説明

有機酸を高産生するための組換え微生物

【課題】有機酸を産生するための組換え微生物を提供する。
【解決手段】ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の活性を有するポリペプチドを発現する組換え微生物、例えばZwischenferment(Zwf)遺伝子を発現するように形質転換された組換えActinobacillus succinogenes。また、Zwfなどの酵素を発現する組換え微生物を生成ための新規プラスミド。この組換え微生物は、コハク酸および乳酸などの有機酸を産生するための発酵プロセスにおいて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(米国政府の援助に関する記載)
本発明は、エネルギー省によって授与された協力契約番号(Cooperative A
greement No.)DE−FC36−02GO12001において米国政府から
援助を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2005年1月26日に提出された米国仮特許出願第60/647,141
号;および2004年12月22日に提出された米国仮特許出願第60/639,443
号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張するものである。上述の出願は、そ
れらの全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
石油化学材料から現在得られている多くの化学物質は、天然に存在する炭水化物から生
成することができる。特に、4炭素ジカルボン酸であるコハク酸は、消費財産業にとって
多くの重要な中間体および特殊化学物質を生成し、現在、再生不可能な石油化学材料から
得られた出発物質に依存している商業的プロセスのための出発物質として使用され得る大
量の汎用化学物質となる潜在性を有している。例えば、汎用化学物質として、コハク酸は
、多くの産業についての溶媒および出発物質として有用な1,4−ブタンジオール(BD
O)およびテトラヒドロフラン(THF)化合物の製造に使用される石油化学の出発物質
に取って代わる可能性がある。例えば、BDOおよびTHF化合物は、自動車の車体用の
樹脂、家庭用器具の用途のための熱可塑物および繊維産業におけるLycra(商標)な
どの弾性ポリマーの製造に有用である。さらに、BDOおよびTHF化合物はまた、農薬
産業および医薬品産業における多くの特殊な用途を有する。特に、BDOの世界的な消費
は、年間4%もの高率で増加すると予想される。
【0003】
BDOおよびTHFを生成するために現在使用されている石油化学物質としては、アセ
チレン、ホルムアルデヒド、ブタン、ブタジエンおよびプロピレンオキシドが挙げられる
。これらのすべてが、様々な有害特性(例えば、極度の引火性、化学的不安定性および毒
性)を有する。さらに、これらの材料は、石油から得られるので、再生不可能な資源を枯
渇させ、処分または破棄によって、最終的に炭素を(二酸化炭素として)大気中に放出す
る。従って、石油化学的に得られた材料の代替物としてコハク酸を開発することは、有害
な材料の取扱いおよび貯蔵を減少させ、産業的安全性および地域社会の安全性を促進し、
汚染および環境コストを減少させ、そして石油への依存を減少させ得る。
【0004】
糖の発酵によるコハク酸および他の有機化合物の製造は、経済的に実行可能である。多
くの微生物が、炭素源としてコーンシュガーを使用してコハク酸を産生するために使用さ
れてきた。従って、石油化学系出発物質の代替物としてコハク酸を開発することは、発酵
性の糖を提供することができるトウモロコシおよび他の農産物ならびに/またはバイオマ
スについての市場を拡大し得る。
【0005】
形式上、コハク酸生成についての生化学経路は、二酸化炭素分子を3炭素化合物である
ホスホエノールピルビン酸(PEP)に添加して4炭素化合物であるオキサロ酢酸(OA
A)を生成するものである。コハク酸への経路の次の工程は、逆向きのトリカルボン酸サ
イクル(TCAサイクル)の一部であり、そして2つの必須の還元工程を含む。OAAか
らコハク酸塩へ導く生化学プロセスにおいて、OAAは、L−リンゴ酸塩を生成するため
にはじめに還元されなければならない。次いでL−リンゴ酸塩は、脱水されてフマル酸塩
および水を生成する。次いでフマル酸塩は、還元されてコハク酸を与える。化学分野では
、「還元」とは、化合物への水素分子の付加のことをいう。
【0006】
一般に、遊離水素分子は、細胞内の生物系に見られない。正確に言えば、還元は、水素
の生化学的等価物として(すなわち、水素分子の担体として)機能し、「還元当量」とよ
ばれる補酵素の使用を介して実施される。還元当量としては、補酵素である、還元型ニコ
チンアミドアデニンジヌクレオチド(「NADH」)、還元型ニコチンアミドアデニンジ
ヌクレオチドリン酸(「NADPH」)、還元型フラビンアデニンジヌクレオチド(「F
ADH」)および還元型フラビンモノヌクレオチド(「FMNH」)が挙げられる。一
般に、NADHおよびNADPHは、ピリジンジヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ酵
素によって様々な微生物において相互変換され得る。
【0007】
OAAからコハク酸塩への変換に必要とされる還元当量は、NAD(P)H、FAD
または他の補助因子によって提供される。十分な量の還元当量が、OAAからコハク
酸塩への変換に利用可能であることが不可欠である。十分な還元当量が、利用可能でない
場合、生化学経路は、効率的に機能せず、一部のOAAしか所望のコハク酸塩に変換され
ない。
【0008】
還元当量は、細胞代謝に通常見られる多くの生物学的プロセスにおいて生成され得る。
例えば、還元当量は、ペントースリン酸サイクル(PPC)において生じ得る。PPCで
は、グルコース−6−リン酸が、Zwischenferment酵素またはZwfとし
ても知られるグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ酵素によってD−6−ホスホグル
コノ−δ−ラクトンに変換される。この変換の一部として、NADPが還元当量の受容体
としてNADPHに変換される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
商業生産に十分な濃度のコハク酸を生成する微生物はほとんどないことがこれまで説明
されてきた。このような微生物の1つが、ウシの反芻胃から単離された通性の嫌気性生物
であるActinobacillus succinogenesである。この生物体は
、高濃度のコハク酸を産生し、高濃度の糖に耐性である。Actinobacillus
succinogenesは、コハク酸の最良の既知産生株の1つであるが、この株の
発酵収率は、還元当量の欠如によって制限され得る。従って、発酵によって産生されるコ
ハク酸の収率を高めるような改良が望まれ、それにはコハク酸を産生するための微生物の
改良株の使用が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
有機酸を産生するための組換え微生物を開示する。組換え微生物は、ペントースリン酸
サイクルにおいて利用される酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現す
る。1つの実施形態において、この酵素は、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナ
ーゼであり、Zwischenferment酵素またはZwfとも呼ばれる。例えば、
組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを
発現し得る。1つの実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペ
プチドを発現するDNA分子で形質転換された、コハク酸を産生する微生物の組換え株で
ある。
【0011】
組換え微生物は、代表的には、商業生産に適したレベルで1つ以上の有機酸を産生する
ことができる。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、コハク酸を産生する微生
物である。例えば、その微生物は、商業生産に適した濃度でコハク酸を産生し得る。商業
生産に適した濃度とは、少なくとも約20g/L、40g/L、60g/L、80g/L
、100g/L、120g/Lおよび/または140g/Lであり得る。望ましくは、組
換え微生物は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる

【0012】
組換え微生物は、発酵システムにおける商業生産に適した濃度でコハク酸を産生するこ
とを促進するように、比較的高濃度のコハク酸に耐性となるように選択されてもよく、お
よび/またはそのように組換えで操作されてもよい。いくつかの実施形態において、組換
え微生物は、比較的少量の望ましくない副産物(例えば、酢酸塩、ギ酸塩および/または
ピルビン酸塩)(例えば、わずか約2.0g/Lの酢酸塩、わずか約2.0g/Lのギ酸
塩および/またはわずか約3.0g/Lのピルビン酸塩)を産生するように選択され得る
。組換え微生物は、少なくとも約1g/L、2g/L、4g/Lおよび/または8g/L
の濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である株(または株の変異株)由来
であってもよい。別の実施形態において、組換え微生物の変異株は、少なくとも約1g/
L、2g/L、4g/Lおよび/または8g/Lの濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムの
レベルに耐性であるように選択され得る。
【0013】
1つの実施形態において、組換え微生物は、Actinobacillus succ
inogenes(すなわち、「A.succinogenes」)またはActino
bacillus succinogenesに関連する微生物の株由来である。A.s
uccinogenesの1つの適切な株は、ATCCアクセッション番号55618と
してAmerican Type Culture Collection(ATCC)
に寄託されたBacterium 130Zである。Bacterium 130Zおよ
び他の適切な株の説明については、米国特許第5,504,004号を参照のこと。
【0014】
他の適切な微生物は、組換え微生物を調製するために選択されてもよく、そして16S
rRNA内の配列同一性によって決定されるようにA.succinogenesに関
連する微生物を含んでもよい。例えば、A.succinogenesに関連する適切な
微生物は、A.succinogenes 16S rRNAに対して実質的な配列同一
性を示す16S rRNAを有し得る(すなわち、A.succinogenes 16
S rRNAに対して少なくとも約90%の配列同一性を示す16S rRNAを有する
微生物またはより適切には、A.succinogenes 16S rRNAに対して
少なくとも約95%の配列同一性を示す微生物)。Pasteurellaceae科の
多くの代表的な微生物は、A.succinogenes 16S rRNAに対して少
なくとも約90%の配列同一性を示す16S rRNAを有する。例えば、Guettl
erら,INT’L J.SYSTEMATIC BACT.(1999),49,20
7〜216の209頁、表2を参照のこと。適切な微生物としては、Bisgaard
Taxon6およびBisgaard Taxon10などの微生物を挙げることができ
る。
【0015】
いくつかの実施形態において、組換え微生物は、A.succinogenes以外の
生物体から調製することができる。例えば、組換え微生物は、有機酸を産生するための発
酵システムにおける用途に適切な任意の微生物から調製することができる。適切な微生物
としては、E.coliを挙げることができる。E.coliの適切な株は、当該分野で
公知である。
【0016】
モノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性である微生物の変異株はまた、組換え微生物を調製
するのに適切であり得る。例えば、米国特許第5,521,075号および同第5,57
3,931号を参照のこと。1つの実施形態において、組換え微生物は、少なくとも約1
g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性であるA.succinogenesの変異
株から調製される。1つの適切な変異株は、FZ45である。米国特許第5,573,9
31号を参照のこと。ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された組
換え微生物は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性であるA.s
uccinogenesの変異株(すなわち、FZ45)由来である。
【0017】
組換え微生物は、代表的には、ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の1
つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換され
る。例えば、組換え微生物は、Zwf酵素の生化学活性(すなわち、グルコース−6−リ
ン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクターゼ活性)の1つ以上を有す
るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換することができる。望ましくは
