説明

有機電界発光型表示装置

【課題】 トップエミッション型の有機電界発光型表示装置において明るい画像を得る手段として、高い仕事関数値と高い光反射率とを兼ね備えたアノードによる発光効率の増大が挙げられる。アノードとしてAl合金膜を適用した場合、高い光反射率を得ることはできるが、仕事関数が低いためホール注入効率が低いという問題があった。
【解決手段】 本発明に係わる有機電界発光型表示装置はトップエミッション型であり、基板上にTFTと、少なくともアノード13、電界発光層16そしてカソード17がこの順に積層された有機EL素子とが表示領域の各画素に形成されているとともに、アノード13はAlに少なくとも窒素又は8族3d遷移金属の1種以上を不純物として含むAl合金膜からなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学素子、特に薄膜トランジスタ(以後、TFTと呼ぶ)を形成したアクティブマトリクス型基板上に電気光学表示として表示領域の各画素に有機電界発光型(エレクトロルミネセンス;EL)素子(以後、有機EL素子と呼ぶ)を形成してなる有機電界発光型表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの一般的な薄型パネルのひとつである液晶表示装置(LCD)は、低消費電力や小型軽量といったメリットを活かしてパーソナルコンピュータのモニタや携帯情報端末機器のモニタなどに広く用いられている。また近年ではTV用途としても広く用いられ、従来のブラウン管にとってかわろうとしている。しかしながら、視野角やコントラストが制限されたり、動画対応の高速応答への追従が難しい等の問題点も指摘されており、高品質な動画を得るための工夫や技術が必要とされている。一方近年、自発光型で広視野角、高コントラスト、高速応答等、LCDにはない特徴を活かしたEL素子のような発光体を画素表示部に用いた電界発光型EL表示装置が、次世代の薄型パネル用デバイスとして用いられるようになってきた。
【0003】
有機EL素子は、陽極(アノード)と陰極(カソード)の間に有機EL層を含む電界発光層を挟んだ構造を基本構成とするものであり、アノードとカソードの間に電圧を加えることで、アノード側から正孔(ホール)が注入され、カソード側から電子が注入されることによって有機EL層の発光を得るものである。(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このような有機EL素子を用いた表示装置である有機電界発光型表示装置は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)が配置されたTFTアクティブマトリックス基板上に、アノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子が、表示領域の各画素に形成された構造を有している。
【0005】
従来からの一般的な有機電界発光型表示装置は下面発光型(ボトムエミッション型)とよばれるもので、ガラスのような透明絶縁性基板にTFTや有機EL素子が形成されており、有機EL層から発生した光をTFT基板側へ放射させるために、アノードには酸化インジウムIn2O3+酸化スズSnO2(以後、ITOと呼ぶ)のような光透過性を有する導電性材料で構成されている。アノードには有機EL層へのホール注入効率を上げるために仕事関数値の高い導電性材料が好ましいとされており、例えば特許文献1では好ましい仕事関数値として4.0eV以上であることが述べられている。ITOは仕事関数値が4.7eV前後であり、アノードとして好ましい材料である。
【0006】
しかしながら、ボトムエミッション型では、基板に形成されたTFTパターンや配線パターン、あるいは信号駆動用回路パターンなどの領域では通常、光を透過させることができないため、有効な発光面積が少なくなってしまうという問題がある。これらの問題を解決するために、発光面積を広く取ることのできる上面発光型(トップエミッション型)と呼ばれる構造のものが開発されている。
【0007】
トップエミッション型構造では、上述のアノードが光反射性を有する金属材料で形成されているので、有機EL層で発生した光をカソードを透過して基板の上部へ放射させる際に、金属材料からなるアノード側において反射する光も同時に基板の上部へ放射させることができ、明るい表示画像を得ることができる。
【0008】
