説明

有機EL素子の製造方法及び有機EL素子

【課題】輝度を向上させる有機EL素子の製造方法及び有機EL素子を提供する。
【解決手段】陰極3と、陰極3に対向する陽極8と、陰極3と陽極8との間に配置された有機層23とを有する有機EL素子の製造方法において、有機EL素子2が準備され、陰極3を透過させてパルスレーザが有機層23に照射されて、有機層23の電気抵抗値より低い電気抵抗値を有する導電性の有機層24が有機層23に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法及び有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electro luminescence)表示装置が注目されている。有機EL表示装置には複数の画素が存在し、各画素には有機EL素子(Organic light−emitting diode)が用いられる。
【0003】
図12に示すように、従来の有機EL素子100は、陰極3と、有機材料層4と、陽極8とを有する。有機材料層4は、陰極3と陽極8とによって挟まれている。有機材料層4は、電子伝導性の電子輸送層5、発光層6、及びホール伝導性の正孔輸送層7を含む。なお、発光層6は、電子輸送層5及び正孔輸送層7によって挟まれている。陽極8と陰極3との間に電圧を印加すると、陰極3から電子輸送層5を介して発光層6内に電子が注入されると同時に、陽極8から正孔輸送層7を介して発光層6内に正孔が注入される。注入された電子と正孔とが発光層6内で結合すると発光層6は光1を発する。
【0004】
有機材料層4の厚さ9(以降、「有機材料層厚9」と称す)は、数百nm以下と非常に薄い。このような有機材料層4を形成する際に、導体の異物が混入する場合がある。有機材料層4中に異物が存在すると、その部分(以下、「異物部分」とも称す)で陽極8と陰極3とが短絡する場合がある。短絡が生じると、発光層6内に電子も正孔も注入されないために、発光層6から光1が発せられない。このため、短絡を解除して発光層6に光1を発光させるためのリペア方法が実施される。
【0005】
特許文献1には、短絡の生じた部分をレーザの照射により破壊して短絡を解除するリペア方法が開示されている。また、特許文献2には、逆バイアスを印加することにより短絡の生じた部分を破壊して、短絡を解除するリペア方法が開示されている。これらのリペア方法を実施することで、短絡を解除し、短絡の生じた部分(破壊された部分)以外の部分を正常に機能させ、発光層6から光1が発せられるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−042498号公報
【特許文献2】特開2001−117534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リペア方法の実施により破壊された部分は発光しないため、リペア方法が実施された有機EL素子は、リペア方法を実施する必要のない正常な有機EL素子に比べて輝度が低下する問題を有する。この問題に鑑みて、本発明は輝度を向上させる有機EL素子の製造方法及び有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る有機EL素子の製造方法は、透明の第1の電極と、当該第1の電極に対向する第2の電極と、当該第1及び第2の電極の間に配置された、第1の電気抵抗値を有する第1の有機層とを有する有機EL素子の製造方法であって、
前記有機EL素子を準備するステップと、
前記第1の電極を透過させてパルスレーザを前記第1の有機層に照射して、前記第1の電気抵抗値より低い第2の電気抵抗値を有する第2の有機層を当該第1の有機層中に形成するステップとを備える。
【発明の効果】
【0009】
上述のように、本発明に係る有機EL素子の製造方法によれば、製造された有機EL素子の輝度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機EL素子を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るパルスレーザ照射による有機EL素子の輝度向上のメカニズムの説明図であり、(a)は有機EL素子にパルスレーザを照射する様子を示し、(b)はパルスレーザの照射により導電性の有機層が形成された状態を示す図である。
【図3】熱加工による有機層の破壊の説明図であり、(a)は有機EL素子にパルスレーザを照射する様子を示し、(b)はパルスレーザの照射により有機層が破壊された状態を示す図である。
