説明

有機ELパネル及びその製造方法

【課題】 放熱性や強度の向上が可能であり、また、表示不良の発生を抑制することが可能な有機ELパネル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】両電極2、4間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL素子を支持基板1上に形成し、前記有機EL素子を気密的に覆う封止基板5をスペーサー6aを含む接着剤6を介して支持基板1上に配設してなる有機ELパネルである。封止基板5の前記有機EL素子との対向面に放熱性フィラー7aを含む充填剤7が配設され、充填剤7は、その配設時高さT2が接着剤6の配設時高さT1よりも低く、かつ、スペーサー6aの径a1よりも高く、放熱性フィラー7aはその径a2がスペーサー6aの径a1よりも小さく、封止基板5と支持基板とは充填剤7配設後に加圧して接着されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両電極間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL(Electro-Luminescence)素子を支持基板上に形成した有機ELパネルに関するものであり、特に気密空間に充填剤を配設した有機ELパネル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年有機EL素子を用いた有機ELパネルは、自発光装置として脚光を浴びており、ディスプレイ用途としては液晶表示装置に比べて視野角依存性が少ない、コントラスト比が高い、薄膜化が可能であるなどの利点から市場投入が進み、最近では有機ELパネルを使用した薄型テレビも市場投入された。
【0003】
また、最近では有機ELパネルは照明装置としても市場投入され始めており、照明用途としての開発も盛んに行われている。特に照明用途としての有機ELパネルは、高輝度化に伴う放熱技術が重要な開発項目の1つである。
【0004】
放熱技術として例えば特許文献1及び2に開示されるように、支持基板と封止基板との間の気密空間内に充填剤を充填する発明が開示されている。充填剤を充填することによって、放熱のほか、大型化に伴って撓みの生じる支持基板と封止基板との接触による表示不良を抑制することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−103534号公報
【特許文献2】特再公表2008−102694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の構成においては、支持基板と封止基板との接着時に両基板に圧力が付与される際や温度変化などの種々の条件で有機EL素子に対して圧力が付与される場合に、充填剤によって有機EL素子に物理的なダメージが与えられることで表示不良を引き起こすおそれがあるという問題点があり、有機ELパネルの放熱及び強度向上のためには更なる改良の余地があった。
【0007】
本発明は、この問題に鑑みなされたものであり、放熱性や強度の向上が可能であり、また、表示不良の発生を抑制することが可能な有機ELパネル及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、両電極間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL素子を支持基板上に形成し、前記有機EL素子を気密的に覆う封止基板をスペーサーを含む接着剤を介して前記支持基板上に配設してなる有機ELパネルであって、
前記封止基板の前記有機EL素子との対向面に放熱性フィラーを含む充填剤が配設され、
前記充填剤は、その配設時高さが前記接着剤の配設時高さよりも低く、かつ、前記スペーサーの径よりも高く、前記放熱性フィラーはその径が前記スペーサーの径よりも小さく、
前記封止基板と前記支持基板とは前記充填剤配設後に加圧して接着されてなることを特徴とする。
【0009】
