説明

有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法及び駆動装置

【課題】プリチャージ電流を低減し、消費電力を低減させた有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法及び駆動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動し、陰極の非選択ラインをハイインピーダンスにした有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法及び駆動装置において、ロードライバの陰極電圧を出力する側に直列にダイオードを挿入し、すべての非選択ラインにおいてカラム方向からの電流の流入を防止したことを特徴とする。また、ダイオードの代わりに、MOSFETを逆方向に直列接続し、非選択ラインにおけるカラム方向からの電流の流入を制御することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、有機ELディスプレイに関し、より詳細には、有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法及び駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELディスプレイ(Organic Light Emitting Display)や液晶ディスプレイなどの、フラットパネルディスプレイが注目されている。そのようなフラットパネルディスプレイの素子の駆動方式には、パッシブマトリックス(passive matrix)駆動方式やアクティブマトリックス(active matrix)駆動方式などが採用されている。
【0003】
図11は、従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図である。図11には、3×3の有機ELパッシブマトリックス素子113が示されている。実際の有機ELディスプレイのマトリックス数は、3×3よりもはるかに多いが、説明を簡略化するために3×3とした。陽極側のカラムドライバ111は、各カラム駆動部ごとに定電流駆動回路を備える。図12に、従来のカラムドライバ111が備えるカラム回路(定電流駆動回路)120を示す。定電流駆動回路は、一般的なプッシュプル出力(push-pull output)構成である。一方、陰極側のロードライバ112は、有機ELパッシブマトリック素子113を行毎に、順番にonに点灯して(点灯する行を選択ラインと呼ぶ)、点灯しない残りの行(非選択ラインと呼ぶ)には、逆バイアス電圧Vcomを印加する。図13に、従来のロードライバ112が備えるロー回路130を示す。このロー回路130は、FET1 131、及びFET2 132を備え、それらの間に出力端133を備える。このロードライバ112の駆動回路も、プッシュプル出力構成である。
【0004】
図11では、陰極1に対応する行が選択ラインであり、陰極2及び3に対応する行が非選択ラインである。なお、図11において、陽極2及び陰極2に接続される回路は省略してあり、実際には、それぞれ、陽極1及び3、並びに陰極1及び3と同様の回路が接続されている。
【0005】
図14は、図11に示した従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の動作を示す波形図である。図11に示した従来の有機ELパッシブマトリックス素子を駆動すると、図14に示すように、陽極1〜3の立ち上がりが鈍り(図14の斜線部)、有機ELの発光量に損失が生じてしまう。これは、図15に、図11の従来の駆動回路の等価回路図で示すように、1つの陽極ラインに、マトリックスの行数に比例する有機EL素子の寄生容量が存在するためである。より具体的には、この駆動回路を定電流Iで駆動した場合、立ち上がり動作時に、定電流Iは有機EL素子の寄生容量を充電してしまい、発光させる有機EL素子には電流が流れないためである。
【0006】
一方、この駆動波形の鈍りをなくす方法として、プリチャージ(precharge)手法が知られている。図16は、プリチャージ手法を用いた有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の動作を示す波形図である。図16に示したように、プリチャージ手法を用いると、プリチャージ電流Ipによって寄生容量が充電されるために、陽極電圧の応答を改善させることができる。ところが、大型のマトリックス表示器ではその行数が多いために、プリチャージに使用される消費電流Iおよび電力Pは、以下に示す式1及び2の通り、膨大になってしまう。
Ip=CpnV・Fr・Fs・m・・・(式1)
P=Vs・Ip・・・(式2)
【0007】
上述の式において、Cpは寄生容量、Vは有機EL素子の規定電流時の電圧、Frはフレーム周波数、Fsは走査周波数(行数)、mはカラム(陽極)数、nは走査行数、Vsは電源電圧を示す。
【0008】
このプリチャージに用いられる電流および電力をなくす方法として、走査ラインにおいて、非選択ラインをハイインピーダンスにする方法が提案されている(特許文献1〜6参照)。図17に、非選択ラインをハイインピーダンスにする、従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図を示す。図17の駆動回路も、陽極側のカラムドライバ171、陰極側のロードライバ172、及び3×3の有機ELパッシブマトリックス素子173を備える。図17では、陰極1が選択ラインであり、陰極2及び陰極3が非選択ラインである。
【0009】
図17の陽極側ロードライバ172も、図13に示したロー回路130を備え、FET1 131、及びFET2 132が同時にオフになることによって、非選択ラインをハイインピーダンス状態にすることができる。すなわち、これら非選択ラインは、直流的にはハイインピーダンス状態である。有機ELパッシブマトリックス素子をこのように構成することにより、プリチャージに用いられる電流及び電力をなくすことができる。
【0010】
【特許文献1】特開2002−162927号公報
【特許文献2】特開2004−184985号公報
【特許文献3】特開平11−311977号公報
【特許文献4】特開2002−328650号公報
【特許文献5】特開2002−202754号公報