【図4】パルスレーザによる有機EL素子に対するアブレーション加工及び熱加工の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の加工方法の条件の表を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る、有機EL素子の輝度向上及びリペアに用いられるパルスレーザの条件を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る、有機EL素子の輝度向上を実施するための方法の説明図であり、(a)はリペア後の有機EL素子を示し、(b)は輝度向上を実施するために照射されたパルスレーザの領域を示し、(c)は輝度向上を実施するために照射されるパルスレーザの走査軌跡を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る膜厚分布のある有機層を備える有機EL素子の模式図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るパルスレーザの集光位置を示す説明図であり、(a)はリペア時のパルスレーザの集光位置を示し、(b)は輝度向上時のパルスレーザの集光位置を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る導電性の有機層の位置を示す模式図であり、(a)は有機層の上部に導電性の有機層が位置する状態を示し、(b)は有機層の中部に導電性の有機層が位置する状態を示し、(c)は有機層の下部に導電性の有機層が位置する状態を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図12】有機EL素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態に係る、有機EL素子の製造方法及び有機EL素子について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0012】
図1に、本実施の形態に係る方法により製造される有機EL素子2を示す。この有機EL素子2は、前工程において異物10が検出され、異物10の上部に位置する陰極3の一部がリペア方法の実施により破壊されている。破壊された部分を絶縁化部18と呼ぶ。
【0013】
「破壊する」とは、機能を破壊すること、つまり電流が流れないようにすることを意味する。具体的には、陰極3を破壊することとは、陰極3と有機材料層4との間に空間を形成することや、陰極3を変性させてクラックを形成することや、陰極3を破砕することを意味する。リペア方法は、破壊したい部分にレーザを照射する方法でもよく、陰極3と陽極8とに逆バイアスの電圧を印加する方法でもよい。陰極3と陽極8とに逆バイアスの電圧を印加すると、異物10にのみ電流が流れるため、異物10が加熱され、この熱により異物10を含めた周囲が破壊される。また、以下の説明において、リペア方法を実施することを、単に、リペアすると記載する場合がある。
【0014】
図1に示す陰極3と陽極8とに電圧を印加した場合、絶縁化部18から電子が注入されないため、絶縁化部18の下部に位置する有機材料層4は発光せず、この発光しない部分は非発光部50となる。有機EL素子2を陰極3側から見た場合における絶縁化部18は、非発光部50の直上に位置するため、この絶縁化部18は、点灯しない非点灯部となる。この非点灯部の存在により、非点灯部の存在しない正常な有機EL素子に比べて、有機EL素子2の発光輝度は低い。
【0015】
そこで、本実施の形態において、正常部(有機材料層4の正常発光する部分、すなわち非発光部50と異なる部分)の一部にパルスレーザ11を照射して、導電性の有機層24を形成することにより、有機EL素子2の発光輝度を向上させる。なお、以下の説明において、パルスレーザ11を照射して、導電性の有機層24を形成することを、単に、輝度向上と記載することがある。
【0016】
次に、図2(a)、(b)を参照して、導電性の有機層24を形成する方法について説明する。また、説明を簡略化するために図1における複数層で構成されている有機材料層4を、図2(a)、(b)においては単層の有機層23として表示されている。図1に示した有機材料層4も図2(a)、(b)に示す有機層23も機能は同じである。
【0017】