上述した点を考慮すれば、トップエミッション型において発光効率が高く明るい表示画像を得るためには、アノードには高い光反射性と高い仕事関数値を兼ね備えた導電性金属材料が求められる。しかしながら、パターニング加工の容易性なども考慮に入れた上で、アノード用途として従来公知の金属材料を適用しようとすると、例えば高い仕事関数値を有するCr(約4.5eV)やMo(約4.6eV)を選択した場合には、これらの金属膜は光反射率が低い(たとえば波長550nmにおける本発明者らの結果によればCrで67%、Moで60%)ために、アノードからの反射光の損失が大きいという問題がある。一方で例えば光反射率が90%以上の高い値を有する金属材料としてアルミニウム(Al)やAg、およびこれらの合金を選択した場合には、仕事関数値として好ましい4.0eVよりも低いために、有機EL素子の発光効率が上がらないという問題がある。
【0009】
以上の問題を解決するために、反射率の高いAg、Alおよびこれらの合金の上層に仕事関数が高い導電性材料の積層させた少なくとも二層構造として、高い反射率と高いホール注入効率とを両立させた構成のアノードが開示されている。(例えば特許文献2〜5参照)。仕事関数の高い導電性材料としては金属の酸化物薄膜が挙げられている。これらの多くは光透過性を有しており、下層の金属による光反射効率を大きく低下させることがないという利点がある。
【0010】
【特許文献1】特許第2597377号公報(第1図)
【特許文献2】特開2001−291595号公報(図1)
【特許文献3】特開2003−77681号公報(図1)
【特許文献4】特開2003−288993号公報(図1)
【特許文献5】特開2004−31324号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このように高い光反射率を有する金属材料の膜と、高い仕事関数値を有する透明導電性材料の膜との二層膜でアノードを構成する場合は、(1)成膜およびエッチング工程が増えてしまい生産性を低下させてしまうこと(2)透明導電性膜とはいえ、金属膜の上層に形成した場合には反射率が低下してしまうこと(3)金属膜と透明導電性膜との界面に反応生成物が生じてホール注入効率を低下させてしまうこと等といった新たな問題点が発生することになる。
【0012】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、発光開口面積を広くとることができるトップエミッション型の有機電界発光型表示装置において、さらに発光効率を高めて明るい表示画像を得ることを目的としており、プロセス加工性に優れ、かつ良好な表面平坦性、高い光反射率ならびに高いホール注入効率を具備したアノードと、これを有する有機電界発光型表示装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係わる有機電界発光型表示装置はトップエミッション型であることを特徴とするもので、基板上にTFTと、少なくともアノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子とが表示領域の各画素に形成されているとともに、前記アノードはAlに少なくとも8族3d遷移金属、または窒素(N)から選ばれる1種以上を不純物として含むAl合金単層膜で構成されていることを特徴とするものである。ここで8族3d遷移金属というのは、周期律表の8族に属しその最外殻電子配置が電子の3d軌道を占める金属元素群、すなわち鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)を指す。
【発明の効果】
【0014】
アノードを、Alに少なくとも8族3d遷移金属であるFe、Co、Ni原子、またはN原子から選ばれる1種以上を不純物として含むAl合金の単層膜で形成するようにしたので、有機EL素子から発生した光の反射効率が高く、かつ有機EL素子へのホール注入効率を高めることができ、発光効率が高く明るい表示画像を有する有機電界発光型表示装置を簡単なプロセスで生産性良く製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の有機電界発光型表示装置を構成するTFTアクティブマトリックス基板と有機EL素子、およびこれらの製造方法について図面に基づいて説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る有機電界発光型表示装置を構成するTFTアクティブマトリックス基板の画素領域におけるTFTとこれに接続された有機EL素子を示す平面図である。また図2は、図1に示すA−A線の断面図である。
