説明

有機ELデバイスの製造方法

【課題】電子注入層の形成に際し、ウェットプロセスを用いることで製造に際しての煩雑さを回避しながら、輝度ムラの発生が抑制された有機ELデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】有機ELデバイス1の製造では、基板10上に、アノード11、ホール注入層12、ホール輸送層13、有機発光層14、電子注入層15、およびカソード16を、順に積層する。ここで、電子注入層15の形成は、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を、有機発光層14上に塗布し、大気雰囲気下でベークした後、さらに、窒素雰囲気下でベークすることにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイスの製造方法に関し、特に、電子注入層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の発光デバイスとして、有機EL(エレクトロルミネッセンス)デバイスが注目されている。有機ELデバイスは、固体蛍光性物質の電界発光現象を利用した発光デバイスであって、例えば、次のように製造される。
先ず、基板の一方の主面上にアノードを形成し、その上に、ホール注入層およびホール輸送層を順に積層形成する。次に、ホール輸送層の上に有機発光層を形成し、その上に、電子注入層およびカソードを順に積層形成する。
【0003】
ここで、従来技術に係る有機ELデバイスでは、電子注入層として、バリウム(Ba)などのアルカリ金属を用い、蒸着法等のドライプロセスを用いて成膜した膜が用いられていた。ところが、ドライプロセスを用い電子注入層を形成する場合、成膜工程が煩雑となり、また、Baなどのアルカリ金属は大気中で不安定となるため、他の材料および形成方法の開発が求められている。
【0004】
このような要望に対し、ウェットプロセスを用い電子注入層を形成しようとする試みがなされている(例えば、特許文献1、非特許文献1,2等を参照)。例えば、特許文献1では、TiOのナノ粒子と炭酸セシウムとの混合溶液を用い、この混合溶液を有機発光層の上に塗布し、これをベークすることで電子注入層を形成できると開示されている。
図9(a)に示すように、特許文献1に開示の技術を用い形成した電子注入層を備える有機ELデバイスでは、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対し、駆動電圧および電流効率の両特性において遜色がないことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US20100012178A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Lee,J.Y.Kim,S.H.Park,S.H.Kim,S.Cho,A.J.Heeger、Adv.Mater.2007,19,2445−2449
【非特許文献2】Henk J.Bolink,Hicham Brine,Eugenio Coronado,and Michele Sessolo、Adv.Mater.2010,22,2198−2201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術を用い形成した電子注入層を備える有機ELデバイスでは、輝度ムラが生じるという問題がある。
本発明は、問題の解決を図ろうとなされたものであって、電子注入層の形成に際し、ウェットプロセスを用いることで製造に際しての煩雑さを回避しながら、輝度ムラの発生が抑制される有機ELデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、対向するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に挿設される有機発光層と、有機発光層と前記カソードとの間に挿設される電子注入層とを備える有機ELデバイスを製造する方法であって、電子注入層を、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、電子注入層を、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成する、こととしているので、電子注入層の形成に際し、ウェットプロセスを用いることで製造に際しての煩雑さを回避しながら、層内での酸化チタンの凝集を抑制することで輝度ムラの発生が抑制された有機ELデバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機ELデバイス1の構成を示す模式断面図である。
【図2】(a)は、有機ELデバイス1の製造方法を示す概略工程フロー図であり、(b)は、電子注入層15の形成方法を示す概略工程フロー図である。
【図3】電子注入層15の形成に用いるTiO:CsCO混合溶液の作成方法を示す概略工程フロー図である。
【図4】(a)は、サンプル毎の駆動電圧と電流密度との関係を示す特性図であり、(b)は、サンプル毎の駆動電圧の値を示す特性図である。
【図5】(a)は、サンプル毎の駆動電圧と輝度との関係を示す特性図であり、(b)は、サンプル毎の電流効率の値を示す特性図である。
【図6】(a)は、サンプル毎の電流密度と電流効率との関係を示す特性図であり、(b)は、サンプル毎の視感効率の値を示す特性図である。
【図7】(a)は、TiO:CsCO混合溶液におけるTiOゾルと炭酸セシウムとの混合比と駆動電圧との関係を示す特性図であり、(b)は、TiO:CsCO混合溶液におけるTiOゾルと炭酸セシウムとの混合比と電流効率との関係を示す特性図である。