また、前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径よりも高く配設される突出部の容積は、前記スペーサーの径に基づいて定められる設計上の気密空間の容量から前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径以下に配設される非突出部の容積を除いた設計残容量よりも大きく、前記スペーサーの径+10μmに基づいて定められる限界気密空間の容量から前記非突出部の容積を除いた限界残容量よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
また、前記封止基板は、前記充填剤の周囲に吸湿剤が配設されてなり、前記充填剤と前記吸湿剤との間に位置するように仕切り部が形成されてなることを特徴とする。
【0011】
また、前記仕切り部は凸状であり、接着後の前記封止基板と前記支持基板との間隔よりも低く形成されてなることを特徴とする。
【0012】
また、前記仕切り部は、接着後の前記封止基板と前記支持基板との間隔よりも前記封止基板の前記仕切り部形成個所の最大撓み量分より低く形成されてなることを特徴とする。
【0013】
また、前記封止基板は、前記有機EL素子との対向面の表面粗さが1μm以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明は、前記課題を解決するため、両電極間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL素子を支持基板上に形成し、前記有機EL素子を気密的に覆う封止基板をスペーサーを含む接着剤を介して前記支持基板上に配設してなる有機ELパネルの製造方法であって、
前記封止基板の前記有機EL素子との対向面に放熱性フィラーを含む充填剤を配設し、
前記充填剤を、その配設時高さが前記接着剤の配設時高さよりも低く、かつ、前記スペーサーの径よりも高くなるように配設し、前記放熱性フィラーはその径が前記スペーサーの径よりも小さく、
前記封止基板と前記支持基板とを前記充填剤配設後に加圧して接着することを特徴とする。
【0015】
また、前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径よりも高く配設される突出部の容積が、前記スペーサーの径に基づいて定められる設計上の気密空間の容量から前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径以下に配設される非突出部の容積を除いた設計残容量よりも大きく、前記スペーサーの径+10μmに基づいて定められる限界気密空間の容量から前記非突出部の容積を除いた限界残容量よりも小さくなるように前記充填剤を配設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、両電極間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL素子を支持基板上に形成した有機ELパネルに関するものであり、特に気密空間に充填剤を配設した有機ELパネル及びその製造方法に関するものであり、放熱性や強度の向上が可能であり、また、表示不良の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である有機ELパネルを示す断面図。
【図2】同上の有機ELパネルの製造方法を示す図。
【図3】同上の有機ELパネルの封止基板を示す平面図。
【図4】同上の有機ELパネルの別例を示す図。
【図5】同上の有機ELパネルの別例を示す図。
【図6】同上の有機ELパネルにおける封止基板の一部を示す簡略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を添付の図面に基いて説明する。図1は本発明の実施形態である有機ELパネルを示すものである。有機ELパネルは、支持基板1上に透明電極(陽極)2、機能層3、背面電極(陰極)4からなる発光部(有機EL素子)を形成し、また、支持基板1上に封止基板5を接着剤6を介して配設してなる。また、封止基板5の発光部との対向面には充填剤7配設されている。
【0019】
支持基板1は、例えば光透過性を有するガラス基板からなる矩形状の基板である。
【0020】
