説明

有機EL発光装置

【課題】設定した輝度以上に有機EL素子115が発光することを抑制し、長寿命化を実現できる有機EL発光装置を得ること。
【解決手段】本発明にかかる有機EL表示装置は、基準設定で初期輝度がLとなる条件下において、x時間後の輝度がLである有機EL素子115を有する。そして、L<Lとなる時間帯を記憶するカレントタイマを有し、L<Lの時間帯で、初期輝度がLとなる条件下における有機EL素子115の輝度をLの95%以上105%以下になるように基準設定と異なる設定として調整する輝度調整部121を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝度調整を行う有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro-luminescence)素子は有機LED(Light-emitting Diode)素子とも呼ばれ、陽極と陰極とで蛍光物質を含む有機層を挟持する構成を備え、両電極間に通電することにより発光する。具体的には、対向する電極から注入された正孔および電子が発光層内で結合し、そのエネルギーで発光層中の蛍光物質を励起させ、蛍光物質に応じた色の発光を行う。このような有機EL素子を有する有機EL表示装置は、自己発光表示装置であるため、視野角が広く、応答速度が速い。また、バックライトが不要であるため、薄型軽量化が可能である。これらの理由から、近年、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる表示装置として注目されており、例えば携帯電話、車載、PDA(Personal Digital Assistant)等の広い分野で使用され始めている。中小型表示装置が主流であるが、大型テレビへの応用に向けても研究開発が続けられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような有機EL表示装置は、未だ多くの課題を残し、研究の途にある。例えば、有機EL表示装置の駆動寿命は徐々に伸びつつあるが未だ不十分であり、長寿命化が必要である。これは、有機EL素子の発光(使用)頻度、つまり駆動時間や経年変化により化学的に劣化しやすいことによる。そして、有機EL素子の劣化により輝度が劣化する。
【0004】
有機EL表示装置を長寿命化する方法として、特許文献1の技術が開示されている。この技術では、発光層に特定の物質を用いて、発光層における正孔及び電子の双方の移動度を高めている。これにより、両者が効率よく再結合し、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能となる。
【特許文献1】特開2006−59879号公報
【非特許文献1】株式会社テクノタイムズ社、「月刊ディスプレイ9月号」、P1−10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、発光層に用いられる物質が限定されてしまう。また、有機EL素子は、設定した輝度以上に発光してしまう場合がある。これは、駆動開始の初期段階に発生しやすい。このように、有機EL素子が光りすぎてしまうことにより、有機EL素子が劣化しやすくなってしまう。つまり、有機EL表示装置の駆動寿命が短くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記の問題を鑑みるためになされたものであり、設定した輝度以上に有機EL素子が発光することを抑制し、長寿命化を実現できる有機EL発光装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる有機EL発光装置は、基準設定で初期輝度がLとなる条件下において、x時間後の輝度がLである有機EL素子と、L<Lとなる時間帯を記憶するカレントタイマを有し、L<Lの時間帯で、初期輝度がLとなる条件下における前記有機EL素子の輝度をLの95%以上105%以下になるように前記基準設定と異なる設定として調整する輝度調整部と、を備えるものである。これにより、設定した輝度以上に有機EL素子が発光することを抑制し、長寿命化を実現できる。
【0008】
また、本発明にかかる他の有機EL発光装置は、基準設定で初期輝度がLとなる条件下において、x時間後の輝度がLである有機EL素子と、視認領域外に配置されたセンサを有し、前記センサからの出力に基づき、L<Lの時間帯で、初期輝度がLとなる条件下における前記有機EL素子の輝度をLの95%以上105%以下になるように基準設定と異なる設定として調整する輝度調整部と、を備えるものである。これにより、設定した輝度以上に有機EL素子が発光することを抑制し、長寿命化を実現できる。
【0009】
なお、上記の前記有機EL発光装置であって、輝度調整部は全有機EL素子の中で最も発光強度が高い有機EL素子を基準に調整してもよい。これにより、輝度ムラを抑制することができる。
【0010】
また、上記の有機EL発光装置であって、表示方式として、ドットマトリックス方式及び非ドット方式が混在していてもよい。本発明は、このような場合に発生しやすい輝度ムラを抑制することができる。
【0011】
さらに、上記の有機EL発光装置は、前記有機EL素子はウェットプロセスによって形成された正孔注入層を有し、前記正孔注入層に接する電極を備えてよい。本発明は、このような場合に特に効果がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、設定した輝度以上に有機EL素子が発光することを抑制し、長寿命化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態.
