説明

有機ELディスプレイ

【課題】 陰極の電子注入障壁を低く維持したまま、陰極を厚膜化して電気抵抗を下げ、低電圧駆動を可能にしても、リーク修復性に優れ、且つ機械的な信頼性に優れた有機ELディスプレイを提供する。
【解決手段】 陽極5と、有機発光層を含む有機EL層6と、陰極9とが順次積層された有機ELディスプレイにおいて、陽極5がデータラインを形成し、陰極9がデータラインに直交するスキャンラインを形成しており、陰極9が、有機EL層6に一方の面が接する第1金属層7と、この第1金属層の反対面側に存在する第2金属層8との2層以上で構成され、第2金属層8が、第1金属層7の融点よりも低い融点を有する合金で構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細で視認性に優れ、携帯端末機または産業用計測器の表示など広範囲な応用可能性を有する有機エレクトロルミネセンス(以下、有機ELという)ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は陽極および陰極より、ホールおよび電子を注入して有機EL層より発光させる自発光素子である。この有機EL素子を組み込んだディスプレイは、現在フラットパネルディスプレイの主流である液晶ディスプレイに比較して、視野角が広く、応答速度が速いので、携帯電話、携帯パソコン用次世代のフラットパネルディスプレイとして開発が進められている。
【0003】
図2に従来のボトムエミッション型有機EL素子の層断面構造を示す。まず、基板1上に、有機発光素子の発光域の光を吸収しRGB各光を発光するように各色を発する蛍光材料を含む色変換層2をそれぞれ高精細にパターニングし、RGB発光領域を形成する。この発光領域を覆うように、平坦化層3およびガスバリア層4を形成し、その上に導電性透明膜からなる陽極5、有機EL層6、およびアルミニウム等の金属電極からなる陰極21を順に積層する。そして陽極5−陰極21間に所定の電圧を印加するとRGB発光するので、フルカラーの発光型ディスプレイを構築することができる。
【0004】
有機ELディスプレイの駆動方式としては、パッシプマトリクス方式とアクティブマトリックス方式が知られている。パッシブマトリクス方式とは、ストライプ状の陽極と陰極を互いに直交するように配置し、一方をデータライン、他方をスキャンラインに割り当て、各ラインの端にあるトランジスタからバイアス電圧を印加し交叉点のサブピクセルを発光させる方法である。アクティブマトリックス方式は、パッシブマトリクス方式を改良したものであり、各サブピクセルにトランジスタ等のアクティブ素子を配置して、サブピクセル毎に電圧の印加を制御する方法である。
【0005】
サブピクセルにプロセス上の不具合によりリーク等の欠陥が生じると発光をしなくなるだけでなく、同じ陽極線上のサブピクセルにリーク電流が回り込むことにより輝線が発生するという問題もある。そこで、リーク箇所を修復するため、一般に、陽極線と陰極線との間に逆バイアス電圧を印加することによりリーク箇所に逆方向電流を流し、熱的に焼き切ることが行われている(例えば、特許文献1)。熱的に焼き切るためには、リーク箇所の電極を熱により蒸発させるか、溶融凝固させることにより穴を開けている。なお、特許文献1には、陰極に、AlMgやMgAgといった合金を用いることや、MgとAlの2層の膜の積層体を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−51384号公報(段落0079、0166)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、陽極がデータラインに、陰極がスキャンラインに選ばれるが、スキャンラインには各サブピクセルに流れた電流が積算されるので、取り出し電極に近くなるほど電流量が大きくなる。そこで、データラインとしては電気抵抗率が低いほど電圧降下が少なくなる。特にパッシブマトリクス方式では、図3に示すように、陰極で構成されるスキャンライン31には、サブピクセルに流れる電流が、取り出し電極に近いほど加算される。従って、以下の式(2)に示すように、電圧降下Vはスキャンライン方向のサブピクセル数nの2乗に比例して増大し、結果的に駆動電圧を高くする必要がある。
【0007】
【数1】

(式中、n:サブピクセル数、r:素子(接触抵抗を含む)等の負荷抵抗、I:素子を流れる電流値)
【0008】
また、一般的に、有機EL層と接する陰極に求められる機能としては、(1)電気抵抗が小さく電力の損失が少ないこと、(2)有機EL層への電子の注入障壁が小さいこと、(3)リーク箇所の破壊が熱的な蒸発乃至溶融凝固が容易にできること、更に(4)プロセスが容易で、基板等の他材との密着性が良好で寸法の確保や機械的強度が確保できることが挙げられる。
