1の光熱変換層3を形成してもよい。
【0032】
第2の光熱変換層4は、第1の波長領域のレーザー光を反射し、且つ、第1の波長領域とは異なる、第2の波長領域のレーザー光を吸収するものである。
第2の波長領域は、500〜2000nm(0.5〜2.0μm)であることが好ましい。
第2の光熱変換層4は、第1の波長領域(150〜450nm)のレーザー光を反射し、且つ、第2の波長領域(500〜2000nm)のレーザー光を吸収するため、第1の波長領域のレーザー光を照射しても、第2の光熱変換層4の温度は上昇しない。
そのため、第1の光熱変換層3及び第2の光熱変換層4が積層された部位と、第2の光熱変換層4のみが形成された部位とでは、温度差(第1の光熱変換層が約50〜600℃、第2の光熱変換層が約20〜45℃)が大きくなり、第1の光熱変換層3及び第2の光熱変換層4が積層された部位上に形成された転写層5aのみを昇華して、高精度な所定パターンの有機薄膜を成膜用基板上に転写することができる。
また、第1の光熱変換層3及び第2の光熱変換層4が積層された部位では、第1の光熱変換層3で吸収されなかったレーザー光が第2の光熱変換層4で反射されて、第1の光熱変換層3で再吸収されるため、光熱変換を効率良く行うことができる。
更に、第2の光熱変換層4は、第1の波長領域とは異なる、第2の波長領域のレーザー光を吸収係数αが1.0×10cm−1以上の高効率で吸収するものであるため、成膜用基板上に有機薄膜を形成した後、第2の光熱変換層4上に残存する転写層5を昇華させて除去することができる。
【0033】
第2の光熱変換層4は、融点が650℃以上の金属又は該金属を含む合金から成ることが好ましい。上記金属としては、Ti,Ta,Hf,Zr,W,Mo,V,Co,Cu,Cr,Fe,Ni,Pt,Pd,Rh,Re,Ir,Au,Ag及びAlから成る群より選ばれた1種であることが好ましく、上記合金は、上記金属の少なくとも1種、好ましくは2種以上を含む合金である。
第2の光熱変換層4が、融点650℃以上の所定の金属又は該金属を含む合金から成るものであると、500〜2000nmの第2の波長領域のレーザー光を高効率で吸収して熱に変換し、残存する転写層5を昇華させて除去することができると共に、転写層を5昇華させるまで温度を上昇させた場合であっても、第2の光熱変換層4が溶融しない。なお、第2の光熱変換層4が溶融しないようにするためには、転写層5として、比較的低い温度で昇華する低分子系の有機材料を用いることが好ましい。
【0034】
第2の光熱変換層の層厚は、好ましくは3nm〜10μm、より好ましくは10nm〜1μm、特に好ましくは30nm〜300nmである。
第2の光熱変換層の層厚が3nm未満であると、150〜450nmの第1の波長領域のレーザー光を十分に反射することできず、第2の光熱変換層上の転写層にダメージを与えてしまう場合がある。また、第2の光熱変換層の層厚が3nm未満であると、転写層を成形用基板上に転写させた後に、第2の波長領域のレーザー光を照射した際に、第2の光熱変換層が十分に昇温せず、残存した転写層の除去が難しくなる場合がある。
一方、第2の光熱変換層の層厚が10μmを超える場合は、第1の光熱変換層より伝導される熱の拡散効果が大きくなるため、精度よく所定のパターンの転写層を転写することが難しくなる場合がある。
【0035】
第2の光熱変換層4を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、プラズマCVD法やスパッタリング法等により、第1の光熱変換層3の上面を覆うように第2の光熱変換層4を形成することができる。
第2の光熱変換層は、パターンを形成する必要がなく、第1の光熱変換層3の少なくとも上面を覆うように形成すればよいので製造が容易である。
【0036】
転写層5としては、例えば、昇華温度が200〜600℃の範囲である低分子系の有機EL材料や、有機半導体材料を好適に用いることができる。転写層5は、少なくとも第1の光熱変換層3及び第2の光熱変換層4が積層されている部位の上に形成されることが好ましい。
低分子系の有機EL材料としては、例えば、4,4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−ビス(N−ナフチル)−N−フェニルベンジジン(α−NPD)、8−キノルノールアルミニウム錯体(Alq)、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、キナクリドン、ルブレン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、バソフェナントロリン、バソクプロイン、オキサジアゾールから成る群より選ばれた少なくとも1種のものが挙げられる。これらの原料中に予めリチウム、フッ化リチウムを含有させておいて、有機薄膜中にリチウム、フッ化リチウムを含有させるようにすることも可能である。