本実施の形態にかかる有機EL発光装置の一例として有機EL表示装置の構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、有機EL素子の構成を示す断面図である。図2は、有機EL表示装置の有機EL素子が形成されている素子基板を示す平面図である。図1及び図2において、同一の要素には同一の符号を付している。ここでは、有機EL表示装置の一例として、パッシブ駆動のドットマトリックス方式の有機EL表示装置について説明する。
【0014】
図1に示すように、有機EL表示パネル100は、素子基板101、陽極102、絶縁層103、有機層104、陰極105、封止基板106、陽極補助配線107、陽極接続端子108、陰極補助配線109、陰極接続端子110、隔壁111、捕水材112、接着材113、カラーフィルタ層119、平坦化膜120を有している。なお、図1における断面図は、図2の素子基板101に封止基板106を貼り合わせた後のA−A断面図である。
【0015】
素子基板101は、ガラスなどからなる透明な矩形状の平板部材である。陽極102は、ITO(Indium Tin
Oxide)などの透明性導電材料からなり、素子基板101上に形成されている。図2に示すように、複数の陽極102は、一定間隔を隔ててそれぞれ平行に形成されている。また、素子基板101上には、それぞれの陽極102に延設された陽極補助配線107及び陽極補助配線107の端部に配置される陽極接続端子108が設けられる。
【0016】
また、素子基板101上には、後述するそれぞれの陰極105に接続された陰極補助配線109及び陰極補助配線109の端部に配置された陰極接続端子110が設けられる。陰極補助配線109は陰極105に対応して形成され、陽極102に対し垂直方向に形成される。陽極補助配線107、陽極接続端子108、陰極補助配線109、陰極接続端子110は、接続部の低抵抗化のために金属材料から形成することができる。
【0017】
陽極102、陰極補助配線109、陰極接続端子110が形成された素子基板101上には、絶縁層103が形成される。絶縁層103は、陽極102と後述する陰極105との絶縁を確保するために設けられる。絶縁層103は、ポリイミドなどの絶縁材料からなる。絶縁層103には、陽極102と後述する陰極105との交差位置、すなわち画素となる位置に対応して開口部114が設けられている。つまり、絶縁層103は、有機層104と陽極102とが接触する開口部114を画定する役割を果たしている。この開口部114に対応する位置が画素となる。また、絶縁層103には、陰極105と陰極補助配線109とを電気的に接続するためのコンタクトホールが設けられている。
【0018】
絶縁層103上には、隔壁111が形成される。隔壁111は、分離された陰極105を形成するため、陰極105を蒸着などにより形成する前に所望のパターンに形成される。陽極102に対し垂直に、陰極105に対して平行に設けられる。陰極105の分離をより確実なものとするため、隔壁111は逆テーパ構造を有している。すなわち、素子基板101から離れるにつれて、断面が広がるように形成される。
【0019】
有機層104は、一般的な、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を順次積層した構成を有している。有機層104は、前述した陽極102、絶縁層103、隔壁111の上に、所定の大きさで配置される。ここでは、正孔注入層を溶液プロセス(ウェットプロセス)によって形成し、それ以外の層、つまり正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を蒸着法によって形成する。なお、有機層104は上記以外の構成となっていてもよい。
【0020】
陰極105は、光反射性を有するアルミニウムなどの導電性材料からなり、有機層104上に設けられる。陰極105は、隔壁111によって分離されるため、隔壁111の間に配設される。したがって、陰極105は陽極102に対して垂直に設けられる。陽極102と陰極105とが交差する位置が画素となる。有機EL素子115は、素子基板101上に順次積層された陽極102、有機層104、陰極105を備える。複数の画素から構成される領域が、表示領域116となる。
【0021】