透明電極2は、例えばITO、IZO(登録商標)、ZnO、AZO、GZO等の透明導電材料からなるものであり、スパッタリング法、真空蒸着法、スピン塗布法、インクジェット法等の手段によって層状に形成された後、フォトリソグラフィー法により所望の形状にパターニングされてなる。また、透明電極2上には配線抵抗を低減するために、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、銀(Ag)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等の低抵抗の金属材料あるいはこれらの合金の単層あるいは積層からなる補助電極を部分的に形成してもよい。また、透明電極2の端部上に短絡を防止するための無機材料や高分子材料からなる絶縁膜を形成してもよい。絶縁膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、スピン塗布法、インクジェット法等の手段によって層状に形成された後、フォトリソグラフィー法により所望の形状にパターニングされる。
【0021】
機能層3は、少なくとも有機発光層を有するものであり、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層及び電子注入層からなり、各層が真空蒸着法等の手段によって形成されてなるものである。
【0022】
背面電極4は、例えばアルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)等の低抵抗の金属導電材料やIZO(登録商標)、ZnO、AZO、GZO等の透明導電材料あるいはこれらの合金からなるものであり、真空蒸着法やスパッタリング法等の手段によって層状に形成されてなる。透明電極2と背面電極4とが対向し、機能層3を挟持する個所が前記発光部となる。
【0023】
封止基板5は、例えば支持基板1と同様に光透過性を有するガラス基板からなる矩形状の基板からなり、スペーサー6aを含有する紫外線硬化型の接着剤6を周縁部に塗布し、この接着剤6を介して支持基板1上に接着されることで、支持基板1とともに発光部を収納する気密空間を形成するものである。また、封止基板5は、前記発光部との対向面に充填剤7が塗布されている。なお、封止基板5は、金属材料からなるものであってもよい。
【0024】
充填剤7は、放熱性フィラー7aを含む120Pa・s程度の粘度であるゲル化剤からなり、封止基板5の前記発光部との対向面に塗布して配設されるものである。放熱性フィラー7aは前記発光部から発生し吸湿剤9を介して伝達される熱を封止基板5から外部に放出する媒体となるものであり、溶剤や水分を一切含まないアルミナ、シリカ、シリコン、または鉄、亜鉛、銅、銀などの酸化物や窒化物、あるいはこれらを絶縁性の樹脂で覆ったものが用いられる。放熱性フィラー7aの径は例えば15〜20μmであるが、接着剤6のスペーサー6aの径よりも小さいものであれば、これよりも小さいものであっても大きいものであってもよい。
【0025】
さらに、本実施形態における特徴部分について述べる。図2は有機ELパネルの製造方法における封止基板5への充填剤7の塗布工程及び支持基板1と封止基板5との接着工程を示すものである。
まず、封止基板5の前記発光部との対向面の周辺部にスペーサー6aを含有する接着剤6をディスペンサー等の手段によって塗布する(図2(a)参照)。このとき、接着剤6の塗布時(配設時)の高さをT1とする。
次に、封止基板5の前記発光部との対向面の接着剤6の塗布領域の内側に放熱性フィラー7aを含有する充填剤7をディスペンサー等の手段によって塗布する(図2(b)及び図3参照)。このとき、充填剤7の塗布時(配設時)の高さT2が、接着剤6の塗布時の高さT1より低く(T2<T1)、かつ、接着剤6のスペーサー6aの直径a1よりも若干高く(T2>a1)なるように充填剤7を塗布する。また、充填剤7は塗布時においては所定の長さd及び幅wのライン状に塗布され、封止基板5の全面には塗布されておらず、充填剤7の塗布領域には充填剤7が塗布されない領域(以下、間隔部とも言う)5aが設けられるようにする。さらに、塗布された充填剤7の容積S(S=T2・d・w)のうち、(T2−a1)・d・wで求められるスペーサー6aの直径a1よりも高い部位(以下、突出部とも言う)7bの容積S1(S1=(T2−a1)・d・w)が、スペーサー6aの直径a1に基づいて、x・y・a1で定められる設計上の気密空間の容量から(x、yは気密空間の縦横の長さを示し、さらに詳細には気密空間のうち両基板1、5の接着時に充填剤7が充填される空間の縦横の長さを示す)、塗布された充填剤7のうち、a1・d・wで求められるスペーサー6aの直径a1以下の部位(以下、非突出部とも言う)7cの容積を除いた設計残容量S2(S2=(x・y・a1)−(a1・d・w))と、スペーサー6aの直径a1+10μmに基づいて、x・y・(a1+10μm)で定められる限界気密空間の容量から非突出部7cの容積を除いた限界残容量S3(S3=(x・y・(a1+10μm))−(a1・d・w))との間で下記の関係を満たすように充填剤7が塗布される。
