説明

有機金属錯体材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】駆動電圧が低く、電流効率が高く、また駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供する。更に、上記有機電解発光素子を含む、有機EL表示装置及び、有機EL照明を提供する。
【解決手段】有機電界発光素子に用いられる有機金属錯体材料であって、電子スピン共鳴法において、g値が、1.9900以下または、2.0100以上であり、かつ、該材料の1mgあたりの電子スピン数が、1.0×1010以上、1.0×1016以下であることを特徴とする、有機金属錯体材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置および有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや照明などの発光装置を製造するための技術として、有機電界発光素子の開発が盛んに行われており、主に小型から中型サイズのディスプレイ用途を中心として、実用化が始まっている。
有機電界発光素子は、電極間の有機層に正負の電荷(キャリア)を注入し、このキャリアを再結合させることにより発光を得るものである。
【0003】
現在実用化されている有機電界発光素子は、低分子化合物を高真空条件下で加熱し、上方に設置した基板に蒸着する手法(真空蒸着法)を用いて製造されている。しかしながら、この真空蒸着法は大面積基板への均質な蒸着が困難であり、大型ディスプレイや大面積の面発光照明のなどの大面積の有機電界発光素子パネルの製造には適し難い。また、蒸着源である有機化合物の利用効率が低く、製造コストが高くなりやすいという問題も有している。
【0004】
一方で、このような大面積の有機電界発光素子パネルを製造する手段として、スピンコート法やインクジェット法、ディップコート法、各種印刷法などに代表される湿式成膜法が提案されている。
しかしながら、湿式成膜法により形成した機能層(発光層)を有する有機電界発光素子は、真空蒸着法により形成した機能層(発光層)を有する有機電界発光素子と比較して特性が劣るという問題点があった。
【0005】
通常、低分子化合物は、昇華精製や、カラム精製によって高純度化している。更に、真空蒸着法は、真空中で有機化合物を昇華させるため、相対的に分子量が低かったり、分子間相互作用が小さい微量物質は、先に蒸発して除去されたり、逆に蒸発しにくい不純物は蒸発せずに残ることで、成膜された膜は、元の材料よりも高純度化されている。つまり、成膜プロセスも、材料の高純度化するプロセスの一つであるため、材料中の不純物量が、そのまま素子特性に影響し難かった。
【0006】
一方、湿式成膜法は、有機材料と溶剤とを含む組成物を用いて成膜される。つまり、有機材料中に含まれる不純物も成膜した膜中にすべて残留する。これが、得られる素子の特性が、素子特性を低下させる要因の一つであると考えられる。このとき、元の材料中の不純物含有量が変化すると、該変化がそのまま素子特性に影響し、安定した特性が得られ難かった。
【0007】
素子特性に影響を及ぼす不純物としては、有機化合物のラジカル種、や溶剤及び混入物に由来するイオン種もしくはラジカル種の存在も示唆されている。
例えば、特許文献1には、ラジカル種やイオン種の不純物から起因すると推測される、1mg当たりの電子スピン数を低減することで有機電界発光素子の駆動寿命を向上させることが開示されている。しかしながら、得られる素子特性、例えば、駆動寿命についてはまだ十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−54271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、駆動電圧が低く、電流効率が高く、また駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、必ずしも、材料を高純度化すればする程、得られる有機電界発光素子の素子特性が向上するものではないことを見出した。
更に、上記課題を解決すべく、合成ロットのみが違う同一材料を用いて作製した素子において、素子特性と材料の純度とが必ずしも相関していないことに着眼し、更に鋭意検討を行った。
【0011】
その結果、従来の技術常識に反し、電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance Measurement;ESR法)において、1mgあたりの電子スピン数が特定の値である、特殊な電子状態の不対電子を有する物質が特定量含まれる有機金属錯体材料を用いることにより、有機電界発光素子の特性を大きく向上させることを見出して、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明は、有機金属錯体材料であって、該有機金属錯体材料が、電子スピン共鳴法におけるg値が、1.9900以下または、2.0100以上であり、かつ、該金属錯体材料の1mgあたりの電子スピン数が、1.0×1010以上、1.0×1016以下である有機金属錯体材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機金属錯体材料を含む有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、電流効率が高く、更に駆動寿命が長い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
<有機金属錯体材料>
本発明の有機金属錯体材料は、電子スピン共鳴法におけるg値が、1.9900以下または、2.0100以上であり、かつ、該有機金属錯体材料の1mgあたりの電子スピン数が、1.0×1010以上、1.0×1016以下である、有機金属錯体材料である。
【0016】
[測定方法]
以下に、本発明における、電子スピン共鳴法でのg値、及び、1mgあたりの電子スピン数の測定方法を詳説する。
[g値及び電子スピン数の測定方法]
不対電子を有する試料に磁場をかけると、不対電子のエネルギー準位がゼーマン分裂を起こす。この準位間のエネルギー差であるマイクロ波の共鳴吸収を利用した測定方法が電
子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance Measurement;ESR法)である。
【0017】
ESR法では、吸収が起きるときのマイクロ波周波数と印加磁場の強さからg値が求まり、吸収強度から1mgあたりの電子スピン数を求めることができる。
本発明において、g値、及び1mgあたりの電子スピン数は、例えば、電子スピン共鳴測定装置ME−3X(日本電子社製)を用いて、ESR法で行う。