カラーフィルタ層119は、陽極102と視認側の素子基板101との間に形成されている。カラーフィルタ層119は、一般的にR(赤)、G(緑)、B(青)の各色に着色された着色層と、着色層の間に配置される遮光層とを有している。各画素は、順次積層されたカラーフィルタ層119、陽極102、有機層104及び陰極105を備えている。また、カラーフィルタ層119上には、凹凸を均すための平坦化膜120を形成される。これにより、平坦化膜120上に形成される陽極102の被覆性が向上する。なお、カラーフィルタ層119、平坦化膜120は、形成されていなくてもよい。
【0022】
封止基板106は、パネル中に水分や酸素が入らないように設けられる。封止基板106としては、ステンレス鋼、アルミニウム又はその合金などの金属類のほか、ガラス、アクリル系樹脂などの1種類又は、2種類以上からなるものを使用することができる。封止基板106の画素に対向する面上には、捕水材112を配置するための凹部が形成されている。
【0023】
封止基板106と素子基板101とは、光硬化型の接着材113を介して固着されている。接着材113としては、水分などの透過性の低い紫外線硬化型のエポキシ系接着材などを用いることができる。接着材113は、表示領域116を囲むように形成されている。すなわち、接着材113は、封止基板106に形成されている凹部を囲む凸部に配置される。接着材113は、封止基板106と素子基板101とを固着し、表示領域116を含む空間を封止する。すなわち、有機EL素子115は、素子基板101、封止基板106、接着材113とで形成される気密空間に配置される。
【0024】
気密空間内には、画素のほか、画素への水分や酸素の影響を抑制し、安定した発光特性を維持するための捕水材112が設けられている。捕水材112は、封止基板106上の、有機EL素子115と対向する面に形成された凹部に設けられている。また、捕水材112は、封止基板106に形成された凹部の内部側面と接触しないように、一定の間隔を設けて配設されている。
【0025】
捕水材112としては、無機系の乾燥剤や、水分と反応性の高い有機金属化合物を膜状にしたもの、さらに、フッ素系オイルからなる不活性液体中に固体の吸湿剤を混合したものなどを用いることができる。
【0026】
また、封止基板106は、陽極補助配線107の一部と陽極接続端子108及び陰極補助配線109の一部と陰極接続端子110からなる引き出し部を素子基板101、封止基板106、接着材113とで形成される気密空間から露出するために、素子基板101よりも大きさが小さくなっている。すなわち、陽極接続端子108及び陰極接続端子110は、接着材113の外側に配置される。
【0027】
図1に示すように、駆動回路は、陽極接続端子108、陽極補助配線107を介して陽極102と電気的に接続されている。駆動回路が設けられたTCP(Tape Carrier Package)117と陽極接続端子108又は陰極接続端子110とは、ACF(Anisotropic Conductive Film:異方性導電膜)118を介して接続される。図1に示すように、陽極接続端子108とTCP117との間にACF118が配置される。ACF118が、陽極接続端子108とTCP117とを物理的に固定し、さらに、ACF118に含まれる導電粒子により陽極接続端子108とTCP117の接続配線を電気的に接続する。なお、陰極105も同様に駆動回路が接続される。
【0028】
輝度調整部121は、例えば駆動回路に各種信号を送り、電流値、電圧値等を制御している。なお、輝度調整部121は別途設けてもよいし、駆動回路に各種信号を送るドライバICに設けてもよい。輝度調整部121は、例えばカレントタイマが設けられている。まず、一定条件で連続駆動させた有機EL素子115の駆動時間による輝度を測定する。そして、この測定結果に応じて、カレントタイマに駆動時間によるタイマ設定、例えば電流値あるいは電圧値を設定する。そして、設定された条件に応じて、電流値あるいは電圧値を可変させる。
【0029】
