説明

有機ELパネルにおける捕水層の形成方法

【課題】 有機ELパネルの捕水層を形成するに当たり、厚みが薄く、かつダレが生じることがなく、しかも吸湿剤が十分に気体中に露出して吸湿剤により十分な捕水効果を示す捕水層を形成する。
【解決手段】 基板12と、基板上に形成された有機EL構造体14と、有機EL構造体を封止する封止板16と、封止板内面に形成された捕水層20とを具備する有機ELパネルにおいて、封止板内面の捕水層20を形成するに当たり、吸湿剤、樹脂および揮発性溶剤を含有し、樹脂の含有量が全体の5〜10wt%である混合物を封止板の内面に塗布する塗布工程と、加熱処理および真空脱気処理の一方または両方により、封止板の内面に塗布した混合物中の揮発性溶剤を揮発させてこの混合物を硬化させる硬化工程とにより捕水層20の形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された有機EL構造体を封止する封止板の内面に捕水層が設けられた有機ELパネルの捕水層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELパネルとして、基板と、基板上に形成された有機EL構造体と、有機EL構造体を封止する封止板とを具備し、封止板の内面に吸湿剤を含有する捕水層が設けられたものがある。上記捕水層は、有機EL構造体を水分から保護するためのものである。
【0003】
従来、上述した捕水層は、例えば、フッ素系オイル、フッ素系ゲル等の不活性液体や不活性ゲル中に、活性アルミナ、モレキュラシーブス、酸化カルシウム、酸化バリウム等の吸湿剤を混合した混合物を封止板の内面に塗布することにより形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−163076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述した不活性液体や不活性ゲル中に吸湿剤を混合した混合物を塗布して形成した捕水層は、次のような問題を有するものであった。
(a)上記混合物を塗布しやすい粘度にするには、捕水力を有さない不活性液体や不活性ゲルの含有量を多くする必要があり、そのため捕水層の厚みが厚くなってしまう。したがって、捕水層と有機EL構造体との間の隙間を確保するためには、封止板の内面の捕水層を形成する凹部を深くする必要が生じる。そのため、封止板の強度を保つために封止板を厚くしなければならず、その結果、有機ELパネルの総厚みが厚くなり、有機ELパネルの特長が損なわれる。
(b)上記混合物を塗布しやすい粘度にすると、混合物のダレが起こりやすくなる。その結果、製品化後に基板側への捕水層のダレが生じ、この捕水層のダレと基板とが接触して不具合が生じる。
(c)吸湿剤が不活性液体や不活性ゲル中に埋没し、吸湿剤の気体中に露出する個数が少なくなるため、吸湿剤と水分とが接触しにくく、吸湿剤による十分な捕水効果が期待できない。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、捕水層の厚みを薄くすることができ、かつ捕水層のダレが生じることを防止することができるとともに、吸湿剤が十分に気体中に露出して吸湿剤により十分な捕水効果を示す捕水層を得ることが可能な有機ELパネルにおける捕水層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するため、基板と、前記基板上に形成された有機EL構造体と、前記有機EL構造体を封止する封止板と、前記封止板内面に形成された捕水層とを具備する有機ELパネルにおける捕水層の形成方法であって、 吸湿剤、樹脂および揮発性溶剤を含有し、前記樹脂の含有量が全体の5〜10wt%である混合物を前記封止板の内面に塗布する塗布工程と、加熱処理または/および真空脱気処理により、前記封止板の内面に塗布した混合物中の揮発性溶剤を揮発させて該混合物を硬化させる硬化工程とにより前記捕水層を形成することを特徴とする有機ELパネルにおける捕水層の形成方法を提供する。
【0008】
本発明では、吸湿剤、樹脂および揮発性溶剤を含有し、かつ樹脂の含有量を全体の5〜10wt%と極力少なくした混合物を封止板の内面に塗布した後、加熱処理または/および真空脱気処理を行うので、混合物中の揮発性溶剤をほぼ完全に揮発させた状態で上記混合物を硬化させることができ、そのため捕水層の体積を小さくして捕水層の厚みを薄くすることができる。また、上記混合物は加熱処理や真空脱気処理によって硬化するので、捕水層形成後に捕水層のダレが生じることはない。さらに、上述のように捕水層の厚みを薄くすることができるので、捕水層中に含まれる吸湿剤を気体中に十分に露出させることができ、これによって吸湿剤により十分な捕水効果を示すようにすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る有機ELパネルにおける捕水層の形成方法によれば、厚みが薄く、かつダレが生じることがなく、しかも吸湿剤を十分に気体中に露出させて、露出した吸湿剤により十分な捕水効果を示す捕水層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。図1は本発明を適用する有機ELパネルの一例を示す模式的断面図である。本例の有機ELパネル10は、基板12と、基板12上に形成された有機EL構造体14と、有機EL構造体14を封止する封止板16とを具備する。封止板16は、封止用接着剤(図示せず)によって基板12に固着されている。また、封止板16の内面(凹部18の底面)には捕水層20が形成されている。
【0011】
