説明

有機EL用マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置および有機EL用マスクのクリーニング方法

【課題】テーパ形状の開口部が多数形成された有機EL用マスクに付着した有機材料を高い洗浄度でレーザクリーニングを行うことを目的とする。
【解決手段】テーパ部12Tを有する開口部12を形成した有機EL用マスク1の表面に付着した有機材料を剥離するために有機EL用マスクの表面1を走査するレーザ光Lを発振するレーザ光源31と、有機EL用マスク1の表面よりもレーザ光Lの入射側で焦点を結ぶように有機EL用マスク1の表面とレーザ光Lの焦点位置との相対位置関係を調整する焦点位置調整手段とを備えている。これにより、レーザ光Lは有機EL用マスク1の表面よりもレーザ光Lの入射側に離間した位置で焦点を結ぶため、有機EL用マスク1に拡散光を照射することができ、テーパ部12Tに大きな角度でレーザ光Lを照射できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL用マスクにレーザ光を走査してクリーニングを行うための有機EL用マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置および有機EL用マスクのクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として多く利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に有機EL薄膜層を積層しており、有機EL薄膜層は発光層を正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層及び陽極層と陰極層とにより挟み込む構造を採用している。発光層はガラス基板上に有機材料を蒸着させて薄膜として形成するものが多く用いられており、ディスプレイを構成する各画素の領域を3分割してRGBの3色の有機材料を蒸着させている。従って、各画素の3つの領域に異なる色の有機材料(有機色素材料)を蒸着させるために多数の開口部を形成した有機EL用マスク(シャドーマスク)を用いて蒸着を行う。この有機EL用マスクを画素ピッチ分ずつずらしながら、各色の有機材料を蒸着させていくことにより、発光層の蒸着プロセスが完了する。
【0003】
蒸着プロセスを行うときには、ガラス基板だけではなく有機EL用マスクにも有機材料が付着する。有機EL用マスクは1回の蒸着プロセスだけに使用されるのではなく繰り返し使用されることから、次の蒸着プロセスを行うときに有機EL用マスクに有機材料が付着していると、新たなガラス基板に付着していた有機材料が転写して汚損させる。また、有機EL用マスクに多数形成した開口部のエッジ部分にも有機材料が蒸着して、開口部の面積を部分的にまたは全面的に閉塞させる。開口部の全部を塞いだ場合はもちろん、部分的に塞ぐことにより蒸着時の障害(影またはシャドウ)となり、当該有機EL用マスクを用いた場合の蒸着精度は著しく低下し、また使用に耐え得るものではなくなる。従って、有機EL用マスクを定期的にクリーニングして、有機材料の除去を行っている。
【0004】
有機EL用マスクのクリーニングとしては、有機物を溶解させる洗浄液を用いたり、界面活性剤等を用いたウェットクリーニングが主に行われている。ウェットクリーニングは有機EL用マスクに対して液体を供給して行うクリーニングである。しかし、クリーニングされる有機EL用マスクはミクロンオーダー(10〜50μm程度)の極薄の金属板であり、ウェットクリーニング時に液圧や洗浄促進のための超音波と加熱とが作用することにより歪みや変形等のダメージが有機EL用マスクに与えられることがある。また、界面活性剤や有機溶剤等の薬液を用いてウェットクリーニングを行うと、薬液供給機構および使用済みの薬液(廃液)を処理する廃液処理機構を要するため機構が複雑化し、また廃液による環境汚染の問題もある。さらに、近年、有機EL用マスクが大型化しており、この場合、洗浄液を多量に使用することになり、ランニングコストも増大する。
【0005】
一方、ウェットクリーニングを用いないクリーニングとして、有機EL用マスクに対してレーザ光を照射して行うクリーニング(レーザクリーニング)に関する技術が特許文献1に開示されている。金属素材の有機EL用マスクにレーザ光を照射することにより、有機EL用マスクと有機材料との間に剥離力を作用させている。特許文献1の技術は、この剥離力により有機EL用マスクから有機材料を除去してクリーニングを行うものである。そして、有機EL用マスクには粘着性のフィルムを貼り付けており、剥離した有機材料を粘着フィルムに転写させることで、クリーニングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−169573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL用マスクは極めて薄い金属板であり、金属板の多数箇所に貫通孔を形成して開口部としている。一般に、開口部の内面は有機EL用マスクの表面(有機材料を蒸発する蒸着源と対向している面)および裏面(ガラス基板に密着している面)と直交するように形成するのではなく、開口部内面をテーパ形状にして、開口面積を裏面側よりも表面側を広くするようにしている。これにより、開口部内面から有機EL用マスク表面に緩やかな角度で移行するようにしている。
【0008】
前記の角度が90度或いは鋭角の場合には、開口部内面と有機EL用マスク表面との境界部が鋭いエッジを形成し、蒸着プロセスにおいて斜め方向から有機材料が蒸着されるときに、前記エッジが蒸着時の障害(影またはシャドウ)になる。つまり、画素を形成する領域に影が生じてしまい、当該領域の部分に有機材料を蒸着させることができなくなる。その結果、画素形成が不完全になる。
【0009】
このために、開口部内面と有機EL用マスク表面とのなす角度を鈍角とするように、金属板を貫通して開口部を形成するようにしている。これにより、緩やかな角度で境界部が形成されるため、画素を形成する領域に影を生じることがなくなる。このとき、開口部内面のテーパ部も蒸着源に向いているため、当該テーパ部にも有機材料が付着する。従って、このテーパ部に付着した有機材料も除去しなければならない。