また、上記の構成ではなく、輝度調整部121に輝度検出部が設けられた構成としてもよい。輝度検出部としてはフォトダイオード等のセンサを用いることができ、表示領域116外(視認領域外)に設けられたテスト素子の輝度を検出する。つまり、輝度検出部も表示領域116外に設けられる。テスト素子は、有機EL素子115と同じ構成となっており、基準設定、例えば一定の電流値あるいは一定の電圧値が設定されている。そして、輝度検出部からの出力、つまり輝度検出部によって検出されたテスト素子の輝度に応じて、電流値あるいは電圧値を可変させる。なお、ここでは、電流値あるいは電圧値を可変させたが、輝度を調整できればその他の条件を制御してもよい。なお、輝度調整部121による輝度の調整方法の詳細については、後述する。
【0030】
素子基板101の視認側には、円偏光板(不図示)を配置してもよい。この円偏光板は、視認側から入って金属膜からなる陰極105によって反射される光を遮蔽し、有機EL表示装置の表示コントラストを改善するために設けられている。円偏光板は、直線偏光板とλ/4波長板とからなる。また、素子基板101にλ/4波長板の機能を持たせて、直線偏光板だけを貼着するようにしてもよい。本実施の形態にかかる有機EL表示装置は、上記のように構成される。なお、有機EL表示装置は、上記の構成に限らず、これ以外の構成でもよい。
【0031】
画素の陽極102と陰極105との間に電流を供給することによって、陽極102からは正孔が、陰極105からは電子がそれぞれ有機層104に注入されて再結合する。その際に生ずるエネルギーにより有機層104内の有機発光性化合物の分子が励起される。励起された分子は基底状態に失活し、その過程において有機層104が発光する。また、カラーフィルタ層119は、有機層104からの光を選択的に透過し、所望の色の透過光が視認側に出射する。各画素が駆動回路からの信号に従って有機発光層の発光量を制御することによって、表示領域116は画像表示を行う。
【0032】
上記のような有機EL素子115の層構造をもつ有機EL表示装置において、輝度調整部121によって制御しない場合、以下のような問題が生じる。例えば、基準設定かつ同じ表示データ等、つまり基準設定かつ一定条件下で有機EL素子115を連続駆動させるとする。そして、基準設定かつ一定条件下における初期輝度をLとする。このLは、目標となる所定の輝度に合わせられている。このまま、連続駆動させると、有機EL素子115の輝度がLのおよそ10%上昇してしまう。つまり、定電流あるいは定電圧で有機EL表示装置を駆動させた場合、L以上に光りすぎてしまい、駆動寿命が短くなる。ここで、駆動寿命とはLの80%程度の輝度となる駆動時間をいう。このような輝度の上昇は、有機EL素子115の有機層104が劣化していない初期段階、ここでは駆動開始からおよそ200時間までに発生する。そして、輝度が上昇した後、およそ1000時間までは徐々にLまで輝度が低下し、その後も緩やかに輝度が低下する。
【0033】
このように、初期段階にL以上に上昇してしまうのは、有機EL素子115の層構造に起因する。上記のように、陽極102の上には、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層が順次積層された有機層104が形成されている。また、本実施の形態では、正孔注入層のみをウェットプロセスによって形成し、その他の層を蒸着法によって形成している。このため、陽極102であるITO電極と正孔注入層との界面特性がよくなり、オーミック接合する。オーミック接合とは、流す電流値と電圧値との関係がオームの法則に従う接合をいう。このように、ITO電極と正孔注入層との界面特性がよくなることにより、陽極102から正孔注入層に正孔が入りやすくなる。このため、発光層で正孔と陰極105からの電子とが結合する可能性が高くなり、輝度が上昇する。このような現象は、有機層が劣化していない駆動開始の初期段階に起こりやすい。このため、本実施の形態による輝度調整部121を用いた輝度の調整は、正孔注入層がウェットプロセスによって形成されている場合により効果を発揮する。なお、正孔注入層上の正孔輸送層もウェットプロセスによって形成してもよいが、このような場合、界面の障壁を受けるため正孔が入り難くなる。以上のことにより、上記のような有機EL素子115の層構造では、輝度調整部121によって制御しない場合、つまり基準設定かつ一定条件下ではLを超えてしまう時間帯が存在する。
【0034】
