説明

有機EL素子と発光装置

【課題】金属ピンとガラス基板との界面から水分、ガスを浸透させない構造にして、輝度の低下をなくすと共に寿命特性の優れた有機EL素子を提供する。
【解決手段】溶融されたガラス基板に金属棒23を貫通させて構成する絶縁基板20において、金属棒が貫通する部分の絶縁基板は、透明基板6側(内側)方向および透明基板と反対側(外側)方向にそれぞれ突出した形状を呈し、有機EL発光層に位置する絶縁基板の厚さC3、絶縁基板の周辺の封止部の段差h、金属棒が貫通する部分の絶縁基板のうち内側方向に突出した絶縁基板の厚さC1、外側方向に突出した絶縁基板の厚さC2とした時、C1は0<C1≦hの範囲とされ、金属棒が貫通する部分の絶縁基板の厚さをC1+C2+C3とした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子とホールを有機EL発光層に注入・再結合して発光する有機EL素子と、この有機EL素子を一次元あるいは二次元に配列して構成する発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極間に有機EL発光層(以下、発光層と略記)を設け、その電極間に電圧を印加して発光層に電流を流して発光する有機EL素子は、発光効率、低電圧駆動、軽量、薄型という点で優れており、近年極めて注目を浴びている発光素子である。
【0003】
陽極には、現状使用することのできる透明導電性材料の中では最も電気伝導度が高く、比較的仕事関数が大きく、高い正孔注入効率が得られるという点からITO(Indium Tin Oxide)が使用される。
【0004】
陰極には、通常、金属電極が使用されるが、電子注入効率を考慮し、仕事関数の観点から、Mg、MgAg、MgIn、Al、LiAl等の材料が使用される。これらの金属材料は、可視光の反射率が高く、電極(陰極)としての機能の他に、発光層で発光した光を反射し、出射光量(発光輝度)を高める機能も担っている。すなわち、発光層から陰極方向に発光した光は、陰極である金属表面で鏡面反射し、透明なITO電極(陽極)から出射光として取り出されることになる。
【0005】
ところで、屋内外用の各種ディスプレイにおいて大形化のニーズが増大している。このニーズに応えるために、単一の有機EL素子で実現することが考えられるが、有機EL素子を単一で大形化すると素子全域に発光層の膜厚を均一に形成して均一発光させる問題や、有機EL素子の陽極や陰極が長くなることによりそれらの電極の抵抗が大きくなるので、駆動電圧を高くしなければならないために消費電力が増大する問題や、熱の影響により有機EL材料の寿命特性が劣化する問題が生じる。
これらの問題を解決する一つの方法として、小形有機EL素子をタイル状に配列して大形化する方法がある。しかし、小形有機EL素子をタイル状に配列して大形化すると、小形有機EL素子間に発生する継ぎ目による光らない部分の大きさが問題になる。すなわち、小形有機EL素子を配列して大形にする場合、画質劣化を生じさせないために小形有機EL素子内の画素間に存在する光らない部分(ブラックマトリクス幅)と、小形有機EL素子を配列して生じる光らない部分(継ぎ目幅)の幅を同一にして、あたかも単一の有機EL素子のように構成する必要がある。
【0006】
しかし、高精細表示になってくると、有機EL素子内の画素ピッチが小さくなるので、開口率(発光画素とブラックマトリクスの面積比)が同一の場合、ブラックマトリクス幅を小さくするのと同時に、有機EL素子間の継ぎ目幅も同じように小さくする必要がある。
【0007】
このような小形有機EL素子をタイル状に配列して大形化する方法では、通常、有機EL素子外周部に陰極や陽極に駆動用の信号を与えるための取り出し端子部を設けて、そこに外部から駆動用信号を印加して有機EL素子を発光させる。上述した継ぎ目幅は、この取り出し端子部の幅と有機EL素子を配列することによって生じる隙間の幅の合計となる。すなわち高精細表示になってくると、取り出し端子部の幅が陽極および陰極と駆動信号用ケーブルを接合する必要があるために、ある程度の大きさを必要とし画素ピッチが小さくなってくると、有機EL素子の継ぎ目幅がブラックマトリクス幅より大きくなってしまい、その結果、画質が大きく劣化するという問題が生じる。
【0008】