【図8】(a)は、実施の形態に係る方法を用い、作成したデバイスの発光面を示す図であり、(b)は、比較例として、TiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用いたデバイスの発光面を示す図である。
【図9】(a)は、従来技術に係る方法を用い電子注入層を形成した有機ELデバイスの駆動電圧と電流効率との各関係を示す特性図であり、(b)は、従来技術に係るTiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用いたデバイスの発光面を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の態様に至った経緯]
本発明者等は、上記特許文献1に開示された技術を用い形成した電子注入層を備える有機ELデバイスにおいて、輝度ムラが生じるという問題を確認した。この原因について、本発明者等は、上記特許文献1に開示された技術を用い形成した電子注入層においては、図9(b)に示すように、その製造時において、TiOのナノ粒子が十分に溶解できず、凝集することに起因するものであることを突き止めた。
【0012】
この原因について鋭意検討の結果、本発明者等は、電子注入層を、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成することにより、電子注入層の形成に際し、ウェットプロセスを用いることで製造に際しての煩雑さを回避しながら、層内での酸化チタンの凝集を抑制し、これより輝度ムラの発生が抑制できるとの技術的知見を得るに至り、このことにより、本発明に想到し得たものである。
【0013】
[本発明の態様の概要]
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、対向するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に挿設される有機発光層と、有機発光層と前記カソードとの間に挿設される電子注入層とを備える有機ELデバイスを製造する方法であって、電子注入層を、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成する、ことを特徴とする。
【0014】
このように、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、電子注入層を、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成する、こととしているので、Baを用いてドライプロセスを経て形成する従来技術に比べて、成膜工程が簡易であって、また、形成された電子注入層が、Baから形成した場合のように大気雰囲気下で不安定となることもない。
【0015】
また、図9(b)に示すように、電子注入層がTiO単膜である上記非特許文献1に開示の技術を用いた場合には、製造された有機ELデバイスの駆動電圧が高く、電流効率が低いものとなる。
これに対して、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用い、電子注入層の形成を行うので、駆動電圧および電流効率の両特性が、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに比べても遜色のないレベルとなる。データについては、後で示す。
【0016】
従って、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、電子注入層の形成に際し、ウェットプロセスを用いることで製造に際しての煩雑さを回避しながら、層内での酸化チタンの凝集を抑制することで輝度ムラの発生が抑制された有機ELデバイスを確実に製造することができる。
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、具体的に、電子注入層を次に工程を経て形成する、ことを特徴とする。
【0017】
(第1工程) 大気雰囲気下で、下地となる層の上に、混合溶液(TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液)を滴下し成膜する。
(第2工程) 大気雰囲気下で、混合溶液(TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液)からなる膜をベークする。
(第3工程) 第2工程でベークされた上記膜を、さらに、窒素雰囲気下でベークする。
【0018】
このような具体的な工程を経て電子注入層を形成する本発明の一態様に係る製造方法では、低駆動電圧・高電流効率であって、輝度ムラの少ない有機ELデバイスを確実に製造することができる。
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、電子注入層の形成を、有機発光層の形成の後に行い、上記下地となる層が有機発光層であり、第2工程におけるベーク、および第3工程におけるベークが、有機発光層の耐熱温度以下で実行される、ことを特徴とする。
【0019】
上記非特許文献2に開示された方法を用いる場合、電子注入層の形成のためのベークを、有機発光層の耐熱温度よりも高い温度で行う必要があることから、電子注入層を形成した後に有機発光層を形成する必要がある。このため、非特許文献2に開示された方法を用いようとする場合には、デバイス構造や工程順序が制約される。