【0009】
例えば、従来アルミニウムが、陰極用材料として採用されているが、銀は、アルミニウムに比べて電気抵抗率が小さく(機能1)、仕事関数もアルミニウムより小さく(機能2)、蒸気圧もアルミニウムより高いので破壊孔を作りやすい(機能3)。しかしながら銀は、ガラス基板等の他材との密着性が不充分となる場合があり、機械的な信頼性(機能4)に欠ける。このように陰極に要求される機能の一部を改善しようとすると、他の機能が悪化してしまう。すなわち、陰極に要求される機能の一部を劣化させることなく、他の機能を改善できるようにする必要がある。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記問題点に鑑み、陰極の電子注入障壁を低く維持したまま、陰極を厚膜化して電気抵抗を下げ、低電圧駆動を可能にしても、リーク修復性に優れ、且つ機械的な信頼性に優れた有機ELディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る有機ELディスプレイは、陽極と、有機発光層を含む有機EL層と、陰極とが順次積層されたものであって、前記陽極がデータラインを形成し、前記陰極が前記データラインに直交するスキャンラインを形成しており、前記陰極が、前記有機EL層に一方の面が接する第1金属層と、この第1金属層の反対面側に存在する第2金属層との2層以上で構成され、前記第2金属層が、前記第1金属層の融点よりも低い融点を有する合金で構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
前記第2金属層は、アルミニウムとマグネシウムの合金、アルミニウムと亜鉛の合金、銀とアルミニウムの合金、銀とマグネシウムの合金、又は銀と亜鉛の合金で構成されていることが好ましい。前記第1金属層は、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、又はリチウムの単体金属で構成されていることが好ましい。前記第1金属層の厚さは100nm以下が好ましい。前記第2金属層の厚さは100nm以上が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、陰極を上記構成とすることで、陰極の電子注入障壁を低く維持したまま、陰極を厚膜化して電気抵抗を下げ、低電圧駆動を可能にしても、リーク修復性に優れ、且つ機械的な信頼性に優れた有機ELディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の有機ELディスプレイに組み込まれる有機EL素子の一実施の形態を模式的に示す断面図である。本実施の形態の有機EL素子は、ボトムエミッション型であり、基板1の上に、色変換層2、平坦化層3、ガスバリア層4、陽極5、有機発光層を含む有機EL層6、陰極9が順に形成されたものである。
【0015】
陰極9は、有機EL層6と一方の面が直接接する第1金属層7と、この第1金属層7の反対面に接する第2金属層8との2層の金属層で構成された積層体である。すなわち、第2金属層8は、有機EL層6に直接接していない。
【0016】
第1金属層7の材料は、電子注入性を考慮して、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、リチウムなどが好ましい。これらの材料の合金でもよいが、電子注入性の安定を考慮すると純金属、すなわち1種類の単体金属が好ましい。
【0017】
第2金属層8の材料は、リーク箇所の自己修復をより容易にするため、2種類以上の金属を合金化することによりこの合金の融点が第1金属層7の融点、例えばアルミニウムの融点660℃、銀の融点961℃、マグネシウムの融点650℃、カルシウムの融点850℃、亜鉛の融点419℃、リチウムの融点181℃以下となる材料の組み合わせとする。合金の融点の下限は、有機EL素子が正常に動作している限り、130℃以上になることはないので、150℃以上の融点であればよい。
【0018】
第2金属層8の材料としては、例えば、アルミニウムとマグネシウムの組合せが好ましい。図4に、アルミニウムとマグネシウムの二元状態図を示す。この合金ではいずれの組成でも、融点がアルミニウムの融点660℃よりも低くなる。また、マグネシウムの組成比が19〜88原子%の範囲では、融点が600℃以下になり、自己修復の際の陰極9の溶解が容易になる。更にマグネシウムの組成比が39から69原子%の範囲では、融点が455℃以下になり、より容易に溶解が生じ得る。
【0019】
そのため、逆バイアスを印加した際にリーク箇所への電流集中で発生したジュール熱でリーク箇所が焼ききれる際に第2金属層8の融点がアルミ単体の金属の場合よりも融点が下がり溶融して破壊孔ができるまでの熱容量が小さくなる。結果として、破壊孔が生成可能な膜厚の限界が合金化によって厚くなる。更に陰極が厚膜化できるので、陰極配線の電気抵抗を下げることができる。