この問題を解消するために、すなわち継ぎ目幅を小さくするために、駆動用の取り出し端子を小形の有機EL素子の外周部からではなく、有機EL素子を構成する容器の中央に穴をあけ、そこに導電性端子を形成してそこから駆動用信号を与える方法が報告されている。
有機EL素子を構成する容器の中央に穴をあけ、取り出し端子を形成する方法として、特許文献1では、ガラス基板にダイヤモンドドリル、あるいはサンドブラストで貫通穴を設け、エポキシ樹脂をバインダーとした導電性ペーストを貫通穴に埋めて導電端子とし、そこに駆動信号を与える構成をとっている。
しかしながら、この構造では、機械的に穴をあけるので、ガラス基板の貫通穴の壁面にマイクロクラック(微小な割れやヒビ)が入り、貫通穴に導電性ペースを充填しても、マイクロクラックのために貫通穴の界面から水分、ガス(特に酸素)の浸透が生じるので、水、ガスに悪影響を受けやすい有機EL発光材料で構成される有機EL発光層が高輝度で光らなくなったり、寿命が短くなるなど、信頼性を損なう問題が生じる。
また、導電性ペーストに含まれる有機成分により、有機EL材料が悪影響を受ける可能性もあり、これによっても発光輝度の低下、寿命特性の低下などの問題が生じる可能性がある。
【0009】
また、特許文献2では、有機EL素子の外囲器である封止部材に貫通穴を設け、その貫通穴に棒状の金属ピンを通し、金属ピンの固定を樹脂系の接着剤や熱膨張係数が同等の低融点ガラスを用いて行っている。
しかしながら、この方法のように、貫通穴に金属ピンを差し込んで、樹脂系の接着剤や熱膨張係数が同等の低融点ガラスで、金属ピンと封止部材を接着する構成では、金属ピンを固着するため貫通穴に樹脂系の接着剤や低融点ガラスを流し込む作業が必要となるので、工程数が増えコスト高になる可能性があり、また、棒状の金属ピンと外囲器である封止部材、および樹脂系の接着剤や低融点ガラスとの熱膨張係数に違いがあると、棒状の金属ピンと樹脂系の接着剤あるいは低融点ガラスとの界面、および樹脂系の接着剤や低融点ガラスと外囲器である封止部材の界面に微小な隙間が生じる可能性があり、そのためそこから水分、ガスの浸透が生じ、有機EL材料の信頼性が低下する問題がある。
【0010】
また、特許文献3では、有機EL素子を構成する背面容器にレーザーやサンドブラストにより貫通穴をあけ、その貫通穴に金属性の細線を通して導電性ペーストにより固着して取り出し端子としている。
このような構造では、上記の特許文献1や特許文献2と同様な理由により、有機EL発光材料に悪影響を与えるので高輝度で光らなくなったり、寿命特性が短くなるなどの信頼性を損なう問題がある。
【0011】
また、特許文献4では、有機EL素子を構成する背面容器に機械的微細加工により微細穴をあけ、そこに導電性樹脂を流し込んで外部への取り出し端子を構成している。
しかしながら、この構造においても、特許文献1と同様な問題が起こる。
【0012】
また、特許文献5では、金属ピンを貫装する位置で分割したガラス板と、そのガラス基板により金属ピンを挟んで融着する方法が開示されている。この作製方法はガラス板の穴あけ加工が不要になり、ガラス板と金属ピンが導電性ペーストなどにより固着していないので、ガラス板と金属ピンとの界面は完全に密着し、気密性に優れた取り出し端子が形成される。そして、さらに気密性を上げるために、金属ピンとガラス板の接触する部分のガラス板上下面での隙間に補強材として低融点ガラスを充填した構造としている。
しかしながら、このような構造ではガラス基板を薄型にしていくと、それに伴って金属ピンとガラス板との接触している部分の厚さも薄くなるので気密性の問題がでてくる。すなわち、ガラス基板が薄くなってくると、ガラス板と金属ピンの熱膨張係の違いによって、界面にリークが生じ易くなり水分やガスの浸透が懸念される。これを補うため、金属ピンとガラス板の接触する部分のガラス板上下面での隙間に低融点ガラスをいれる工夫がされているが、低融点ガラスを補填するプロセスが加わるので、コストアップにつながる可能性がある。また、金属ピンまわりのガラス両面に低融点ガラスを充填した構成としているので、低融点ガラスの電極側へのはみ出しにより金属ピンと電極との接合が信頼性高く実現できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−296814号公報
【特許文献2】特開2001−52858号公報
【特許文献3】特開2002−299047号公報
【特許文献4】特開2005−183106号公報