、そのポリヌクレオチドは、NADPからNADPHへの変換を促進するポリペプチドを
コードする。そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、その微生物に対して内因性で
あってもよく、またはその微生物に通常存在する遺伝子または酵素由来であってもよい。
いくつかの実施形態において、そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、その微生物
の内因性の遺伝子または酵素に相同であり得る。他の実施形態において、そのポリヌクレ
オチドまたはポリペプチドは、異種であり得る(すなわち、その微生物に通常存在しない
遺伝子または酵素由来であり得るか、またはその微生物以外の供給源由来であり得る)。
【0018】
組換え微生物は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの改変体および/または
そのポリペプチドの改変体を発現し得る。そのポリヌクレオチドが、Zwf酵素の1つ以
上の生化学活性(例えば、NADPレダクターゼ活性)を有するポリペプチドをコードす
る場合、そのポリヌクレオチドの改変体は、そのポリヌクレオチドに対して少なくとも約
90%の配列同一性または望ましくは、そのポリヌクレオチドに対して少なくとも約95
%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み得る。そのポリペプチドがZwf酵素の
1つ以上の生化学活性(例えば、NADPレダクターゼ活性)を有する場合、改変体は、
そのポリペプチドに対して少なくとも約90%の配列同一性、または望ましくは、そのポ
リペプチドに対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリペプチドを含み得る。
従って、そのポリペプチドがNADPレダクターゼ活性を有する場合、適切なポリヌクレ
オチドは、選択されたZwf酵素に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリ
ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0019】
組換え微生物が、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリヌクレオチドで
形質転換されない微生物よりも高いZwf酵素活性を示す場合、組換え微生物は、Zwf
酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリヌクレオチドで形質転換されているかもし
れない。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペ
プチドを発現するポリヌクレオチドで形質転換されていない微生物よりも、少なくとも約
5倍(5×)高いZwf酵素活性(または望ましくは少なくとも約10倍(10×)高い
Zwf酵素活性、もしくはより望ましくは少なくとも約50倍(50×)高いZwf酵素
活性)を示す。Zwf酵素活性としては、NADPレダクターゼ活性を挙げることができ
る。Zwf酵素活性は、(例えば、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリ
ヌクレオチドで形質転換されていない微生物と比べる場合)組換え微生物に存在するNA
DPHのレベルを計測することによって測定することができる。
【0020】
組換え微生物は、Zwf遺伝子などのZwf酵素をコードするポリヌクレオチドを発現
し得る。ポリヌクレオチドの改変体は、Zwf遺伝子に対して少なくとも約90%の配列
同一性、または望ましくはZwf遺伝子に対して少なくとも約95%の配列同一性を有し
、かつZwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレ
オチドを含み得る。ポリヌクレオチドの改変体は、そのポリヌクレオチドの核酸フラグメ
ントを含み得る。例えば、フラグメントは、Zwf遺伝子の少なくとも約90%またはZ
wf遺伝子の少なくとも約95%を含み得る。核酸フラグメントは、任意の適切な長さで
あり得る。例えば、核酸フラグメントは、少なくとも約10、50、100、250、5
00、1000および/または1400のヌクレオチドを含み得る。フラグメントは、Z
wf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードし得る。
【0021】
適切なZwf遺伝子は、組換え微生物の内因性または天然のZwf遺伝子(すなわち、
組換え微生物が由来する微生物に通常存在するZwf遺伝子)またはそれらの改変体を含
み得る。他の適切なZwf遺伝子は、微生物に対して異種のZwf遺伝子(すなわち、組
換え微生物を調製するために使用した微生物に通常存在しないか、またはそれ以外の供給
源から得られたZwf遺伝子)またはそれらの改変体を含み得る。適切なZwf遺伝子は
、選択されたZwf遺伝子のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約90%の配列同
一性(好ましくは、選択されたZwf遺伝子のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも
約95%の配列同一性)を有する改変体を含み得、そしてZwf酵素の1つ以上の生化学
活性(すなわち、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADP
レダクターゼ活性)を有するポリペプチドをコードし得る。
【0022】
適切なZwf遺伝子は、E.coli Zwf遺伝子またはその改変体を含み得る。E
.coli Zwf遺伝子のポリヌクレオチド配列は、アクセッション番号NC_000
913として、ヌクレオチド1,932,863〜1,934,338(配列番号1)の
逆相補鎖およびアクセッション番号M55005としてヌクレオチド708〜2180(
配列番号2)がGenBankに寄託されている。E.coli Zwf遺伝子の適切な
改変体は、配列番号1(または配列番号2)のポリヌクレオチドに対して少なくとも約9
0%の配列同一性(望ましくは少なくとも約95%の配列同一性)を有するポリヌクレオ
チドを含み得るので、そのポリヌクレオチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(す
なわち、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクタ
ーゼ活性)を有するポリペプチドをコードする。
【0023】
適切なZwf遺伝子は、A.succinogenes Zwf遺伝子またはその改変
体を含み得る。A.succinogenes 130Zのドラフトゲノム配列は、最近
確立され、構築された。そしてエネルギー省のウェブサイトであるJoint Geno
me Instituteで2005年9月には公的に利用可能となった。Zwf遺伝子
は、「グルコース−6−リン酸1−デヒドロゲナーゼ」と注釈をつけられており、コンテ
ィグ115、ヌクレオチド8738〜10225(すなわち、配列番号5)上に存在する
。コードされるポリペプチド(すなわち、A.succinogenes Zwf酵素)
の予測アミノ酸配列は、配列番号6として存在する。Zwf酵素は、国立バイオテクノロ
ジー情報センター(National Center for Biotechnolo
gy Information)のウェブサイトで入手可能な「BLAST」アラインメ
ントアルゴリズムバージョンBLASTP2.2.12、BLOSUM62行列を使用し
たところ、E.coli Zwf酵素に対して43%のアミノ酸配列同一性および60%
のアミノ酸相同性を示す。A.succinogenes Zwf遺伝子の適切な改変体
は、配列番号5のポリヌクレオチドに対して少なくとも約90%の配列同一性(望ましく
は少なくとも約95%の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを含み得るので、そのポ
リヌクレオチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(すなわち、グルコース−6−リ
ン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクターゼ活性)を有するポリペプ
チドをコードする。
【0024】
組換え微生物は、内因性Zwf酵素(すなわち、組換え微生物が由来する微生物内に存
在するZwf酵素)またはその改変体を発現し得る。他の実施形態において、組換え微生
物は、微生物に対して異種であるZwf酵素(すなわち、組換え微生物が由来する微生物
に存在しないか、または発現しないZwf酵素)またはその改変体を発現し得る。適切な
Zwf酵素は、選択されたZwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%アミノ
酸配列同一性(望ましくは選択されたZwf酵素に対して少なくとも約95%アミノ酸配
列同一性)を有し、そしてZwf酵素の1つ以上の生化学活性(例えば、NADPレダク
ターゼ活性および/またはグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性)を有する改変
体を含み得る。適切なZwf酵素は、E.coli Zwf酵素(例えば、配列番号3、
NC_000913のヌクレオチド1,932,863〜1,934,338のヌクレオ
チド配列の逆相補鎖によってコードされるポリペプチド)またはその改変体およびA.s
uccinogenes Zwf酵素(例えば、配列番号6)またはその改変体を含み得
る。
【0025】
改変体ポリペプチドは、Zwf酵素のフラグメントを含み得る。例えば、フラグメント
は、配列番号3のアミノ酸配列の少なくとも約90%、またはより望ましくは配列番号3
のアミノ酸配列の少なくとも約95%を含み得る。他の実施形態において、フラグメント
は、配列番号6のアミノ酸配列の少なくとも約90%、またはより望ましくは配列番号6
のアミノ酸配列の少なくとも約95%を含み得る。ポリペプチドフラグメントは、任意の
適切な長さであり得る。例えば、ポリペプチドフラグメントは、(例えば、配列番号3ま
たは配列番号6の)少なくとも約10、50、100、200および/または300のア
ミノ酸を含み得る。ポリペプチドフラグメントは、代表的にはZwf酵素の1つ以上の生
化学活性を有する。
【0026】
組換え微生物は、内因性(すなわち、天然)Zwf酵素をコードする内因性(すなわち
、天然)Zwf遺伝子を発現するポリヌクレオチドで形質転換されたコハク酸を産生する
微生物を含み得る。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、異種Zwf酵素をコ
ードする異種Zwf遺伝子を発現するポリヌクレオチドで形質転換されたコハク酸を産生
する微生物を含み得る。ATCCアクセッション番号PTA−6255としてAmeri
can Type Culture Collection(ATCC)に寄託された組
換え微生物は、異種Zwf酵素をコードする異種Zwf遺伝子(例えば、E.coli
Zwf遺伝子)を発現するコハク酸を産生する微生物(すなわち、A.succinog
enes)の組換え株である。
【0027】
組換え微生物は、比較的高レベルのZwf酵素活性を有するポリペプチドを発現し得る
(すなわち、そのポリペプチドが「過剰発現」し得る)。例えば、組換え微生物は、非組
換え微生物と比べて比較的高レベルな内因性Zwf酵素を発現し得る。いくつかの実施形
態において、組換え微生物は、DNA分子で形質転換されていない組換え微生物と比べて
比較的高レベルな内因性Zwf酵素を発現するDNA分子(例えば、プラスミド)で形質
転換され得る。
【0028】
Zwf遺伝子などのポリヌクレオチドは、組換え微生物が由来する選択された微生物に
おける発現に最適化され得る。例えば、異種Zwf遺伝子は、非天然微生物における発現
に最適化され得る。いくつかの実施形態において、Zwf遺伝子は、A.succino
genesまたはBisgaard Taxon6もしくはBisgaard Taxo
n10などの微生物における発現に最適化され得る。他の実施形態において、Zwf遺伝
子は、E.coliにおける発現に最適化され得る。
【0029】
Zwf遺伝子などのポリヌクレオチドは、任意の適切なストラテジによって組換え微生
物における発現に最適化され得る。例えば、Zwf遺伝子は、組換え微生物におけるZw
f遺伝子の発現を促進するプロモーター配列にZwf遺伝子を作動可能に連結することに
よって組換え微生物における発現に最適化され得る。このプロモーター配列は、組換え微
生物における比較的高レベルな発現を促進するために最適化され得る(すなわち、「過剰
発現」を促進するために最適化され得る)。Zwf遺伝子は、微生物にとって内因性であ
るプロモーター配列(すなわち、微生物にとって天然なプロモーター)または微生物にと
って異種であるプロモーター配列(すなわち、微生物には通常存在しないかまたはそれ以
外の供給源由来であるプロモーター)に作動可能に連結されていてもよい。適切なプロモ
ーターは、選択されたZwf遺伝子に対して天然でないプロモーターであるプロモーター
(すなわち、微生物にとって内因性であってもよく、または微生物にとって異種であって
もよい非Zwf遺伝子プロモーター)を含み得る。適切なプロモーターとしては、誘導性
プロモーターまたは構成的プロモーターを挙げることができる。適切なプロモーターは、
コハク酸を産生する微生物のプロモーター由来であり得る。
【0030】
他の実施形態において、Zwf遺伝子の発現は、翻訳レベルで最適化され得る。例えば