【0010】
有機EL用マスクに照射するレーザ光は、有機EL用マスクの表面の法線方向或いは斜め方向から照射される。従って、レーザ光は所定の入射角をもって有機EL用マスクに照射されるが、レーザ光の入射角によっては、開口部のテーパに対する入射角が小さくなり、或いは照射されない部分を生じる。有機EL用マスクに入射したときに作用するレーザ光のエネルギー密度は入射角に依存し、入射角を大きくすることにより高い密度のエネルギーを作用させることができ、法線方向から入射させたときに最も高くなる。一方、入射角が小さくなると、作用するエネルギー密度は小さくなる。エネルギー密度が一定値以下になると、有機EL用マスクに付着している有機材料に対して作用させる剥離力が小さくなり、有機材料の除去を行うことができなくなる。
【0011】
そこで、本発明は、開口部が多数形成された有機EL用マスクの、特にテーパ部に付着した有機材料を高い洗浄度でレーザクリーニングを行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の有機EL用マスククリーニング装置は、テーパ部を有する開口部を形成した有機EL用マスクの表面に付着した有機材料を剥離するために前記有機EL用マスクの表面を走査するレーザ光を発振するレーザ光源と、前記有機EL用マスクの表面よりもレーザ光の入射側で焦点を結ぶように前記有機EL用マスクの表面と前記レーザ光の焦点位置との相対位置関係を調整する焦点位置調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、レーザ光の焦点位置を有機EL用マスクの表面よりもレーザ光の入射側となるように制御している。これにより、有機EL用マスクに照射されたときのレーザ光をテーパ部に対してより大きな角度で入射させることができるようになる。
【0014】
本発明の請求項2の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記焦点位置調整手段は、前記レーザ光の光路上に設けた集光レンズを前記レーザ光の光軸方向に移動させるレンズ移動手段と、前記レーザ光の焦点位置と前記有機EL用マスクの表面とが一致する前記集光レンズの位置を前進境界位置、および前記有機材料が剥離可能から剥離不能に切り替わる前記集光レンズの位置を後退境界位置として、前記前進境界位置と前記後退境界位置との間の内側の領域を可動領域、この可動領域以外の領域を禁止領域として、前記可動領域に限定して前記集光レンズを移動させる移動範囲規制手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、可動領域と禁止領域とに分けて、集光レンズの移動範囲を可動領域に限定している。これにより、有機EL用マスクよりもレーザ光の入射側で焦点を結んだレーザ光を照射でき、また有機EL用マスクに付着した有機材料が剥離されないようなデフォーカス量になることはない。
【0016】
本発明の請求項3の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ光を前記有機EL用マスクの法線方向から入射させるための反射ミラーを備えたことを特徴とする。
【0017】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、有機EL用マスクの表面のほぼ法線方向からレーザ光を照射している。有機EL用マスクの法線方向に対して傾斜した方向から照射しても各テーパ部に大きな角度でレーザ光を照射できるが、ほぼ法線方向から照射することにより、各テーパ部の洗浄度に差を生じないようにしている。
【0018】
本発明の請求項4の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ光源から発振されるレーザ光はパルスレーザであり、このパルスレーザの発振周波数を制御する周波数制御手段と、前記有機EL用マスクに前記レーザ光を走査させるために前記レーザ光の反射角を変化させるガルバノミラーと、前記有機EL用マスクに照射したときの前記レーザ光の光軸中心が前記有機EL用マスクに形成される開口部から前記有機EL用マスクの裏面に抜ける位置となるように前記周波数制御手段と前記ガルバノミラーとの制御を行う制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、レーザ光の光軸中心を有機EL用マスクに吸収させずに外部に抜けさせている。これにより、各テーパ部に大きな角度でレーザ光の拡散している領域の光を照射できるとともに、ガウス分布を有するレーザ光の光軸中心近傍の光ではなく、強度差の少ない安定した光を各テーパ部に照射でき、テーパ部に大きなダメージが与えられることがない。
【0020】
本発明の請求項5の有機ELディスプレイの製造装置は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする。
【0021】
前述してきた有機EL用マスククリーニング装置は、有機ELディスプレイを製造する有機ELディスプレイの製造装置に適用できる。主に、有機EL用マスクを使用してガラス基板に有機材料を蒸着させる真空蒸着槽の後段側に有機EL用マスククリーニング装置を配置することができる。
【0022】
本発明の請求項6の有機EL用マスクのクリーニング方法は、有機EL用マスクの表面に付着した有機材料を剥離するために前記有機EL用マスクの表面にレーザ光を走査してクリーニングを行う有機EL用マスクのクリーニング方法であって、前記レーザ光の光路上に設けた集光レンズにより焦点を結ぶレーザ光の焦点位置と前記有機EL用マスクの表面とが一致する前記集光レンズの位置を前進境界位置、および前記有機材料が剥離可能から剥離不能に切り替わる前記集光レンズの位置を後退境界位置として、前記前進境界位置と前記後退境界位置との間の内側の領域を可動領域、この可動領域外の領域を禁止領域として、前記集光レンズの移動範囲を前記可動領域に限定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、レーザ光の焦点位置を有機EL用マスクの表面よりもレーザ光の入射側となるようにしている。これにより、有機EL用マスクに拡散光を照射することができ、有機EL用マスクの開口部のテーパ部に対して大きな角度でレーザ光を照射することができる。このため、テーパ部に付着した有機材料に高い剥離力を作用させることができ、高い洗浄度を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】有機EL用マスクの平面図および断面図である。