【特許文献6】特開2003−66907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の技術においても、依然として図14に示した駆動波形と同じように鈍りが生じてしまうという問題がある。
【0012】
図17に示した有機ELパッシブマトリックス素子においては、交流的にはトランジスタTr1の寄生容量174が存在するため、陽極電圧が上昇すると、有機EL素子の寄生容量と、トランジスタTr1の寄生容量174とを通じて、陽極から非選択ラインの陰極2及び3へ電荷が移動してしまう。つまり、陽極から陰極へ電流Ip3が流れてしまい、その結果、非選択ラインのハイインピーダンス状態が維持できなくなってしまう。したがって、図14に示した駆動波形と同じように鈍りが生じて、駆動電流に対する発光量(電流発光効率)が減少してしまっていた。
【0013】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上述した、陰極の非選択ラインをハイインピーダンスにする有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法及び装置において、プリチャージ電流を低減し、消費電力を小さくすることができる有機ELのパッシブマトリックス素子の駆動方法及び駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する方法において、前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にダイオードを直列接続し、すべての非選択ラインにおいてカラム方向からの電流の流入を防止したことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法であって、前記カラムドライバに、定電圧で前記有機ELパッシブマトリックス素子の寄生容量に充電するプリチャージ回路を付帯させたことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する方法において、前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にMOSFETを逆方向に直列接続し、非選択ラインにおけるカラム方向からの電流の流入を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法であって、前記MOSFETは、選択ラインであったローが非選択になった初めての水平期間にのみ、オンになることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法であって、前記MOSFETは、非選択期間には、1水平期間ごとにオンとオフとを繰り返すことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する装置であって、前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にダイオードを直列接続し、すべての非選択ラインにおいてカラム方向からの電流の流入を防止したことを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置であって、前記カラムドライバに、定電圧で前記有機ELパッシブマトリックス素子の寄生容量に充電するプリチャージ回路を付帯させたことを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する装置であって、前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にMOSFETを逆方向に直列接続し、非選択ラインにおけるカラム方向からの電流の流入を制御することを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置であって、前記MOSFETは、選択ラインであったローが非選択になった初めての水平期間にのみ、オンになることを特徴とする。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項8に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置であって、前記MOSFETは、非選択期間には、1水平期間ごとにオンとオフとを繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一実施形態では、ロードライバの出力を完全なハイインピーダンスにするために、陰極電圧を出力する側にダイオードを挿入することで、非選択ラインにおける陽極側から陰極側への電流の流入を阻止する。そうすることによって、駆動時にはプリチャージ電流が不要になり、駆動電流に対する発光効率を向上させることが可能となる。
【0025】
また、本発明の一実施形態では、表示する画像に応じてプリチャージ電流を流し、余分な電流をなくすことで、低消費電力で有機ELパッシブマトリックス素子を動作させることが可能となる。
【0026】
また、本発明の一実施形態では、ロードライバの陰極電圧を出力する側にMOSFETを逆方向に直列接続し、非選択ラインにおけるカラム方向からの電流の流入を制御することが可能となる。そうすることによって、表示状態に白表示と黒表示とが適度に混ざった画像に対応して、消費電力と画質の制御を自由に行なうことができるようになる。
【0027】
さらに、本発明の一実施形態では、上述のMOSFETを、選択ラインであったローが非選択になった初めての水平期間にのみオンにすること、または、非選択期間には、1水平期間ごとにオンとオフとを繰り返すことにより、表示画質を劣化させることなく、有機ELパッシブマトリックス素子の消費電力を低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第1の実施例)
