説明

有機電界発光素子用組成物、有機薄膜、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】湿式成膜法で形成された発光層を有する有機電界発光素子において、駆動寿命の長い有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】電荷輸送材料、発光材料及び溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該電荷輸送材料のうち、少なくとも1つは、下記式(1)を満たすことを特徴とする有機電界発光素子用組成物。陽極及び陰極の間に発光層を有する有機電界発光素子の発光層をこの有機電界発光素子用組成物を用いて形成する。
0.01≦μe/μh≦6 ・・・(1)
(式(1)中、μeは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の電子移動度、μhは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の正孔移動度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子の発光層を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物に関する。
本発明はまた、この有機電界発光素子用組成物を用いた有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を用いた有機EL表示装置及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや照明などの発光装置を製造するための技術として、有機電界発光(有機EL)素子の開発が盛んに行われており、主に小型から中型サイズのディスプレイ用途を中心として、実用化が始まっている。
有機電界発光素子は、電極間の有機層に正負の電荷(キャリア)を注入し、このキャリアを再結合させることにより発光を得るものである。
【0003】
現在実用化されている有機電界発光素子は、一般に比較的低分子量の化合物を高真空条件下で加熱し、上方に設置した基板に蒸着する手法を用いて製造されている。しかしながら、この真空蒸着法は大面積基板への均質な蒸着が困難であり、大型ディスプレイや大面積の面発光照明のなどの大面積の有機ELパネルの製造には適していない。また、蒸着源である有機材料の利用効率が低く、製造コストが高くなりやすいという問題も有している。
【0004】
一方で、このような大面積の有機ELパネルを製造する手段として、スピンコート法やインクジェット法、ディップコート法、各種印刷法などに代表される湿式成膜法による有機ELパネルの製造方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、湿式成膜法により形成した発光層を有する有機電界発光素子は、寿命が短いという問題点があった。
【0006】
有機電界発光素子の寿命を向上させる為に、注入される正孔と電子の電荷バランスを調整することで、過剰に注入される電荷の発生に起因する様々な劣化原因を抑え、以って、素子の駆動寿命を向上させる考えが従来より提唱されてきた。
【0007】
特許文献1では、低電圧化を目的に無機化合物からなる電子注入層を用いているが、この場合電子注入がよくなりすぎて電子が正孔輸送層にまで達してしまうことを防ぐ為に、ホストの電子輸送性を落とす移動度調整を行っている。
【0008】
特許文献2では、陽極と有機層の間に非晶質炭素膜を配置して正孔注入効率を向上させている。ここでは、特許文献1とは逆に発光層の電子移動度を大きくしている。
【0009】
特許文献3には、積層された2つの発光層を有する有機電界発光素子において、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が2つの発光層界面まで到達する時間が同程度となる様に調整する技術が開示されている。
【0010】
特許文献4には、素子の正孔・電子の電荷をバランスさせる為に、電子輸送層の電子移動度と発光層の電子移動度の比、正孔輸送層の正孔移動度と発光層の正孔移動度の比が、一定範囲内になるよう規定する技術が開示されている。
【0011】
特許文献5には、ディスプレイ用途等でRGBが並列配置されたデバイスにおいて、RGBそれぞれの発光層の電子/正孔移動度比が一定範囲になるよう規定する技術が開示されている。
【0012】
特許文献6には、燐光素子を低電圧で発光させることを目的に、エネルギーギャップの小さい電子輸送層を用いた素子に関し、電子輸送層と発光層の電子/正移動度比を所定範囲に規定することにより、再結合サイトを電子輸送層との界面から離すことで励起子が電子輸送層側に拡散することを防止する技術が開示されている。
【0013】
いずれの文献も、発光層の所望の位置で正孔と電子の再結合が起こり、それによって発生した励起子が効率よく発光に寄与する為の技術である。
しかしながら、上記従来技術は、いずれも真空蒸着法により形成された発光層を有する素子に係り、湿式成膜法により形成した発光層を有する有機電界発光素子についての提案は、これまで全くなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−164359号公報
【特許文献2】特開2001−176663号公報
【特許文献3】特開2006−107790号公報
【特許文献4】特開2006−270091号公報
【特許文献5】特開2008−205174号公報
【特許文献6】国際公開第2008/015949号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、湿式成膜法で形成された発光層を有する有機電界発光素子において、駆動寿命の長い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、湿式成膜法により形成される発光層を有する有機電界発光素子の寿命が向上しないのは、注入される正孔と電子が素子中で再結合する際の電荷バランスが不均衡であることに起因するのではないと考え、これらの課題解決に向けて鋭意検討した。
【0017】
その結果、この問題の原因には、蒸着膜で考えられる構成材料自体の移動度比から求められる単純な電荷バランスだけの問題ではなく、湿式成膜法特有の問題が介在していることを見出した。
更に検討を重ねた結果、ある特定の条件を満たすインク(成膜用組成物)を用いることにより、湿式成膜法により形成した発光層を有する有機電界発光素子において、注入される正孔と電子が素子中で再結合する際の電荷バランスが均衡すること、その結果、長寿命の有機電界発光素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の要旨は、電荷輸送材料、発光材料及び溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該電荷輸送材料のうち、少なくとも1つは、下記式(1)を満たすことを特徴とする有機電界発光素子用組成物に存する。
0.01≦μe/μh≦6 ・・・(1)
(式(1)中、
μeは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の電子移動度、
μhは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の正孔移動度
を表す。)
【0019】
本発明の別の要旨は、上記本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成されたことを特徴とする有機薄膜、に存する。
【0020】
本発明の別の要旨は、陽極及び陰極の間に発光層を有する有機電界発光素子において、該発光層が、上記本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層であることを特徴とする有機電界発光素子、に存する。
【0021】
本発明の更に別の要旨は、このような有機電界発光素子を用いることを特徴とする有機EL表示装置、及び有機EL照明、に存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の有機電界発光素子用組成物によれば、湿式成膜法で形成された発光層等の有機層を有する有機電界発光素子、特に、電極上の有機層、とりわけ電極上の有機層のうち発光層までが湿式成膜法で形成されている有機電界発光素子において、注入される正孔と電子の電荷バランスが優れたものとなり、この結果、長寿命で、発光効率の高い有機電界発光素子を提供することができ、このような有機電界発光素子を用いて、高品質の有機EL表示装置及び有機EL照明を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の有機電界発光素子用組成物、有機薄膜、有機電界発光素子、並びに有機EL表示及び有機EL照明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0025】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、電荷輸送材料、発光材料及び溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該電荷輸送材料のうち少なくとも1つは、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
0.01≦μe/μh≦6 ・・・(1)
(式(1)中、
μeは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の電子移動度、
μhは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の正孔移動度、
を表す。)
【0026】
なお、以下において、上記「μe/μh」の値を、適宜、「本発明のパラメータ値」と称する場合がある。
【0027】
{電荷輸送材料}
本発明の有機電界発光素子用組成物は電荷輸送材料を含有する。
【0028】
有機電界発光素子において、発光材料は、電荷輸送性能を有するホスト材料から電荷又はエネルギーを受け取って発光することが好ましい。従って、本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電荷輸送材料は、このホスト材料として使用されるような電荷輸送材料であることが好ましい。
【0029】
<分子量>
本発明において、電荷輸送材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。電荷輸送材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、電荷輸送材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となったり、また、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0030】
<構造など>
電荷輸送材料は、電荷輸送の性質の相異から、主として正孔輸送能を有する正孔輸送性化合物、主として電子輸送能を有する電子輸送性化合物、及びその両方の性能を有するバイポーラ性化合物に分類される。
【0031】
ここで、電荷輸送材料の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン系化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、トリフェニレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピレン系化合物、アントラセン系化合物、フェナントロリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、オキサジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0032】
より具体的には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン系化合物(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synthetic Metals, 1997年,Vol.91 ,pp.209)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。
【0033】
本発明における電荷輸送材料は、電流効率が高く、また発光材料が蛍光発光材料である場合は、特にアントラセン環を部分構造として有する化合物であることが好ましい。即ち、本発明における電荷輸送材料は、アントラセン誘導体であることが好ましい。
【0034】
電荷輸送材料としては、アントラセン誘導体の中でも、耐久性に優れる点から、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【0035】
【化1】

