説明

有機EL発光材料、及び有機EL装置の製造方法

【課題】発光特性をより良好にする有機EL発光材料と、これを用いた有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】陽極11と陰極19との間に有機発光層18a、18b、18cを有してなる有機EL装置100の製造方法である。溶質として燐光発光材料を有するとともに、溶媒として環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を有してなる有機EL発光材料を、液滴吐出法で成膜して有機発光層18a、18b、18cを形成する工程、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光材料、及び有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自発発光型ディスプレイとして、発光層に有機物を用いた有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子と称する)の開発が進められている。有機EL素子は、有機材料からなる薄膜を陽極と陰極との間に挟んだ構造を有し、二つの電極から注入したキャリアを有機薄膜中で再結合させることにより、発光をなす素子である。
【0003】
このような有機EL素子を多数備えてなる有機EL装置は、薄型・軽量といった特徴を有している。また、インクジェット法に代表される液相法によって塗布・成膜を行うようにすれば、有機薄膜を広範囲に均一に成膜することができ、したがって大型のフラットパネルディスプレイへの応用が期待されている。
【0004】
また、近年では、低分子系の有機発光材料を疎水系有機溶媒中に含有させてなるインク材料を用い、これをウエットパターニング法で塗布することによって発光層を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−291587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記したような疎水系有機溶媒を用いたインク材料では、得られる有機EL素子の発光特性が十分良好とならず、さらなる改善が望まれている。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、発光特性をより良好にする有機EL発光材料と、これを用いた有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の有機EL発光材料は、有機EL素子用の発光材料であって、溶質として燐光発光材料を有するとともに、溶媒として環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を有してなる、ことを特徴としている。
【0008】
この有機EL発光材料によれば、溶質として燐光発光材料を有しているので、一般的な蛍光発光材料に比べより良好な発光特性を有するようになる。また、燐光発光材料は特に水によって特性劣化が顕著となるが、より疎水性が高い有機溶剤、すなわち、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を用いているので、水に起因する特性劣化が確実に抑えられる。したがって、得られる有機EL素子の発光特性をより良好にすることが可能になる。
【0009】
本発明の有機EL装置の製造方法は、陽極と陰極との間に有機発光層を有してなる有機EL装置の製造方法において、
溶質として燐光発光材料を有するとともに、溶媒として環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を有してなる有機EL発光材料を、液滴吐出法で成膜して有機発光層を形成する工程、を備えたことを特徴としている。
【0010】
この有機EL装置の製造方法によれば、有機EL発光材料として、前記したように良好な発光特性を有し、また、水に起因する特性劣化が確実に抑えられたものを用い、これを液滴吐出法で成膜して有機発光層を形成するので、得られる有機EL装置の発光特性をより良好にすることができる。
【0011】
また、前記有機EL装置の製造方法においては、前記陽極と有機発光層との間に正孔注入輸送層を形成する工程を有し、該正孔注入輸送層を形成する工程では、架橋性材料が、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒に溶解されてなる溶液を成膜して正孔注入輸送層を形成するのが好ましい。
【0012】