、異種Zwf遺伝子は、遺伝子にとって天然ではない宿主として組換え微生物が由来する
微生物における好ましい使用頻度を証明するコドンを含むように改変され得る。
【0031】
別の実施形態において、Zwf遺伝子などのポリヌクレオチドの発現は、組換え微生物
において比較的コピー数の多いポリヌクレオチドを提供することによって最適化され得る
。例えば、Zwf遺伝子は、組換え微生物において比較的コピー数が多くなるように複製
することができる後成的エレメント(例えば、プラスミド)上に存在し得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、組換え微生物は、Zwf遺伝子に作動可能に連結された
プロモーターを含むDNA分子で形質転換された、Actinobacillus su
ccinogenesまたは関連微生物などのコハク酸を産生する微生物の組換え株であ
る。Zwf遺伝子は、内因性または異種のZwf遺伝子由来であり得、例えば、A.su
ccinogenes Zwf遺伝子(例えば、配列番号5)およびE.coli Zw
f遺伝子(例えば、配列番号1および2)を含み得る。他のZwf遺伝子は、公知であり
、それらのポリヌクレオチド配列は、公開されている(例えば、GenBankを参照の
こと)。コハク酸を産生する微生物の適切な内因性または天然プロモーター配列は、例え
ば、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター配列を含み得
る。A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナ
ーゼプロモーター配列は、ヌクレオチド1〜258(配列番号4)であるアクセッション
番号AY308832としてGenBankに寄託されている。ホスホエノールピルビン
酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターは、Zwf遺伝子について適切な異種プロ
モーター(すなわち、非Zwf遺伝子プロモーター)であり得る。
【0033】
本明細書に記載するように、組換え微生物は、後成的エレメントとして組換えDNA分
子を含み得、そして/または組換えDNA分子は、(例えば、組換えの適切な方法によっ
て)微生物のゲノムに組み込まれ得る。特定の実施形態において、DNA分子は、プラス
ミド、組換えバクテリオファージ、細菌人工染色体(BAC)および/またはE.col
iP1人工染色体(PAC)である。DNA分子は、選択可能なマーカーを含み得る。適
切な選択可能なマーカーとしては、カナマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイク
リン耐性、クロラムフェニコール耐性に対するマーカーおよびこれらの選択可能なマーカ
ーの組み合わせを含み得る。1つの実施形態において、選択可能なマーカーは、カナマイ
シン耐性である。
【0034】
本明細書に記載するように、組換えDNA分子は、組換え微生物(例えば、A.suc
cinogenes)においてポリヌクレオチドを発現するための、Zwf酵素の1つ以
上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結さ
れた適切なプロモーターを含み得る。そのプロモーターは、コハク酸を産生する微生物に
おいてポリペプチドを発現するのに適切であり得る。いくつかの実施形態において、組換
えDNA分子は、(E.coli Zwf遺伝子またはA.succinogenes
Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子を含み得る)Zwf遺伝子またはその改変体に作動
可能に連結されたホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター
(例えば、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキ
シキナーゼプロモーター)を含む。例えば、DNA分子は、GenBankアクセッショ
ン番号NC_000913として寄託されたDNA配列のヌクレオチド1,932,86
3〜1,934,338の逆相補鎖(配列番号1)に作動可能に連結されたか;またはG
enBankアクセッション番号M55005として寄託されたDNA配列(配列番号2
)に作動可能に連結されたか;または配列番号5のDNA配列に作動可能に連結された、
GenBankアクセッション番号AY308832として寄託されたDNA配列のヌク
レオチド1〜258(配列番号4)またはその改変体を含み得る。いくつかの実施形態に
おいて、そのプロモーターは、配列番号4のポリヌクレオチドに対して少なくとも約95
%の配列同一性を有し、かつ組換え微生物においてプロモーター活性を有するポリヌクレ
オチドを含み得る。
【0035】
組換えDNA分子を含む組換え微生物は、発酵システムにおいて有機酸(例えば、コハ
ク酸または乳酸)を産生するのに適切であり得る。組換えDNA分子を含む組換え微生物
は、組換えDNA分子を含まない微生物に対して、発酵システムにおいて高レベルな有機
酸(例えば、コハク酸または乳酸)を産生し得る。
【0036】
1つ以上の上述の組換えDNA分子を含むDNAプラスミドもまた開示される。このD
NAプラスミドは、選択可能なマーカーを含み得る。適切な選択可能なマーカーとしては
、適切なプロモーター(例えば、構成的プロモーター)に作動可能に連結された、アンピ
シリン耐性、ストレプトマイシン耐性、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロ
ラムフェニコール耐性およびスルホンアミド耐性の1以上の遺伝子を挙げることができる
。1つの実施形態において、DNAプラスミドは、カナマイシン耐性についての遺伝子を
含む。
【0037】
DNAプラスミドは、1以上の適切な宿主細胞においてプラスミドを維持および/また
は複製するために必要な配列を含み得る。1つの実施形態において、DNAプラスミドは
、適切な宿主細胞間のシャトルベクターとして機能することができる。DNAプラスミド
は、A.succinogenesとE.coliとの間のシャトルベクターとして機能
することができ得る。
【0038】
1以上の上述のDNA分子を含む宿主細胞もまた開示される。例えば、その宿主細胞は
、DNA分子を含むDNAプラスミドを含み得る。宿主細胞は、DNA分子を含むDNA
プラスミドを産生および単離するのに適切であり得る。
【0039】
宿主細胞は、発酵システムにおいて1以上の有機酸を産生するのに適切であり得る。い
くつかの実施形態において、宿主細胞は、発酵システムにおいて1以上の有機酸(例えば
、コハク酸または乳酸)の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(およびそれ
に続いてZwf酵素)を発現する。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、宿主細胞
における還元当量(例えば、NADPH)の濃度を高めるのに適切なレベルでZwf遺伝
子(およびそれに続いてZwf酵素)を発現し得る。宿主細胞は、その株における還元当
量(例えば、NADPH)の濃度を高めるのに適切なレベルでZwf遺伝子(およびそれ
に続いてZwf酵素)を発現するA.succinogenesの組換え株を含み得る。
このような株は、発酵システムにおいて組換えDNA分子を含まない株と比べて高レベル
なコハク酸を産生するのに適切であり得る。
【0040】
いくつかの実施形態において、宿主細胞は、(例えば、発酵システムにおいて)少なく
とも約20g/L、40g/L、60g/L、80g/L、100g/L、120g/L
、140g/Lおよび/または160g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる。
特定の実施形態において、宿主細胞は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸
を産生することができる。望ましくは、宿主細胞は、実質的な濃度でコハク酸以外の選択
された有機酸を産生しない。宿主細胞がコハク酸以外の有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、ピ
ルビン酸およびそれらの混合物)を産生する場合、望ましくはコハク酸以外の有機酸は、
わずか約30g/L、より望ましくはわずか約20g/L、より望ましくはわずか約10
g/L、そしてなおもより望ましくはわずか約5g/Lの濃度で産生する。
【0041】
上述の組換え微生物は、1以上の有機酸を産生するために栄養培地を発酵させる工程を
含む方法において使用され得る。いくつかの実施形態において、この方法は、Zwf遺伝
子(例えば、E.coli Zwf遺伝子)を発現する組換え微生物によって栄養培地を
発酵する工程を含み得る。この方法によって産生された有機酸は、コハク酸および乳酸を
含み得る。さらなる実施形態において、この方法は、少なくとも約20g/L、40g/
L、60g/L、80g/L、100g/L、120g/Lおよび/または160g/L
の濃度でコハク酸を産生するのに適している。
【0042】
特に、この方法は、有機酸(例えば、コハク酸)の産生を促進するのに適切なレベルで
Zwf遺伝子(およびそれに続いてZwf酵素)を発現するA.succinogene
sの組換え株を用いて栄養培地を発酵させる工程を含み得る。Zwf遺伝子は、異種Zw
f遺伝子を含み得る。異種Zwf遺伝子(すなわち、E.coli Zwf遺伝子)を発
現するA.succinogenesの組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA
−6255として寄託されている。特定の実施形態において、組換え微生物は、有機酸(
例えば、コハク酸)の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(異種であり得る
)を発現する、Bisgaard Taxon6またはBisgaard Taxon1
0などの微生物の組換え株である。適切な組換え微生物はまた、有機酸(例えば、乳酸)
の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(異種であり得る)を発現するE.c
oliの組換え株を含み得る。
【0043】
この方法において、比較的高レベルな選択された有機酸(例えば、コハク酸および/ま
たは乳酸など)を産生する組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させることが望ましいこ
とがある。従って、選択された組換え微生物は、高レベルな有機酸(例えば、コハク酸お
よび/または乳酸)に耐性であり得る。組換え微生物はまた、比較的低レベルな他の望ま
しくない副産物を産生するように選択され得る。例えば、組換え微生物は、比較的低レベ
ルな酢酸塩、ギ酸塩、ピルビン酸塩およびそれらの混合物(例えば、わずか約2.0g/
L、わずか約2.0g/Lのギ酸塩および/またはわずか約3.0g/Lのピルビン酸塩
)を産生し得る。約1g/L、2g/L、4g/Lおよび/または8g/Lの濃度のモノ
フルオロ酢酸ナトリウムに耐性である上記の組換え微生物は、この方法に適切である。
この方法において、栄養培地は、代表的には発酵性の炭素源を含む。発酵性の炭素源は
、発酵性のバイオマスによって提供され得る。1つの実施形態において、発酵性の炭素源
は、糖作物、デンプン作物および/またはセルロース作物残渣を含む供給材料由来である
。一般に、発酵性の炭素源は、グルコースなどの糖である。発酵性の炭素源はまた、糖ア
ルコールを含み得る。適切な実施形態において、この方法によりグルコース(g)に対し
て少なくとも約100%のコハク酸収量(g)を生じる。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するDNA分子で形質転換されたコハク酸
を産生する微生物の組換え株。
(項目2)
前記微生物の16S rRNAがActinobacillus succinoge
nesの16S rRNAと少なくとも約90%の配列同一性を有する、項目1に記載
の組換え株。
(項目3)
前記微生物が、Actinobacillus succinogenes、Bisg
aard Taxon6およびBisgaard Taxon10からなる群から選択さ
れる微生物である、項目2に記載の組換え株。
(項目4)
Zwf酵素活性が、NADPレダクターゼ活性を含む、項目1に記載の組換え株。
(項目5)
前記微生物が、異種Zwf遺伝子で形質転換される、項目1に記載の組換え株。
(項目6)
前記異種Zwf遺伝子が、前記微生物における発現に最適化されている、項目5に記
載の組換え株。
(項目7)
前記異種Zwf遺伝子が、E.coliのZwf酵素をコードする、項目5に記載の
組換え株。
(項目8)
前記Zwf遺伝子が、配列番号1と少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌク
レオチドを含む、項目5に記載の組換え株。
(項目9)
前記ポリペプチドが、配列番号3と少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する
、項目1に記載の組換え株。
(項目10)
前記DNA分子が、Zwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチ
ドに作動可能に連結されたホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼにつ
いての転写プロモーターを含む、項目1に記載の組換え株。
(項目11)
前記転写プロモーターが、Actinobacillus succinogenes
ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターを含む、項目1
0に記載の組換え株。
(項目12)
前記プロモーターが、配列番号4と少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌク
レオチドを含み、該ポリヌクレオチドが、プロモーター活性を有する、項目10に記載
の組換え株。
(項目13)
前記DNA分子が、後成的である、項目1に記載の組換え株。
(項目14)
前記DNA分子が、プラスミド上に存在する、項目13に記載の組換え株。
(項目15)
前記組換え株が、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することがで
きる、項目1に記載の組換え株。
(項目16)
前記組換え株が、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性
である、項目1に記載の組換え株。
(項目17)
前記組換え株が、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託されている
組換えActinobacillus succinogenesである、項目1に記
載の組換え株。
(項目18)
NADPレダクターゼ活性を有するポリペプチドを発現するDNA分子で形質転換され
、該ポリペプチドが、配列番号3と少なくとも約95%の配列同一性を有する、コハク酸
を産生する微生物の組換え株。
(項目19)
項目1〜18のいずれかに記載の組換え微生物を用いて栄養培地を発酵する工程を含
む、コハク酸を産生するための方法。
(項目20)
前記栄養培地が、グルコースを含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記方法が、グルコース(g)に対して少なくとも約100%のコハク酸収量(g)を
生じる、項目19に記載の方法。
(項目22)
異種Zwf遺伝子に作動可能に連結されたコハク酸を産生する微生物についての転写プ
ロモーターを含むDNA分子。
(項目23)
前記コハク酸を産生する微生物が、Actinobacillus succinog
enesである、項目22に記載のDNA分子。
(項目24)
前記転写プロモーターが、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプ
ロモーターを含む、項目22に記載のDNA分子。
(項目25)
前記プロモーターが、配列番号4と少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌク
レオチドを含み、該ポリヌクレオチドが、プロモーター活性を有する、項目22に記載
のDNA分子。
(項目26)
項目22〜25のいずれかに記載のDNA分子を含むDNAプラスミド。
(項目27)
項目26に記載のDNAプラスミドを含む宿主細胞。
(項目28)
前記宿主細胞が、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することがで
きる、項目27に記載の宿主細胞。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】グルコースを使用したA.succinogenes変異株FZ45の回分発酵の代謝フラックス解析
【図2】グルコースを使用した組換えA.succinogenes FZ45/pJR762.73の回分発酵の代謝フラックス解析
【図3】形質転換株の細胞抽出物におけるZwf酵素活性。抽出物を、以下に記載するように調製し、Zwf活性についてアッセイした。pJR762.73を保持するすべての株は、Zwf活性の大規模な増加を示し、それを対数メモリ上に図示する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書中に開示されるのは、ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の1
つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現する組換え微生物である。本明細書中で
使用されるとき、「微生物」は、任意の適切な単細胞生物(例えば、細菌、菌類および酵
母)を含む。本明細書中で使用されるとき、「組換え微生物」とは、天然に存在しない微
生物を生じる様式で改変された微生物のことを意味する。「組換え微生物」は、DNA分
子(例えば、組換えDNA分子)で形質転換された微生物を含み得る。
【0046】
組換え微生物は、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現する
DNA分子で形質転換された微生物を含み得る。ペントースリン酸サイクルは、グルコー
ス−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwischenferment酵素またはZ
wfとも呼ばれる);6−ホスホグルコノラクトナーゼ;6−ホスホグルコン酸デヒドロ
ゲナーゼ(Gndとも呼ばれる);リボース−5−リン酸イソメラーゼAおよびB;リブ
ロースリン酸−3−エピメラーゼ;トランスケトラーゼIおよびII;ならびにトランス
アルドラーゼAおよびBを含むいくつかの酵素を利用する。これらの酵素のうち、Zwf
およびGndは、NADPHの形態の2つの水素等価物を生成する。
【0047】
組換え微生物は、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(例えば、グルコース−6−リン
酸−1−デヒドロゲナーゼ活性およびNADPレダクターゼ活性)を有する任意の適切な
ポリペプチドまたはそれらの改変体を発現し得る。例えば、1つの適切なZwf酵素は、
E.coli Zwf酵素またはその改変体である。いくつかの実施形態において、組換
え微生物は、非組換え微生物に存在するレベルと比べて高いレベルでZwf酵素を発現(
すなわち、その酵素を「過剰発現」)し得る。
【0048】
組換え微生物は、Zwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性
、およびより望ましくはZwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の配列同
一性を有する改変体ポリペプチドを発現し得る。適切な実施形態において、組換え微生物
は、Zwf酵素に対して少なくとも約96%、97%、98%、または99%の配列同一
性を有するZwf酵素の改変体を発現し得る。望ましくは、改変体ポリペプチドは、Zw
f酵素の1つ以上の生化学活性を有する。改変体ポリペプチドは、Zwf酵素のフラグメ
ントを含み得る。適切なZwf酵素としては、A.succinogenes Zwf酵
素、E.coli Zwf酵素およびそれらの改変体が挙げられる。
【0049】
組換え微生物は、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードす
るポリヌクレオチド(例えば、Zwf遺伝子またはその改変体)を発現し得る。例えば、
組換え微生物は、Zwf遺伝子、またはZwf遺伝子に対して少なくとも約90%の配列
同一性を有するDNA配列を含む改変体、およびより望ましくはZwf遺伝子に対して少
なくとも約95%の配列同一性を有するDNA配列を含む改変体を発現し得る。適切な実
施形態において、組換え微生物は、Zwf遺伝子に対して少なくとも約96%、97%、
98%または99%の配列同一性を有するDNA配列を含むZwf遺伝子の改変体を発現
し得る。望ましくは、改変体ポリヌクレオチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を
有するポリペプチドをコードする。改変体ポリヌクレオチドは、Zwf遺伝子のフラグメ
ントを含み得る。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、A.succinog
enes Zwf遺伝子、E.coli Zwf遺伝子またはそれらの改変体を発現し得
る。
【0050】
組換え微生物は、任意の適切な微生物由来であり得る。代表的には、その微生物は、商
業生産に適切なレベルで有機酸を産生することができる。本明細書中で使用されるとき、
「有機酸」は、少なくとも1つのカルボキシル基を含む。例えば、「有機酸」は、コハク
酸および乳酸を含む。本明細書中で使用されるとき、有機酸は、有機酸アニオンまたはそ
の塩によって代替的に意味され得る。例えば、「コハク酸」は、「コハク酸塩」のことを
いうことがあり;「乳酸」は、「乳酸塩」のことをいうことがあり;「ギ酸」は、「ギ酸
塩」のことをいうことがあり;そして「ピルビン酸」は、「ピルビン酸塩」のことをいう
ことがある。
【0051】
本明細書中に説明されるような組換え微生物を調製するための適切な微生物としては、
A.succinogenesを含むActinobacillus属のメンバー;Bi
sgaard Taxon6;Bisgaard Taxon10;Mannheimi
a succiniciproducens;E.coli;Anaerobiospi
rillum succiniciproducens;Ruminobacter a
mylophilus;Succinivibrio dextrinosolvens
;Prevotella ruminicola;Ralstonia eutroph
a;およびコリネ型細菌(例えば、Corynebacterium glutamic
um、Corynebacterium ammoniagenes、Brevibac
terium flavum、Brevibacterium lactofermen
tum、Brevibacterium divaricatum);Lactobac
illus属のメンバー;酵母(例えば、Saccharomyces属のメンバー);
およびそれらの任意の部分集合を挙げることができるが、これらに限定されない。本明細
書中に説明されるような組換え微生物を調製するための適切な微生物は、コハク酸を産生
する微生物を含み得る。
【0052】
組換え微生物は、代表的には異種Zwf遺伝子であり得るZwf遺伝子を発現する。Z
wf遺伝子は、組換え微生物における発現に最適化され得る。例えば、Zwf遺伝子は、
非組換え微生物と比べて組換え微生物においてその遺伝子の過剰発現を促進するプロモー
ターに作動可能に連結されてもよい。このプロモーターは、微生物にとって内因性(すな
わち、組換え微生物が由来する微生物にとって天然)または微生物にとって異種(すなわ
ち、組換え微生物が由来する微生物にとって天然でないか、またはその微生物以外の供給
源由来である)であってもよい。このプロモーターは、Zwf遺伝子にとって内因性であ
ってもよく、またはZwf遺伝子にとって異種(すなわち、非Zwf遺伝子プロモーター
)であってもよい。このプロモーターは、Zwf遺伝子の構成的発現および/または誘導
性発現を促進してもよく、そして/またはこのプロモーターは、Zwf遺伝子の構成的発
現および/または誘導性発現を促進するように適切な方法によって改変されてもよい。
【0053】
Zwf遺伝子は、対応するmRNAの翻訳を促進するように改変されてもよい。例えば
、Zwf遺伝子は、内因性遺伝子または天然の遺伝子に存在しないコドンを含むように改
変されてもよい。これらの非内因性コドンは、組換え微生物におけるコドン使用頻度を反
映するように選択されてもよい。コドン使用表は、多くの微生物について作成されており
、そして当該分野で公知である。Zwf遺伝子は、以下に提供されるようなA.succ
inogenesについてのコドン使用頻度を反映して改変されてもよい:
Actinobacillus succinogenesについての例示的なコドン
使用頻度
出典:GenBank発表144.0[2004年11月12日]
【0054】
【表1】

【0055】
組換え微生物は、Zwf遺伝子(例えば、内因性Zwf遺伝子および/またはE.co
li Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子)を発現するA.succinogenes
の組換え株を含み得る。組換え微生物を生成するための他の適切な微生物としては、Bi
sgaard Taxon6(スウェーデンのCulture Collection、
University of Goeteborg(CCUG)にアクセッション番号1
5568として寄託されている);Bisgaard Taxon10(CCUGアクセ
ッション番号15572として寄託されている);およびE.coliの任意の適切な株
(これについて多くの株が当該分野で公知である)が挙げられる。組換え微生物は、高レ
ベルな1つ以上の有機酸(例えば、コハク酸および乳酸など)を産生する株由来であって
もよく、そして/または組換え微生物は、非組換え微生物と比べて高レベルまたは促進さ
れたレベルの1つ以上の有機酸(例えば、コハク酸および乳酸など)を産生するように選
択および/または操作されてもよい。
【0056】
組換え微生物は、比較的高レベルの望ましくない副産物に耐性である株および/または
比較的低レベルの望ましくない副産物を産生する微生物の株由来であってもよい。望まし
くない副産物としては、ギ酸塩(またはギ酸)、酢酸塩(または酢酸)および/またはピ
ルビン酸塩(またはピルビン酸)を挙げることができる。低レベルの酢酸を産生する株を
選択するための方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第5,521,075
号および同第5,573,931号を参照のこと。これらは、本明細書中に参考として援
用される。例えば、比較的低レベルの酢酸塩を産生する微生物の株は、約1.0〜約8.
