説明

有機電界発光素子及びその製造方法

【課題】外部量子効率が高い有機電界発光素子及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極の間に、正孔注入層と、正孔輸送層と、ホスト材料を含有する発光層とを含む有機層を有してなり、前記正孔注入層、前記正孔輸送層、及び前記発光層が燐光発光材料を含有してなり、前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量が10質量%以上50質量%未満であり、前記正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、前記発光層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、かつ前記正孔輸送層よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は、自発光、高速応答などの特長を持ち、フラットパネルディスプレイへの適用が期待されており、特に、正孔輸送性の有機薄膜(正孔輸送層)と電子輸送性の有機薄膜(電子輸送層)とを積層した2層型(積層型)のものが報告されて以来、10V以下の低電圧で発光する大面積発光素子として関心を集めている。積層型の有機電界発光素子は、正極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/負極、を基本構成としている。
【0003】
このような有機電界発光素子において、長寿命化を実現するため、種々の検討がなされており、例えば、発光層中にホスト材料が50質量%以上含有され、正孔輸送層中に前記ホスト材料が5質量%〜50質量%以上含有され、かつ前記正孔輸送層中に含まれる正孔輸送性の材料のうち、前記ホスト材料以外の材料が前記発光層中に実質的に含まれない有機電界発光素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層が燐光発光材料を含有してなり、前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量が10質量%〜90質量%であり、前記正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、前記発光層よりも高い有機電界発光素子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、正孔注入層と発光層との間、又は、正孔輸送層と発光層との間に、混合層を有する有機電界発光素子が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、これらの有機電界発光素子では、長寿命化を図ることができるものの、高い外部量子効率が得られていないという問題がある。
【0004】
したがって、外部量子効率が高い有機電界発光素子及びその製造方法の速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−78373号公報
【特許文献2】国際公開第09/030981パンフレット
【特許文献3】特開2007−242910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、外部量子効率が高い有機電界発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 陽極と陰極の間に、正孔注入層と、正孔輸送層と、ホスト材料を含有する発光層とを含む有機層を有してなり、前記正孔注入層、前記正孔輸送層、及び前記発光層が燐光発光材料を含有してなり、前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量が10質量%以上50質量%未満であり、前記正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、前記発光層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、かつ前記正孔輸送層よりも高いことを特徴とする有機電界発光素子である。
<2> 正孔輸送層がホスト材料をさらに含有する前記<1>に記載の有機電界発光素子である。
<3> 発光層における燐光発光材料とホスト材料との質量比が、正孔輸送層における燐光発光材料とホスト材料との質量比の1倍〜10倍である前記<2>に記載の有機電界発光素子である。
<4> 正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、変化している前記<1>から<3>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<5> 正孔輸送層におけるホスト材料の濃度が、前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、変化している前記<2>から<4>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<6> 燐光発光材料が非対称構造である前記<1>から<5>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<7> 燐光発光材料が下記一般式(1)で表される化合物である前記<1>から<6>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
(L1)−Ir−(L2)・・・一般式(1)
前記一般式(1)において、L1及びL2は、それぞれ、異なる配位子を表す。
<8> ホスト材料が下記一般式(2)で表される化合物である前記<1>から<7>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
【化1】

前記一般式(2)において、Rは、t−ブチル基、t−アミル基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表し、R〜R23は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、シアノ基、フッ素、トリフロオロ基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表す。
<9> 正孔注入層がアリールアミン誘導体を含有し、該アリールアミン誘導体のイオン化ポテンシャルが4.8eV〜5.8eVであり、かつ前記アリールアミン誘導体と前記正孔注入層における燐光発光材料とのイオン化ポテンシャルの差が±0.2eV以内である前記<1>から<8>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の有機電界発光素子を製造する有機電界発光素子の製造方法であって、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を塗布により形成することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法である。
<11> 燐光発光材料が塗布に用いられる溶媒に対して可溶性である前記<10>に記載の有機電界発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、外部量子効率が高い有機電界発光素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層及び発光層中の燐光発光材料の濃度分布の一例を示すグラフである(その1)。
【図2】図2は、本発明の有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層及び発光層中の燐光発光材料の濃度分布の一例を示すグラフである(その2)。
【図3】図3は、本発明の有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層及び発光層中のホスト材料の濃度分布の一例を示すグラフである(その1)。
【図4】図4は、本発明の有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層及び発光層中のホスト材料の濃度分布の一例を示すグラフである(その2)。
【図5】図5は、本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す概略図である。
【図6】図6は、実施例3の有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層及び発光層中のIr濃度分布(膜厚プロファイル)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(有機電界発光素子)
本発明の有機電界発光素子は、一対の電極(陽極及び陰極)間に、有機層を有してなり、更に必要に応じて、その他の層を有してなる。
【0011】
<有機層>
前記有機層は、少なくとも、正孔注入層と、正孔輸送層と、発光層とを有してなり、更に必要に応じて、その他の層を有してなる。
【0012】
<<正孔注入層、正孔輸送層>>
前記正孔注入層及び正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。該正孔注入層及び正孔輸送層は、単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
前記正孔注入層及び前記正孔輸送層は、燐光発光材料を含有してなる。
前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量としては、10質量%以上50質量%未満である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20質量%〜45質量%が好ましく、20質量%〜40質量%がより好ましく、25質量%〜40質量%が特に好ましい。
前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量が、10質量%未満であると、体積比率での燐光材料濃度が小さくなることがあり、50質量%以上であると、前記正孔注入層上に前記正孔輸送層を形成する際に前記正孔注入層の膜はがれや溶解が発生することがある。一方、前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量が前記特に好ましい範囲内であると、正孔輸送層の湿式塗布による積層が可能で、かつ燐光発光材料の添加によるEL発光の効率向上の点で有利である。
前記正孔輸送層(HTL)における燐光発光材料の濃度は、例えば、図1に示すように、前記正孔注入層(HIL)よりも低い限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記正孔輸送層と発光層(EML)との界面から前記正孔輸送層と前記正孔注入層との界面にかけて、変化していることが好ましい。該変化は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、図2に示すように、連続的な変化(漸次的な変化)が好ましい。なお、前記燐光発光材料の濃度が前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、連続的に変化(漸次的に変化)する正孔輸送層は、前記発光層を塗布により形成した場合に、前記発光層中の燐光発光材料が正孔輸送層に混入することにより得られる。
【0013】
−燐光発光材料−
前記燐光発光材料としては、一般に、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体を挙げられ、非対称構造を有することが好ましい。
前記遷移金属原子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらの中でも、レニウム、イリジウム、白金がより好ましく、イリジウム、白金が特に好ましい。
前記ランタノイド原子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテシウムなどが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、ガドリニウムが好ましい。
【0014】
前記錯体の配位子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry,Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社、1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
前記配位子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、芳香族炭素環配位子(例えば、シクロペンタジエニルアニオン、ベンゼンアニオン、又はナフチルアニオンなど)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、又はフェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、アルコラト配位子(例えば、フェノラト配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子が好ましく、含窒素ヘテロ環配位子がより好ましい。
【0015】
前記錯体は、化合物中に遷移金属原子を1つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。異種の金属原子を同時に含有していてもよい。これらの中でも、燐光発光材料としては、例えば、Ir錯体、Pt錯体などが挙げられ、前記Ir錯体としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。また、前記Ir錯体及びPt錯体の具体例としては、例えば、下記のIr錯体及びPt錯体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(L1)−Ir−(L2)・・・一般式(1)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】