【0036】
(式(3)中、Ar1A及びAr1Bは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
また、式(3)中のアントラセン環は、Ar1A,Ar1B以外の置換基を有していてもよい。)
【0037】
Ar1A及びAr1Bは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
Ar1A及びAr1Bの芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、ベンゾフェナントレン環等の、ベンゼン環、或いは、ベンゼン環の2〜5個が縮合してなる縮合環由来の基が挙げられる。
Ar1A及びAr1Bの芳香族複素環基の具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の基が挙げられる。
【0038】
Ar1A及びAr1Bにおける芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アルコキシ基、(ヘテロ)アリールオキシ基、アルキルチオ基、(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基、ジアリールアミノ基などの有機基が挙げられるが、これらのうち、アルキル基及び芳香族炭化水素基が、化合物の安定性の面から好ましく、芳香族炭化水素基が特に好ましい。尚、上記「(ヘテロ)アリール」とは、「アリール」及び「ヘテロアリール」の両方を示す。また、「アリール基」とは「芳香族炭化水素基」と「芳香族複素環基」の両方をさす。
【0039】
Ar1A及びAr1Bにおける芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としてのアルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。これらのうち、メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましく、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基は非極性溶剤に高い溶解性を持つために好ましい。
【0040】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜25のものが好ましく、6員環の単環、又は2〜5縮合環由来の芳香族炭化水素基が好ましい。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等の由来の基が挙げられる。
【0041】
芳香族複素環基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の基が挙げられる。
【0042】
アルコキシ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
【0043】
(ヘテロ)アリールオキシ基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、9−アントラニルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0044】
アルキルチオ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0045】
(ヘテロ)アリールチオ基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントラニルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
【0046】
ジアルキルアミノ基としては、炭素数2〜29のものが好ましく、例えば、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、メチルエチルアミノ基等が挙げられる。
【0047】
アルキルアリールアミノ基としては、炭素数7〜30のものが好ましく、例えば、メチルフェニルアミノ基等が挙げられる。
【0048】
ジアリールアミノ基としては、炭素数12〜30のものが好ましく、例えば、ジフェニルアミノ基、フェニルナフチルアミノ基等が挙げられる。
【0049】
また、これらの置換基は更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば上記のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジアリールアミノ基などが挙げられる。ただし、該置換基同士が結合して環を形成する場合は除く。
【0050】
本発明で用いる電荷輸送材料として、アントラセン誘導体、特に前記式(3)で表される化合物が好ましい理由は以下の通りである。
【0051】
正孔の移動は、正孔の存在する分子(カチオンラジカル分子)が中性分子のHOMOから電子を1個引き抜き、自らは再配列して中性分子となり、今度は引き抜かれた分子がカチオンラジカル分子となることにより起こっていると考えられる。一方、電子の移動は、電子の存在する分子(アニオンラジカル分子)が中性分子のHOMOに電子を1個与え、自らは再配列し中性分子となり、今度は与えられた分子がアニオンラジカル分子となることにより起こっていると考えられる。
つまり、中性分子上のHOMOとカチオンラジカル分子のSOMO、及び中性分子上のLUMOとアニオンラジカル分子のSOMOの軌道の重なりを制御することで、移動度を制御することが可能となる。
アントラセン誘導体の場合、多くはHOMO及びLUMOがアントラセン環に局在している。このため、アントラセン環の置換基を変更することで、分子間のパッキングが変わり、これにより軌道の重なりが変化する為、移動度の制御が可能である。
【0052】
前記式(1)を満たしやすいものとして、特に好ましくは、前記式(3)において、Ar1A,Ar1Bが、各々独立に、フェニル基、ナフチル基、o−ビフェニル基、o−フェニルナフチル基、ピレニル基、フェニルピレニル基、ジベンゾフラニル基等が挙げられる。
【0053】
[電荷輸送材料の具体例]
以下に、本発明における電荷輸送材料の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
【化2】

