説明

有機顔料微粒子の製造方法

【課題】 比表面積が大きく、二次凝集が進んでおらず微粒子同士が互いに融着しにくく、透明性に優れた有機顔料微粒子を製造する方法を提供。
【解決手段】 有機顔料を水溶性溶媒に溶解させて顔料溶液を得る第1工程と、該顔料溶液を水に混合し顔料析出物を得る第2工程と、該顔料析出物から顔料粒子を分離した後、これをアルコール中で懸濁攪拌する第3工程とを有することを特徴とする有機顔料微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機顔料微粒子の製造方法、特に比表面積が大きく、ナノサイズの有機顔料微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(有機顔料の有用性)
有機顔料は、色材として広く使われている。その中で、現在鮮明性や透明性などの向上した有機顔料が求められている。このようなものとしては、例えば、液晶ディスプレー用カラーフィルターや顔料ジェットインキが挙げられる。液晶画面を鮮明に見せるために、液晶ディスプレー用カラーフィルターの透明性や鮮明性が求められており、また顔料ジェットインキでは、鮮明な印刷を行うために、顔料にはさらなる透明性や鮮明性が要求されている。
【0003】
(有機顔料微粒子の必要性)
鮮明性や透明性を向上させるためには、有機顔料を微細に分散させることが効果的なことが知られている。有機顔料を微細分散させるには、それに適した分散剤や分散機械を用いることが必要であるが、さらには有機顔料自身が微細(微粒子)であるということも大前提として必要である。有機顔料が粗大な粒子であると、分散剤や分散方法を改良しても優れた微細分散体を得ることは困難である。
【0004】
有機顔料微粒子を得る方法としては、ソルベントソルトミリング法(例えば、特許文献1参照)や晶析法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0005】
(ソルベントソルトミリングによる顔料微細化)
ソルベントソルトミリング法とは、顔料に無機塩と有機溶剤を混ぜて磨砕装置により顔料を細かく砕いて微細化する手法である。この手法は有効であるが、塩を使うため磨砕装置の傷みが早いという問題がある。
【0006】
(晶析法)
一方、晶析法による顔料微細化とは、顔料を、例えば1−メチル−2−ピロリジノン(通称名:NMP)に溶解させた後に、水に再沈させる方法である。この方法により、粒子径が20〜30nmの非常に微細な顔料を得ることが可能となっている。
【特許文献1】特開2002-121420号公報
【特許文献2】特開2004−91560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に係る晶析法にあっては、この手法により得られた顔料について、本発明者らが比表面積を測定したところ、比表面積が小さいという問題があることがわかった。
【0008】
この比表面積とは、顔料への窒素の吸着量より測定される数値であり、単位質量あたりの表面積(m/g)で表されるものである。これは顔料の粒子径の逆数に相関する値であり、粒子が微細になると比表面積は大きくなるという関係にある。電子顕微鏡写真から粒子径を評価する方法と同様に、よく使われる粒子サイズの評価方法である。
【0009】
特許文献2に係る晶析法により得られた顔料について、電子顕微鏡写真で観察すると、個々の顔料は微細に見える。それにもかかわらず、比表面積が小さいということは、微細な顔料の一次粒子が物理的に、もしくは融着を生じながら、密に二次凝集しているということを意味する。二次凝集が多い場合には、分散操作を行っても顔料を微細分散させることは困難であり、顔料の分散安定性、色の鮮明性、透明性に悪影響を及ぼす。したがって、顔料の鮮明性や透明性を発現するためには、比表面積が大きくて二次凝集の進んでいない顔料微粒子を得ることが望ましい。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、比表面積が大きく、二次凝集が進んでおらず微粒子同士が互いに融着しにくく、透明性に優れた有機顔料微粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、
本発明は、有機顔料を水溶性溶媒に溶解させて顔料溶液を得る第1工程と、該顔料溶液を水に混合し顔料析出物を得る第2工程と、該顔料析出物から顔料粒子を分離した後、これをアルコール中で懸濁攪拌する第3工程とを有することを特徴とする有機顔料微粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、顔料析出物から分離した顔料粒子をアルコール中で懸濁攪拌することにより、二次凝集を抑制して微粒子同士が互いに融着しにくくなり、比表面積が大きく、透明性に優れた有機顔料微粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る有機顔料微粒子の製造方法は、有機顔料を水溶性溶媒に溶解させて顔料溶液を得る第1工程と、該顔料溶液を水に混合し顔料析出物を得る第2工程と、該顔料析出物から顔料粒子を分離した後、これをアルコール中で懸濁攪拌する第3工程とを有するものである。
