説明

有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物及び表示装置

【課題】隔壁で仕切られた領域に塗布法により有機層が形成された有機EL表示装置において、発光効率が高く、また、素子寿命に優れた有機EL素子を得るための隔壁用感光性組成物、およびこの隔壁用感光性組成物を用いて形成された隔壁を有する有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、アルカリ可溶性バインダー、撥液剤、および界面活性剤を含有し、有機電界発光素子の有機層を区画する撥液性隔壁を形成するために用いられる隔壁用感光性組成物であって、光重合開始剤がオキシムエステル系化合物であることを特徴とする、有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物、及び、基板上に、直接または他の層を介して撥液性隔壁を有し、該隔壁によって区画された領域内に有機層を有する有機電界発光表示装置において、該隔壁がこの隔壁用感光性組成物を用いて形成されたことを特徴とする有機電界発光表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子の有機層を区画する撥液性隔壁を形成するために用いられる隔壁用感光性組成物、該隔壁用感光性組成物を用いて形成される撥液性隔壁、該隔壁によって区画された領域内に有機層を有する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型で且つ消費電力の少ない有機電界発光(以下、「有機EL」と称することがある。)表示装置を大画面テレビに利用する技術が実用化され、急速にその市場が立ち上がろうとしている。
従来の有機EL表示装置は、赤、青、緑の発光材料を、マスクを介して蒸着することにより、3色有機発光層の画素マトリクスを形成するため、ブラウン管を用いたテレビに比べ、大面積化が困難であり、コストも高かった。
【0003】
この様な蒸着により、発光層を形成する方法に対して、直交する二層の櫛型電極に挟まれた層構成を有し、櫛型電極の交差部で有機EL素子をオン/オフさせるパッシブ有機EL素子の製造が提案された。
この様な有機EL素子の製造に関して、基板上の陽極或いはその上にある正孔注入・輸送層上に、所定間隔で紫外線硬化性組成物を用いて逆テーパ状隔壁を形成し、該隔壁で区切られた領域内に、赤、青、緑の発光材料をインクジェット、ナノプリント、平版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷等により局所的に塗布し、赤、青、緑の有機発光層の画素マトリクスを形成させた後、隔壁の上から陰極を蒸着し、隔壁によって陰極を分割して櫛型に形成する方法が提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
又、パッシブ有機EL素子は、発光のスイッチング速度が遅く、更に櫛型電極の長さが長くなったり、ディスブレイの高解像化のために電極の幅が細くなったりすることにより、発光画面内に均一に電流を流すことが非常に困難であった。そのため、パッシブ有機EL素子は、単純な低解像度のカラー文字表示用などに用途が限定されていた。
一方、ディスプレイ市場では、色再現性に優れた有機EL素子を用いたテレビ、テレビ機能を有する携帯電話など、大型画面、高解像、高速動画特性などが必要とされるようになった。平面陰極と微小マトリクス型陽極に挟まれ、基板上の陽極或いはその上にある正孔注入・輸送層上に、所定間隔で紫外線硬化性組成物を用いて順テーパ状隔壁を形成し、該隔壁で区切られた領域内に、パッシブ有機EL素子と同様の塗布法にて画素マトリクスを形成し、更にその画素マトリクスのそれぞれに設けたTFTにより、各画素マトリクスの微小素子をオン/オフさせるアクティブ有機EL素子が注目され始めた。
【0005】
上記パッシブ有機EL素子及びアクティブ有機EL素子における隔壁は、通常、紫外線硬化性樹脂等を含有する組成物を、基板上或いは基板上の正孔注入・輸送層上に塗布し、画素マトリクスを形成するためのマスキングを行った後、フォトリソグラフィー法により形成される。しかし、隔壁形成時の加熱乾燥処理或いは加熱硬化処理等において、アウトガスが発生するという技術的課題があった。発生したアウトガスが有機EL層や電極表面に付着し、その結果、電荷輸送層の輸送速度が低下したり、発光層中に励起された発光材料の失活が起きたりする恐れがあり、ひいては、長期の駆動による素子の発熱によって素子寿命が低下する可能性もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−235128号公報
【特許文献2】特開2005−166645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、隔壁で仕切られた領域内に塗布法にて有機層が形成された表示装置であって、発光効率が高く、且つ素子の駆動寿命に優れた有機EL素子を得るための隔壁用感光性組成物、及び該隔壁用感光性組成物を用いて形成された隔壁を有する表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の要旨は、以下(1)〜(7)に存する。(1)(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性バインダー、(D)撥液剤、及び(E)界面活性剤を含有し、
(B)光重合開始剤が下記一般式(II)で表わされる(ケト)オキシムエステル系化合物であり、
且つ(D)撥液剤がフッ素系化合物であり、
(E)界面活性剤がシリコン系界面活性剤であることを特徴とする有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(II)中、
Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していてもよい−(CH=CH)−あるいは−(C≡C)−(但し、mは1〜5の整数を表す。)を含む基、又はこれらの組合せからなる2価の基であり、
は、置換基を有していてもよい芳香族基を含む1価の基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアルキルチオアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルケニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルケニルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキニルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールチオカルボニル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールチオカルボニル基、−O−N=C(R' )R''、−O−N=C(R' )COR''、−N(R' )OR''、−N(OR' )COR''、又は−N(OCOR' )COR''(但し、R'、及びR''は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、又は
置換基を有していてもよいアリール基を表す。)であり、
は、置換基を有していてもよいアルカノイル基、置換基を有していてもよいアルケノイル基、置換基を有していてもよいアルキノイル基、置換基を有していてもよいシクロアルカノイル基、置換基を有していてもよいアリーロイル基、置換基を有していてもよいヘテロアリーロイル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基であり、
nは0又は1である。)
(2)前記一般式(II)におけるRが下記一般式(IIа)で表される基であることを特徴とする前記(1)に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(IIa)中、
〜Rは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜12のアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜12のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜20のアルコキシカルボニルアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が6〜20のフェニル基、置換基を有していてもよい炭素数が7〜20のベンジル基、置換基を有していてもよい炭素数が7〜20のベンゾイル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のフェノキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のフェノキシカルボニルアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜20のヘテロアリーロイル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のヘテロアリールオキシカルボニルアルカノイル基、−SR101 、−SOR101、−SO10
、又は−NR101102(但し、R101及びR102は各々独立して、水素原
子、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜12のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜8のアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が6〜20のアリール基、又は炭素数が3〜15のトリアルキルシリル基を表す。)であり、
〜Rの少なくとも一つは、−SR101又は−NR101102である。
【0013】
尚、R〜Rは、複数の置換基同士が結合して、更に置換基を有していてもよい、飽和或いは不飽和芳香族環を形成していてもよい。)
(3)前記一般式(II)におけるRが、置換基を有していてもよいカルバゾリル基を含む1価の基であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
(4)前記一般式(II)において、n=1であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
(5)(D)撥液剤が、側鎖にエチレン性不飽和基を有するフッ素系化合物であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
(6)基板上に、直接又は他の層を介して撥液性隔壁を有し、該撥液性隔壁によって区画された領域内に有機層を有する表示装置であって、該撥液性隔壁が前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物を用いて形成されることを特徴とする表示装置。
(7)撥液性隔壁によって区画された領域内に有する有機層が、発光層であることを特徴とする前記(6)に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、隔壁で仕切られた領域内に塗布法にて有機層が形成された表示装置であって、発光効率が高く、且つ素子の駆動寿命に優れた有機EL素子を得るための隔壁用感光性組成物、及び該隔壁用感光性組成物を用いて形成された隔壁を有する表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の有機電界発光素子の一例を示した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容によって限定されるものではない。
尚、本発明において、「(ケト)オキシムエステル」とは、「オキシムエステル」と「ケトオキシムエステル」の両方を意味する。
「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の両方を意味し、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」なども同様である。
【0017】
モノマー名の前に「(ポリ)」とつけたものは、該「モノマー」と、その「ポリマー」の両方を意味し、「酸(無水物)」もしくは「(無水)・・・酸」とは、「酸」とその「酸無水物」の両方を意味する。
「アクリロイル(オキシ)」とは、「アクリロイル」及び「アクリロイルオキシ」の両方を意味し、「メタクリロイル(オキシ)」についても同様である。
【0018】
「(共)重合」とは「重合」と「共重合」の両方を意味する。
又、本発明において、「全固形分」とは、組成物の構成成分のうち、溶剤を除くすべての成分を意味する。
更に、本発明において、各種樹脂の分子量は、特記しない限り、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)である。尚、数平均分子量(Mn)で表されるものについても、GPCで測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0019】
[1]隔壁用感光性組成物
本発明の有機EL素子の隔壁用感光性組成物(以下、「隔壁組成物」もしくは「感光性組成物」と称することがある。)は、有機EL素子の有機層を区画する撥液性隔壁を形成するために用いられるものであり、(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性バインダー、(D)撥液剤、及び(E)界面活性剤を含有し、(B)光重合開始剤が後述する一般式(II)で表わされる(ケト)オキシムエステル系化合物であり、且つ(D)撥液剤がフッ素系化合物であり、(E)界面活性剤がシリコン系界面活性剤であることを特徴としている。
【0020】
本発明において、有機EL素子の有機層を区画する撥液性隔壁とは、表示装置における有機EL素子の画素の塗り分けのために形成されるものであり、区画された領域内に三原色それぞれのインクを吐出、乾燥することで画素を形成させていくために使用されるものである。
又、本発明において、本発明の隔壁組成物を塗布する基板は、通常の有機EL素子に使用可能なものであればよく、例えば、後述する有機電界発光素子の基板等が挙げられる。これらの基板に、更に電極、正孔注入層や正孔輸送層等の有機層等が形成されたものを基板とし、本発明の隔壁組成物を塗布してもよい。
【0021】
本発明の隔壁組成物を構成する各成分について以下に説明する。
本発明の隔壁組成物は、少なくとも、(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性バインダー、(D)撥液剤、及び(E)界面活性剤を含有し、更に溶剤を含有していてもよい。
又、本発明の隔壁組成物は、撥液性隔壁を形成するために用いられるため、撥液剤を含有することが必須であるが、前記(A)〜(C)が、撥液剤として作用を示すものであってもよい。
【0022】
[1−1](A)エチレン性不飽和化合物
本発明の隔壁組成物は、エチレン性不飽和化合物を含有する。
ここでいうエチレン性不飽和化合物とは、エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物を意味するが、重合性、架橋性、及びそれに伴う露光部と非露光部の現像液溶解性の差異を拡大できる点から、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましい。又、その不飽和結合は(メタ)アクリロイルオキシ基に由来する(メタ)アクリレート化合物が更に好ましい。
【0023】
以下に本発明の隔壁組成物に好適に使用されるエチレン性不飽和化合物について説明するが、本発明に使用されるエチレン性不飽和化合物はこれらに限定されるものではない。
エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
【0024】
エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物としては、代表的には、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類、および、(メタ)アクリル酸またはヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0025】
[1−1−a]エステル類
不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類としては、具体的には以下の
化合物等が挙げられる。
不飽和カルボン酸と多価アルコールとの反応物;多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(付加数2〜14)、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(付加数2〜14)、トリメチレングリコール、テトラメチレグリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0026】
不飽和カルボン酸と多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物との反応物;多価アルコールは上記と同じ。アルキレンオキサイド付加物としては、エチレンオキサイド付加物、またはプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
不飽和カルボン酸とアルコールアミン類との反応物;アルコールアミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0027】
具体的な不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加トリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールプロピレンオキサイド付加トリ
(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等、および同様のクロトネート、イソクロトネート、マレエート、イタコネート、シトラコネートなどが挙げられる。
【0028】
その他、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類としては、不飽和カルボン酸と、ヒドロキノン、レゾルシン、ピロガロール、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物、或いはそれらのエチレンオキサイド付加物との反応物が挙げられる。具体的には、例えば、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAビス〔オキシエチレン(メタ)アクリレート〕、ビスフェノールAビス〔グリシジルエーテル(メタ)アクリレート〕など、また、前記の如き不飽和カルボン酸と、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの複素環式ポリヒドロキシ化合物との反応物、例えば、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレートなど、また、不飽和カルボン酸と多価カルボン酸とポリヒドロキシ化合物との反応物、例えば、(メタ)アクリル酸とフタル酸とエチレングリコールとの縮合物、(メタ)アクリル酸とマレイン酸とジエチレングリコールとの縮合物、(メタ)アクリル酸とテレフタル酸とペンタエリスリトールとの縮合物、(メタ)アクリル酸とアジピン酸とブタンジオールとグリセリンとの縮合物などが挙げられる。
【0029】
[1−1−b](メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類
(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類としては、下記一般式(Ia)、(Ib)、又は(Ic)で表されるものが好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
(一般式(Ia)、(Ib)、及び(Ic)中、R10は水素原子又はメチル基を示し、p及びrは1〜25の整数、qは1〜3のいずれかの整数である。)
ここで、pおよびrは1〜10、特に1〜4であるのが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチレングリコールホスフェートなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用しても混合物として使用してもよい。
【0032】
[1−1−c]ウレタン(メタ)アクリレート類
ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類としては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロ
キシエチル(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタントリ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物と、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン等の脂肪族ポリイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートなどの芳香族ポリイソシアネート、イソシアヌレートなどの複素環式ポリイソシアネート、などのポリイソシアネート化合物との反応物などが挙げられる。
【0033】
このようなウレタン(メタ)アクリレート類としては、例えば、新中村化学社製商品名「U−4HA」、「UA−306A」、「UA−MC340H」、「UA−MC340H」、「U6LPA」などが挙げられる。
これらの中でも、ウレタン(メタ)アクリレート類としては、1分子中に4個以上のウレタン結合〔−NH−CO−O−〕および4個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましく、該化合物は、例えば、ペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどの1分子中に4個以上の水酸基を有する化合物に、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を反応させて得られた化合物(i−1)、或いは、エチレングリコールなどの1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物に、旭化成工業社製「デュラネート24A−100」、同「デュラネート22A−75PX」、同「デュラネート21S−75E」、同「デュラネート18H−70B」などのビウレットタイプ、同「デュラネートP−301−75E」、同「デュラネートE−402−90T」、同「デュラネートE−405−80T」などのアダクトタイプなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する化合物を反応させて得られた化合物(i−2)、或いは、イソシアネートエチル(メタ)アクリレートなどを重合若しくは共重合させて得られた化合物(i−3)などの、1分子中に4個以上、好ましくは6個以上のイソシアネート基を有する化合物など、例えば、旭化成工業社製「デュラネートME20−100」(i)と、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の、1分子中に1個以上の水酸基および2個以上、好ましくは3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii)とを、反応させることにより得ることができる。
【0034】
[1−1−d]エポキシ(メタ)アクリレート類
(メタ)アクリル酸またはヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類としては、例えば、(メタ)アクリル酸、または前記の如きヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物と、(ポリ)エチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)テトラメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ペンタメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ヘキサメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ソルビトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族ポリエポキシ化合物、フェノールノボラックポリエポキシ化合物、ブロム化フェノールノボラックポリエポキシ化合物、(o−,m−,p−)クレゾールノボラックポリエポキシ化合物、ビスフェノールAポリエポキシ化合物、ビスフェノールFポリエポキシ化合物などの芳香族ポリエポキシ化合物、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの複素環式ポリエポキシ化合物、などのポリエポキシ化合物との反応物などが挙げられる。
【0035】
[1−1−e]その他のエチレン性不飽和化合物
その他のエチレン性不飽和化合物として、前記以外に、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルフォルムアミドなどのビニルアミド類、フタル酸ジアリルなどのアリルエステル類、ジビニルフタレートなどのビニル基含有化合物類、エーテル結合含有エチレン性不飽和化合物のエーテル結合を5硫化燐などにより硫化してチオエーテル結合に変えることにより架橋速度を向上せしめたチオエーテル結合含有化合物類、および、例えば、特開平5−287215号公報および特開平9−100111号公報などに記載の、多官能(メタ)アクリレート化合物と、粒子径5〜30nmのシリカゾル〔例えば、イソプロパノール分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「IPA−ST」)、メチルエチルケトン分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「MEK−ST」)、メチルイソブチルケトン分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「MIBK−ST」)など〕とを、イソシアネート基或いはメルカプト基含有シランカップリング剤を用いて結合させた化合物などの、エチレン性不飽和化合物にシランカップリング剤を介してシリカゾルを反応させ結合させることにより硬化物としての強度や耐熱性を向上せしめた化合物類、などが挙げられる。
【0036】
以上のエチレン性不飽和化合物は、それぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。本発明において、エチレン性不飽和化合物としては、分子量が100〜1,000、好ましくは150〜700で、炭素数が7〜50、好ましくは10〜40で、2〜6個の官能基を有する、エステル(メタ)アクリレート類、エポキシ(メタ)アクリレート類、およびウレタン(メタ)アクリレート類が、感度、撥液性に優れ好ましく、中でも、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなど5官能以上のエステル(メタ)アクリレート類が、また、2〜6個の官能基を有する脂肪族ポリイソシアネートや脂環式ポリイソシアネートのウレタン(メタ)アクリレート類、例えば、新中村化学社製「U−4HA」、「UA−306A」、「UA−MC340H」、「UL6LPA」等が、また、エステル(メタ)アクリレート類にさらに1〜2個のカルボン酸を導入して現像性を改良したもの、例えば、無水琥珀酸ペンタエリスリトールトリアクリレート縮合体や、ベンゼン環を主骨格に有し、2〜6個の(メタ)アクリレートを付加したもの、例えば、大阪ガスケミカル社製「オグゾールEA−200」、ナガセケムテックス社製「エポキシアクリレートモノマーDA721」等が、感度、撥液性、アウトガスの発生抑制の面から好ましい。また、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類、例えば、日本化薬社製「カヤマーPM−21」等のカプロラクトン変性メタアクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートは、基板近傍の塗布膜の現像性に優れ好ましい。
【0037】
本発明の隔壁組成物中のエチレン性不飽和化合物の含有割合は、溶剤を除く全固形分に対して通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。感光性組成物中のエチレン性不飽和化合物の含有量が、この下限を下回ると、露光時に感度が低下するおそれがあり、上限を上回るとアウトガスが過度に発生する恐れがある。
【0038】
又、エチレン性不飽和化合物は、感光性組成物に含有される(C)アルカリ可溶性バインダーに対して、重量比で、通常0.15以上、好ましくは0.3以上で、通常1.5以下、好ましくは1.3以下の割合で含有されることが好ましい。アルカリ可溶性バインダーに対するエチレン性不飽和化合物の含有割合が多過ぎるとアウトガスが過度に発生しやすくなり、少な過ぎると露光時に感度が低下したり、現像性が低下する場合がある。
【0039】
[1−2](B)光重合開始剤
本発明の隔壁組成物は、(B)光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は、活性光線により、前記(A)エチレン性不飽和化合物が有するエチレン性不飽和基を重合させる化合物であれば特に限定されるものではないが、アウトガスの発生を抑え、発光効率が高く、且つ素子の駆動寿命に優れた有機EL素子を得るため、下記一般式(II)で表わされる(ケト)オキシムエステル系化合物を含有することが必須である。
【0040】
【化4】