【0055】
<式(1)>
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電荷輸送材料のうち少なくとも1つは、下記式(1)を満たす。以下において、下記式(1)を満たす電荷輸送材料を適宜「電荷輸送材料(1)」と称す。
0.01≦μe/μh≦6 ・・・(1)
(式(1)中、
μeは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の電子移動度、
μhは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の正孔移動度
を表す。)
【0056】
本発明において、電荷輸送材料の電子移動度及び正孔移動度(ここで、「電荷移動度」と総称する。)は、例えば、TOF法(Time of flight)により測定することができる。
【0057】
以下、TOF法による測定方法を示す。
【0058】
(電荷移動度測定用サンプルの作製)
電荷移動度測定用サンプルとしては、基板上に、陽極、有機層、陰極の順に形成された単素子を作成する(以下、「測定サンプル」と称する)。尚、陽極及び陰極は、測定をするために、どちらか一方は光を透過するものを用いる。基板側から測定する場合には、基板についても透明基板を用いる。
上記有機層は、電荷輸送材料、及び有機溶剤を含有する組成物を用いて湿式成膜法により形成する。尚、上記組成物の調製に用いる有機溶剤は、電荷輸送材料を良好に溶解するものであれば特に制限はない。
有機層を形成する湿式成膜法には、特に制限はないが、例えば、キャスト法などが挙げられる。
また、上記有機層の膜厚は、測定が可能な範囲であれば特に制限はないが、例えば、1μmとされる。
【0059】
(電荷移動度の測定)
測定方法、及び原理は下記の通りである。
電荷移動度を測定する為に、例えば、パルス光源としてBrio(ランプ励起Nd:YAGパルスーレーザー、Quantel社製)を、オシロスコープとしてTDS2022型オシロスコープ(Tektronix社製)を用いる。
本発明における電荷移動度の測定は、上記の通り作製した測定サンプルに、25℃で電圧(0.3〜0.5MV/cm)を印加する。この状態で、測定サンプルの透明電極側より、例えばBrio(ランプ励起Nd:YAGパルスーレーザー、Quantel社製)を用いてパルス光を照射する。
この時に、発生した電流を、シャント抵抗により、電流−電圧変化を行い、オシロスコープを用いて電圧波形を観測する。
ここで、測定感度を更に良好にする為に、電圧増幅装置、例えば、DA1855A型差動アンプ(LeCroy社製)を用いてもよい。
【0060】
ここで、電荷が有機層中の端から端、つまり電極間を移動するのに要する時間は、電流が発生して、電流が消えるまでの時間と考えることができる。
この電荷が有機層中を移動するのに要した時間をT(sec)、有機層に印加した電圧をV(V)(但し、電圧は、電界強度が0.3〜0.5MV/cmとなる電圧)、有機層の膜厚をd(cm)とすると、単位電界強度、単位秒あたりの電荷の移動速度として、電荷移動度は
μ=d/[T×(V/d)] (cm/V・s)
と算出することが出来る。
【0061】
この方法により、例えば3点以上の電圧において電荷移動度の算出を行い、Poole−Frenkelの式
μ(E)=μ(0)×exp(β×E0.5
E=V/d
μ(0)=zero−field mobility
β:Poole−Frenkel factor
を用いて実測データを、最小二乗法によりフィッティングすることで任意の電界強度における電荷移動度を算出する。
【0062】
測定サンプルに印加する電圧の極性を反転させることで、透明電極表面から対向電極に移動する電荷の極性が反転するので、正孔移動度も電子移動度も同様の手法で測定する。
【0063】
尚、電荷移動度の測定に用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
【0064】
本発明における電荷輸送材料(1)のμe/μhは、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、また通常6以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下である。
本発明のパラメータ値が上記範囲内であると、電極上の有機層、特に発光層までが湿式成膜法で形成されている有機電界発光素子において、注入される正孔と電子の電荷バランスが優れる為、長寿命で、発光効率の高い有機電界発光素子が得られる。
【0065】
<式(2a),(2b)>
本発明において、前記(1)式を満たす電荷輸送材料(1)は、下記式(2a),(2b)を満たすことが好ましい。
μe≧2.0×10−7cm/V・s ・・・(2a)
μh≧2.0×10−7cm/V・s ・・・(2b)
【0066】
電荷輸送材料(1)の電子移動度μeは、通常2.0×10−7cm/V・s以上、好ましくは1.0×10−6cm/V・s以上、さらに好ましくは1.0×10−5cm/V・s以上、また通常1.0×10−1cm/V・s以下、好ましくは1.0×10−2cm/V・s以下、さらに好ましくは3.0×10−3cm/V・s以下である。
また、電荷輸送材料(1)の正孔移動度μhは、通常2.0×10−7cm/V・s以上、好ましくは1.0×10−6cm/V・s以上、さらに好ましくは1.0×10−5cm/V・s以上、また通常1.0×10−1cm/V・s以下、好ましくは1.0×10−2cm/V・s以下、さらに好ましくは1.0×10−3cm/V・s以下である。
【0067】
電荷輸送材料(1)の電子移動度μe及び正孔移動度μhが上記範囲内であると、有機電界発光素子を作成した場合、後述する通常作成される発光層の膜厚に対して電荷の移動が高速な為、駆動電圧の低い有機電界発光素子が得られる。
【0068】
<組成物中の含有量>
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される電荷輸送材料は、1種のみであってもよく、また、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用したものであってもよいが、少なくとも1種は本発明のパラメータ値を満たす電荷輸送材料(1)である。
【0069】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる全固形分中の電荷輸送材料の含有量は、通常65重量%以上、好ましくは75重量%以上、より好ましくは85重量%以上であり、通常99.95重量%以下、好ましくは99.5重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。
有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送材料の含有量がこの下限を下回ると、薄膜中の電荷輸送能力が低下することによる駆動電圧の上昇、あるいは発光効率の低下を引き起こす場合がある。一方、電荷輸送材料の含有量がこの上限を上回ると、膜厚ムラを生じる場合がある。
なお、2種以上の電荷輸送材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0070】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる全電荷輸送材料に占める電荷輸送材料(1)の含有割合は通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
全電荷輸送材料中に占める電荷輸送材料(1)の割合が少な過ぎると、本発明のパラメータ値を満たす電荷輸送材料(1)を用いることによる上記効果を十分に得ることができない。
【0071】
特に、本発明の有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送材料がすべて電荷輸送材料(1)であることが好ましい。なお、電荷輸送材料(1)についても1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいが、2種以上の電荷輸送材料(1)を併用する場合には、これらの合計の含有割合が上記下限以上となるようにする。
【0072】
{発光材料}
本発明の有機電界発光素子用組成物は発光材料を含み、本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、有機電界発光素子の発光層を形成するために使用される。
【0073】
発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における、発光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光又は燐光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部又は全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。
【0074】
ここで、発光材料の発光量子収率、溶液中における蛍光又は燐光スペクトル、有機電界発光素子とした際のELスペクトルの各々の測定方法は次の通りである。
【0075】
(発光量子収率の測定方法)
発光材料の発光量子収率は、例えば、絶対PL量子収率測定装置C9920−02(浜松ホトニクス社製)を用いて測定することが出来る。
尚、測定に際しては、発光材料が溶剤に対して0.01mmol/L程度に希釈され、不活性ガス(例えば窒素)で充分に脱酸素処理された溶液が用いられる。
【0076】
(溶液中における蛍光又は燐光スペクトルの測定方法)
上記の発光量子収率の測定に用いたのと同様の溶液に対して、例えば分光光度計F−4500(日立製作所社製)を用いて、任意の波長の光を照射して、発光材料を励起することにより得られるスペクトルを測定する。
尚、用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0077】
(有機電界発光素子とした場合のELスペクトルの測定方法)
有機電界発光素子のELスペクトルは、スペクトルを分光することにより得られる。具体的には、作成した素子に所定の電流を印加し、得られるELスペクトルを瞬間マルチ測光システムMCPD−2000(大塚電子社製)で測定する。
尚、用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0078】
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能であり、通常、有機電界発光素子の発光材料として使用されているものであれば限定されない。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよい。
蛍光発光材料は、原理上、有機電界発光素子の発光効率が燐光発光材料よりも低くなるが、励起一重項状態のエネルギーギャップが同一発光波長の燐光発光材料よりも小さく、更に励起子寿命がナノ秒オーダーと非常に短いため、発光材料に対する負荷が小さく素子の駆動寿命が長くなりやすい。
一方、燐光発光材料は原理上、有機電界発光素子の発光効率が非常に高いが、励起一重項状態のエネルギーギャップが同一発光波長の蛍光材料よりも大きく、更に励起子寿命がマイクロ秒からミリ秒オーダーと長いため、蛍光発光材料と比較して駆動寿命は短くなりやすい。したがって、寿命よりも発光効率を重視する用途には、燐光発光材料を使用することが好ましい。また、例えば、青色は蛍光発光材料、緑色及び赤色は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。
【0079】
<分子量>
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0080】
<構造など>
発光材料については、上述の如く、任意の公知の材料を適用可能であるが、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
【0081】
<燐光発光材料>
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
【0082】
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0083】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0084】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0085】
<蛍光発光材料>
本発明において、発光材料としては、特に素子とした場合の駆動寿命が長いことから、蛍光発光材料を用いることが好ましい。
【0086】
以下、蛍光発光材料の例を挙げるが、本発明で用いることができる蛍光発光材料は以下の例示物に限定されるものではない。
【0087】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン、クマリン、Al(CNO)などのアルミニウム錯体及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0088】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0089】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチレン)−4H−ピラン)系化合物、ベンゾピラン、ローダミン、ベンゾチオキサンテン、アザベンゾチオキサンテン等のキサンテン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0090】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、核炭素数が10〜40の置換もしくは無置換の縮合芳香族炭化水素化合物が挙げられる。より具体的には、ナフタレン、ペリレン、ピレン、クリセン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン、アリールアミン、スチリルアミン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0091】
中でも、青の色純度が高く、高効率、長寿命な点で、スチリルアミン化合物及びアリールアミン化合物であることが好ましい。
【0092】
スチリルアミン化合物としては、発光層中で正孔を効率的に捕獲する点で、更に下記式(A)で表されるものが好ましい。
【0093】
【化3】