リチウムやフッ化リチウムの添加により電子の注入効率を高めることで、発光効率を向上させることができる。
有機半導体材料としては、ペンタセン、オリゴチオフェン又はフタロシアニン金属錯体、及びこれらの置換誘導体が挙げられる。
【0037】
転写層5の層厚は、特に限定されないが、成形用基板上に転写される有機薄膜のパターン精度を考慮すると、転写層5の層厚は10〜300nmが好ましい。
転写層5の形成方法としては、例えば、るつぼ内に収容した有機材料を加熱して昇華させ、第2の光熱変換層4上に蒸着させる有機蒸着方法等が挙げられる。
【0038】
本例のレーザー蒸着転写用基板には、パターンの転写精度を向上させるために、レーザー蒸着転写用基板と、これに対向する成膜用基板との位置合わせ(アライメント)を行うためのアライメントマークが設けられていることが好ましい(図示略)。このアライメントマークは、加工性等を考慮して、第2の光熱変換層4と同じ材料で形成することが好ましい。
【0039】
本例のレーザー蒸着転写用基板は、対向して設置される成膜用基板とレーザー蒸着転写用基板との間隔調整を行うための突起が設けられていることが好ましい(図示略)。
この突起によって、レーザー蒸着転写用基板の第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位と成膜用基板と間隔を一定にすることができる。
第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位と成膜用基板との間隔は、100nm〜30mmであることが好ましい。
そのため、突起は、第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位と成膜用基板との間隔が100nm〜30mmとなる高さに形成することが好ましい。
【0040】
転写層と成膜用基板とを密着させた状態で、転写層を転写して有機薄膜を形成することも可能であるが、レーザー蒸着転写用基板の第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位と、成膜用基板との間に、100nm以上のギャップがある方が、転写ムラが発生しにくくなるという利点がある。
一方、レーザー蒸着転写用基板の第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位と、成膜用基板との間に、30mmを超えるギャップがあると、転写された有機薄膜が、第1の光熱変換層のパターンよりも1周り大きくなるという傾向があり、パターン精度を確保することが困難になる。
なお、上記間隔を保持するための突起は、第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位以外の部位に設けるのが好ましく、第1の光熱変換層と第2の光熱変換層が形成されていない支持基板上の部位に設けてもよい。
【0041】
本例のレーザー蒸着装置10は、150〜450nmの波長領域のレーザー光を発振するレーザー光源11を備えていることが好ましい。また、レーザー光源のエネルギーは、0.05mJ〜1Jであることが好ましい。
レーザー光源11のエネルギーが0.05mJ未満であると、転写層が昇華する温度まで第1の光熱交換層3を昇温させることが難しい。一方、1Jを超えると、第1の光熱変換層3が光吸収により熱変形する場合がある。
レーザー光源11のエネルギーが0.05mJ〜1Jであると、150〜450nmの波長領域のレーザー光を照射することによって、第1の光熱変換層3を200〜600℃まで昇温することができ、第1の光熱変換層3上に形成された有機材料から成る転写層5を昇華して転写させることができる。
【0042】
レーザー光源としては、断続的なレーザー光を発振するパルスレーザーや、連続的なレーザー光を発振するCW(continuous wave)レーザーを用いることができる。また、媒体が気体のエキシマレーザー、媒体が固体であり高調波を利用する固体レーザー、短波長を利用する半導体レーザー等を用いることができる。
【0043】
成膜室15を真空雰囲気にする真空装置19としては、真空ポンプ等を使用することができる。真空装置(真空ポンプ)19は、チャンバ15内の環境雰囲気を0.01Pa以下まで排気できるものであることが好ましい。
【0044】
本発明の有機薄膜製造装置は、更にレーザー除去装置を備えていることが好ましい。
図5及び図6は、有機薄膜製造装置のレーザー除去装置の概略構成を示す図である。
図5及び図6に示すように、レーザー除去装置20は、第2の光熱変換層4が吸収する波長領域のレーザー光を発振する第2のレーザー光源21と、レーザー蒸着転写用基板1を設置する真空室であるチャンバ25と、該チャンバ25内を真空雰囲気にする真空装置29とを備えている。
【0045】
レーザー蒸着装置20は、アッテネータ22と、光学系23と、反射ミラー24とを備えている。