このようにすれば、正孔注入輸送層の形成材料となる前記溶液も、より疎水性が高い有機溶剤、すなわち、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を用いているので、この溶液からなる正孔注入輸送層は、その上に形成される発光層の水に起因する特性劣化を確実に抑えるものとなる。したがって、得られる有機EL装置の発光特性をより良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明の有機EL発光材料は、有機EL素子(有機EL装置)用の発光材料であって、特にインクジェット法に代表される液滴吐出法等の液相法による成膜に用いられる成膜材料である。この発光材料は、特に膜形成成分(溶質)として燐光発光材料を有し、さらにこの膜形成成分を溶解する有機溶媒を有してなる溶液である。
【0015】
膜形成成分は、本実施形態ではゲスト材料としての燐光発光材料と、ホスト材料とからなっている。具体的には、燐光発光材料である「Tris(4-phenylpiridinolato)Ir(III)」(以下、Ir(ppy)と記す)と、「4,4-dicarbazole-4,4-biphenyl」(以下、CBPと記す)とが好適に用いられる。ここで、これら化合物のうち、ゲスト材料となるIr(ppy))は、以下に示す構造を有している。
【0016】
【化1】

また、ホスト材料となるCBPは、以下に示す構造を有している。
【0017】
【化2】

なお、ホスト材料としては、前記CBPに限定されることなく種々のものが使用可能であるが、特に分子量が5000以下の低分子系の材料が好適に用いられる。
【0018】
また、このような膜形成成分を溶解する有機溶媒としては、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒が用いられる。具体的には、シクロヘキシルベンゼン、3−イソプロピルビフェニル、3−メチルビフェニル、4−メチルビフェニル、1−メチルナフタレン、あるいはこれらの誘導体等を挙げることができ、これらを単独で、もしくは混合物として使用することができる。
【0019】
このような有機溶媒に対する溶質(膜形成成分)の濃度については、特に限定されることなく、塗布の際に好適となる粘度となるように調製され、さらには、乾燥・成膜に有利となるように適宜に調製される。例えば、インクジェット法で吐出され塗布される場合、固形分となる溶質の濃度が、1重量%程度となるように調製される。
【0020】
なお、本発明の有機EL発光材料は、インクジェット法等の液滴吐出法にのみ用いられることなく、スピンコート法等の他の液相法による成膜法にも適用可能である。
【0021】
このようにして調製された有機EL発光材料は、溶質として燐光発光材料を有しているので、一般的な蛍光発光材料に比べより良好な発光特性を有するようになる。また、燐光発光材料は特に水によって特性劣化が顕著となるが、より疎水性が高い有機溶剤、すなわち、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を用いているので、水に起因する特性劣化が確実に抑えられたものとなる。
【0022】
次に、このような有機EL発光材料を用いた有機EL装置の製造方法の一実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態の製造方法は、隔壁形成工程と、プラズマ処理工程と、正孔注入輸送層形成工程と、表面改質工程と、発光層形成工程と、陰極形成工程と、封止工程とを具備して構成されている。
【0024】
図1に示すように、隔壁形成工程では、必要に応じてTFT等(図示せず)が予め設けられている基板10に形成されたITO等からなる透明電極(陽極)11上に、無機材料からなる第1隔壁12aと、有機材料からなる第2隔壁12bとを順次積層することにより、各画素領域を隔てる隔壁12を形成する。
【0025】
第1隔壁12aは、例えばCVD法、スパッタ法、蒸着法等によって基板10及び透明電極11の全面にSiO、SiN等の無機材料からなる無機膜(図示せず)を形成し、次にこの無機膜をエッチング等によりパターニングして、透明電極11上の画素領域に開口部13aを設けることにより形成する。ただし、このとき、第1隔壁12aを透明電極11の周縁部まで残しておくものとする。
【0026】
次に、基板10、透明電極11、第1隔壁12aの全面に、有機材料からなる有機膜(図示せず)を形成する。この有機膜は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機樹脂を溶媒に溶かしたものを、スピンコート、ディップコート等により塗布して形成する。そして、この有機膜をフォトリソグラフィ技術等によりエッチングし、開口部13bを形成することにより、第2隔壁12bとする。この第2隔壁12bの開口部13bは、図1に示すように、第1隔壁12aの開口部13aよりやや広く形成することが好ましい。これにより、透明電極11上に、第1隔壁12a及び第2隔壁12bを貫通する開口部13が形成される。なお、開口部13の平面形状は、円形、楕円、四角、ストライプいずれの形状でも構わないが、インク材料には表面張力があるため、四角形等の場合には、角部に丸みを持たせる方が好ましい。