【0094】
(式中、Arは、ビフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ジスチリルアリール基から選ばれる基であり、Ar及びArは、各々独立に、水素原子又は炭素数が6〜20の芳香族基であり、Ar、Ar及びArは置換基を有していてもよい。pは1〜4の整数である。好ましくはAr又はArの少なくとも一方はスチリル基で置換されている。)
【0095】
ここで、炭素数が6〜20の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ターフェニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0096】
また、アリールアミン化合物としては、発光層中で正孔を効率的に捕獲する点で、下記式(B)で表されるものが好ましい。
【0097】
【化4】

【0098】
(式中、Arは、置換もしくは無置換の核炭素数10〜40のアリール基であり、Ar及びArは、各々独立に、置換もしくは無置換の核炭素数5〜40のアリール基である。qは1〜4の整数である。)
【0099】
ここで、Arの核炭素数が10〜40のアリール基としては、例えば、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ピレニル基、クリセニル基、コロニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジフェニルアントラニル基、カルバゾリル基、ベンゾキノリル基、フルオランテニル基、アセナフトフルオランテニル基、スチルベン基等が挙げられる。
【0100】
また、Ar,Arの核炭素数が5〜40のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ピレニル基、クリセニル基、コロニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ピローリル基、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、オキサジアゾリル基、ジフェニルアントラニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ベンゾキノリル基、フルオランテニル基、アセナフトフルオランテニル基、スチルベン基等が挙げられる。
【0101】
これらのアリール基が置換基を有する場合、好ましい置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基(エチル基、メチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、炭素数1〜6のアルコキシ基(エトキシ基、メトキシ基、i−プロポキシ基、n−プロポキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロペントキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、核原子数5〜40のアリール基、核原子数5〜40のアリール基で置換されたアミノ基、核原子数5〜40のアリール基を有するエステル基、炭素数1〜6のアルキル基を有するエステル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0102】
<組成物中の含有量>
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる発光材料は、1種のみでもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用したものであってもよい。
【0103】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる全固形分中の発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、通常35重量%以下、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0104】
{溶剤}
本発明の有機電界発光素子用組成物は溶剤を含有する。ここで、本発明における溶剤とは、20℃、1気圧の雰囲気において液体であり、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料や電荷輸送材料を溶解することが可能な化合物である。
【0105】
溶剤としては、一般的に市販されている極性又は無極性の溶剤であれば特に制限は無いが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の置換又は無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状又は環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン等の含カルボニル系溶剤、水、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、これらのうち、芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、ベンゼン、トルエン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼンが好ましい。
【0106】
本発明の有機電界発光素子用組成物中に、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよいが、通常1種類以上、通常10種類以下、好ましくは8種類以下、より好ましくは6種類以下の組み合わせで含有されることが好ましい。
【0107】
また、2種以上の溶剤を混合して使用する場合、その混合比についても、何ら限定されることはないが、最も混合比が多い溶剤が全溶剤中に通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下であり、最も混合比が少ない溶剤が全溶剤中に通常0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、また、通常50重量%以下となるような混合比であることが好ましい。
【0108】
{その他の成分}
本発明の有機電界発光素子用組成物は、その他、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物や電子供与性化合物などの電荷輸送補助剤、バインダー樹脂などを含有していてもよい。これらのその他の成分の有機電界発光素子用組成物中の含有量は、薄膜の電荷移動を著しく阻害しないこと、発光材料の発光を阻害しないこと、薄膜の膜質を低下させないことなどの観点から、通常50重量%以下である。
【0109】
{溶剤濃度・固形分濃度}
本発明の有機電界発光素子用組成物を、後述の本発明の有機電界発光素子の発光層を形成するための発光層形成用組成物として用いる場合、有機電界発光素子用組成物中の溶剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、通常99.9999重量%以下である。なお、溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0110】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物の発光材料、電荷輸送材料等の全固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0111】
[有機薄膜]
本発明の有機薄膜は、前記電荷輸送材料(1)を含む電荷輸送材料、発光材料、溶剤及び必要に応じて用いられるその他の成分を混合して本発明の有機電界発光素子用組成物を調製し、それを用いて好ましくは湿式成膜法により形成される。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、後述のいかなる方式も用いることができる。
本発明の有機薄膜は、具体的には、後述する正孔注入層におけると同様の方法で本発明の有機電界発光素子用組成物を、成膜面に湿式で塗布成膜し、その後、乾燥して溶剤を除去することにより形成される。
【0112】
本発明の有機電界発光素子用組成物を塗布する際の温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。