【0041】
(一般式(II)中、
Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していてもよい−(CH=CH)−あるいは−(C≡C)−(但し、mは1〜5の整数を表す。)を含む基、又はこれらの組合せからなる2価の基であり、
は、置換基を有していてもよい芳香族基を含む1価の基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアルキルチオアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルケニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルケニルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキニルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールチオカルボニル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールチオカルボニル基、−O−N=C(R' )R''、−O−N=C(R' )COR''、−N(R' )OR''、−N(OR' )COR''、又は−N(OCOR' )COR''(但し、R'、及びR''は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、又は
置換基を有していてもよいアリール基を表す。)であり、
は、置換基を有していてもよいアルカノイル基、置換基を有していてもよいアルケノイル基、置換基を有していてもよいアルキノイル基、置換基を有していてもよいシクロアルカノイル基、置換基を有していてもよいアリーロイル基、置換基を有していてもよいヘテロアリーロイル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基であり、
nは0又は1である。)
一般式(II)において、Xが、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基である場合、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、又は以下の基等が挙げられる。
【0042】
【化5】

【0043】
又、Xが、置換基を有していてもよい−(CH=CH)−(但し、mは1〜5の整数を表す。)を含む基である場合、mは1〜3であることが好ましく、例えば、エチニレン基以外、以下の基等が挙げられる。
【0044】
【化6】

【0045】
更に、Xが、−(C≡C)−(但し、mは1〜5の整数を表す。)を含む基である場合、mは1〜3であることが好ましく、例えば、アセチレン基以外、以下の基等が挙げられる。
【0046】
【化7】

【0047】
尚、これらの組合せからなる基としては、例えば、以下の基などが挙げられる。
【0048】
【化8】

【0049】
一般式(II)において、Rの芳香族基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、クリセン環、フェナントレン環、アズレン環、フルオレン環、アセナフチレン環、インデン環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、カルバゾール環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサジン環、ベンゾチアゾール環な
ど由来の基等が挙げられる。
【0050】
中でも、紫外光線に対する感度が高い点から、Rが置換基を有していてもよいカルバゾリル基を含む1価の基であることが好ましい。
又、Rが更に有していてもよい置換基としては、
弗素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;
水酸基;
ニトロ基;
シアノ基;
メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、t−オクチル基などの炭素数が1〜18の直鎖状或いは分岐状のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基などの炭素数が3〜18のシクロアルキル基;
ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基などの炭素数が2〜18の直鎖状或いは分岐状のアルケニル基;
シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などの炭素数が3〜18のシクロアルケニル基;
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−アミルオキシ基、t−アミルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、t−オクチルオキシ基などの炭素数が1〜18の直鎖状或いは分岐状のアルコキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−アミルチオ基、t−アミルチオ基、n−ヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、t−オクチルチオ基などの炭素数が1〜18の直鎖状或いは分岐状のアルキルチオ基;
プロペニルオキシ基、ヘキセニルオキシ基などの炭素数が2〜18の直鎖状或いは分岐状のアルケニルオキシ基;ビニルチオ基、プロペニルチオ基、ヘキセニルチオ基などの炭素数が2〜18の直鎖状或いは分岐状のアルケニルチオ基;
フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基などの炭素数が6〜18の、アルキル基で置換されていてもよいアリール基;
ベンジル基、フェネチル基などの炭素数が7〜18のアラルキル基;
カルボキシル基;
−COOR201 で表されるカルボン酸エステル基;
−COR201で表されるアシル基;
−OCOR201で表されるアシルオキシ基;
−NR201202で表されるアミノ基;
−NHCOR201で表されるアシルアミノ基;
−NHCOOR201で表されるカーバメート基;
−CONR201202で表されるカルバモイル基;
−SO201で表されるスルホン酸エステル基;
−SONR201202で表されるスルファモイル基(尚、R201及びR202は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルカノイル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。);
2−チエニル基、2−ピリジル基、フリル基、オキサゾリル基、ベンゾキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、モルホリノ基、ピロジニル基、テトラヒドロチオフェンオキサイド基などの飽和或いは不飽和の芳香環基;
トリメチルシリル基などのトリアルキルシリル基などが挙げられる。
【0051】
一般式(II)におけるRとしては、下記一般式(IIa)で表される基であることが好ましい。
【0052】
【化9】

【0053】
(一般式(IIa)中、
〜Rは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜12のアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜12のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜20のアルコキシカルボニルアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が6〜20のフェニル基、置換基を有していてもよい炭素数が7〜20のベンジル基、置換基を有していてもよい炭素数が7〜20のベンゾイル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のフェノキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のフェノキシカルボニルアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜20のヘテロアリーロイル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のヘテロアリールオキシカルボニルアルカノイル基、−SR101 、−SOR101、−SO10
、又は−NR101102(但し、R101及びR102は各々独立して、水素原
子、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜12のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜8のアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が6〜20のアリール基、又は炭素数が3〜15のトリアルキルシリル基を表す。)であり、
〜Rの少なくとも一つは、−SR101又は−NR101102である。
尚、R〜Rは、複数の置換基同士が結合して、更に置換基を有していてもよい、飽和或いは不飽和芳香族環を形成していてもよい。)
尚、一般式(IIa)において、R〜Rの上記基が有する置換基としては、Rにおいて挙げたと同様の置換基が挙げられる。
【0054】
又、一般式(II)において、
のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、t−オクチル基などの炭素数が1〜12の直鎖状或いは分岐状のアルキル基であるのが好ましく、
のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、n−オクチルチオ基、n−ドデシルチオ基などの炭素数が1〜12のアルキルチオ基であるのが好ましく、
のアルキルチオアルコキシ基としては、例えば、メチルチオメトキシ基、エチルチオエトキシ基、n−プロピルチオプロポキシ基、イソプロピルチオプロポキシ基、n−ブチルチオブトキシ基などの炭素数が2〜12のアルキルチオアルコキシ基であるのが好ましく、
のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカ
ルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、t−アミルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、n−デカニルオキシカルボニル基、n−ドデカニルオキシカルボニル基などの炭素数が2〜12のアルコキシカルボニル基であるのが好ましく、
のアルケニルオキシカルボニル基としては、例えば、ビニルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基などの炭素水が3〜12りアルケニルオキシカルボニル基であるのが好ましく、
のアルキニルオキシカルボニル基としては、例えば、プロパルギルオキシカルボニル基等の炭素数が3〜12のアルキニルオキシカルボニル基であるのが好ましく、
のアリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェニルオキシカルボニル基、1−ナフチルオキシカルボニル基、2ホナフチルオキシカルボニル基などの炭素数が7〜12のアリールオキシカルボニル基であるのが好ましく、
のヘテロアリールオキシカルボニル基としては、例えば、2−フラニルオキシカルボニル基、3−フラニルオキシカルボニル基、2−ピリジルオキシカルボニル基、3−ピリジルオキシカルボニル基、4−ピリジルオキシカルボニル基、2−ベンゾチアゾリルオキシカルボニル基等の炭素数が3〜12のヘテロアリールオキシカルボニル基であるのが好ましく、
のアルキルチオカルボニル基としては、例えば、メチルチオカルボニル基、エチルチオカルボニル基、n−プロピルチオカルボニル基、イソプロピルチオカルボニル基、n−ブチルチオカルボニル基、n−ヘキシルチオカルボニル基、n−オクチルチオカルボニル基、n−ドデシルチオカルボニル基などの炭素数が2〜12のアルキルチオカルボニル基であるのが好ましく、
のアルケニルチオカルボニル基としては、例えば、ビニルチオカルボニル基、アリルチオカルボニル基などの炭素数が3〜12のアルケニルチオカルボニル基であるのが好ましく、
のアルキニルチオカルボニル基としては、例えば、プロパルギルチオカルボニル基などの炭素数が3〜12のアルキニルチオカルボニル基であるのが好ましく、
のアリールチオカルボニル基としては、例えば、フェニルチオカルボニル基、1−ナフチルチオカルボニル基、2−ナフチルチオカルボニル基などの炭素数が7〜12のアリールチオカルボニル基であるのが好ましく、
のヘテロアリールチオカルボニル基としては、例えば、2−フラニルチオカルボニル基、3−フラニルチオカルボニル基、4−ピリジルチオカルボニル基、2−ベンゾオキサゾリルチオカルボニル基、2−ベンゾチオアゾリルカルボニル基などの炭素数が3〜12のヘテロアリールチオカルボニル基であるのが好ましい。
【0055】
一般式(II)において、Rとしては、アルキルチオ基、アルキルチオアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールチオカルボニル基など、及び−N(OR' )COR''、−N(OCOR' )COR''(但し、R' およびR''は各々独立して置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。)である、(アルコキシ)アルカノイルアミノ基、(フェノキシ)アルカノイルアミノ基、(アルコキシ)ベンゾイルアミノ基、(アルカノイルオキシ)アルカノイルアミノ基、(ベンジルオキシ)アルカノイルアミノ基、(アルカノイルオキシ)ベンジルアミノ基、(アルカノイルオキシ)ヘテロアリーロイルアミノ基など、
並びに−O−N=C(R' )R''、−O−N=C(R' )COR''(但し、R' 及びR''は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。)である、ジアルキルオキシム基、(アルキル)アルカノイルオキシム基などが挙げられる。
【0056】
尚、これらのRの置換基としては、Rにおいて挙げたと同様の置換基等が挙げられる。
一般式(II)において、Rのアルカノイル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基などの炭素数が2〜20のアルカノイル基であるのが好ましく、炭素数が2〜12のものであるのがさらに好ましく、炭素数が2〜7のものであるのが特に好ましい。
【0057】
又、Rのアルケノイル基としては、例えば、クロトノイル基、アクリロイル基などの炭素数が3〜25のアルケノイル基であるのが好ましく、炭素数が2〜12のものであるのがさらに好ましく、炭素数が3〜7のものであるのが特に好ましい。
のアルキノイル基としては、例えば、プロパルギルノイル基などの炭素数が3〜25のアルキノイル基であるのが好ましく、炭素数が3〜12のものであるのがさらに好ましく、炭素数が3〜7のものであるのが特に好ましい。
【0058】
のシクロアルカノイル基としては、例えば、シクロヘキシルカルボニル基、メチルシクロヘキシルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基などの炭素数が4〜8のシクロアルカノイル基であるのが好ましく、炭素数が4〜7のものであるのが更に好ましい。Rのアリーロイル基としては、例えば、ベンゾイル基、メチルベンゾイル基、ナフトイル基などの炭素数が7〜20のアリーロイル基であるのが好ましく、炭素数が7〜12のものであるのがさらに好ましく、炭素数が7〜10のものであるのが特に好ましい。
【0059】
のヘテロアリーロイル基としては、例えば、チオフェンカルボニル基、ピロリルカルボニル基、ピリジンカルボニル基などの炭素数が3〜20のヘテロアリーロイル基であるのが好ましく、炭素数が5〜15のものであるのが更に好ましく、炭素数が7〜10のものであるのが特に好ましい。
のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などの炭素数が2〜10のアルコキシカルボニル基であるのが好ましく、炭素数が2〜8のものであるのが更に好ましい。
【0060】
のアリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、p−メチルフェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基などの炭素数が7〜20のアリールオキシカルボニル基であるのが好ましく、炭素数が7〜15のものであるのが更に好ましく、炭素数が7〜10のものであるのが特に好ましい。
一般式(II)において、Rとしては、アルカノイル基、シクロアルカノイル基、アリーロイル基が好ましく、アルカノイル基、アリーロイル基が特に好ましい。
【0061】
尚、これらのRの置換基としては、Rにおいて挙げたと同様の置換基が挙げられる。
本発明において、前記一般式(II)で表される(ケト)オキシムエステル系化合物の好適な例を、R、R、R、及びXの組み合わせに基づき以下の表に例示するが、本発明に係る(ケト)オキシムエステル系化合物は、これらに限定されない。
【0062】
尚、以下の例において、「Me」はメチル基を表す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