0g/Lの濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムなどの有毒な酢酸誘導体の存在下で微生物
を生育することによって選択することができる。選択された株は、グルコース発酵におい
て比較的低レベルの酢酸塩(例えば、約2.0g/L未満)、ギ酸塩(例えば、約2.0
g/L未満)および/またはピルビン酸塩(例えば、約3.0g/L未満)を産生し得る
。組換え微生物を生成するための1つの適切なモノフルオロ酢酸耐性株は、ATCCアク
セッション番号55618として寄託されたA.succinogenesの誘導体であ
るFZ45と呼ばれるA.succinogenesの株である。モノフルオロ酢酸塩に
耐性である微生物株を調製するために適切な方法を記載している米国特許第5,573,
931号を参照のこと。
【0057】
組換え微生物は、比較的高レベルの望ましくない副産物に耐性であるように、そして/
または比較的低レベルの望ましくない副産物を産生するように選択および/または操作さ
れてもよい。例えば、形質転換後、組換え微生物の集団を、比較的高レベルの酢酸塩に耐
性である株および/または比較的低レベルの酢酸塩を産生する株を選択するためにモノフ
ルオロ酢酸ナトリウムの存在下で生育してもよい。
【0058】
Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列は、
当該分野で公知である方法(例えば、適切なプライマーを用いたZwf遺伝子のPCR増
幅および適切なDNAベクターへのクローニング)を使用することによって得ることがで
きる。適切なZwf遺伝子のポリヌクレオチド配列は、開示されている(例えば、Gen
Bankを参照のこと)。例えば、A.succinogenes Zwf遺伝子のポリ
ヌクレオチド配列は、公開されている(配列番号5および6)(エネルギー省のウェブサ
イトのJoint Genome Instituteを参照のこと)。E.coli
Zwf遺伝子は、GenBankに(例えば、GenBankアクセッション番号NC_
000913(配列番号1)およびGenBankアクセッション番号M55005(配
列番号2)として)寄託されている。Zwf遺伝子またはその改変体は、適切なプライマ
ーを用いた微生物のゲノムDNAのPCR増幅によって得ることができる。
【0059】
DNAベクターは、組換え微生物においてその遺伝子を発現するための適切な任意のベ
クターであってもよい。適切なベクターとしては、プラスミド、人工染色体(例えば、細
菌人工染色体)および/または改変バクテリオファージ(例えば、ファージミド)が挙げ
られる。ベクターは、後成的エレメントとして存在するように設計されてもよく、そして
/またはベクターは、微生物のゲノムと組み換えるように設計されてもよい。
【0060】
DNA分子は、代表的にはZwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌク
レオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含む。プロモーターは、組換え微生物が
由来する微生物にとって内因性または天然であってもよく、またはその微生物にとって異
種であってもよい(すなわち、組換え微生物以外の供給源由来であってもよい)。さらに
、プロモーターは、選択されたZwf遺伝子にとって天然プロモーターであっても、また
は選択されたZwf遺伝子に対して天然プロモーター以外のプロモーター(すなわち、非
Zwf遺伝子プロモーター)であってもよい。組換え微生物が、A.succinoge
nesの株である場合、適切な内因性または天然プロモーターは、GenBankアクセ
ッション番号AY308832として寄託された、ヌクレオチド1−258を含むA.s
uccinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモ
ーター(配列番号4)またはその改変体である。プロモーターは、当該分野で公知である
クローニング方法を使用してZwf遺伝子に作動可能に連結することができる。例えば、
プロモーターおよびZwf遺伝子は、適合した制限酵素認識部位を含むプライマーを使用
してPCRによって増幅することができる。次いで増幅されたプロモーターおよび遺伝子
を、酵素で消化し、そして適切なマルチクローニングサイトを含む適切なベクターにクロ
ーニングすることができる。
【0061】
さらに、DNA分子は、選択可能なマーカーを含んでもよい。選択可能なマーカーは、
1つ以上の抗生物質製剤に対する耐性を付与することができる。例えば、選択可能なマー
カーとしては、アンピシリン耐性、ストレプトマイシン耐性、カナマイシン耐性、テトラ
サイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性、スルホンアミド耐性に対する遺伝子または
これらのマーカーの組み合わせを挙げることができる。代表的には、選択可能なマーカー
は、そのマーカーの発現を促進するプロモーターに作動可能に連結されている。選択可能
なマーカーを含むプラスミドおよび他のクローニングベクターは、当該分野で公知である

【0062】
DNA分子は、代表的には、宿主細胞を形質転換するために使用される。適切な宿主細
胞は、DNA分子を保存および/または産生するために有用である任意の細胞を含む。
【0063】
適切な宿主細胞は、DNA分子上に存在する任意の遺伝子を発現する細胞を含んでいて
もよい。適切な宿主細胞はまた、発酵プロセスにおいて商業生産に適した濃度(例えば、
少なくとも約20g/L、より適切には少なくとも約50g/L、およびより適切には少
なくとも約100g/L)のコハク酸などの有機酸を産生することができる細胞を含んで
いてもよい。
【0064】
有機酸を産生するための方法は、代表的にはZwf遺伝子を発現する組換え微生物を用
いて栄養培地を発酵させる工程を含む。例えば、この方法は、Zwf遺伝子(例えば、E
.coli Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子)を発現する組換えA.succin
ogenesを用いて栄養培地を発酵させる工程を含んでいてもよい。発酵において産生
された有機酸は、コハク酸を含み得る。この方法に適した1つの組換え微生物は、ATC
Cアクセッション番号PTA−6255として寄託された、E.coli Zwf遺伝子
を発現するA.succinogenesの組換え株である。この方法はまた、コハク酸
を産生するためにZwf遺伝子(例えば、E.coli Zwf遺伝子などの異種Zwf
遺伝子)を発現するBisgaard Taxon6またはBisgaard Taxo
n10の組換え株を用いて栄養培地を発酵させる工程を含んでいてもよい。この方法はま
た、乳酸などの1つ以上の有機酸を産生するためにZwf遺伝子を発現する(またはZw
f遺伝子を過剰発現する)E.coliの組換え株を用いて栄養培地を発酵させる工程を
含んでいてもよい。
【0065】
この方法では、比較的高レベルの産生された有機酸(例えば、コハク酸)に耐性である
組換え微生物を使用してもよい。この方法ではまた、比較的高レベルの望ましくない副産
物に耐性である微生物の株および/または比較的低レベルの望ましくない副産物を産生す
る微生物の株を使用してもよい。
【0066】
栄養培地は、代表的には発酵性の炭素源を含む。発酵性の炭素源は、発酵性のバイオマ
スによって提供され得る。発酵性のバイオマスは、糖作物(例えば、糖、ビート、サトウ
モロコシ、サトウキビ、飼料用ビート);デンプン作物(例えば、穀物(例えば、トウモ
ロコシ、コムギ、モロコシ、オオムギ)および塊茎(例えば、ジャガイモおよびサツマイ
モ));セルロース作物(例えば、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維、コムギわらお
よび飼料(例えば、スーダングラス飼料およびモロコシ))を含む種々の作物および/ま
たは供給原料由来であってもよい。このバイオマスは、発酵性の炭素源(例えば、糖)の
放出を促進するように処理されてもよい。例えば、このバイオマスは、単糖を放出するよ
うに酵素(例えば、セルラーゼおよび/またはキシラナーゼ)で処理されてもよい。発酵
性の炭素源は、単糖および糖アルコール(例えば、グルコース、マルトース、マンノース
、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、キシロース、アラビノースおよびそれら
の混合物)を含み得る。
【0067】
この方法は、代表的にはグルコースなどの投入炭素源に対して比較的高い収率のコハク
酸を生じる。例えば、この方法は、グルコース投入量(g)に対して少なくとも約90%
のコハク酸収率(g)を有してもよい。あるいは、収率は、%コハク酸収量(mol)/
グルコース投入量(mol)として計算されてもよい。従って、この方法は、グルコース
投入量(mol)に対して少なくとも約140%のコハク酸収率(mol)を有してもよ
い。望ましくは、この方法は、グルコース投入量(mol)に対して少なくとも約130
%または少なくとも約170%のコハク酸収率(mol)を有してもよい。
【0068】
この方法はまた、代表的には(例えば、発酵に非組換え微生物を使用する方法と比べて
)比較的高濃度のコハク酸を産生する。例えば、発酵は、少なくとも約50g/Lコハク
酸の濃度に達し得る。望ましくは、発酵は、少なくとも約90g/Lのコハク酸の濃度、
またはより望ましくは少なくとも約130g/Lのコハク酸の濃度に達し得る。いくつか
の実施形態において、発酵は、代表的には実質的なレベル(例えば、わずか約2.0g/
Lの酢酸塩、わずか約2.0g/Lのギ酸塩および/またはわずか約3.0g/Lのピル
ビン酸塩)の望ましくない副産物(例えば、酢酸塩、ギ酸塩、ピルビン酸塩およびそれら
の混合物)を産生しない。
【0069】
この方法を、(例えば、発酵に非組換え微生物を使用する方法と比べて)比較的高濃度
の乳酸を産生するために使用してもよい。例えば、組換え微生物を、少なくとも約25g
/Lの濃度で乳酸を産生する発酵に使用してもよい。1つの実施形態において、発酵収量
は、グルコース1グラムあたり乳酸約0.5gであり得る。乳酸を産生するための方法は
、Zwf遺伝子の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現(または過剰発現)
する組換えE.coliを用いて適切な炭素源を発酵させる工程を含んでもよい。例えば
、この方法は、プラスミドなどの後成的エレメントからE.coli Zwf遺伝子を発
現する組換えE.coliを用いて適切な炭素源を発酵させる工程を含んでもよい。
【0070】
実施形態の説明
1つの実施形態において、組換え微生物は、異種Zwf遺伝子を発現するActino
bacillus succinogenesの組換え株である。異種Zwf遺伝子は、
Actinobacillus succinogenesにおける発現に最適化されて
いてもよい。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf酵素をコードし得る。組換え株
は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された組換えActino
bacillus succinogenesを含み得る。組換え株は、(例えば、適切
な炭素源を利用する発酵システムにおいて)約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハ
ク酸を産生することができてもよい。組換え株は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ
酢酸ナトリウムのレベルに耐性であってもよい。
【0071】