【0020】
第2金属層8の材料として、アルミニウムと亜鉛の組合せも好ましい。図5に、アルミニウムと亜鉛の二元状態図を示す。この合金ではいずれの組成でも、融点がアルミニウムの融点660℃よりも低くなる。また、亜鉛の組成比が17原子%以上、100原子%未満の範囲では、融点が600℃以下になり、自己修復の際の陰極9の溶解が容易になる。更に亜鉛の組成比が50原子%以上、100原子%未満の範囲では、融点が510℃以下になり、より容易に溶解が生じ得る。
【0021】
第2金属層8の材料として、銀とアルミニウムの組合せも好ましい。図6に、銀とアルミニウムの二元状態図を示す。この合金ではアルミニウムの組成比が50原子%以上、100原子%未満の場合、アルミニウムの融点660℃よりも低い融点となる。また、アルミニウムの組成比が57〜80原子%の範囲では、融点が600℃以下になり、自己修復の際の陰極9の溶解が容易になる。更にアルミニウムの組成比が65〜75原子%の範囲では、融点が570℃以下になり、より容易に溶解が生じ得る。
【0022】
第2金属層8の材料として、銀とマグネシウムの組合せも好ましい。図7に、銀とマグネシウムの二元状態図を示す。この合金ではマグネシウムの組成比が68〜100原子%の場合、アルミニウムの融点660℃よりも低い融点となる。また、マグネシウムの組成比が70〜95原子%の範囲では、融点が630℃以下になり、自己修復の際の陰極9の溶解が容易になる。更にマグネシウムの組成比が75〜90原子%の範囲では、融点が580℃以下になり、より容易に溶解が生じ得る。
【0023】
第2金属層8の材料として、銀と亜鉛の組合せも好ましい。図8に、銀と亜鉛の二元状態図を示す。この合金では亜鉛の組成比が59原子%以上、100原子%未満の場合、アルミニウムの融点660℃よりも低い融点となる。また、亜鉛の組成比が80原子%以上、100原子%未満の範囲では、融点が600℃以下になり、自己修復の際の陰極9の溶解が容易になる。更に亜鉛の組成比が90原子%以上、100原子%未満の範囲では、融点が540℃以下になり、より容易に溶解が生じ得る。
【0024】
第1金属層7の厚さは、仕事関数を改善するためには10nm以上であることが好ましい。より好ましい下限は30nmであり、より好ましい上限は100nmである。なお、第1金属層7としてカルシウムを用いる場合、カルシウムは外部へ取り出すことに適さないので、蒸着するときメタルマスクで有機EL層6上のみに形成するようにする。また、第1金属層7として銀を用いる場合も同様にメタルマスクで有機EL層6上のみに形成する。そしてガスバリア層4やガラス基板1部の配線は第2金属層8が接するようにするとよい。これらの材料はいずれも第2金属層8に比べ、低融点もしくは高蒸気圧であるのでリーク修復性に間題は生じない。
【0025】
第2金属層8の厚さは、電気低抗を下げる目的で積層するので、30nm以上であることが好ましい。またリーク修復機能を確保するため、1μm以下であることが好ましい。より好ましい下限は100nmであり、より好ましい上限は500nmある。
【0026】
第1金属層7及び第2金属層8の形成方法としては、電子ビーム蒸着、加熱蒸着法、レーザーアブレーション法等を採用することができる。
【0027】
本発明の有機ELディスプレイでは、図示していないが、陽極5はデータラインを形成し、陰極9はデータラインと交叉するスキャンラインを形成している。スキャンラインにはサブピクセルに流れる電流が取り出し電極に近いほど加算されるので、電圧降下が特に深刻な問題となる。従って、電圧降下を抑制して、ディスプレイの低電圧駆動を可能にするために、陰極に上述の積層構造を採用する。この積層構造は、有機ELディスプレイをアクティブマトリクス方式で駆動させた場合にも、駆動電圧の低減などの効果を奏するができるが、上述したようにパッシブマトリクス方式により駆動する場合に特に効果的な電圧降下の抑制、駆動電圧の低減を実現できる。
【0028】
陽極5は、透光性導電性材料からなる膜であり、例えば、In−Tin酸化物(ITO)、In−Zn酸化物(IZO)等を用いることができるが、ITOを成膜するときには200℃以上の基板加熱が必要であり、加熱による後述の色変換層やカラーフィルタの劣化がある。一方IZOは成膜時に加熱の必要がないので、IZOの方が望ましい。陽極5は、例えば、マグネトロンスパッタ法で形成することができる。陽極5の好ましい厚さは、30〜500nmである。
【0029】