【図2】開口部の平面図、A−A断面図、B−B断面図である。
【図3】有機EL用マスククリーニング装置の概略構成を示す図である。
【図4】制御装置およびこの装置に接続される機構を示すブロック図である。
【図5】開口部のテーパ部にレーザ光を照射したときの状態を示す説明図である。
【図6】複数の開口部にレーザ光を照射したときの説明図である。
【図7】1つの開口部ごとにレーザ光を照射したとき、および複数の開口部ごとにレーザ光を照射したときの説明図である。
【図8】レーザ光の強度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1(a)は有機EL用マスク1の平面図を示しており、同図(b)は断面図を示している。有機EL用マスク1は主にマスク本体11から構成されている。マスク本体11はマスク金属板(シャドーマスク)に多数の微小な開口部(数十μm四方程度)12を配列して構成している。有機EL用マスク1の素材としては種々の金属を用いることができるが、例えばニッケル系の合金(インバー)や42アロイ等を用いることができる。有機EL用マスク1は大型且つ極薄の金属板であるため、図1に示すように、その周囲に保形性を持たせるためのマスクフレーム13を2方向または4方向にテンション(張力)を掛けて取り付けている。マスクフレーム13は金属素材であってもよいし、金属以外の素材であってもよい。
【0026】
有機EL用マスク1は洗浄対象物である被洗浄体であり、有機ELディスプレイを構成するガラス基板14に発光層としての有機材料を蒸着してパターン形成を行うために用いられる。ガラス基板14に高精度に有機材料を蒸着させるために、有機EL用マスク1の厚みは10〜50μm程度の極薄の金属板が用いられる。
【0027】
有機EL用マスク1は、発光層の有機材料を蒸着する真空蒸着槽(図示せず)の蒸着ステージにおいてガラス基板14に密着させた状態で、蒸着源(図示せず)から有機材料を蒸着させるようにしている。有機材料は発光性の有機色素材料であり、例えばAlqやIr(ppy)3、α―NPD等の任意の材料を適用することができる。蒸着源から蒸発した有機材料は、有機EL用マスク1の開口部12からガラス基板14に蒸着する。これにより、ガラス基板14の画素に対応する領域に発光層としての有機材料のパターンが形成される。
【0028】
有機EL用マスク1を用いて1回の蒸着プロセスを行うと、ガラス基板14だけではなく有機EL用マスク1にも有機材料が付着する。蒸着プロセスは繰り返し行われることから、有機EL用マスク1に付着した有機材料のクリーニングが所定のタイミングで行われる。有機EL用マスククリーニング装置が配置されている洗浄槽とガラス基板14に蒸着を行う真空蒸着槽とは別個独立に設けられているため、有機EL用マスククリーニングを行うときには有機EL用マスク1が真空蒸着槽から洗浄槽内に移行される。
【0029】
図2は有機EL用マスク1に多数形成される開口部12のうち1つの開口部12を示しており、同図(a)は上面図、同図(b)は(a)のA−A断面図、同図(c)は(a)のB−B断面図を示している。前述したように有機EL用マスク1には所定の厚み(10〜50μm程度)があり、開口部12は有機EL用マスク1の厚み方向に貫通孔を形成して構成される。有機EL用マスク1には表面(有機材料を蒸発する蒸着源に対向している面)11Sと裏面(ガラス基板14に密着する面)11Rとがあり、これに対応して開口部12にも表面側の開口している領域(表面側開口領域12S)と裏面側の開口している領域(裏面側開口領域12R)とがある。
【0030】
ここで、図2に示すように、表面側開口領域12Sは裏面側開口領域12Rよりも広くしている。なお、表面側開口領域12Sと裏面側開口領域12Rとの中心位置は一致しているが、異ならせてもよい。裏面側開口領域12Rと表面側開口領域12Sとの開口面積が異なることから、開口部12の内面(貫通孔を形成した面)は斜面状のテーパ部12Tになっている。表面側開口領域12Sは裏面側開口領域12Rよりも広い開口面積を有しているため、テーパ部12Tと有機EL用マスク1の表面11Sとの間のなす角度は鈍角になる。なお、図2ではテーパ部12Tは曲面にしているが、平面であってもよい。
【0031】
裏面側開口領域12Rはガラス基板14に形成する画素の領域と一致するように構成している。そして、表面側開口領域12Sに向けて広がるようにテーパ部12Tが形成され、有機EL用マスク1の表面11Sとテーパ部12Tとの境界は鈍角になっている。蒸着源から蒸着する有機材料は表面側開口領域12Sの側から裏面側開口領域12Rに向けて蒸着されるため、有機材料が斜め方向から蒸着したとしても、蒸着時に障害(影またはシャドウ)を生じにくくなる。このため、ガラス基板14に対して正確な画素形成を行うことができる。
【0032】
有機EL用マスク1の金属板にテーパ部12Tの開口部12を形成するためには種々の手法を用いることができるが、例えばエッチング処理を用いることができる。エッチング処理は、金属板にフォトレジスト等を用いてパターン形成を行い、エッチング液を用いて金属板をエッチングさせて貫通孔を形成する。このとき、エッチング液は金属を徐々にエッチングさせていくため、テーパ部12Tを有する開口部12が形成されていく。なお、パターン形成は有機EL用マスク1の表面11Sから行う。
【0033】
近年の有機ELディスプレイは、隣接する画素間の間隔が非常に短くなっており(ファインピッチ化)、これに対応して有機EL用マスク1の隣接する開口部12の間隔も近接した配置にしている。このため、微細パターンを形成してエッチングを行う必要がある。
【0034】
蒸発源から蒸発した有機材料は表面側開口領域12Sから蒸着され、テーパ部12Tにも有機材料が付着する。従って、テーパ部12Tに付着した有機材料についても剥離して除去を行わなければならない。なお、図2においては、開口部12の形状が長方形のものを示したため、テーパ部12Tが4つ形成される。勿論、開口部12の形状は長方形以外(正方形等)であってもよいし、円形等の形状としてもよい。いずれにしても、開口部12の内部は表面側開口領域12Sから裏面側開口領域12Rに向けて徐々に断面積が小さくなるような形状になる。