図1は、本発明の第1の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図を示す。図1の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路は、陽極側のカラムドライバ1と、トランジスタTr1に寄生容量4が存在する陰極側のロードライバ2と、3×3の有機ELパッシブマトリックス素子3とを備える。陽極側のカラムドライバ1は、各カラム駆動部ごとに定電流駆動回路を備える。また、陰極側のロードライバ2は、有機ELパッシブマトリックス素子3を行毎に点灯させるために陰極電圧を印加する。さらに、本実施例に係る駆動回路のロードライバ2は、従来のロードライバと異なり、各陰極電圧Vcomを出力するトランジスタTr1に、ダイオード5を直列に備えている。有機ELパッシブマトリックス素子3は、説明の簡略化のために3×3としたが、この数に限定されるものではなく、実際の有機ELディスプレイのマトリックス数は、3×3よりもはるかに多い。なお、点灯する行を選択ラインと呼び、点灯しない行を非選択ラインと呼ぶ。また、図1において、陽極2及び陰極2に接続される回路は省略してあり、実際には、それぞれ、陽極1及び3、並びに陰極1及び3と同様の回路が接続されている。
【0029】
図2は、本実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の動作を示す波形図を示す。図2を参照しながら、本実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の動作を以下に説明する。
【0030】
本実施例では、有機EL素子を点灯するために陽極1〜3に電流Iを流すと、各陽極電圧は規定の電圧Vcになる。一方、非選択ラインの陰極電圧は、ダイオード5の働きにより陰極の電源Vcom側に電流が流れないために、Vc+Vcomとなる。すなわち、有機EL素子の寄生容量に加わる電圧は変化しない。したがって、各陽極電圧はすばやく立ち上がることができ、従来のプリチャージ電流が不要となり、駆動電流に対する発光効率を向上させることができる。
【0031】
(第2の実施例)
図3は、本発明の第2の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図を示す。本実施例では、第1の実施例において説明した方式とプリチャージ方式とを併用する。また、図4は、本実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の動作を示す波形図を示す。
【0032】
図3の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路は、陽極側のカラムドライバ11と、陰極側のロードライバ12と、3×3の有機ELパッシブマトリックス素子13とを備える。本実施例に係るカラムドライバ11は、実施例1に係るカラムドライバ1と異なり、定電圧プリチャージ回路16を備える。トランジスタTr1に寄生容量14が存在する陰極側のロードライバ12は、実施例1と同様に、トランジスタTr1にダイオード15を直列に備える。また、有機ELパッシブマトリックス素子13の構成は、実施例1に係る駆動回路と同様である。なお、有機ELパッシブマトリックス素子13は、3×3に限定されるものではなく、任意の数で構成することができる。また、図3において、陽極2及び陰極2に接続される回路は省略してあり、実際には、それぞれ、陽極1及び3、並びに陰極1及び3と同様の回路が接続されている。
【0033】
以下に、図3及び4を参照しながら、本実施例に係るカラムドライバ11が備える定電圧プリチャージ回路16の動作を説明する。なお、図3は、陽極1及び2が点灯(白表示)し、陽極3が消灯(黒表示)する例を示す。
【0034】
カラム方向において無表示(黒表示)状態があると、駆動動電流Iは、非選択ラインの有機EL素子の寄生容量を通じて、無表示(黒表示)のカラムに分流し、白色表示時の発光量が低下する。そこで、この白色表示時の発光量の低下を防ぐために、定電圧プリチャージ回路16によってプリチャージ電流Ipを流す。このプリチャージ電流Ipは、同一選択ラインにおけるすべてのカラムが白色表示される場合、駆動電流Iによって陽極電圧が規定値になっているために流れない。一方、同一選択ラインにおいて無表示(黒表示)がある場合、充電する寄生容量が増加して、陽極電圧が規定値に到達しないためにプリチャージ電流Ipが流れる。プリチャージ電流Ipは、寄生容量の充電が完了すると、自動的に停止する。従って、余分な電流は流れない。
【0035】
この結果、プリチャージ電流は、表示状態に白表示と黒表示とが適度に混ざった画像に対応して流れるために、従来に比べて50〜80%に低減することができる。このように、本実施例によると、カラム方向において無表示(黒表示)状態がある場合でも、白色表示時の発光量の低下を防ぐことができ、プリチャージ電流を必要とするものの、消費電力を従来と比較して低減することができる。
【0036】
(第3の実施例)
図5は、本発明の第3の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路のロードライバが備える、ロー回路50を示す。本実施例に係るロー回路50は、FET1 51、FET2 52、及び出力端54を備え、さらに、FET2 52と出力端54との間に、FET3 53を備える。
【0037】
図6は、本実施例に係るロー回路50の、寄生ダイオード61、62、63を明示した図である。本実施例に係るロー回路50では、FET3 53がオンの状態では、FET3 53のドレイン−ソース間の抵抗値は小さくなり、また、逆電圧がかかっている場合にも、寄生ダイオードを介して電流が流れる。そのため、FET3 53がオンの状態では、どちらの方向へも電流が流れることができる。また、FET3 53がオフの状態では、FET3 53の寄生ダイオード63のみが残る。したがって、FET3 53がオフの状態では、出力端54の電位が電圧Vcomよりも高い状態において電流が流れず、出力端54につながる陰極の電位を高いままに保持することができる。
【0038】
なお、本実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の動作は、図2に示した第1の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の動作と同様である。
【0039】
本実施例においては、ロードライバの出力を完全なハイインピーダンス状態にするために、陰極電圧を出力する側に逆向きのFET3 53を挿入した。FET3 53がオフの状態では、非選択ライン時に陽極側から陰極側への電流の流入を阻止することにより、プリチャージ電流が不要になり、駆動電流に対する発光効率を向上させることができる。また、FET3 53がオンの状態では、陽極側から陰極側への電流の流入を阻止しないようにすることにより、陰極側の電位を電源電位に束縛するように制御することができる。したがって、本実施例によると、表示状態に白表示と黒表示とが適度に混ざった画像に対応して、消費電力と画質の制御を自由に行なうことができる。