【化6】


【化7】

【化8】


【化9】

【0016】
これらの中でも、非対称構造である前記構造式(2)、(3)及び(7)のいずれかで表される化合物が、正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層の塗布による形成に用いられる溶媒に対して可溶性である点で、特に好ましい。前記非対称構造とは、前記構造式(2)、(3)及び(7)で表される化合物のように、中心金属に配位する配位子の少なくとも1つが他の配位子と異なることを意味する。さらに、構造式(3)、(7)で表わされる化合物のように、非対称構造を有し、かつ、C,Nでのみ配位する錯体では熱分解温度が高い点で、より好ましい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、2−ブタノンなどが挙げられる。
乾燥温度としては、溶媒の沸点より高い温度で、より好ましく溶媒の沸点より+10℃高い温度である。乾燥時間としては、数分〜数時間、より好ましくは、2分〜120分である。なお、適宜、真空乾燥や、イナートオーブン(不活性ガス雰囲気)などを用いてもよい。
【0017】
また、前記正孔輸送層(HTL)は、前記燐光発光材料を含有してなる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、図3に示すように、ホスト材料を含有してなることが好ましい。
また、前記正孔輸送層(HTL)におけるホスト材料の濃度が、前記正孔輸送層(HTL)と発光層(EML)との界面から前記正孔輸送層(HTL)と正孔注入層(HIL)との界面にかけて、変化していることが好ましい。該変化は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、図4に示すように、連続的な変化(漸次的な変化)が好ましい。なお、前記ホスト材料の濃度が前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、連続的に変化(漸次的に変化)する正孔輸送層は、前記発光層を塗布により形成した場合に、前記発光層中のホスト材料が正孔輸送層に混入することにより得られる。
【0018】
−ホスト材料−
前記ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(2)及び(3)のいずれかで表される化合物等の正孔輸送性ホスト、などが挙げられる。
【化10】

前記一般式(2)において、Rは、t−ブチル基、t−アミル基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表し、R〜R23は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、シアノ基、フッ素、トリフロオロ基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表す。
【化11】

前記一般式(3)において、Rは、t−ブチル基、t−アミル基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表し、R〜R23は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、シアノ基、フッ素、トリフロオロ基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表す。
【0019】
前記一般式(2)で表される化合物の正孔輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【化12】

【化13】

【0020】
前記一般式(3)で表される化合物の正孔輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【化14】

【0021】
−−正孔輸送性ホスト材料−−
前記正孔輸送性ホスト材料におけるイオン化ポテンシャルIpとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、5.1eV以上6.4eV以下であることが好ましく、5.4eV以上6.2eV以下であることがより好ましく、5.6eV以上6.0eV以下であることが特に好ましい。
前記正孔輸送性ホスト材料における電子親和力Eaとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、1.2eV以上3.1eV以下であることが好ましく、1.4eV以上3.0eV以下であることがより好ましく、1.8eV以上2.8eV以下であることが特に好ましい。
前記正孔輸送性ホスト材料における最低三重項励起準位(以下「T1」と称することがある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.2eV以上3.7eV以下が好ましく、2.4eV以上3.7eV以下がより好ましく、2.4eV以上3.4eV以下が特に好ましい。
【0022】
前記正孔輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、ピラゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、又はそれらの誘導体などが挙げられる。
これらの中でも、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、アザインドール誘導体、アザカルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、分子内にインドール骨格、カルバゾール骨格、アザインドール骨格、アザカルバゾール骨格、又は芳香族第三級アミン骨格を複数個有するものが特に好ましい。
また、本発明においてはホスト材料の水素を一部又はすべて重水素に置換したホスト材料を用いることができる(特開2009−277790号公報、特表2004−515506号公報)。
【0023】
−正孔注入材料、正孔輸送材料−
前記正孔注入層及び前記正孔輸送層に用いられる他の正孔注入材料、又は正孔輸送材料としては、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
前記正孔注入材料、又は正孔輸送材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロール誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン誘導体、有機シラン誘導体、カーボン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
特に、正孔注入層の材料としては、(1)電極との高い密着性が得られ、EL駆動時の電極−有機界面の剥離を抑制できる、(2)溶液が増粘することで、燐光発光材料の凝集を抑制できる、高分子化合物が好ましい。
また、これらの中でも、アリールアミン誘導体が好ましく、下記構造式(4)及び(5)で表される化合物(Mw=8,000、標準ポリスチレン換算)、PTPDES−2、PTPDES(ケミプロ化成製)、下記構造式(8)で表される化合物(米国特許US2008/0220265に記載のHTL−1)がより好ましい。なお、構造式(4)の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミションクロマトグラフ)を用いて、標準ポリスチレン換算で算出した。
なお、層間の過度な混合を抑制するために、架橋部位を有してもよい。架橋方法としては、ゾルゲル架橋、ラジカル重合、カチオン重合、開環重合などの任意の方法を用いることができる。
【化15】