【0035】
図3は有機EL用マスククリーニング装置の概略構成を示しており、基本的にはクリーニングステージ20とレーザ光学系30とを有している。クリーニングステージ20は基台としてのベース21の上に洗浄対象物である有機EL用マスク1を保持するマスク保持部材22を設けて構成している。マスク保持部材22は有機EL用マスク1のマスクフレーム13を固定保持しており、この状態で有機EL用マスク1のレーザクリーニングが行われる。なお、有機EL用マスク1は水平方向に寝かせた状態(有機EL用マスク1の法線方向が重力方向)で保持されてもよいし、垂直方向に立てた状態(有機EL用マスク1の法線方向が水平面方向)で保持されてもよい。
【0036】
レーザ光学系30はレーザ光源31とビームエキスパンダ32と集光レンズ33とXガルバノミラー34とYガルバノミラー35と反射ミラー36とを備えて概略構成している。レーザ光源31はレーザ光Lを発振するための光源であり、ここではレーザ光Lをパルスレーザとして発振する。レーザ光源31が発振したレーザ光Lはビームエキスパンダ32によりレーザ光Lの光束径の拡大または縮小が行われて、集光レンズ33に入射する。なお、図3は光学的な模式図を示しており、この例では有機EL用マスク1の表面に直交する2軸をX軸およびY軸、有機EL用マスク1の法線方向(有機EL用マスク1の面と直交する方向)をZ軸としたときに、レーザ光源31からレーザ光LをY軸方向に発振している。
【0037】
集光レンズ(対物レンズ)33に入射するレーザ光Lは平行光になっており、集光レンズ33によりレーザ光Lは収束光になる。そして、レーザ光Lは所定位置で焦点を結ぶ。集光レンズ33はレンズ位置調整機構40に取り付けられており、収束光としてのレーザ光Lの焦点位置を調整している。レンズ位置調整機構40はレンズホルダ41とボールネジ42とステップモータ43とを備えて概略構成しており、集光レンズ33をレーザ光Lの光軸方向に移動させている。集光レンズ33を光軸方向に移動させることで、レーザ光Lの焦点位置を変化させるデフォーカスを行っている。
【0038】
レンズホルダ41は集光レンズ33を固定保持しており、レンズホルダ41がレーザ光Lの光軸方向に移動する。レンズホルダ41はボールネジ42に取り付けられており、ボールネジ42に沿って移動する。ボールネジ42はレーザ光Lの光路と平行に配置されており、ステップモータ43の回転駆動力が伝達されて、レンズホルダ41が前進または後退を行う。ステップモータ43はモータの駆動力によりボールネジ42を回転させる。
【0039】
Xガルバノミラー34はレーザ光Lを反射させる反射ミラーであり、ここではX軸方向に反射している。なお、図3の光学系の模式図では光路がそのままになっているが、実際には光路がほぼ90度変換(紙面に直交する方向に変換)される。Xガルバノミラー34にはXガルバノ駆動部51が取り付けられており、Xガルバノ駆動部51はXガルバノミラー34を微小駆動させる。これにより、レーザ光Lの反射角が微小変化する。Xガルバノミラー34は有機EL用マスク1におけるレーザ光Lの位置をX軸方向に微小変化させるように微小駆動している。
【0040】
Yガルバノミラー34はXガルバノミラー34で反射したレーザ光Lを反射させるミラーであり、ここではY軸方向に反射している。この場合も同様に、実際には光路が90度変換されている。Yガルバノミラー35にはYガルバノ駆動部52が取り付けられており、Yガルバノ駆動部52はYガルバノミラー35を微小駆動させる。これにより、レーザ光Lの反射角が微小変化する。Yガルバノミラー35は有機EL用マスク1におけるレーザ光Lの位置をY軸方向に微小変化させるように微小駆動する。
【0041】
有機EL用マスク1に対するレーザクリーニング(レーザ光Lを走査して有機材料を剥離するクリーニング)は、有機EL用マスク1に対してX軸方向にレーザ光Lを走査して1本のスキャンラインを形成して、このスキャンラインをY軸方向に変化させる。これにより、面のクリーニング(洗浄)を行っている。従って、Xガルバノミラー34により有機EL用マスク1のX軸方向に走査してスキャンラインを形成した後に、Yガルバノミラー35によりY軸方向にスキャンラインを微小変化させるようにしている。
【0042】
反射ミラー36はYガルバノミラー35で反射したレーザ光Lを入射する位置に設けており、反射ミラー36で反射したレーザ光LをZ軸方向(有機EL用マスク1の表面11Sのほぼ法線方向)から照射している。つまり、有機EL用マスク1の表面11Sに対するレーザ光Lの入射角はほぼ90度になる。この反射ミラー36はレーザ光学系30の最終段に設けられている。
【0043】
図4はレーザ光源31とステップモータ43とXガルバノ駆動部51とYガルバノ駆動部52との制御を行う制御装置60を示している。制御手段としての制御装置60は有機EL用マスククリーニング装置の全体の動作制御を行っており、例えばコンピュータ上で動作するソフトウェアにより制御装置60の機能を実現することができる。図4に示すように、制御装置60は周波数制御部61と駆動制御部62とモータ制御部63と制御内容設定部64とを備えて概略構成している。
【0044】
周波数制御手段としての周波数制御部61はレーザ光源31に接続されている。レーザ光源31が発振するレーザ光Lはパルスレーザであり、このパルスレーザの発振周期(発振周波数)を周波数制御部61が制御している。駆動制御部62はXガルバノ駆動部51およびYガルバノ駆動部52に接続されており、各ガルバノ駆動部の制御を行っている。Xガルバノ駆動部51およびYガルバノ駆動部52は、駆動制御部62の制御に基づいてXガルバノミラー34およびYガルバノミラー35の反射角制御を行っている。
【0045】
モータ制御部63はステップモータ43に接続されており、ステップモータ43の駆動制御を行っている。モータ制御部63の制御によりステップモータ43は回転駆動して、集光レンズ33の移動制御(前進・後退)を行っている。制御内容設定部64は周波数制御部61と駆動制御部62とモータ制御部63との制御内容を設定している。このうち、周波数制御部61および駆動制御部62は有機EL用マスク1におけるレーザ光Lの照射位置を制御しており、モータ制御部63はレーザ光Lの焦点位置を制御している。