【0014】
(有機顔料)
本発明に用いられる有機顔料としては、水溶性溶媒に溶解し、かつ水に不溶な顔料であることが必要である。例として、キナクリドン、ジメチルキナクリドン、ジクロロキナクリドンなどのキナクリドン系顔料やジクロロジケトピロロピロール、ジケトピロロピロールなどのジケトピロロピロール系顔料が挙げられる。そのなかでも、ジェットインキやカラーフィルター用途として望まれる微細粒子が得られる点から、キナクリドン、ジメチルキナクリドン、ジクロロジケトピロロピロールが好ましい。
【0015】
(水溶性溶媒)
また、水溶性溶媒としては、有機顔料を可溶可能であると共に、第2工程において水と相溶することが必要である。このような溶媒としては、例えば、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルイミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。そのなかでも、顔料溶解性の点から、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる一種以上であるのが好ましい。また、これらの水溶性溶媒を一種又は二種以上混合させてもよいし、これらを50質量%以上含有する溶液を用いてもよい。
【0016】
(アルコール)
第3工程で用いるアルコールは、顔料粒子に付着している水溶性溶媒を除去し、また顔料析出物・顔料粒子を洗浄するものである。特に、水と任意に混合するのが好ましいことから、アルコールが用いられる。このようなアルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノールが挙げられる。
【0017】
以下に、本発明に係る有機顔料微粒子の製造方法について、各工程ごとに説明する。
【0018】
(第1工程)
この工程では、例えば水溶性溶媒80mlに有機顔料0.03〜0.12gを加え、190℃まで加熱撹拌して溶解させ、顔料溶液を得る。
【0019】
(第2工程)
次いで、この顔料溶液を水に混合し、顔料析出物を再沈させる。水はこの有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒である。まず、得られた顔料溶液を80〜115℃まで放冷する。放冷温度は特に限定しないが、温度が低すぎると再沈する前に顔料が粗大化して析出する場合があり、また温度が高過ぎると再沈と共に水の温度が上昇して、再沈条件が不安定になったり、取り扱いが困難となる問題がある。顔料の析出がなければ80℃より低温まで放冷してもかまわない。また放冷中に顔料が析出しても、この析出物を濾過や遠心分離で取り除いてから水に混合してもよい。
【0020】
次いで、超音波照射下の水中に、細管を用いて顔料溶液を注入して混合させ、顔料析出物を再沈させる。注入速度は50〜100ml/分であるのが好ましい。注入速度が速いと乱流が生じやすくなり、撹拌効率を良好とすることができる。
【0021】
顔料溶液を水に混合する際の体積比は、この顔料溶液と水とを混合した混合溶液に対して、0.04〜0.3であるのが好ましく、0.09〜0.25であるのがより好ましい。顔料溶液の体積比を0.04〜0.3とすることにより、水が適量であるため廃液が少なくなり、濾過を短時間で行うことができ、かつ顔料溶液中の水溶性溶媒が適量となるため再沈による粒子の固化を充分とすることができる。
【0022】
(第3工程)
次いで、再沈した顔料析出物を濾過して顔料粒子を分離する。また、遠心沈降によって顔料粒子を分離することも可能である。濾過の際、顔料析出物をアルコールで洗浄してもよい。濾過の際、顔料析出物をアルコールで洗浄することにより、水溶性溶媒を濾液側により多く流し出すことができる。
【0023】
この後、分離した顔料粒子をアルコール中で懸濁攪拌する。懸濁攪拌することで、顔料粒子に付着している水溶性溶媒を除去する。この時、超音波を照射することで顔料粒子をほぐしながら行ってもよい。アルコールで懸濁攪拌後、顔料粒子を濾過して乾燥することで比表面積の大きな有機顔料微粒子が得られる。この有機顔料微粒子は、粒子径が10〜70nmであり、比表面積は60〜120m/gである。
【0024】