これに対して、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、上記のように、第2工程におけるベーク、および第3工程におけるベークが、有機発光層の耐熱温度以下で実行されるので、デバイス構造や工程順序が制約されることがない。なお、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いるので、上記のようなベーク温度を採用しても駆動電圧および電流効率の両特性が優れた有機ELデバイスを製造することができる。
【0020】
さらに具体的に、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、第2工程でのベークが、第3工程でのベークよりも低い温度で、且つ、長時間なされる、ことを特徴とする。
このような方法を採用することによって、低駆動電圧・高電流効率であって、輝度ムラの少ない有機ELデバイスを確実に製造することができる。
【0021】
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、混合溶液におけるTiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合比が、重量比において、10:6〜10:8の範囲内である、ことを特徴とする。このように混合溶液におけるTiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合比を規定することにより、有機ELデバイスの駆動電圧および電流効率を、Baからなりドライプロセスを経て形成された電子注入層を備える有機ELデバイスに対し、遜色のないレベルとすることができる。詳しいデータについては、後で示す。
【0022】
また、混合溶液におけるTiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合比を上記範囲内で規定することにより、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、表面が高い平坦性を有する電子注入層を形成することができる。このため、輝度ムラの発生を抑制することができる。
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法では、有機発光層とアノードとの間にホール輸送層が挿設され、ホール輸送層および有機発光層についても、ともにウェットプロセスを経て形成される、ことを特徴とする。このように、ホール輸送層および有機発光層がウェットプロセスを経て形成される場合、その後に続く電子注入層の形成についてもウェットプロセスで行う本発明の一態様に係る製造方法では、有機発光層まで形成したワークを再度、真空チャンバー内へと戻す必要がなく、製造工程の簡易化を図ることができる。よって、製造コストの低減を図ることが可能である。
【0023】
以下では、具体例を用い、本発明に係る態様の特徴、および作用・効果について説明する。なお、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以下の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。
[実施の形態]
1.有機ELデバイス1の構成
先ず、本実施の形態に係る製造方法で製造する有機ELデバイス1の構成について、図1を用い説明する。図1は、本実施の形態に係る有機ELデバイス1の構成を示す模式断面図である。
【0024】
図1に示すように、有機ELデバイス1は、基板10上に、アノード11、ホール注入層12、ホール輸送層13、有機発光層14、電子注入層15、およびカソード16が、順に積層された構成を有する。なお、実際の構成においては、カソード16の形成後、その上を封止缶で封止した構成となる。
2.有機ELデバイス1の製造方法
有機ELデバイス1の製造方法の概略について、図2(a)を用い説明する。
【0025】
図2(a)に示すように、先ず、ベースとなる基板10を準備する(ステップS1)。
基板10は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料をベースとして形成されている。
【0026】
次に、基板10上に、1または複数のアノード11を形成する(ステップS2)。アノード11の形成は、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法等を用いて行われ、エッチングにより発光部毎に区画される。
ボトムエミッション型のデバイスを一例とする本実施の形態では、アノード11の構成材料としては、ITO(酸化インジウムスズ)若しくはIZO(酸化インジウム亜鉛)などを採用することができる。ボトムエミッション型のデバイスの場合においては、アノード11について、透過率が80[%]以上の光透過性を有するようにすることが好ましい。
【0027】
次に、アノード11上に、ホール注入層12を形成する(ステップS3)。ホール注入層12は、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物から構成することができる。特に、酸化タングステン(WO)を用いることが、正孔を安定的に注入し、且つ、正孔の生成を補助するという機能を有するという観点から望ましい。
【0028】
酸化タングステン(WO)を用いたホール注入層12の形成は、例えば、アルゴンガスと酸素ガスにより構成されたガスをスパッタ装置のチャンバー内のガスとして用い、当該ガスの全圧が2.7[Pa]を超え7.0[Pa]以下であり、且つ、酸素ガス分圧の全圧に対する比が50[%]以上70[%]以下であって、さらにターゲット単位面積当たりの投入電力密度が1[W/cm]以上2.8[W/cm]以下となる成膜条件を採用することができる。