【0046】
最初に、レーザ光Lの焦点位置の制御について説明する。本発明では、集光レンズ33の位置に可動領域と禁止領域との2つの領域を設けており、集光レンズ33は可動領域のみを移動可能にし、禁止領域には位置させないように規制している。可動領域はレーザ光Lの光軸方向に沿って所定の範囲に設けられており、この範囲を可動領域として集光レンズ33の移動を許可している。そして、この可動領域以外の領域は禁止領域として、集光レンズ33が移動しないように規制を行っている。この規制は移動範囲規制手段として機能するモータ制御部63が行っている。
【0047】
集光レンズ33はステップモータ43の回転駆動によってレーザ光Lの光軸方向に前進または後退する。従って、ステップモータ43の回転制御を行うことにより、集光レンズ33の移動制御を行うことができる。モータ制御部63はこの制御を行う。つまり、集光レンズ33の位置が常に可動領域の範囲内になるように、ステップモータ43の回転駆動の制御を行う。これにより、集光レンズ33が禁止領域に移動されないように規制している。
【0048】
次に、レーザ光Lの照射位置について説明する。周波数制御部61および駆動制御部62は連動して有機EL用マスク1に照射されるレーザ光Lの位置を制御している。レーザ光Lはパルスレーザとなっており、周波数制御部61がレーザ光源31の周波数制御を行うことで、レーザ光Lの発振間隔が制御される。周波数制御部61が制御する周波数に対応して、駆動制御部62にXガルバノ駆動部51を制御させる。この制御に基づいて、Xガルバノ駆動部51はXガルバノミラー34の駆動制御を行う。なお、スキャンラインを変更するとき(次のスキャンラインを形成するとき)は、駆動制御部62がYガルバノ駆動部52の制御を行う。
【0049】
以上が概略構成になる。次に、動作について説明する。前述した真空蒸着槽で行われる蒸着プロセスにより有機EL用マスク1には有機材料が付着する。この有機EL用マスク1はベース21に設けたマスク保持部材22により固定保持された状態でレーザ光学系30に対向する位置に配置されて固定される。そして、この状態でレーザクリーニングを開始する。レーザ光源31から発振されるレーザ光Lはビームエキスパンダ32を透過して、集光レンズ33に入射する。集光レンズ33でレーザ光Lは平行光から収束光にされて、Xガルバノミラー34およびYガルバノミラー35で反射して、最終段に設けた反射ミラー36でさらに反射して、有機EL用マスク1に照射される。
【0050】
有機EL用マスク1の表面11S(テーパ部12Tも含む)はレーザ光Lの照射方向に向くように配置されており、反射ミラー36で反射したレーザ光Lは有機EL用マスク1に入射する。有機EL用マスク1の表面には固体状態の有機材料が膜状に付着しており、この有機材料を透過してレーザ光Lが有機EL用マスク1に照射される。レーザ光Lは有機EL用マスク1の表面11Sから離間した位置で焦点を結ぶようになっており、つまり表面11Sで焦点を結ぶジャストフォーカスにはなっていない。従って、有機EL用マスク1に照射されるレーザ光Lは1点に集光されているのではなく、円形のスポットを形成する。そして、照射されたレーザ光Lは有機EL用マスク1に吸収される。
【0051】
有機EL用マスク1は金属素材であり、レーザ光Lが吸収されることにより熱エネルギーが作用して、吸収された部位(円形のスポットおよびその付近)が瞬間的に温度上昇する。しかも、厚み方向の表層部(数μm)のごく一部の部分のみが温度上昇する。
【0052】
温度上昇した有機EL用マスク1の部位は熱膨張を起こす。前記したように、非常に狭小な領域に対してレーザ光Lが吸収されて熱エネルギーが集中するため、瞬間的に温度上昇して、温度上昇した部位は急激に熱膨張を起こす。一方で、レーザ光Lが及ぼすエネルギー(熱エネルギー)は狭小な領域に集中しており、他の部位は温度上昇することなくそのままの形状を維持している。従って、固体状態となって付着している有機材料に向けて熱膨張を起こす。
【0053】
有機EL用マスク1の層と有機材料の層とは積層構造となっており、レーザ光Lが透過したとしても有機材料は固体状態を維持している。そして、有機EL用マスク1はレーザ光Lの照射により熱膨張を起こして瞬間的に隆起する。一方、有機材料はあまりレーザ光Lを吸収せず、殆ど熱膨張を起こさないことから、層間に剥離力が作用する。このとき、急激に有機EL用マスク1が熱膨張を起こして剥離力が作用するため、固体状態の有機材料に強い衝撃が与えられて破砕され、有機材料は粉体等の粒径の小さい遊離物質となって有機EL用マスク1から離間する方向に飛散する。
【0054】
また、有機EL用マスク1ではなく付着している有機材料に対してレーザ光Lを吸収させて、有機材料に剥離エネルギーを起こす所謂アブレーションにより剥離を行ってもよい。この場合には、有機EL用マスク1に付着している有機材料の層の表面よりもレーザ光Lの入射側で焦点を結ばせるようにする。なお、有機EL用マスク1にレーザ光Lを照射する場合には剥離される有機材料の領域はレーザ光Lのスポット径だけでなく周辺領域にもおよび、スポット径よりも広い円形領域となる。有機材料にレーザ光Lを吸収させる場合には、剥離される領域はレーザ光Lのスポット径とほぼ等しくなる。
【0055】
前述したように、レーザ光Lはパルスレーザとして発振している。そして、Xガルバノミラー34によりX軸方向(走査方向)にレーザ光Lの照射位置が変化するように走査しているため、前記の円形領域が連続するように走査がされる。この走査を1方向に行って1本のスキャンラインを形成して、スキャンラインをY方向に微小シフトさせることで、面のクリーニングを行う。
【0056】
本発明では、焦点位置制御手段がレーザ光Lの焦点位置の制御を行っている。ここでは、レンズ移動手段(レンズ位置調整機構40)および移動範囲規制手段(制御装置60のうちモータ制御部63および制御内容設定部64)が焦点位置制御手段として機能している。焦点位置制御手段は、集光レンズ33の移動範囲を可動領域にのみ限定しており、禁止領域に移動させないように規制している。可動領域はレーザ光Lの光軸方向に前進境界位置と後退境界位置との間の内側に設けられており、集光レンズ33は光軸方向に可動領域内を自由に移動させることができる。ただし、可動領域以外の領域は禁止領域として集光レンズ33が移動しないように設定されている。