【0017】
図1、および図2において、絶縁性基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2を覆うようにして形成されたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3を介してゲート電極2上に形成された半導体膜4と、半導体膜4上に積層されたオーミックコンタクト膜5と、オーミックコンタクト膜5を介して半導体膜4と接続するソース電極6とドレイン電極7と、ソース電極6とドレイン電極7とがゲート電極2上で間隔をもって隔てられた個所であるチャネル部8とからなるTFT9が示されている。
【0018】
TFT9の上層には、層間絶縁膜10、および表面を平坦化するために有機樹脂からなる平坦化膜11が形成されている。平坦化膜11上にはAlに少なくとも8族3d遷移金属、またはNから選ばれる1種以上を不純物として含むAl合金単層膜からなるアノード13が形成されており、アノード13は平坦化膜11と第1の層間絶縁膜10とに設けられているコンタクトホール12を介して下層のドレイン電極7と電気的に接続されている。アノード13上の一部を開口してアノード13と平坦化膜11とを覆っているのは分離膜14であり、分離膜14は隣接する画素(図示せず)間を分離するために画素周囲に額縁のように土手状に形成されており、その開口されている領域である画素表示領域15にあってアノード13上に形成されているのが有機EL材料からなる電界発光層16である。
【0019】
電界発光層16は、アノード13の直上に、ホール輸送層16a、有機EL層16b、電子輸送層16cの順に形成された積層膜で構成される。なお、電界発光層16は、さらにホール輸送層16aとアノード13との間に挟まれるホール注入層(図示せず)や、電子輸送層16cの直上に電子注入層(図示せず)を形成した四層または五層からなる積層膜で構成してもよい。
【0020】
分離膜14、電界発光層16を覆うように形成されているのはカソード17、封止層18である。カソード17はITO等の透明性導電膜で形成される。封止層18は電界発光層16を水分や不純物等から遮断するために形成されるものであり、封止層18の上には絶縁性基板1と対向するように対向基板19が形成されている。
【0021】
図1、図2に示す有機電界発光型表示装置においては、ソース電極6から伝わる信号電圧がドレイン電極7を介してアノード13に印加され、カソード17との間の電位差により電界発光層16に電流が流れて有機EL層16bが発光することによって表示に必要な光を得ることができる。本発明の実施の形態1においては、アノード13が光反射率の高いAlに少なくとも8族3d遷移金属であるFe、Co、Niから選ばれる1種類以上を不純物として含むとともに、その組成比率を1at%以上15at%以下となるように規定した。このため有機EL素子から発生する光の反射率を高めることができると同時に、電界発光層16へのホール注入効率を高めることができるので、発光効率が高く明るい表示画像を有する有機電界発光型表示装置を得ることが可能となる。
【0022】
次にTFT基板の製造方法について、図3を参照して詳細に説明を行う。図3は本発明に係る電界発光型表示装置を構成するTFT基板とその上部に形成される有機EL素子の製造方法について説明するための断面図である。
【0023】
まず、絶縁性基板1上に第1の金属薄膜としてCrなどをスパッタリング法を用いて200nmの厚さで成膜し、写真製版工程により少なくともゲート電極2を形成する(図3(A))。図示しないが、このとき同時にゲート配線や前記ゲート配線の端部のゲート端子や保持容量の下部電極などを形成しても良い。
【0024】
次に、CVD法を用いてゲート絶縁膜3としてSiNを400nm、半導体膜4としてa−Siを150nm、オーミックコンタクト膜5としてn+−a−Siを30nmの厚さで順次成膜して、写真製版工程により、半導体膜4、オーミックコンタクト膜5を形成する(図3(B))。
【0025】
次に、第2の金属薄膜としてCrなどをスパッタリング法を用いて200nmの厚さで成膜し、写真製版工程により、ソース電極6、ドレイン電極7、およびこれらの間のオーミックコンタクト膜5を除去してTFTのチャネル部8を形成する。以上までの工程によりスイッチング素子としてのTFT9が構成される(図3(C))。