そこで、基準設定かつ一定条件下での輝度がL以上に上昇する時間帯は、基準設定と異なる設定として、輝度調整部121によって輝度をLの95%以上105%以下になるように調整する。すなわち、この時間帯では一定条件での輝度がLの95%以上105%以下になる。もちろん、表示データが変更され、表示が切り替われば、有機EL素子115の輝度も変わる。このため、上記の時間帯では、基準設定でのそれぞれの表示データにおけるLを基準に、Lの95%以上105%以下になるように調整する。また、基準設定では、例えば駆動回路において階調電圧を生成するための電源電圧や駆動回路の出力アンプの増幅率が基準となる値となっている。そして、上記の時間帯では、輝度調整部121によって基準設定と異なる設定に変更する。これにより、電源電圧や出力アンプの増幅率の値が変化する。例えば、基準設定で基準表示データに基づいて表示を行うと、初期輝度がLとなる。そして、基準設定で基準表示データに基づいてx時間表示を行うと、輝度がLに上昇してしまう。この輝度の上昇を防ぐため、輝度調整部121により有機EL素子115の輝度を調整する。輝度調整部121によって調整を行った場合、同じ表示データに基づいて表示を行っても、有機EL素子115の輝度が変わる。
【0035】
すなわち、輝度調整部121が基準設定と異なる設定に変更すると、基準表示データに対応する電流値または電圧値を変化する。つまり、輝度調整部121によって例えば電源電圧や出力アンプの増幅率を変化させることにより、基準表示データに対応する電流値または電圧値を変化させる。すなわち、基準設定から設定を変更すると同じ表示データであっても、有機EL素子115に供給される電流値が変化する。従って、基準設定と異なる設定に調整すると、同じ表示データでも流れる電流が下がるため、初期輝度LからLに上がらない。すなわち、基準表示データでの輝度がLのまま変化しない。基準設定での有機EL素子115の初期輝度がLとなる一定条件下において、x時間後の輝度をLとすると、L<Lとなる時間帯に、基準設定と異なる設定に変更して、輝度調整部121によって、例えば電流値あるいは電圧値を下げる。このようにして、輝度調整部121は、基準設定で初期輝度がLとなる一定条件下において、前記有機EL素子の輝度をLの95%以上105%以下になるように有機EL素子115の駆動時間によって調整する。なお、ここでの一定条件とは、表示データが同じ値である条件下のことである。
【0036】
以下、有機EL表示装置の各画素に供給される表示データが基準表示データで一定とする。つまり、上記のように、基準表示データに対応する電流値または電圧値を可変させるためには、表示データを変化させずに、基準設定を変化させる。ここでは、駆動開始から200時間までは、徐々に電流値を下げて基準表示データでの輝度をLの95%以上105%以下になるように調整する。そして、1000時間までは徐々に電流値を、駆動開始時にLとなる電流設定値まで上げ、その後はその電流設定値のまま、駆動を継続する。ここで、電流設定値とは、基準設定での電流値のことである。このように調整することにより、従来のように有機EL素子115がL以上に光りすぎることを抑制でき、有機EL表示装置が長寿命化する。また、輝度調整ができれば、電流値、電圧値以外を可変させてもよい。
【0037】
上記のように、有機EL素子115の駆動時間によって電流値等を変化させる輝度調整方法には、例えば以下のような方法がある。まず、カレントタイマが設けられた輝度調整部121による輝度調整方法について説明する。これは、予めカレントタイマにタイマ設定を記憶させ、そのタイマ設定に従って電流値を可変させる方法である。そして、まず、定電流を流した場合の駆動時間による輝度の変化を測定する。例えば、有機EL表示パネル100にフォトダイオード等のセンサを設け、駆動時間における輝度を検出する。これにより、例えば後述する図4に示されたようなグラフが得られる。そして、その結果に応じて、カレントタイマにタイマ設定、つまり有機EL素子115の駆動時間による電流値を記憶させる。具体的には、時間に応じた電源電圧やアンプの増幅率等の値を決定する。カレントタイマには、例えばL<Lの時間帯が記憶されている。これにより、駆動時間によって、電流値が電流設定値から変化する。このカレントタイマは、上記の測定が行われた有機EL表示装置と同タイプの別の有機EL表示装置に設けられ、駆動回路への信号が送られたと同時に、又は電源電圧がオンされたと同時に動作させる。そして、カレントタイマに記憶されたタイマ設定に応じて、電流値が変化する。