S2<S1<S3
すなわち、
(x・y・a1)−(a1・d・w)<(T2−a1)・d・w<(x・y・(a1+10μm))−(a1・d・w)
また、充填剤7に含有される放熱性フィラー7aは、その直径a2がスペーサー6aの直径a1よりも小さいものを用いる。スペーサー6aの直径a1は、後述する接着後の両基板1、5の間隔T3に依存するが、この間隔T3が高いと接着剤6を水分が透過しやすくなりシール性能が低下するため、スペーサー6aの直径a1は小さいことが望ましく、放熱性フィラー7aの直径a2はこれよりさらに小さくなる。
次に、上述のように接着剤6及び充填剤7を塗布した封止基板5と前記発光部を形成した支持基板1とを重ね合わせ(図2(c)参照)、さらに両基板1、5の平面に対して垂直方向に所定の圧力を加えた後、UVを照射して接着剤6を硬化させて両基板1、5を接着し前記発光部を封止する(図2(d)参照)。このとき、まず接着剤6が支持基板1と接触した後に加圧により押し潰され、その後に充填剤7が支持基板1(前記発光部を含む)と接触し、さらに加圧により両基板1、5の平面に対して水平方向に充填剤7が押し広がって間隔部5aを埋め、前記発光部を覆う。なお、上述の式を満たすように充填剤7を塗布する結果、充填剤7の塗布容積Sは設計上の気密空間の容量よりも大きくなり、充填剤7の塗布容積Sと充填剤7の粘度とによって両基板1、5はスペーサー6aの直径a1までは近接せず、接着後の両基板1、5間の間隔T3は、スペーサー6aの直径a1よりも高くなる。
【0026】
本実施形態は、放熱性フィラー7aを含む充填剤7を封止基板5の前記発光部との対向面に配設することで放熱性や強度の向上が可能である。さらに、上述の特徴により、充填剤7の塗布時の高さT2を接着剤6の塗布時の高さT1よりも低くすることで、両基板1、5の加圧時にはまず接着剤6が接触するため、充填剤7が接着剤6を乗り越えて気密空間外に漏れ出て前記発光部の配線や端子を覆って接続不良による表示不良を起こすことを抑制することができる。
さらに、充填剤7の塗布時の高さT2を接着剤6のスペーサー6aの直径6aよりも若干高くすることで、両基板1、5の加圧時に充填剤7を押し広げて前記発光部を隙間無く覆うことができ放熱性や強度を向上させることができる。
さらに、充填剤7に含有する放熱性フィラー7aの直径a2をスペーサー6aの直径a1よりも小さくすることによって、充填剤7の押し広げ時や温度変化によって充填剤7が前記発光部に応力を加える際にも放熱性フィラー7aによって前記発光部に物理的なダメージを与えることを抑制し、表示不良が起こることを抑制するができる。
また、両基板1、5間の間隔T3がスペーサー6aの直径a1に対して大きすぎる場合には前述のように接着剤6を水分が通過しやすくなりシール性能が低下するが、充填剤7の塗布容量を上述の式の範囲内とすることで隙間のない充填とシール性能の両立が実現できる。なお、充填剤7の粘度が低すぎる場合には、加圧時に充填剤7が広がりすぎ、また、粘度が高すぎる場合には、加圧しても充填剤7が間隔部5aを埋める程度に広がらないため、充填剤7の粘度は、200pa・s以下であって、動粘度が110000cSt±10000程度とすることが望ましい。
【0027】
なお、封止基板5の前記発光部との対向面には、気密空間内に侵入した水分を吸着するための吸湿剤を塗布してもよい。具体的には、図4に示すように、接着剤6と充填剤7との間に吸湿剤8を塗布する。吸湿剤8は、化学的あるいは物理的に水分を吸着する吸湿作用を有する活性アルミナ、モレキュラシーブス、酸化カルシウムあるいは酸化バリウム等の無機材料と樹脂材料とを混合してクリーム状あるいはペースト状に形成される。なお、本発明において吸湿剤8を塗布する場合には、設計時の気密空間を算出する際にx、yからは吸湿剤8の塗布領域の幅をそれぞれ除いて計算する。