【特許文献5】特開平4−338141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、従来の方法ではガラス基板に機械的に貫通穴を開けて、エポキシ樹脂をバインダーとした導電性ペーストで貫通穴を埋めたり、金属ピンを差し込んで取り出し端子を形成するなどして、外部から駆動信号を与える構成をとっている。
しかし、これらの構造では、機械的に穴をあけるので、ガラス基板の貫通穴の壁面にマイクロクラックが入り、貫通穴に導電性ペーストや金属ピンを充填しても、貫通穴の界面から水分、ガスの浸透が生じ、水、ガスに悪影響を受けやすい有機EL発光材料で構成される有機EL発光層が高輝度で光らなくなったり、寿命が短くなるなど、信頼性を損なう問題が生じる。
また、導電性ペーストに含まれる有機成分により、有機EL材料が悪影響を受ける懸念もあり、これによっても発光輝度の低下、寿命特性の低下などの問題が生じる可能性がある。
【0015】
また、金属ピンを貫装する位置で分割したガラス板と、そのガラス基板により金属ピンを挟んで融着して構成する方法ではガラス基板を薄型にしていくと、それに伴って金属ピンとガラス板との接触している部分の厚さも薄くなるので気密性の問題がでてくる。すなわち、ガラス基板が薄くなってくると、ガラス板と金属ヒンの熱膨張係の違いによって、界面にリークが生じ易くなり水分やガスの浸透が懸念される。これを補うため、金属ピンとガラス板の隙間に補強材をいれる工夫がされているが、低融点ガラスの補強材を補填するプロセスが加わるので、コストアップにつながる可能性がある。
また、金属ピンまわりのガラス両面に低融点ガラスを充填した構成としているので、低融点ガラスの電極側へのはみ出しにより金属ピンと電極との接合に悪影響を与えるという問題がある。
【0016】
上記状況を鑑みて、本発明は、金属ピンとガラス基板との界面から水分、ガスを浸透させない構造にして、輝度の低下をなくすと共に寿命特性の優れた有機EL素子を提供することを目的とする。また、この有機EL素子を配列して輝度の低下がない寿命特性の優れた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決すべく、本発明の第1の観点の有機EL素子は、透明基板上に形成された陽極、陰極および有機EL発光層と、陽極、陰極および有機EL発光層を跨いで透明基板と並行に配設される絶縁基板と、陰極取り出し用もしくは陽極取り出し用の金属棒が絶縁基板に貫通して構成される有機EL素子において、金属棒が貫通する部分の絶縁基板は、透明基板側(内側)方向および透明基板と反対側(外側)方向にそれぞれ突出した形状を呈し、有機EL発光層に位置する前記絶縁基板の厚さC3、絶縁基板の周辺の封止部の段差h、金属棒が貫通する部分の絶縁基板のうち内側方向に突出した絶縁基板の厚さC1、外側方向に突出した絶縁基板の厚さC2とした時、C1は0<C1≦hの範囲とされ、金属棒が貫通する部分の絶縁基板の厚さをC1+C2+C3とした構成とする。
かかる構成によれば、金属棒と絶縁基板の密着する幅を大きくできるので、絶縁基板と金属棒の気密性を十分に高くでき、界面から水、ガスの浸透を確実に防止できる有機EL素子の提供が可能となる。
【0018】
ここで、金属棒の一方側の先端部にある金属棒接合部が、絶縁基板周辺部の先端部と概ね同一位置にあって、陽極上の陽極取り出し端子接合部と、陰極上の陰極取り出し端子接合部と、導電性接着剤を介して接合してなる構成としているので、金属棒の先端部と陰極および陽極が確実に接合される。
【0019】
このような構成により絶縁基板と金属棒の界面から水、ガスの浸透が確実に防止されると共に、金属棒を通して外部から駆動信号が陽極と陰極に確実に印加されるので、長期にわたって安定に発光する有機EL素子を提供することができる。
【0020】
このような有機EL素子を一次元的あるいは二次元的に配列してなる発光装置は、画質劣化のない高精細表示が可能で信頼性も高い。さらに、発光装置の上面に拡散フィルムあるいは拡散シートを設けることによって、継ぎ目の目立たない発光装置の提供が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る有機EL素子によれば、絶縁基板に金属棒が貫通している部分の絶縁基板の厚さを十分に厚くできるので、絶縁基板と金属棒の界面からの水、ガスの浸透を確実に防止することができる有機EL素子の提供が可能となる。