顔料粒子をアルコール中で懸濁攪拌することにより、粒子表面の水溶性溶媒がアルコールに置換され、微粒子同士が互いに融着しにくくなる。その結果、顔料微粒子の二次凝集を抑制することができ、比表面積を大きくすることができる。比表面積が大きいと、顔料の二次凝集が進んでいないため、顔料の微細な分散体を得ることができ、顔料の鮮明性や透明性を良好とすることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0026】
[実施例1]
無置換キナクリドン0.12gを、水溶性溶媒である1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)80mlに入れ、190℃に加熱して溶解させ、顔料溶液を得た。この顔料溶液を80℃まで放冷した後に、超音波照射下の水(再沈溶媒)800mlの中に、100ml/分の速度で送液した。
【0027】
送液後5秒後に超音波照射をやめ、再沈した顔料析出物をこの溶液から速やかに吸引濾過した。濾過後の残渣の流動性がなくなる程度で、吸引濾過を終了し、顔料粒子からなる残渣を分離した。この残渣(顔料粒子)を、洗浄溶剤であるメタノール100ml中に取り出し、懸濁させた。この懸濁液に超音波照射を30秒行った後、4時間撹拌を行った。再び吸引濾過を行い、残渣を真空乾燥して、キナクリドン顔料の微粒子を得た。
【0028】
(顔料微粒子の比表面積)
得られた顔料微粒子の比表面積は、BET法でFlow Sorb 2−2300(島津製作所製)により測定した。
【0029】
(顔料微粒子の電子顕微鏡観察)
また、この顔料微粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。図1は、実施例1のキナクリドン顔料微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。粒子径は30nm程度で、粒子同士の大きな融着や二次凝集は見られなかった。
【0030】
(メラミンアルキッド塗料での透明性の比較試験)
また、この顔料微粒子から塗料を作成し、透明性を比較例1、比較例2と比較して評価した。得られた顔料微粒子4gと、アミラックNo.1026クリヤー(関西ペイント株式会社製)16.0gと、焼き付けシンナーNo.3(同社製)10.0gと、3mmφガラスビーズ80gとを、容量100mlのポリエチレン製の瓶に入れ、ペイントコンディショナー(東洋精機株式会社製)で2時間分散させた。その後、アミラックNo.1026クリヤー50.0gを追加し、ペイントコンディショナーで更に10分間分散させて、メラミンアルキッド原色塗料を得た。
【0031】
このメラミンアルキッド原色塗料を、横方向に5cm幅の黒帯が印刷された白いアート紙上に、10mil(254μm)のアプリケーターにより、黒帯を横切るように塗布展色した。これを1時間放置した後、140℃の乾燥機中で20分間焼き付けて乾燥した。
【0032】
塗膜の透明性が良い場合は下地の色の影響が大きく、白地上の塗膜と黒地上の塗膜で色の差が大きくなり、塗膜上から見ても黒地と白地の境界線がはっきり見える。塗膜上から黒地と白地の境界線を目視して、塗膜の透明性を、境界線がはっきり見える場合は(○)、ぼやけて見える場合は(△)、ほとんど見えない場合は(×)として評価した。
【0033】
この顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例2〜4]
再沈溶媒である水の量を1600、400、240mlと代えた以外は、実施例1と同様にして顔料微粒子を製造し、同様に評価した。これらの顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0036】
[実施例5]
水溶性溶媒としてNMPに代えて、ジメチルスルホキシド(通称名:DMSO)80mlを用いた以外は、実施例1と同様にして顔料微粒子を製造し、同様に評価した。この顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0037】
(顔料微粒子の電子顕微鏡観察)
また、この顔料微粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。図2は、実施例5のキナクリドン顔料微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。粒子径は30nm程度であった。粒子同士の大きな融着や二次凝集は見られなかった。
【0038】
[実施例6]
無置換キナクリドンに代えて、ジメチルキナクリドン0.03gを用いた以外は、実施例1と同様にして顔料微粒子を製造し、同様に評価した。この顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0039】
[実施例7]