【0069】
本発明における前記一般式(II)で表される(ケト)オキシムエステル系化合物の光重合開始剤としては、一般式(II)のnが1であるケトオキシムタイプのものの方が、nが0のオキシムタイプのものに比べ、画像形成後の230〜260℃の後熱硬化処理において、熱硬化を促進し、アウトガスの発生をより抑制し得るため好ましい。
本発明において、光重合開始剤としては、前記(ケト)オキシムエステル系化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。又、これらの(ケト)オキシムエステル系化合物と、他の光重合開始剤を併用することもでき、場合によっては併用による高感度化が期待できる。その併用される他の光重合開始剤としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。
【0070】
2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−エトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−エトキシカルボニルナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどのハロメチル化トリアジン誘導体;
2−トリクロロメチル−5−(2’−ベンゾフリル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−〔β−(2’−ベンゾフリル)ビニル〕−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−〔β−(2’−(6''−ベンゾフリル)ビニル〕−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−フリル−1,3,4−オキサジアゾールなどのハロメチル化オキサジアゾール誘導体;
2−(2’−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダソール2量体、2−(2’−クロロフェニル)−4,5−ビス(3’−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(2’−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(2’−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、(4' −メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体などのヘキサアリールビイミダゾール誘導体;
ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンゾインイソブチルエー
テル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類;
2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンなどのアントラキノン誘導体;
ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン誘導体;
2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、α−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパノン、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル−(p−イソプロピルフェニル)ケトン、1−ヒドロキシ−1−(p−ドデシルフェニル)ケトン、2−メチル−[4' −(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、1,1,1−トリクロロメチル−(p−ブチルフェニル)ケトンなどのアセトフェノン誘導体;
チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン誘導体;
p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸エステル誘導体;
9−フェニルアクリジン、9−(p−メトキシフェニル)アクリジンなどのアクリジン誘導体;
9,10−ジメチルベンズフェナジンなどのフェナジン誘導体;
ベンズアンスロンなどのアンスロン誘導体;
ビス−シクロペンタジエニル−Ti−ジクロライド、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル)、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−(2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル)、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−(2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル)、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ビス−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル)、ビス−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジ−フルオロ−3−(ピル−1−イル)−フェニ−1−イルなどのチタノセン誘導体などが挙げられる。
【0071】
本発明の隔壁組成物中の光重合開始剤の含有割合は、溶剤を除く全固形分に対して通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。感光性組成物中の光重合開始剤の含有量が、この下限を下回ると、露光時に感度が低下したり、アウトガスが過度に発生する恐れがあり、上限を上回ると残渣の発生を招きやすい。
【0072】
又、前記(A)エチレン性不飽和化合物100重量部に対する(B)光重合開始剤の配合量は、通常1重量部以上、好ましくは3重量部以上であり、通常50重量部以下、好ましくは20重量部以下である。
[1−3](C)アルカリ可溶性バインダー
本発明の隔壁組成物は、1種または2種以上の(C)アルカリ可溶性バインダーを含有する。
【0073】
本発明において、バインダーとしては現像液で現像可能なものであれば特に限定されないが、現像液としてはアルカリ現像液が好ましいため、本発明においてはアルカリ可溶性バインダーを用いる。アルカリ可溶性バインダーとしては、カルボキシ基又は水酸基含有の各種樹脂などが挙げられる。
中でも、カルボキシル基を有するものが特に好ましい。尚、本発明においては、側鎖に
エチレン性不飽和基を有するものが特に好ましい。
【0074】
本発明の感光性組成物中におけるアルカリ可溶性バインダーの含有割合は、溶剤を除く全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、通常90重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
感光性組成物中のアルカリ可溶性バインダーの含有量がこの下限を下回ると、撥液性隔壁の形状確保が困難となりやすく、上限を上回ると、感度や現像性の低下を招く恐れがある。
【0075】
[1−3−a]カルボキシル基含有バインダー
[1−3−a−1]カルボキシル基含有(共)重合体(1)
カルボキシル基含有バインダーの代表的なものとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和カルボン酸と、スチレン、α−メチルスチレン、ヒドロキシスチレンなどのスチレン類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルモルホリンなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリルなどの(メタ)アクリロニトリル類、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、酢酸ビニルなどのビニル化合物類、などとの共重合体が挙げられる。
【0076】
これらの中で、(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体が好ましい。
又、(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体においては、(メタ)アクリレート5〜80モル%と、(メタ)アクリル酸20〜95モル%とからなる共重合体が更に好ましく、(メタ)アクリレート10〜70モル%と、(メタ)アクリル酸30〜90モル%とからなる共重合体が特に好ましい。
【0077】
スチレン−(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体においては、スチレン3〜60モル%、(メタ)アクリレート10〜70モル%、(メタ)アクリル酸10〜60モル%からなる共重合体がさらに好ましく、スチレン5〜50モル%、(メタ)アクリレート20〜60モル%、(メタ)アクリル酸15〜55モル%からなる共重合体が特に好ましい。
【0078】
[1−3−a−2]カルボキシル基含有(共)重合体(2)
又、前記の不飽和カルボン酸に代えて、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに多塩基酸(無水物)を付加させた化合物と、前記のスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリル類、(メタ)アクリルアミド類、ビニル化合物類、などとの共重合体が挙げられる。
【0079】
そのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
多塩基酸(無水物)としては、コハク酸(無水物)、アジピン酸(無水物)、フタル酸(無水物)、ヘキサヒドロフタル酸(無水物)、マレイン酸(無水物)などが挙げられ、両者の反応化合物としては、コハク酸〔2−(メタ)アクリロイルエチル〕エステル、アジピン酸〔2−(メタ)アクリロイルエチル〕エステル、フタル酸〔2−(メタ)アクリロイルエチル〕エステル、ヘキサヒドロフタル酸〔2−(メタ)アクリロイルエチル〕エステル、マレイン酸〔2−(メタ)アクリロイルエチル〕エステル、コハク酸〔2−(メタ)アクリロイルプロピル〕エステル、アジピン酸〔2−(メタ)アクリロイルプロピル〕エステル、フタル酸〔2−(メタ)アクリロイルプロピル〕エステル、ヘキサヒドロフタル酸〔2−(メタ)アクリロイルプロピル〕エステル、マレイン酸〔2−(メタ)アクリロイルプロピル〕エステル、コハク酸〔2−(メタ)アクリロイルブチル〕エステル、アジピン酸〔2−(メタ)アクリロイルブチル〕エステル、フタル酸〔2−(メタ)アクリロイルブチル〕エステル、ヘキサヒドロフタル酸〔2−(メタ)アクリロイルブチル〕エステル、マレイン酸〔2−(メタ)アクリロイルブチル〕エステルなどが挙げられる。
【0080】
これらのカルボキシル基含有(共)重合体のバインダーは、酸価が50〜500mg・KOH/g、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000〜300,000であるのが好ましい。
[1−3−b]側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシル基含有(共)重合体
[1−3−b−1]不飽和カルボン酸と2種以上のエチレン性不飽和基含有化合物との共重合体
側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシル基含有(共)重合体として、例えば、アリル(メタ)アクリレート、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、クロトニル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミドなどの2種以上のエチレン性不飽和基を有する化合物、又はビニル(メタ)アクリレート、1−クロロビニル(メタ)アクリレート、2−フェニルビニル(メタ)アクリレート、1−プロペニル(メタ)アクリレート、ビニルクロトネート、ビニル(メタ)アクリルアミドなどの2種以上のエチレ性不飽和基を有する化合物と、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、またはさらに不飽和カルボン酸エステルなどとを、前者のエチレン性不飽和基を有する化合物の全体に占める割合を10〜90モル%、好ましくは30〜80モル%程度となるように共重合させて得られた共重合体などが挙げられる。
【0081】
尚、この不飽和カルボン酸と2種以上のエチレン性不飽和基を有する化合物との共重合体の酸価は、好ましくは30〜250mg・KOH/gであり、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜300,000である。
[1−3−b−2]エポキシ基含有不飽和化合物変性カルボキシル基含有(共)重合体又、側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシル基含有(共)重合体として、例えば、カルボキシル基含有(共)重合体に、エポキシ基含有不飽和化合物を反応させて、カルボキシル基含有(共)重合体のカルボキシル基の一部にエポキシ基含有不飽和化合物のエポキシ基を付加させて変性した変性カルボキシル基含有(共)重合体が挙げられる。
【0082】
そのカルボキシル基含有(共)重合体としては、前述したカルボキシル基含有(共)重合体の(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、及び、スチレン−(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体などが好ましい。また、そのエポキシ基含有不飽和化合物としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、α−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジルイソクロトネート、クロトニルグリシジルエーテル、イタコン酸モノアルキルモノグリシジルエステル、フマル酸モノアルキルモノグリシジルエステル、マレイン酸モルアルキルモノグリシジルエステルなどの脂肪族エポキシ基含有不飽和化合物、および、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2,3−エポキシシクロペンチルメチル
(メタ)アクリレート、7,8−エポキシ〔トリシクロ[5.2.1.0]デシ−2−イル〕オキシエチル(メタ)アクリレートなどの脂環式エポキシ基含有不飽和化合物が挙げられる。そして、これらのエポキシ基含有不飽和化合物を、カルボキシル基含有(共)重合体の有するカルボキシル基の5〜90モル%、好ましくは30〜70モル%程度を反応させることにより得られる。なお、反応は公知の方法により実施することができる。
【0083】
尚、このエポキシ基含有不飽和化合物変性カルボキシル基含有(共)重合体の酸価は、好ましくは30〜250mg・KOH/gであり、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜300,000である。
[1−3−b−3]不飽和カルボン酸変性エポキシ基およびカルボキシル基含有(共)重合体
又、側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシル基含有(共)重合体として、例えば、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸と、前述の脂肪族エポキシ基含有不飽和化合物または脂環式エポキシ基含有不飽和化合物、またはさらに不飽和カルボン酸エステルやスチレンなどとを、前者のカルボキシル基含有不飽和化合物の全体に占める割合を10〜90モル%、好ましくは30〜80モル%程度となるように共重合させて得られた共重合体に、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸を反応させて、該共重合体のエポキシ基に不飽和カルボン酸のカルボキシル基を付加させて変性した変性エポキシ基およびカルボキシル基含有(共)重合体が挙げられる。
【0084】
尚、この不飽和カルボン酸変性エポキシ基およびカルボキシル基含有(共)重合体の酸価は、好ましくは30〜250mg・KOH/gであり、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜300,000である。
[1−3−b−4]酸変性エポキシ基含有(共)重合体
又、側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシル基含有(共)重合体として、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、α−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート5〜90モル%と、(メタ)アクリル酸エステルなどのエチレン性不飽和化合物10〜95モル%との共重合体を、共重合体に含まれるエポキシ基の10〜100モル%に、エチレン性不飽和モノカルボン酸を付加し、さらに付加したときに生成する水酸基の10〜100モル%に、多塩基酸(無水物)を付加して得られる酸変性エポキシ基含有(共)重合体が挙げられる。
【0085】
ここで、共重合体におけるエポキシ基含有(メタ)アクリレートの共重合割合は、前述した通り、5モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上であり、90モル%以下、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。一方、共重合体におけるエチレン性不飽和化合物の共重合割合は、前述した通り、10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上であり、95モル%以下、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。共重合体におけるエポキシ基含有(メタ)アクリレートの共重合割合が過度に多いと、相対的に他の不飽和化合物の共重合割合が少ないことにより、耐熱性や強度が低下する傾向となる。エポキシ基含有(メタ)アクリレートの共重合割合が過度に少ないと、アルカリ可溶性成分の付加量が不十分となる傾向となる。
【0086】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルなどのエチレン性不飽和化合物としては、例えば、下記一般式(III) で表される部分構造を有するモノ(メタ)アクリレートの1種
または2種以上を用いることが好ましい。
【0087】
【化10】

【0088】
(一般式(III)中、R1d〜R6dは、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜10のアルキル基を表し、R7dとR8dは、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜10のアルキル基を表す。また、R7dとR8dは連結して環を形成していてもよい。R7dとR8dが連結して形成される環は、好ましくは脂肪族環であり、飽和または不飽和の何れでもよく、好ましくは炭素数5〜6である。)
上記一般式(III) の中では、下記一般式(IIIa)、(IIIb)、又は(I
IIc)で表される構造を有するモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
これらの部分構造を導入することによって、モノ(メタ)アクリレートの耐熱性や強度を増すことが可能である。なお、これらのモノ(メタ)アクリレートは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0089】
【化11】

【0090】
前記一般式(III) で表される部分構造を有するモノ(メタ)アクリレートとして
は、公知の各種のものが使用できるが、特に次の一般式(IV)で表されるものが好ましい。
【0091】
【化12】