本実施の形態において、有機EL素子2の輝度向上のためにパルスレーザ11によるアブレーション加工現象が利用される。アブレーション加工とは、固体材料に瞬時的なエネルギーを与えたときに、材料を構成する元素が原子、分子、電子、又はイオン等の様々な形態で放出される現象である。図2(a)はパルスレーザ11の集光位置を有機層23内に合わせた状態で照射された様子を示し、図2(b)は有機層23の一部がアブレーション加工により、有機層23中に導電性の有機層24が形成されている状態を示している。
【0018】
有機層23に対して、アブレーション加工が行われた場合、有機層23は陰極3及び陽極8に挟まれているため、有機層23から放出された原子等は外部に放出されずに、有機層23の内部で原子等が分離して相互反応を起こす。有機層23は抵抗値(第1の電気抵抗値)が1MΩ以上の絶縁物で、導電性は極めて低い。しかし、アブレーション加工に対する反応で有機層23は導電性を持つようになると考えられる。
【0019】
具体的には、有機層23にアブレーション加工を施す事により、高分子である有機層23の炭素以外の結合物質(水素、窒素、及び酸素原子など)が炭素と切り離される。切り離された炭素同士が新たに結合することで、有機層23の一部が炭化し、炭化した有機層23が導電性を持つ事になる。導電性の有機層24はこのようにパルスレーザ11を有機層23に照射し、アブレーション加工を施す事で形成される炭化した有機層23であると考えられる。なお、炭素は一般的には導電性を有する。
【0020】
図2(b)を参照して説明したように、有機層23の内部に有機層23(図1の有機材料層4)よりも電気抵抗値の低い導電性の有機層24が生成される。電気抵抗の観点から見ると、導電性の有機層24の生成により、有機層23が導電性の有機層24の分だけ薄くなった状態になる。結果、陰極3と陽極8との間に電圧を印加した際の電流注入効率が上がり、アブレーション加工の前後で同じ電圧を印加した際に、加工後の方が導電性の有機層24が生成された有機層23の発光輝度が向上する。
【0021】
なお、有機層23の厚さは1μm以下であり、導電性の有機層24の厚さは例えば1nm以上且つ100nm以下である。導電性の有機層24の導電性(第2の電気抵抗値)は、例えば100Ω以上且つ1kΩ未満であり、導電性の有機層24を含む有機層23の導電性(抵抗値)は例えば1kΩ以上且つ500kΩ以下である。
【0022】
一方、アブレーション加工の代わりに熱加工を実施すると、有機層23は破壊されてしまう。図3(a)、(b)を参照して、熱加工による有機層23の破壊について説明する。図3(a)は有機層23にレーザ110が照射された様子を示し、図3(b)は有機層23の一部が破壊された状態を示している。有機EL素子2の有機層23に、レーザ110による熱が注入された場合には、熱が有機層23の内部に広がり、その熱により有機層23が破壊されて絶縁化して、絶縁層25が形成される。この場合、陰極3と陽極8との間に電圧を印加しても、絶縁層25に電流は流れない。よって、絶縁層25の上下に位置する有機層23の部分は発光せず、有機層23の全体としての輝度が低下してしまう。ただし、この絶縁層25をアブレーション加工することで、図2(b)の導電性の有機層24を作成することも可能である。
【0023】
次に、図4を参照して、アブレーション加工及び熱加工のそれぞれのモードの違いについて説明する。図4において、縦軸はレーザパルスのエネルギーE(μJ)を表し、横軸は時間t(fsあるいはps)を表す。また、実線31はアブレーション加工に必要なエネルギーを有する(照射されるパルスレーザの)パルス波を表し、点線32は熱加工に必要なエネルギーを有する(照射されるパルスレーザの)パルス波を表している。
【0024】
図4に示すように、照射されるパルスレーザのパルス波形は時間方向に幅を持ったガウシアン分布となる。アブレーション加工は、短時間に強いエネルギーが物質に入った際に起こる現象であるため、実線31が示すパルス波のようにガウシアン分布のピーク値が高いほど、パルスレーザ照射による加工の挙動はアブレーション加工が支配的になる。このようなエネルギー分布のパルスレーザを照射することで、有機層(有機EL素子)の輝度向上が可能となる。一方、点線32が示すパルス波のようにエネルギーピーク値が低いと、ガウシアン分布の裾の部分、つまりパルス波形内で時間幅の大きい部分が強く作用し、パルスレーザ照射による加工の挙動は熱加工が支配的になる。
【0025】