【0040】
(第4の実施例)
以下に、第3の実施例に関して、さらに詳細な有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の制御方法を示す。なお、本実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路は、第3の実施例と同様に構成される。
【0041】
図7は、本実施例に係るロードライバの、第1の動作を示す波形図である。第1の動作では、FET1がオンになると、陰極が低い電位に固定され、選択状態となる。また、FET2及びFET3が同時にオンになると、陰極が高い電位に固定される。さらに、FET2がオンであり、FET3がオフである場合には、FET3はダイオードのように動作し、陰極が、電源電圧またはそれよりも高い電位になる。
【0042】
ロー回路1は、最初の水平期間にFET1がオンになって、選択状態になる。次の水平期間には、FET2とFET3がオンになって、陰極が高い電位に固定される。さらに次の水平期間には、FET3がオフになって、陰極は電源電位より高い電位になる。陰極の電位が高い間、FET3はオフであり続けるので、ハイインピーダンス状態となる。しかし、陰極が電源電位よりも下がった場合には、FET3がダイオードとして機能し、電源から陰極へ電流が注入されて、陰極は電源電位を維持する。
【0043】
ロー回路2は、ロー回路1が選択状態になった次の水平期間に選択状態となる。また、その次の水平期間には、陰極が高い電位に固定される。さらに、その次の水平期間には、陰極が限定ハイインピーダンス状態になる。
【0044】
ロー回路3は、ロー回路2が選択状態になった次の水平期間に選択状態となる。また、その次の水平期間に、陰極が高い電位になった後、限定ハイインピーダンス状態を保持する。
【0045】
このように動作する有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路を、実施例Aとする。
【0046】
図8は、本実施例に係るロードライバの、第2の動作を示す波形図である。第2の動作では、FET1がオンになると、陰極が低い電位に固定され、選択状態となる。また、FET2とFET3が同時にオンになると、陰極が高い電位に固定される。FET2がオンであり、FET3がオフである場合は、FET3はダイオードのように動作し、陰極は、電源電圧またはそれよりも高い電位になる。
【0047】
ロー回路1は、最初の水平期間にFET1がオンになって、選択状態になる。次の水平期間には、FET2とFET3がオンになって、陰極が高い電位に固定される。さらに次の水平期間には、FET3がオフになって、陰極は電源電位より高い電位になる。陰極の電位が高い間、FET3はオフであり続けるので、ハイインピーダンス状態となる。しかし、陰極が電源電位よりも下がった場合には、FET3がダイオードとして機能し、電源から陰極へ電流が注入されて、陰極が電源電位を維持する。さらに次の水平期間には、再びFET3がオンになって、陰極の電位を電源電位に合わせる。その後、ロー回路1は、水平期間ごとに、ハイインピーダンス状態と電源電位固定状態とを交互に繰り返す。
【0048】
ロー回路2は、ロー回路1が選択状態になった次の水平期間に選択状態となる。また、その次の水平期間には、陰極が高い電位に固定される。さらに、その次の水平期間には、陰極がハイインピーダンス状態になる。その後、ロー回路2は、水平期間ごとに、ハイインピーダンス状態と電源電位固定状態とを交互に繰り返す。
【0049】
ロー回路3は、ロー回路2が選択状態になった次の水平期間に選択状態となる。また、その次の水平期間に、陰極が高い電位になった後、ハイインピーダンス状態を保持する。その後、ロー回路3は、水平期間ごとに、ハイインピーダンス状態と電源電位固定状態とを交互に繰り返す。
【0050】
このように動作する有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路を、実施例Bとする。
【0051】
図9は、本実施例に係るロードライバの、第3の動作を示す波形図である。第3の動作では、ロー回路1〜3のそれぞれのFET3は、常にオンになっている。そのため、ロードライバは、ロー回路1〜3にFET3が挿入されていない場合と同じように動作する。したがって、各陰極は、選択期間には低い電位に固定され、非選択期間には高い電位に固定される。
【0052】
このように動作する有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路を、実施例Cとする。
【0053】
図10は、本実施例に係るロードライバの、第4の動作を示す波形図である。第4の動作では、ロー回路1〜3のそれぞれのFET3は、常にオフになっている。そのため、ロードライバは、ロー回路1〜3に対して、FET3の代わりにダイオードが挿入されている場合と同じように動作する。したがって、各陰極は、選択期間には低い電位に固定され、非選択期間にはハイインピーダンス状態となり、電源電位より高い不定な電位となる。
【0054】
このように動作する有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路を、実施例Dとする。
【0055】
表1に、消費電力と表示画質について、実施例A〜Dを比較した結果を示す。表1において、「◎」はとても良い、「○」は良い、「×」は悪いことを示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例Cは、実施例A及びBと比較して、表示画質は十分であるが、非選択状態のときに充電するための電流が流れるので、消費電力は大きくなる。
実施例Dは、実施例A及びBと比較して、ハイインピーダンス状態となるので消費電力は小さくなるが、パネル内に電位分布が発生するために表示画質は悪くなる。
すなわち、実施例A及びBでは、実施例C及びDと比較して、消費電力が低減され、表示画質がよいことがわかる。
【0058】