【0092】
(一般式(IV)中、R9dは水素原子またはメチル基を表し、R10dは前記一般式(III)を表す。)
ここで、エチレン性不飽和化合物としては、上述した一般式(III)で表される部分構造を有するモノ(メタ)アクリレート以外の、例えば、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体などのスチレン類、ブタジエン
、2,3−ジメチルブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸−1,1,1−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジプロピルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジ−iso−プロピルアミド、(メタ)アクリル酸アントラセニルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミド類、(メタ)アクリル酸アニリド、(メタ)アクリロイルニトリル、アクロレイン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニルなどのビニル化合物類、シトラコン酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジエチルなどの不飽和ジカルボン酸ジエステル類、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミドなどのモノマレイミド類、N−(メタ)アクリロイルフタルイミドなどのようなラジカル重合性化合物も挙げられる。
【0093】
中でも、より優れた耐熱性および強度を付与させるためには、エチレン性不飽和化合物としては、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートおよびモノマレイミドから選択された少なくとも1種を使用することが有効である。この場合、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートおよびモノマレイミドから選択された少なくとも1種の共重合割合は、通常1モル%以上、好ましくは3モル%以上、また、通常、70モル%以下、好ましくは50モル%以下である。
【0094】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとエチレン性不飽和化合物との共重合体に含まれるエポキシ基に付加させるエチレン性不飽和モノカルボン酸としては、公知のものを使用することができ、中で(メタ)アクリル酸が好ましい。前記共重合体に含まれるエポキシ基にエチレン性不飽和モノカルボン酸を付加させる量は、該共重合体に含まれるエポキシ基の通常10モル%、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。エチレン性不飽和モノカルボン酸の付加割合が過度に少ないと、経時安定性が低下するなど、残存エポキシ基による悪影響が出る傾向がある。なお、前記共重合体にエチレン性不飽和モノカルボン酸を付加させる方法としては公知の方法を採用することができる。
【0095】
前記共重合体にエチレン性不飽和モノカルボン酸を付加させたときに生成する水酸基に付加させる多塩基酸(無水物)としては、特に限定されず公知のもの1種を単独で用いて
もよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。このような成分を付加させることにより、アルカリ可溶性にすることができる。
多塩基酸(無水物)を付加させる量は、前記共重合体にエチレン性不飽和モノカルボン酸を付加させたときに生成する水酸基の、通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。また、通常100モル%以下、好ましくは、90モル%以下、より好ましくは80モル%以下である。多塩基酸(無水物)の付加量が過度に多いと、現像時の残膜率が低下する傾向がある。多塩基酸(無水物)の付加量が過度に少ないと、溶解性が不十分となる傾向がある。なお、前記共重合体にエチレン性不飽和モノカルボン酸を付加させたときに生成する水酸基に多塩基酸(無水物)を付加させる方法としては、公知の方法を任意に採用することができる。
【0096】
以上のエポキシ基含有(共)重合体のエチレン性不飽和モノカルボン酸および多塩基酸(無水物)による変性物には、多塩基酸(無水物)付加後に生成したカルボキシ基の一部に、グリシジル(メタ)アクリレートやエチレン不飽和基を有するグリシジルエーテル化合物を付加させることにより、さらに光感度を向上させることができる。また、多塩基酸(無水物)付加後に生成したカルボキシ基の一部にエチレン性不飽和基を有さないグリシジルエーテル化合物を付加させることにより、現像性を向上させることもできる。さらに、多塩基酸(無水物)付加後にこれらの両者を付加させてもよい。
【0097】
なお、上述したエポキシ基含有(共)重合体のエチレン性不飽和モノカルボン酸および多塩基酸(無水物)による変性物としては、例えば、特開平8−297366号公報や特開2001−89533号公報に記載の樹脂が挙げられる。また、上記変性物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、通常3, 000以上、好ましくは5, 000以上、また、通常100, 000以下、好ましくは50, 000以下である。重量平均分子量(Mw)が過度に小さいと耐熱性、膜強度に劣る傾向がある。また、過度に大きいと、現像液に対する溶解性が低下する傾向がある。また、分子量分布〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕は、2.0〜5.0が好ましい。
【0098】
[1−3−c]カルボキシル基およびエチレン性不飽和基含有樹脂
[1−3−c−1]酸変性エポキシ樹脂
カルボキシル基およびエチレン性不飽和基含有樹脂として、例えば、エポキシ樹脂のエチレン性不飽和基モノカルボン酸付加体に、多塩基酸(無水物)が付加された、カルボキシル基およびエチレン性不飽和基含有エポキシ樹脂が挙げられる。即ち、エポキシ樹脂のエポキシ基に、エチレン性不飽和モノカルボン酸のカルボキシ基が開環付加されることにより、エポキシ樹脂にエステル結合(−COO−)を介してエチレン性不飽和結合が付加されると共に、その際生じた水酸基に、多塩基酸(無水物)の一方のカルボキシ基が付加されたものが挙げられる。
【0099】
ここで、エポキシ樹脂とは、熱硬化により樹脂を形成する以前の原料化合物をも含めて言うこととし、そのエポキシ樹脂としては、公知のエポキシ樹脂の中から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ビスフェノールSエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルノボラックエポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、フェノールとジシクロペンタンとの重合エポキシ樹脂、ジハイドロオキシルフルオレン型エポキシ樹脂、ジハイドロオキシルアルキレンオキシルフルオレン型エポキシ樹脂、9,9−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル化物、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)アダマンタンのジグリシジルエーテル化物、などが挙げられる。中でも、高い硬化膜強度の観点から、フェノールノボラックエポキシ樹脂、またはクレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールとジシクロペンタジエンとの重合エポキシ樹脂、9,9−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)フルオ
レンのジグリシジルエーテル化物、などが好ましい。
【0100】
エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等、および、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート無水琥珀酸付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート無水琥珀酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、(メタ)アクリル酸とε−カプロラクトンとの反応生成物などが挙げられる。中でも、感度の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0101】
多塩基酸(無水物)としては、例えば、琥珀酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、3−メチルテトラヒドロフタル酸、4−メチルテトラヒドロフタル酸、3−エチルテトラヒドロフタル酸、4−エチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、3−メチルヘキサヒドロフタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸、3−エチルヘキサヒドロフタル酸、4−エチルヘキサヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、およびそれらの無水物などが挙げられる。中でも、画像再現性、現像性の観点から、マレイン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、またはヘキサヒドロフタル酸無水物が好ましく、テトラヒドロフタル酸無水物が更に好ましい。
【0102】
本発明における酸変性エポキシ樹脂としては、酸価が20〜200mg・KOH/gであるものが好ましく、30〜180mg・KOH/gであるものが更に好ましい。また、酸変性エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、通常1,000以上、好ましくは1,500以上であり、通常30,000以下、好ましくは20,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
【0103】
上記酸変性エポキシ樹脂は、従来公知の方法により合成することができる。具体的には、前記エポキシ樹脂を有機溶剤に溶解させ、触媒と熱重合禁止剤の共存下、前記エチレン性不飽和モノカルボン酸を加えて付加反応させ、更に多塩基酸(無水物)を加えて反応を続ける方法を用いることができる。
ここで、反応に用いる有機溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの有機溶剤の1種または2種以上が挙げられる。また、上記触媒としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリベンジルアミン等の第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンミニウム塩類、トリフェニルホスフィンなどの燐化合物、トリフェニルスチビンなどのスチビン類などの1種または2種以上が挙げられる。更に、熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メチルハイドロキノンなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0104】
エチレン性不飽和モノカルボン酸の使用量としては、エポキシ樹脂のエポキシ基の1化学当量に対して通常0.7〜1.3化学当量、好ましくは0.9〜1.1化学当量となる量とすることができる。また、付加反応時の温度としては、通常60〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度とすることができる。更に、多塩基酸(無水物)の使用量としては、前記付加反応で生じた水酸基の1化学当量に対して、通常0.1〜1.2化学当量、好ましくは0.2〜1.1化学当量となる量とすることができる。
本発明における前記酸変性エポキシ樹脂について、構成繰返し単位の具体例を以下に示す。
【0105】
【化13】