いくつかの実施形態において、組換え株は、異種Zwf遺伝子を発現するBisgaa
rd Taxon6またはBisgaard Taxon10に属する微生物の組換え株
である。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf酵素をコードし得る。
【0072】
別の実施形態において、組換え株は、異種Zwf遺伝子に作動可能に連結されたAct
inobacillus succinogenesに対する転写プロモーターを含むD
NA分子を含むActinobacillus succinogenesの組換え株で
ある。転写プロモーターとしては、A.succinogenesホスホエノールピルビ
ン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターまたはその改変体(例えば、ポリヌクレ
オチドが、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキ
シキナーゼプロモーター活性を有する場合、配列番号4のポリヌクレオチドまたは配列番
号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド)を挙げること
ができる。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwischenferment酵素ま
たはその改変体(例えば、ポリヌクレオチドがE.coli Zwischenferm
ent酵素活性を有する場合、配列番号1のポリヌクレオチドまたは配列番号1に対して
少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド)をコードし得る。異種Zw
f遺伝子は、E.coli Zwf遺伝子を含んでもよい。必要に応じて、Zwf遺伝子
は、Actinobacillus succinogenesにおける発現に最適化さ
れてもよい。DNA分子は、後成的であってもよい(例えば、プラスミド上に存在しても
よい)。DNA分子としては、選択可能なマーカー(例えば、カナマイシン耐性、アンピ
シリン耐性、ストレプトマイシン耐性、スルホンアミド耐性、テトラサイクリン耐性、ク
ロラムフェニコール耐性またはその組み合わせ)を挙げることができる。
【0073】
別の実施形態において、組換え株は、異種Zwf酵素を含むActinobacill
us succinogenesの組換え株である。異種Zwf酵素は、Actinob
acillus succinogenesにおける発現に最適化されたZwf遺伝子か
ら発現されてもよい。異種Zwf酵素は、E.coli Zwischenfermen
t酵素を含み得る。組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄
託された組換えA.succinogenesを含み得る。組換え株は、約50g/L〜
約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができ得る。必要に応じて、組換え株は
、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である。
【0074】
1つの実施形態において、コハク酸を産生するための方法は、異種Zwf遺伝子を発現
する組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させる工程を含む。組換え微生物としては、A
ctinobacillus succinogenesの組換え株(例えば、ATCC
アクセッション番号PTA−6255として寄託されたA.succinogenes組
換え株)を挙げることができる。組換え微生物は、Bisgaard Taxon6の組
換え株またはBisgaard Taxon10の組換え株を含んでもよい。異種Zwf
遺伝子は、E.coli Zwf遺伝子を含み得る。必要に応じて、組換え株は、少なく
とも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である。必要に応じて、組
換え株は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる。栄
養培地は、発酵性の糖(例えば、グルコース)を含んでいてもよい。代表的には、この方
法によってグルコース(g)に対して少なくとも約100%のコハク酸収率(g)を生じ
る。
【0075】
1つの実施形態において、組換えDNA分子は、異種Zwf遺伝子に作動可能に連結さ
れたA.succinogenesについての転写プロモーターを含む。例えば、この転
写プロモーターとしては、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(P
EP)カルボキシキナーゼプロモーターまたはその改変体(例えば、ポリヌクレオチドが
Actinobacillus succinogenesホスホエノールピルビン酸(
PEP)カルボキシキナーゼプロモーター活性を有する場合、配列番号4のポリヌクレオ
チドまたは配列番号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチ
ド)を挙げることができる。
【0076】
1つの実施形態において、組換えDNA分子は、DNAプラスミド中に存在する。代表
的には、DNAプラスミドは、選択可能なマーカー(例えば、アンピシリン耐性、カナマ
イシン耐性、ストレプトマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐
性、スルホンアミド耐性およびそれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子)を
含む。DNAプラスミド中に存在し得るDNA分子は、宿主細胞中に存在し得る。宿主細
胞は、発酵システムにおいて約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生する
ことができ得る。
【0077】
1つの実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発
現するDNA分子で形質転換された、コハク酸を産生する微生物の組換え株である。DN
A分子は、NADPレダクターゼ活性を含んでもよいZwf酵素活性を有するポリペプチ
ドをコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。DNA分子は、ポリペプチドがZwf
酵素活性(例えば、NADPレダクターゼ活性)を有する場合、Zwf酵素のアミノ酸配
列に対して少なくとも約90%の配列同一性(または望ましくは少なくとも約95%の配
列同一性)を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号3ま
たは配列番号6)を含んでもよい。DNA分子は、ポリヌクレオチドがZwf酵素活性を
有するポリペプチドをコードする場合、Zwf遺伝子のポリヌクレオチド配列に対して少
なくとも約90%の配列同一性(または望ましくは少なくとも約95%の配列同一性)を
有するポリヌクレオチド配列(例えば、配列番号1;配列番号2;または配列番号5)を
含んでもよい。いくつかの実施形態において、組換え株は、その16S rRNAがAc
tinobacillus succinogenesの16S rRNAに対して少な
くとも約90%の配列同一性を有する微生物由来であり得る。例えば、組換え株は、Ac
tinobacillus succinogenes、Bisgaard Taxon
6またはBisgaard Taxon10の株由来であり得る。
【0078】
別の実施形態において、組換え微生物は、異種Zwf遺伝子で形質転換されたコハク酸
を産生する微生物の組換え株である。異種Zwf遺伝子は、その微生物における発現に最
適化されてもよい。いくつかの実施形態において、異種Zwf遺伝子は、E.coli
Zwf酵素をコードし得る。いくつかの実施形態において、Zwf遺伝子は、ポリヌクレ
オチドがZwf酵素活性を有する場合、配列番号1に対して少なくとも約95%の配列同
一性を有するポリヌクレオチドを含んでもよい。
【0079】
別の実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドをコー
ドするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたホスホエノールピルビン酸(PEP)カ
ルボキシキナーゼに対する転写プロモーターを含むDNA分子で形質転換されたコハク酸
を産生する微生物の組換え株である。転写プロモーターとしては、Actinobaci
llus succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキ
ナーゼプロモーターを挙げることができる。いくつかの実施形態において、プロモーター
は、ポリヌクレオチドがプロモーター活性を有する場合、配列番号4に対して少なくとも
約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み得る。
【0080】
別の実施形態において、組換え微生物は、後成的であるDNA分子で形質転換された組
換え株である。そのDNA分子は、プラスミド上に存在してもよい。
【0081】
別の実施形態において、組換え微生物は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハ
ク酸を産生することができる組換え株である。
【0082】
組換え株は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性であ
り得る。いくつかの実施形態において、組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA
−6255として寄託された組換えActinobacillus succinoge
nesである。
【0083】
別の実施形態において、組換え微生物は、組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させる
工程を含む方法においてコハク酸を産生するために使用される。栄養培地は、代表的には
、グルコースなどの発酵性の糖を含む。この方法は、グルコース(g)に対して少なくと
も約100%のコハク酸収率(g)を生じ得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、コハク酸を産生する微生物に対する転写プロモーターを
含むDNA分子は、異種Zwf遺伝子に作動可能に連結される。転写プロモーターは、ホ
スホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターを含んでもよい。い
くつかの実施形態において、このプロモーターは、ポリヌクレオチドがプロモーター活性
を有する場合、配列番号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレ
オチドを含む。このDNA分子は、プラスミド内に存在してもよい。このDNA分子は、
宿主細胞(例えば、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することがで
きる宿主細胞)内に存在してもよい。
【0085】
実施例
微生物株およびプラスミド
A.succinogenes FZ45株は、モノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性で
あるActinobacillus succinogenes 130Zの安定な細菌
の変異株である。Guettlerら,INT’L J.SYST.BACT.(199
9)49:207〜216;および米国特許第5,573,931号を参照のこと。E.