【0026】
次に、第1の層間絶縁膜10としてCVD法を用いてSiNを100nmの膜厚で成膜する。続いて、平坦化膜11として例えばアクリル系の感光性樹脂膜であるJSR製の製品名PC335を約2μmの膜厚となるようにスピンコート法を用いて塗布形成し、写真製版工程を用いて、ドレイン電極7上方の平坦化膜11に穴を形成した後、穴底に露出している第1の層間絶縁膜10をドライエッチング等のエッチングにより除去することによりドレイン電極7まで達するコンタクトホール12を形成する(図3(D))。
【0027】
次に、アノード13として、AlにNiを添加したターゲットを用いたスパッタリング法により、AlにNiを不純物として2at%含むAlNi合金膜を100nmの厚さで成膜した。この時のAlNi合金膜の仕事関数は4.2eVであり、アノードとして要求される4.0eV以上を満たす値であった。その後に写真製版工程により、フォトレジスト膜を所定の形状にパターニングし、従来公知のAl系エッチング液である燐酸+硝酸+酢酸を含む薬液を用いてエッチングを行うことにより、コンタクトホール12を介してドレイン電極7と接続するアノード13を形成する(図3(E))。
【0028】
ここでは、Alに不純物としてNiを添加したが、Niに限定されず、他の8族3d遷移金属であるFe、Coのいずれかを1種以上添加していてもよい。Alに8族3d遷移金属を1種以上添加することにより、仕事関数値を増加させることができるので、ホール注入効率の低下を防止できる。その添加量は1at%以上であり、かつ15at%以下にすることが望ましい。図4は本実施の形態に係るAlにNiを添加したときの仕事関数値の変化を示したものである。図4からわかるように、1at%以上添加することにより、Al合金膜の仕事関数値を4.0eV以上にすることができ、従来の純Al膜やAl合金膜(3.5〜3.8eV)の値よりも高くする事が出来る。なお仕事関数値はNiの添加量が3at%に達した時点でほぼ飽和して約4.3eVとなる。一方、波長550nmにおけるAl合金膜の光反射率のNi組成依存性を示した図5からわかるように、Niの添加量が15at%を超える場合、光反射率がCrやMoの光反射率の60〜67%と同等もしくは同等よりも低下することになり、光反射率の高いAl合金膜を採用するという利点が損なわれるため好ましくない。
【0029】
本実施の形態1においては、AlへのNiの添加量を1at%以上15at%以下とすることで、仕事関数値が高く、かつCrやMoよりも高い光反射率を有するAl合金膜からなるアノードを得ることができるので、ホール注入効率の増大による発光強度の増大と発光を反射させる効率の増大とにより、より明るい表示画像を得られるという効果を奏する。さらに、本実施の形態においては、アノード13としてAl合金膜の上層に透明導電膜を形成する必要が無いので工程を簡略化でき、コストを低減することができるという効果も奏する。
【0030】
8族に属する元素で最外殻電子が3d軌道ではない原子番号の大きい元素、例えばパラジウム(Pd)や白金(Pt)をAlに添加した場合でも同様に仕事関数値を大きくすることが可能である。しかしながら、これらの元素をAlに添加した場合には、アルカリ系の薬液に対する耐性が著しく低下するという問題がある。具体的には、本実施の形態においてこれらのAl合金をアノード13として適用しようとする場合、写真製版においてフォトレジストを所望のパターンに形成するときの有機アルカリ系現像液によってAl合金膜が激しく腐食するため、きれいなアノード13のパターンが形成できないという問題が生じてしまう。さらにこれらのAl合金は、従来公知のAl系エッチング液である燐酸+硝酸+酢酸を含む薬液では、Pd化合物またはPt化合物によるエッチング残を発生させてしまうという問題がある。以上により、本実施の形態においては、AlPd系、AlPt系合金膜の適用は好ましくはない。
【0031】
なお、Alに添加する不純物としては、上記8族3d遷移金属以外のものであってもよく、N原子でもよい。例えば、純Al膜またはAl合金膜であるAl膜をスパッタリング法で成膜する際に、Ar等のスパッタリングガスに窒素を含むガス、例えば窒素ガスやNH3ガス等を添加することにより、N原子をAl膜に添加することができる。また別の方法としては、あらかじめ窒素を添加したAlN合金のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングして成膜してもよい。その添加量は1.5at%以上であり、かつ26at%以下にすることが望ましい。