【0106】
【化14】

【0107】
[1−3−c−2]変性フェノール樹脂
カルボキシル基およびエチレン性不飽和基含有樹脂として、例えば、フェノール樹脂のエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物付加体に、多塩基酸(無水物)が付加された、カ
ルボキシル基およびエチレン性不飽和基含有フェノール樹脂が挙げられる。即ち、フェノール樹脂のフェノール性水酸基に、エチレン性不飽和基含有エポキシ化合物のエポキシ基が開環付加されることにより、フェノール樹脂にエステル結合(−COO−)を介してエチレン性不飽和結合が付加されると共に、その際生じた水酸基に、多塩基酸(無水物)の一方のカルボキシ基が付加されたものが挙げられる。
【0108】
ここで、フェノール樹脂としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、プロピルフェノール、n−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、4,4’−ビフェニルジオール、ビスフェノール−A、ピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、安息香酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、サリチル酸、フロログルシノールなどのフェノール類の少なくとも1種を、酸触媒下、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類、または、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、の少なくとも1種と重縮合させたノボラック樹脂、および、その重縮合における酸触媒に代えてアルカリ触媒を用いる以外は同様にして重縮合させたレゾール樹脂などが挙げられる。ここで、上記フェノール類とアルデヒド類との縮合反応は、無溶剤下または溶剤中で行われる。
【0109】
これらのノボラック樹脂、レゾール樹脂の重量平均分子量(Mw)は通常1,000〜20,000であり、好ましくは1,000〜10,000であり、更に好ましくは1,000〜8,000である。重量平均分子量が1,000未満では画像強度が確保されず、20,000を超えると現像性が低下する。
エチレン性不飽和基含有エポキシ化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、グリシジルオキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)ビニルなどが挙げられる。これらのうち、特にグリシジル(メタ)クリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0110】
ノボラック樹脂、レゾール樹脂などとエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物との反応には公知の方法を用いることができる。例えばトリエチルアミン、ベンジルメチルアミンなどの3級アミン、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩、ピリジン、トリフェニルホスフィンなどの1種または2種以上を触媒として、有機溶剤中、反応温度50〜150℃で数〜数十時間反応させることにより、ノボラック樹脂、レゾール樹脂などにエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物を付加することができる。
【0111】
該触媒の使用量は、反応原料混合物(ノボラック樹脂、レゾール樹脂とエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物との合計)に対して好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.3〜5重量%である。また反応中の重合を防止するために、重合防止剤(例えばメトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ピロガロール、tert−ブチルカテコール、ジブチルヒドロキシトルエン、フェノチアジンなどの1種または2種以上)を使用することが好ましく、その使用量は、反応原料混合物に対して好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.03〜5重量%である。尚、ノボラック樹脂、レゾール樹脂などのフェノール性水酸基にエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物を付加させる好ましい割合は、1〜99モル%である。この割合はフェノ
ール性水酸基に対して加えるエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物の量で調整できる。
【0112】
多塩基酸(無水物)としては、例えば、公知のものが使用でき、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、メチルテトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸などの二塩基性カルボン酸またはその無水物、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸などの多塩基性カルボン酸またはその無水物などが挙げられる。中でも好ましくは、テトラヒドロ無水フタル酸または無水コハク酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0113】
多塩基酸(無水物)の付加率は、ノボラック樹脂、レゾール樹脂などとエチレン性不飽和基含有エポキシ化合物の反応物の水酸基の、通常10〜100モル%、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%である。この付加率が少なすぎると現像性が不足することがある。
[1−3−d]その他のアルカリ可溶性バインダー
その他、アルカリ現像液に対して劣化しやすい基板の有機電界発光素子に隔壁を設けようとする場合であって、弱アルカリ性のアルカリ性化合物の現像液、或いはアルカリ性化合物を含有しない現像液を用いる場合においては、アルカリ可溶性バインダーとして、ポリビニルアルコール、あるいは前記[1−3−a−1]カルボキシル基含有(共)重合体(1)で挙げた共単量体(好ましい例としては、酢酸ビニルなど)を0.1〜40モル%、好ましくは1〜30モル%共重合させたビニルアルコール共重合体、あるいは前記[1−3−a−1]カルボキシル基含有(共)重合体(1)で挙げた共重合体をエステル化反応により0.1〜40モル%、好ましくは1〜30モル%導入した変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。また、さらに、適度なテーパ角形成と撥液性の保持を目的として、前記[1−3−c−1]酸変性エポキシ樹脂で挙げたエチレン性不飽和モノカルボン酸(好ましい例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸とε−カプロラクトンとの反応物など)、あるいはさらに多塩基酸(無水物)(好ましい例としては、テトラヒドロフタル酸無水物など)をエステル化反応により0.1〜30モル%、好ましくは0.5〜20モル%導入した変性ポリビニルアルコール、または、特開2008−45047号公報に記載の、(メタ)アクリロイル(オキシ)基あるいは(メタ)アクリルアミド基を有しアルデヒド基を有する化合物(好ましい例としては、4−アクリロイルオキシブタナールなど)、あるいはジアルキルアセタール基を有する化合物(好ましい例としては、N−(2,2−ジメトキシエチル)メタクリルアミドなど)をフォルマール反応により0.1〜30モル%、好ましくは0.5〜20モル%導入した変性ポリビニルアルコール、などが好ましく用いられる。
【0114】
以上の(C)アルカリ可溶性バインダーとしては、重量平均分子量(Mw)が2,000〜50,000、さらには3,000〜10,000であり、又、酸価が30〜200、さらには50〜150であるものが、感度、解像性、撥液性隔壁の形状確保に優れ好ましい。特には、剛直、高耐熱性、疎水性に優れる前記一般式(IIIa) 、(IIIb
) 、(IIIc) 等の多環脂環骨格を有し側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリレート樹脂、具体的には、スチレン/グリシジルメタクリレート/トリシクロデカン骨格を有するモノアクリレート(日立化成社製「FA−513A」)の共重合体、同様に、剛直、高耐熱性、疎水性に優れるフルオレン骨格、ベンゼン骨格、ビフェニル骨格、2,2−ジフェニルプロパン骨格を有するグリシジル化合物から得られるエチレン性不飽和基を有する樹脂、具体的には、無水琥珀酸により酸変性したペンタエリスリトールトリアクリレートと9,9−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル化物とを反応させ、さらにエポキシ基が開環して生じた水酸基にヘキサメチレンジイソシア
ネートとトリメリット酸無水物を付加させた樹脂、及び、m−クレゾールノボラック樹脂にグリシジルメタクリレートを付加反応させた後、エポキシ基が開環して生じた水酸基にテトラヒドロフラン無水物を付加させた樹脂、ビフェニル/フェノールノボラックエポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000」)にメタクリル酸を付加反応させた後、エポキシ基が開環して生じた水酸基にテトラヒドロフラン無水物を付加させた樹脂等は、アウトガスの発生を抑制し、高い撥液性、撥液性隔壁の形状確保に優れ好ましい。中で、後記実施例に記載のアルカリ可溶性バインダー(C1)、及び(C5)等の樹脂がこれらの特性に特に優れ好ましい。
【0115】
[1−4](D)撥液剤
本発明の隔壁組成物は、フッ素系化合物の撥液剤を含有する。フッ素系化合物の撥液剤の分子量は特に制限されず、低分子量の化合物でも、高分子量体であってもよい。
本発明の隔壁組成物に撥液剤として含まれるフッ素系化合物は、この感光性組成物を用いて隔壁を形成した場合、隔壁の表面に配向して、インキのにじみや混色を防止する働きをする。さらに詳しくは、ビニル(共)重合体中のフルオロアルキル基は、インキをはじき、インキが隔壁を越えて隣接する領域に進入することによるインキのにじみや混色を防ぐ働きをする。
【0116】
フッ素系化合物としては、パーフルオロアルキル基を含む化合物(パーフルオロアルキル基含有化合物)が好ましく、例えば、特開平7−35916号公報、特開平11−281815号公報、国際公開2004−042474号パンフレット、特開2005−60515号公報、特開2005−315984号公報、特開2006−171086号公報などに開示されている撥液性化合物などの他、ビッグケミー社製「BYK−340」、日油(株)社製「モディパーF200」、「モディパーF600」、「モディパーF3035」、ネオス社製「フタージェントMシリーズ、Sシリーズ、Fシリーズ、Gシリーズ、Dシリーズ、オリゴマーシリーズ」、ダイキン工業社製「ユニダイン」、信越シリコーン社製「トリフロロプロピルトリクロロシラン」、AGCセイミケミカル社製「サーフロンS−386」などの市販品や、パーフルオロ基含有アクリルモノマーを成分として共重合した樹脂なども挙げられる。さらには安全性に懸念があるC6を超えるパーフルオロアルキル基を回避できるパーフルオロポリエーテル基などを含む化合物等も有効である。
【0117】
又、フッ素系化合物としては、フッ素化エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ素化ポリアミド樹脂、フッ素化ポリウレタン樹脂、フッ素化シロキサン樹脂およびそれらの変性樹脂なども用いることができる。
尚、本発明の感光性組成物を用いて形成した塗布膜を露光後現像する際に、撥液剤が現像処理で流れ出てしまうことは好ましくない。この点において、撥液剤として、撥液性樹脂を用いるのも有効であるが、撥液剤として、露光時に架橋反応をすることができる架橋性基を有する化合物(以下、「架橋性基含有撥液剤」と称す場合がある。)を用いることが好ましい。
【0118】
この架橋性基含有撥液剤であるフッ素含有化合物の具体例としては、例えばパーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルアルキレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル基と親水基を含むオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親油基を含むオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親水基と新油基を含むオリゴマー、パーフルオロアルキルと親水基を含むウレタン、パーフルオロアルキルエステル、パーフルオロアルキル燐酸エステルなどのフッ素含有有機化合物を挙げることができる。これらのフッ素含有化合物の市販品としては、大日本インキ化学工業社製「メガファックF116」、「同F120」、「同F142D」、「同F144D」、「同F150」、「同F160」、「同F171」、「同F172」、「同F173」、「同F177」、「同F178A」、「同F1
78K」、「同F179」、「同F183」、「同F184」、「同F191」、「同F812」、「同F815」、「同F824」、「同F833」、「DEFENSAMCF300」、「同MCF310」、「同MCF312」、「同MCF323」、「同RS304」、「同RS202」、「同RS201」、「同RS102」、「同RS101」、「同RS105」、「同RS401」、「同RS402」、「同RS501」、「同RS502」、「同RS301」、「同RS303」、住友スリーエム社製「フロラードFC430」、「同FC431」、旭硝子社製「アサヒガードAG710」、「サーフロンS−382」、「同SC−101」、「同SC−102」、「同SC−103」、「同SC−104」、「同SC−105」、「同SC−106」、ダイキン工業社製「オブツールDAC」などの商品名で市販されている含フッ素有機化合物を使用することができる。
【0119】
更に好ましい架橋性基含有撥液剤としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、アクリレート樹脂を主骨格に有する樹脂にフッ素原子置換した置換基を導入したものが挙げられる。
以下にこのような架橋性基含有撥液剤について、具体的に説明する。
[1−4−a]エポキシ樹脂タイプ架橋性基含有撥液剤
エポキシ樹脂タイプ架橋性基含有撥液剤としては、エポキシ樹脂に、フッ素原子置換アルキル基あるいは芳香環を有するカルボン酸(例えばフッ素置換カルボン酸)を付加させたもの(例えばフッ素置換酸変性エポキシ樹脂)、好ましくはさらにα,β−不飽和基含有カルボン酸をエポキシ樹脂に付加させたものが、光あるいは熱処理により架橋して隔壁からの溶出が防止されるため好ましい。また、さらに必要に応じて、感光性組成物の溶剤あるいは現像液であるアルカリ水溶液に対する溶解性を向上させるために、これらα,β−不飽和基含有カルボン酸付加で生成する水酸基に、多価カルボン酸(無水物)を付加させた、不飽和基およびカルボキシル基含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0120】
ここに使用される、フッ素原子置換カルボン酸としては、例えば、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸などが挙げられ、エポキシ樹脂、α,β−不飽和基含有カルボン酸および多価カルボン酸(無水物)としては、前述のアルカリ可溶性バインダーの項において記載した不飽和基およびカルボキシル基含有エポキシ樹脂において使用されるものとして記載したものを用い、前述のアルカリ可溶性バインダー中の不飽和基およびカルボキシル基含有エポキシ樹脂と同様の合成方法により、上記フッ素置換酸変性エポキシ樹脂を得ることができる。
【0121】
フッ素原子置換カルボン酸とα,β−不飽和モノカルボン酸のエポキシ樹脂への付加のモル比率は、1:0〜0.1:0.9の範囲が好ましく、また、フッ素原子置換カルボン酸とα,β−不飽和モノカルボン酸は合計でエポキシ樹脂のエポキシ基の1化学当量に対して通常0.5〜1化学当量付加させることが好ましい。また、この付加反応時の温度としては、通常60〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度とすることができる。さらに、多価カルボン酸(無水物)の付加量としては、前記付加反応で生じた水酸基の1化学当量に対して、通常0〜1化学当量とすることができる。
【0122】
[1−4−b]フェノール樹脂タイプ架橋性基含有撥液剤
フェノール樹脂タイプ架橋性基含有撥液剤としては、フェノール樹脂に、フッ素原子置換アルキル基あるいは芳香環を有するエポキシ化合物(例えばフッ素置換エポキシ化合物)或いはカルボン酸(例えばフッ素置換カルボン酸)或いはイソシアネート化合物(例えばフッ素置換イソシアネート化合物)を付加させたもの(例えばフッ素置換エポキシ、酸、或いはイソシアネート変性フェノール樹脂)、好ましくはさらにα,β−不飽和モノグリシジル化合物、α,β−不飽和モノカルボン酸、或いはα,β−不飽和モノイソシアネート化合物をフェノール樹脂に付加させたものが、光あるいは熱処理により架橋して隔壁からの溶出が防止されるため好ましい。また、さらに必要に応じて、感光性組成物の溶剤
あるいは現像液であるアルカリ水溶液に対する溶解性を向上させるために、これらにさらに多価カルボン酸(無水物)を付加させた、不飽和基およびカルボキシル基含有フェノール樹脂が挙げられる。
【0123】
ここで、フェノール樹脂としては、ビスフェノールAタイプノボラック樹脂、ビスフェノールFタイプノボラック樹脂、ビスフェノールSタイプノボラック樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリスフェノールタイプノボラック樹脂、フェノールとジシクロペンタンとの重合タイプノボラック樹脂、ジハイドロオキシルフルオレン型ノボラック樹脂、ジハイドロオキシルアルキレンオキシルフルオレン型タイプノボラック樹脂などが挙げられる。中でも、高い硬化膜強度の観点から、フェノールノボラック樹脂、またはクレゾールノボラック樹脂、フェノールとジシクロペンタジエンとの重合樹脂が好ましい。
【0124】
ここに使用される、フッ素置換アルキル基を有するグリシジル化合物としては、パーフルオロヘキシルグリシジルエーテル、パーフルオロオクチルグリシジルエーテル、パーフルオロヘキシルグリシジルチオエーテル、パーフルオロオクチルグリシジルチオエーテルなどが挙げられる。また、α,β−不飽和モノグリシジル化合物としては、アクロイルオキシエチルグリシジルエーテル、メタアクロイルオキシエチルグリシジルエーテル、エポキシアクリレート、エポキシメタアクリレートなどが挙げられ、フッ素原子置換カルボン酸、及びα,β−不飽和モノカルボン酸としては、上記のエポキシ樹脂タイプ架橋性基含有撥液剤の説明において例示したものの中から適宜選択して使用することができる。
【0125】
フェノール樹脂に付加させる、フッ素原子置換化合物とα,β−不飽和基含有化合物のモル比は、1:0〜0.1:0.9の範囲が好ましく、また、これらは合計でフェノール樹脂の水酸基の1化学当量に対して通常0.5〜1化学当量付加させることが好ましい。この付加反応時の温度としては、通常60〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度とすることができる。さらに、多価カルボン酸(無水物)の付加量としては、前記付加反応で生じた水酸基の1化学当量に対して、通常0〜1化学当量とすることができる。
【0126】
[1−4−c]フェノキシ樹脂タイプ架橋性基含有撥液剤
本発明で用いる撥液剤としての含フッ素有機化合物としては、特開2005−105115号公報に記載の主鎖骨格にフッ素を有するフェノキシ樹脂タイプの含フッ素有機化合物を用いることもできる。このような含フッ素有機化合物としては、架橋性官能基(K)とフェノール性水酸基を有する化合物(Y−1)および/または架橋性官能基(K)とフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y−2)と、下記一般式(V) で示される含フッ素芳香族化合物(F)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱フッ化水素(HF)剤の存在下に縮合反応させて得られる、架橋性官能基(K)とエーテル結合を有し、数平均分子量(Mn)が1×10〜5×10である架橋性含フッ素芳香族プレポリマーが挙げられる。
【0127】
【化15】