有機EL層6は、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層から構成することができるが、この構成に特に限定されず、陽極5および陰極9に電圧が印加されることによって生じる正孔および電子が再結合することで発光する有機発光層を少なくとも含む構造であればよい。具体的には、陽極5と陰極9に挟まれる有機EL層6は、例えば、以下に示すような構造が挙げられる。
(1)陽極/有機発光体層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光体層/陰極
(3)陽極/有機発光体層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光体層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光体層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光体層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0030】
有機EL層6における各層の材料は、特に限定されず、公知のものを使用することが可能である。有機発光層の材料は、所望する色調に応じて選択することが可能であり、例えば青色から青緑色の発光を得るためには、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物等を使用することが可能である。
【0031】
電子注入層の材料としては、Li、Na、K、またはCs等のアルカリ金属;Ba、SI等のアルカリ土類金属;希士類金属;あるいはそれらのフッ化物、アルミキレート(Alq)等を使用することが可能であるが、これらに限定するものではない。さらに、電子輸送層の材料としては、Alq3、ベンズアズールを使用することが可能であるが、これらに限定するものではない。
【0032】
正孔注入層としては、銅フタロシアニンを使用することが可能であるが、これに限定するものではない。正孔輸送層としては、4,4’−ビス[N−(l−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル、トリフェニルジアミン(TPD)等を使用することが可能であるが、これに限定するものではない。
【0033】
有機EL層6の成膜方法としては、材料が高分子系か低分子系かにもよるが、例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、MBE法、インクジェット法等を採用することができる。有機EL層の好ましい厚さは、50〜300nmである。有機EL層6の陽極5と反対側の面には、例えば、ダイヤモンドライクカーボン膜、アモルファスカーボン膜等からなる図示しない保護膜を設けることができる。
【0034】
基板1としては、各発光単位からの出射光波長について透明な材質であれば特に限定されず、例えば、SiO2ガラス等の基板ないしフィルム状の透明基板を採用することができる。基板1と色変換層2との間には、所望により、カラーフィルタ(図示省略)を形成することができる。
【0035】
カラーフィルタは、発光された光の波長を選択的に吸収又は透過させることによって出射される光の色純度を向上させる機能を有するフィルタである。例えば3原色を用いたフルカラーディスプレイ等では、青色(B)であれば400nm〜550nm、緑色であれば500nm〜600nm、赤色であれば600nm以上の波長を透過させて色純度を高めている。製法としては、感光性樹脂層に染料や顔料を分散させた着色感材を材料として、これを塗布、露光、現像と繰り返してパターンを形成させる方法が一般的であり、特に最近では耐性面から染料よりも顔料を分散させたカラーフィルタが多くなっている。分散材として用いられる代表的な顔料としては、アゾレーキ系、不溶性アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、アントラキノン系、ベリノン系、チオイン系、ベリレン系、これらの混合系等がある。
【0036】
色変換層2は、有機発光層から発光された近紫外領域ないし可視領域の光を蛍光色素が吸収して異なる可視光を発する機能を有する層である。これは蛍光色素と入射させる光の組み合わせによって、様々な波長領域の蛍光を発することができる。また、例えば、青色に発光された光を吸収して赤色領域の蛍光を発することによって、波長を選択的に透過させて赤色領域の光を出射するよりも強い光を出力することも可能であり、これらは色変換方式の有機EL素子に応用されている。製法としては、感光性樹脂層に蛍光色素を分散させた着色感材を材料として、これを塗布、露光、現像と繰り返してパターンを形成させる方法が一般的である。青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)等のクマリン系色素、あるいはクマリン色素系染料である、ベーシックイエロー51、さらにはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116等のナフタルイミド系色素等が挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料等)も蛍光性があれば使用することができる。