また、塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0113】
塗布後、通常、加熱等により有機電界発光素子用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0114】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、有機電界発光素子用組成物に用いた電荷輸送材料又は発光材料のガラス転移温度以下の温度で加熱することが好ましい。また、有機電界発光素子用組成物に用いた電荷輸送材料又は発光材料が2種類以上含まれている場合、少なくとも1種類がその電荷輸送材料又は発光材料のガラス転移温度以下の温度で加熱されるのが好ましい。
【0115】
加熱工程において、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると発光効率が低下する傾向があり、短すぎると形成される有機薄膜が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0116】
本発明の有機薄膜の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、有機薄膜が有機電界発光素子の発光層である場合には、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。有機薄膜の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると発光層として駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0117】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極の間に発光層を有し、この発光層が、上述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、好ましくは湿式成膜法により形成された層であることを特徴とするものである。
【0118】
また、本発明の有機電界発光素子は、発光層と陽極との間に第一の有機層を有し、該第一の有機層が湿式成膜法で形成された層であることが好ましく、該第一の有機層が、架橋性化合物を架橋させて形成された層であることが好ましい。
更に、上記第一の有機層と陽極との間に、電子受容性化合物を含有する第二の有機層を有することが好ましく、この第二の有機層も湿式成膜法により形成された層であることが好ましい。
【0119】
第一の有機層及び第二の有機層が湿式成膜法により形成された層であることが好ましい理由は以下の通りである。
【0120】
陽極と発光層との間に存在する有機層、特に第一の有機層と第二の有機層が湿式成膜法で形成された素子の場合、蒸着法で形成された素子と比較して、第一の有機層と第二の有機層の界面にこれらの混合層が形成される為、陽極〜第二の有機層〜第一の有機層と注入・輸送される正孔の量が、蒸着法で形成された素子と比較して多い。同時に発光層〜第一の有機層〜第二の有機層と注入・輸送される電子の量も多い。
前記式(1)を満たす電荷輸送材料(1)を用いて作成した素子の場合、注入された正孔及び電子が効率よく発光層内で再結合し、再結合に寄与しない正孔及び電子が、隣接する正孔阻止層や第一の有機層に漏れる割合が抑えられている。例えば、発光層で消費されず第一の有機層に漏れた電子は、第一の有機層と第二の有機層の界面に形成される混合層により、容易に第二の有機層まで到達し、第二の有機層を形成する正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を還元劣化させてしまう。以上より、陽極と発光層との間に有する有機層が湿式成膜法で形成された場合、電荷輸送材料(1)を用いることによる効果が高い。
【0121】
尚、本発明において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法を採用し、この塗布膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、が好ましい。これは、湿式成膜法において、塗布用組成物として用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物や、後述の第一の有機層形成用組成物、第二の有機層形成用組成物に特有の液性に合うためである。
【0122】
{第一の有機層}
本発明における第一の有機層とは、本発明の有機電界発光素子において、陽極と発光層との間に存在する有機層である。陽極と発光層との間に、2層以上含まれる場合は、発光層の陽極側で発光層に隣接している層を第一の有機層とする。
また、第一の有機層は、正孔輸送性化合物を含有する層であることが好ましい。また、第一の有機層は架橋性化合物を架橋させて形成された層であることが好ましい。
【0123】
<正孔輸送性化合物>
正孔輸送性化合物は、モノマー(単一の分子量を有する化合物)であっても、オリゴマー(繰返し単位を有する低分子量高分子化合物)であっても、ポリマー(繰返し単位を有する高分子量高分子化合物)であってもよい。成膜性に優れる、あるいは熱耐性に優れる点で、正孔輸送性化合物はオリゴマーやポリマーのような繰返し単位を有する高分子化合物であることが好ましい。
(分子量)
正孔輸送性化合物が、モノマーである場合、その分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。分子量がこの上限を超えると、不純物の高分子量化によって精製が困難となる場合があり、また分子量がこの下限を下回ると、ガラス転移温度及び、融点、気化温度などが低下するため、耐熱性が著しく損なわれる場合がある。
【0124】
正孔輸送性化合物が、オリゴマー又はポリマーである場合、その重量平均分子量は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下であり、また通常1,000以上、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上である。分子量がこの上限を超えると、不純物の高分子量化によって精製が困難となる恐れがあり、また分子量がこの下限を下回ると、成膜性が低下する恐れがあり、ガラス転移温度、融点及び気化温度が低下するため、耐熱性が著しく損なわれる恐れがある。
【0125】
正孔輸送性化合物が、オリゴマー又はポリマーである場合、その分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、通常3.0以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下であり、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上である。分散度がこの上限を上回ると精製が困難となる、溶剤溶解性が低下する、成膜性が低下するといった不具合の恐れがある。
【0126】
尚、本発明における重量平均分子量及び数平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量及び数平均分子量が算出される。
【0127】
(構造)
第一の有機層を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0128】
このような第一の有機層の材料としては、従来、有機電界発光素子の正孔注入層に使用されている正孔輸送性化合物が挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0129】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共高分子化合物、ランダム高分子化合物、ブロック高分子化合物又はグラフト共高分子化合物のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0130】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
【0131】
このうち、ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ar又はArが異なるものであってもよい。
【0132】
【化5】

【0133】
(式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。)
【0134】
Ar,Arの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0135】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0136】
溶解性、耐熱性の点から、Ar及びArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)及びフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0137】
Ar及びArにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0138】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する高分子化合物が挙げられる。
【0139】
ポリアリーレン誘導体としては、特に、下記式(III−1)及び/又は下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する高分子化合物が好ましい。
【0140】
【化6】

【0141】
(式(III−1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。t及びsは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRa又はRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。)
【0142】
【化7】

【0143】
(式(III−2)中、R及びRは、それぞれ独立に、上記式(III−1)におけるR、R、R又はRと同義である。r及びuは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。r又はuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のR及びRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。)
【0144】
Xの具体例としては、酸素原子、置換基を有していてもよいホウ素原子、置換基を有していてもよい窒素原子、置換基を有していてもよいケイ素原子、置換基を有していてもよいリン原子、置換基を有していてもよいイオウ原子、置換基を有していてもよい炭素原子又はこれらが結合してなる基が挙げられる。
【0145】
また、ポリアリーレン誘導体としては、上記式(III−1)及び/又は下記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0146】
【化8】

【0147】
(式(III−3)中、Ar〜Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。v及びwは、それぞれ独立に0又は1を表す。)
【0148】
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、Ar及びArと同様である。
【0149】
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0150】
また、正孔輸送性化合物の構造は特に限定しないが、下記式(4)で表される構造を部分構造として有する化合物であることが好ましい。
【0151】
【化9】

【0152】
更に、本発明における正孔輸送性化合物が重合体の場合は、下記式(5)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。
【0153】
【化10】

【0154】
(式中、mは0〜3の整数を表し、
Ar11、及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
但し、Ar11及びAr12のいずれもが、直接結合であることはない。)
【0155】
Ar11〜Ar15の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基が挙げられる。
【0156】
Ar11〜Ar15の置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0157】
溶剤に対する溶解性、及び耐熱性の点から、Ar11〜Ar15は、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい。
【0158】
また、Ar11,Ar12,Ar14としては、前記群から選ばれる1種又は2種以上の環を直接結合、又は−CH=CH−基により連結した2価の基も好ましく、ビフェニレン基及びターフェニレン基がさらに好ましい。
【0159】
Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が後述の架橋性基以外に有していてもよい置換基としては、特に制限はないが、例えば、下記<置換基群Z>から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0160】
<置換基群Z>
メチル基、エチル基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキル基;
ビニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルケニル基;
エチニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルキニル基;
メトキシ基、エトキシ基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の好ましくは炭素数4〜36、更に好ましくは炭素数5〜24のアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のジアルキルアミノ基;
ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の好ましくは炭素数10〜36、更に好ましくは炭素数12〜24のジアリールアミノ基;
フェニルメチルアミノ基等の好ましくは炭素数6〜36、更に好ましくは炭素数7〜24のアリールアルキルアミノ基;
アセチル基、ベンゾイル基等の好ましくは炭素数2〜24、好ましくは炭素数2〜12のアシル基;
フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
トリフルオロメチル基等の好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜6のハロアルキル基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の好ましくは炭素数4〜36、更に好ましくは炭素数5〜24のアリールチオ基;
トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の好ましくは炭素数2〜36、更に好ましくは炭素数3〜24のシリル基;
トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の好ましくは炭素数2〜36、更に好ましくは炭素数3〜24のシロキシ基;
シアノ基;
フェニル基、ナフチル基等の好ましくは炭素数6〜36、更に好ましくは炭素数6〜24の芳香族炭化水素基;
チエニル基、ピリジル基等の好ましくは炭素数3〜36、更に好ましくは炭素数4〜24の芳香族複素環基
【0161】
上記各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては前記<置換基群Z>に例示した基が挙げられる。
【0162】
Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が後述の架橋性基以外に有してもよい置換基の分子量としては、さらに置換した基を含めて500以下が好ましく、250以下がさらに好ましい。
【0163】
溶剤に対する溶解性の点から、Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、各々独立に、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。
【0164】
なお、mが2以上である場合、前記式(5)で表される繰り返し単位は、2個以上のAr14及びAr15を有することになる。その場合、Ar14同士及びAr15同士は、各々、同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、Ar14同士、Ar15同士は、各々互いに直接又は連結基を介して結合して環状構造を形成していてもよい。
【0165】
Ar11〜Ar15が有していてもよい置換基としては、後述の架橋性基であってもよい。
式(5)におけるmは、0以上、3以下の整数を表すが、mは0であることが、有機溶
剤に対する溶解性及び成膜性が高められる点で好ましい。また、pは1以上、3以下であることが、ポリマーの正孔輸送能が向上する点で好ましい。
【0166】
正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4−エチレンジオキシチオフェンを高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0167】
<架橋性化合物>
第一の有機層は架橋性化合物を架橋させて形成された層であることが好ましく、特に、上述の正孔輸送性化合物が、架橋性基を有する架橋性化合物であることが、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により起こる反応(架橋反応)の前後で、溶剤に対する溶解性に大きな差を生じさせることができる点で好ましい。
【0168】
ここで、架橋性基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により近傍に位置する他の分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。
【0169】
架橋性基としては、架橋がしやすいという点で、例えば、以下の<架橋性基群T>に示す基が挙げられる。
【0170】
<架橋性基群T>
【化11】