また、金属棒と陰極および陽極が確実に接合され、金属棒を通して駆動信号が陰極、陽極に印加できるので、長期にわたって安定に発光する有機EL素子を提供することができる。
さらに、このような有機EL素子を、一次元的あるいは二次元的に配列してなる発光装置は、画質劣化のない高精細表示が可能な信頼性の高い発光装置が提供できると共に、発光装置の上面に、拡散フィルムあるいは拡散シートを設けることによって、継ぎ目の目立たない発光装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一の実施例に係る小形有機EL素子の透明基板側の表面図と断面図である。
【図2】第一の実施例に係る小形有機EL素子の絶縁基板側の表面図と断面図である。
【図3】第一の実施例に係る小形有機EL素子の一方側からみた断面図である。
【図4】第一の実施例に係る小形有機EL素子の他方側からみた断面図である。
【図5】金属棒を貫通させた絶縁基板の作製を示す図である。
【図6】第一の実施例に係る小形有機EL素子を配列した発光装置である。
【図7】第二の実施例に係る小形有機EL素子の透明基板側の表面図と断面図である。
【図8】第二の実施例に係る小形有機EL素子の絶縁基板側の表面図と断面図である。
【図9】第二実施例に係る小形有機EL素子の一方側からみた断面図である。
【図10】第二の実施例に係る小形有機EL素子の他方側からみた断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0024】
以下、図1〜図6を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1は、第一の実施例に係る小形有機EL素子1を構成する透明基板6の構成図である。断面図(A)と断面図(B)は、表示面2において断面線a1〜a2および断面線b1〜b2で横切った部分の透明基板6の断面図である。
図2は、第一の実施例に係る小形有機EL素子1を構成する絶縁基板20の構成を示している。断面図(C)と断面図(D)は、裏面21において断面線c1〜c2および断面線d1〜d2で横切った部分の絶縁基板20の断面図である。
図3は、断面図(A)における透明基板6と断面図(C)における絶縁基板20を接合した小形有機EL素子1の断面図である。
図4は、断面図(B)における透明基板6と断面図(D)における絶縁基板20を接合した小形有機EL素子1の断面図である。
【0025】
図1において、表示面2は、発光画素3、ブラックマトリクス4、透明基板封止部5より構成される。発光画素3は水平に4画素、垂直に4ラインあり、合計16画素ある。ここでは、単に発光画素と記しているが、モノカラー画素であってもマルチカラー画素であっても良いし、フルカラー画素であっても良い。ブラックマトリクス4や透明基板封止部5は発光に寄与しない部分であり、コントラストを上げるために、通常、黒色である。図1に示す小形有機EL素子1を一次元あるいは二次元に配列して、あたかも一つのディスプレイのように構成する場合、小形有機EL素子1の素子間に発生する継ぎ目による光らない部分の大きさが問題になる。すなわち、小形有機EL素子1を配列して大形にする場合、画質劣化を生じさせないために小形有機EL素子1内の発光画素3の間に存在する光らない部分となるブラックマトリクス4におけるブラックマトリクス幅Bmと、小形有機EL素子1を配列して生じる光らない部分となる継ぎ目幅を同一にして、あたかも単一の有機EL素子のように構成する必要がある。このためには、透明基板封止部5における封止部の幅をDmとすると、Bm=2Dmの関係にする必要がある。
【0026】
透明基板6には陽極7と、陽極7に対向配置された陰極8と、陽極7及び陰極8の間に配置された有機EL発光層9とを備えている。陽極7と陰極8は、それぞれ直交の関係にあり、交差している部分が発光画素3になる。断面図(A)における各陽極7間と、断面図(B)における各陰極8間にはブラックマトリクス4が配設されている。また、陽極7と陰極8が接触しないように絶縁物10が設けられている。そして小形有機EL素子1を構成するために、透明基板6の周辺部にある透明基板封止部5と、図2に示す絶縁基板20の周辺部にある絶縁基板封止部22を絶縁性接着剤により接着、封止する。
【0027】