レーザー光源21は、レーザー蒸着装置10のレーザー光源11から発振されるレーザー光とは異なる第2の波長領域のレーザー光を発振し、500〜2000nm(0.5〜2.0μm)の波長領域のレーザー光を発振するものであることが好ましい。
【0046】
チャンバ25は、レーザービームを透過させる合成石英ガラス等で形成された透過窓26と、この透過窓26に対して平行且つ水平にレーザー蒸着転写用基板1を設置するための転写用基板支持治具27を備えている。また、チャンバ25は、レーザー蒸着転写用基板1に対向して、レーザー蒸着転写用基板1に残存する転写層5bを昇華させて除去する際に、昇華させた有機材料を付着させるための付着用基板8を設置するための付着用基板固定治具28を備えている。
【0047】
レーザー蒸着装置10で、有機薄膜を製造した後のレーザー蒸着転写用基板1は、真空作動排気管で、レーザー蒸着装置10と連結されたレーザー除去装置20に搬送される。レーザー除去装置20に搬送されたレーザー蒸着転写用基板1は、転写用支持治具27によりチャンバ25内に設置される。
【0048】
レーザー光源21から発振されたレーザー光は、アッテネータ22によって強度変調され、光学系23で収束されてレーザービームとなり、このレーザービームが、反射ミラー24によって、チャンバ25内に導かれる。
このレーザービームが、チャンバ25の透過窓26を透過して、レーザー蒸着転写用基板1に支持基板2側から照射される。図5及び図6中、太い矢印は、レーザー光源21から発振されるレーザー光又はレーザービームを表す。
【0049】
図5に示すように、レーザー光源21から発振されたレーザー光がレーザービームとなって、レーザー蒸着転写用基板1に照射されると、第2の光熱変換層4が第2の波長領域(例えば、500〜2000nm)のレーザービームを吸収して、吸収した光を熱に変換し、第2の光熱変換層4が昇温する。
【0050】
そして、図6に示すように、レーザー蒸着転写用基板1上に残存する転写層5bが昇華して、残存する転写層5bが除去されてレーザー蒸着転写用基板1がクリーニングされる。
付着基板8上には、昇華した有機薄膜9が形成される。
レーザー除去装置20を用いることにより、レーザー蒸着転写用基板1上に残存する転写層5bを効率的に除去することができ、レーザー蒸着転写用基板1にダメージを与えることなく、レーザー蒸着転写用基板1を再利用することができる。そのため、レーザー蒸着転写用基板1を再利用するプロセス条件を選択することによって、製造コストを低減することができる。
【0051】
レーザー光源21から発振されるレーザービームは、図5及び図6に示すように、レーザー蒸着転写用基板1の支持基板2側から照射してもよいし、レーザー蒸着転写用基板1の残存する転写層5b側から照射してもよい。
レーザー光源21のエネルギーは、0.05mJ〜10Jであることが好ましい。
レーザー光源21のエネルギーが0.05mJ未満であると、転写層5bが昇華する温度まで第2の光熱交換層4を昇温させることが難しい。一方、10Jを超えると、エネルギーコストが高くなると共に、第2の光熱変換層4が光吸収により熱変形し、第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層4が熱的なダメージを受ける場合がある。
【0052】
図5及び図6に示すレーザー除去装置20においては、反射ミラー24を水平方向に動かして、レーザー蒸着転写用基板1に均等にレーザービームを照射するようにしているが、本例に限らず、レーザー蒸着転写用基板1を水平方向に動かして、レーザービームを均等に照射するようにしてもよい。図5及び図6中、破線の矢印は、反射ミラーの稼動方向を示す。
【0053】
第2のレーザー光源としては、断続的なレーザー光を発振するパルスレーザーや、連続的なレーザー光を発振するCW(continuous wave)レーザーを用いることができる。また、媒体が気体のエキシマレーザー、媒体が固体であり高調波を利用する固体レーザー、短波長を利用する半導体レーザー等を用いることができる。
【0054】
チャンバ25を真空雰囲気にする真空装置29としては、真空ポンプ等を使用することができ、チャンバ25内の環境雰囲気は、0.01Pa以下まで排気されていることが好ましい。
【0055】
本発明の有機薄膜製造装置は、更にエッチング装置を備えていることが好ましい。
図7は、有機薄膜製造装置のエッチング装置の概略構成を示す図である。
エッチング装置30は、エッチングガスを用いるドライエッチング装置であることが好ましい。
図7に示すように、エッチング装置30は、真空室であるチャンバ31と、エッチングガスをチャンバ31内に導入するエッチングガス供給ノズル32と、チャンバ31内を真空雰囲気にする真空装置(真空ポンプ)33とを備えている。
チャンバ31内には、レーザー蒸着転写用基板1を設置するための転写基板用支持治具34を設けている。
【0056】