【0027】
次に、プラズマ処理工程では、隔壁12の表面に、親インク性を示す領域と、撥インク性を示す領域を形成する。このプラズマ処理工程は、予備加熱工程と、全面を親インク性にする親インク化工程と、第2隔壁12bを撥インク性にする撥インク化工程と、冷却工程とに大別される。
【0028】
予備加熱工程では、隔壁12を含む基板10を所定の温度まで加熱する。加熱は、例えばプラズマ処理室内にて基板10を載せるステージにヒータを取り付け、このヒータで当該ステージごと基板10を、例えば70〜80℃に加熱することにより行う。予備加熱を行うことにより、多数の基板にプラズマ処理を連続的に行った場合でも、処理開始直後と処理終了直前でのプラズマ処理条件をほぼ一定にすることができる。これにより、基板10間の隔壁12のインク材料に対する親和性を均一化することができ、一定の品質を有する表示装置を製造することができる。また、基板10を予め予備加熱しておくことで、後のプラズマ処理における処理時間を短縮することができる。
【0029】
親インク化工程では、大気雰囲気中で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。具体的には、隔壁12を含む基板10を加熱ヒータ内蔵の試料ステージ上に載置し、これにプラズマ状態の酸素を照射する。Oプラズマ処理の条件は、例えば、プラズマパワー100〜800kW、酸素ガス流量50〜100cc/min、基板搬送速度0.5〜10mm/sec、基板温度70〜90℃の条件で行われる。このOプラズマ処理により、透明電極11及び第1隔壁12aの露出面、並びに第2隔壁12bの全面に水酸基が導入され、親インク性が付与される。
【0030】
次に、撥インク化工程では、大気雰囲気中でテトラフルオロメタン(四フッ化炭素)を反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行う。具体的には、隔壁12を含む基板10を加熱ヒータ内蔵の試料ステージ上に載置し、これにプラズマ状態のテトラフルオロメタン(四フッ化炭素)を照射する。CFプラズマ処理の条件は、例えば、プラズマパワー100〜800kW、テトラフルオロメタン(四フッ化炭素)ガス流量50〜100SCCM、基板搬送速度0.5〜10mm/sec、基板温度70〜90℃の条件で行われる。なお、処理ガスは、テトラフルオロメタン(四フッ化炭素)に限らず、他のフルオロカーボン系のガスを用いることができる。CFプラズマ処理により、先の工程で親インク性が付与された第2隔壁12bにフッ素基が導入されて撥インク性が付与される。第2隔壁12bを構成するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機物は、プラズマ状態のフルオロカーボンを照射することで容易に水酸基がフッ素基で置換され、撥インク化させることができるものである。一方、透明電極11及び第1隔壁12aの露出面も、このCFプラズマ処理の影響を多少受けるが、親和性についてはほとんど影響を受けることはない。
【0031】
次に、冷却工程として、プラズマ処理のために加熱された基板10を室温にまで冷却する。具体的には、例えば、プラズマ処理後の基板10を、水冷プレート上に載置して冷却する。プラズマ処理後の基板10を室温、または所定の温度(例えばインクジェット工程を行う管理温度)まで冷却することにより、次の正孔注入輸送層形成工程を一定の温度で行うことができる。これにより、インクジェット法で正孔注入輸送層の膜形成成分を含む溶液を吐出させる際に、液滴を一定の容積で連続して吐出させることができ、正孔注入輸送層を均一に形成することができる。
【0032】
前記のプラズマ処理工程では、材質が異なる第2隔壁12a及び第1隔壁12bに対して、Oプラズマ処理とCFプラズマ処理とを順次行うことにより、隔壁12に親インク性の領域と撥インク性の領域を容易に設けることができる。
【0033】
次に、正孔注入輸送層形成工程では、図2に示すようにインクジェット法により、正孔注入輸送層の膜形成成分を含む溶液(インク材料)15を透明電極11上の開口部13に吐出した後に乾燥処理及び熱処理を行い、正孔注入輸送層16を形成する。なお、この正孔注入輸送層形成工程以降は、水分、酸素の無い、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。図2に示したように、インクジェットヘッド14に前記溶液(インク材料)15を充填し、インクジェットヘッド14の吐出ノズルを開口部13に対向させ、インクジェットヘッド14と基板10とを相対移動させながら、インクジェットヘッド14から1滴当たりの液量が制御された溶液15を透明電極11上に吐出する。