coli−A.succinogenesシャトルベクターpLS88(ATCCアクセ
ッション番号86980としてAmerican Type Culture Coll
ectionに寄託)をカナダのマニトバ大学のLeslie Slaney博士より入
手した。プラスミドpLS88は、Haemophilus ducreyiから単離さ
れたと説明されており、スルホンアミド、ストレプトマイシンおよびカナマイシンに対す
る耐性を与えることができる。
【0086】
遺伝子操作
組換えDNA操作は、概して当該分野で説明されている方法に従った。プラスミドDN
Aをアルカリ溶菌法によって調製した。1.5mlの培養物から抽出された多コピープラ
スミドに対する代表的な再懸濁体積は、50μlであった。大量のDNA調製には、製造
者の指示書に従ってQiagen Plasmid Purification Mid
i and Maxiキットを使用した。制限エンドヌクレアーゼ、分子量スタンダード
および着色済マーカーを、New England BiolabsおよびInvitr
ogenから購入し、消化は、約5倍過剰量の酵素を使用した以外は製造者の推奨のとお
りに実施した。DNAをエチジウムブロマイド存在下のTris−酢酸−アガロースゲル
上で解析した。DNAをアガロースゲルから抽出し、製造者の指示書に従ってQiage
nゲル抽出キットを使用して精製した。DNAを、制限酵素消化物と組み合わせてエビア
ルカリホスファターゼ(Roche)を使用して脱リン酸化した。ホスファターゼを15
分間70℃で加熱不活性化した。ライゲーションを、20μl反応体積中のベクターDN
Aに対して3〜5倍過剰モル量の挿入物および1μlのT4 DNAリガーゼ(New
England Biolabs)を使用して25℃で1時間実施した。E.coli形
質転換をInvitrogenから購入した「library efficiencyコ
ンピテント細胞」を使用して製造者の指示書に従って実施した。
【0087】
ライゲーション混合物を使用した形質転換体を、適切な抗生物質を含む標準的なLBプ
レート上に希釈することなく播いた。PCR増幅をガイドラインとしてPerkin E
lmerマニュアルを使用して実施した。プライマー設計は、(米国国立バイオテクノロ
ジー情報センター(NCBI)データベースに提供されるような)公開された配列に基づ
いた。プライマーには、設計された制限酵素認識部位を含んだ。ベクターNTIプログラ
ムを使用してダイマーおよびヘアピン形成ならびに融解温度についてプライマーを分析し
た。すべてのプライマーは、Michigan State Macromolecul
ar Structure Facilityへ注文した。PCR増幅は、Eppend
orf Gradient Master CyclerまたはPerkin Elme
r Thermocyclerを用いて実施した。各プライマー対について、ベクターN
TIプログラムを使用して開始アニーリング温度を決定した。増幅産物を消化するための
制限酵素をInvitrogenまたはNew England Biolabsから購
入した。
【0088】
プラスミドpJR762.55
A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナー
ゼプロモーター配列(ppepck、配列番号4、ヌクレオチド1−258を含むGen
Bankアクセッション番号AY308832)を、以下のプライマー:順方向、5’−
AAAGAATTCTTAATTTCTTTAATCGGGAC(配列番号7);および
逆方向5’−GCGTCGACATACTTCACCTCATTGAT(配列番号8)を
使用してA.succinogenes FZ45ゲノムDNAから増幅した。EcoR
IおよびSalI制限配列(下線のヌクレオチド)をクローニングを促進するために含め
、生じた0.27−kb PpepckフラグメントをpLS88にEcoRI/Sal
Iフラグメントとして挿入してプラスミドpJR762.55を生成した。
【0089】
プラスミドpJR762.73
E.coli由来のZwf遺伝子を、以下のプライマー:順方向、5’−CCGCTC
GAGGGCGGTAACGCAAACAGC(配列番号9);および逆方向5’−CC
CTCGAGTTACTCAAACTCATTCCAGG(配列番号10)を使用して
BL21(DE3)株のゲノムDNA(ATCCアクセッション番号NC_000913
)から増幅した。XhoI制限配列(下線のヌクレオチド)をクローニングを促進するた
めに含め、生じた1.5kbのZwfフラグメントをpJR762.55のSalI部位
に挿入してプラスミドpJR762.73を生成した。
【0090】
A.succinogenesの形質転換
エレクトロポレーションのためのA.succinogenesコンピテント細胞をト
リプシン大豆肉汁培地(tryptic soy broth medium)(TSB
)中で細胞をOD600が約0.6になるまで生育することによって調製した。細胞を遠
心分離し、滅菌水で2回、10%v/vグリセロールで2回洗浄し、10%グリセロール
で0.01×元の培養体積に再懸濁した。細胞を急速冷凍し、マイナス80℃で保存した
。約40μlの解凍した細胞を、400W、25mFおよび1.8kVに設定されたBi
oRad GenePulserを用いて0.1cmキュベット内でエレクトロポレーシ
ョンに供した。エレクトロポレーション後、1mlの室温TSB培地をすぐに加えて、細
胞を37℃で1時間インキュベートした。細胞溶液を、カナマイシン(100μg/ml
)を含むTSB寒天プレート上に播いた。
【0091】
A.succinogenesの光学密度測定
マグネシウムで中和した発酵物由来のサンプルを、420×gで2分遠心分離してMg
COを沈殿させ、任意の残存する沈殿物を可溶化するために0.5N HClで希釈し
た後、OD660を測定した。
【0092】
A.succinogenesの回分発酵
A.succinogenesの発酵は、別途特定されないかぎり、以下の培地:グル
コース80g/L、液体飼料シロップ(LFS)85g/L、ビオチン0.2mg/L、
5mM リン酸、酵母抽出物3g/L、Sensient AG900を含む51個の発
酵槽中で実施した。pHは、Mg(OH)を用いて7.0に維持した。撹拌は250r
pm、温度38℃に設定し、二酸化炭素を0.025v.v.mの割合で散布した。上で
記載した培地を含む血清バイアル中で生じさせた発酵体を、1.25%接種菌液を用いて
接種した。A.succinogenesの組換え株のための発酵培地は、100μg/
mlのカナマイシンを含んだ。
【0093】
LFSの精製
光学密度測定を介した増殖の測定を必要とする発酵のために、LFSの冷水抽出物を使
用した。懸濁された固体および少量の油をSorvall GSAローターで9,000
rpm、20分間LFSを遠心分離することによって除去した。上清を分離漏斗で、室温
で3時間沈殿させた。下部の水相は、代表的には粗LFSの57%(w/v)を示した。
【0094】
Zwf発現を確認するための生化学アッセイ
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼアッセイは、Choiら、2003によって
説明されているように実施した(Choi,Jae−Chulk,Shin,Hyun−
Dong,Lee,Yong−Hyun(2003)Enzyme and Micro
bial Technology 32,p.178〜185;“Modulation
of 3−hydroxyvalerate molar fraction on
poly(3−hydroxybutyrate−3−hydroxyvalerate
) using Ralstonia eutropha transformant
co−amplifying phbC and NADPH generation−
related Zwf genes”を参照のこと)。D−6−ホスホグルコノ−δ−
ラクトンの形成速度は、NADPHの増加によって測定した。この測定は、340nmの
吸光度を測定することによって定量した。各アッセイは、Tris−HCl 50μl[
1M]、pH7.5、MgCl 200μl[50mM]、NADP 100μl[1
0mM]、グルコース−6−リン酸 100μl[10mM]、HO 450μlおよ
び細胞抽出物 100μlを含む1ml中で実施した。特異的な活性は:特異的活性=d
A/dt/0.623×(タンパク質濃度)またはμmol/分mg−1として計算した
。高いZwf活性が、A.succinogenesPEPCKプロモーター由来のE.
coli Zwf遺伝子を発現するプラスミド pJR762.73を含むすべての組換
え株で観察された。プラスミドpJR762.73を保持する形質転換されたActin
obacillus株(FZ45)ならびにBisgaard Taxon6(BT6)
およびBisgaard Taxon10(BT10)の形質転換株において高い活性が
観察された。これらの結果を、図3に示す。
【0095】
E.coli発酵
E.coli株DH5α/pJR762.73(Zwf)、DH5α/pJR762.
17(Zwf)およびDH5α/pLS88を、4リットルの以下の培地:900AG酵
母抽出物 15g;トウモロコシ・スティープ・リカー 15g;NaHPO 1.
16g;NaHPO.HO 0.84g:(NHSO 3g;MgSO
.7HO,0.61;CaCl.2HO 0.25gおよびグルコース 45g/
リットルを使用してNBS5リットルBioflo III発酵槽中で生育させた。pH
は、KCO(3.3N)の自動添加によって6.7に制御した。発酵は、1.25%
接種材料でそれぞれ開始した。条件は、E.coli細胞の迅速な生育に好都合な好気性
で開始し;500rpmで撹拌し、培地を0.5リットル/リットル分で空気の注入散布
(sparged with air)した。細胞密度が、OD660単位の最小値6.