【0057】
前進境界位置は集光レンズ33が光学的に前進(有機EL用マスク1に光学的に近接する方向への移動)可能な境界位置であり、後退境界位置は集光レンズ33が光学的に後退(有機EL用マスク1から光学的に離間する方向への移動)可能な境界位置である。集光レンズ33が前進すると有機EL用マスク1との間の光学的な距離が短くなり、デフォーカス量が小さくなる。一方、集光レンズ33が後退すると有機EL用マスク1との間の光学的な距離が長くなり、デフォーカス量が大きくなる。なお、前記の可動領域は前進境界位置および後退境界位置を含まず、これらの位置の内側の領域になる。
【0058】
本発明では、集光レンズ33が前進境界位置の手前まで前進可能なように可動領域を設けているため、レーザ光Lは有機EL用マスク1の表面11S(有機材料に照射する場合には、有機材料の層の表面)よりもレーザ光Lの入射側で焦点を結ぶ。このため、ジャストフォーカスにはなっておらず、デフォーカスされており、且つ拡散光となってレーザ光Lが有機EL用マスク1に照射される。
【0059】
図5に、有機EL用マスク1に形成される開口部12に照射されるレーザ光Lを示している。集光レンズ33は前進境界位置に到達することがないため、レーザ光Lの焦点位置Fは有機EL用マスク1の表面よりもレーザ光Lの入射側に離間した位置になる。このため、焦点位置Fで1点に集光された後に、拡散光となって有機EL用マスク1に照射される。
【0060】
前述したように、有機EL用マスク1の表面11Sに対して開口部12のテーパ部12Tは90度よりも大きな角度をもって形成されている。つまり、表面11Sとテーパ部12Tとのなす角度は鈍角になる。レーザ光の入射側で焦点を結ぶレーザ光Lの光軸中心を裏面側開口領域12Rの領域内にすると、開口部12の内面に形成される全てのテーパ部12T(断面が長方形の場合には4つのテーパ部12T)の法線方向、或いはそれに近い角度でレーザ光Lが入射するようになる。つまり、テーパ部12Tに対して大きな角度でレーザ光Lが照射される。
【0061】
レーザ光Lは洗浄対象の面に対する入射角によって、エネルギー密度が変わるため、作用する剥離力が変化する。一般に、大きな角度で入射させれば高い剥離力を作用させることができ、特に法線方向から入射させたときに最も高い剥離力を作用させることができる。一方、小さな入射角になるほど剥離力が低下する。従って、テーパ部12Tに対してレーザ光Lが大きな角度で入射すると、テーパ部12Tに付着した有機材料に対して高い剥離力を作用させることができる。これにより、高い洗浄度が得られる。
【0062】
集光レンズ33の移動範囲を可動領域内に限定して前進境界位置の先の禁止領域に移動しないように規制するために、モータ制御部63はステップモータ43の制御を行う。ステップモータ43の回転駆動により集光レンズ33はレーザ光Lの光軸方向に移動するため、集光レンズ33が前進境界位置より先に前進しないようにモータ制御部63がステップモータ43の回転制御(例えば、回転角度および回転数の制御)を行う。
【0063】
集光レンズ33の移動は前進だけが規制されるのではなく、後退も規制される。集光レンズ33を後退させることによりデフォーカス量が大きくなるが、あるデフォーカス量になると、有機EL用マスク1から有機材料が剥離されなくなる。なお、レーザ光源31のレーザ光Lの発振強度を高くすれば、デフォーカス量を大きくしたとしても有機材料を剥離することはできる。ただし、レーザ光源31によって、その発振強度には所定の上限(最大発振強度)が設けられており、最大発振強度よりも大きな発振強度とすることはできない。このため、所定のデフォーカス量になると、有機材料を剥離できない状態を生じる。
【0064】
このため、有機EL用マスク1にレーザ光を照射したときに有機材料が剥離可能から剥離不能(レーザ光源31の発振強度を調整したとしても有機材料を剥離できない状態)に切り替わる集光レンズ33の位置を後退境界位置として、この後退境界位置の手前までを可動領域とする。そして、後退境界位置よりも先の光学的に離間する領域を禁止領域として、集光レンズ33を移動させないように規制する。これにより、有機材料が剥離不能になることがない。
【0065】
集光レンズ33は可動領域内では自由にその位置を変えることができる。これにより、焦点位置が変化して、デフォーカス量を自由にコントロールできる。デフォーカス量を小さくすることにより、剥離される有機材料の領域は狭くなるが、エネルギーが集中するため、レーザ光Lにそれほど強いエネルギーを持たせなくても剥離可能になる。一方、デフォーカス量を大きくすることにより、レーザ光Lに高いエネルギーを持たせなければならないが、広範な領域の有機材料を剥離することができる。従って、種々の条件に応じて、可動領域内で適宜自由にデフォーカス量を設定する。
【0066】
以上のようにして、開口部12テーパ部12Tに対してできるだけ大きな入射角でレーザ光Lを照射するために、集光レンズ33の移動範囲を可動領域に限定している。ここで、レーザ光Lのうちテーパ部12Tに対して大きな角度で入射しているのは、レーザ光Lのうち拡散している領域の光であり、光軸中心以外の光である。従って、レーザ光Lの光軸中心は開口部12の裏面側開口領域12Rの内部に位置するようにする。特に、レーザ光Lの光軸中心と裏面側開口領域12Rの中心とを一致させるようにすることで、各テーパ部12Tに照射される光に生じる偏りを最小化することができる。
【0067】
図6は、レーザ光Lの光軸中心が開口部12の裏面側開口領域12Rの中心と一致するようにしてレーザ光Lを照射し、各開口部12に対してレーザ光Lを照射している状態を示している。図中の二点鎖線の領域は有機EL用マスク1に形成されるレーザ光LのスポットSAを示しており、開口部12ごとにスポットSAを形成している。なお、実際に剥離されるのはスポットSAよりも広範な前述した円形領域になることもある。
【0068】