【0038】
また、ドットマトリックス方式及び非ドット方式(キャラクター方式)が混在している場合、非ドット方式の表示素子に信号が入力されたと同時にカレントタイマを駆動させてもよい。非ドット方式には、例えばセグメント方式がある。セグメント方式とは、マトリックス状の画素によって表示するドットマトリックス方式と異なり、文字や絵の型にパターニングした電極を用いて表示する方法である。このため、非ドット方式は、ドットマトリックス方式よりも同じ表示素子(有機EL素子115)を発光させる場合が多い。このため、非ドット方式の表示素子は、ドットマトリックス方式の表示素子より早く劣化してしまう。これにより、ドットマトリックス方式及び非ドット方式が混在している場合、非ドット方式の有機EL素子115のほうが相対的に暗く表示される。このため、ドットマトリックス方式の有機EL素子115よりも非ドット方式の有機EL素子115に対して劣化を抑制するのが好ましい。また、非ドット方式に限らず、有機EL表示装置の全有機EL素子115の中で最も駆動させる有機EL素子115、つまり最も発光強度が高い有機EL素子115への信号が入力されたと同時にカレントタイマを駆動させてもよい。このように、輝度調整部121によって最も駆動させる有機EL素子115を基準に調整を行うことにより、もっとも劣化しやすい有機層の劣化を抑制することができるので、効果的に輝度ムラを抑制することができる。
【0039】
有機EL素子115を同じように形成すれば、駆動時間による輝度の変化は、略同じような挙動を示す。このため、上記のようなカレントタイマによって画一的に輝度を調整することができる。また、カレントタイマは、センサ等を必要としないため、構成を簡素化することができる。さらに、カレントタイマは、センサのように光を検出できる場所に設ける必要もないため、任意の場所に設置することができる。このように、カレントタイマを用いることにより、簡便に輝度調整を行うことができる。
【0040】
次に、上記の表示領域116外に配置されたテスト素子を用いた場合の輝度調整方法について説明する。この場合、基準設定で初期輝度がLとなる条件を維持して、テスト素子を有機EL素子115と同時に駆動させる。例えば、駆動開始時にLとなる電流設定値を維持したまま、このテスト素子に定電流を流して輝度をモニターする。そして、実際の表示領域116内の有機EL素子115に、モニターされたテスト素子の輝度に応じて電流値を可変させる。すなわち、輝度検出部からの出力に基づき、電流値を可変させる。具体的には、テスト素子の輝度がLより高い場合は実際の電流値を下げ、輝度が低下したら電流値をLとなる電流設定値まで上げて一定に保つ。なお、テスト素子を駆動させるタイミングとしては、上記のカレントタイマを使用した場合と同様にすることができる。また、これらの方法では、全有機EL素子115の輝度を一律に制御するため、簡便に制御を行うことができる。
【0041】
実施例.
1/64Duty−パッシブマトリックス駆動(PM)−フルドット赤表示の有機EL表示装置を作製した。ここでは、有機層104の正孔注入層はウェットプロセス(ここでは、スプレー塗布法)、その他の層は蒸着法によって形成した。そして、この有機EL表示装置を連続駆動させて、時間による輝度を測定した。その結果を示したものが図3であり、図3は駆動寿命と電流値を示したグラフである。実線は駆動時間による相対輝度、破線は駆動時間による規格化電流値を表している。具体的には、L(相対輝度100%)となる電流値(規格化電流値100)に合わせ、90℃下で駆動を続けた。つまり、規格化電流値100が基準設定における電流値である。駆動開始から1200時間までは、相対輝度が100%になるように、電流値を可変させた。その後は、駆動開始時に相対輝度が100%となる電流値を維持したまま駆動を続けた。ここでは、駆動開始から200時間まで、規格化電流値100からおよそ90まで徐々に電流値を下げた。そして、200時間から1200時間までは、電流値を規格化電流値100まで徐々に上げた。その後は、電流値を規格化電流値100に保った。この結果、駆動開始から1200時間まで相対輝度を100%近傍に保つことができた。その後は、徐々に相対輝度が下がっていき、駆動寿命、つまり相対輝度が80%になるまでの時間は6000時間だった。
【0042】
比較例.