【0028】
また、封止基板5に充填剤7と吸湿剤8とをそれぞれ塗布する場合には、充填剤7と吸湿剤8とが混ざり合うことで、化学反応を引き起こしたり部分的に膨張するなどして前記発光部にダメージを与えて表示不良を起こしたり、充填剤7及び吸湿剤8としての機能が損なわれ、補償する製品寿命が得られないといった問題が生じるおそれがある。
これに対し、図5に示すように、封止基板5の前記発光部との対向面に充填剤7と吸湿剤8との間に位置するように凸状の仕切り部5bを形成することで、充填剤7と吸湿剤8との混合を抑制し、信頼性を向上させることができる。仕切り部5bは、エッチング加工、フロスト加工、ブラスト加工あるいはこれらの組み合わせによって形成することができる。
また、仕切り部5bは、その高さT4が接着後の両基板1、5の間隔T3よりも低くなるように形成され、さらに望ましくは温度変化等による封止基板5の仕切り部5b形成個所の最大撓み量Δw部より低く形成される(T4<T3−Δw)。仕切り部5bと前記発光部(配線等を含む)との接触を防止して表示不良が起こることを抑制するためである。仕切り部5b形成個所の最大撓み量Δwは以下の式3で示す近似値とする。
図6は、封止基板5の半分を図示しており、図示の境界は中央部を示す。また、説明を簡略化するために充填剤7及び吸湿剤8等を省略している。図6に示すように、封止基板5の中央部の最大撓み量Δw(m)は、以下の数式1に近似する。
【数1】

なお、αは係数(−)であり、Lは荷重(N)であり、aは封止基板5の単辺長さ(m)(接着剤6の塗布領域を除く)であり、Dは封止基板5の剛性(N・m)を示す。
さらに、封止基板5の中央部に掛かる荷重Lは、以下の数式2で示される。
【数2】

したがって、仕切り部5b形成個所の最大撓み量Δw(m)は以下の数式3に近似する。
【数3】

なお、xは、封止基板5の中央部から仕切り部5bまでの長さを示す。
【0029】
また、充填剤7の粘度が低い場合には、さらに、封止基板5の前記発光部との対向面をブラスト加工やフロスト加工などにより表面粗さRaが1μm以上となるように荒らすことで充填剤7の過度の広がりを抑制することができる。
また充填剤7の塗布領域を前記発光部よりも広くすることで前記発光部の発光領域と仕切り部5bとが接触することを避けることができる。
【0030】
また、本実施形態において、封止基板5は平板状であったが、封止基板5は、周縁部に支持基板1方向の突出する支持部を形成して凹状とし、この支持部に接着剤6を塗布するものであってもよい。凹状の封止基板5を用いる場合、本発明における「接着剤6の塗布時の高さT1(接着剤の配設時高さ)」は、実際の接着剤6の塗布時の高さに前記支持部の高さを加算したものとなり、「スペーサー6aの直径a1(スペーサーの径)」は、実際のスペーサー6aの直径に前記支持部の高さを加算したものとなる。
【0031】
以下、さらに実施例を上げ本発明の具体的な効果を説明する。
【実施例1】
【0032】
実施例は、前述の実施形態に示す有機ELパネルであって、まず、支持基板1上に透明電極2として膜厚300nmのITOをスパッタリング法で形成し、フォトリソグラフィー法で所望の形状にパターニングした。次に、配線抵抗を低減するための補助電極としてAlをスパッタリング法にて膜厚500nmで形成し、フォトリソグラフィー法で所望の形状にパターニングした。次に、絶縁膜としてポリイミドを膜厚1μmで透明電極2及び補助電極を部分的に覆うようにスピン塗布法で形成し、フォトリソグラフィー法で所望の形状にパターニングし、その後250℃で1時間の加熱処理を行い絶縁膜を焼成した。次に、透明電極2上に、機能層3として正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層をこの順に真空蒸着法で形成し、その後、背面電極4としてAlを真空蒸着法にて膜厚100nmで形成し、発光部を設けた。