レーザ光Lはパルスレーザであり、発振周期は周波数制御部61により制御されている。そして、駆動制御部62はXガルバノ駆動部51を制御しており、この制御に基づいてXガルバノミラー34の反射角を微小変化させている。時間的に前後して発振されるレーザ光Lの発振間隔の間にXガルバノミラー34の反射角の変化量を制御することにより、有機EL用マスク1に形成される各スポットSAの照射位置を制御できる。つまり、図6に示すように、レーザ光Lの光軸中心と裏面側開口領域12Rの中心とが一致するようにして開口部12ごとにレーザ光Lを照射するように、制御内容設定部64は周波数制御部61および駆動制御部62を制御する。
【0069】
以上のようにして、レーザ光Lの光軸中心を裏面側開口領域12Rの中心と一致するようにしてレーザ光Lを照射していく。つまり、開口部12に向けてレーザ光Lを照射していく。ここで、図7(a)のようにレーザ光Lを1つの開口部12ごとに照射するようにしてもよいが、同図(b)のように複数の開口部12ごとにレーザ光Lを照射するようにしてもよい。同図(b)では3つの開口部12A、12B、12Cに対して1つのレーザ光LAを照射し、3つの開口部12C、12D、12Eに対して1つのレーザ光LBを照射している。レーザ光LAとLBとは時間的に前後するパルスレーザである。このとき、1つの開口部12Cにおいてレーザ光LAとLBとの照射範囲が重複するように照射を行っている。
【0070】
このように、複数の開口部12ごとにレーザ光Lを照射しても、全てのテーパ部12Tに対して大きな角度でレーザ光Lの拡散している領域の光を入射させることができる。このとき、開口部12Cのテーパ部12Tのうち一部のテーパ部12Tに対してレーザ光LAは小さな角度で照射される。同様に、開口部12Cのテーパ部12Tのうち前記のテーパ部12T以外のテーパ部12Tに対してレーザ光LBは小さな角度で照射される。
【0071】
そこで、開口部12Cにはレーザ光LAとLBとを重複するようにして照射している。これにより、レーザ光LA、LBが大きな角度で照射させることができなかったテーパ部12Tについても、レーザ光LB、LAが大きな角度で照射させることができるようになる。このため、全てのテーパ部12Tに対して高い剥離力を作用させることができる。このように、全てのテーパ部12Tに対して大きな角度でレーザ光Lを照射するためには、レーザ光Lのスポットを広げる必要があり、このためデフォーカス量を大きく設定する。そして、レーザ光Lの光軸中心が通る開口部12以外の開口部12については、前後のレーザ光L(LAおよびLB)が重複して照射されるようにする。これにより、全てのテーパ部12Tに対して高い剥離力を作用させることが可能になる。
【0072】
従って、複数の開口部12をカバーするようにレーザ光Lを照射するため、1つの開口部12ごとにレーザ光Lを照射する場合に比べて、照射回数が少なくなる。これにより、レーザ光Lの走査速度(スキャンスピード)を高速化することができ、レーザクリーニングを早期に完了できるようになる。
【0073】
図7(a)および(b)の何れの場合であっても、レーザ光Lの光軸中心は必ず裏面側開口領域12Rの内側、特に中心に位置させるようにしている。つまり、レーザ光Lのうち中心領域の光は裏面側開口領域12Rを通過させて、有機EL用マスク1に吸収させないようにしている。図8に示すように、レーザ光Lの強度はガウス分布になっており、中心領域(光軸中心およびその近傍)の強度が突出して高くなっている。そして、中心領域では、僅かな位置のずれで強度差が激しくなっている。一方、レーザ光Lの中心領域以外の周辺領域では強度自体はそれほど高くないものの、強度差は少なくなっている。そして、レーザ光Lのうち中心領域は僅かな部分を占め、殆どが周辺領域に占められている。
【0074】
有機EL用マスク1は極薄の金属板であり、特にテーパ部12Tの部位はそれよりもさらに薄くなっており、非常に繊細な部位になっている。従って、レーザ光Lの中心領域の強度の高い領域をテーパ部12Tに照射すると、有機EL用マスク1の前記部位に大きなダメージ(有機EL用マスク1が復元不能なダメージ)を与えるおそれがある。このため、強度差の激しい中心領域の光を開口部12の裏面側開口領域12Rから外部に抜けるようにして、有機EL用マスク1に吸収させないようにしている。そして、強度差の少ない安定した周辺領域の光をテーパ部12Tに照射して吸収させるようにレーザ光Lの照射位置をコントロールしている。
【0075】
以上説明したように、本発明は、レーザ光Lが入射する集光レンズ33の移動範囲に可動領域と禁止領域とを設けて、レーザ光Lが有機EL用マスク1の表面11Sよりもレーザ光Lの入射側で焦点を結ぶように可動領域を規定している。これにより、有機EL用マスク1に拡散光が照射されるため、開口部12のテーパ部12Tに対して大きな角度でレーザ光Lを入射させることができる。このため、有機EL用マスク1と有機材料との間に大きな剥離力を作用させることができ、高い洗浄度を得ることができるようになる。
【0076】
以上において、本発明では、集光レンズ33を移動させることによりレーザ光Lの焦点位置を制御している。これは、レーザ光Lの焦点位置が有機EL用マスク1の表面11Sよりもレーザ光Lの入射側にしている制御であり、換言すればレーザ光Lの焦点位置と有機EL用マスク1の表面11Sとの相対位置関係を制御していることになる。そこで、当該相対位置関係を制御できれば、任意の手法を用いてもよい。例えば、ベース21に有機EL用マスク1をレーザ光学系30に近接または離間する機構を搭載して、有機EL用マスク1を移動することにより前記の相対位置関係を調整することができる。この場合には、有機EL用マスク1を搭載する機構の移動範囲に可動領域と禁止領域とを設けるようにして、集光レンズ33にはレンズ位置調整機構40を設けないようにする。
【0077】
また、制御装置60のモータ制御部63がステップモータ43を制御して、可動領域と禁止領域とを設けて集光レンズ33の移動範囲を規制しており、この制御は基本的にはコンピュータで動作するソフトウェアで行っているが、他の手法により移動範囲を規制してもよい。例えば、レンズホルダ41の移動経路(光軸方向の移動経路)において前進境界位置と後退境界位置とにレンズホルダ41の移動を強制的に停止させるストッパ部を設けてもよい。また、レンズ位置調整機構40をロボット手段により構成して、ロボット手段が可動領域のみ集光レンズ33を移動させるようにしてもよい。