【0029】
なお、アノード11を複数設ける場合において、アノード11毎に区画してホール注入層12を形成してもよいし、複数のアノード11にわたって一続きのホール注入層11を形成してもよい。
次に、ホール注入層12の上に、ホール輸送層13を形成する(ステップS4)。ホール輸送層13は、例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの、親水基を備えない高分子化合物を用い、スピンコート法で成膜した後、焼成することで形成される(ウェットプロセス)。
【0030】
次に、ホール輸送層13の上に、有機発光層14を形成する(ステップS5)。有機発光層14は、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質などを用い、スピンコート法で成膜した後、焼成することにより形成される。
【0031】
次に、有機発光層14の上に、電子注入層15を形成する(ステップS6)。電子注入層15は、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成される。これについては、後述する。
次に、電子注入層15の上に、カソード16を形成する(ステップS7)。カソード16は、アルミニウム(Al)やその合金、あるいは、銀(Ag)やその合金を用い、スパタリング法や真空蒸着法を用い形成される。なお、カソード16の形成に用いる材料については、その表面部が高い光反射特性を有することが望ましい。
【0032】
最後に、図示を省略しているが、カソード16の上に、封止層を形成して有機ELデバイス1が完成する。封止層は、有機発光層14などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成される。
また、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成された封止層の上に、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0033】
3.電子注入層15の形成方法
電子注入層15の形成方法について、図2(b)を用い説明する。
図2(b)に示すように、先ず、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を、有機発光層14の上に滴下し、例えば、スピンコートなどで成膜する(ステップS61)。なお、本実施の形態では、TiOゾルおよびTiOゲルのうち、一例としてTiOゾルを用いている。
【0034】
次に、上記のように成膜したワークを、ホットプレートの上に載せ、大気雰囲気下で、120[℃]、20[min.]ベークする(ステップS62)。
次に、大気雰囲気下でベークしたワークを、窒素雰囲気のグローブボックス(GB)内に移し、ホットプレート上で、130[℃]、10[min.]ベークする(ステップS63)。
【0035】
以上のようにして、電子注入層15の形成が完了する。なお、上記ステップS62,S63の各ベークは、先に形成されている有機発光層14の耐熱温度(130[℃])以下である。このため、有機発光層14を形成した後に、ベークを伴う方法を以って電子注入層15を形成する場合においても、先に形成した有機発光層14が、電子注入層15の形成時におけるベークによりダメージを受けることがない。
【0036】
4.電子注入層15の形成に用いるTiO:CsCO混合溶液150の調整方法
電子注入層15の形成に用いるTiO:CsCO混合溶液150の調整方法について、図3を用い説明する。なお、以下では、TiOゾル溶液1501の調整とCsCO溶液1502の調整とを説明した後、TiO:CsCO混合溶液150の調整について説明する。TiOゾル溶液1501の調整とCsCO溶液1502の調整との先後については、以下の説明順に限定されるものではない。
【0037】
(i)TiOゾル溶液1501の調整
先ず、TiOゾル原液から1[mL]秤量する(ステップS611)。そして、秤量したTiOゾル原液を、9[mL]のイソプロピルアルコール(IPA)に加え、スターラーで攪拌する(ステップS612)。
次に、上記攪拌後の溶液から1[mL]をとり、これを更に9[mL]のイソプロピルアルコール(IPA)に加えた後、再度スターラーで攪拌する(ステップS613)。これにより、TiO(0.6wt%)ゾル溶液1501が完成する。
【0038】
(ii)CsCO溶液1502の調整
CsCO溶液1502の調整では、先ず、炭酸セシウム37.2[mg]を秤量する(ステップS615)。
次に、秤量した炭酸セシウムを、10[mL]の2−エトキシエタノールに加えて、スターラーで攪拌する(ステップS616)。これにより、CsCO(0.4wt%)溶液1502が完成する。
【0039】
(iii)TiO:CsCO混合溶液150の調整
TiO:CsCO混合溶液150の調整では、上記のように調整したTiOゾル溶液1501から2[mL]を秤量する(ステップS614)。また、CsCO溶液1502から2[mL]を秤量する(ステップS617)。
次に、2[mL]のTiOゾル溶液1501と、同じく2[mL]のCsCO溶液1502とを、スターラーで攪拌混合する(ステップS618)。
【0040】
以上のようにして、TiO:CsCO混合溶液150の調整が完了する。なお、本実施の形態においては、TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比が、重量比において、一例として10:8となるようにしている。