【0034】
ここで用いる溶液15としては、正孔注入輸送層の膜形成成分としての架橋性材料と、これを溶解する有機溶媒とからなるものが、好適に用いられる。架橋性材料とは、ポリマー等に、紫外線照射、電子ビーム照射、プラズマ照射、または加熱により架橋させる作用を有する架橋剤を含んでなるものをいう。また、紫外線照射によるもの、加熱によるものが特に多く提案されており、これらを用いることができる。
【0035】
紫外線照射によるものの1例としては、テトラアリールジアミン化合物が、例えば特開平5−271166号公報等に開示されたもので、紫外線照射処理によって硬化し、成膜されるものである。加熱によるものの1例としては、ポリシロキサン樹脂が、例えば特開平9−124943号公報等に開示されたもので、熱処理によって硬化し、成膜されるものである。
【0036】
この架橋性材料を溶解する有機溶媒としては、特に、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒が好適に用いられ、具体的には、前記の有機EL発光材料において用いられるシクロヘキシルベンゼン、3−イソプロピルビフェニル、3−メチルビフェニル、4−メチルビフェニル、1−メチルナフタレン、あるいはこれらの誘導体等が単独で、もしくは混合物として用いられる。
【0037】
このような溶液15は、前記したようにインクジェットヘッド14から吐出され、開口部13内に配される。すると、吐出された溶液15は、開口部13の親インク処理された透明電極11及び第1隔壁12aに広がる。そして、溶液15が所定の吐出位置からはずれて第2隔壁12b上に吐出されたとしても、第2隔壁12bが溶液15で濡れることがなく、はじかれた溶液15が開口部13内に転がり込む。
【0038】
溶液15の吐出量は、開口部13の大きさ、形成しようとする正孔注入輸送層の厚さ、溶液15中の正孔注入輸送層の膜形成成分の濃度等により決定される。また、溶液15は1回のみならず、数回に分けて同一の開口部13に吐出しても良い。この場合、各回における溶液15の量は同一でも良く、各回毎にインク量を変えても良い。さらに同一の開口部13内の同一箇所のみならず、各回毎に開口部13内の異なる箇所に溶液15を吐出しても良い。
【0039】
次に、図3に示すように、吐出後の溶液15を乾燥処理して溶液15に含まれる有機溶媒を蒸発させることにより、正孔注入輸送層16を形成する。この乾燥処理としては、例えば室温での真空乾燥処理が採用される。続いて、架橋硬化処理として、例えば、テトラアリールジアミン化合物のような紫外線硬化型では、真空中で水銀キセノンランプによる紫外線照射処理により、正孔注入輸送層16を硬化し、架橋反応させることで不溶化する。また、ポリシロキサン樹脂のような熱硬化型では、窒素中にて180℃で10分程度加熱し熱処理することにより、正孔注入輸送層16を硬化し、架橋反応させることで不溶化する。
【0040】
このような正孔注入輸送層形成工程では、吐出された溶液15が、親インク性の透明電極11及び第1隔壁12aの露出面部になじむ一方で、撥インク処理された第2隔壁12bにはほとんど付着しないので、溶液15が第2隔壁12bの上に誤って吐出された場合でも、溶液15がはじかれて透明電極11及び第1隔壁12aの露出面部に転がり込む。これにより、透明画素電極電極11上に正孔注入輸送層16を確実に形成することができる。
【0041】
なお、前記したように架橋性材料を有機溶媒に溶解してなる溶液を硬化処理し、得られた膜(正孔注入輸送層16)は、基本的には架橋反応することによって不溶化するものの、この膜中には、架橋反応が進まずに不溶化されていない未反応部分が残ってしまうおそれがある。そして、正孔注入輸送層16中に未反応部分が残ってしまうと、発光層の形成時にこの未反応部分が再溶解し、正孔注入輸送層16や発光層の構成成分が変化してしまうことにより、これら正孔注入輸送層16や発光層に特性低下が生じるおそれがある。
【0042】
そこで、有機溶媒を用いて架橋性材料から正孔注入輸送層16を形成する場合、熱処理によって硬化させ不溶化した架橋性材料(正孔注入輸送層16)を、さらに有機溶媒によってリンス処理し、この処理後の膜を正孔注入輸送層16としてもよい。なお、リンス処理に用いる有機溶媒としては、発光層の形成材料、すなわち、前記した有機EL発光材料に用いる有機溶媒が好適に用いられる。このように有機EL発光材料中の有機溶媒を用いて正孔注入輸送層16のリンス処理を行えば、後述する発光層形成工程において、正孔注入輸送層16を再溶解させてしまうおそれがなくなるからである。
【0043】