また、封止基板5として0.5mm厚の平板ソーダガラスを用意し、後に発光部を覆うように周縁部に40μm径のスペーサー6aを1wt%含む紫外線硬化型の接着剤6を塗布した。接着剤6の塗布時の高さT1は200μm〜300μmとした。その後、封止基板5を窒素環境下のグローブボックスへ搬送し、CaOをベースとした化学吸湿剤を吸湿剤8として封止基板5の発光部との対向面の接着剤6より内側の2辺にディスペンサーにて塗布し、その後10〜20μm径のアルミナからなる放熱性フィラー7aを含む、粘度が約120Pa・sのゲル化剤からなる充填剤7を封止基板5の発光部との対向面の接着剤6及び吸湿剤8で囲まれる中央領域にディスペンサーで塗布した。充填剤7の塗布時の高さT2は80μm〜100μmとした。
そして、発光部を形成した支持基板1と、接着剤6、充填剤7及び吸湿剤8を塗布した封止基板5とを重ね合わせ、加圧及び紫外線照射を10J照射することで両者を接着させ有機ELパネルを作成した。なお、有機ELパネルは、外形サイズが48mm×50mm、画素(発光部)サイズが45mm×45mmとした。
【0033】
(比較例1)
比較例1として接着剤6の塗布時の高さT1は実施例1と同様の200μm〜300μmで塗布し、実施例1と同様に吸湿剤8を塗布した後、40〜60μm径のアルミナからなる放熱性フィラー7aを含む、粘度が約140Pa・sのゲル化剤からなる充填剤7を封止基板5の発光部との対向面の接着剤6及び吸湿剤8で囲まれる中央領域にディスペンサーで塗布した。充填剤7の塗布時の高さT2は、比較例1では接着剤6の塗布時の高さT1とほぼ同様になるよう200μm〜300μmとした。また接着剤6は実施例1と同様のものを使用し、含有するスペーサーは40μm径である。
なお、上述した他は実施例1と同様にして比較例1としての有機ELパネルを作成した。
【0034】
(評価方法)
実施例1及び比較例1の評価方法として、まず、外観観察にて充填剤7の漏れ及び吸湿剤8への接触があるか否かを確認した。
また、−40℃/80℃の温度環境下で輝度3000cd/mで発光駆動させるヒートサイクル試験を1000時間行った。これは温度変化により気密空間内に含まれる空気の気圧変化に伴う膨張収縮により、充填剤7により発光部に与えられる応力が変化することでダメージを与え、表示不良を起こすか否かを評価するものである。
また、同様に、−40℃の低温環境下で輝度3000cd/mで発光駆動させる低温動作試験を1000時間行った。これは上記と同様に室温に比べて発光部に与えられる応力が大きくなる低温環境下で、充填剤7により発光部にダメージが与えられ、表示不良を起こすか否かを評価するものである。
また、両基板の重ね合わせ時に加わる圧力によって充填剤7により発光部にダメージが与えられ、表示不良が起こるか否かを早期に確認することを目的として、表示不良を加速させる80℃の高温環境下で輝度3000cd/mで発光駆動させる高温動作試験を1000時間を行った。
【0035】
【表1】


上表1は、前述の充填剤7の漏れ及び吸湿剤8への接触の有無、ヒートサイクル試験、低温動作試験及び高温動作試験の評価結果を示すものである。比較例1においては充填剤7の漏れ、ならびに吸湿剤8への接触が確認され、また、何れの試験においても表示不良(ダークスポット)が多数発生しているのに対し、実施例1においては充填剤7の漏れ及び吸湿剤8への接触は確認されず、表示不良も生じていない。これにより、本発明を適用することで、充填剤7により放熱性や強度を向上させた構成において、充填剤7の漏れや吸湿剤8への接触が生じることがなく、また、種々の状況により発光部の面方向に圧力が掛かる場合であっても、圧力によりキズが生じて表示不良を引き起こすことを抑制することができる効果が十分に得られることは明らかである。
【0036】
次に、実施例2〜4及び比較例2、3を用いて封止基板5に充填剤7及び吸湿剤8を塗布し、さらに両者の間に仕切り部5bを形成した場合の具体的な効果について説明する。
【実施例2】
【0037】
実施例2として、封止基板5に0.7mmのソーダガラスを使用し、フロスト加工にて表面を表面粗さRaが1μm以上5μm以下の精度で加工した。その際、封止基板5の充填剤7を塗布する領域と吸湿剤8を塗布する領域とを分割するべく凸状の仕切り部5bをエッチング加工でパターニングした。仕切り部5bの高さT4は、接着後の両基板1、5の間隔T3よりも封止基板5の仕切り部5b形成個所の最大撓み量Δw分より低くなるようにした。封止基板5に仕切り部5bで分割された中央領域に充填剤7を塗布した後、同環境下で仕切り部5bで分割された外側領域に吸湿剤8としてCaOをベースとした化学吸湿剤をディスペンサーにて塗布した。なお、接着剤6の塗布幅は1.5mmとした。上述の他は実施例1と同様にして有機ELパネルを作成した。