無置換キナクリドンに代えてジクロロジケトピロロピロール0.12gを用いて、顔料溶液を115℃まで放冷した以外は、実施例1と同様にして顔料微粒子を製造し、同様に評価した。この顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0040】
[比較例1]
無置換のキナクリドン顔料0.12gを、NMP80mlに入れ、190℃に加熱して溶解させ、顔料溶液を得た。この顔料溶液を80℃まで放冷した後に、超音波照射下の水800mlの中に、1分間かけて送液した。
【0041】
送液後5秒後に超音波照射をやめ、再沈した顔料析出物をこの溶液から速やかに吸引濾過した。濾過後の残渣の流動性がなくなる程度で、吸引濾過を終了し、顔料粒子からなる残渣を分離した。洗浄溶剤としてアルコールに代えてアセトンを用い、この残渣(顔料粒子)をアセトン100ml中に取り出し、懸濁させた。この懸濁液に超音波照射を30秒行った後、1時間撹拌を行った。再び吸引濾過を行い、残渣を真空乾燥することでキナクリドン顔料の微粒子を得た。実施例1と同様にしてこの顔料微粒子を評価した。この顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0042】
(顔料微粒子の電子顕微鏡観察)
また、この顔料微粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。図3は、比較例1のキナクリドン顔料微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。粒子径は40nm程度であったが、粒子が一面に並んでいて、互いに融着している様子が観察された。
【0043】
[比較例2]
洗浄溶剤としてアセトン100mlに代えて水100mlを用いて懸濁させた以外は、比較例1と同様にして顔料微粒子を製造し、同様に評価した。この顔料微粒子の製造条件と比表面積、塗料試験による透明性の評価の結果を、表1に各々示す。
【0044】
以上の結果から、実施例1〜7の顔料微粒子は、比較例1〜2のそれと比較して、比表面積が9倍近く大きかった。また、顔料微粒子同士の融着や二次凝集は見られなかった。また、塗料試験による透明性の評価結果では、比較例1〜2の塗料は不透明であったのに対し、実施例1〜7のそれは透明性に優れていた。
【0045】
本発明の製造方法によれば、比表面積が大きく、二次凝集が進んでおらず微粒子同士が互いに融着しにくく、透明性に優れた有機顔料微粒子が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
微細な有機顔料を用いる必要のある用途として、カラーフィルターやジェットインキなどに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1のキナクリドン顔料微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例5のキナクリドン顔料微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1のキナクリドン顔料微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料を水溶性溶媒に溶解させて顔料溶液を得る第1工程と、
該顔料溶液を水に混合し顔料析出物を得る第2工程と、
該顔料析出物から顔料粒子を分離した後、これをアルコール中で懸濁攪拌する第3工程とを有することを特徴とする有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性溶媒が、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる一種以上の溶媒である請求項1記載の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記有機顔料が、キナクリドン系顔料又はジケトピロロピロール系顔料である請求項1又は2に記載の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記顔料溶液と前記水とを混合した混合溶液に対して、前記顔料溶液の体積比が0.04〜0.3である請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機顔料微粒子の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−193681(P2006−193681A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8884(P2005−8884)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】