ESR測定の条件については適宜調整して測定を行うが、例えば下記の条件で行う。
測定条件:
測定装置:ME−3X(日本電子社製)
測定温度:20℃
マイクロ波周波数:9GHz
マイクロ波出力:10mW
中心磁場:300mT
掃引磁場幅:50mT
磁場変調:0.2mT、10kHz
増幅率:400
掃引時間:10min
試料管:直径5mmの石英製キャピラリーチューブ
定量のための標準試料:DPPH(2,2−diphenyl−1−picrylhydrazyl)
まず、g値は次の式で表される。
【0018】
hν=gμ
ここで、hとμは定数であり、νとHは測定条件である。
h:プランク定数 : 6.626×10−34(J・s)
μ:ボーア磁子 : 9.274×10−24(J/K)
ν:マイクロ波の周波数(GHz)
H:磁場(mT)
g値は、マイクロ波の周波数(ν)を一定の値とし、磁場(H)を掃引し、吸収強度が、極大となる磁場(H)を測定して、g値を求める。
【0019】
また、有機金属錯体材料の1mgあたりの電子スピン数は、1mgあたりの電子スピン数が既知の標準材料との比較にて算出する。
実際には、ESRシグナルは通常微分波形で得られるので、吸収量はESRシグナルを2回積分して求める。有機金属錯体材料の積分値をS、1mgあたりの電子スピン数をD、また標準物質の積分値をS、1mgあたりの電子スピン数をDとして、下記式にて算出する。
【0020】
D=D×(S/S
尚、1mgあたりの電子スピン数が既知の標準物質としては、例えば、DPPHが挙げられる。
尚、本発明に用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0021】
(g値について)
本発明の有機金属錯体材料のg値は、上記の測定方法による値で、通常1.9900以下及び2.0100以上、好ましくは2.1000以上、又は2.5000以下である。
g値が、上記範囲内であると、特殊な電子状態の不対電子を有する物質が存在することを意味する。
【0022】
また、本発明の有機金属錯体材料は、上記の測定方法による値で、1mgあたりの電子スピン数は、通常1.0×1016以下、好ましくは1.0×1015以下、また通常1.0×1010以上で、好ましくは1.0×1011以上、さらに好ましくは1.0×1012以上である。
本発明における電子スピン数は、特殊な電子状態の不対電子を有する物質の含有量を示すものである。
【0023】
つまり、g値、及び、1mgあたりの電子スピン数が、上記範囲内であると、得られる素子の、駆動電圧が低く、電流効率、また駆動寿命が長いものである。
本発明の効果を奏する理由は、有機金属錯体材料が発光材料として用いた場合を例に、下記の通り推測する。
g値が上記範囲内である有機金属錯体材料であると、特殊な電子状態の不対電子を有する物質(以下、「特定物質」と称する)を含むと推測される。
【0024】
本発明における有機金属錯体材料はこの特定物質との何らかの相互作用をしていると考えられる。その結果、電荷の輸送性が向上し、素子の駆動電圧が低くなると考えられる。また、励起子の生成効率および再結合確率が高まり、発光効率が高くなると考えられる。さらに、電荷を帯びた状態や励起状態の安定性が向上し、素子の駆動寿命が長くなると考えられる。
【0025】
一方、特殊な電子状態の不対電子を有する物質は、隣接する分子と反応して材料劣化させたり、また電荷をトラップする可能性がある。
この為、特定物質を含有する量が多いと、上記素子特性向上効果よりも、特性低下効果が勝ってしまう。本発明は、有機金属錯体材料の、1mgあたりの電子スピン数を特定の範囲に制御することにより、素子特性向上効果が表れる範囲になっている。
【0026】
[発光材料]
本発明における有機金属錯体材料は、電荷輸送性材料であっても、発光材料であってもよい。電荷輸送性材料である場合、電子輸送性材料であっても正孔輸送性材料であってもよく、また、電子輸送性および正孔輸送性の両方を有していてもよい。好ましくは発光材料である。
【0027】
以下に、発光材料の例を挙げるが、以下に記載する材料は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における蛍光量子収率または燐光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部または全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。
【0028】
発光材料としては、通常、有機電界発光素子の発光材料として使用されているものであれば限定されない。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。また、青色発光材料は蛍光発光材料を用い、緑色発光材料や赤色発光材料は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。
【0029】
特に燐光発光材料の場合、三重項励起子の励起寿命が長いため、無輻射失活する確率が高くなるという欠点があるが、本発明におけるg値が、1.9900以下、又は2.0100以上である化合物であることにより、燐光発光材料の三重項励起状態が安定化し、無輻射失活を低減させる効果があると考えられる。
さらに、溶剤への溶解性を向上させる目的で、分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基が導入されたりしている材料を用いることが好ましい。
【0030】
金属錯体が燐光発光材料の場合、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または非ウェルナー型有機金属錯体材料が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウム、パラジウムまたは白金であり、特に好ましくはイリジウムである。
【0031】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0032】
本発明に適用される金属錯体としては、好ましくは下記式(4)で表される化合物、或いは国際公開第2005/011370号パンフレットや国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
(q-j)G’j …(4)
式(4)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0033】
また、式(4)中の二座配位子G及びG’は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0034】
【化1】