【実施例3】
【0038】
実施例3として、封止基板5をエッチング加工にて表面を加工し、ブラスト加工にて仕切り部5bをパターニングし、仕切り部5bを含む表面をエッチング加工にて表面処理を行った他は、実施例2と同様にして有機ELパネルを作成した。
【実施例4】
【0039】
実施例4として、封止基板5を、エッチングの加工精度以下の幅の凸部形状を有するレジストパターンを形成してエッチング加工を施し、実施例2及び3と比較して尖った形状の仕切り部5bを形成し、フロスト加工にて封止基板5の表面を表面粗さRaが0.1mmとなるように加工した他は、実施例2と同様にして有機ELパネルを作成した。
【0040】
(比較例2)
比較例2として、仕切り部5bを形成せず、また、封止基板5に充填剤7を塗布せずに吸湿剤8のみを塗布した他は、実施例2と同様にして有機ELパネルを形成した。
(比較例3)
比較例3として、仕切り部5bを形成せず、封止基板5に充填剤7と吸湿剤8とを塗布した他は、実施例2と同様にして有機ELパネルを形成した。
【0041】
(評価方法)
実施例2〜4及び比較例2、3は、照明用として作成されている。実施例2〜4及び比較例2、3の評価方法として、まず、点灯のための駆動にフレーム周波数100Hz、順方向に定電流を0.3A印加して3000cd/mで色温度2000Kに発光するようにし、発光部のジャンクション温度Tjを計測した。
また、−40℃/80℃の温度環境下で輝度3000cd/mで発光駆動させるヒートサイクル試験を1000時間行った。これは温度変化により気密空間内に含まれる空気の気圧変化に伴う膨張収縮により、充填剤7により発光部に与えられる応力が変化することでダメージを与え、外観不良あるいは表示不良を起こすか否かを評価するものである。
また、60℃/90%の高温高湿環境下で輝度3000cd/mで発光駆動させる高温高湿動作試験を1000時間を行った。これは、本発明にて吸湿剤8の吸湿能力が低下していないか否かを評価するものである。また、車載スペックの振動耐久試験を実施した。これは、振動により、充填剤7により発光部に与えられる応力が変化することでダメージを与え、外観不良あるいは表示不良を起こすか否かを評価するものである。
【0042】
【表2】


上表2は、前述の発熱温度の評価、ヒートサイクル試験、高温高湿動作試験、振動耐久試験の評価結果をしめすものである。発熱温度の評価において、比較例2はジャンクション温度Tjは室温環境下で約52℃であり、約27℃程度発熱していた。また、比較例2及び実施例2〜4は、ジャンクション温度Tjは約29℃で発熱は約4℃程度に抑えることができた。したがって、充填剤7を気密空間内に充填することで放熱効果が得られていることがわかる。また、ヒートサイクル試験においては、比較例2と比較例3の一部に外観あるいは点灯に不良が発生したのに対し、実施例2〜4にはいずれも不良は見られなかった。高温高湿試験においては実施例2〜4及び比較例2、3のいずれにも不良は見られなかった。振動耐久試験においては、仕切り部5bのない比較例3に充填剤7と吸湿剤8とが混ざり合うことによる吸湿能力の低下に伴う不良が見られた。実施例2〜4にはいずれも不良は見られなかった。これにより、本発明として封止基板5に仕切り部5bを形成することによって、充填剤7及び吸湿剤8の能力を低下させることなく、信頼性を向上させることができる効果が十分に得られることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、両電極の間に少なくとも有機発光層を挟持した発光部を支持基板上に形成した有機ELパネルに関するものであり、特に充填剤を気密空間内に配置した有機ELパネルに好適である。なお、本発明は、ディスプレイ用、照明用問わず適用可能であり、セグメント型ディスプレイタイプやドットマトリクス型ディスプレイタイプの有機ELパネルであっても適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 支持基板
2 透明電極
3 機能層
4 背面電極
5 封止基板
5a 間隔部