【0078】
また、図3において、レーザ光学系30を構成するXガルバノミラー34とYガルバノミラー35と反射ミラー36とを別個独立に配置していたが、これらを1つのガルバノミラーとして設けてもよい。つまり、反射ミラー36の位置にガルバノミラーを設けておき、有機EL用マスク1のX軸方向およびY軸方向にレーザ光Lを走査可能にするために当該ガルバノミラーを2方向に駆動させるようにしてもよい。
【0079】
また、図3において、反射ミラー36を用いて有機EL用マスク1のほぼ法線方向からレーザ光Lを照射するようにしているが、斜め方向からレーザ光Lを照射するようにしてもよい。ただし、法線方向から入射させることにより、開口部12の各テーパ部12Tに対して等しい角度でレーザ光Lが入射するため、均等な洗浄度が得られる。このため、法線方向から入射させることが望ましい。
【0080】
なお、テーパ部12Tに対して大きな角度でレーザ光Lを入射させるようにしているため、有機EL用マスク1の表面11Sに対するレーザ光Lの入射角が小さくなる場合もある。ただし、前述したように隣接する開口部12の間隔は非常に狭いものになっており、マスク本体11のうち有機EL用マスク1の表面11Sが占める割合よりもテーパ部12Tが占める割合の方が大きくなっていることが多い。つまり、各開口部12のテーパ部12Tの面積はマスク本体11の表面11Sの面積よりも広くなっていることが多い。
【0081】
前述したように、レーザ光Lのエネルギーはスポットの領域だけではなく、その周辺にも及ぶため、テーパ部12Tにレーザ光Lを照射することで、テーパ部12Tよりも狭い領域のマスク本体11の表面11Sに対して剥離効果を及ぼすことができる。これにより、表面11Sに付着した有機材料も除去できるようになる。
【0082】
また、開口部12の裏面側開口領域12Rの面積およびレーザ光Lの強度分布に基づいてレーザ光源31の発振強度を設定してもよい。裏面側開口領域12Rからレーザ光Lは有機EL用マスク1に外部に抜けていくため、有機材料の剥離には使用されない。従って、ガウス分布を有するレーザ光Lの中心領域の強度が高くなっていたとしても、有機EL用マスク1には作用を及ぼさないため、レーザ光源31の発振強度を高く設定することもできる。裏面側開口領域12Rの面積は既知であり、レーザ光Lの強度分布のうち当該面積に相当する部分を除外した領域の光(拡散している領域の光)がテーパ部12Tに付着した有機材料を十分に剥離できるような強度にレーザ光源31の発振強度を設定することにより、高い洗浄度を得ることができるようになる。
【符号の説明】
【0083】
1 有機EL用マスク 11 マスク本体
11S 表面 12 開口部
12R 裏面側開口領域 12S 表面側開口領域
12T テーパ部 14 ガラス基板
30 レーザ光学系 31 レーザ光源
33 集光レンズ 34 Xガルバノミラー
35 Yガルバノミラー 36 反射ミラー
40 レンズ位置調整機構 41 レンズホルダ
42 ボールネジ 43 ステップモータ
51 Xガルバノ駆動部 52 Yガルバノ駆動部
60 制御装置 61 周波数制御部
62 駆動制御部 63 モータ制御部
64 制御内容設定部 L レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパ部を有する開口部を形成した有機EL用マスクの表面に付着した有機材料を剥離するために前記有機EL用マスクの表面を走査するレーザ光を発振するレーザ光源と、
前記有機EL用マスクの表面よりもレーザ光の入射側で焦点を結ぶように前記有機EL用マスクの表面と前記レーザ光の焦点位置との相対位置関係を調整する焦点位置調整手段と、
を備えたことを特徴とする有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項2】
前記焦点位置調整手段は、
前記レーザ光の光路上に設けた集光レンズを前記レーザ光の光軸方向に移動させるレンズ移動手段と、
前記レーザ光の焦点位置と前記有機EL用マスクの表面とが一致する前記集光レンズの位置を前進境界位置、および前記有機材料が剥離可能から剥離不能に切り替わる前記集光レンズの位置を後退境界位置として、前記前進境界位置と前記後退境界位置との間の内側の領域を可動領域、この可動領域以外の領域を禁止領域として、前記可動領域に限定して前記集光レンズを移動させる移動範囲規制手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項3】
前記レーザ光を前記有機EL用マスクの法線方向から入射させるための反射ミラーを備えたこと
を特徴とする請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項4】
前記レーザ光源から発振されるレーザ光はパルスレーザであり、このパルスレーザの発振周波数を制御する周波数制御手段と、
前記有機EL用マスクに前記レーザ光を走査させるために前記レーザ光の反射角を変化させるガルバノミラーと、
前記有機EL用マスクに照射したときの前記レーザ光の光軸中心が前記有機EL用マスクに形成される開口部から前記有機EL用マスクの裏面に抜ける位置となるように前記周波数制御手段と前記ガルバノミラーとの制御を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイの製造装置。
【請求項6】
有機EL用マスクの表面に付着した有機材料を剥離するために前記有機EL用マスクの表面にレーザ光を走査してクリーニングを行う有機EL用マスクのクリーニング方法であって、
前記レーザ光の光路上に設けた集光レンズにより焦点を結ぶレーザ光の焦点位置と前記有機EL用マスクの表面とが一致する前記集光レンズの位置を前進境界位置、および前記有機材料が剥離可能から剥離不能に切り替わる前記集光レンズの位置を後退境界位置として、前記前進境界位置と前記後退境界位置との間の内側の領域を可動領域、この可動領域外の領域を禁止領域として、前記集光レンズの移動範囲を前記可動領域に限定すること
を特徴とする有機EL用マスクのクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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