説明

有機EL素子およびその製造方法

【解決課題】 有機EL素子の製造において、陰極材料、補助電極材料の種類や、現在の製造工程を大きく変更することなく、陰極と補助電極との間の接触抵抗が低く、高電流効率で低電圧駆動する有機EL素子を提供する。
【解決手段】 基板1の上に陽極4、有機発光層6および陰極7をこの順に備え、さらに該陰極7に駆動電流を供給するための補助電極2を備えた有機EL素子の製造方法であって、前記基板1上に、前記補助電極2を形成する工程と、前記補助電極2の表面に、補助電極材料、陰極材料または酸素のいずれにも不活性なガスプラズマを照射する工程と、前記基板1上に、補助電極2と短絡しないように陽極4を形成する工程と、前記陽極4上に、有機発光層6を形成する工程と、前記有機発光層6および補助電極2の上面に陰極7を形成する工程とをこの順に含む有機EL素子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の構成に関する。より詳細には、有機EL素子の補助電極表面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の高速化と応用範囲の拡大が急速に進んでいる。この中で、表示デバイスには、携帯性や動画表示の要求に対応可能な低消費電力・高速応答性を有する高精細な表示デバイスの考案が広くなされている。
【0003】
有機エレクトロルミネセンス(以下有機ELという)素子は、Tangらによる印加電圧10Vで100Cd/m以上の高輝度で発光する積層型EL素子の報告(例えば、非特許文献1を参照。)以来、高コントラスト、低電圧駆動、高視野角、高速応答性などの液晶表示素子等に比較して優位な特徴を活かしたフラットパネルディスプレイへの応用が期待され、実用化に向けての研究が活発に行われている。すでに、緑色モノクロ有機ELディスプレイなどが製品化されており、高精細のフルカラーディスプレイの完成が待たれている。
【0004】
一般的に有機EL素子は、電極と電極との間に有機発光層を有している。このうち、光を取り出す側の電極はIZOやITOなどの透明電極を用い、透明電極と逆側の電極(以下背面電極)には、光取り出し効率を高めるためAlなどの反射率が高い金属電極を用いる。さらに、発光層に電力を供給するために、背面電極に補助電極を経由して外部の駆動回路と接続し、発光を制御する方法が広く用いられている。
【0005】
補助電極材料としては、背面電極に対して電気抵抗が小さい材料であればよく、Mo,Alなどの金属やAl−Mo,Al−Ti,Al−Cr合金を用いることができるが、背面電極は反射率が高く、かつ電気伝導率が良好であることが求められるため、Al系金属を背面電極、Mo系金属を補助電極に用いることが多い。
【0006】
Mo系金属を補助電極に用いた場合、スパッタ製膜時や有機層製膜前処理時にMo表面が酸化されやすいという問題が生じる。これまでの調査で、補助電極、透明電極、シャドーマスク製膜後の有機膜製膜前処理工程(以下、製膜前処理と称す)によりMo系金属補助電極表面が酸化することが分かっている。
【0007】
このように酸化されたMo金属の上面にAl系金属を積層した場合、AlがMo酸化膜に電子を供与し、AlにMoが還元され、Al系金属層とMo系金属層との間に、電気抵抗が高いAl酸化層が形成される。その結果、背面電極・補助電極間の抵抗が増加し、有機EL素子の電流効率が悪化する問題が発生している。
【0008】
一方で、製膜前処理は、透明電極表面の残渣や塵埃を除去する目的で、有機膜製膜直前に基板の高温乾燥処理(150℃)およびUV処理(室温のち150℃まで加熱)を行っている。透明電極と有機膜との界面に残渣等の汚染が存在した場合、駆動電圧の上昇や界面異常による絶縁破壊が発生することが分かっている。このため、有機EL素子の低電圧化および信頼性向上のためには、製膜前処理は望ましいプロセスとなっている。
【0009】
このような状況の中、有機EL素子の背面電極−補助電極間の抵抗を低減させる提案がいくつか上げられている。例えば、補助電極材料上面に貴金属、窒化物、酸化物等の対変質性が良好なバリア層を用いる方法が提案されている(特許文献1および2を参照)。
【非特許文献1】AppL.Phys.Lett.,51,913(1987)
【特許文献1】特開2001−351778号公報
【特許文献2】特開2004−158199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、Auなどの貴金属はAlに比べ非常に高価であることから、有機EL製品のコストアップが問題となる。また、酸窒化膜や窒化膜を作製する場合、膜の作製条件や製造プロセスが煩雑化するため製造工程数が増加し、製造時間の増加が考えられる。