つまり、パルスレーザを低いエネルギーで長時間照射することは、対象物質を加熱すること(熱加工)と同等である。熱加工により対象物を破壊することが可能なため、熱加工は、図1に示す絶縁化部18を形成する際、すなわちリペアに用いられる。また、図3(a)に示すレーザ110により熱加工を実施することができる。よって、図3(a)に示すレーザ110を用いて図1に示す絶縁化部18を形成できる。以下の説明において、図3(a)に示すレーザ110を用いて図1に示す絶縁化部18を形成することを、単に、リペアと記載する場合がある。
【0026】
図5に、有機EL素子2(有機層23)の輝度向上及びリペアを実現するパルスレーザのエネルギー値、パルス幅帯域、加工モード、及び波長帯域をまとめた表を示す。図6に、図5の表に基づく、有機EL素子2(有機層23)の輝度向上及びリペアを実現するパルスレーザのエネルギー帯域及びパルス帯域を示す。図6において、パルス幅t(s)は、Fs(フェムト秒)パルス帯域35、Ps(ピコ秒)パルス帯域36、及びNs(ナノ秒)パルス帯域37に分類されている。
【0027】
エネルギー帯域33は、有機EL素子2(有機層23)の輝度向上を可能とするパルスレーザのパルス幅が1fs以上且つ1000ps以下であり、エネルギー幅は30nJ以上且つ60nJ以下であることを表している。つまり、この範囲外のパルス幅あるいはエネルギー値のパルスレーザを照射しても、アブレーション加工できず有機EL素子2の輝度向上は実現できない。つまり、図1に示すパルスレーザ11が満たすべきエネルギー等の条件は、図6のエネルギー帯域33の範囲内にある。
【0028】
エネルギー帯域34は、リペアのための熱加工に関して、照射されるパルスレーザのパルス幅が600fs以上且つ50ps以下であり、エネルギー値は2.8nJ以上4.8nJ以下であることを表している。すなわち、図3(a)に示すレーザ110のエネルギー等の条件は、図6に示すエネルギー帯域34の範囲内にある。一般的に、パルス幅が1000psより大きいパルスレーザではアブレーション加工を実施することができないとされている。
【0029】
図6に示すように、有機EL素子2の輝度向上が可能なエネルギー帯域33におけるエネルギー幅は非常に狭い。これは図2(a)に示す有機層23が数百nm以下と薄いことに起因すると考えられる。エネルギー帯域33の範囲外の条件を満たすパルスレーザを図2(b)に示す有機層23に照射した場合、アブレーション加工が実施されたとしても、陰極3や陽極8に影響が出たり、有機層23における発光層(図1に示す有機材料層4における発光層6)のほとんどが炭化したりする。
【0030】
発光層のほとんどが炭化されると、有機EL素子2は発光しない。つまり、図6に示すエネルギー帯域33が規定する条件は、有機層23に導電性の有機層24を形成しても、有機層23に含まれる発光層の領域を残すための条件とも考えられる。この条件で形成した導電性の有機層24の厚さは、有機層23に含まれる発光層の厚さよりも薄いと発明者は予測する。
【0031】
なお、図6に示すように、有機EL素子2の輝度向上及びリペア共に実現する事ができるパルスレーザのパルス幅帯域は600fs以上50ps以下である。つまり、このパルス幅帯域のパルスレーザを用いれば、有機EL素子2のリペアと輝度向上との両方が実施可能である。
【0032】
また、図1に示す有機EL素子2の陰極3の上に、封止用硬化樹脂、カラーフィルタ、及びガラス板が順番に積層されている場合がある。この場合、有機材料層4を加工するためには、ガラス板、カラーフィルタ、及び封止用硬化樹脂を全て透過する波長のパルスレーザを用いる必要がある。発明者は、それら全てを透過する波長が900nm以上であることを実験的に解明した。つまり、図1に示すパルスレーザ11として、波長が900nm以上のレーザを用いると、陰極3の上に、封止用硬化樹脂、カラーフィルタ、及びガラス板が積層されている場合でも、有機層23の輝度向上が可能である。
【0033】
次に、図7を参照して、有機EL素子2(有機層23)の輝度向上のためのパルスレーザ照射方法について説明する。図7は、図1に示す有機EL素子2を陰極3側から見た様子を示している。より具体的には、図7(a)はリペア後の有機EL素子2において、陰極3と陽極8とに電圧を印加した場合に、光の点灯する点灯部17と、光の点灯しない非点灯部16とを示す。点灯部17は、図1に示す絶縁化部18も導電性の有機層24も形成されていない正常な有機EL素子2の部分である。非点灯部16は、リペアにより図1の絶縁化部18が形成された部分である。非点灯部16の位置と大きさは、図1に示す絶縁化部18の下部に位置する発光層6における非発光部50の位置と大きさと一致する。