このような構成の小形有機EL素子1において、陽極7から正孔を、陰極8から電子を注入し、両者が有機EL発光層9で再結合することにより、有機EL発光層9の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。有機EL発光層9で生じた光は、直接または陰極8で反射した後、陽極7、透明基板6を介して前方に取り出されることになる。
陽極7と陰極8には外部から駆動信号を供給するために、陽極7上に陽極取り出し端子接合部11が、陰極8上には陰極取出し端子接合部12がそれぞれ設けられている。陽極取り出し端子接合部11およびが陰極取出し端子接合部12は、ブラックマトリクス4の位置上にあり、観視者側からは見えない部分にある。陽極取り出し端子接合部11と陰極取出し端子接合部12には、絶縁基板20に設けられている金属棒23の先端部である金属棒接合部24と電気的に接続させるために、銀ペーストやカーボンペーストなどの導電性接着剤が設けられる。
【0028】
図2における小形有機EL素子1の裏面21には、絶縁基板20に貫通した8本の金属棒23(23aが4個、23bが4個)の断面が示されている。なお、8本の金属棒23の位置が分かるように点線で16個の発光画素位置25を記している。
【0029】
発光画素3が水平に4画素、垂直に4ラインの小形有機EL素子1を例としているので、金属棒23aと金属棒23bがそれぞれ4本ずつある。それぞれの金属棒23の先端部である金属棒接合部24の位置は、陽極7上に設けられている陽極取り出し端子接合部11の位置と、陰極8上に設けられている陰極取出し端子接合部12の位置に合致するように設けられている。
【0030】
さらに、金属棒接合部24の位置が、絶縁基板封止部22と概ね同一位置にあるので、透明基板6における透明基板封止部5と絶縁基板20における絶縁基板封止部22を貼り合せて封止することによって、それぞれに対応した金属棒接合部24が、陽極7上に設けられている陽極取り出し端子接合部11と、陰極8上に設けられている陰極取出し端子接合部12と相対する位置にくるので、陽極取り出し端子接合部11および陰極取出し端子接合部12上に設けられている導電性接着剤と正確に固着し、8本の金属棒23は水平の4画素に対応する陽極8と、垂直の4ラインに対応する陰極7に電気的に確実に接続される。
【0031】
これによって、それぞれの金属棒信号印加部26に画素信号とライン信号を印加することにより所定の発光画素が光る。このように構成された小形有機EL素子1を、より安定に動作させるために絶縁基板20の乾燥剤取付け面28に、水分やガスを除去するための乾燥剤27を設置する。乾燥剤27を配置させるために、乾燥剤27の上面が透明基板6の内面に接触しないように、すなわち絶縁基板封止部22の位置を超えないように、乾燥剤取付け面28の位置は絶縁基板封止部22より段差29で示すhの幅だけ掘り下げた位置にする。
【0032】
この段差29により、金属棒から離れた位置の絶縁基板30の厚さはC3となる。一方、小形有機EL素子1を薄型にしたい要求から、絶縁基板20自体の厚さを薄くしていくと、段差29のhが一定の大きさであれば、金属棒から離れた位置の絶縁基板30の厚さC3も薄くなるので、金属棒から離れた位置の絶縁基板30の厚さがC3のままでは、仮にその厚さで金属棒23を貫通させても、金属棒23との接触部分の厚さが薄くなるので、その界面から水分、ガスの浸透が懸念される。
【0033】
そこで、本発明では金属棒が貫通している絶縁基板33の部分では、金属棒23との接触長を長くするために金属棒貫通部の絶縁基板内側部31と金属棒貫通部の絶縁基板外側部32を設けて、水分、ガスが金属棒23の界面より浸透しないようにする。すなわち、金属棒が貫通している絶縁基板33では、金属棒が貫通している絶縁基板33の厚さを内側方向にC1、外側方向にC2だけ突出した構造とする。内側方向に突出した絶縁基板の厚さC1(金属棒貫通部の絶縁基板内側部31の厚さ)を0<C1≦hとし、外側方向に突出した絶縁基板の厚さC2(金属棒貫通部の絶縁基板外側部32の厚さ)を0<C2とすることによって、金属棒23との接触部分の厚さがC1+C2+C3となり十分に厚くすることができる。このような構造によって、金属棒が貫通している絶縁基板33と金属棒23の界面からの水、ガスの浸透を完全に防止することができる。
【0034】