ここで、図3に示す各材料の使用量については、絶対的な量を示すものではなく、TiOゾルと炭酸セシウムとの相対的な混合比を実現するために例示した値である。よって、実際のTiO:CsCO混合溶液150の調整においては、有機ELデバイス1のサイズなどを考慮の上、その作成する量から換算して、各材料の使用量を決定することとなる。
【0041】
5.効果
(i)特性
特性面における効果について、図4から図6を用い説明する。なお、図4から図6におけるサンプルA〜Fの各々は、次表に示す構成を有する。
【0042】
【表1】


[表1]において、サンプルFが、上記実施の形態に係る有機ELデバイス1と同一の構成を有するサンプルである。また、サンプルEは、TiO:CsCO混合溶液を用い電子注入層を形成する点でサンプルFと同じであるが、TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比が、10:6(重量比)である点が異なる。
【0043】
(a)駆動電圧
先ず、図4(a)は、各サンプル毎の駆動電圧と電流密度との関係を示すグラフであり、図4(b)は、電流密度を10[mA/cm]とするときの各サンプル毎の駆動電圧を示すグラフである。
図4(a)に示すように、サンプルA〜Cは、高い駆動電圧を印加することが必要であるのに対し、サンプルD〜Fは、低い駆動電圧の印加で発光駆動することが分かる。
【0044】
図4(b)に示すように、電流密度を10[mA/cm]とする場合には、サンプルAが20.3[V]、サンプルBが14[V]、サンプルCが26.3[V]の電圧印加を必要とするのに対して、Baからなる電子注入層を備えるサンプルDでは、9[V]の電圧となっている。
ここで、サンプルE,Fは、サンプルDに対し、略同等の値の電圧を印加すればよく、具体的には、サンプルEは8.7[V]、サンプルFは9.5[V]である。
【0045】
以上より、TiO:CsCO混合溶液を用い形成された電子注入層を備えるサンプルE,Fは、Baからなる電子注入層を備えるサンプルDに対し、略同等の駆動電圧に係る優れた特性を有する。
(b)電流効率
次に、図5(a)は、各サンプル毎の駆動電圧と輝度との関係を示すグラフであり、図5(b)は、電流密度を10[mA/cm]とするときの各サンプル毎の電流効率を示すグラフである。
【0046】
図5(a)に示すように、サンプルA〜Cでは、高い駆動電圧を印加しないと高い輝度を得ることができないのに対し、サンプルD〜Fは、サンプルA〜Cに比べて低い駆動電圧の印加でも高い輝度を得ることができる。
図5(b)に示すように、電子注入層を形成していないサンプルA、およびTiOからなる層を電子注入層とするサンプルCでは、電流効率がそれぞれ6.6[cd/A]、1.7[cd/A]と低い値となっている。CsCOからなる層を電子注入層として備えるサンプルBでは、サンプルA,Cに比べて高い約23.5[cd/A]の電流効率となる。
【0047】
一方、Baからなる電子注入層を備えるサンプルD、およびTiO:CsCO混合溶液を用い形成された電子注入層を備えるサンプルE,Fは、サンプルA〜Cに比べて高い電流効率を有する。具体的には、サンプルDでは37.8[cd/A]、サンプルEでは30.6[cd/A]、サンプルFでは34.3[cd/A]となり、3種類のサンプルD〜Fは、略同等の高い電流効率を有する。
【0048】
以上より、TiO:CsCO混合溶液を用い形成された電子注入層を備えるサンプルE,Fは、Baからなる電子注入層を備えるサンプルDに対し、略同等の電流効率に係る優れた特性を有する。
(c)視感効率
次に、図6(a)は、サンプル毎の電流密度と電流効率との関係を示すグラフであり、図6(b)は、電流密度を10[mA/cm]とするときのサンプル毎の視感効率を示すグラフである。
【0049】
図6(a)に示すように、サンプルA,Cは、低い電流効率となっている。
一方、サンプルBとサンプルD〜Fは、比較的高い電流効率を有する。ただし、サンプルD〜Fは、電流密度が低い領域で急峻に曲線が立ち上がっているのに対して、サンプルBでは、緩やかな曲線を以って立ち上がっている。
図6(b)に示すように、電子注入層を備えていないサンプルA、およびTiOからなる層を電子注入層とするサンプルCでは、視感効率がそれぞれ1[lm/W]、0.2[lm/W]と低い値となっている。また、CsCOからなる層を電子注入層として備えるサンプルBでは、視感効率が、サンプルA,Cよりも高い5.3[lm/W]の値となっている。
【0050】
これに対して、Baからなる電子注入層を備えるサンプルD、およびTiO:CsCO混合溶液を用い形成された電子注入層を備えるサンプルE,Fでは、それぞれの視感効率が、サンプルA〜Cよりも高い13.2[lm/W]、11[lm/W]、11.3[lm/W]となっている。
以上より、TiO:CsCO混合溶液を用い形成された電子注入層を備えるサンプルE,Fは、Baからなる電子注入層を備えるサンプルDに対し、略同等の視感効率に係る優れた特性を有する。
【0051】
(ii)TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比と駆動電圧および電流効率
TiO:CsCO混合溶液を用い形成される電子注入層でのTiOゾルと炭酸セシウムとの混合比と、有機ELデバイスにおける駆動電圧および電流効率との関係について、図7を用い説明する。なお、図7(a)および図7(b)では、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスの駆動電圧および電流効率を、それぞれ破線で示している。