【0011】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、有機EL素子の製造において、陰極材料、補助電極材料の種類や、現在の製造工程を大きく変更することなく、陰極と補助電極との間の接触抵抗が低く、高電流効率で低電圧駆動する有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
背面電極として例えば、反射率が良好で安価なAlを用い、かつ、接触抵抗の増加を防止するためには、背面電極と接触する補助電極表面の酸化を防止する必要がある。そのためには、製膜前処理プロセス中の雰囲気を補助電極表面から遮断すればよい。そこで、補助電極を作製した後、陰極材料・補助電極材料・酸素のいずれに対しても不活性な酸化防止吸着膜、すなわち、フッ素含有膜、フッ素吸着膜で補助電極をコーティングすることを提案する。
さらに、この酸化防止膜は補助電極表面と製膜前処理プロセス中の雰囲気との接触を遮断する役割を有すると同時に、背面電極との接触抵抗を増加させないという条件が必要不可欠であるため、極めて薄い膜であることが求められる。そこで、補助電極のコーティング方法として、陰極材料・補助電極材料・酸素のいずれに対しても不活性なガスプラズマ雰囲気に曝露し、補助電極表面にガス成分を極僅かに付着させることを提案する。この方法であれば、ガス吹き付け条件を調節することで極薄膜を形成することが可能である。
【0013】
本発明の有機EL素子はまた、基板の上に陽極、有機発光層および陰極をこの順に備え、さらに該陰極に駆動電流を供給するための補助電極を備えた有機EL素子であって、前記補助電極と陰極との間に、陰極材料、補助電極材料または酸素のいずれにも不活性なフッ素含有膜を備えたものである。
本発明の有機EL素子の製造方法は、基板の上に陽極、有機発光層および陰極をこの順に備え、さらに該陰極に駆動電流を供給するための補助電極を備えた有機EL素子の製造方法であって、前記基板上に、前記補助電極を形成する工程と、前記補助電極の表面に、補助電極材料、陰極材料または酸素のいずれにも不活性なガスプラズマを照射する工程と、前記基板上に、補助電極と短絡しないように陽極を形成する工程と、前記陽極上に、有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層および補助電極の上面に陰極を形成する工程とをこの順に含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、(1)補助電極表面に、酸素に対して不活性なガス成分、すなわち、フッ素ガス成分、フッ素化合物を付着させることにより、補助電極表面が後工程の雰囲気から遮断されるため、表面の酸化が防止でき、接触抵抗の増加を抑制でき、高電流効率で低電圧な有機EL素子の簡便な製造方法を提供することができる。
また(2)現状の陰極材料、補助電極材料、および現在の製造工程を大きく変更することがないので、既存の設備および材料の長所を生かしながら高電流効率で低電圧な有機EL素子の簡便な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明における有機EL素子の1つの実施形態の断面模式図を図1に示す。有機EL素子は、主に、素子を支える基体である基板1、外部から電流を供給する補助電極2、陽極4、絶縁層5、有機発光層6、光を反射させる陰極(背面電極)7を備える。
【0016】
本発明における有機EL素子製造プロセスの模式図を図2に示す。
まず、基板1に補助電極2をスパッタリングで形成する。
補助電極2は、Al,Cu,Cr,Moなどの導電性が高く、低抵抗な金属を用いることができ、有機EL素子端部にて背面電極6と接触し、外部からの駆動電圧を有機EL素子に供給する。
補助電極2は、例えば、DCスパッタ法を用いてMo膜を堆積したのち、フォトリソグラフによりレジストをパターニングし、エッチングによりパターン形成することができる。
補助電極2の好ましい厚さは、50〜1000nmである。
【0017】
つぎに補助電極2をパターン形成した基板を、真空装置内に入れてガスプラズマ8を照射する。これにより、補助電極2の表面には、ガスプラズマ材料が分子1層ないし数層分吸着する。これが酸化防止吸着膜3となる。ガスプラズマ材料が1層ないし数層分吸着していることは、数nmレベルの解析ができるXPSによる深さ方向分析によって確認することができる。
また、酸化防止吸着膜3の膜厚が増加した場合、この薄膜により接触抵抗が増加する可能性がある。これを防止するため、膜厚は分子1層ないし数層分、厚さ換算で10nm未満、0.1nm以上であることが望ましい。
酸化防止膜は、フッ素含有膜であることが好ましい。フッ素含有膜は、XPSによる表面分析において、フッ素が、母材に対して、例えば、Fの組成比/Moの組成比が0.008以上検出される膜である。
【0018】