【0034】
図7(b)は輝度向上が実施された有機EL素子2を表し、輝度の向上した輝度向上部21を示す。輝度向上部21は、図1に示すパルスレーザ11が照射された領域であり、導電性の有機層24が形成された領域でもある。図7(a)に示す点灯部17の輝度に比べて、図7(b)に示す輝度向上部21の輝度が50%以上上昇する状態を輝度の向上した状態と呼ぶ。図7(c)は図7(b)に示す輝度向上部21を輝度向上のために照射するパルスレーザ(図1のパルスレーザ11)の走査方向と共に、拡大して示す。
【0035】
図7(c)に示すように、図7(a)に示すリペア後の有機EL素子2(リペアによる非点灯部16が既に存在する状態)中の点灯部17にパルスレーザを照射して、有機EL素子2の輝度向上が図られる。パルスレーザの照射される位置に図1に示す導電性の有機層24が形成されるため、図7(c)において矢印で示される軌跡を描くようにパルスレーザを動かすことによって、輝度向上部21の面積を広げることが可能である。また、輝度向上部21の面積を制御することで、有機EL素子2の輝度を制御できる。リペアにより非点灯部16の形成された有機EL素子2は、リペアを実施する必要の無い(非点灯部16の存在しない)正常な有機EL素子に比べて、輝度が低い。正常な有機EL素子2との輝度差を補うように、輝度向上部21の面積を制御すれば、リペアにより非点灯部16の形成された有機EL素子2の輝度を、リペアを実施する必要の無い正常な有機EL素子の輝度と一致させることが可能である。
【0036】
以下に、輝度向上の効果の具体例について述べる。エネルギー帯が30nJ以上且つ60nJ以下、パルス幅が800fs、そして波長900nm以上のパルスレーザの照射によって形成された輝度向上部21は、点灯部17の輝度に対して1.5〜2.5倍の輝度の向上が実験的に達成されている。仮に、リペア後の非点灯部16の面積を30μm×30μmとし、輝度向上部21の輝度を点灯部17の輝度の2倍とし、照射するパルスレーザのレーザ照射幅は3μmであるとする。レーザ走査の軌跡は、図7(c)に示すように、縦方向の走査幅を30μmとして、横方向に5回走査する。この場合、パルスレーザの照射された領域の面積は30μm×15μmとなる。
【0037】
レーザ照射幅を大きくすると描画回数を減らす事が出来るが、向上させる輝度の微調整が困難になる。実際の描画速度向上には発振器からのパルスレーザ光をスプリッター等で分岐し、同時に描画させる事が考えられる。また描画の本数は加工前に決める必要は無く、有機EL素子2の全体の輝度を確認しながらパルスレーザを照射してもよい。例えばパルスレーザをライン状にまず1回走査し、その後、有機EL素子2を点灯させ、輝度向上の様子や大きさをカメラで確認してから再度パルスレーザを照射し、有機EL素子2が正常な状態のセルと同等の輝度になるまで走査を続ける。
【0038】
輝度向上部21は、非点灯部16の周囲の任意の位置に形成される。輝度向上部21は縦長形状に形成する必要は無く、横長形状や正方形に形成してもよい。また、輝度向上部21は有機EL素子2内の1箇所に限定されるものではなく、2箇所以上に設けても良い。また、図2に示す有機EL素子2内で有機層23の膜厚分布に基づいて、パルスレーザ11を照射する領域を決めてもよい。
【0039】
次に、図8を参照して、有機層23に膜厚分布がある際の輝度向上実施方法について説明する。図8は、図2の有機EL素子2を陰極3側から見た様子を示す。図8では、非点灯部16が、(図2における有機層23の)膜厚の薄い(100nm以下)部分29に存在する場合を示す。膜厚が薄い場合、パルスレーザを照射すると有機層23の厚さ方向に完全に導電性を持たせてしまい、電極間で短絡を引き起こしてしまう場合がある。そこで、膜厚の厚い部分30(150nm以上の部分、特に図1に示す発光層6が150nm以上の部分)にパルスレーザを照射して輝度向上部21を形成することで、有機層23の厚さ方向に完全に導電性を持たせることを防止する。なお、膜厚分布は、有機層23を形成する場合に高い確率で発生するため、膜厚分布を事前に把握し、より厚さの大きな箇所で輝度向上部21を形成する事が有効である。
【0040】
次に、図9(a)、(b)を参照して、有機EL素子2の厚さ方向におけるパルスレーザの集光位置について述べる。リペアのためのレーザ110を照射する際には、図9(a)に示すように陰極3の位置に集光位置を合わせてレーザ110を照射する。