ただし、前記構造式(4)中、nは、1以上の整数を表す。
【化16】

ただし、前記構造式(5)中、nは、1以上の整数を表す。
【化17】

【0024】
前記正孔注入層におけるアリールアミン誘導体のイオン化ポテンシャルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4.8eV〜5.8eVであることが好ましく、5.2eV〜5.8eVがより好ましく、5.4eV〜5.8eVが特に好ましい。前記アリールアミン誘導体のイオン化ポテンシャルが、4.8eV未満であると、ITO電極のイオン化ポテンシャルより小さくなり、隣接する正孔輸送層とのホールの注入障壁が大きくなることがあり、5.8eVを超えると、ITO電極との注入障壁が大きくなることがある。一方、前記アリールアミン誘導体のイオン化ポテンシャルが前記特に好ましい範囲内であると、ITOからの正孔注入層への注入障壁が小さく、かつ正孔注入層から正孔輸送層への注入障壁が小さくなり、有機電界発光素子の駆動電圧の低減の点で有利である。
前記正孔注入層におけるアリールアミン誘導体と前記正孔注入層における燐光発光材料とのイオン化ポテンシャルの差としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、±0.2eV以内であることが好ましい。前記イオン化ポテンシャルの差が前記特に好ましい範囲内であると、アリールアミン誘導体と燐光発光材料の両方にホールが注入されることになり、正孔注入層の伝導度が向上し、有機電界発光素子の電力効率が向上する点で有利である。
【0025】
前記正孔注入層、及び正孔輸送層には、電子受容性ドーパントを含有させることができる。
前記電子受容性ドーパントとしては、電子受容性で有機化合物を酸化する性質を有すれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機化合物でも有機化合物でも使用できる。
前記無機化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン等のハロゲン化金属;五酸化バナジウム、三酸化モリブデン等の金属酸化物、などが挙げられる。
前記有機化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、置換基としてニトロ基、ハロゲン、シアノ基、トリフルオロメチル基等を有する化合物;キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレン、などが挙げられる。
これらの電子受容性ドーパントは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
前記電子受容性ドーパントの使用量としては、材料の種類によって異なるが、正孔輸送層材料又は正孔注入材料に対して0.01質量%〜50質量%が好ましく、0.05質量%〜20質量%がより好ましく、0.1質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0026】
前記正孔注入層及び正孔輸送層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜500nmが好ましく、5nm〜200nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。
【0027】
<<発光層>>
前記発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、又は正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、又は電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。
前記発光層は、燐光発光材料を含有してなり、前記発光層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、かつ前記正孔輸送層よりも高い。
前記燐光発光材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記正孔注入層及び前記正孔輸送層で用いたものを用いることができる。
前記発光層は、ホスト材料を含有してなる。
前記ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記正孔輸送層で用いた正孔輸送性ホスト、後述する電子輸送性ホスト材料、などを用いることができる。
前記発光層における燐光発光材料とホスト材料との質量比(燐光発光材料の質量/ホスト材料との質量)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記正孔輸送層における燐光発光材料とホスト材料との質量比(燐光発光材料の質量/ホスト材料との質量)の1倍〜10倍であることが好ましく、1倍〜5倍であることがより好ましい。前記発光層における燐光発光材料とホスト材料との質量比が、前記正孔輸送層における燐光発光材料とホスト材料との質量比の1倍未満であると、ホール移動度が低下することがあり、10倍を超えると、発光層へのホールの注入が過多になり、隣接層、特に電子輸送層の劣化が促進され、有機電界発光素子の耐久性が低下することがある。一方、前記発光層における燐光発光材料とホスト材料との質量比が前記特に好ましい範囲内であると、有機電界発光素子の電力効率の向上と高耐久性の点で有利である。
【0028】
前記発光層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、2nm〜500nmが好ましく、外部量子効率の観点から、3nm〜200nmがより好ましく、10nm〜200nmが特に好ましい。また、前記発光層は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0029】
−−電子輸送性ホスト材料−−
前記電子輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが2.5eV以上3.5eV以下であることが好ましく、2.6eV以上3.4eV以下であることがより好ましく、2.8eV以上3.3eV以下であることが特に好ましい。
前記電子輸送性ホスト材料におけるイオン化ポテンシャルIpとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、5.7eV以上7.5eV以下であることが好ましく、5.8eV以上7.0eV以下であることがより好ましく、5.9eV以上6.5eV以下であることが特に好ましい。
前記電子輸送性ホスト材料における最低三重項励起準位(以下「T1」と称することがある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.2eV以上3.7eV以下が好ましく、2.4eV以上3.7eV以下がより好ましく、2.4eV以上3.4eV以下が更に好ましい。
このような電子輸送性ホスト材料としては、具体的には、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、及びそれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等を挙げることができる。
【0030】
前記電子輸送性ホストとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属錯体、アゾール誘導体(ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾピリジン誘導体等)、アジン誘導体(ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体等)が好ましく、これらの中でも、耐久性の点から金属錯体がより好ましい。
前記金属錯体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属に配位する少なくとも1つの窒素原子又は酸素原子又は硫黄原子を有する配位子をもつ金属錯体がより好ましい。
前記金属錯体中の金属イオンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、インジウムイオン、錫イオン、白金イオン、パラジウムイオンが好ましく、ベリリウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、パラジウムイオンがより好ましく、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、パラジウムイオンが特に好ましい。