ガスプラズマ材料であるガス種は、陰極材料、補助電極材料または酸素のいずれに対しても不活性であることが求められる。「陰極材料、補助電極材料または酸素のいずれに対しても不活性」とは、製造中または素子の駆動中に、ガス種が陰極材料などと反応して、例えば、陰極材料自体の構造を変えてしまわないことをいう。
ガス種はまた、補助電極表面に1層ないし数層吸着することができ、かつ、スパッタ中あるいは製膜前処理中の雰囲気から補助電極表面を保護できるものが好ましい。ガス種としては、フッ素(F)、フッ素化合物のガスからなる群より選択される1種類以上のガスを含むものが好ましい。
フッ素化合物としては、例えば、CF、SF等を挙げることができる。
なお、ガスプラズマ発生方式は、特に限定されるものではないが、RF放電、マグネトロン放電、マイクロ波放電などの方法を採用することができる。
ガスの種類およびガスプラズマ照射条件は、補助電極材料に応じて適宜選定することが望ましい。
例えば、補助電極材料としてMoを用いる場合、ガスの種類として、CF、SFあるいはそれらの混合ガスを用いることができ、プラズマ方式を誘導結合プラズマ[ICP]、RFパワーを1000W〜10000W、雰囲気圧を150mTorrとすることができる。
【0019】
ガスプラズマ照射後の補助電極表面における母材に対するガス元素の比率は0.008以上であることが好ましい。
上記元素組成は、X線光電子分光法[XPS]で測定することにより得られる値である。
【0020】
ガスプラズマを照射した後、補助電極2と陽極4とが短絡しないように陽極4をパターニング形成する。
陽極4は、後述する有機発光層6で発生した光を取り出すために透明導電性材料からなる。より詳細には、可視光領域の波長が80%以上透過する導電性材料であることが望ましく、IZO(In−Zn系酸化物)あるいはITO(In−錫系酸化物)が用いられている。
陽極は、例えば、DCスパッタ、マグネトロンスパッタ等で形成することができる。陽極の好ましい厚さは、30〜1000nmである。
上記陽極4と補助電極2との電気的接触をさける方法としては、例えば、絶縁層5を介して陽極を形成する方法がある。絶縁層5は、無機酸化物や樹脂材料で形成することがこのましく、例えば、SiOを用いることができる。絶縁層は、例えば、蒸着スパッタリング等の方法で形成することができる。絶縁層の好ましい厚さは、50〜1000nmである。
【0021】
陽極4および絶縁層5のパターニングが終了した後、真空雰囲気中にて陽極表面の残渣や塵埃を除去する製膜前処理を行うことができる。
製膜前処理としては、室温UV処理、基板の高温乾燥処理、および/または、加熱UV処理を行うことが望ましい。
室温UV処理は、通常、10℃〜30℃で1分〜10分行う。基板の高温乾燥処理は、通常、100℃〜200℃で30分〜120分行う。加熱UV処理は、通常、100℃〜200℃になるまで加熱して1分〜10分行う。
【0022】
製膜前処理の後、真空を破らずに有機発光層6を蒸着する。
有機発光層6は、陽極および陰極に電圧が印加されることによって生じる正孔および電子が再結合することで発光する有機発光体層を少なくとも含み、陽極/有機発光体層/陰極の構成を基本として、これに正孔注入輸送層や電子注入輸送層を設けたもの、具体的には、下記のような層構成からなるものが採用される。
(1)陽極/有機発光体層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光体層/陰極
(3)陽極/有機発光体層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光体層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光体層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光体層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0023】
有機発光層における各層の材料としては、特に限定されるものではなく公知のものを使用することが可能である。有機発光体層の材料は、所望する色調に応じて選択することが可能であり、例えば青色から青緑色の発光を得るためには、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物等を使用することが可能である。
電子注入層の材料としては、Li、Na、K、またはCs等のアルカリ金属;Ba、SI等のアルカリ土類金属;希士類金属;あるいはそれらのフッ化物、アルミキレート(Alq)等を使用することが可能であるが、これらに限定するものではない。さらに、電子輸送層の材料としては、Alq3、ベンズアズールを使用することが可能であるが、これらに限定するものではない。
正孔注入層としては、銅フタロシアニンを使用することが可能であるが、これに限定するものではない。正孔輸送層としては、4,4’−ビス[N−(l−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、トリフェニルジアミン(TPD)等を使用することが可能であるが、これに限定するものではない。