【0052】
先ず、図7(a)に示すように、混合比が10:6〜10:8の範囲では、駆動電圧が9.0[V]であるBaからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対して、遜色のない駆動電圧の値となっている。具体的には、混合比が10:6の場合には、8.7[V]の駆動電圧となり、混合比が10:8の場合には、9.5[V]の駆動電圧となっている。どちらの場合においても、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスの駆動電圧9[V]に対し、略同等あるいは低い駆動電圧となっている。
【0053】
一方、混合比が10:5の場合には、駆動電圧が10.7[V]となり、また、混合比が10:10の場合には、駆動電圧が10.0[V]となっている。
次に、図7(b)に示すように、混合比が10:6〜10:8の範囲では、電流効率が38[cd/A]であるBaからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対して、電流効率の低下が20[%]未満に抑えられる。具体的には、混合比が10:6の場合には、30.6[cd/A]の電流効率となり、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対して約80.5[%]の電流効率を得ることができ、また、混合比が10:8の場合には、34.3[cd/A]の電流効率となり、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対して約90.2[%]の電流効率を得ることができる。
【0054】
一方、混合比が10:5の場合には、電流効率が25.7[cd/A]となり、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対して約67.6[%]の電流効率しか得ることができず、また、混合比が10:10の場合には、電流効率が29.8[cd/A]となり、Baからなる電子注入層を備える有機ELデバイスに対して約78.4[%]の電流効率となる。
【0055】
以上のように、駆動電圧および電流効率という両観点を考慮するとき、TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比は、10:6〜10:8の範囲が好ましいということができる。TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比を、10:8とする場合、さらに好ましい。
(iii)電子注入層15を用いたデバイスの発光面の模様
本実施の形態に係る方法により形成した電子注入層15を用いたデバイスの発光面の模様について、図8を用い説明する。図8(a)は、本実施の形態に係る方法を用い形成した電子注入層15を用いたデバイスの発光面の模様を示す図であり、図8(b)は、比較例として、TiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用い形成した電子注入層を用いたデバイスの発光面の模様を示す図である。
【0056】
図8(b)に示すTiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用い形成した電子注入層を用いたデバイスの発光面の模様との比較において、図8(a)に示す本実施の形態に係る電子注入層15を用いたデバイスの発光面がムラなく均一である。これは、TiOゾルと炭酸セシウムとの混合溶液を用い形成した膜の表面粗さが均一であることに由来するものであると考えられる。具体的な数値としては表していないが、比較例として、TiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用い形成した電子注入層の表面粗さが10[nm]程度であるのに対して、図8(a)に示す本実施の形態に係る電子注入層15の表面粗さの値が一桁小さくなっている。
【0057】
なお、図8(b)に示すように、比較例としての、TiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用い形成した電子注入層を用いたデバイスの発光面に筋状のムラが発生したり、粒状部分が存在したりするのは、図9(b)に示すように、層中でTiOのナノ粒子が凝集しているためであると考えられる。このため、比較例としての、TiOナノ粒子と炭酸セシウムの混合分散液を用い形成した電子注入層を備える有機ELデバイスでは、輝度ムラが発生し、また、有機発光層とカソードとの間での短絡も発生し易くなっている。
【0058】
一方、図8(a)に示すように、本実施の形態に係る方法を用い形成した電子注入層15の表面が均一であるため、有機発光層14およびカソード16との接触も良好であって、優れた電子注入性を有する。このため、本実施の形態に係る方法を用い形成した電子注入層15を備える有機ELデバイス1では、輝度ムラの発生は少なく、また、有機発光層14とカソード16との短絡の発生も少ない。
【0059】
なお、電子注入層15の表面における平坦性に関しても、TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比は、10:6〜10:8の範囲が好ましいということができる。TiOゾルと炭酸セシウムとの混合比を、10:8とする場合、さらに好ましい。
[その他の事項]