5b 仕切り部
6 接着剤
6a スペーサー
7 充填剤
7a 放熱性フィラー
8 吸湿剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両電極間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL素子を支持基板上に形成し、前記有機EL素子を気密的に覆う封止基板をスペーサーを含む接着剤を介して前記支持基板上に配設してなる有機ELパネルであって、
前記封止基板の前記有機EL素子との対向面に放熱性フィラーを含む充填剤が配設され、
前記充填剤は、その配設時高さが前記接着剤の配設時高さよりも低く、かつ、前記スペーサーの径よりも高く、前記放熱性フィラーはその径が前記スペーサーの径よりも小さく、
前記封止基板と前記支持基板とは前記充填剤配設後に加圧して接着されてなることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】
前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径よりも高く配設される突出部の容積は、前記スペーサーの径に基づいて定められる設計上の気密空間の容量から前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径以下に配設される非突出部の容積を除いた設計残容量よりも大きく、前記スペーサーの径+10μmに基づいて定められる限界気密空間の容量から前記非突出部の容積を除いた限界残容量よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項3】
前記封止基板は、前記充填剤の周囲に吸湿剤が配設されてなり、前記充填剤と前記吸湿剤との間に位置するように仕切り部が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項4】
前記仕切り部は凸状であり、接着後の前記封止基板と前記支持基板との間隔よりも低く形成されてなることを特徴とする請求項3に記載の有機ELパネル。
【請求項5】
前記仕切り部は、接着後の前記封止基板と前記支持基板との間隔よりも前記封止基板の前記仕切り部形成個所の最大撓み量分より低く形成されてなることを特徴とする請求項4に記載の有機ELパネル。
【請求項6】
前記封止基板は、前記有機EL素子との対向面の表面粗さが1μm以上であることを特徴とする請求項3に記載の有機ELパネル。
【請求項7】
両電極間に少なくとも有機発光層を挟持してなる有機EL素子を支持基板上に形成し、前記有機EL素子を気密的に覆う封止基板をスペーサーを含む接着剤を介して前記支持基板上に配設してなる有機ELパネルの製造方法であって、
前記封止基板の前記有機EL素子との対向面に放熱性フィラーを含む充填剤を配設し、
前記充填剤を、その配設時高さが前記接着剤の配設時高さよりも低く、かつ、前記スペーサーの径よりも高くなるように配設し、前記放熱性フィラーはその径が前記スペーサーの径よりも小さく、
前記封止基板と前記支持基板とを前記充填剤配設後に加圧して接着することを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項8】
前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径よりも高く配設される突出部の容積が、前記スペーサーの径に基づいて定められる設計上の気密空間の容量から前記充填剤の配設時における前記スペーサーの径以下に配設される非突出部の容積を除いた設計残容量よりも大きく、前記スペーサーの径+10μmに基づいて定められる限界気密空間の容量から前記非突出部の容積を除いた限界残容量よりも小さくなるように前記充填剤を配設することを特徴とする請求項7に記載の有機ELパネルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−12426(P2013−12426A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145267(P2011−145267)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】