例えば、レーザー除去装置20で完全にレーザー蒸着転写用基板1上に残存する転写層5を除去しきれない場合は、真空作動排気管を通じてレーザー蒸着転写用基板1が、エッチング装置30に搬送され、エッチング装置30で残存する転写層が除去されてクリーニングされる。
ドライエッチングに使用するエッチングガスとしては、CF,CHF,Ar,O等の混合ガスを用いることができる。特に酸素ラジカルを含むガスを用いた場合は、支持基板及び第2の光熱変換層4にダメージを与えることなく、効果的に残存する転写層を除去することができる。
【0057】
レーザー除去装置20を用いることなく、有機薄膜を製造した後のレーザー蒸着転写用基板1を、真空作動排気管を通じてエッチング装置30に搬送し、レーザー蒸着転写基板1上に残存する転写層5bをドライエッチングにより除去して、レーザー蒸着転写用基板1をクリーニングしてもよい。
【0058】
本発明の有機薄膜製造装置は、更に転写層5を形成するための有機薄膜蒸着装置を備えていることが好ましい。
図8は、有機薄膜製造装置の有機薄膜蒸着装置の概略構成を示す図である。
図8に示すように、有機薄膜蒸着装置40は、真空室であるチャンバ41と、チャンバ41内を真空装置(真空ポンプ)42とを備えている。
【0059】
チャンバ41内には、レーザー蒸着転写用基板1を支持するための転写基板用支持治具43が設けられている。また、転写基板用支持治具43には、転写層5が形成されたレーザー蒸着転写用基板1を搬送するための搬送用治具44を備えている。
また、チャンバ41内には、蒸着源となる有機材料を収容したるつぼ45が設置されており、このるつぼ45に対向するように、レーザー蒸着転写用基板1が設置される。
【0060】
有機薄膜蒸着装置40は、転写層5が均一に蒸着されるように、レーザー蒸着転写用基板1を回転させるための駆動装置を備えていてもよい。
転写層5は、パターンを形成する必要がなく、所定のパターンに形成するための精密な位置調整等を行うなどの煩雑な工程を必要としないので、製造時間を短縮することができ、製造コストを低減することができる。
【0061】
図9は、本発明の有機薄膜製造装置の好ましい実施形態の一例を示し、有機薄膜製造装置100の概略構成を示す平面図である。
図9に示すように、本例の有機薄膜製造装置100は、有機薄膜蒸着装置40と、レーザー蒸着装置10と、レーザー除去装置20と、エッチング装置30とを、この順序で、真空作動排気管101により直列に連結している。
なお、有機薄膜蒸着装置40と、レーザー蒸着装置10との間は、有機薄膜蒸着装置40で転写層5が最下層となるように設置されていたレーザー蒸着転写用基板を反転させて、転写層5が最上層となるようにレーザー蒸着装置10に搬送するために、やや長めの真空作動排気管101で連結されている。
【0062】
有機薄膜製造装置100は、有機薄膜蒸着装置40でレーザー蒸着転写基板に転写層を蒸着し、レーザー蒸着装置10で、転写層5を転写させて、高精度なパターンの有機薄膜を成膜用基板上に形成した後、レーザー除去装置20及びエッチング装置30で、レーザー蒸着転写用基板上に残存する転写層を除去してクリーニングすることができるので、レーザー蒸着転写用基板を再利用することが可能であり、製造効率を向上させて、製造コストを低減することができる。
【0063】
図10は、本発明の有機薄膜製造装置の好ましい実施形態の他の例を示し、有機薄膜製造装置100を3台並列に配置し、各有機薄膜製造装置100のレーザー蒸着装置10を真空作動排気管102で連結した装置を示す平面図である。
例えば、有機EL素子を構成する、有機正孔輸送層、有機電子輸送層、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の3色の有機発光層等を形成する有機材料ごとに、複数の有機薄膜製造装置100を並列に配置し、各有機薄膜製造装置100のレーザー蒸着装置10に成膜用基板を搬送するようにすれば、効率的に有機ELディスプレイを製造することができ、生産効率を向上させて、製造コストを低減することができる。
なお、図10中、Y方向の矢印は、有機正孔輸送層、有機電子輸送層、R,G,Bの所定のパターンの有機発光層等を形成する成膜用基板の搬送方向を示し、X方向の矢印は、レーザー蒸着転写用基板の搬送方向を示す。
【0064】
次に、本発明の有機薄膜製造方法の好ましい実施形態の一例について説明する。
本例の有機薄膜製造方法は、真空雰囲気中の成膜室内に、特定の波長領域のレーザー光を透過する支持基板と、第1の波長領域のレーザー光を吸収する、上記支持基板上に所定のパターンに形成された第1の熱変換層と、上記第1の波長領域のレーザー光を反射し、第2の波長領域のレーザー光を吸収する、上記第1の光熱変換層の上面を覆うように形成された第2の光熱変換層と、上記第2の光熱変換層上に形成された有機薄膜から成る転写層を備えたレーザー蒸着転写用基板を設置する工程と、上記成膜室内に、上記レーザー蒸着転写用基板に対向するように成膜用基板を設置する工程と、上記第1の波長領域のレーザー光を上記レーザー蒸着転写用基板に照射して、上記成膜用基板上に所定のパターンの有機薄膜を転写する工程とを含む。