上記実施の形態では、電子注入層15の形成において、TiOゾルと炭酸セシウムとの混合溶液150を用いることとしたが、TiOゲルと炭酸セシウムとの混合溶液を用いることもできる。その場合においても、上記同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、上記実施の形態では、所謂、ボトムエミッション型の有機ELデバイス1を一例として採用したが、本発明は、ボトムエミッション型の有機ELデバイスに限らず、トップエミッション型の有機ELデバイスにおいても、電子注入層の形成に関して同様の製造方法を採用することができる。トップエミッション型の構成を採用する場合には、アノードについて光反射性の材料(金属材料等)を用いて形成し、カソードについて光透過性の材料(ITOやIZOなど)を用いて形成すればよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、基板10上にアノード11を形成する構成としたが、逆に、基板10上にカソードを形成する構成とすることもできる。この場合には、カソードとアノードとの間に挿設される部位の積層順を、図1に示す構成とは逆にすればよい。この場合においても、電子注入層の形成に関し、上記同様の方法を採用することができ、上記同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、上記実施の形態では、有機ELデバイス1の構成として、一例として図1に示す構成を採用したが、有機ELデバイスの構成はこれに限定を受けるものではない。例えば、基板10上に複数のアノードを配設し、アノード毎に区画して有機発光層を形成してなる構成を採用することもできる。この場合においては、隣り合うピクセルの有機発光層同士の間を、絶縁性のバンクで区画することとしてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態では、基板10について特に言及しなかったが、薄膜トランジスタ素子(TFT素子)が形成されてなるTFT基板とすることもできる。この場合には、TFT素子のソースまたはドレインに対してアノード11を接続することで、TFT基板内のTFT素子により有機ELデバイスの発光制御を行うことができる。勿論、基板10内にTFT素子を形成することなく、発光制御部を有機ELデバイスの外に別途設けることもできる。
【0064】
また、本発明の「有機ELデバイス」には、画像表示パネルなどの「表示装置」、および「発光装置」を含むものとするものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、製造時における煩雑な工程を経ることなく、輝度ムラの少ない有機ELデバイスを実現するのに有用である。
【符号の説明】
【0066】
1.有機ELデバイス
10.基板
11.アノード
12.ホール注入層
13.ホール輸送層
14.発光層
15.電子注入層
16.カソード
150.TiO:CsCO混合溶液
1501.TiO(0.6wt%)ゾル溶液
1502.CsCO(0.4wt%)溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するアノードおよびカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に挿設される有機発光層と、前記有機発光層と前記カソードとの間に挿設される電子注入層とを備える有機ELデバイスの製造方法であって、
前記電子注入層は、TiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合溶液を用いたウェットプロセスを経て形成される
ことを特徴とする有機ELデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記電子注入層は、
大気雰囲気下で、下地となる層の上に、前記混合溶液を滴下し成膜する第1工程と、
大気雰囲気下で、前記混合溶液からなる膜をベークする第2工程と、
前記第2工程でベークされた前記膜を、さらに、窒素雰囲気下でベークする第3工程と、
を経て形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記電子注入層の形成は、前記有機発光層の形成の後になされ、
前記下地となる層は、前記有機発光層であり、
前記第2工程でのベーク、および前記第3工程でのベークは、前記有機発光層の耐熱温度以下で実行される
ことを特徴とする請求項2に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程でのベークは、前記第3工程でのベークよりも低い温度で、且つ、長時間なされる
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記混合溶液におけるTiOゾルまたはTiOゲルと、炭酸セシウムとの混合比は、重量比において、10:6〜10:8の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記有機発光層と前記アノードとの間には、ホール輸送層が挿設され、
前記ホール輸送層および前記有機発光層についても、ともにウェットプロセスを経て形成される
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の有機ELデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−109962(P2013−109962A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254216(P2011−254216)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】