【0032】
図6はAlにNを添加した場合の仕事関数値を示すものである。N原子を1.5at%以上添加することにより、Al膜の仕事関数を従来の純AlやAl合金の仕事関数(3.5〜3.8eV)より高くすることができる。仕事関数値はN原子の組成比が26at%付近でピーク値(6.0eV)をとり、その後はN原子の組成比の増加にともなって低下する振舞いを示す。これは、Nの添加の増大とともにAl膜の比抵抗値が増加していき、26at%を境にして導体から半導体へと特性がシフトし、これ以上のN原子の組成比では半導体としての特性が支配的となるためだと考えられる。
【0033】
これに加えて、波長550nmにおけるAl膜の光反射率のN原子の組成依存性を示す図7からわかるようにN原子の組成比率が26at%を超える場合、光反射率の値がCrやMoの値(約60〜70%:波長550nm)と同等もしくは同等よりも低下することがわかる。したがってN原子の組成比は26at%を超えないことが好ましい。本実施の形態においては、AlへのNの添加量を1.5at%以上26at%以下とすることで、仕事関数値が高く、かつCrやMoよりも高い光反射率を有するAl合金膜からなるアノードを得ることができるので、ホール注入効率の増大による発光強度の増大と発光の反射効率の増大とにより、より明るい表示画像を得られるという効果を奏する。
【0034】
さらに、AlにN原子を添加した合金膜の場合には、上記8族3d遷移金属元素を添加した合金膜に比べて添加量を大きくとることが可能となるので、仕事関数値をより高くすることができるので好ましい。仕事関数値はNの添加量を変えることで任意に制御することができる。例えばN原子の組成比率を5at%にすれば、上記8族3d遷移金属元素を添加した合金膜の仕事関数値4.3eV以上とすることができ、かつ最大の26at%まで増やした場合には仕事関数値を6.0eVまで引き上げることが可能となる。添加するNの量は、適用するデバイスに求められる規格値に準じて設定すればよい。
【0035】
また、AlにN原子を添加する領域としては、Al合金膜全体よりも、有機EL層とアノードとの界面部がのぞましい。この場合、Al合金膜の単層膜ではあるが、主にその表面部にN原子が添加されていることになるので、Al合金膜の良好な導電性と、有機EL層へのホール注入での高い効率とを得ることができる。また、Al合金膜の表面部におけるN原子の組成比率は、前述した通り、1.5at%以上26at%以下であることがのぞましい。このような構成にするには、例えば、アノードとなるAl合金膜をスパッタリング法により成膜する際に、Al合金膜表面部の成膜にさしかかったときに、Ar等のスパッタリングガスに窒素ガスを添加すればよく、窒素ガスの流量を徐々に増やしても良い。あるいは、アノードとなるAl合金膜をArガスを用いたスパッタリング法で成膜した後に、Al合金膜の表面からNイオンを注入するか、または表面をN2プラズマ照射してもよい。さらに、AlにNとNiとを添加したAl合金膜においても同様の効果を得ることができる。
【0036】
またここでは、Al合金膜の膜厚を100nmとしたが、10nm以上200nm以下であれば良い。図8は、本実施例に適用できる一般的なAl合金膜の波長550nmにおける反射率と透過率の膜厚依存性の結果を示したものである。膜厚が10nmよりも薄い場合、薄膜を透過する光の成分が急激に多くなり、光反射率がCrやMoの光反射率の60〜70%と同等もしくは同等よりも低下することになり、反射率の高いAl合金膜を採用するという利点が損なわれるため好ましくない。また、膜厚が厚くなると、グレインサイズが大きく表面凹凸が荒くなり、有機EL表示装置のアノードとして用いる場合には陰極電極とのショートモード故障等の要因となる。表面平滑性の指針としては平均表面粗さRaを1.0nm以下とするのが好ましく、この点からAl合金膜の膜厚としては200nm以下とするのが好ましい。本実施の形態においては、Al合金の膜厚を10nm以上200nm以下にすることで、光反射率が高く、かつ平均表面粗さRaを1.0nm以下としたAl合金膜からなるアノードを得ることができるので、明るいうえに陰極電極とのショートモード故障が少ない表示装置を得ることができる。
【0037】
また、N原子を不純物として含んだAl膜を用いた場合も、前記Al合金膜の場合と同様の理由から、10nm以上200nm以下の膜厚にすることが望ましい。
【0038】