【0031】
前記金属錯体中に含まれる配位子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、種々の公知の配位子が挙げられるが、例えば、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」、Springer−Verlag社、H.Yersin著、1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」、裳華房社、山本明夫著、1982年発行等に記載の配位子が挙げられる。
【0032】
前記配位子として、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数3〜15)が好ましい。これらは、単座配位子であっても、2座以上の配位子であってもよい。
前記配位子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2座以上6座以下の配位子、2座以上6座以下の配位子と単座の混合配位子などが好ましい。
前記配位子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アジン配位子(例えば、ピリジン配位子、ビピリジル配位子、ターピリジン配位子などが挙げられる。)、ヒドロキシフェニルアゾール配位子(例えば、ヒドロキシフェニルベンズイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾピリジン配位子などが挙げられる。)、アルコキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ、2,4,6−トリメチルフェニルオキシ、4−ビフェニルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロアリールオキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、アルキルチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロアリールチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、シロキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数3〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えば、トリフェニルシロキシ基、トリエトキシシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基などが挙げられる。)、芳香族炭化水素アニオン配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニルアニオン、ナフチルアニオン、アントラニルアニオンなどが挙げられる。)、芳香族ヘテロ環アニオン配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜25、特に好ましくは炭素数2〜20であり、例えばピロールアニオン、ピラゾールアニオン、ピラゾールアニオン、トリアゾールアニオン、オキサゾールアニオン、ベンゾオキサゾールアニオン、チアゾールアニオン、ベンゾチアゾールアニオン、チオフェンアニオン、ベンゾチオフェンアニオンなどが挙げられる。)、インドレニンアニオン配位子などが挙げられる。
これらの中でも、含窒素ヘテロ環配位子が好ましく、アリールオキシ配位子、ヘテロアリールオキシ基、シロキシ配位子がより好ましく、含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、シロキシ配位子、芳香族炭化水素アニオン配位子、芳香族ヘテロ環アニオン配位子などが特に好ましい。
【0033】
金属錯体電子輸送性ホスト材料としては、例えば、特開2002−235076号公報、特開2004−214179号公報、特開2004−221062号公報、特開2004−221065号公報、特開2004−221068号公報、特開2004−327313号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0034】
<<その他の層>>
前記その他の層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロック層、電子ブロック層などが挙げられる。
【0035】
−電子輸送層及び電子注入層−
前記電子注入層及び電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。
前記電子注入層もしくは電子輸送層の膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5nm〜500nmが好ましく、1nm〜200nmがより好ましい。
【0036】
前記電子注入層及び電子輸送層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、還元性ドーパントを含有することが好ましい。
前記還元性ドーパントとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体、及び希土類金属の有機錯体の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記還元性ドーパントの使用量としては、材料の種類によって異なるが、電子輸送層材料又は電子注入材料に対して0.1質量%〜99質量%が好ましく、0.3質量%〜80質量%がより好ましく、0.5質量%〜50質量%が特に好ましい。
【0037】
前記電子輸送層及び電子注入層としては、公知の方法に従って形成することができるが、例えば、蒸着法、湿式製膜法、MBE(分子線エピタキシー)法、クラスターイオンビーム法、分子積層法、LB法、印刷法、転写法などにより好適に形成することができる。
前記電子輸送層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、1nm〜100nmがより好ましく、1nm〜50nmが特に好ましい。
前記電子注入層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、1nm〜100nmがより好ましく、1nm〜50nmが特に好ましい。
【0038】
−正孔ブロック層及び電子ブロック層−
前記正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が陰極側に通り抜けることを防止する機能を有する層であり、通常、発光層と陰極側で隣接する有機化合物層として設けられる。
前記電子ブロック層は、陰極側から発光層に輸送された電子が陽極側に通り抜けることを防止する機能を有する層であり、通常、発光層と陽極側で隣接する有機化合物層として設けられる。
前記正孔ブロック層を構成する化合物の例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、等が挙げられる。
前記電子ブロック層を構成する化合物の例としては、例えば、前述の正孔輸送材料として挙げたものが利用できる。
【0039】
前記電子ブロック層及び正孔ブロック層は、特に制限はなく、公知の方法に従って形成することができるが、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式、などにより好適に形成することができる。
前記正孔ブロック層及び電子ブロック層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、1nm〜50nmがより好ましく、3nm〜10nmが特に好ましい。前記正孔ブロック層及び電子ブロック層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0040】
<電極>