2に達したとき発酵槽の状態を有機酸産生に好都合な嫌気性にし;次いで培地にCO
との混合物(95:5)を0.2リットル/リットル分で散布し、そして撹拌を25
0rpmに減速した。定期的にサンプルを回収し、有機酸生成物および残留グルコース濃
度をHPLCを用いて測定した。
【0096】
発酵ブロスの解析
35℃に設定されたWaters717オートサンプラーおよびWaters2414
屈折率検出器を備えたWaters1515アイソクラティックポンプを使用して逆相高
圧液体クロマトグラフフィ(HPLC)によってコハク酸、グルコース、乳酸、ピルビン
酸塩、エタノールおよびギ酸濃度を測定した。Waters Breezeソフトウェア
(バージョン3.3)を使用してHPLCシステムを制御し、データを収集、処理した。
Bio−Rad Aminex HPX−87H(300mm×7.8mm)カラムを5
5℃に保たれたカチオンHガードカラムとともに使用した。移動相は、0.5ml/分で
移動する0.021N硫酸であった。サンプルを0.45μmフィルターに通して濾過し
、5.0μlをカラムに注入した。実行時間は、30分であった。
【0097】
CO測定
発酵槽散布システムをモニタリングし100ml/分でCOを供給するために質量流
量制御装置(Brooksモデル5850I)を使用した。排気冷却システムを通って発
酵槽に存在するCOを測定するために質量流量計(Brooksモデル5860I)を
使用した。4−20ma Bio−Command Interfaceを介して2つの
CO流量計をコンピュータに接続した。BioCommand Plus Biopr
ocessingソフトウェアは、60秒毎に入口および出口のCO流量を記録した。
CO消費の速度(ml/分)を、任意の所定の分にわたる入口と出口との間の速度の差
として表した(CO利用=CO入口−CO出口)。任意の所定の発酵間隔の間に消
費されるCOの体積は、その間隔の各分の合計速度である。消費されたCOのモルは
、理想気体の法則を使用して計算した(消費リットル/(22.4リットル/モル)=消
費モル)。
【0098】
質量流量計は、COの製造者によって較正されており、その精密度は、最大測定限界
の1%または2ml/mであった。発酵設備を、COに5%水素を混合することによっ
てガス漏れをモニタリングした。水素の漏出は、Tif8800CO/可燃性ガス分析機
器を使用して検出した。
【0099】
A.succinogenes発酵の代謝フラックス解析
Actinobacillus succinogenesにおける嫌気性コハク酸産
生の間の代謝フラックス分布(MFA)を、FluxAnalyzerソフトウェアパッ
ケージを使用して解析した。FluxAnalyzerパッケージは、Steffen
Klamt教授(Max Planck Institute,Magdeburg,G
ermany)から入手し、マニュアルに提供された指示に従って操作した。FluxA
nalyzerパッケージは、実際の数学的計算を実施するMATLABプログラム用の
グラフィカルユーザーインターフェースを提供することによって代謝フラックスの解析を
促進する。MATLABソフトウェアは、Math Work Incから購入した。代
謝経路全体の既知構成要素および予側される構成要素の細胞外濃度の変化を測定すること
によって、主な細胞内代謝産物についての細胞内フラックスを、以下に説明する代謝ネッ
トワークモデルを使用して計算した。以下に示す20個の既知代謝産物および27個の反
応を使用して特異的なネットワーク(標識されたA_succinogenes)を構築
した(バイオマス組成物および増殖速度は考慮しない):
A succinogenes代謝ネットワークモデル
グルコース(in)→グルコース(R1)
グルコース→グルコース−6P(R2)
グルコース−6P+2NAD→2PEP+2NADH(R3)
PEP→ピルビン酸塩(R4)
PEP+CO→OAA(R5)
ピルビン酸塩→ピルビン酸塩(out)(R6)
ピルビン酸塩+NAD→アセチルCoA+NADH+CO(R7)
ピルビン酸塩+NADH+CO→リンゴ酸(R8)
アセチルCoA→酢酸塩(R9)
酢酸塩→酢酸塩(out)(R10)
酢酸塩+OAA→クエン酸塩(R11)
クエン酸塩+NAD→CO+NADH+α−KG(R12)
OAA+NADH→リンゴ酸+NAD(R13)
リンゴ酸→フマル酸塩(R14)
フマル酸塩+NADH→コハク酸+NAD(R15)
コハク酸→コハク酸(out)(R16)
CO(in)→CO(R17)
グリセロール(in)→グリセロール(R18)
グリセロール+2NAD→PEP+2NADH(R19)
ソルビトール(in)→ソルビトール(R20)
ソルビトール+NAD→グルコース−6P+NADH(R21)
キシロース(in)→キシロース(R22)
キシロース→R5P(R23)
R5P+5/3NAD→5/3PEP+5/3NADH(R24)
グルコース−6P+2NADP→R5P+CO+2NADPH(R25)
アセチルCoA+2NADH→エタノール+2NAD(R26)
エタノール→エタノール(out)(R27)
先に説明した分析方法を使用して発酵の経時変化に関して発酵サンプルを解析した。グ
ルコース、グリセロール、アラビノース、キシロース、ソルビトール、コハク酸、酢酸、
エタノール、ピルビン酸塩、乳酸の濃度および発酵体積を各サンプリング時において測定
した。代謝産物の量は、式:(代謝産物,g)=V(発酵槽,l)C(代謝産物,g/
l)に従って計算した。t−tの間の代謝産物の消費速度または代謝産物の産生速度
を、式:代謝産物の消費速度(mol/h,tおよびt)=[量(代謝産物,g,t
)−量(代謝産物,g,t)]/[(t−t代謝産物の分子量]を使用して
計算した。すべての時間についての代謝フラックスの比較のために、フラックスマップに
おけるグルコース消費速度を100と仮定して、フラックスマップにおける代謝産物の消
費速度または生成速度を調節した。マップ「Mcp」における代謝産物の消費速度または
生成速度を以下の式:Mcp=(代謝消費/または生成速度)×100/(グルコース消
費速度)に従って決定した。
【0100】
操作指示書に従ってFluxAnalyzerパッケージにおける代謝ネットワークモ
デルに様々な代謝産物の消費速度または生成速度を入力した。「Calculate/B
alance Rates」という機能を計算可能な速度すべてを計算するために使用し
た。このシステムが非重複性である場合、最適化手順を開始して、線形目的関数を最小化
した。このシステムが重複性である場合、3つの方法(単純な最小2乗法、分散−重みつ
き最小2乗法Iおよび分散重みつき最小2乗法II)のうち1つ以上を速度を計算するた
めに適用した。流動速度を、フラックスマップ上に直接示した。最終的なフラックスマッ
プを、保存目的でMicrosoft Excelファイルにコピーした。
【0101】
A.succinogenes FZ45における生化学経路の代謝フラックス解析
A.succinogenes FZ45を用いた回分発酵におけるコハク酸産生に対
する異なる炭素源の効果を評価するために代謝フラックス解析を使用した。この解析によ
り、A.succinogenes FZ45におけるコハク酸産生についての主要経路
が以下の様式:ホスホエノールピルビン酸塩(PEP)→オキサロ酢酸塩(OAA)→リ
ンゴ酸塩→フマル酸塩→コハク酸で流れることが証明された。グリオキシル酸分路および
PEP−輸送システム(PTS)が生物体内で実質的に使用されないようであった。グル
コース発酵は、約94%(コハク酸(g)/グルコース(g))の収率で61.7g/L
コハク酸の濃度に達した。ソルビトールなどのより少ない炭素源を使用して実施された発
酵により、高収率(108%コハク酸(g)/グルコース(g))でより多量のコハク酸
(77.3g/L)が産生された。このことは、還元力がグルコースの発酵の間の制限因
子になり得ることを示唆する。
【0102】
Zwfの過剰発現によるグルコースからのコハク酸の高産生
100μg/mlカナマイシンを形質転換株用の発酵培地に添加した以外は標準的な産
生条件下でFZ45株、FZ45/pLS88株およびFZ45/pJR762.73株
を培養した。FZ45/pLS88は、第2のコントロールとして機能し、PEPカルボ
キシキナーゼプロモーターまたはZwf遺伝子を保持しないクローニングベクターを用い
て形質転換する。使用した炭素源は、グルコースであった。FZ45/pJR762.7
3株は、コハク酸の最終濃度の増加と対応して、コントロールFZ45株およびFZ45
/pLS88株を超えるコハク酸産生の増加を示した。グルコースから産生されたコハク
酸の総量は、284gから302gに増加し、産生されたコハク酸のモル収率は、144
%から155%に増加し(コハク酸のモル/グルコース100モル)、重量収率は94.
7%から101.9%に増加し、そして発酵ブロス中のコハク酸の最終濃度は62g/L
から65g/Lに増加した。これらの結果を表1にまとめる。すべての形質転換FZ45
誘導体は、非形質転換FZ45と比べて遅い増殖を示すが、これは付加的な染色体外のプ
ラスミドDNAの複製によって引き起こされた可能性がある。
【0103】
【表2】

【0104】
さらに、表2に示すように、FZ45/pJR762.73株では、酢酸およびピルビ
ン酸の2種類の代謝産物の産生がより少なかった。
【0105】
【表3】

【0106】
FZ45とFZ45/pJR762.73との両方の代謝フラックス解析により、FZ
45/pJR762.73が、非形質転換FZ45よりも多く炭素をペントースリン酸経
路に導いたことが示された(図1および図2を参照のこと)。従って、グルコースが炭素
源として使用されるとき、Zwfタンパク質の過剰発現は、コハク酸の収率を増大し、他
の代謝産物の産生を減少させるのに十分であった。
【0107】
少ない炭素源を使用したA.succinogenes FZ45//pJR762.
73による発酵
炭素源としてマンニトールを利用するA.succinogenes FZ45/pJ
R762.73による発酵もまた実施した。マンニトールは、グルコースよりも還元され
た6−炭素糖アルコールである。Zwfの発現はまた、マンニトールを使用してコハク酸
産生を促進した(表3を参照のこと)。しかしながら、この糖アルコールを使用した発酵
は、非形質転換FZ45株を用いても高収率であることが示された。これは、代謝の還元
当量物の量の増加がコハク酸産生を促進することを示唆する。
【0108】
【表4】

【0109】
組換えBisgaard Taxon6およびBisgaard Taxon10にお
けるZwf発現の効果
生物体Bisgaard Taxon6(BT6)およびBisgaard Taxo
n10(BT10)を使用して他の種におけるZwf発現の効果もまた試験した。両方の
生物体は、Pasteurellaceae科に属し、A.succinogenesに
関連する。また、両方の生物体は、コハク酸を産生することが知られている。上で説明し
た方法および同じプラスミドであるpJR762.73(A.succinogenes
PEPCKプロモーター下にZwf遺伝子を保持する)を使用して、両方のBisgaa
rd Taxonを形質転換した。これらの形質転換株の両方において、炭素源としてグ
ルコースを使用したコハク酸産生が増加したことが示された。これらの結果を、以下の表
4に示す。
【0110】
【表5】

【0111】
Bisgaard Taxon株を用いたこれらの発酵のフラックス解析によって、ペ
ントースリン酸経路の利用がこのプラスミドを保持する株において実際に増加したことが
示唆された。BT6/pJR762.73は、コントロールよりも多くの炭素を、ペント
ースリン酸経路を介して送った(33mol%対20mol%)。同様に、BT10/p
JR762.73は、コントロールのわずか5mol%と比べて、ペントースリン酸経路
を介して35mol%の炭素を送った。
【0112】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書中で開示される本発明に様々
な置換および改変がなされ得ることは、当業者にとって容易に明らかであるだろう。例と
して本明細書中に記載される本発明は、本明細書中に詳細に開示されない任意の要素(単
数または複数)、制限(単数または複数)なしに適切に実施することができる。使用され
た用語および表現は、説明の用語として使用されるのであって、限定の用語ではない。様
々な改変をすることは、示され、そして説明された特徴またはそれらの一部の任意の等価
物を排除するこのような用語および表現の使用において意図されないが、本発明の範囲内
で可能であることが認識される。従って、本発明は特定の実施形態および任意の特徴によ
って説明されたが、本明細書中に開示された概念の改変および/または変更は、当業者に
ゆだねられ、このような改変および変更が本発明の範囲内であると考えられることが理解
されるべきである。
【0113】
さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群または代替の他の群の形で記載され
る場合、当業者は、本発明がまた本明細書によってマーカッシュ群または他の群の任意の
個別のメンバーまたはメンバーの部分群に関して記載されることを認識するだろう。
【0114】
また、反対の指示がない限り、様々な多くの値が実施形態について提供される場合、追
加の実施形態が、ある範囲の終点として任意の2つの異なる値をとることによって記載さ
れる。このような範囲はまた、説明された本発明の範囲内である。
【0115】
本明細書中に引用されたすべての参考文献、特許および/または出願は、それぞれの参
考文献が個々にそれらの全体において参考により援用されたのと同程度に、任意の表およ
び図を含むそれらの全体が参考として援用される。
(配列表)
【表6−1】

【表6−2】

【表6−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−34702(P2012−34702A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−223226(P2011−223226)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【分割の表示】特願2007−548341(P2007−548341)の分割
【原出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(593093836)ミシガン バイオテクノロジー インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】