【0035】
(上記式Gにおいて、環Q1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0036】
【化2】

【0037】
G’として、錯体の安定性の観点から、特に好ましくは、
【0038】
【化3】

【0039】
である。
上記G,G’の部分構造において、環Q1は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していてもよい。また、環Q2は、含窒素芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していてもよい。
なお、本発明において置換基を有していてもよいとは、置換基を1以上有していてもよいことを意味する。
【0040】
環Q1,Q2の好ましい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0041】
式(4)で表される化合物として、さらに好ましくは、下記式(4a)、(4b)、(4c)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化4】

【0043】
(式(4a)中、MaはMと同様の金属を表し、qaは金属Maの価数を表す。環Q1は
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0044】
【化5】

【0045】
(式(4b)中、MbはMと同様の金属を表し、qbは金属Mbの価数を表す。環Q1は
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0046】
【化6】

【0047】
(式(4c)中、McはMと同様の金属を表し、qcは金属Mcの価数を表す。kは0、
1又は2を表す。環Q1及び環Q1’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。環Q2及び環Q2’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
前記式(4a)、(4b)、(4c)において、環Q1及び環Q1’としては、好ましくは、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0048】
また、環Q2、環Q2’としては、好ましくは、例えばピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
式(4a)、(4b)、(4c)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニ
ルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0049】
上記置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。上記置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。上記置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。上記置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。上記置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。上記置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。上記置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12以上28以下である。上記置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。上記置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
【0050】
これら置換基の中でも、化合物の溶解性が高く、湿式成膜に適することから、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、無置換のアルキル基がより好ましい。
尚、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環Q1が有する置換基と環Q2が有する置換基とが結合するか、又は、環Q1’が有する置換基と環Q2’が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0051】
中でも、環Q1、環Q1’、環Q2及び環Q2’の置換基として、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
また、式(4a)、(4b)、(4c)におけるMa,Mb,Mcとして好ましくは、ル
テニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。
【0052】
上記式(4)、(4a)、(4b)又は(4c)で示される有機金属錯体材料の具体例を以下に示すが、何ら下記の化合物に限定されるものではない。以下において、Phはフェニル基を表す。
【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
【化12】