【0037】
また青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2等のローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)等のピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素等が挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料等)も蛍光性があれば使用することができる。
【0038】
平坦化層3は、その名の通り、色変換層2の平滑化を目的として所望により配設されるものであり、光透過性に富み、且つ、色変換層2を劣化させることなく配設できる材料およびプロセスを選択する必要がある。また、平坦化層3の上面に、無機ガスバリア膜や透明導電膜等を形成する場合、更に、スパッタ耐性も要求されることとなる。
【0039】
前述の通り、平坦化層3は平滑化の目的も併せ持つので、一般的には塗布法で形成される。その際、適用可能な材料としては、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を、光および/または熱処理して、ラジカル種やイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものが一般的である。また、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、蛍光色変換膜のパターニングを行うために硬化をする前は有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0040】
具体的に光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂とは、
(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤からなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルや熱ラジカルを発生させて重合させたもの、
(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤からなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、
(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドからなる組成物膜を光または熱処理によりナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、
(4)エポキシ基を有するモノマーと光酸発生剤からなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたもの等が挙げられる。特に(1)の光硬化性又は光熱併用型硬化性樹脂が高精細でパターニングが可能であり、耐溶剤性、耐熱性等の信頼性の面でも好ましい。
【0041】
その他、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは本願の色変換層のマトリクスにも適用している、シリコーンポリマー、或いはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等と3官能性、あるいは4官能性のアルコキシシランを含む樹脂変性型シリコーンポリマー等も利用することができる。平坦化層3の厚さは、0.5〜10μmとすることができる。
【0042】
色変換層2を積層した基板1を、有機発光素子と組み合わせる場合、色変換層2から発生する水分から有機発光素子を守る目的で、平坦化層3上面にガスバリア層4を積層してもよい。ガスバリア層4は透明且つピンホールのない緻密な膜が求められ、例えば、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等が使用できる。ガスバリア層4の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法等の慣用の手法により形成できる。ガスバリア層4の厚さは、50〜3000nmとすることができる。
【0043】