【0171】
(式中、R〜Rは、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Ar31は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)
【0172】
架橋性基としては、エポキシ基、オキセタン基などの環状エーテル基、ビニルエーテル基などのカチオン重合によって架橋反応する基が、反応性が高く架橋が容易な点で好ましい。中でも、カチオン重合の速度を制御しやすい点でオキセタン基が特に好ましく、カチオン重合の際に素子の劣化をまねくおそれのあるヒドロキシル基が生成しにくい点でビニルエーテル基が好ましい。
また、架橋性基としては、シンナモイル基などのアリールビニルカルボニル基、ベンゾシクロブテン環由来の基などの環化付加反応する基が、電気化学的安定性をさらに向上させる点で好ましい。
また、架橋性基の中でも、架橋後の構造が特に安定な点で、ベンゾシクロブテン環由来の基が特に好ましい。
【0173】
架橋性基は分子内の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基に直接結合してもよいが、2価の基を介して結合してもよい。この2価の基としては、−O−基、−C(=O)−基又は(置換基を有していてもよい)−CH−基から選ばれる基を任意の順番で1〜30個連結してなる2価の基が挙げられる。
【0174】
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよいが、成膜性が優れる点で、ポリマーであることが好ましい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0175】
架橋性化合物としては、前述の如く、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、上述のような架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に、架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む高分子化合物であることが好ましく、前記式(II)や式(III−1)〜(III−3)、及び式(5)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する高分子化合物であることが好ましい。
【0176】
特に、式(5)で表される繰り返し単位中に架橋性基を有する正孔輸送性化合物の場合は、下記式(5’)で表される繰り返し単位を有する架橋性重合体であることが好ましい。
【0177】
【化12】

【0178】
(式中、nは0〜3の整数を表し、
Ar21及びAr22は、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar23〜Ar25は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Tは架橋性基を含む基を表す。
但し、Ar21及びAr22のいずれもが、直接結合であることはない。)
【0179】
Ar21〜Ar25における置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基の具体例は、前記式(5)におけるAr11〜Ar15の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基の具体例と同様である。また、好ましい例も同様である。更に、有していてもよい置換基も同様である。
上記nは、式(5)におけるmと同様であり、好ましい値も同様である。
【0180】
<具体例>
第一の有機層に含まれる正孔輸送性化合物として好適な正孔輸送性化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0181】
【化13】

【0182】
【化14】

【0183】
【化15】

【0184】
【化16】

【0185】
【化17】

【0186】
【化18】

【0187】
【化19】

【0188】
【化20】

【0189】
【化21】

【0190】
<その他の成分>
第一の有機層には、本発明の効果を損なわない限り、上記正孔輸送性化合物以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、各種の電子受容性化合物、発光材料、架橋反応を促進する添加物、バインダー樹脂、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤などが挙げられる。尚、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陽極と発光層との間の有機層が一層である場合、つまり、第一の有機層のみである場合は、第一の有機層に、後述の電子受容性化合物を含有することが好ましい。
【0191】
<第一の有機層形成用組成物>
第一の有機層を湿式成膜法により形成する場合、第一の有機層を構成する正孔輸送性化合物、及び必要に応じて上述のその他の成分を適切な溶剤と混合して成膜用の組成物(第一の有機層形成用組成物)を調製して用いる。
【0192】
第一の有機層形成用組成物における、正孔輸送性化合物の含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。尚、第一の有機層形成用組成物には、正孔輸送性化合物が2種以上含まれていてもよく、その場合は2種以上の合計が上記範囲となることが好ましい。正孔輸送性化合物の含有量が少なすぎると形成される第一の有機層に欠陥が生じる可能性があり、含有量が多すぎると膜厚ムラが生じる可能性がある。
【0193】
第一の有機層形成用組成物に含有される溶剤としては、特に制限されるものではないが、前記正孔輸送性化合物を通常0.1重量%、好ましくは0.5重量%、さらに好ましくは1.0重量%以上溶解する溶剤である。
【0194】
この溶剤の沸点は、通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0195】
溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族化合物;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等のエステル系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0196】
<成膜方法>
第一の有機層は上述の第一の有機層形成用組成物を用いて、基板や他の層の上などに湿式成膜法により形成されることが好ましい。
即ち、上記の第一の有機層形成用組成物を調製し、この組成物を、基板や他の層上に湿式で成膜し、成膜後の膜に、必要に応じて加熱乾燥や減圧乾燥などを行って溶剤を除去する。
【0197】
正孔輸送性化合物が、架橋性基を有する化合物である場合、成膜後、加熱及び/又は活性エネルギー線の照射により、架橋性化合物が架橋反応を起こし硬化膜が得られる。
【0198】
この架橋反応が加熱による場合、加熱の手法は特に限定されないが、加熱条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。また、加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。
【0199】
また、加熱手段としては特に限定されないが、形成された膜を有する基板あるいは積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱したりするなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0200】
架橋反応が活性エネルギー線の照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは上述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。また、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下である。
【0201】
加熱及び/又は活性エネルギー線の照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0202】
加熱及び/又は活性エネルギー線の照射は、実施後に膜が含有する水分及び/又は膜の表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で加熱及び/又は活性エネルギー線の照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも膜形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0203】
<膜厚>
第一の有機層の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また通常100nm以下、好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。膜厚が薄過ぎると第一の有機層から電子が漏れる割合が増え、第二の有機層を形成する正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を劣化させて素子とした場合の駆動寿命に影響を及ぼす場合があり、厚過ぎると駆動電圧が高くなる場合がある。
なお、第一の有機層は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいし、異なる材料からなる層であってもよい。
【0204】
{第二の有機層}
本発明の有機電界発光素子は、前記陽極と前記第一の有機層との間に、第二の有機層を有することが好ましい。該第二の有機層とは、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含有する層であることが好ましい。
【0205】
<正孔輸送性化合物>
第二の有機層を形成するための正孔輸送性化合物としては、前記架橋性基を有する化合物を正孔輸送性化合物として用いてもよい。この場合、正孔輸送性化合物としては、正孔輸送能を有する化合物であれば低分子化合物を用いてもよく、高分子化合物を用いてもよい。
【0206】
正孔輸送性化合物としては、陽極から第二の有機層への電荷注入障壁の観点から、4.5eV以上6.0eV以下のイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。この観点から、正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン化合物、シラザン化合物、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン化合物、フタロシアニン誘導体などが挙げられる。
【0207】
中でも非晶質性である点、及び、可視光の透過率の点から、正孔輸送性化合物としては、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物がより好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0208】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なるポリマー)がさらに好ましい。
【0209】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(IV)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0210】
【化22】