【0128】
(一般式(V)中、sは0〜2の整数、a、bはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a
+b≧1である。RfおよびRfはそれぞれ独立に炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表す。)
上記架橋性官能基(K)の具体例としては、ビニル基、アリル基、メタクリロイル(オキシ)基、アクリロイル(オキシ)基、ビニルオキシ基、トリフルオロビニル基、トリフルオロビニルオキシ基、エチニル基、1−オキソシクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル基、シアノ基、アルコキシシリル基、ジアリールヒドロキシメチル基、ヒドロキシフルオレニル基等が挙げられる。これらのうち、反応性が高く、高い架橋密度が得られるので、ビニル基、メタクリロイル(オキシ)基、アクリロイル(オキシ)基、トリフルオロビニルオキシ基、エチニル基が好ましく、得られる硬化物が良好な耐熱性を有する点から、エチニル基が最も好ましい。
【0129】
本発明の隔壁組成物中のフッ素系化合物の撥液剤の含有量は、溶剤を除く全固形分に対して好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、好ましくは11重量%以下、より好ましくは9重量%以下である。感光性組成物中のこの撥液剤の含有量がこの下限を下回ると、撥液性隔壁の撥液性が不十分なため発光層形成用インクが隣の区画に流れ出して混色が起きる恐れがあり、上限を上回ると、非隔壁部の発光層形成用インクに対する濡れ性が低下し、均一な発光層を形成し得ない場合がある。
【0130】
[1−5](E)界面活性剤
本発明の隔壁組成物は、組成物の塗布液としての塗布性、および塗布膜の現像性の向上などを目的として、シリコーン系界面活性剤を含有することが必須である。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、トーレシリコーン社製「トーレシリコーンDC3PA」、「トーレシリコーンSH7PA」、「トーレシリコーンDC11PA」、「トーレシリコーンSH21PA」、「トーレシリコーンSH28PA」、「トーレシリコーンSH29PA」、「トーレシリコーンSH30PA」、「トーレシリコーンSH8400」、東芝シリコーン社製「TSF−4440」、「TSF−4300」、「TSF−4445」、「TSF−444(4)(5)(6)(7)6」、「TSF−4460」、「TSF−4452」、シリコーン社製「KP341」、ビッグケミー社製「BYK323」、「BYK330」などの市販品を挙げることができる。
【0131】
本発明における(D)フッ素系化合物の撥液剤は、疎水性で表面張力も極めて低いため、前述した(C)アルカリ可溶性バインダーとの相溶性が低く、塗布あるいは熱乾燥時に分離しやすく、その結果、不均一な塗膜を形成しやすい。
そこで本発明では、例えばパーフルオロアルキル基もしくは(C)アルカリ可溶性バインダーとの親和性が高いと考えられるシリコン系界面活性剤を使用することにより、現像残渣を抑制し、塗布時の塗布均一性を向上できると考えられる。
【0132】
尚、本発明において、発明の効果を損なわない限り、上記シリコン系界面活性剤に、特開2009-25813号公報等に記載の各種界面活性剤を併用することもできる。
本発明の隔壁組成物において、界面活性剤全量の含有割合は、溶剤を除く全固形分に対して、10重量%以下であることが好ましく、0.01〜5重量%であることが更に好ましい。
【0133】
[1−6]その他成分
本発明の隔壁組成物には、前記(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性バインダー、(D)撥液剤、(E)界面活性剤以外に、増感色素、水素供与性化合物、熱重合開始剤、アミノ化合物、着色剤、塗布性向上剤、現像改良剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、エポキシ化合物、その他の樹脂などを適宜配合することができる。
【0134】
[1−6−a]増感色素
本発明の隔壁組成物には、感度の向上などを目的として、以下に挙げるような増感色素が前記光重合開始剤と共に併用されてもよい。
その増感色素しては、例えば、特開平3−239703号公報、特開平5−289335号公報などに記載される複素環を有するクマリン化合物、特開昭63−221110号公報などに記載される3−ケトクマリン化合物、特開平4−221958号公報、特開平4−219756号公報などに記載されるキサンテン色素、特開平6−19240号公報などに記載されるピロメテン色素、特開昭47−2528号公報、特開昭54−155292号公報、特開昭56−166154号公報、特開昭59−56403号公報などに記載される(p−ジアルキルアミノベンジリデン)ケトン、スチリル系色素、特開平6−295061号公報などに記載されるジュロリジル基含有色素、特開平11−326624号公報などに記載されるジアミノベンゼン化合物などを挙げることができる。これらの中で特に好ましいのは、アミノ基含有色素、およびキサンテン色素である。
【0135】
[1−6−b]水素供与性化合物
本発明の隔壁組成物には、感度の向上などを目的として、以下に挙げるような水素供与性化合物が前記光重合開始剤と共に併用されてもよい。
その水素供与性化合物としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン、エチレングリコールジチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのメルカプト基含有化合物類、ヘキサンジチオール、トリメチロールプロパントリスチオグリコネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどの多官能チオール化合物類、N,N−ジアルキルアミノ安息香酸エステル、N−フェニルグリシンまたはそのアンモニウム塩やナトリウム塩、フェニルアラニンまたはそのアンモニウム塩やナトリウム塩、エステルなどの芳香族環を有するアミノ酸またはその誘導体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0136】
水素供与性化合物としては中でも、感光性組成物の感度の観点から、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾールなどのメルカプト基含有へテロ環状化合物が好ましい。
又、撥液性隔壁の形状確保の観点から、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、および2−メルカプトベンゾオキサゾールよりなる群から選択された1または2以上の水素供与性化合物と、光重合開始剤として上記ヘキサアリールビイミダゾール誘導体の1種または2種以上とを組み合わせて、光重合開始剤系として使用することが好適である。
【0137】
[1−6−c]熱重合開始剤
本発明の隔壁組成物には、熱重合開始剤が含有されていてもよい。このような熱重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾ系化合物、有機過酸化物および過酸化水素などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、光重合開始剤に水素供与性化合物や熱重合開始剤を併用する場合、これらの合計で、前述の感光性組成物中の光重合開始剤含有割合となるようにすることが好ましく、又、光重合開始剤と水素供与性化合物と熱重合開始剤との併用割合としては、光重合開始剤に対して水素供与性化合物を5〜300重量%、光重合開始剤に対して熱重合開始剤を5〜300重量%とすることが好ましい。
【0138】
[1−6−d]アミノ化合物
本発明の隔壁組成物には、熱硬化を促進するためにアミノ化合物が含まれていてもよい
。この場合、感光性組成物中のアミノ化合物の含有量としては、感光性組成物の全固形分に対して、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。又、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上である。感光性組成物中のアミノ化合物の含有量が過度に多いと、感光性組成物の保存安定性が悪化する可能性がある。含有量が少ないと硬化促進効果が期待できない。
【0139】
アミノ化合物としては、例えば、官能基としてメチロール基、それを炭素数1〜8のアルコール縮合変性したアルコキシメチル基を少なくとも2個有するアミノ化合物が挙げられる。具体的には、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを重縮合させたメラミン樹脂;ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとを重縮合させたベンゾグアナミン樹脂;グリコールウリルとホルムアルデヒドとを重縮合させたグリコールウリル樹脂;尿素とホルムアルデヒドとを重縮合させた尿素樹脂;メラミン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、または尿素などの2種以上とホルムアルデヒドとを共重縮合させた樹脂;上述の樹脂のメチロール基をアルコール縮合変性した変性樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アミノ化合物としては中でも、メラミン樹脂およびその変性樹脂が好ましく、メチロール基の変性割合が、70%以上の変性樹脂が更に好ましく、80%以上の変性樹脂が特に好ましい。
【0140】
上記アミノ化合物の具体例として、メラミン樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、三井サイテック社製の「サイメル」(登録商標)300、301、303、350、736、738、370、771、325、327、703、701、266、267、285、232、235、238、1141、272、254、202、1156、1158、および、三和ケミカル社製の「ニカラック」(登録商標)MW−390、MW−100LM、MX−750LM、MW−30M、MX−45、MX−302などが挙げられる。また、上記ベンゾグアナミン樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、三井サイテック社製の「サイメル」(登録商標)1123、1125、1128などが挙げられる。また、上記グリコールウリル樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、三井サイテック社製の「サイメル」(登録商標)1170、1171、1174、1172、および、三和ケミカル社製の「ニカラック」(登録商標)MX−270などが挙げられる。また、上記尿素樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、三井サイテック社製の「UFR」(登録商標)65、300、および、三和ケミカル社製の「ニカラック」(登録商標)MX−290などが挙げられる。
【0141】
[1−6−e]着色剤
本発明の隔壁組成物には、着色剤が含有されていてもよい。着色剤としては、顔料、染料等公知の着色剤を用いることができる。また、例えば、顔料を用いる際に、その顔料が凝集したりせずに安定して感光性組成物中に存在できるように、公知の分散剤や分散助剤が併用されてもよい。特に撥液性隔壁を黒色に着色することで、鮮明な画素が得られる効果がある。黒色着色剤としては黒色染料や、カーボンブラック、チタンブラックなどの他、有機顔料を混合させて黒く着色することも低導電性を持たせる効果として有効である。着色剤の含有量としては感光性組成物の全固形分に対して、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0142】
[1−6−f]重合禁止剤、酸化防止剤
本発明の隔壁組成物には、安定性向上の観点等から、ハイドロキノン、メトキシフェノールなどの重合禁止剤や、2,6−ジ−tert−ブチル−4−クレゾール(BHT)などのヒンダードフェノール系の酸化防止剤を含有することが好ましい。その含有量としては、感光性組成物の全固形分に対して、通常5ppm以上1000ppm以下、好ましくは10ppm以上600ppm以下の範囲である。その含有量が過度に小さいと、安定性が悪化する傾向となる。一方、過度に多いと、例えば光および/または熱による硬化の際
に、硬化が不十分となる可能性がある。特に、通常のフォトリソグラフィー法に使用される場合には、感光性組成物の保存安定性および感度の両面からみた最適量に設定する必要がある。
【0143】
[1−6−g]シランカップリング剤
本発明の隔壁組成物には、基板との密着性を改善するため、シランカップリング剤を添加することも好ましい。シランカップリング剤の種類としては、エポキシ系、メタクリル系、アミノ系、イミダゾール系など種々の物が使用できるが、特にエポキシ系、イミダゾール系のシランカップリング剤が好ましい。その含有量は、感光性組成物の全固形分に対して、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。
【0144】
[1−6−h]無機充填剤
本発明の隔壁組成物は、さらに、硬化物としての強度の向上と共に、アルカリ可溶性樹脂との適度な相互作用(マトリックス構造)により、撥液性隔壁の形状の向上等を目的として、無機充填剤を含有していてもよい。そのような無機充填剤としては、例えば、タルク、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、或いは、これらを各種シランカップリング剤により表面処理したものなどが挙げられる。
【0145】
これら無機充填剤の平均粒子径としては、通常0.005〜20μm、好ましくは0.01〜10μmである。ここで本実施の形態にいう平均粒子径とは、ベックマン・コールター社製などのレーザ回折散乱粒度分布測定装置にて測定した値である。これらの無機充填剤のうち、特に、上記シリカゾルおよびシリカゾル変性物は、分散安定性と共にテーパ角の向上効果に優れるため、好ましく配合される。本発明の感光性組成物がこれらの無機充填剤を含む場合、その含有量としては、溶剤を除く全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。
【0146】
[1−7]溶剤
溶剤は、本発明の感光性組成物において、前記各成分等を溶解又は分散させ、粘度を調節する機能を有する。
溶剤としては、特に制限がなく、各成分を溶解又は分散させることができるものであればよい。このような溶剤としては、例えば国際公開公報WO2009/107734記載の溶剤等が挙げられる。
【0147】
又、これら溶剤に該当する市販のものとしては、ミネラルスピリット、バルソル#2、アプコ#18ソルベント、アプコシンナー、ソーカルソルベントNo.1及びNo.2、ソルベッソ#150、シェルTS28 ソルベント、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート、ジグライム(いずれも商品名)などが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0148】
上記溶剤は、感光性組成物中の各成分を溶解または分散させることができるもので、本実施の形態の感光性組成物の使用方法に応じて選択されるが、沸点が60〜280℃の範囲のものを選択するのが好ましい。より好ましくは70℃以上、260℃以下の沸点をもつものであり、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−1−ブチルアセテート、イソプロパノールが好ましい。
【0149】
これらの溶剤は1種を単独でもしくは2種以上を混合して使用することができる。
又、これらの溶剤は、感光性組成物溶液中の全固形分の割合が、通常10重量%以上、
好ましくは15重量%以上、通常90重量%以下、好ましくは50重量%以下となるように使用されることが好ましい。感光性組成物溶液中の全固形分濃度がこの下限を下回ると、均一な塗膜が得られないおそれがあり、上限を上回ると必要な膜厚に制御できないおそれがある。
【0150】
[2]撥液性隔壁の形成方法
次に、上述した本発明の隔壁組成物を用いて撥液性隔壁を形成する方法について説明する。
[2−1]隔壁用感光性組成物の塗布工程
先ず、本発明の感光性組成物を基板上、もしくは基板上に形成された電極層や有機層などの他の層上に塗布して、塗布膜(以下、「隔壁形成用レジスト層」と称すことがある。)を形成するが、この隔壁形成用レジスト層を形成するに先立ち、隔壁形成用レジスト層の下引き層となる層を形成してもよい。
【0151】
感光性組成物の塗布方法としては、例えば、スピナー法、ワイヤーバー法、フローコート法、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法などを採用することができる。中でも、ダイコート法は、感光性組成物(塗布液)の使用量が大幅に削減され、かつ、スピンコート法によった際に付着するミストなどの影響が全くなく、異物発生が抑制されるなど、総合的な観点から好ましい。
【0152】
感光性組成物の塗布量は、乾燥膜厚として、下引き層を形成する場合は、下引き層も含めて、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、通常10μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは7μm以下の範囲である。なお、乾燥膜厚あるいは最終的に形成された撥液性隔壁(以下「バンク」と称す場合がある。)の高さが、基板全域に渡って均一であることが重要である。このばらつきが大きい場合には、有機層をパターニングした基板にムラ欠陥を生ずることとなる。
【0153】
感光性組成物の塗布に先立ち下引き層を形成する場合、下引き層は、通常、基板上または他の層上の全面に、親水性化合物含有組成物を塗布して乾燥することにより形成される。この親水性化合物含有組成物は、親水性化合物を含有し、通常はさらに溶剤を含有する。親水性化合物は膜を形成し得るものであれば特に限定されないが、膜形成やその後の隔壁形成用レジスト層を形成するための感光性組成物に対する耐性を確保させるためには、親水性化合物は親水性樹脂であることが好ましい。
【0154】
親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、膠、カゼイン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチル澱粉、サクローズオクタアセテート、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、水溶性ポリアミド、無水マレイン酸共重合体、アラビアゴム、水溶性大豆多糖類、ホワイトデキストリン、プルラン、カードラン、キトサン、アルギン酸、酵素分解エーテル化デキストリンなどの他、親水性モノマーを用いて(共)重合された(共)重合体などが挙げられる。
【0155】
親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、イタコン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルピロリドン、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート
、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、アミノ基もしくはそれらの塩、水酸基、アミド基およびエーテル基などから選ばれる親水性基を有するモノマーが挙げられる。本発明で用いる親水性化合物含有組成物は、これらの親水性化合物の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0156】
親水性化合物は、親水性化合物含有組成物の全固形分中、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上で、100重量%以下含有されることが好ましい。親水性化合物含有組成物中の親水性化合物の含有量が、上記下限より少ない場合、形成された下引き層を現像によって完全に除去することが困難となり、白抜けに繋がる。また、バンクによって区切れられた領域に、インク吐出型の塗布法によって、均一な有機層の形成が困難となる。
【0157】
本発明に係る親水性化合物含有組成物には、上記親水性化合物の他、必要に応じて他の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤、エチレン性不飽和化合物やその他反応性化合物、界面活性剤、フィラー、基板密着増強剤、酸やアルコールなどの現像促進剤、色材、熱重合防止剤、可塑剤、保存安定剤、表面保護剤などが挙げられる。特に、親水性化合物含有組成物中に光重合開始剤やエチレン性不飽和化合物を含有させることにより該組成物に感光性をもたせ、隔壁形成用レジスト層と共に露光時に重合させることも、それぞれの界面での接着性を確保する意味で有用である。
【0158】
親水性化合物含有組成物に含有される溶剤としては、親水性化合物含有組成物の固形分が溶解若しくは分散可能で、均一な塗布を可能とするものであればよく特に限定されないが、親水性化合物はこの溶剤に分散しているよりも溶解している方が好ましく、この溶解性を確保する点から、水および/またはアルコール系溶剤を用いることが好ましい。上記親水性化合物含有組成物を、基板上に直接または他の層上に、塗布、乾燥することにより下引き層を形成する際の塗布方法、および乾燥方法は、本発明の感光性組成物の塗布方法及び乾燥方法と同様の方法及び条件を採用することができる。
【0159】
形成される下引き層の膜厚は、特に限定されないが、下引き層も含んだ出来上がりの撥液性隔壁高さの3/4以下が好ましく、1/2以下であることがより好ましく、1/3以下であることがさらに好ましく、1/6以下であることが特に好ましい。また1/10,000以上であることが好ましく、1/1,000以上であることが特に好ましい。これよりも下引き層の膜厚が大きくなると、次のような問題がある。すなわち、下引き層は通常隔壁形成用レジスト層の部分よりも、有機層形成用のインクに対する濡れ性が高いため、有機層を形成する際、隔壁壁面の下引き層表出部分において、有機層の塗布膜厚が高くなり、この状態で乾燥されてしまい、乾燥後も平らにならずに、隔壁によって区画された領域の中心部の厚みが薄く、周囲が厚い不均一な有機層が形成されてしまうおそれがある。逆に、下引き層の膜厚が上記下限よりも小さいと下引き層を形成したことによる効果が得られにくい。
【0160】
下引き層の具体的な膜厚は、5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、10nm以上が特に好ましく、4μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下が特に好ましい。下引き層の膜厚がこの下限を下回ると、下引き層の効果が得られ難く、上限を上回ると、上述の如く、バンクで区画された領域内に有機層が均一に形成され難くなる。
【0161】
[2−2]塗布膜の乾燥工程
感光性組成物を塗布して得られる塗布膜の乾燥は、ホットプレート、IRオーブン、ま
たはコンベクションオーブンを使用することが好ましい。乾燥条件は、感光性組成物の溶剤成分の種類、使用する乾燥機の性能などに応じて適宜選択することができ、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、通常130℃以下、好ましくは110℃以下の温度で乾燥する。また、乾燥時間としては、15秒以上が好ましく、30秒以上が好ましく、5分以下が好ましく、3分以下が好ましい。乾燥温度が低過ぎたり乾燥時間が短い場合には十分に乾燥を行うことができず、残った溶剤による、露光時の感度低下、現像不良や解像性の低下のおそれがあり、乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎると、生産性低下や、基板、その他の層の熱劣化の問題があり、好ましくない。なお、乾燥は、温度を高めず、減圧チャンバー内で乾燥を行う減圧乾燥法であってもよく、また加熱乾燥との併用でもよい。
【0162】
[2−3]隔壁形成工程
感光性組成物を基板上、または基板上に形成された有機層上や上記下引き層上に、全面塗布乾燥することで隔壁形成用レジスト層を形成した後、隔壁のパターン(バンクパターン)を露光して、現像処理することにより隔壁を形成する。
[2−3−1]露光
露光は、感光性組成物を塗布、乾燥して形成された隔壁形成用レジスト層上に、ネガのマスクパターンを重ね、このマスクパターンを介し、紫外線または可視光線等の光活性線の光源を照射して行う。このように露光マスクを用いて露光を行う場合には、露光マスクを隔壁形成用レジスト層に近接させる方法や、露光マスクを隔壁形成用レジスト層から離れた位置に配置し、該露光マスクを介した露光光を投影する方法によってもよい。また、露光マスクを用いないレーザー光による走査露光方式によってもよい。この際、必要に応じ、酸素による隔壁形成用レジスト層の感度の低下を防ぐため、脱酸素雰囲気下で行ったり、隔壁形成用レジスト層上にポリビニルアルコール層などの酸素遮断層を形成した後に露光を行ってもよい。
【0163】
上記の露光に使用される光源は、特に限定されるものではない。光源としては、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、タングステンランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、中圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、蛍光ランプなどのランプ光源や、アルゴンイオンレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、窒素レーザー、ヘリウムカドミニウムレーザー、青紫色半導体レーザー、近赤外半導体レーザーなどのレーザー光源などが挙げられる。特定の波長の光を照射して使用する場合には、光学フィルタを利用することもできる。光学フィルタとしては、例えば薄膜で露光波長における光透過率を制御可能なタイプでもよく、その場合の材質としては、例えばパイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス等の各種透明ガラス、Cr化合物(Crの酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物など)、MoSi、Si、W、Alなどが挙げられる。
【0164】
露光量としては、通常、1mJ/cm以上、好ましくは5mJ/cm以上であり、通常300mJ/cm以下、好ましくは200mJ/cm以下、より好ましくは150mJ/cm以下である。また、近接露光方式の場合には、露光対象とマスクパターンとの距離としては、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下である。
【0165】
[2−3−2]現像
上記の露光を行った後、現像することで、隔壁の画像パターンを形成することができる。現像に用いる現像液としては、限定されるものではないが、アルカリ性化合物の水溶液や有機溶剤、水などを用いることが好ましい。現像液には、さらに界面活性剤、緩衝剤、錯化剤、染料または顔料を含ませることができる。
【0166】
アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、水酸化アンモニウムなどの無機アルカリ性化合物や、モノ−・ジ−またはトリエタノールアミン、モノ−・ジ−またはトリメチルアミン、モノ−・ジ−またはトリエチルアミン、モノ−またはジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノ−・ジ−またはトリイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、コリンなどの有機アルカリ性化合物が挙げられる。これらのアルカリ性化合物は、2種以上の混合物であってもよい。
【0167】
尚、本発明の感光性組成物を有機電界発光素子の隔壁形成に用いる場合は、表示装置への悪影響が少ない点で現像液として、有機アルカリ性化合物の水溶液を用いることが好ましい。この場合、この有機アルカリ性化合物水溶液の有機アルカリ性化合物濃度は過度に高濃度であると隔壁にダメージを与える可能性があり、過度に低濃度であると充分な現像性が確保できない可能性がある。また、現像剤の影響をなくする目的で、有機アルカリ性化合物を用いずに、前述の下引き層で例示したポリビニルアルコール(共)重合体などをバインダーに用い、水現像を行うこともできる。
【0168】
有機溶剤としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、プロピレングリコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよく、また水溶液として用いてもよい。例えば、TMAH等の有機アルカリ0.05〜5重量%と、エチルアルコール等のアルコール類0.1〜20重量%を含む水溶液として用いてもよい。
【0169】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、モノグリセリドアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、アルキルスルホン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類などのアニオン性界面活性剤;アルキルベタイン類、アミノ酸類などの両性界面活性剤:が挙げられる。
【0170】
現像処理の方法については特に制限は無いが、通常10℃以上、好ましくは15℃以上、通常50℃以下、好ましくは45℃以下の現像温度で、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法により行われる。下引き層を形成した場合、この現像の際に、非画像部の下引き層は隔壁形成用レジスト層とともに除去される。従って、非画像部に隔壁形成用レジスト層および下引き層は残留せず、非画像部には、下引き層の下層の基板または他の層が表出する。ここで、非画像部とは、露光、現像により除去される部分であって、隔壁として残る以外の部分をいう。
【0171】
上記現像処理が終了した後、画像パターンをアルコールなどの有機溶剤で洗浄することが好ましい。例えば、隔壁が形成された基板を極性有機溶剤に浸漬してもよいし、極性有機溶剤を噴霧して基板に吹きつけてもよい。この場合の極性有機溶剤としては前述の感光性組成物に用いられる溶剤の中から適宜選択できるが、好ましくは、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールを挙げることができる。
【0172】
[2−3−3]追露光および熱硬化処理
現像の後、必要に応じて、隔壁表面の撥液剤を架橋や固定したりして撥液性を高めるためや、撥液性隔壁の形状を制御するために、上記の露光方法と同様な方法により追露光を
行ってもよく、また硬化性を向上させたり、撥液性隔壁の形状を制御するために、熱硬化処理を行ってもよい。追露光の条件としては、上記露光条件と同様である。
【0173】
熱硬化処理条件の温度は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、通常280℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下であり、時間は、通常5分以上、好ましくは20分以上、通常60分以下である。特に、撥液性の発現には、熱硬化処理を200〜240℃で20〜60分程度実施することが好ましい。
【0174】
[3]有機層の形成
本発明の隔壁組成物は、有機EL素子の有機層を区画する撥液性隔壁を形成するために用いられるものである。すなわち、上述のようにして形成された撥液性隔壁は、当該隔壁により区画された領域に有機層を形成するために用いられる。
以下に、この有機層の形成方法について説明する。
【0175】
この隔壁で区画された領域(以下「バンク区画内」と称す場合がある。)に有機層を形成させるには、通常、有機層の成分を溶剤に溶解または分散させたインクをバンク区画内に供給して乾燥する。このインクをバンク区画内に供給させる方法は特に限定されないが、インクジェット法(液滴吐出法)やノズルプリント法(液流吐出法)といったインク吐出型の塗布法が好ましい(特開昭59−75205号公報、特開昭61−245106号公報、特開昭63−235901号公報など参照。)。すなわち、インク吐出型の塗布法は特定の領域にのみ選択的にインクを塗布することができ、材料ロスが少なく、また効率的な製造プロセスで良好に有機層を形成することができるという利点を有している。また、インクの塗布とパターニングの両方を同時に行うことが可能であるという特徴があるため、現像工程を省略できるという大きな利点があり、製造コストの点で極めて有利な製造法である。
【0176】
インク吐出型の塗布法に用いられるインクの溶剤としては、高沸点溶剤成分を比較的多く添加することにより、ノズルの乾燥を防止することが一般的に知られており、また、パターニングを塗布と同時に行う吐出型の塗布法においては、スピンコート法やダイコート法と異なり、組成物中の溶剤成分が、最終的に得られる塗膜の膜厚や、形状、均一性にことのほか影響を与えることが報告されており(「表面科学セミナー」2001年65〜77頁など)、溶剤の選定にはこれらを考慮した上で最適な溶剤を選定することが好ましい。また、特に、インクジェット法の場合、20plの液滴サイズで被塗布面に着滴させたとき、着滴後1分経過後の液滴径が100〜400μmのような溶剤であることが好ましく、さらに好ましくはこの液滴径は150〜300μmである。これにより、膜厚ムラやピンホールの発生を防止し、かつ端部の直線性を確保することができるが、この点でもインクに用いられる溶剤の与える影響が最も大きい。インクジェット法による液滴径は濡れ拡がり性(接触角)と強い相関が見られるが、通常は粘度や表面張力を低くすることで、液滴径を大きくすることができる。また被塗布面への親和性が高い溶剤の含有量を増やすと、液滴径を大きくすることができる。
【0177】
バンク区画内にインクを供給した後は、乾燥工程によって有機層を形成させるが、この乾燥条件は公知の方法を自由に選定することができ、例えばホットプレート、IRオーブン、コンベクションオーブンなどが挙げられる。また、温度を高めず、減圧チャンバー内で乾燥を行う、減圧乾燥法を組み合わせてもよい。またその環境は、形成させる有機薄膜の特性に応じて、大気中、N2 ガス中、減圧中などを選定できる。
【0178】
[4]有機電界発光素子
本発明の隔壁組成物を用いて基板上に直接または他の層を介して撥液性隔壁を形成し、
この隔壁に区画された領域内に有機層を形成して有機EL表示装置を製造することができる。本発明において、赤緑青の各素子を有機電界発光素子といい、各素子が集合したものを有機EL表示装置という。また、前述の通り、感光性組成物の塗布に先立って下引き層を形成した場合は、隔壁は、下引き層を有する2層以上の積層構造となっている。
【0179】
以下、有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子において、バンク区画内に形成される有機層としては、高精度に色分けができるという点においても発光層であることが好ましい。また、撥液性隔壁は、基板上に形成させる場合の外、有機層上に形成させることもできる。その有機層としては、正孔注入層、正孔輸送層あるいは、正孔注入層上の正孔輸送層が好ましい。
【0180】
以下に、本発明の有機EL素子の層構成およびその一般的形成方法などについて、図
1を参照して説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、
1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0181】
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機EL素子に用いられる塗布用組成物特有の液性に合うためである。
【0182】
[4−1]基板
基板1は有機EL素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機EL素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0183】
[4−2]陽極
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金などの金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子などにより構成される。
【0184】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0185】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる
場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。また、陽極2に付着した不純物を去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは、好ましい。
【0186】
[4−3]正孔注入層
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0187】
[4−3−1]湿式成膜法による正孔注入層の形成
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0188】
[4−3−1−a]正孔輸送性化合物
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。正孔輸送性化合物は、通常、有機EL素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよい。
【0189】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、およびキナクリドン系化合物などが挙げられる。
【0190】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物の1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物の1種または2種以上を併用することが好ましい。
【0191】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1,000以上、1,000,000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(VI)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物
が挙げられる。
【0192】
【化16】