【0065】
本例の有機薄膜製造方法によれば、第1の波長領域(好ましくは150〜450nm)のレーザー光をレーザー蒸着転写用基板に照射することによって、第1の光熱変換層がレーザー光を吸収して光を熱に変換し、第1の光熱変換層が昇温することによって、第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位上の転写層を昇華させて、成膜用基板上に高精度なパターンの有機薄膜を転写する。
このときに、第2の光熱変換層は、第1の波長領域のレーザー光を反射するために、第2の光熱変換層のみの部位上に形成された転写層は昇華せず、そのまま残存し、有機薄膜のパターン精度を向上させる。
【0066】
本例の有機薄膜製造方法は、上記有機薄膜を転写する工程の前に、上記第2の光熱変換層上に、有機材料から成る転写層を蒸着する工程を含むことが好ましい。
有機薄膜を製造する直前に、レーザー蒸着転写用基板の第2の光熱変換層上に、有機薄膜を構成する転写層を蒸着する工程を含むことにより、転写層中に不純物が混入するのを防止することができる。
【0067】
本例の有機薄膜製造方法は、上記有機薄膜を転写する工程の後に、上記レーザー蒸着転写用基板に、上記第2の波長領域のレーザー光を照射し、残存する転写層を昇華させて除去する工程を含むことが好ましい。
残存する転写層をレーザー光の照射により除去する工程により、残存する転写層を簡単に除去して、レーザー蒸着転写用基板を再利用することができ、製造効率を向上させ、製造コストを低減することができる。
【0068】
本例の有機薄膜製造方法は、上記有機薄膜を転写する工程の後に、上記レーザー蒸着転写用基板に残存する転写層を、エッチングにより除去する工程を含むことが好ましい。
上記エッチングがドライエッチングであり、酸素ラジカルを含むエッチングガスを用いることが更に好ましい。
残存する転写層をエッチングにより除去する工程により、残存する転写層を簡単に除去して、レーザー蒸着転写用基板を再利用することができ、製造効率を向上させてコストを低減することができる。
残存する転写層は、レーザー光の照射又はエッチングのいずれか一方を行って除去してもよく、両方を行って除去してもよい。
エッチングがドライエッチングの場合は、この際に使用するエッチングガスとして、CF,CHF,Ar,O等の混合ガスを用いることができる。特に酸素ラジカルを含むガスを用いることにより、支持基板及び第2の光熱変換層にダメージを与えることなく、効果的に残存する転写層を除去することができる。
【0069】
本発明によれば、比較的簡単な光学系を用いて、効率的に且つ高精度なパターンの有機薄膜を低コストで製造することができるので、高画質な大型の有機ELディスプレイパネルを製造する装置及び方法として好適である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は次の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
レーザー蒸着転写用基板の支持基板として厚さ0.7mmのサファイア基板を用いた。
この支持基板上に、層厚2μmのシリコン(Si)単体をスパッタリングして第1の光熱変換層を形成した試験用基板A(Si/サファイア)を作製した。
第1の光熱変換層を形成した支持基板と同様の支持基板を用いて、この支持基板上に、層厚100nmのTiを蒸着して第2の光熱変換層を形成した試験用基板B(Ti/サファイア)を作製した。
この試験用基板A及びBに、パルスレーザーを用いて、駆動周波数が20KHz、パルス幅が100nsec(ナノ秒)、送り速度が5mm/sec(mm/秒)、波長が355nmのレーザー光を照射した。なお、レーザー光は、試験用基板A及びBの各支持基板の側から照射した。
そして、試験用基板A及びBの各表面温度を熱電対(オムロン社製)で測定した。
図11に、レーザー光のレーザーパワー(W)と、試験用基板A及びBの表面温度との関係を示す。
【0071】
図11に示すように、試験用基板A(Si/サファイア)は、波長が355nmのレーザー光が照射されることにより、レーザー光のパワーに応じて200〜600℃程度まで表面温度が昇温するのに対し、試験用基板B(Ti/サファイア)は、同じ波長のレーザー光を照射しても殆ど昇温しなかった。