有機発光層における各層の成膜方法としては、材料が高分子系か低分子系かにもよるが、例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、MBE法、インクジェット法等を採用することができる。
有機発光層の好ましい厚さは、30nm〜300nmである。
【0024】
最後に、有機発光層6および補助電極2の上面に陰極である背面電極6を蒸着する。これにより、上述の補助電極2と背面電極6とが接続される。
背面電極6は、仕事関数4.8eV未満で良好な反射率を有する金属あるいは合金が望ましく、Al,Ag,Mg,Mn、あるいはそれらの金属を含有するAl−Li合金やMg−Ag合金、あるいはLiF/Alなど、それらの金属の積層電極を用いることもできる。
背面電極6の形成方法としては、マスク法、陰極隔壁法、レーザーアブレーション法等を採用することができる。
背面電極6の好ましい厚さは、30nm〜300nmである。
【実施例1】
【0025】
初めに、上記発明の実施の形態に基づき、Mo表面酸化に対するガスプラズマ効果の検証を行った。
まず、補助電極となるMoパターンを形成した。具体的にはDCスパッタ法を用いて室温でMo膜を300nm堆積後、フォトリソグラフによりレジストをパターニングし、エッチングにより配線幅7μmのMoパターンaを形成した。
次に、以下の条件でMoパターンaの表面にガスプラズマを曝露し、Moパターンbを得た。ガス種はCFとArの混合ガスとし、ガス流量比はCF/Ar=300sccm/200sccmとした。また、プラズマ方式は誘導結合プラズマ[ICP]、RFパワーは3000W、雰囲気圧は1.33Paとした。
その後、Moパターンaおよびbを有するガラス基板上に、陽極としてIZO、絶縁層としてSiOをスパッタリングとフォトリソグラフにより、それぞれ220nm,400nm形成し、それぞれ製膜前処理として、室温UV処理(6分)、基板の高温乾燥処理(150℃、1時間)、加熱UV処理(150℃まで加熱して6分)を行い、Moパターンdおよびcを有する基板を得た。
このようにして作製した各Moパターンの表面について、表面状態の分析を行った。Mo表面状態は、X線光電子分光法(XPS、アルバックファイ社製Quantum2000)を用いて炭素(Cls)、酸素(O1s)、Mo(Mo3d)、フッ素(Fls)組成比を算出して評価した。表1に、組成比一覧を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、パターニング直後のMoパターンaにはフッ素は存在しないが、ガスプラズマ曝露工程を経たMoパターンbにはMo表面にフッ素が0.9at%存在していた。またガスプラズマ曝露工程および製膜前処理を経たMoパターンcは、製膜前処理を行う前の状態、すなわちMoパターンbと組成比に顕著な差異は見られなかったが、ガスプラズマ曝露を実施しなかったMoパターンdは、製膜前処理を行う前の状態、すなわちMoパターンaに比べて酸素組成比が明らかに増加してMo組成比が減少していた。この結果は、Moパターンdの表面の酸化進行が著しいことを示唆していた。
次に、Moの酸化程度の調査を行った。図3に、Mo(Mo3d)のXPSスペクトルを示す。図中横軸が結合エネルギ[eV]、縦軸が光電子強度[a.u.]である。結合エネルギの低い右側のピークが金属Mo由来のピーク(228eV付近)、結合エネルギの高い左側のピークがMo酸化物由来のピーク(231〜238eV)である。
図3より、パターニング直後のMoパターンa、ガスプラズマ曝露工程を経たMoパターンb,cは、金属Moのピークの方が酸化Moのピークより大きい傾向が見られた。一方、ガスプラズマ曝露工程を経なかったMoパターンdは、酸化Moのピークが金属Moのピークより明らかに大きく、表1と同様、酸化進行が著しいことを示唆していた。
そこで、Moパターン表面の酸化程度を定量的に評価するため金属Moと酸化Moの比率を数値化した。具体的には、Mo3dピークを、金属MoとMo酸化物由来のピークに分離し、ピーク面積全体を100[%}としたときの各々のピーク面積比率を算出して評価した。
表2に、金属Moと酸化Moとの比率を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、金属Moと酸化Moとの比率については、ガスプラズマ曝露工程を経たMoパターンcは、製膜前処理前のMoパターンbや、パターニング直後のMoパターンaに近く、ガスプラズマ曝露工程がMo表面を酸化から防護していることを支持する結果となった。一方、ガスプラズマ曝露工程を経なかったMoパターンdは、酸化Moの比率が顕著に増加しており、Mo表面の酸化の進行が著しいことが分かった。