本発明の有機電界発光素子は、一対の電極、即ち陽極と陰極とを含む。前記有機電界発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は透明であることが好ましい。通常、陽極は有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、陰極は有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよい。
前記電極としては、その形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、有機電界発光素子の用途、目的に応じて公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
前記電極を構成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの混合物等が好適に挙げられる。
【0041】
<<陽極>>
前記陽極を構成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料、又はこれらとITOとの積層物などが挙げられる。これらの中でも、導電性金属酸化物が好ましく、生産性、高導電性、透明性等の点からはITOが特に好ましい。
【0042】
<<陰極>>
前記陰極を構成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(例えば、Mg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
これらの中でも、電子注入性の点で、アルカリ金属やアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
前記アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01質量%〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
【0043】
前記電極の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式;真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式;CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などが挙げられる。これらの中でも、前記電極を構成する材料との適性を考慮し、適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。例えば、陽極の材料としてITOを選択する場合には、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って形成することができる。陰極の材料として金属等を選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次にスパッタ法等に従って形成することができる。
【0044】
なお、前記電極を形成する際にパターニングを行う場合は、フォトリソグラフィー等による化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザー等による物理的エッチングによって行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0045】
<基板>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に設けられていることが好ましく、電極と基板とが直接接する形で設けられていてもよいし、中間層を介在する形で設けられていてもよい。
前記基板の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガラス(無アルカリガラス、ソーダライムガラス等)等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料などが挙げられる。
【0046】
前記基板の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、発光素子の用途、目的等に応じて適宜選択することができる。一般的には、基板の形状としては、板状であることが好ましい。基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。基板は透明でも不透明でもよく、透明な場合は無色透明でも有色透明でもよい。
【0047】
前記基板には、その表面又は裏面に透湿防止層(ガスバリア層)を設けることができる。
前記透湿防止層(ガスバリア層)の材料としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素等の無機物などが挙げられる。
前記透湿防止層(ガスバリア層)は、例えば、高周波スパッタリング法などにより形成することができる。
【0048】
<保護層>
有機電界発光素子全体は、保護層によって保護されていてもよい。
前記保護層に含まれる材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属;MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等の金属酸化物;SiNx、SiNxOy等の金属窒化物;MgF、LiF、AlF、CaF等の金属フッ化物;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質などが挙げられる。
【0049】
前記保護層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法などが挙げられる。
【0050】
<封止容器>
本発明の有機電界発光素子は、封止容器を用いて素子全体が封止されていてもよい。更に、前記封止容器と有機電界発光素子の間の空間には、水分吸収剤又は不活性液体を封入してもよい。
前記水分吸収剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化燐、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
前記不活性液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラフィン類、流動パラフィン類;パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等のフッ素系溶剤;塩素系溶剤、シリコーンオイル類、などが挙げられる。
【0051】
<樹脂封止層>
本発明の有機電界発光素子は、大気からの酸素や水分による素子性能劣化を樹脂封止層により封止することで抑制することが好ましい。
前記樹脂封止層の樹脂素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂、エステル系樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、水分防止機能の点からエポキシ樹脂が特に好ましい。前記エポキシ樹脂の中でも熱硬化型エポキシ樹脂、又は光硬化型エポキシ樹脂が好ましい。
【0052】
前記樹脂封止層の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂溶液を塗布する方法、樹脂シートを圧着又は熱圧着する方法、蒸着やスパッタリング等により乾式重合する方法などが挙げられる。
【0053】
<封止接着剤>
本発明に用いられる封止接着剤は、端部よりの水分や酸素の侵入を防止する機能を有する。
前記封止接着剤の材料としては、前記樹脂封止層で用いる材料と同じものを用いることができる。これらの中でも、水分防止の点からエポキシ系の接着剤が好ましく、光硬化型接着剤あるいは熱硬化型接着剤がより好ましい。
前記封止接着剤にフィラーを添加することも好ましい。前記フィラーとしては、例えば、SiO、SiO(酸化ケイ素)、SiON(酸窒化ケイ素)、SiN(窒化ケイ素)等の無機材料が好ましい。該フィラーの添加により、封止接着剤の粘度が上昇し、加工適正が向上し、及び耐湿性が向上する。
前記封止接着剤は、乾燥剤を含有してもよい。前記乾燥剤としては、例えば、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、などが挙げられる。前記乾燥剤の添加量は、前記封止接着剤に対し0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.05質量%〜15質量%がより好ましい。前記添加量が、0.01質量%未満であると、乾燥剤の添加効果が薄れることになり、20質量%を超えると、封止接着剤中に乾燥剤を均一分散させることが困難になることがある。