【0193】
(式(VI)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0194】
【化17】

【0195】
(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。))
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。RおよびRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0196】
前記一般式(VI)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、WO2005/089024号公報に記載のものが挙げられる。
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜
厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0197】
[4−3−1−b]電子受容性化合物
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0198】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物などが挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラートなどの有機基の置換したオニウム塩(WO2005/089024号公報);塩化鉄(いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)などの芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素などが挙げられる。
【0199】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
[4−3−1−c]その他の構成材料
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0200】
[4−3−1−d]溶剤
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0201】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)などの脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソールなどの芳香族エーテル、などが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチルなどの芳香族エステル、などが挙げられる。
【0202】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレンなどが挙げられる。アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。その他、ジメチルスルホキシドなども用いることができる。これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0203】
[4−3−1−e]成膜方法
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成することができる。成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0204】
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0205】
[4−3−2]真空蒸着法による正孔注入層の形成
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物など)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0206】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。 蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0207】
[4−4]正孔輸送層
正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、
ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。ただし、本発明の有機EL素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0208】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0209】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)などが挙げられる。
【0210】
湿式成膜で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0211】
正孔輸送層4は架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。ここで、架橋性化合物は、架橋基を有する化合物であって、架橋することによりポリマーを形成する。架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。架橋性化合物の架橋基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合;ベンゾシクロブタンなどが挙げられる。
【0212】
架橋性化合物、すなわち、架橋基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーが有する架橋基の数に特に制限はないが、単位電荷輸送ユニットあたり通常2.0未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下となる数が好ましい。これは正孔輸送層形成材料の比誘電率を好適な範囲に調整するためである。また、架橋基の数が多すぎると、反応活性種が発生し、他の材料に悪影響を与える可能性があるためである。ここで、単位電
荷輸送ユニットとは、架橋性ポリマーを形成する材料がモノマー体の場合、モノマー体そのものであり、架橋基を除いた骨格(主骨格)のことを示す。他種類のモノマーを混合する場合においても、それぞれのモノマーの主骨格のことを示す。架橋性ポリマーを形成する材料がオリゴマーやポリマーの場合、有機化学的に共役がとぎれる構造の繰り返しの場合は、その繰り返しの構造を単位電荷輸送ユニットとする。また、広く共役が連なっている構造の場合には、電荷輸送性を示す最小繰り返し構造、乃至はモノマー構造を示す。例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、ペリレンなどの多環系芳香族、フルオレン、トリフェニレン、カルバゾール、トリアリールアミン、テトラアリールベンジジン、1,4−ビス(ジアリールアミノ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0213】
更に、架橋性化合物としては、架橋基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。この場合の正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体などの含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。架橋性化合物の分子量は、通常5,000以下、好ましくは2,500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。
【0214】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜法により成膜し、その後架橋性化合物を架橋させる。この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。また、正孔輸送層形成用組成物は、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物、バインダー樹脂などを含有していてもよい。
【0215】
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させてポリマー化する。
【0216】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。成膜後の加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0217】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハ
ロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0218】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
[4−5]発光層
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0219】
[4−5−1]発光層の材料
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0220】
[4−5−1−a]発光材料
発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における、蛍光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部または全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。発光材料としては、通常、有機電界発光素子の発光材料として使用されているものであれば限定されない。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。また、青色は蛍光発光材料を用い、緑色や赤色は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。なお、発光材料としては、溶剤への溶解性を向上させる目的で、分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基が導入されたりしている材料を用いることが好ましい。
【0221】
以下、発光材料のうち蛍光発光材料(蛍光色素)の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるものではない。青色発光を与える蛍光色素(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体などが挙げられる。 中でも、アントラセン、クリセン、ピレンおよびそれらの誘導体などが好ましい。緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン、クマリン、Al(CNO)などのアルミニウム錯体およびそれらの誘導体等が挙げられる。黄色発光を与える蛍光色素(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドンおよびそれらの誘導体などが挙げられる。赤色発光を与える蛍光色素(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチレン)−4H−ピラン)系化合物、ベンゾピラン、ローダミン、ベンゾチオキサンテン、アザ
ベンゾチオキサンテン等のキサンテンおよびそれらの誘導体などが挙げられる。
【0222】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などが挙げられ、中でもより好ましくはイリジウムまたは白金である。錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0223】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリンなどが挙げられる。
【0224】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10,000以下、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機EL素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0225】
発光層5における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0226】
[4−5−1−b]正孔輸送性化合物
発光層5には、その構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、前述の正孔注入層3における(低分子量の正孔輸送性化合物)として例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72−74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209
)、熱解離性基を有する芳香族アミン化合物(特願2008−204342)などが挙げられる。
【0227】
これらの正孔輸送性化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。また、発光層5が正孔輸送性化合物を含む場合、発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0228】
[4−5−1−c]電子輸送性化合物
発光層5には、その構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス〔6’−(2’,2”−ビピリジル)〕−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)などが挙げられる。
【0229】
これらの電荷輸送性化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。発光層5が電子輸送性化合物を含む場合、発光層5における電子輸送性化合物の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0230】
[4−5−2]発光層の形成
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、上記材料を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。発光層5を湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。発光層用溶剤の好適な例は、上記正孔注入層形成用組成物で説明した溶剤と同様である。
【0231】
発光層5を形成するための発光層形成用組成物中の発光層用溶剤の含有割合は、本発明
の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。また、発光層形成用組成物中の発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、通常70重量%以下、好ましくは30重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0232】
このような発光層形成用組成物を用いて発光層5を形成するには、発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去する。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。湿式成膜の具体的な方法は、上記正孔注入層3の形成において記載した方法と同様である。
このようにして形成される発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0233】
[4−6]正孔阻止層
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0234】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0235】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
[4−7]電子輸送層
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0236】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0237】
電子輸送層7の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
[4−8]電子注入層
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金など等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0238】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0239】
尚、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。電子注入層8の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
[4−9]陰極
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀などの適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金などの低仕事関数合金電極が挙げられる。なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0240】
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金などの金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0241】
[4−10]その他の層
本発明に係る有機EL素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
上記説明にある層の他に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は、電子阻止層を設けることが効果的である。
【0242】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明の有機EL素子用組成物を用いて湿式成膜法で作製する場合、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号公報記載)等が挙げられる。なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。電子阻止層の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0243】
さらに陰極9と発光層5または電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)などで形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters,1997年,Vol.70,pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices,1997年,Vol.44,pp.1245;SID 04 Digest,pp.154など参照)。
【0244】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機EL素子を構成することも可能である。また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)などからなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。この場合、隔壁は陰極上または、陰極上に形成された層上に設けることができる。
【0245】
更には、本発明に係る有機EL素子は、単一の有機EL素子として構成してもよく、複数の有機EL素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。