本例の有機ELパネル10において、基板12、有機EL構造体14、封止板16としては、従来公知のものを使用することができる。具体的には、基板12としては、例えば、ガラス、石英、透明樹脂等の透明材料からなるものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、有機EL構造体14としては、例えば、発光層を有する有機層を、一方が透光性である一対の電極で挟持したものを用いることができる。この場合、上記発光層を有する有機層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層によって形成することができるが、これらに限定されるものではない。さらに、封止板16としては、例えば、ガラス、石英、透明樹脂等の透明材料からなるものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明に係る有機ELパネルにおける捕水層の形成方法は、捕水層20の形成に適用されるもので、下記(1)、(2)の工程により捕水層20を形成する。
(1)吸湿剤、樹脂および揮発性溶剤を含有し、樹脂の含有量が全体の5〜10wt%である混合物を封止板16の内面に塗布する塗布工程。
(2)加熱処理または/および真空脱気処理により、封止板16の内面に塗布した混合物中の揮発性溶剤を揮発させて混合物を硬化させる硬化工程。
【0013】
本発明において、上記吸湿剤の種類に限定はないが、例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化ストロンチウム、水素化バリウム、水素化アルミニウムリチウム、活性アルミナ、モレキュラシーブス等から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
上記樹脂の種類にも限定はないが、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
また、上記揮発性溶剤としては、上記樹脂を溶解し得る種々のタイプのシンナーを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
さらに、本発明では、上記樹脂と揮発性溶剤とを予め混合したもの(溶剤揮発型樹脂)として、エ・ア・ブラウン・マクファレン社製HumiSeal(商品名)1B51、1B66、1B31などを使用することができる。これらの溶剤揮発型樹脂は、固形分が20〜35%程度、粘度が200〜250mPa・s程度で、硬化条件が24hrs/25℃あるいは0.5hrs/70℃程度のものである。これら溶剤揮発型樹脂は、シンナー等で適宜希釈して使用することができる。
【0017】
本発明において、吸湿剤、樹脂および揮発性溶剤を含有する混合物中における樹脂の含有量は全体の5〜10wt%とすることが適当であり、この範囲を外れると前述した本発明の効果が得られないことがある。また、上記混合物中における吸湿剤の含有量は全体の10〜50wt%であることが好ましく、吸湿剤を分散性良く混在させるために、吸湿剤と樹脂との比重が同じになるように調整した方がよい。その場合、揮発性溶剤の含有量は全体の45〜85wt%とすることが適当である。
【0018】
本発明の塗布工程においては、上記混合物を封止板の内面に適宜塗布手段を用いて塗布することができる。また、本発明の硬化工程においては、封止板の内面に塗布した混合物を適宜加熱処理手段および/または適宜真空脱気処理手段を用いて硬化させることができる。具体的には、例えば、バキュームオーブン内において非加熱状態で、封止板の内面にディスペンサ等を用いて混合物を塗布した後、引き続き同じバキュームオーブン内において、ホットプレート加熱、遠赤外加熱等の加熱処理や、真空脱気処理によって、極力短時間で揮発性溶剤を揮発させて混合物を硬化させることができる。さらに、引き続き同じバキュームオーブン内において、このバキュームオーブン内を例えば窒素+酸素雰囲気として、基板と封止板との固着工程を行って有機ELパネルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用する有機ELパネルの一例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0020】
10 有機ELパネル
12 基板
14 有機EL構造体
16 封止板
18 凹部
20 捕水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された有機EL構造体と、前記有機EL構造体を封止する封止板と、前記封止板内面に形成された捕水層とを具備する有機ELパネルにおける捕水層の形成方法であって、
吸湿剤、樹脂および揮発性溶剤を含有し、前記樹脂の含有量が全体の5〜10wt%である混合物を前記封止板の内面に塗布する塗布工程と、
加熱処理または/および真空脱気処理により、前記封止板の内面に塗布した混合物中の揮発性溶剤を揮発させて該混合物を硬化させる硬化工程とにより前記捕水層を形成することを特徴とする有機ELパネルにおける捕水層の形成方法。
【請求項2】
前記塗布工程をバキュームオーブン内において非加熱状態で行った後、引き続き前記バキュームオーブン内において前記硬化工程を行う請求項1に記載の有機ELパネルにおける捕水層の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−310122(P2006−310122A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132042(P2005−132042)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【出願人】(000167783)広島オプト株式会社 (95)
【Fターム(参考)】