【0059】
【化13】

【0060】
【化14】

【0061】
【化15】

【0062】
【化16】

【0063】
【化17】

【0064】
【化18】

【0065】
【化19】

【0066】
【化20】

【0067】
さらに、前記式(4)、(4a)、(4b)、(4c)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子G及び/又はG’として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0068】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0069】
発光材料として用いる化合物の分子量は、低分子が好ましく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
上記範囲内であると、耐熱性が良好で、ガス発生の原因となり難く、また成膜性及び膜質が良好である。更に、π共役長の拡大に起因する発光色純度が低下しにくく、また化合物の精製が容易で、更に、溶剤に対する溶解性が良好である。
【0070】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。また、前述の電荷輸送材料と任意の比率で混合して用いてもよい。
前記式(4)におけるMがイリジウムである化合物を含有する有機金属錯体材料である場合、g値が、1.9900以下、又は2.0100以上である化合物としては、4価イリジウム錯体であると推測される。
【0071】
<有機金属錯体材料の製造方法>
電子スピン共鳴法におけるg値が1.9900以下または、2.0100以上であるシグナルを有する化合物としては、例えば、(1)置換基の結合が切れたラジカル化合物、(2)中心金属の価数が異なる化合物などであると考えられる。
つまり、本発明の有機金属錯体材料を製造する方法としては、上記(1)及び(2)である化合物を増やす方法であると考えられる。
(1)置換基の結合が切れたラジカル化合物としては、例えば次のようなことが考えられる。
【0072】
本発明における金属錯体は、溶剤への溶解性を向上させる目的で、分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基が導入されたりしている材料を用いる。この場合、分子の対称性や剛性を低下させる構造は、分子がねじれているために結合が切れやすかったり、また、親油性置換基の結合が切れることが考えられる。これら結合の切れた化合物は通常、精製によって取り除かれるが、本発明では、敢えて微量残す。(2)中心金属の価数が異なる化合物では、中心金属が不対電子を持つ場合が考えられる。例えば、Irの場合、3価のIr錯体は不対電子を持たないが、不対電子を持つ4価のイリジウム錯体が混入することで、ESRシグナルを有する化合物を得ることが出来る、と推測される。これより、g値が1.9900以下または、2.0100以上であるシグナルが出る可能性が高い。
【0073】
<用途>
本発明の有機金属錯体材料は、発光材料、又は電荷輸送材料として用いられることが好ましく、また有機電界発素子における発光層の発光材料、電荷輸送材料として用いることが好ましく、特に発光材料として用いられることが好ましい。
また、製造方法を簡便にできることから、本発明の有機金属錯体材料は、湿式成膜法で形成される有機層に用いることが好ましい。
【0074】
尚、本発明の有機金属錯体材料は、有機電界発光素子の他に、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子などにも好適に用いることができる。
<有機電界発光素子用組成物>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の有機金属錯体材料と溶剤とを含有する。
【0075】
本発明の有機電界発光素子用組成物における有機金属錯体材料の含有量は、通常0.001wt%(重量%)以上、好ましくは0.01wt%以上、より好ましくは0.02wt%以上、また、通常90wt%以下、好ましくは50wt%以下、より好ましくは20wt%以下である。
上記範囲内であると、形成した膜の厚みが適当で、且つ均一であり、黒点や短絡などを生じ難く、また得られる素子の耐久性が向上し、好ましい。更に、膜厚が均一で、発光ムラなどが生じ難い。また、濃度消光や、塗布膜乾燥時の凝集が生じ難く、得られる素子の素子特性が良好である。
【0076】
該含有量は、本発明の有機電界発光素子用組成物中に含まれる発光材料が複数ある場合
には、その合計量を表す。
(溶剤)
溶剤としては、本発明の効果を損わない限り特に制限は無いが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン等の置換又は無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン等の含カルボニル系溶剤、水、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、湿式成膜時に乾燥速度が速くなりすぎ、膜厚ムラなどを生じないためにも、沸点が180℃以上の芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、トリメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、シクロヘキサノン、安息香酸エチルなどが好ましい。
【0077】
本発明の有機電界発光素子用組成物は、これらの溶剤のうち、好ましくは沸点が180℃以上の有機溶剤(以下、この溶剤を「高沸点溶剤」と称す場合がある。)を含有する。
沸点が180℃以上であるような高沸点溶剤を含有することにより、乾燥速度の制御が容易になり、得られる有機層の膜厚変動が小さくなり、最終的に得られる有機電界発光素子の発光輝度ムラを抑制するなどの効果が奏される。
【0078】
このような高沸点溶剤としては、上述の溶剤の具体例のうち、沸点が180℃以上、好ましくは、沸点180〜290℃程度の溶剤が挙げられる。高沸点溶剤としては例えばシクロヘキサノン、フェンコン、メントン、メシチレン、ドデシルベンゼン、テトラリン、メチルナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、安息香酸エチル、2−フェノキシ酢酸エチル、プロピレングリコールオクチルエーテル、N,N−ジメチルアセトアミド等が好適である。
【0079】
本発明の有機電界発光素子用組成物中に、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよいが、通常1種類以上、好ましくは2種類以上、通常10種類以下、好ましくは8種類以下、より好ましくは6種類以下の組み合わせで含有されることが好ましい。
また、2種以上の溶剤を混合して使用する場合、その混合比についても、何ら限定されることはない。
【0080】
さらに、全溶剤中に占める高沸点溶剤の割合が、通常40wt%以上であることが好ましく、特に60wt%以上であることが好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物に用いる場合には、上述の有機金属錯体材料や溶剤の他、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明の有機金属錯体をドーパント材料とし、他の電荷輸送性化合物をホスト材料として含むことが好ましい。
【0081】
(電荷輸送材料)
本発明の有機電界発光素子用組成物は、上述の有機金属錯体材料や溶剤の他、更に電荷輸送性化合物を含有することが好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明の有機金属錯体材料をドーパント材料とし、他の電荷輸送性化合物をホスト材料として含むことが好ましい。
【0082】
本発明の有機電界発光素子用組成物が含有し得る電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ピリジ
ン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0083】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
本発明の有機金属錯体材料含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、該組成物を100重量部とすると、通常1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下である。
【0084】
(溶剤濃度・固形分濃度)
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、後述の本発明の有機電界発光素子用膜を形成する場合、有機電界発光素子用組成物中の溶剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50wt%以上、通常99.9999wt%以下、である。なお、溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0085】
また、発光材料、電荷輸送材料等の全固形分濃度としては、通常0.01wt%以上、通常70wt%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
<有機薄膜>
上述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法により有機電界発光素子用膜を形成することが好ましい。
【0086】
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、湿式成膜法において、成膜用組成物として用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物等に特有の液性に合うためである。
【0087】
本発明の有機薄膜の膜厚は用途に応じて適宜決定されるが、例えば、有機電界発光素子用の膜であれば、後述の如く、通常3nm以上、好ましくは5nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
<有機電界発光素子>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極及び陰極、該陽極及び陰極の間に配置された有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも一層が、本発明の有機金属錯体材料を含有することを特徴とする。
【0088】
更に、本発明の有機金属錯体材料を含有する層が、湿式成膜法で形成された層であることが好ましい。
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止
層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0089】
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密な窒化シリコン膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0090】
{陽極}
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0091】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0092】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0093】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
{正孔注入層}
本発明の有機電界発光素子は正孔注入層3を有していてもよい。
【0094】
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明における正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。特に、以下詳述する正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含有する、湿式成膜法により形成された層であることが好ましい。
【0095】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0096】
(正孔輸送性化合物)
本発明における有機電界発光素子デバイスは、正孔注入層に前述の電荷輸送性材料のうち、正孔輸送性を有するものの中から適宜選択して用いることが出来る。
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
【0097】
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよい。
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジジン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、これらを任意に組み合わせた低分子または高分子の材料等が挙げられる。また、正孔輸送性化合物は、後述の正孔輸送層4に用いられる化合物として例示されている架橋性化合物や熱による構造変換型化合物を用いることも好ましい。
【0098】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物の1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物の1種または2種以上を併用することが好ましい。
【0099】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。
【0100】
正孔輸送性化合物は架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。ここで、架橋性化合物は、架橋基を有する化合物であって、架橋することによりポリマーを形成する。架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0101】
架橋性化合物の架橋基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合;ベンゾシクロブタンなどが挙げられる。
架橋性化合物、すなわち、架橋基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーが有する架橋基の数に特に制限はないが、単位電荷輸送ユニットあたり通常2.0未満、好まし
くは0.8以下、より好ましくは0.5以下となる数が好ましい。これは正孔輸送層形成材料の比誘電率を好適な範囲に調整するためである。また、架橋基の数が多すぎると、反応活性種が発生し、他の材料に悪影響を与える可能性があるためである。ここで、単位電荷輸送ユニットとは、架橋性ポリマーを形成する材料がモノマー体の場合、モノマー体そのものであり、架橋基を除いた骨格(主骨格)のことを示す。他種類のモノマーを混合する場合においても、それぞれのモノマーの主骨格のことを示す。架橋性ポリマーを形成する材料がオリゴマーやポリマーの場合、有機化学的に共役がとぎれる構造の繰り返しの場合は、その繰り返しの構造を単位電荷輸送ユニットとする。また、広く共役が連なっている構造の場合には、電荷輸送性を示す最小繰り返し構造、乃至はモノマー構造を示す。例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、ペリレンなどの多環系芳香族、フルオレン、トリフェニレン、カルバゾール、トリアリールアミン、テトラアリールベンジジン、1,4−ビス(ジアリールアミノ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0102】
さらに、架橋性化合物としては、架橋基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。この場合の正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0103】
特に、この架橋性化合物としては、下記式で表される基を有する架橋性化合物であることが反応速度の大きさや反応温度の低さ、副反応の少なさなどの点から好ましい。
【0104】
【化21】