なおアノード13は、上記Al合金膜に更なる添加元素としてCu、Si、Nd、Y、Hfの少なくともいずれか一つを含むAl合金膜としてもよい。これにより、結晶粒成長が抑制されるのでアノード表面の凹凸を少なくすることができる。したがって、アノード13の表面の凹凸が大きい場合に問題となるカソード17との電気的短絡やダークスポットのような表示不良の要因を抑制することができ、発光表示品質をさらに高めることができるので好ましい。
【0039】
以上のように本発明の実施の形態においては、アノード13を、高い光反射率と高い仕事関数値を兼ね備えるAl合金膜を単層膜で形成するようにしたので、エッチングによるパターン加工が容易であり、またパターンエッヂ部の断面形状も庇のような形状にはならず、概略直線状、または順テーパー形状にすることが可能である。また、本実施の形態においては、Alに添加する元素として8族に属する元素で最外殻電子が3d軌道ではない原子番号の大きい元素、例えばパラジウム(Pd)や白金(Pt)を使用しないため、エッチング時にエッチング残渣物が発生するようなこともなかった。
【0040】
次に、各画素ごとに分離された画素表示領域15上に電界発光層16を形成するために、ポリイミド等からなる有機樹脂膜を塗布形成し、写真製版工程により、それぞれの画素領域を取り囲むように隣接する画素間に土手状の凸部となるように額縁形状の分離膜14を形成する。これにより、分離膜14が無くアノード13が露出する領域であって画素表示領域15に相当する領域も同時に形成される。分離膜14を形成する有機樹脂膜は、有機EL層の特性や信頼性に悪影響を及ぼす吸着水分の少ないポリイミド系の材料を用いるのが望ましい。本実施例では東レ製の製品名DL100を約2μmの膜厚で塗布し、写真製版工程により分離膜14を形成した(図9(A))。
【0041】
次に、蒸着等の方法を用いて電界発光層16となる有機EL材料を画素表示領域15に形成する。本実施例では、電界発光層16として、ホール輸送層16a、有機EL層16b、電子輸送層16cをこの順に積層して形成した。ホール輸送層16aとしては公知のトリアリールアミン類、芳香族ヒドラゾン類、芳香族置換ピラゾリン類、スチルベン類等の有機系材料から幅広く選択することができ、例えばN,N−ジフェニル−N,N−ビス(3−メチルフェニル)−1,1‘−ジフェニル−4,4’ジアミン(TPD)等を1〜200nmの膜厚で形成する。有機EL層16bとしては公知のジシアノメチレンピラン誘導体(赤色発光)、クマリン系(緑色発光)、キナクリドン系(緑色発光)、テトラフェニルブタジエン系(青色発光)、ジスチリルベンゼン系(青色発光)等の材料を1〜200nmの厚さで形成する。電子輸送層16cとしては公知のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、クマリン誘導体等から選ばれる材料を0.1〜200nmの膜厚で形成する(図9(B))。
【0042】
上記の実施例では電界発光層16をホール輸送層16a、有機EL層16b、電子輸送層16cを順次積層した構成としたが、さらに電界発光層16の発光効率を上げるために、ホール輸送層をさらにホール注入層とホール輸送層の二層に、また電子輸送層をさらに電子輸送層と電子注入層の二層にした構成としてもよい。
【0043】
次に、カソード17として、透明導電膜からなるITO膜をスパッタリング法を用いて100nmの厚さで形成する(図9(C))。カソード17は膜表面が高い平坦性を有することが好ましい。したがって、膜組織に結晶粒界がない非晶質のITO膜を形成することが好ましい。非晶質のITO膜は、例えばArガスにH2Oガスを混合させたガス中でのスパッタリングにより形成することができる。また、酸化インジウムと酸化亜鉛(ZnO)を混合させたIZO膜、あるいはITO膜に酸化亜鉛を混合させたITZO膜を用いることも可能である。
【0044】