この結果から、所定の波長領域のレーザー光を透過する支持基板上に、第1の波長領域(例えば、355nm)のレーザー光を高効率で吸収する第1の光熱変換層を所定のパターンに形成し、この第1の光熱変換層の表面を覆うように、第1の波長領域のレーザー光を反射し且つ第2の波長領域のレーザー光を吸収する第2の光熱変換層を形成し、第2の光熱変換層上に、第1の光熱変換層が昇温する温度で昇華する有機材料(例えば、低分子系の有機EL材料)から成る転写層を形成して、レーザー蒸着転写用基板とし、第1の波長領域のレーザー光を照射すれば、第1の光熱変換層のパターン通りに転写層が転写されて、高精度なパターンの有機薄膜を製造すること可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の有機薄膜製造装置のレーザー蒸着装置の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の有機薄膜製造装置のレーザー蒸着装置の一例を示す説明図である。
【図3】レーザー蒸着転写用基板の実施形態の一例を示す断面図である。
【図4】各波長のレーザー光と、シリコンの吸収係数α(cm−1)の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の有機薄膜製造装置のレーザー除去装置の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の有機薄膜製造装置のレーザー除去装置の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の有機薄膜製造装置のエッチング装置の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の有機薄膜製造装置の有機薄膜蒸着装置の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の有機薄膜製造装置の一例を示す平面図である。
【図10】本発明の有機薄膜製造装置の一例を示す平面図である。
【図11】レーザー光のレーザーパワー(W)と試験基板の表面温度(℃)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1…レーザー蒸着転写用基板、2…支持基板、3…第1の光熱変換層、4…第2の光熱変換層、5,5a,5b…転写層、6…成膜用基板、7…有機薄膜、8…付着用基板、10…レーザー蒸着装置、11…第1のレーザー光源、12,22…アッテネータ,13,23…光学系,14,24…反射ミラー、15,25,31,41…チャンバ,16,26…透過窓,17,27,34,43…転写用基板支持用治具,18…成膜用基板支持用治具、19,29,33,42…真空装置,20…レーザー除去装置、28…付着用基板支持用治具、30…エッチング装置、32…エッチングガス供給ノズル、40…有機薄膜蒸着装置、44…搬送用治具、45…るつぼ、100…有機薄膜製造装置、101,102…真空作動排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長領域のレーザー光を発振するためのレーザー光源と、
該レーザー光源から発振されたレーザー光の照射によって、成膜用基板上に有機薄膜を転写させるためのレーザー蒸着転写用基板と、
上記レーザー蒸着転写用基板と成膜用基板とを設置する成膜室と、
上記成膜室内を真空雰囲気にする真空装置とを有するレーザー蒸着装置を備えた有機薄膜製造装置であって、
上記レーザー蒸着転写用基板が、所定の波長領域のレーザー光を透過する支持基板と、
上記支持基板上に所定のパターンに形成され、上記レーザー光源から発振される特定の波長領域のレーザー光を吸収する第1の光熱変換層と、
上記第1の光熱変換層の上面を覆うように形成され、上記特定の波長領域のレーザー光を反射し、且つ、上記特定の波長領域とは異なる波長領域のレーザー光を吸収する第2の光熱変換層と、
上記第2の光熱変換層上に形成された転写層を備えたことを特徴とする有機薄膜製造装置。
【請求項2】
上記第1の光熱変換層が、150〜450nmの波長領域のレーザー光を高効率で吸収するものであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項3】
上記第2の光熱変換層が、150〜450nmの波長領域のレーザー光を反射し、500〜2000nmの波長領域のレーザー光を吸収するものであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項4】
上記第1の光熱変換層が、シリコン又はシリコンを30原子%以上含む合金から成ることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項5】
上記第2の光熱変換層が、融点が650℃以上の金属又は該金属を含む合金から成ることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項6】
上記金属が、Ti,Ta,Hf,Zr,W,Mo,V,Co,Cu,Cr,Fe,Ni,Pt,Pd,Rh,Re,Ir,Au,Ag及びAlから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項5に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項7】