このように、ロードライバを、図7及び8に示したように動作させることにより、表示画質を劣化させることなく、有機ELパッシブマトリックス素子の消費電力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の動作を示す波形図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る有機ELパッシブマトリックス素子の動作を示す波形図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係るロー回路の回路図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係るロー回路の寄生ダイオードを示した図である。
【図7】本発明の第4の実施例に係るロードライバの第1の動作を示す波形図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係るロードライバの第2の動作を示す波形図である。
【図9】本発明の第4の実施例に係るロードライバの第3の動作を示す波形図である。
【図10】本発明の第4の実施例に係るロードライバの第4の動作を示す波形図である。
【図11】従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図である。
【図12】従来のカラムドライバが備えるカラム回路の回路図である。
【図13】従来のロードライバが備えるロー回路の回路図である。
【図14】従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の動作を示す波形図である。
【図15】従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の等価回路図である。
【図16】プリチャージ手法を用いた、従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路の動作を示す波形図である。
【図17】非選択ラインをハイインピーダンスにする、従来の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動回路図である。
【符号の説明】
【0060】
1、11、111、171 カラムドライバ
2、12、112、172 ロードライバ
3、13、113、173 有機ELパッシブマトリックス素子
4、14、174 寄生容量
5、15 ダイオード
16 定電圧プリチャージ回路
50、130 ロー回路
51、131 FET1
52、132 FET2
53 FET3
54、133 出力端
120 カラム回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する方法において、
前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にダイオードを直列接続し、すべての非選択ラインにおいてカラム方向からの電流の流入を防止したことを特徴とする有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法。
【請求項2】
前記カラムドライバに、定電圧で前記有機ELパッシブマトリックス素子の寄生容量に充電するプリチャージ回路を付帯させたことを特徴とする請求項1に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法。
【請求項3】
有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する方法において、
前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にMOSFETを逆方向に直列接続し、非選択ラインにおけるカラム方向からの電流の流入を制御することを特徴とする有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法。
【請求項4】
前記MOSFETは、選択ラインであったローが非選択になった初めての水平期間にのみ、オンになることを特徴とする請求項3に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法。
【請求項5】
前記MOSFETは、非選択期間には、1水平期間ごとにオンとオフとを繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動方法。
【請求項6】
有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する装置であって、
前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にダイオードを直列接続し、すべての非選択ラインにおいてカラム方向からの電流の流入を防止したことを特徴とする有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置。
【請求項7】
前記カラムドライバに、定電圧で前記有機ELパッシブマトリックス素子の寄生容量に充電するプリチャージ回路を付帯させたことを特徴とする請求項6に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置。
【請求項8】
有機ELパッシブマトリックス素子を、定電流回路を持つカラムドライバと、選択ラインを順次変えていくロードライバとで駆動する装置であって、
前記ロードライバの陰極電圧を出力する側にMOSFETを逆方向に直列接続し、非選択ラインにおけるカラム方向からの電流の流入を制御することを特徴とする有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置。
【請求項9】
前記MOSFETは、選択ラインであったローが非選択になった初めての水平期間にのみ、オンになることを特徴とする請求項8に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置。
【請求項10】
前記MOSFETは、非選択期間には、1水平期間ごとにオンとオフとを繰り返すことを特徴とする請求項8に記載の有機ELパッシブマトリックス素子の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−116272(P2009−116272A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292279(P2007−292279)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】