【0105】
架橋性化合物の分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。
架橋性化合物を架橋して正孔注入層を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔注入層形成用組成物を調製して、湿式成膜法により成膜し、その後架橋性化合物を架橋させる。
【0106】
この正孔注入層形成用組成物は、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0107】
この正孔注入層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01wt%以上、好ましくは
0.05wt%以上、さらに好ましくは0.1wt%以上、通常50wt%以下、好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下含有する。
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔注入層形成用組成物を成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させてポリマー化する。
【0108】
成膜後の加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の手段を採用することができる。
【0109】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0110】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、さらに好ましくは0.5wt%以上、また、通常70wt%以下、好ましくは60wt%以下、さらに好ましくは50wt%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0111】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、正孔輸送性化合物と共に電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0112】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号パンフレット);塩化鉄(いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。
【0113】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0114】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよいが、陽極からの正孔注入性および陰極側への正孔輸送性を確保する点から、その正孔注入層中の含有量は、80wt%以下であることが好ましい。
【0115】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0116】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0117】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0118】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成することができる。
【0119】
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、
通常0.01ppm以上、通常80%RH以下である。
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0120】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0121】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ薄膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0122】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常1×10−8Pa以上、通常1×10−3Pa以下である。 蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、好ましくは100℃以下で行われる。
【0123】
{正孔輸送層}
本発明の有機電界発光素子は正孔輸送層4を有していてもよい。
本発明における有機電界発光素子デバイスは、正孔注入層に前述の電荷輸送性材料のうち、正孔輸送性を有するものの中から適宜選択して用いることが出来る。
本発明における正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0124】
特に、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層を形成してなる本発明の有機電界発光素子においては、正孔注入層と発光層との間の正孔注入障壁を緩和し、駆動電圧の低減や層界面への正孔の蓄積による材料の劣化の抑制や、発光層への正孔注入効率の向上による発光効率の向上などの観点から正孔輸送層を有し、また、この正孔輸送層は、正孔注入層を均一に被覆し、更には陽極由来の突起部や、パーティクルなどによる微小な異物を洗い流す、あるいは被覆する等の観点から、湿式成膜法により形成されることが好ましい。
【0125】
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い
場合には陽極2の上に形成することができる。ただし、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
本発明における有機電界発光素子デバイスは、正孔注入層に前述の電荷輸送性材料のうち、正孔輸送性を有するものの中から適宜選択して用いることが出来る。
【0126】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0127】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。
【0128】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0129】
真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層4は架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。ここで、架橋性化合物は、前述の正孔注入層に用いることの出来る化合物と同じ化合物を用いてもよい。
【0130】
また、正孔輸送層形成用組成物は、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物、バインダー樹脂などを含有していてもよい。
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上、さらに好ましくは0.1wt%以上、通常50wt%以下、好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下含有する。
【0131】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させてポリマー化する。
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0132】
{発光層}
本発明の有機電界発光素子は発光層5を有している。
本発明における有機電界発光素子デバイスは、発光層に前述の発光材料の中から適宜選択して用いることが出来る。
発光層5は、正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上に設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0133】
<発光層の材料>
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。
発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0134】
本発明の有機電界発光素子において、発光層5は、好ましくは前述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成される本発明の有機薄膜である。従って、本発明における発光層5に含まれる発光材料、電荷輸送性化合物の具体例としては、前述の本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる発光材料、電荷輸送材料の具体例として例示したものと同様であり、これらはそれぞれいずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0135】
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層5を形成するには、この有機電界発光素子用組成物を湿式成膜後、得られた薄膜を乾燥し、溶剤を除去する。ここで、湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。湿式成膜の具体的な方法は、上記正孔注入層3の形成において記載した方法と同様である。
【0136】
このようにして形成される発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
また、発光層5における発光材料の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05wt%以上、通常35wt%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0137】
また、発光層5が電子輸送性化合物を含む場合、発光層5における電子輸送性化合物の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1wt%以上、通常65wt%以下である。発光層中の電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、発光層
中に2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0138】
また、発光層5が正孔輸送性化合物を含む場合、発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1wt%以上、通常65wt%以下である。発光層中の正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、発光層中に2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0139】
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
本発明における有機電界発光素子デバイスは、正孔阻止層に前述の電荷輸送材料の中から電子輸送性かつ正孔阻止性を有する材料を適宜選択して用いることが出来る。
【0140】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0141】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0142】
{電子輸送層}
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
本発明における有機電界発光素子デバイスは、電子輸送層に前述の電荷輸送材料の中から電子輸送性を有する材料を適宜選択して用いることが出来る。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0143】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸
送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0144】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子輸送層7の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0145】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0146】
更に、本発明における有機電界発光素子デバイスは、電子注入層に前述の電荷輸送材料の中から電子輸送性を有する材料を適宜選択して用いることが出来る。
例えば、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し、優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0147】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0148】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0149】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0150】
{その他の層}
本発明における有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0151】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明における有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0152】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)や、三酸化モリブデン(MoO)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0153】
更には、本発明における有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0154】
[有機EL表示装置]
本発明の有機電界発光素子表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。
本発明の有機電界発光素子表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0155】
例えば、「有機電界発光素子ディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機電界発光素子表示装置を形成することができる。
[有機EL照明]
本発明の有機電界発光素子照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機電界発光素子照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0156】
<実施例>
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
(合成例1)
(本発明の有機金属錯体材料D−2の合成)
【0157】
【化22】