【0246】
[4−11]各層の形成
本発明の感光性組成物を用いて、図1に示す上述のような本発明の有機EL素子を製造するには、基板1上に陽極2と、有機層としての正孔注入層3と正孔輸送層4とを形成し、この上に必要に応じて前述の下引き層を形成した後、本発明の感光性組成物を塗布して隔壁形成用レジスト層を形成し、その後、露光、現像を行って、撥液性隔壁を形成する。その後、この隔壁で区画された領域内に、有機層として発光層5を形成し、さらに、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9を形成して有機EL素子10とする。
【0247】
[5]表示装置
本発明の表示装置は、上述の本発明の有機EL素子を用いたものである。本発明の表示
装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機EL素子を用いて常法に従って組み立てることができる。例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0248】
この表示装置は、基板上に、直接または他の層を介して撥液性隔壁を有し、該隔壁によって区画された領域内に有機層として好ましくは発光層を有するが、この隔壁の形成に、本発明の隔壁用感光性組成物を用いることにより、形成された隔壁(の壁面)と基板または他の層とが形成する角度が15°以上、好ましくは20°以上、通常90°以下、好ましく85°以下とすることにより、混色のない均一な有機層となる。この角度が上記下限を下回ると、例えば有機層をインクジェット法で成膜する際、有機層のインクが隔壁を乗り越えやすい。また、この角度が上記上限を上回ると、電極の断線がおこりやすい。
【実施例】
【0249】
本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例で用いた感光性組成物の調製に用いた各成分の詳細は次の通りである。
(A)成分;エチレン性不飽和化合物
(A1)以下の化合物(ナガセケムテックス社製「エポキシアクリレートモノマーDA721」)
【0250】
【化18】

【0251】
(A2)ペンタエリスリトールトリアクリレート65%とペンタエリスリトールテトラアクリレート35%との混合物(日本化薬社製「KAYARAD PET−30」)
(A3)以下のカプロラクトン変性メタクリルロイルオキシエチルアシッドホスフェート(日本化薬社製「カヤマーPM−21」)
【0252】
【化19】

【0253】
(B)成分;光重合開始剤
(B1)以下の化合物(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「イルガキュアー907」)
【0254】
【化20】

【0255】
(B2)以下のオキシムエステル化合物
【0256】
【化21】

【0257】
(B3)以下のケトオキシムエステル化合物
【0258】
【化22】

【0259】
(C)成分;アルカリ可溶性バインダー
(C1)以下のようにして合成した前記[1−3−b−4]酸変性エポキシ基含有共重合体
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート145重量部を窒素置換しながら攪拌し、120℃に昇温した。ここにスチレン20重量部、グリシジルメタクリレート57重量部およびトリシクロデカン骨格を有するモノアクリレート(日立化成社製「FA−513M」)82重量部を滴下し、さらに140℃で2時間攪拌し続けた。次に、反応容器内を空気置換し、アクリル酸27重量部にトリスジメチルアミノメチルフェノール0.7重量部およびハイドロキノン0.12重量部を投入し、120℃で6時間反応を続けた。その後、テトラヒドロ無水フタル酸(THPA)52重量部と、トリエチルアミン0.7重量部を加え、120℃で3.5時間反応させ、アルカリ可溶性バインダー(C1)を得た。得られたアルカリ可溶性バインダー(C1)の重量平均分子量(Mw)をGPCにより測定したところ、約8,000であった。
【0260】
(C2)スチレン/メタクリル酸/メチルメタクリレート/n−ブチルメタクリレート共重合体(45モル%/20モル%/30モル%/5モル%、重量平均分子量(Mw)10,000)
(D)成分;撥液剤
(D1)大日本インキ化学工業社製「メガファックRS102」
(E)成分;界面活性剤
(E1)ビックケミカル社製ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤「BYK330」
溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMA)
(実施例1)
<隔壁用感光性組成物の調製>
エチレン性不飽和化合物(A1)17重量部、エチレン性不飽和化合物(A2)17重量部、エチレン性不飽和化合物(A3)1重量部、光重合開始剤(B3)1.5重量部、アルカリ可溶性バインダー(C1)9重量部、撥液剤(D1)1.5重量部、および界面活性剤(E1)0.1重量部と、溶剤としてPGMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)400重量部を含有する隔壁用感光性組成物を調製した。
【0261】
<陽極の形成>
ガラス基板の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nmの厚みで成膜した(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)。この透明導電膜に、通常のフォトリソグラフィー技術により、2mm幅のストライプにパターニングし陽極を形成した。陽極を形成した基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、紫外線オゾン洗浄を行った。
【0262】
<隔壁の形成>
前記で調製した隔壁用感光性組成物を、前記基板上にスピンコート法(毎分600回転、10秒間)により塗布し、ホットプレート上で窒素雰囲気下、80℃で3分間乾燥させることにより、乾燥後膜厚2μmの塗布膜を形成した。この塗布膜に対して、30μm幅のライン状の開口が100μmピッチで格子状に並ぶマスクを塗布膜から20μm離れた位置に設置し、このマスクを介して、露光光源として3kW高圧水銀灯を用い、照射強度50mJ/cmで照射、露光した。次いで、0.1重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを含有する水溶液を現像液として、23℃、水圧0.14MPaでシャワー現像し、純水で現像を停止した後、水洗スプレーにてリンスすることにより現像処理を行った。尚、シャワー現像時間は、露光、現像により除去される塗布膜が溶解除去される時間(ブレーク時間)の10倍となるよう、30〜120秒間の間で調整した。現像処理後、60℃で3分間乾燥させた後、260℃で1時間加熱し、熱硬化させることにより、撥液性隔壁を形成した。
【0263】
<正孔注入層の形成>
正孔注入層の材料として、下記式で表される芳香族アミン系高分子化合物(W1:重量平均分子量(Mw)29,400、数平均分子量(Mn)12,600)、電子受容性化合物(W2)および溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。この組成物の固形分(芳香族アミン系高分子化合物および電子受容性化合物)の濃度は2重量%とした。また、(W1):(W2)=10:4(重量比)とした。この正孔注入層形成用組成物をインクジェット法にて、前記で形成した各撥液性隔壁区画内に液滴量25plで吐出した後、130℃で1時間乾燥させ、更に230℃で1時間加熱処理を施すことにより、膜厚40nmの正孔注入層を形成した。
【0264】
【化23】

【0265】
<正孔輸送層の形成>
上記正孔注入層の上に正孔輸送層を形成した。正孔輸送層の材料として、以下に示す化合物(X1)および溶剤としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。この組成物中における化合物(X1)の濃度は0.4重量%とした。この正孔輸送層形成用組成物をインクジェット法にて、前記で形成した各撥液性隔壁区画内の正孔注入層の上に液滴量25plで吐出した後、130℃で1時間乾燥させ、更に230℃で1時間加熱処理を施すことにより、膜厚20nmの正孔輸送層を形成した。
【0266】
【化24】

【0267】
<発光層の形成>
次に、以下の示す化合物(Y1)、(Y2)、およびイリジウム錯体(Y3)を、(Y1):(Y2):(Y3)=10:10:1(重量比)の比率で、溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを用い、固形分濃度1重量%の発光層形成用組成物を調製した。この発光層形成用組成物をインクジェット法にて、前記で形成した各撥液性隔壁区画内の正孔輸送層の上に液滴量25plで吐出した後、10−3Paの減圧下で60秒間予備乾燥を施した後、常圧にて130℃で1時間乾燥し、膜厚40nmの発光層を形成した。
【0268】
【化25】

【0269】
<正孔阻止層の形成>
次に、発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が5.1×10−4Pa以下になるまで排気した後、正孔阻止材料として、下記の化合物(Z1)を、蒸着速度を0.7〜1.0Å/秒の範囲で制御し、発光層の上に膜厚5nmで蒸着することにより、正孔阻止層を形成した。
【0270】
【化26】

【0271】
<電子輸送層の形成>
次に、電子輸送材料としてトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを、蒸着速度を0.6〜1.5Å/秒の範囲で制御し、前記正孔阻止層の上に膜厚30nmで蒸着することにより、電子輸送層を形成した。
<電子注入層の形成>
続けて、陰極蒸着用の真空蒸着装置に移して、装置内の真空度が2.1×10−4Pa以下になるまで排気した後、フッ化リチウム(LiF)を、蒸着速度を0.07〜0.1Å/秒の範囲で制御し、前記電子輸送層の上に膜厚0.5nmで蒸着することにより、電子注入層を形成した。
【0272】
<陰極の形成>
さらに、アルミニウムを、蒸着速度を0.7〜6.1Å/秒の範囲で制御し、前記電子注入層の上に膜厚120nmで蒸着することにより、陰極を形成した。
<封止>
上記方法で得られた各層が形成された基板と、別途用意した封止用のガラスとを紫外線硬化性樹脂により貼り合わせ、紫外線を照射することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0273】
<有機電界発光素子の評価>
得られた有機電界発光素子について、電圧を印加して、1,000cd/mにて発光させたところ、初期の発光強度が半分になるまでの時間は200時間であった。また、隔壁区画内の面積に対する発光面積の割合は、70%であった。
(実施例2)
(B)成分の光重合開始剤として、光重合開始剤(B2)を用いた外は、実施例1におけると同様にして有機電界発光素子を製造し、同様にして評価を行ったところ、初期の発光強度が半分になるまでの時間は100時間であった。また、隔壁区画内の面積に対する発光面積の割合は、60%であった。
【0274】
(実施例3)
(C)成分のアルカリ可溶性バインダーとして、アルカリ可溶性バインダー(C2)を用いた外は、実施例2におけると同様にして有機電界発光素子を製造し、同様にして評価を行ったところ、初期の発光強度が半分になるまでの時間は70時間であった。また、隔壁区画内の面積に対する発光面積の割合は、60%であった。
【0275】
(比較例1)
(B)成分の光重合開始剤として、光重合開始剤(B1)を用い、露光強度を1,000mJ/cmとした外は、実施例1におけると同様にして有機電界発光素子を製造し、同様にして評価を行ったところ、初期の発光強度が半分になるまでの時間は50時間であった。また、隔壁区画内の面積に対する発光面積の割合は、50%であった。
【0276】
(比較例2)
界面活性剤(E1)を使用しない以外は、実施例1と同様にして隔壁用感光性組成物を調製した。該組成物を用いて、陽極を形成させたガラス基板上に毎分600回転、10秒間にてスピンコート法による塗布を行った。その後、ホットプレート上に窒素雰囲気下で80℃ 3分間乾燥させることにより、乾燥後膜厚2μmの塗布膜を形成した。
【0277】
しかし、該塗布膜の塗布の回転中心から放射状に塗布ムラの発生が見られ、有機EL素子を製造することができなかった。
尚、前記実施例1〜3、および比較例1における有機EL素子製造時のアウトガスの発生状況を以下の方法で評価したところ、実施例1では「A」、実施例2では「B」、実施例3では「C」、比較例1では「D」であった。
【0278】
<アウトガス量の評価>
前記と同様にして陽極を形成したガラス基板上に、スピンコート法により各隔壁用感光性組成物を塗布し、窒素雰囲気下、80℃で3分間乾燥させることにより、膜厚2μmの塗布膜を形成した(この基板を「基板I」とする。)。一方、前記と同様にして陽極を形成したガラス基板上に、前記と同様にして膜厚40nmの正孔注入層および膜厚20nmの正孔輸送層を形成し(この基板を「基板II」とする。)、基板Iの感光性組成物塗布膜面と基板IIの正孔輸送層面とを10μm離間させ向かい合わせて固定し、基板Iのガラス基板側をホットプレート上に載置し、230℃で1時間加熱して感光性組成物塗布膜を熱硬化させた。
【0279】
このとき、基板Iの感光性組成物塗布膜から発生するアウトガスは、基板IIの正孔輸送層表面に付着凝集して、直径100〜200nmの粒状固形物粒子を発生させる。この粒子の発生状況を、日立製作所社製走査型電子顕微鏡「S4100」により、30,000倍の解像倍率にて観察し、5μm×5μmの面積中に存在する粒子の数を数え、以下の評価基準により評価した。
【0280】
A;粒子数が5個未満。
B;粒子数が5個以上20個未満。
C;粒子数が20個以上100個未満。
D;粒子数が100個以上。
【符号の説明】
【0281】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性バインダー、(D)撥液剤、及び(E)界面活性剤を含有し、
(B)光重合開始剤が下記一般式(II)で表わされる(ケト)オキシムエステル系化合物であり、
且つ(D)撥液剤がフッ素系化合物であり、
(E)界面活性剤がシリコン系界面活性剤であることを特徴とする有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【化1】

(一般式(II)中、
Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していてもよい−(CH=CH)−あるいは−(C≡C)−(但し、mは1〜5の整数を表す。)を含む基、又はこれらの組合せからなる2価の基であり、
は、置換基を有していてもよい芳香族基を含む1価の基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアルキルチオアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルケニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルケニルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキニルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールチオカルボニル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールチオカルボニル基、−O−N=C(R' )R''、−O−N=C(R' )COR''、−N(R' )OR''、−N(OR' )COR''、又は−N(OCOR' )COR''(但し、R'、及びR''は各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、又は
置換基を有していてもよいアリール基を表す。)であり、
は、置換基を有していてもよいアルカノイル基、置換基を有していてもよいアルケノイル基、置換基を有していてもよいアルキノイル基、置換基を有していてもよいシクロアルカノイル基、置換基を有していてもよいアリーロイル基、置換基を有していてもよいヘテロアリーロイル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基であり、
nは0又は1である。)
【請求項2】
前記一般式(II)におけるRが下記一般式(IIа)で表される基であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【化2】

(一般式(IIa)中、
〜Rは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が5〜8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜12のアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜12のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜20のアルコキシカルボニルアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が6〜20のフェニル基、置換基を有していてもよい炭素数が7〜20のベンジル基、置換基を有していてもよい炭素数が7〜20のベンゾイル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のフェノキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のフェノキシカルボニルアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜20のヘテロアリーロイル基、置換基を有していてもよい炭素数が8〜20のヘテロアリールオキシカルボニルアルカノイル基、−SR101 、−SOR101、−SO10
、又は−NR101102(但し、R101及びR102は各々独立して、水素原
子、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数が3〜12のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数が2〜8のアルカノイル基、置換基を有していてもよい炭素数が6〜20のアリール基、又は炭素数が3〜15のトリアルキルシリル基を表す。)であり、
〜Rの少なくとも一つは、−SR101又は−NR101102である。
尚、R〜Rは、複数の置換基同士が結合して、更に置換基を有していてもよい、飽和或いは不飽和芳香族環を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記一般式(II)におけるRが、置換基を有していてもよいカルバゾリル基を含む1価の基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【請求項4】
前記一般式(II)において、n=1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【請求項5】
(D)撥液剤が、側鎖にエチレン性不飽和基を有するフッ素系化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物。
【請求項6】
基板上に、直接又は他の層を介して撥液性隔壁を有し、該撥液性隔壁によって区画された領域内に有機層を有する表示装置であって、該撥液性隔壁が請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の隔壁用感光性組成物を用いて形成されることを特徴とする表示装置。
【請求項7】
撥液性隔壁によって区画された領域内に有する有機層が、発光層であることを特徴とする請求項6に記載の表示装置。



【図1】
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【公開番号】特開2011−146375(P2011−146375A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281986(P2010−281986)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】