図3は、透明基板6における透明基板封止部5と絶縁基板20における絶縁基板封止部22を貼り合せて封止することによって構成した小形有機EL素子1であって、断面線a1〜a2あるいは断面線c1〜c2で横切った部分の小形有機EL素子1の断面図である。このように金属棒が貫通している絶縁基板33と金属棒23の接触距離が十分に長いので、界面からの水やガスの浸透を完全に防止することができる。
【0035】
図4は、同様に透明基板6における透明基板封止部5と絶縁基板20における絶縁基板封止部22を貼り合せて封止することによって構成した小形有機EL素子1であって、断面線b1〜b2あるいは断面線d1〜d2で横切った部分の小形有機EL素子1の断面図である。このように金属棒が貫通している絶縁基板33と金属棒23の接触距離が十分に長いので、界面からの水やガスの浸透を完全に防止することができる。
【0036】
図5は、図2における金属棒23を貫通させた絶縁基板20の作製プロセスを説明するための図である。図5(1)は、金属棒23を貫通させた絶縁基板20を作製するための金型である。図5(2)は、図5(1)の金型によって作製された金属棒23が貫通した絶縁基板20である。
【0037】
図5(1)において、まず、所定の長さの金属棒23を、下型40に設けている金属棒固定穴41に差し込む。上型42を下型40に所定位置にセットした後、ガラス注入口43より溶融されたガラスを流し込み、ガラス注入面44まで溶融したガラスを注入する。その後、ゆっくりと冷却し下型40と上型42を分離して絶縁基板20を取り出すと、図5(2)のような金属棒23が所定位置に貫通した絶縁基板20が得られる。
【0038】
図6(1)は、本発明である小形有機EL素子1を水平方向に4個、垂直方向に2個、合計8個を並べて構成した発光装置を示す。このように一次元的あるいは二次元的に配列してなる発光装置は、本発明である有機EL素子1を配列して構成するので画質劣化のない高精細表示が得られると共に、長期にわたって安定に発光する。
図6(2)は、図6(1)で示した発光装置の上面に拡散フィルム50を設けた図である。上面に拡散フィルムを設けることによって、さらに継ぎ目の目立たない発光装置の提供が可能となる。尚、拡散フィルムはシート状であってもよい。
【0039】
本実施例ではパッシィブマトリクス型有機EL素子について説明したが、アクティブマトリクス型有機EL素子に適用しても、その効果は変わらない。
また、アクティブマトリクス型有機EL素子において、TFTや有機EL発光層などの表面に形成する水分やガスの浸透を防ぐ封止膜を採用する場合、乾燥剤27を設けなくてもよい。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、発光部全域が単色で光る小形有機EL素子を一次元あるいは二次元に配列して実現する大形の発光装置に関するもので、大形の発光装置を構成するために小形有機EL素子の光らない周辺部の幅を極力小さくする必要がある。すなわち、有機EL素子外周部に陰極や陽極に駆動用の信号を与えるための取り出し端子部を設ける従来の構造では、小形有機EL素子の周辺部の幅が大きくなるので、本発明では実施例1で示したように絶縁基板の周辺でない位置に金属棒を貫通させ、陽極と陰極に電気的に接続されたその金属棒に発光信号を印加する構成としているので、長期にわたって安定に発光する小形有機EL素子を提供することができる。
【0041】
以下、図7〜図10を用いて本発明の実施形態について説明する。
図7は、第2の実施例に係る小形有機EL素子60を構成する透明基板6の構成図である。断面図(A)と断面図(B)は、発光面61において断面線e1〜e2および断面線f1〜f2で横切った部分の透明基板6の断面図である。
図8は、第2の実施例に係る小形有機EL素子60を構成する絶縁基板20の構成を示している。断面図(C)と断面図(D)は、裏面63において断面線g1〜g2および断面線h1〜h2で横切った部分の絶縁基板20の断面図である。
図9は、断面図(A)における透明基板(6)と断面図(C)における絶縁基板(20)を接合した小形有機EL素子60の断面図である。
図10は、断面図(B)における透明基板(6)と断面図(D)における絶縁基板(20)を接合した小形有機EL素子60の断面図である。
【0042】