上記第1の光熱変換層の層厚が100nm〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項8】
上記第2の光熱交換層の層厚が3nm〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項9】
上記第2の光熱交換層を形成した材料を用いて、上記レーザー蒸着転写用基板に対向して設置される成膜用基板との位置調整を行うためのアライメントマークを上記レーザー蒸着転写用基板に設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項10】
上記レーザー蒸着転写用基板に対向して設置される成膜用基板との間隔調整を行うための突起を上記レーザー蒸着転写用基板に設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項11】
上記突起が、第1の光熱変換層及び第2の光熱変換層が積層された部位と、上記成膜用基板との間隔が100nm〜30mmとなる高さであることを特徴とする請求項10に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項12】
上記レーザー光源のエネルギーが0.05mJ〜1Jであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項13】
上記第2の光熱変換層が吸収する波長領域のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、
上記レーザー蒸着転写用基板を設置する真空室と、
上記真空室内を真空雰囲気にする真空装置とを有するレーザー除去装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項14】
上記第2のレーザー光源のエネルギーが0.05mJ〜10Jであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項15】
上記第2の熱変換層上に、転写層を蒸着するための有機薄膜蒸着装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項16】
上記第2の光熱変換層上に残存する転写層をエッチングするためのエッチング装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項17】
上記エッチング装置が、ドライエッチング装置であることを特徴とする請求項16に記載の有機薄膜製造装置。
【請求項18】
真空雰囲気中の成膜室内に、
特定の波長領域のレーザー光を透過する支持基板と、
第1の波長領域のレーザー光を吸収する、上記支持基板上に所定のパターンに形成された第1の熱変換層と、
上記第1の波長領域のレーザー光を反射し、第2の波長領域のレーザー光を吸収する、上記第1の光熱変換層の上面を覆うように形成された第2の光熱変換層と、
上記第2の光熱変換層上に形成された有機薄膜から成る転写層を備えたレーザー蒸着転写用基板を設置する工程と、
上記成膜室内に、上記レーザー蒸着転写用基板に対向するように成膜用基板を設置する工程と、
上記第1の波長領域のレーザー光を上記レーザー蒸着転写用基板に照射して、上記成膜用基板上に所定のパターンの有機薄膜を転写する工程とを含むことを特徴とする有機薄膜製造方法。
【請求項19】
上記有機薄膜を転写する工程の後に、上記レーザー蒸着転写用基板に、上記第2の波長領域のレーザー光を照射し、残存する転写層を昇華させて除去する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項20】
上記有機薄膜を転写する工程の前に、上記第2の光熱変換層上に、有機材料から成る転写層を蒸着する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項21】
上記有機薄膜を転写する工程の後に、上記レーザー蒸着転写用基板に残存する転写層を、エッチングにより除去する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項22】
上記エッチングがドライエッチングであり、酸素ラジカルを含むエッチングガスを用いることを特徴とする請求項21に記載の有機薄膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−199856(P2009−199856A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39822(P2008−39822)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】