本発明においては、前記乾燥剤の入った封止接着剤をディスペンサー等により任意量塗布し、塗布後第2基板を重ねて、硬化させることにより封止することができる。
【0054】
図5は、本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す概略図である。有機電界発光素子10は、ガラス基板1上に形成された陽極2(例えば、ITO電極)と、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層7(例えば、フッ化リチウム含有層)と、陰極8(例えば、Al−Li電極)とをこの順に積層してなる層構成を有する。なお、陽極2(例えば、ITO電極)と陰極8(例えば、Al−Li電極)とは電源を介して互いに接続されている。
【0055】
−駆動−
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機電界発光素子は、薄膜トランジスタ(TFT)によりアクティブマトリックスへ適用することができる。薄膜トランジスタの活性層としてアモルファスシリコン、高温ポリシリコン、低温ポリシリコン、微結晶シリコン、酸化物半導体、有機半導体、カーボンナノチューブ等を適用することができる。
本発明の有機電界発光素子は、例えば、WO2005/088726号パンフレット、特開2006−165529号公報、米国特許出願公開2008/0237598A1明細書などに記載の薄膜トランジスタを適用することができる。
【0056】
本発明の有機電界発光素子は、特に制限はなく、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。例えば、基板表面形状を加工する(例えば、微細な凹凸パターンを形成する)、基板、ITO層、有機層の屈折率を制御する、基板、ITO層、有機層の厚みを制御すること等により、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
本発明の有機電界発光素子からの光取り出し方式は、トップエミッション方式であってもボトムエミッション方式であってもよい。
【0057】
本発明の有機電界発光素子は、共振器構造を有してもよい。例えば、透明基板上に、屈折率の異なる複数の積層膜よりなる多層膜ミラー、透明又は半透明電極、発光層、及び金属電極を重ね合わせて有する。発光層で生じた光は多層膜ミラーと金属電極を反射板としてその間で反射を繰り返し共振する。
別の好ましい態様では、透明基板上に、透明又は半透明電極と金属電極がそれぞれ反射板として機能して、発光層で生じた光はその間で反射を繰り返し共振する。
共振構造を形成するためには、2つの反射板の有効屈折率、反射板間の各層の屈折率と厚みから決定される光路長を所望の共振波長の得るのに最適な値となるよう調整される。第1の態様の場合の計算式は、特開平9−180883号公報に記載されている。第2の態様の場合の計算式は、特開2004−127795号公報に記載されている。
【0058】
−用途−
本発明の有機電界発光素子の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等に好適に利用できる。
前記有機ELディスプレイをフルカラータイプのものとする方法としては、例えば、「月刊ディスプレイ」、2000年9月号、33〜37ページに記載されているように、色の3原色(青色(B)、緑色(G)、赤色(R))に対応する光をそれぞれ発光する有機電界発光素子を基板上に配置する3色発光法、白色発光用の有機電界発光素子による白色発光をカラーフィルターを通して3原色に分ける白色法、青色発光用の有機電界発光素子による青色発光を蛍光色素層を通して赤色(R)及び緑色(G)に変換する色変換法、などが知られている。また、前記方法により得られる異なる発光色の有機電界発光素子を複数組み合わせて用いることにより、所望の発光色の平面型光源を得ることができる。例えば、青色及び黄色の発光素子を組み合わせた白色発光光源青色、緑色、赤色の発光素子を組み合わせた白色発光光源、などが挙げられる。
【0059】
(有機電界発光素子の製造方法)
本発明の有機電界発光素子の製造方法は、少なくとも、正孔注入層形成工程と、正孔輸送層形成工程と、発光層形成工程とを含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0060】
<正孔注入層形成工程>
前記正孔注入層形成工程は、前記正孔注入層を形成する工程である。
前記正孔注入層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式(スリットコート方式、スピンコート方式)、転写法、印刷法、インクジェット方式、などが挙げられる。
中でも、材料利用効率、及び電極表面の凹凸を被覆可能な点で、湿式塗布方式が好ましい。
【0061】
<正孔輸送層形成工程>
前記正孔輸送層形成工程は、前記正孔輸送層を形成する工程である。
前記正孔輸送層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式(スリットコート方式、スピンコート方式)、転写法、印刷法、インクジェット方式、などが挙げられる。
中でも、材料利用効率の点で、湿式塗布方式が好ましい。
【0062】
<発光層形成工程>
前記発光層形成工程は、前記発光層を形成する工程である。
前記発光層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式(スリットコート方式、スピンコート方式)、転写法、印刷法、インクジェット方式、などが挙げられる。
中でも、前記正孔輸送層における燐光発光材料及びホスト材料の濃度を、前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、変化させることが可能な点で、湿式塗布方式が好ましい。
【0063】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子輸送層形成工程、電子注入層形成工程、正孔ブロック層形成工程、電子ブロック層形成工程、などが挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、蒸着速度は、特に断りのない場合は0.2nm/秒であり、蒸着速度は水晶振動子を用いて測定し、以下の各層厚は水晶振動子を用いて測定した。
【0065】
(実施例1)
−有機電界発光素子の作製−
0.7mm厚み、25mm角のガラス基板を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。このガラス基板上に以下の各層を形成した。
【0066】
まず、ガラス基板上に、陽極としてITO(Indium Tin Oxide)を厚み150nmにスパッタ蒸着した。得られた透明支持基板をエッチング及び洗浄した。
次に、陽極(ITO)上に、アリールアミン誘導体(商品名:PTPDES−2、ケミプロ化成製、イオン化ポテンシャル(Ip)=5.45eV)14質量部と、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物(イオン化ポテンシャル(Ip)=5.34eV)6質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液をスピンコートした後、120℃で30分間乾燥処理し、160℃で10分間アニール処理して、厚み約40nmの正孔注入層を形成した。
次に、アリールアミン誘導体としての前記構造式(4)で表される化合物(Mw=8,000)4質量部を、電子工業用キシレン(関東化学製)996質量部に溶解乃至分散させた塗布液を、正孔注入層上にスピンコートした後、120℃で30分間乾燥処理し、150℃で10分間アニール処理して、厚み約10nmの正孔輸送層を形成した。
なお、正孔注入層、正孔輸送層のスピンコートは、グローブボックス(露点−68℃、酸素濃度10ppm)内で行った。
次に、正孔輸送層上に、真空蒸着法により、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物とホスト材料としての下記構造式(6)で表される化合物とを質量比10:90で共蒸着して、厚み40nmの発光層を形成した。
【化18】