図7において、発光面61は、発光部62と透明基板封止部5より構成される。発光部62は、全域が一様な単色光で発光する。陽極7、陰極8、有機EL発光層9は、発光部62の全域に一様に形成されているが、陽極取り出し端子接合部11と陰極取出し端子接合部12の領域は有機EL発光層9がない領域としているので、この部分については光らない。陽極取り出し端子接合部11と陰極取出し端子接合部12には、実施例1で説明したように、絶縁基板20に貫通している金属棒23の先端にある金属棒先端部24が接合される。
【0043】
図7に示す小形有機EL素子60を一次元あるいは二次元に配列して、あたかも一つの発光装置として構成する場合、小形有機EL素子60の素子間に発生する継ぎ目による光らない部分の大きさを極力小さくする必要がある。そのために実施例1で示したように絶縁基板20の周辺でない位置に金属棒を貫通させ、陽極7と陰極8に電気的に接続された金属棒23に発光信号を印加する構成としている。すなわち、陽極7と陰極8には外部から発光信号を供給するために、陽極7上に陽極取り出し端子接合部11と陰極8上には陰極取出し端子接合部12が、対応する金属棒23の先端にある金属棒先端部24と接合されているので、それぞれの金属棒信号印加部26に発光信号を印加することにより発光部62の全域が光る。
【0044】
陽極取り出し端子接合部11およびが陰極取出し端子接合部12については、実施例1ではブラックマトリクス4の位置上に設けていたが、本実施例ではブラックマトリクスがないので、陽極取り出し端子接合部11および陰極取出し端子接合部12の部分は光らない部分となるので、観視者側から検知されにくいように、この部分についても極力小さい方が好ましい。
ところで、小形有機EL素子60を構成するために、金属棒接合部24の位置と陽極取り出し端子接合部11およびが陰極取出し端子接合部12との位置関係、ならびに金属棒接合部24と陽極取り出し端子接合部11および陰極取出し端子接合部12との導電性接着剤による固着については、実施例1と同様である。
【0045】
このように構成された小形有機EL素子60を、より安定に動作させるために絶縁基板20の乾燥剤取付け面28に、水分やガスを除去するための乾燥剤27を設けているが、設置位置の乾燥剤取付け面28についても、実施例1のように絶縁基板封止部22より段差29で示すhの幅だけ掘り下げた位置にする。この段差29により、金属棒から離れた位置の絶縁基板30の厚さはC3となる。
【0046】
一方、小形有機EL素子60を薄型にしたい要求から、絶縁基板20自体の厚さを薄くしていくと、段差29のhが一定の大きさであれば、金属棒から離れた位置の絶縁基板30の厚さC3も薄くなるので、金属棒から離れた位置の絶縁基板30の厚さがC3のままでは、仮にその厚さで金属棒23を貫通させても、金属棒23との接触部分の厚さが薄いので、その界面から水分、ガスの浸透が懸念される。
【0047】
そこで、本発明では金属棒が貫通している絶縁基板33の部分では、金属棒23との接触長を長くするために金属棒貫通部の絶縁基板内側部31と金属棒貫通部の絶縁基板外側部32を設けて、水分、ガスが金属棒23の界面より浸透しないようにする。すなわち、金属棒が貫通している絶縁基板33では、金属棒が貫通している絶縁基板33の厚さを内側方向にC1、外側方向にC2だけ突出した構造とする。内側方向に突出した絶縁基板の厚さC1を0<C1≦hとし、外側方向に突出した絶縁基板の厚さC2を0<C2とすることによって、金属棒23との接触部分の厚さがC1+C2+C3となり十分に厚くすることができる。このような構造によって、金属棒が貫通している絶縁基板33と金属棒23の界面からの水、ガスの浸透を完全に防止することができる。
【0048】
図9は、透明基板6における透明基板封止部5と絶縁基板20における絶縁基板封止部22を貼り合せて封止することによって構成した小形有機EL素子60であって、断面線e1〜e2あるいは断面線g1〜g2で横切った部分の小形有機EL素子60の断面図である。このように金属棒が貫通している絶縁基板33と金属棒23の接触距離が十分に長いので、界面からの水やガスの浸透を完全に防止することができる。
【0049】