なお、本発明の有機EL素子は、図1に示した実施の形態に限定されず、その他の実施形態を採用することができる。図1では、ボトムエミッション型を示したが、トップエミッション型を採用することもできる。また、図1では、基板1と陽極5の間に色変換層2、平坦化層3及びガスバリア層4を形成したが、陰極9の上に、色変換層、平坦化層及びガスバリア層を形成することもできる。更に、図1では、陰極9が第1金属層7と第2金属層8の2層からなる場合を示したが、第1金属層7と第2金属層8との間に、1層又は複数の金属中間層を形成することもできる。この金属中間層としては、第1金属層と同様の材料を使用することができる。
【実施例】
【0044】
画素数(320×RGB)×240ドット、画素ピッチ110×330μmのサブドット数230,400の有機薄膜発光ディスプレイパネルに本発明を適用した。
【0045】
図1に示すようにガラス基板1上に図示しないR、G、Bのカラーフィルタ及び色変換層2(CCM)を形成した後、透明な感光性のアクリル系樹脂を塗布して平坦化層3とした。その後、SiNxからなるガスバリア層4をCVD法にて厚さ300nm形成した。
【0046】
次いで、各サブピクセルを分離するためのシャドーマスクをレジスト材料で形成した。蒸着装置に基板1を仕込んで10-6Pa以下の圧力において有機EL層6を全体の厚さが100nmになるよう蒸着した。次いで、圧力を維持しつつ別の金属蒸着用のチャンバーに移送し、真空チャンバーの圧力が10-6Pa以下という真空度で、陰極用材料を蒸着した。
【0047】
有機EL層6上に、アルミニウムのみを蒸着で厚さが50nmとなるよう形成したとき、上述の式(4)のRtotalは約320Ωで、取り出し電極から最も遠いサブピクセルの電圧降下は、8.4Vであった。更にこの上に厚さ500nmになるようにAlとMgの2元蒸着をおこなった。このときMgの組成が50原子%になるように水晶振動子の膜厚モニタでアルミニウムとマグネシウムの蒸着速度を制御した。その結果、抵抗は40Ωに低減し、電圧降下は1.1Vになった。また、純バイアスのみの印加で3箇所のリークがあったが、−10Vの逆バイアス印加で全てのリーク箇所が消滅した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の有機ELディスプレイに組み込まれる有機EL素子の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】従来の有機EL素子を模式的に示す断面図である。
【図3】パッシブマトリクス方式におけるスキャンラインの電圧降下の説明図である。
【図4】アルミニウムとマグネシウムの二元状態図である。
【図5】アルミニウムと亜鉛の二元状態図である。
【図6】銀とアルミニウムの二元状態図である。
【図7】銀とマグネシウムの二元状態図である。
【図8】銀と亜鉛の二元状態図である。
【符号の説明】
【0049】
1 基板
2 色変換層
3 平坦化層
4 ガスバリア層
5 陽極
6 有機EL層
7 第1金属層
8 第2金属層
9 陰極
31 スキャンライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、有機発光層を含む有機EL層と、陰極とが順次積層されている有機EL素子を備えた有機ELディスプレイであって、前記陽極がデータラインを形成し、前記陰極が前記データラインに直交するスキャンラインを形成しており、前記陰極が、前記有機EL層に一方の面が接する第1金属層と、この第1金属層の反対面側に存在する第2金属層との2層以上で構成され、前記第2金属層が、前記第1金属層の融点よりも低い融点を有する合金で構成されている有機ELディスプレイ。
【請求項2】
前記第2金属層が、アルミニウムとマグネシウムの合金、アルミニウムと亜鉛の合金、銀とアルミニウムの合金、銀とマグネシウムの合金、又は銀と亜鉛の合金で構成されている請求項1に記載の有機ELディスプレイ。
【請求項3】
前記第1金属層が、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、又はリチウムの単体金属で構成されている請求項1又は2に記載の有機ELディスプレイ。
【請求項4】
前記第1金属層の厚さが100nm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機ELディスプレイ。
【請求項5】
前記第2金属層の厚さが100nm以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−123648(P2009−123648A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299176(P2007−299176)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】