次に、発光層上に、BAlq(Bis−(2−methyl−8−quinolinolato)−4−(phenyl−phenolate)−aluminium−(III))を真空蒸着法にて蒸着して、厚み40nmの電子輸送層を形成した。
次に、電子輸送層上にフッ化リチウム(LiF)を蒸着して、厚み1nmの電子注入層を形成した。
次に、電子注入層上に金属アルミニウムを蒸着し、厚み70nmの陰極を形成した。
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグローブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶および紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止した。
【0067】
なお、前記構造式(2)(4)及び(6)で表される化合物の合成スキームは以下の通りである。
【0068】
<構造式(2)で表される化合物の合成スキーム>

【0069】
<構造式(4)で表される化合物の合成スキーム>

【0070】
<構造式(6)で表される化合物の合成スキーム>

【0071】
(実施例2)
実施例1において、アリールアミン誘導体としての前記構造式(4)で表される化合物(Mw=8,000)10.4質量部と、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物0.26質量部と、ホスト材料としての前記構造式(6)で表される化合物2.34質量部とを電子工業用キシレン(関東化学製)987質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔輸送層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0072】
(実施例3)
実施例2において、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物1質量部と、ホスト材料としての前記構造式(6)で表される化合物9質量部とを、電子工業用2−ブタノン(関東化学社製)990質量部に溶解乃至分散し、モレキュラーシーブ(商品名:モレキュラーシーブ5A 1/16、和光純薬株式会社製)を添加し、グローブボックス中で孔径0.22μmのシリンジフィルターを用いて濾過して調製した発光層塗布液を、グローブボックス中でスピンコートし、100℃で30分間乾燥して、厚み35nmの発光層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
正孔輸送層上に発光層を塗布により成膜した積層体をX線光電子分光法により測定したところ、正孔輸送層中で、正孔輸送層と発光層との界面から正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、Ir錯体の濃度が漸減するのが確認された(図6)。
【0073】
(実施例4)
実施例1において、アリールアミン誘導体としての前記構造式(4)で表される化合物(Mw=8,000)12.74質量部と、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物0.26質量部とを電子工業用キシレン(関東化学製)987質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔輸送層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0074】
(実施例5)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2:11質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2):9質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液をスピンコートして、正孔注入層を形成し、さらに、アリールアミン誘導体:前記構造式(4)で表される化合物を12.61質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を0.39質量部とを電子工業用キシレン(関東化学製)987質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔輸送層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0075】
(実施例6)
実施例2において、正孔注入層及び正孔輸送層の形成において、燐光発光材料としての下記構造式(1)で表される化合物(商品名:Ir(ppy)、ケミプロ化成製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【化19】

【0076】
(実施例7)
実施例2において、正孔注入層及び正孔輸送層の形成において、燐光発光材料としてのFirpic(iridium(III)bis(4,6−difluorophenylpyridinato)picolate)(ケミプロ化成製、イオン化ポテンシャル(Ip)=5.8eV)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0077】
(比較例1)
実施例1において、正孔注入層の形成において、塗布液に燐光発光材料を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0078】
(比較例2)
実施例2において、正孔注入層の形成において、塗布液に燐光発光材料を添加しないこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0079】
(比較例3)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2を4質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を16質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0080】
(比較例4)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2を9質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を11質量部とを電子工業用キシレン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0081】
(実施例8)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2を17.8質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を2.2質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0082】
(実施例9)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2を7.2質量部と、架橋剤:S−320(アヅマックス社製)を3質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を9.8質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散し、1時間撹拌した塗布液を用いて正孔注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0083】
(実施例10)
実施例1において、発光層を真空蒸着法により、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物とホスト材料としての前記構造式(6)で表される化合物とを質量比5:95で共蒸着して、厚み40nmの発光層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0084】
(実施例11)
実施例1において、アリールアミン誘導体を、商品名:PTPDES(ケミプロ化成製、イオン化ポテンシャル(Ip=5.43eV)14質量部と、燐光発光材料として下記構造式(7)(米国特許WO2009/073245に記載のCompound11)6質量部に変更した以外には、実施例1と同様に正孔注入層を作製した。
次に、正孔注入層上に、正孔輸送材料としての下記構造式(8)(米国特許US2008/0220265に記載のHTL−1)の化合物10質量部を、トルエン(脱水)(和光純薬製)990質量部に溶解させて、正孔輸送層塗布液を調製した。この正孔輸送層塗布液を正孔注入層上にスピンコートし、200℃で30分間乾燥することで厚み10nmの正孔輸送層を形成した。
そして、正孔輸送層上に、燐光発光材料としての前記構造式(7)と、ホスト材料としての下記構造式(9)で表わされる化合物を質量比15:85で共蒸着して、厚み30nmの発光層を形成した以外には、実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【化20】

【化21】

【化22】

【0085】
(実施例12)
実施例11において、正孔輸送材料として前記構造式(8)と、燐光発光材料として前記構造式(7)を質量比95:5となるように、トルエンに溶解した以外には、実施例11と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0086】
(実施例13)
実施例11において、発光層のホスト材料を下記構造式(10)に変更した以外には、実施例11と同様に有機電界発光素子を作製した。
【化23】