最後に、水分や不純物による表示装置の発光特性の劣化を防止するために、劣化しやすい電界発光層16を備えた画素全てを覆うようにして、Arのような不活性ガスまたはN2ガス等で置換した上で、接着材等で封止層18を形成する。さらに封止層18の上には絶縁性基板1と対向するように対向基板19が形成され、本発明の実施の形態1に係る有機電界発光型表示装置が完成する(図9(D))。封止層18は、例えば透明なガラス等を用い、表示装置の外周部分にシール剤を形成し、圧着することにより形成することができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態においては、画素を駆動するスイッチング素子となるTFT9の半導体膜4として、非晶質シリコン(a−Si)膜を用いたが、これに限らず多結晶シリコン(p−Si)膜を用いてもよい。またTFTの構造もボトムゲートの逆スタッガード型に限らず、トップゲート型の構造でもよい。さらに、表示装置の周辺に表示用信号を駆動するための駆動用IC回路を同時に形成した構成としてもよい。本発明の実施の形態のようなトップエミッション型の有機電界発光型表示装置の場合は、光がTFT基板側に放射することがないので、画素表示領域15のアノード13の下層部にこれらの駆動用IC回路パターンを形成することが可能となるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電界発光型表示装置を示す平面図である。
【図2】本発明の電界発光型表示装置を示す断面図である。
【図3】本発明の電界発光型表示装置の製造方法について説明するための断面工程図である。
【図4】Al−Ni膜の仕事関数値のNi組成依存性を示す図である。
【図5】Al−Ni膜の反射率のNi組成依存性を示す図である。
【図6】AlN膜の仕事関数値のN組成依存性を示す図である。
【図7】Al−N膜の反射率のN組成依存性を示す図である。
【図8】Al膜の反射率および透過率と膜厚の関係を示す図である。
【図9】本発明の電界発光型表示装置の製造方法について説明するための断面工程図である。
【符号の説明】
【0047】
1:絶縁性基板、2:ゲート電極、3:ゲート絶縁膜 4:半導体膜、
5:オーミックコンタクト膜、6:ソース電極、7:ドレイン電極、
8:TFTのチャネル部、9:TFT、10:層間絶縁膜、11:平坦化膜、
12:ドレイン−アノード間コンタクトホール、13:アノード、14:分離膜、
15:画素表示領域、16:電界発光層、16a:ホール輸送層、16b:有機EL層、16c:電子輸送層、17:カソード、18:封止層、19:対向基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜トランジスタ(TFT)と、有機樹脂からなる平坦化膜と、該平坦化膜の上に少なくともアノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子とが基板上の表示領域の各画素に形成されているとともに、前記アノードはアルミニウム(Al)に少なくとも8族3d遷移金属の1種以上を不純物として添加したAl合金膜の単層膜で構成したことを特徴とするトップエミッション型の有機電界発光型表示装置。
【請求項2】
前記アノードのAl合金膜に添加されている8族3d遷移金属の組成比率が1at%以上15at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項3】
基板上に薄膜トランジスタ(TFT)と、有機樹脂からなる平坦化膜と、該平坦化膜の上に少なくともアノード、電界発光層そしてカソードがこの順に積層された有機EL素子とが基板上の表示領域の各画素に形成されているとともに、前記アノードはAlに少なくとも窒素(N)原子を不純物として添加したAl合金膜の単層膜で構成したことを特徴とするトップエミッション型の有機電界発光型表示装置。
【請求項4】
前記アノードのAl合金膜に添加されているN原子の組成比率が1.5at%以上26at%以下であることを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項5】
前記アノードのAl合金膜に、さらにSi、Cu、Y、Nd、およびHfから選ばれる少なくとも1種以上が不純物として添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。
【請求項6】
前記アノードのAl合金膜の膜厚が10nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機電界発光型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−331864(P2006−331864A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153938(P2005−153938)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】