実施例と同様の1/64Duty−PM−フルドット赤表示の有機EL表示装置を作製した。ここでも、有機層104の正孔注入層はウェットプロセス(ここでは、スプレー塗布法)、その他の層は蒸着法によって形成した。そして、この有機EL表示装置を連続駆動させて、時間による輝度を測定した。その結果を示したものが図4であり、図4は駆動寿命と電流値を示したグラフである。実線は駆動時間による相対輝度、破線は駆動時間による規格化電流値を表している。規格化電流値100を維持したまま、90℃下で駆動を続けた。この結果、駆動開始から200時間までに、相対輝度は100%から110%まで上昇した。それから、徐々に相対輝度が下がっていき、1200時間には相対輝度が100%になった。その後も、徐々に相対輝度が下がっていき、駆動寿命は4000時間だった。以上の結果から、実施例では比較例、つまり輝度調整部121によって制御しない場合よりも駆動寿命が約1.5倍長くなった。
【0043】
本実施の形態では、上記のようにL以上に有機EL素子115が光ることを抑制することができるため、有機EL表示装置の長寿命化が実現できる。また、複数の有機EL素子115間の輝度の差(輝度ムラ)を抑制することができる。これは、初期段階で光りすぎることを抑制できることにより、有機EL素子115の劣化を抑制できるためである。輝度ムラとは、例えば頻繁に発光する有機EL素子115と、あまり発光しない有機EL素子115が混在する場合、例えばドット表示と非ドット表示が混在する構成で生じやすい。これは、頻繁に発光する有機EL素子115の方が、あまり発光しない有機EL素子115よりも早く劣化するためである。ここで、本実施の形態のように駆動させることにより、劣化を抑制することができ、これに付随して輝度ムラを抑制することができる。これにより、使用者に与える不快感を低減でき、さらに視認性を向上させることができる。また、駆動開始の初期段階では、電流値等を下げるため、低消費電力化になる。さらには、焼き付きを抑制することができる。焼き付きは、結合した正孔と電子とが抜けずに、表示が残ってしまうことである。つまり、定電流を流すことにより、図4に示すように駆動開始の初期段階で、L以上に光る、つまりより多くの正孔と電子とが結合する。このため、定電流の場合、焼き付きが生じやすいが、本実施の形態によれば相対輝度を100%近傍に抑えることができるため、焼き付きも抑制することができる。
【0044】
ここでは、パッシブ駆動でドットマトリックス方式の有機EL表示装置を用いたが、非ドット方式や、ドットマトリックス方式と非ドット方式が混在していてもよい。また、アクティブ駆動であってもよい。ウェットプロセスの一例として、スプレー塗布法を用いたが、インクジェット法、スピンコート法、ノズル印刷法等でもよい。さらには、本実施の形態のような層構造でなくても、駆動時間経過と共に輝度が上昇する有機EL表示装置に適用可能である。さらには、有機EL表示装置でなくてもこのような挙動を示す有機EL素子115を有する有機EL発光装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態にかかる有機EL素子の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態にかかる有機EL素子が形成されている素子基板を示す平面図である。
【図3】実施例にかかる駆動寿命と電流値を示したグラフである。
【図4】比較例にかかる駆動寿命と電流値を示したグラフである。
【符号の説明】
【0046】
100 有機EL表示パネル、101 素子基板、102 陽極、
103 絶縁層、104 有機層、105 陰極、106 封止基板、
107 陽極補助配線、108 陽極接続端子、109 陰極補助配線、
110 陰極接続端子、111 隔壁、112 捕水材、113 接着材、
114 開口部、115 有機EL素子、116 表示領域、
117 TCP、118 ACF、119 カラーフィルタ層、
120 平坦化膜、121 輝度調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準設定で初期輝度がLとなる条件下において、x時間後の輝度がLである有機EL素子と、
<Lとなる時間帯を記憶するカレントタイマを有し、
<Lの時間帯で、初期輝度がLとなる条件下における前記有機EL素子の輝度をLの95%以上105%以下になるように前記基準設定と異なる設定として調整する輝度調整部と、
を備える有機EL発光装置。
【請求項2】
基準設定で初期輝度がLとなる条件下において、x時間後の輝度がLである有機EL素子と、
視認領域外に配置されたセンサを有し、
前記センサからの出力に基づき、L<Lの時間帯で、初期輝度がLとなる条件下における前記有機EL素子の輝度をLの95%以上105%以下になるように基準設定と異なる設定として調整する輝度調整部と、
を備える有機EL発光装置。
【請求項3】
前記輝度調整部は全有機EL素子の中で最も発光強度が高い有機EL素子を基準に調整する請求項1又は2に記載の有機EL発光装置。
【請求項4】
表示方式として、ドットマトリックス方式及び非ドット方式が混在している請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL発光装置。
【請求項5】
前記有機EL素子はウェットプロセスによって形成された正孔注入層を有し、
前記正孔注入層に接する電極を備える請求項1乃至4のいずれかに記載の有機EL発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−140932(P2008−140932A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324741(P2006−324741)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】