次に、発光層形成工程では、前述した本発明の有機EL発光材料17をインク材料として用い、インクジェット法により、図4に示すように前記正孔注入輸送層16上に吐出する。なお、発光層を形成するための発光材料としては、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色に対応した材料(インク材料)全てについて、前記本発明の発光材料を用いることなく、これらのうちの一種または二種については、従来より用いられている発光材料、例えば蛍光発光材料(蛍光材料)を用いることもできる。
【0044】
このような蛍光発光材料としては、フルオレン系高分子誘導体や、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等を用いることができる。
【0045】
そして、これら有機EL発光材料17を前記正孔注入輸送層16上に吐出した後、各発光材料毎に乾燥処理しさらに熱硬化処理することにより、図5に示すように発光層(有機発光層)18a、18b、18cを順次形成する。ここで、乾燥処理については、特に発光材料として前述した本発明の有機EL発光材料を用いた場合、室温での真空乾燥が好適に採用される。また、熱硬化処理については、窒素雰囲気中にて90℃で30分程度の加熱処理が好適に採用される。
【0046】
このようにして発光層18a、18b、18cを形成すると、特に本実施形態の有機EL発光材料を用いた発光層では、正孔注入層16がより疎水性の高い有機溶剤を用いて形成され、さらにこの発光層自体も疎水性の高い有機溶剤を用いて形成されているので、水による特性劣化が顕著な燐光発光材料を有してなるにもかかわらず、水に起因する特性劣化が確実に抑えられたものとなる。
【0047】
次いで、陰極形成工程では、図6に示すように発光層18a、18b、18c及び第2隔壁12bの全面に、陰極19を形成する。陰極19は、複数の材料を積層して形成しても良い。例えば、発光層に近い側には仕事関数が小さい材料で形成することが好ましく、例えばCa、Ba等を用いることが可能である。また、上部側(封止側)には下部側(発光層側)の陰極層よりも仕事関数が高いものが好ましく、例えばAl膜、Ag膜、Mg/Ag積層膜等からなることが好ましい。本実施形態では、発光層18a、18b、18c上にホールブロック層及び電子輸送層としてアルミニウムキノリノール錯体(Alq3)及びLiFを積層し、さらにその上にAlを積層することにより、ホールブロック層/電子輸送層/陰極層の積層膜からなる陰極19を形成した。
【0048】
これらの陰極(陰極層)は、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法等で形成することが好ましく、特に蒸着法で形成することが、発光層18a、18b、18cの熱による損傷を防止できる点で好ましい。また、陰極19上に、酸化防止のためSiO、SiO、SiN等の保護層を設けても良い。
【0049】
最後に封止工程では、陰極19上の全面に熱硬化樹脂または紫外線硬化樹脂からなる封止材を塗布し、封止層20を形成する。さらに、封止層20上に封止用ガラス(図示せず)を積層する。封止工程は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。大気中で行うと、反射層にピンホール等の欠陥が生じていた場合にこの欠陥部分から水や酸素等が陰極19に侵入して陰極19が酸化されるおそれがあるので好ましくない。このようにして、図6に示すような有機EL装置100が得られる。
【0050】
このような有機EL装置100の製造方法にあっては、発光層の形成材料として燐光発光材料を有した本発明の有機EL発光材料を用いているので、得られる有機EL装置100の発光特性をより良好にすることができる。
【0051】
また、前記したように正孔注入層16をより疎水性の高い有機溶剤を用いて形成し、さらに発光層18a、18b、18cも疎水性の高い有機溶剤を用いて形成しているので、水による特性劣化が顕著な燐光発光材料を有してなるにもかかわらず、水に起因する特性劣化を確実に抑えることができる。したがって、得られる有機EL装置100の発光特性をより良好にすることができる。
【0052】
(実験例)
正孔注入輸送層16の形成材料として、テトラアリールジアミン化合物(実験例品1)またはポリシロキサン樹脂(実験例品2)をシクロヘキシルベンゼンで溶解した溶液15を用いた。また、発光層18の形成材料として、前記のIr(ppy)をゲスト材料とし、CBPをホスト材料とする膜形成成分を、シクロヘキシルベンゼンで溶解した有機EL発光材料を用いた。その他は前記した製造方法とほぼ同様にして、本発明品としての有機EL装置を作製した。
【0053】