【0211】
(式(IV)中、Ar35及びAr36は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar37〜Ar39は、各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。Zは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar35〜Ar39のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0212】
【化23】

【0213】
(上記各式中、Ar40〜Ar44、Ar46〜Ar49は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わし、Ar45及びAr50は各々独立して置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R10及びR11は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
【0214】
Ar35〜Ar50は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。これらはそれぞれ同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、これらの基は更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下が好ましい。
【0215】
Ar35及びAr36としては、芳香族三級アミン高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、フェニル基(ベンゼン環由来の基)、ナフチル基(ナフタレン環由来の基)がより好ましい。
【0216】
また、Ar37〜Ar39としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フェナントレン環由来の基が好ましく、フェニレン基(ベンゼン環由来の基)、ビフェニレン基(ベンゼン環由来の基)、ナフチレン基(ナフタレン環由来の基)がより好ましい。
【0217】
式(IV)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、例えば、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0218】
なお、正孔輸送性化合物は、何れか1種類を含有していてもよく、2種類以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0219】
<電子受容性化合物>
第二の有機層は電子受容性化合物を含有することが好ましい。電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子を受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物がさらに好ましい。
【0220】
電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、及び、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化するため、第二の有機層の導電率を向上させることができる。
【0221】
上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物等が好ましい。また、種々の溶剤に対する溶解性が高く湿式成膜法で膜を形成するのに適用可能である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物等が好ましい。

電子受容性化合物として好適な有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられ、その好ましい例も同様である。例えば、下記構造式で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0222】
【化24】

【0223】
なお、電子受容性化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0224】
電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物に対して、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下の割合で用いられる。
【0225】
<その他の成分>
第二の有機層には、本発明の効果を損なわない限り、上記正孔輸送性化合物及び電子受容性化合物以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、各種発光材料、電子輸送性化合物、架橋反応を促進する添加物、バインダー樹脂、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤などが挙げられる。尚、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0226】
<第二の有機層形成用組成物>
第二の有機層を湿式成膜法により形成する場合、第二の有機層を構成する正孔輸送性化合物、電子受容性化合物及び必要に応じて上述のその他の成分を適切な溶剤と混合して成膜用の組成物(第二の有機層形成用組成物)を調製して用いる。
【0227】
第二の有機層形成用組成物中の正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。濃度が小さすぎると形成される第二の有機層に欠陥が生じる可能性があり、濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性がある。尚、第二の有機層形成用組成物には、正孔輸送性化合物が2種以上含まれていてもよく、その場合は2種以上の合計が上記範囲となることが好ましい。
【0228】
また、電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下であり、第二の有機層形成用組成物における、電子受容性化合物の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。尚、第二の有機層形成用組成物には、電子受容性化合物が2種以上含まれていてもよく、その場合は2種以上の合計が上記範囲となることが好ましい。
【0229】
第二の有機層形成用組成物に含有される溶剤としては、特に制限されるものではないが、第二の有機層形成用組成物が含有する溶剤のうち少なくとも1種は、第二の有機層の材料を溶解しうる溶剤であることが好ましい。
【0230】
また、溶剤の沸点は、通常110℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは200℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは300℃以下である。溶剤の沸点が低すぎると形成した膜の乾燥速度が速く、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度が高くなり、他の層や基板(例えば、ガラス基板)に悪影響を与える可能性がある。
【0231】
溶剤の例を挙げると、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。具体的には、エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。また、エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。さらに、芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。また、アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。また、その他、ジメチルスルホキシド等も溶剤として用いることができる。
【0232】
上述した溶剤の中でも、第二の有機層の材料を溶解する能力(溶解能)、若しくは材料との親和性が高い溶剤が好ましい。第二の有機層形成用組成物の濃度を任意に設定して、成膜工程の効率に優れる濃度の組成物を調製できるためである。
【0233】
なお、溶剤は1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0234】
<成膜方法>
第二の有機層は上述の第二の有機層形成用組成物を用いて、湿式成膜法により形成されることが好ましい。即ち、第二の有機層形成用組成物を、第二の有機層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布し、乾燥することによって第二の有機層を形成する。
【0235】
塗布後、通常は加熱等により乾燥を行う。加熱工程において使用する加熱手段は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
正孔輸送性化合物が架橋性化合物の場合は、第二の有機層の成膜方法は、{第一の有機層}<成膜方法>の項に記載のものと同様である。好ましい態様も同様である。
【0236】
なお、真空蒸着法により第二の有機層を形成する場合には、まず材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気する。その後、るつぼを加熱して(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に第二の有機層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて第二の有機層の形成に用いることもできる。
【0237】
<膜厚>
第二の有機層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。膜厚が薄すぎると正孔注入能が不十分になる可能性があり、厚すぎると抵抗が高くなる可能性がある。
なお、第二の有機層は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいし、異なる材料からなる層であってもよい。
【0238】
{有機電界発光素子の構成}
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成及びその形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
尚、図1に示す素子の場合、正孔輸送層4が第一の有機層、正孔注入層3が第二の有機層に相当する。以下に述べる各層は、各々、これらが相当する、第二の有機層、第一の有機層、発光層の条件として前述した各条件を満たす材料を選択して形成する。
【0239】
<基板>
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0240】
<陽極>
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
【0241】
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0242】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0243】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0244】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0245】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0246】
<正孔注入層>
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
正孔注入層は、前記{第二の有機層}に記載の材料、及び成膜方法で形成することができる。材料、及び成膜方法の好ましい態様も同様である。
【0247】
<正孔輸送層>
正孔輸送層4は、正孔注入層3の上に設けられる。正孔輸送層4は、前記{第一の有機層}に記載の材料、及び成膜方法で形成することができる。材料、及び成膜方法の好ましい態様も同様である。
【0248】
<発光層>
正孔注入層3の上、又は正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
本発明において、発光層5は、前述の電荷輸送材料(1)、発光材料及び溶剤を含有する本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成される。
【0249】
<正孔阻止層>
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0250】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0251】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0252】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0253】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0254】
<電子輸送層>
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
【0255】
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。