【0158】
反応容器内を減圧下、加熱乾燥と窒素置換を繰り返し、系内を窒素雰囲気とした。p-Bromohexylbenzene12.06g(0.05mol)をdryTHF100mlに溶解し、−78℃まで冷却させた。これに、Butyl litium(1.6mol/l in Hexane)38mlを滴下し、2時間反応させた。これに、Trimethyl boronic acid2.86g(0.05mol)をゆっくり滴下し
、1時間後、室温まで昇温させた。これに水を添加し、1NのHClで中和後、酢酸エチルにより抽出を行い、濃縮して白色のロウ状結晶、4-n-Hexylphenylboronic acid6.98g(収率68%)を得た。
【0159】
1-Bromo-4-methyl-quinoline15.24g(0.12mol) と3−Bromophenyl boronic acid25.30g(0.126mol)をトルエン300ml、エタノール150mlに溶解し、30分間、窒素バブリングした。別に窒素バブリングを行ったSodium carbonate 38.16g(0.36mol)と水150mlを加え、さらに10分間窒素バブリングを行った後、Tetrakis(tetraphenylphosphino) Palladium4.16g(3.6mmol)を加え、4.5時間、窒素下リフ
ラックスした。反応液を濃縮後、酢酸エチル/ヘキサン=1/10でカラム精製を行い、2-(3’-Bromophenyl)-5-methylpyridine16.5g(収率59%、純度97.5%)を合成した。
【0160】
4-n-Hexylphenylboronic acid 2.23g(9mmol) と2-(3’-Bromophenyl)-5-methylpyridine 1.95g(9mmol)をトルエン40ml、エタノール20mlに溶解し、30
分間、窒素バブリングした。別に窒素バブリングを行ったSodium carbonate2.86g(0.027mol) と水10mlを加え、さらに10分間窒素バブリングを行った後、Tetrakis(tetraphenylphosphino) Palladium 0.312g(0.27mmol)を加え、3.5時間、窒素下
リフラックスした。反応液を濃縮後、酢酸エチル/ヘキサン=1/5でカラム精製を行い、化合物3の2.84g(収率96%、純度99.2%)を得た。
【0161】
上記得られた化合物3の2.57g(10.7mmol)とグリセリン14mlを仕込み、150℃で約60分間脱水、脱気を行った。放冷した後、これに、Ir(acac)(acac:acetylacetone)31.253g(2.8mmol)を添加し、そのまま200℃に昇温し
て14時間反応させた(acetylacetoneの留出を確認)。約60℃まで降温させ、メタノ
ールを加えて、晶出した結晶を濾取した。得られた粗結晶をヘキサン/CHCl=1/1でカラム精製し、ジメチルエーテル、メタノールにて再沈殿を行い、D−1の黄色結晶、0.85g(収率33%)を得た。これを昇華精製装置にて精製して、0.68gの有機金属錯体材料D−2を得た。
【0162】
有機金属錯体材料D−2を以下の測定条件でESR測定したところ、g値が2.2111であった。また、1mgあたりの電子スピン数は、6.0×1013であった。
測定条件:
測定装置:ME−3X(日本電子社製)
測定温度:20℃
マイクロ波周波数:9.14GHz
マイクロ波出力:10mW
中心磁場:300mT
掃引磁場幅:50mT
磁場変調:0.25mT、10kHz
増幅率:400
掃引時間:8min
試料管:直径5mmの石英製キャピラリーチューブ
定量のための標準試料:DPPH
[有機電界発光素子の作成]
(実施例2)
まず、ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜(三容真空社製、スパッタ成膜品)が、2mm幅のストライプ状にパターニングされている基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0163】
(正孔注入層の形成)
下記式(II)の繰り返し構造を有するポリマー(重量平均分子質量60000)2重量
%と、下記式(III)であらわされる化合物0.8重量%を、溶剤として安息香酸エチル
に溶解し、固形分濃度2重量%の正孔注入層形成用組成物を調製した。
【0164】
【化23】