図10は、同様に透明基板6における透明基板封止部5と絶縁基板20における絶縁基板封止部22を貼り合せて封止することによって構成した小形有機EL素子60であって、断面線f1〜f2あるいは断面線h1〜h2で横切った部分の小形有機EL素子60の断面図である。このように金属棒が貫通している絶縁基板33と金属棒23の接触距離が十分に長いので、界面からの水やガスの浸透を完全に防止することができる小形有機EL素子60を一次元的あるいは二次元的に配列してなる発光装置は、本発明である有機EL素子60を配列して構成するので、継ぎ目幅が小さくでき配列によって生じる継ぎ目の悪影響を抑えることができると共に、長期にわたって安定に発光する。また、上面に拡散フィルムを設けることによって、さらに継ぎ目の目立たない発光装置の提供が可能となる。
【0050】
なお、本実施例では陽極7、陰極8に接合している金属棒23は1本としているが、発光部62の全域にわたって多くの金属棒23を分散させて設けてもよい。多くの金属棒23を設けることにより、発光部62の全域にわたって同じ発光電圧を陽極7、陰極8に供給できるので、それぞれの陽極7間や陰極8間での電圧降下がなくなり、その結果、発光部62の全域を同一の明るさで発光させることができる。
【0051】
さらに、本実施例では単色光で発光する例を示したが、発光部62を異なる色で発光する領域に分けて、それぞれに領域分割した発光部62に対応する陽極7、陰極8に、発光信号の大きさを適当に変えて印加することにより、小形有機EL素子60の発光色を任意の色で発光させることができる。
なお、図中、同一符号、同一記号は、同じ機能、同じ効果を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、有機EL素子や発光装置に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 小形有機EL素子
2 表示面
3 発光画素
4 ブラックマトリクス
5 透明基板封止部
6 透明基板
7 陽極
8 陰極
9 有機EL発光層
10 絶縁物
11 陽極取出し端子接合部
12 陰極取出し端子接合部
20 絶縁基板
21 裏面
22 絶縁基板封止部
23 金属棒
24 金属棒接合部
26 金属棒信号印加部
27 乾燥剤
28 乾燥剤取付面
29 段差
30 金属棒から離れた位置の絶縁基板
31 金属棒貫通部の絶縁基板内側部
32 金属棒貫通部の絶縁基板外側部
33 金属棒が貫通している絶縁基板
40 下型
41 金属棒固定穴
42 上型
43 ガラス注入口
44 ガラス注入面
50 拡散フィルム
60 小形有機EL素子
61 発光面
62 発光部
63 裏面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に形成された陽極、陰極および有機EL発光層と、
陽極、陰極および有機EL発光層を跨いで透明基板と並行に配設される絶縁基板と、
陰極取り出し用もしくは陽極取り出し用の金属棒が絶縁基板に貫通して構成される有機EL素子において、
前記金属棒が貫通する部分の絶縁基板は、透明基板側(内側)方向および透明基板と反対側(外側)方向にそれぞれ突出した形状を呈し、
前記有機EL発光層に位置する前記絶縁基板の厚さC3、絶縁基板の周辺の封止部の段差h、前記金属棒が貫通する部分の絶縁基板のうち内側方向に突出した絶縁基板の厚さC1、外側方向に突出した絶縁基板の厚さC2とした時、C1は0<C1≦hの範囲とされ、前記金属棒が貫通する部分の絶縁基板の厚さをC1+C2+C3とされたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記金属棒の一方側の先端部にある金属棒接合部が、前記絶縁基板周辺部の先端部と概ね同一位置にあって、前記陽極上の陽極取り出し端子接合部と、前記陰極上の陰極取り出し端子接合部と、導電性接着剤を介して接合してなることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
請求項2の有機EL素子を、一次元的あるいは二次元的に配列してなる発光装置。
【請求項4】
請求項3の発光装置の上面に、拡散フィルムあるいは拡散シートを設けた発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−256513(P2012−256513A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128880(P2011−128880)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(508189924)
【Fターム(参考)】