また、比較品1として、正孔注入輸送層16の形成材料中の有機溶媒(シクロヘキシルベンゼン)をシクロヘキサノンに代えたものを用いた。そして、これ以外は、前記した本発明品としての有機EL装置と同様にして、比較品1としての有機EL装置を作製した。
【0054】
さらに、比較品2として、発光層18の形成材料中の有機溶媒(シクロヘキシルベンゼン)をシクロヘキサノンに代えたものを用いた。そして、これ以外は、前記した本発明品としての有機EL装置と同様にして、比較品2としての有機EL装置を作製した。
【0055】
このようにして作製した有機EL装置をそれぞれ発光させ、定電流での発光寿命を調べたところ、本発明品の有機EL装置は、実験例品1、2ともにほぼ同じ発光寿命であった。また、これら本発明品の有機EL装置の発光寿命を1とすると、比較例1の発光寿命は2/3しかなく、また、比較例2の発光寿命は1/2しかなかった。
【0056】
次に、前記の有機EL装置100を表示部として備えた電子機器の具体例について説明する。図7(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図7(a)において、符号600は携帯電話本体を示し、符号601は表示部としての前記有機EL装置を示している。図7(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図7(b)において、符号700は情報処理装置、符号701はキーボードなどの入力部、符号703は情報処理装置本体、符号702は表示部としての前記有機EL装置を示している。図7(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図7(c)において、符号800は時計本体を示し、符号801は表示部としての前記有機EL装置を示している。本実施形態によれば、発光特性に優れた表示装置を備える電子機器となる。
【0057】
なお、本発明は前記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0058】
例えば、本発明は、発光層18で発光した光を基板10側から出射させる、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置にも、また基板10と反対側の、封止基板側から光を出射させる、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る有機EL装置の製造方法の工程を示す断面図。
【図2】図1に続く有機EL装置の製造方法の工程を示す断面図。
【図3】図2に続く有機EL装置の製造方法の工程を示す断面図。
【図4】図3に続く有機EL装置の製造方法の工程を示す断面図。
【図5】図4に続く有機EL装置の製造方法の工程を示す断面図。
【図6】図5に続く有機EL装置の製造方法の工程を示す断面図。
【図7】電子機器の例を示す図。
【符号の説明】
【0060】
11…透明電極(陽極)、15…溶液、16…正孔注入輸送層、17…有機EL発光材料、18a、18b、18c…発光層(有機発光層)、19…陰極、100…有機EL装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子用の発光材料であって、
溶質として燐光発光材料を有するとともに、溶媒として環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を有してなる、ことを特徴とする有機EL発光材料。
【請求項2】
陽極と陰極との間に有機発光層を有してなる有機EL装置の製造方法において、
溶質として燐光発光材料を有するとともに、溶媒として環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒を有してなる有機EL発光材料を、液滴吐出法で成膜して有機発光層を形成する工程、を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記陽極と有機発光層との間に正孔注入輸送層を形成する工程を有し、該正孔注入輸送層を形成する工程では、架橋性材料が、環状構造を2つ以上有しかつこの環状構造の少なくとも1つがベンゼン環である化合物からなる有機溶剤、又は、ベンゼン環構造を少なくとも1つ有する縮合環系化合物からなる有機溶媒に溶解されてなる溶液を成膜して正孔注入輸送層を形成する、ことを特徴とする請求項2記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−78181(P2008−78181A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252487(P2006−252487)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】