【0165】
洗浄処理したITO基板上に、上記正孔注入層用塗布溶液を用いてスピンコート法にて正孔注入層を形成した。スピンコートは気温23℃、相対湿度50%の大気中で行ない、回転数は1500rpm、回転時間は30秒とした。塗布後、ホットプレート上で80℃1分間加熱乾燥した後、電極上の不要部分を拭き取り、オーブン大気中で230℃1時間ベークし、膜厚30nmの正孔注入層を形成した。
【0166】
(正孔輸送層の形成)
次に、下記式(V)の繰り返し構造を有するポリマー(重量平均分子質量95000)0.4重量%を、溶剤としてトルエンに溶解し、正孔輸送層形成用組成物を作製した。トルエンは市販品の脱水グレードを使用し、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で正孔輸送層形成用組成物を調製した。
【0167】
【化24】

【0168】
正孔注入層を塗布した基板を窒素グローブボックスに入れ、正孔注入層上に、上記正孔輸送層形成用組成物を用いてスピンコート法にて正孔注入層を形成した。回転数は1500rpm、回転時間は30秒とした。塗布後、電極上の不要部分を拭き取り、ホットプレ
ート上で230℃1時間ベークし、膜厚30nmの正孔輸送層を形成した。
正孔輸送層形成用組成物の調製、スピンコート、ベークすべて、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で大気暴露させずに行った。
【0169】
(発光層の形成)
次に、発光層を塗布成膜するための発光層形成用組成物を調製した。
(発光層形成用組成物の調整)
下記式(VI)で表される化合物を25重量部、下記式(VII)で表される化合物を75重量部、下記式(VIII)で表される化合物を5重量部を、溶剤としてシクロヘキシルベンゼン2100重量部に溶解させ、0.2μmのPTFEフィルターでろ過し、発光層形成用組成物を調製した。発光層形成用組成物の調製は、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で行った。
【0170】
なお、下記式(VIII)で表される化合物は、実施例1で合成した化合物D−2を使用した。
【0171】
【化25】