以上より、ガスプラズマ曝露は、Mo表面酸化防止に効果があることが分かった。
【実施例2】
【0030】
以下、上記発明の実施の形態に基づき、Mo表面にガスプラズマを曝露した有機EL素子Aと、Mo表面にガスプラズマを曝露しなかった有機EL素子Bを作製した。
まず補助電極としてMoパターンを形成した。DCスパッタ法を用いて室温でMo膜を300nm堆積後、フォトリソグラフによりレジストをパターニングし、エッチングにより配線幅7μmのパターンを形成した。
次に、有機EL素子Aには、Mo表面にガスプラズマを曝露した。ガス種はCFとArの混合ガスとし、ガス流量比はCF/Ar=300sccm/200sccmとした。また、プラズマ方式はICP、RFパワーは3000W、雰囲気圧は1.33Paとした。一方、有機EL素子Bはこの工程を行わなかった。
次に、真空スパッタ装置においてガラス基板上にIZOをDCスパッタリング法によって作製し、パターニングすることにより陽極を作製した。このとき、IZOの膜厚は220nmとした。
次いでIZO表面の塵埃除去のための製膜前処理として、製膜前処理として、室温UV処理(6分)、基板の高温乾燥処理(150℃、1時間)、加熱UV処理(150℃まで加熱して6分)を行った。
その後、有機発光層を製膜した。正孔注入層は、銅フタロシアニン(CuPc)を100nm積層した。正孔輸送層は、4,4’−ビス[N(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を20nm積層した。有機発光体層は、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を30nm積層した。電子注入層は、アルミキレート(Alq)を20nm積層した。各層の蒸着レートは0.2〜0.4nm/秒とした。その後、アルミ蒸着装置にて陰極としてアルミ(Al)を作製した。このときAlの膜厚は100nmとし、蒸着レートは約1nm/秒とした。
その後、グローブボックスに素子を搬送し、封止ガラスを用いて素子の封止を行った。封止ガラスと基板とは接着剤を介して固着し密閉した。
このようにして作製した有機EL素子A、Bに対し、陰極と補助電極の引き出し部に端子を当てて4端子法により陰極と補助電極との間の接触抵抗を測定した。
接触抵抗測定結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3より、Mo表面にガスプラズマを曝露した有機EL素子Aは、ガスプラズマを曝露しなかった有機EL素子Bに比べて、明らかに接触抵抗が下がっていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の有機EL素子の一態様の模式的断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の製造工程を示す模式的断面図である。
【図3】各工程を経たあとの補助電極表面のXPSスペクトルである。
【符号の説明】
【0034】
1 基板
2 補助電極
3 極薄膜
4 陽極(透明電極)
5 絶縁層
6 有機発光層
7 陰極(背面電極)
10 有機EL素子A
20 有機EL素子B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に陽極、有機発光層および陰極をこの順に備え、さらに該陰極に駆動電流を供給するための補助電極を備えた有機EL素子であって、
前記補助電極と陰極との間に、陰極材料、補助電極材料または酸素のいずれにも不活性なフッ素含有膜を備えた有機EL素子。
【請求項2】
基板の上に陽極、有機発光層および陰極をこの順に備え、さらに該陰極に駆動電流を供給するための補助電極を備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記基板上に、前記補助電極を形成する工程と、
前記補助電極の表面に、補助電極材料、陰極材料または酸素のいずれにも不活性なガスプラズマを照射する工程と、
前記基板上に、前記補助電極と短絡しないように陽極を形成する工程と、
前記陽極上に、有機発光層を形成する工程と、
前記有機発光層および補助電極の上面に陰極を形成する工程とをこの順に含む有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記ガスプラズマは、フッ素(F)またはフッ素化合物のガスを材料として発生させることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−135097(P2010−135097A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307367(P2008−307367)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】