電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0256】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0257】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0258】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0259】
<電子注入層>
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0260】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0261】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0262】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0263】
<陰極>
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0264】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0265】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0266】
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0267】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0268】
<その他の層>
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0269】
上記説明にある層の他に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3又は正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0270】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0271】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0272】
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができるが、電荷バランスの観点から本発明においては湿式成膜法が好ましい。
【0273】
さらに陰極9と発光層5又は電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1
997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0274】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0275】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0276】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0277】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0278】
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0279】
[有機ELディスプレイ及び有機EL照明]
本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明は、上述のような本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0280】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0281】
[実施例1]
図1に示す有機電界発光素子を製造した。
ガラス基板1上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。陽極2を形成した基板1を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄等の処理を行った。
【0282】
該処理後の基板上に以下の通り、正孔注入層3を形成した。
正孔注入材料として以下に示す繰り返し構造の芳香族アミン系高分子化合物PB−1(重量平均分子量:52000、数平均分子量:32500)、以下に示す構造の電子受容性化合物PI−1及び溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物(第二の有機層形成用組成物)を調製した。該正孔注入層形成用組成物における、芳香族アミン系高分子化合物PB−1及び電子受容性化合物PI−1の合計の濃度は2重量%であり、芳香族アミン系高分子化合物PB−1及び電子受容性化合物PI−1の重量比は、(芳香族アミン系高分子化合物PB−1):(電子受容性化合物PI−1)=10:2であった。
【0283】
【化25】

【0284】
該正孔注入層形成用組成物を上記処理後の基板上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、230℃で、60分間加熱乾燥を行った。以上の操作により膜厚30nmの均一な正孔注入層3の薄膜が形成された。
【0285】
次いで、形成された正孔注入層3上に、以下の通り、正孔輸送層4を形成した。
以下に示す繰り返し構造の高分子化合物HT−1(重量平均分子量:60000、数平均分子量:33000)及び溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する正孔輸送層形成用組成物(第一の有機層形成用組成物)を調製した。該正孔輸送層形成用組成物における、該高分子化合物HT−1の濃度は1.4重量%であった。
【0286】
【化26】

【0287】
該正孔輸送層形成用組成物を正孔注入層3上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、230℃で、60分間加熱して、該高分子化合物を架橋反応させて硬化させた。以上の操作により、膜厚20nmの均一な正孔輸送層4の薄膜が形成された。
【0288】
次いで、形成された正孔輸送層4上に、以下の通り、発光層を形成した。発光層の形成には、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いた。発光材料(ドーパント材料)としては、以下に示す構造の化合物D−1を用い、電荷輸送材料(ホスト材料)としては、以下に示す構造の化合物E−1を用い、溶剤としてはシクロヘキシルベンゼンを用いた。
有機電界発光素子用組成物中における、化合物D−1及び化合物E−1の合計の濃度は3.2重量%であった。また、化合物D−1及び化合物E−1の重量比は、(化合物D−1):(化合物E−1)=1:10であった。
【0289】
【化27】

【0290】
なお、化合物E−1の電界強度0.4MV/cmにおける電子移動度μeは1.7×10−3cm/V・s、正孔移動度μhは2.1×10−3cm/V・sであり、μe/μhは0.81であった。
【0291】
該有機電界発光素子用組成物を正孔輸送層4上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、130℃で、60分間加熱して乾燥させた。以上の操作により、膜厚40nmの均一な発光層5の薄膜が形成された。
【0292】
次いで、形成された発光層5上に、真空蒸着法により正孔阻止層6として以下に示す化合物HB−1を膜厚10nmとなるように形成した。
【0293】
【化28】

【0294】
次いで、形成された正孔阻止層6上に、真空蒸着法により電子輸送層7として以下に示す化合物ET−1を膜厚30nmとなるように形成した。
【0295】
【化29】

【0296】
次いで、形成された電子輸送層7上に、真空蒸着法により電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nmとなるように、更に、陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるように、陽極2と直交する2mm幅のストライプ状に形成した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0297】
この素子からは、ピーク波長463nmの青色発光が得られることを確認した。
また、この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は3700時間であった。
【0298】
[実施例2]
電荷輸送材料として、化合物E−1の代わりに下記の化合物E−2(電界強度0.4MV/cmにおける電子移動度μe=2.1×10−3cm/V・s、正孔移動度μh=1.4×10−3cm/V・s、μe/μh=1.50)を使用したこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0299】
【化30】

【0300】
この素子からは、ピーク波長466nmの青色発光が得られることを確認した。
また、この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は2800時間であった。
【0301】
[実施例3]
電荷輸送材料として、化合物E−1の代わりに下記の化合物E−3(電界強度0.4MV/cmにおける電子移動度μe=1.5×10−3cm/V・s、正孔移動度μh=3.0×10−4cm/V・s、μe/μh=5.00)を使用したこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0302】
【化31】

【0303】
この素子からは、ピーク波長461nmの青色発光が得られることを確認した。
また、この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は3300時間であった。
【0304】
[比較例1]
電荷輸送材料として、化合物E−1の代わりに下記の化合物E−4(電界強度0.4MV/cmにおける電子移動度μe=2.8×10−3cm/V・s、正孔移動度μh=2.6×10−4cm/V・s、μe/μh=10.77)を使用したこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0305】
【化32】

【0306】
この素子からは、ピーク波長463nmの青色発光が得られることを確認した。
また、この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は1300時間と短かった。
【0307】
[比較例2]
電荷輸送材料として、化合物物E−1の代わりに下記の化合物E−5(電界強度0.4MV/cmにおける電子移動度μe=2.6×10−3cm/V・s、正孔移動度μh=4.0×10−4cm/V・s、μe/μh=6.50)を使用したこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0308】
【化33】

【0309】
この素子からは、ピーク波長465nmの青色発光が得られることを確認した。
また、この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は1700時間と短かった。
【0310】
以上の結果より、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、長寿命な有機電界発光素子を製造することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0311】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0312】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送材料、発光材料及び溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、
該電荷輸送材料のうち、少なくとも1つは、下記式(1)を満たすことを特徴とする有機電界発光素子用組成物。
0.01≦μe/μh≦6 ・・・(1)
(式(1)中、
μeは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の電子移動度、
μhは0.3〜0.5MV/cmの電界強度における該電荷輸送材料の正孔移動度
を表す。)
【請求項2】
上記(1)式を満たす該電荷輸送材料が、下記式(2a)及び(2b)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子用組成物。
μe≧2.0×10−7cm/V・s ・・・(2a)
μh≧2.0×10−7cm/V・s ・・・(2b)
(式(2a),(2b)において、μe,μhは式(1)におけると同義である。)
【請求項3】
上記発光材料が蛍光発光材料であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項4】
上記蛍光発光材料が、核炭素数が10〜40の置換もしくは無置換の縮合芳香族炭化水素化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項5】
上記電荷輸送材料がアントラセン誘導体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて形成されたことを特徴とする、有機薄膜。
【請求項7】
陽極及び陰極の間に発光層を有する有機電界発光素子において、該発光層が、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層であることを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項8】
上記発光層と上記陽極との間に第一の有機層を有し、該第一の有機層が、湿式成膜法で形成された層であることを特徴とする、請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
上記第一の有機層が架橋性化合物を架橋させて形成された層であることを特徴とする、請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
上記陽極と上記第一の有機層との間に、電子受容性化合物を含有する第二の有機層を有することを特徴とする、請求項8又は9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項に記載の有機電界発光素子を含むことを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項12】
請求項7ないし10のいずれか1項に記載の有機電界発光素子を含むことを特徴とする、有機EL照明。

【図1】
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【公開番号】特開2012−209279(P2012−209279A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185733(P2009−185733)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】