【0172】
(発光層成膜)
正孔輸送層上に、発光層形成用組成物を用いてスピンコート法にて発光層を形成した。スピンコートは、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス
中で行い、スピン回転数は1500rpm、スピン時間は120秒とした。次いで、ホットプレート上で130℃1時間真空加熱して乾燥し、膜厚60nmの発光層を形成した。
【0173】
この基板を一旦大気中に取り出し、速やかに真空蒸着装置のチャンバー内に設置した。チャンバーはロータリーポンプで粗引きした後、クライオポンプにて減圧した。真空度は1.0×10−4Paであった。基板には、所定の領域に、蒸着用マスクを配置し、チャンバーにはあらかじめ必要な蒸着材料をそれぞれ別のモリブデン製ボートに入れて配置しておいた。
【0174】
(正孔阻止層の形成)
式(VI)で表される材料を入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、発光層上に蒸着した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、蒸着速度0.7Å/sとし、正孔阻止層を膜厚10nmで形成した。
(電子輸送層の形成)
次に、下記式(IX)で表されるAlqを入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、正孔阻止層の上に蒸着した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、蒸着速度1.0Å/sとし、電子輸送層を膜厚30nmで形成した。
【0175】
【化26】

【0176】
(陰極形成)
次に、基板を一旦大気中に取り出し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプと直交するように配置し、速やかに蒸着装置に設置した。チャンバーはロータリーポンプで粗引きした後、クライオポンプにて減圧した。真空度は3.0×10−4Paであった。陰極として、先ず、フッ化リチウム(LiF)を入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、電子輸送層の上に蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度は3.0×10−4Pa、蒸着速度0.1Å/sとし、膜厚0.5nmで成膜した。最後に、アルミニウムを入れたモリブデン製ボートを通電加熱して陰極を蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度は4.0×10−4Pa、蒸着速度3.0Å/sとし、膜厚80nm成膜した。
【0177】
(封止)
次に、基板を一旦大気中に取り出し、速やかに窒素置換されたグローブボックスに移した。窒素置換されたグローブボックス中では封止ガラス板の凹部に吸湿剤シートを貼り付け、封止ガラス板の凹部の周囲にUV硬化樹脂塗をディスペンサーにて塗布し、蒸着を行なった基板の蒸着領域を封止ガラス板で密封するように密着させ、UVランプにてUV光を照射してUV硬化樹脂を硬化させた。
【0178】
以上の様にして、有機電界発光素子を得た。
(素子評価)
この素子に通電したところ、均一な発光面の緑色発光が得られた。
この素子を1000cd/mの輝度で発光させたときの電圧は、7.9V、電流発光効率は、40.8cd/Aであった。
【0179】
また、この素子を初期輝度6000cd/mで点灯させ、定電流通電発光させたとき、輝度が80%に低減するまでの時間は150時間であった。
(比較例1)
発光層を形成する化合物の内、式(VIII)で表される化合物として、実施例1で合成した化合物D−2の代わりに、別途製造した同じ化合物D−3(実施例1と同様の測定にて、g値が2.3424でのシグナルが観測されたが、シグナル強度が弱く電子スピン数は、算出できなかった)を使用した以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子作製および評価を行った。
【0180】
(素子評価)
この素子に通電したところ、均一な発光面の緑色発光が得られた。
この素子を1000cd/mの輝度で発光させたときの電圧は、8.3V、電流発光効率は、35.5cd/Aであった。
また、この素子を初期輝度6000cd/mで点灯させ、定電流通電発光させたとき、輝度が80%に低減するまでの時間は125時間であった。
【0181】
以上より、ESR測定でのg値が1.9900以下または、2.0100以上で、かつ電子スピン数が、1.0×1010以上、1.0×1016以下である有機金属錯体材料を用いて得られる素子は、駆動電圧が低く、電流効率が高く、また駆動寿命が長いことが分かる。
【符号の説明】
【0182】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子スピン共鳴法において、g値が、1.9900以下または、2.0100以上であり、
かつ、該材料の1mgあたりの電子スピン数が、1.0×1010以上、1.0×1016以下であることを特徴とする、有機金属錯体材料。
【請求項2】
前記有機金属錯体材料が、有機電界発光素子用材料であることを特徴とする、請求項1に記載の有機金属錯体材料。
【請求項3】
少なくとも請求項1又は2に記載の有機金属錯体材料と有機溶剤とを含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
【請求項4】
基板上に、陽極及び陰極、該陽極及び陰極の間に配置された有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも一層が、請求項1又は2に記載の有機金属錯体材料を含有することを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項4に記載の有機電界発光素子を含むことを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項4に記載の有機電界発光素子を含むことを特徴とする、有機EL照明。


【図1】
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【公開番号】特開2011−256129(P2011−256129A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131272(P2010−131272)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】