【0087】
(比較例5)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2を18.2質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を1.8質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0088】
(比較例6)
実施例1において、アリールアミン誘導体:PTPDES−2を10質量部と、燐光発光材料:前記構造式(2)を10質量部とを電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)980質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0089】
(比較例7)
実施例1において、アリールアミン誘導体としての前記構造式(4)で表される化合物(Mw=8,000)10.4質量部と、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物2.6質量部とを電子工業用キシレン(関東化学製)987質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔輸送層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0090】
(比較例8)
実施例1において、アリールアミン誘導体としての前記構造式(4)で表される化合物(Mw=8,000)8.06質量部と、燐光発光材料としての前記構造式(2)で表される化合物2.6質量部と、ホスト材料としての前記構造式(6)で表される化合物2.34質量部とを電子工業用キシレン(関東化学製)987質量部に溶解乃至分散させた塗布液を用いて正孔輸送層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0091】
(比較例9)
実施例11において、正孔注入層がPTPDESのみで形成された以外には、実施例11と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0092】
(評価)
実施例1〜13及び比較例1〜9で用いた燐光発光材料について、以下のようにして、飽和溶解度、及び熱分解温度を測定した。
【0093】
<飽和溶解度の測定>
溶媒としてシクロヘキサノンを用い、実施例1〜13及び比較例1〜9で用いた燐光発光材料(Ir錯体)の飽和溶液、及び濃度の異なる検量線溶液(0.05wt%、0.1wt%)を作製し、各溶液の吸光度を分光光度計(島津製作所、商品名「UV−3600」)により測定し、吸光度の比から、Ir錯体の飽和溶解度を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
<熱分解温度の測定>
前記Ir錯体の飽和溶液を、示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社、商品名「EXSTAR TG/DTA6000」)を用いて、窒素雰囲気中で、昇温レート10℃/minで500℃まで昇温し、重量変化を測定した。このとき1%重量変化した温度を熱分解温度とした。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1の結果より、異なる配位子を複数有するIr錯体とすることで、高い溶解性を示すことが明らかになった。特に、前記構造式(7)のように、C,Nでのみ配位する錯体では、顕著に高い溶解性を示した。かつ、溶解性の高いacac錯体である前記構造式(2)に比べ、熱分解温度が高く、安定性に優れることが明らかになった。
【0097】
次に、表2に示す作製した実施例1〜13及び比較例1〜9の有機電界発光素子について、以下のようにして、外部量子効率、及びTurn On電圧(発光開始電圧)を測定した。
なお、実施例3における燐光発光材料の各層における濃度は、2次イオン質量分析によりIr元素の濃度プロファイルを測定した。また、ホスト材料については、燐光発光材料と同様に下層へ浸透しているものと判断した。
【0098】
<外部量子効率の測定>
東陽テクニカ株式会社製ソースメジャーユニット2400を用いて、直流電圧を各素子に印加し、発光させた。発光スペクトル・輝度はトプコン社製スペクトルアナライザーSR−3を用いて測定し、これらの数値をもとに電流が10mA/cmにおける外部量子効率を輝度換算法により算出した。結果を表3及び表4に示す。
なお、表3では、比較例2を基準とし、前記基準以外の実施例、比較例は、前記基準とした比較例2の外部量子効率を1として、それに対する相対値を示した。
また、表3における「積層塗布」では、「可」が正孔注入層上に正孔輸送層を塗布形成可能であることを示し、「不可」が正孔注入層上に正孔輸送層を塗布形成可能でないことを示す。表4は、実施例11〜13及び比較例9における外部量子効率の実測値を示す。
【0099】
<Turn On電圧の測定>
ソースメーター2400(ケースレーインスツルメンツ株式会社製)を用いて、電流密度:0.025mA/cmを通電したときの、電圧を測定した。
【0100】
<Turn On電圧の評価>
比較例1のTurn On電圧を基準として、基準より高いか低いかを評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
表3より、正孔注入層における燐光発光材料の含有量が10質量%以上50質量%未満であり、正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、正孔注入層よりも低く、発光層における燐光発光材料の濃度が、正孔注入層よりも低く、かつ正孔輸送層よりも高い実施例1〜13は、比較例1〜9よりも外部量子効率が高いことが分かった。
また、表3より、発光層を塗布により形成した実施例3では、正孔輸送層において、燐光発光材料濃度及びホスト材料濃度に勾配があることが分かった。
また、表3より、正孔注入層の燐光発光材料濃度が50%を超えると、正孔輸送層を塗布により形成する際に、正孔注入層が正孔輸送層の塗布液に溶解していまい、積層塗布ができないことが分かった。
また、燐光発光材料として前記構造式(1)で表された化合物を用いると、該化合物は塗布に用いる溶媒に対して溶解性が低いため、凝集して、ダークスポットが発生した。ここで、ダークスポットとは、光らない領域のことである。
また、燐光発光材料としてFirpicを用いた有機電界発光素子の耐久性は低かった。なお、耐久性の評価は、定電流駆動により、初期輝度1,000cd/m輝度が半減する時間を測定することで行った。
表4においても、正孔注入層中に燐光発光材料を混合すると、外部量子効率の向上と
Turn On電圧が低下し、特に正孔輸送層にも燐光発光材料を混合することで、より性能が向上することが分かった。また、ニトリル基を有するホストを用いると、より性能が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の有機電界発光素子は、優れた発光効率と発光寿命を両立することができるので、例えば、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0106】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
10 有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に、正孔注入層と、正孔輸送層と、ホスト材料を含有する発光層とを含む有機層を有してなり、
前記正孔注入層、前記正孔輸送層、及び前記発光層が燐光発光材料を含有してなり、
前記正孔注入層における燐光発光材料の含有量が10質量%以上50質量%未満であり、
前記正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、
前記発光層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔注入層よりも低く、かつ前記正孔輸送層よりも高いことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
正孔輸送層がホスト材料をさらに含有する請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
発光層における燐光発光材料とホスト材料との質量比が、正孔輸送層における燐光発光材料とホスト材料との質量比の1倍〜10倍である請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
正孔輸送層における燐光発光材料の濃度が、前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、変化している請求項1から3のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
正孔輸送層におけるホスト材料の濃度が、前記正孔輸送層と発光層との界面から前記正孔輸送層と正孔注入層との界面にかけて、変化している請求項2から4のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
燐光発光材料が非対称構造である請求項1から5のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
燐光発光材料が下記一般式(1)で表される化合物である請求項1から6のいずれかに記載の有機電界発光素子。
(L1)−Ir−(L2)・・・一般式(1)
前記一般式(1)において、L1及びL2は、それぞれ、異なる配位子を表す。
【請求項8】
ホスト材料が下記一般式(2)で表される化合物である請求項1から7のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【化1】

前記一般式(2)において、Rは、t−ブチル基、t−アミル基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表し、R〜R23は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、シアノ基、フッ素、トリフロオロ基、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、及びフェニル基のいずれかを表す。
【請求項9】
正孔注入層がアリールアミン誘導体を含有し、該アリールアミン誘導体のイオン化ポテンシャルが4.8eV〜5.8eVであり、かつ前記アリールアミン誘導体と前記正孔注入層における燐光発光材料とのイオン化ポテンシャルの差が±0.2eV以内である請求項1から8のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の有機電界発光素子を製造する有機電界発光素子の製造方法であって、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を塗布により形成することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
燐光発光材料が塗布に用いられる溶媒に対して可溶性である請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−211174(P2011−211174A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44394(P2011−44394)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】