【0041】
そして、輝度向上のためにパルスレーザ11を照射する際には、図9(b)に示すように、有機層23の位置にパルスレーザ11の集光位置を合わせる。有機層23は陰極3よりも下方に位置するため、輝度向上処理時に照射されるパルスレーザ11の集光位置は、リペア処理時よりも下に合わせる。例えば、陰極3の厚さが100nm、有機層23の厚さが1μmの場合は、リペア時よりも500nm程度パルスレーザ11の集光位置を下げて、輝度向上のためのパルスレーザ11の照射を行う。
【0042】
陰極3に集光位置を合わせてレーザ110を照射した場合は、レーザ110のエネルギーが陰極3に集中され、有機層23へは炭素結合が切り離されるようなエネルギーが作用しない。このため有機層23はアブレーション加工されず、輝度向上は起こらない。
【0043】
また、輝度向上処理時に有機層23に集光位置を合わせてパルスレーザ11を照射した場合、陰極3は加工されずリペアされない。すなわち、リペア処理時には陰極3にレーザ110の集光位置を、輝度向上時には有機層23にパルスレーザ11の集光位置をそれぞれ合わせる事で、陰極3と有機層23とがそれぞれ個別に加工される。照射されるパルスレーザ11の集光位置は、パルスレーザ11を集光するためのレンズの焦点距離と、陰極3の厚さの設計値と、有機EL素子2の厚さの設計値とに基づいて、事前に決定される。
【0044】
次に、導電性の有機層24の位置について説明する。有機層23に集光位置を合わせてパルスレーザ11を照射した場合、輝度向上後の有機EL素子2は図10の(a)、(b)、(c)の状態が考えられる。図10(a)は、導電性の有機層24が有機層23の上部にあって陰極3と接する状態を示す。図10(b)は、導電性の有機層24が有機層23の中間に存在する状態を示す。図10(c)は、導電性の有機層24が有機層23の下部にあって陽極8と接する状態を示す。図10(a)、(b)、(c)に示す何れの状態でも輝度向上は可能である。導電性の有機層24は、陰極3と陽極8とを電気的に接続しなければ、有機層23内のどの位置に形成されても良い。つまり、図10(c)及び図10(a)にそれぞれ例示されているように、陰極3及び陽極8の少なくとも一方と非接触な導電性の有機層24を形成すれば良い。
【0045】
次に、図11と図1を参照して、本実施の形態に係る有機EL素子2を製造する方法について説明する。ステップS1において、絶縁化部18の形成されていない有機EL素子2を準備する。準備する有機EL素子2は、陰極3(透明の第1の電極)と、陰極3に対向する陽極8(第2の電極)と、陰極3と陽極8との間に配置される有機材料層4(第1の有機層)とを備える。このとき準備する有機EL素子2は、トップエミッション構造、ボトムエミッション構造、3色方式、色変換方式、又はカラーフィルタ方式のいずれの有機EL素子でもよい。なお、陰極3である透明な電極として、例えばITO(Indium Tin Oxide(酸化インジウムスズ))が用いられる。
【0046】
ステップS2において、有機EL素子2の欠陥を検査し、検査の結果、異物10が検出されれば、異物10の検出された有機EL素子2にリペアを実施する。有機EL素子2の欠陥の検査は、カメラ、光センサ、又は目視などによって実施する。なお、ステップS1において、既にリペアの実施された有機EL素子2を準備する場合は、このステップS2を実施せずにステップS3に進む。
【0047】
ステップS3において、リペア後の有機EL素子2をカメラなどで観測し、輝度向上のためにパルスレーザ11を照射する位置及び領域を決定し、ステップS4に進む。
【0048】
ステップS4において、有機材料層4にパルスレーザ11の集光位置を合わせ、陰極3を透過させたパルスレーザ11を有機材料層4に照射することで輝度向上を実施する。このステップS4にて導電性の有機層24(第2の有機層)が形成される。
【0049】
ステップS5において、輝度向上が成功したかどうかを評価する。評価には有機EL素子2をカメラ等で観測する。ここでは、予め設定した良品に比べて一例として50%以上の輝度向上が認められるかどうかを評価する。輝度向上が一例として50%未満であれば再度ステップS4に戻り(ステップS5のN)、50%以上であれば動作を終了する(ステップS5のY)。
【0050】
以上のステップS1〜ステップS5を経て、有機EL素子2は製造される。
【0051】
なお、リペアを実施せず、輝度向上のための図1に示すパルスレーザ11の照射のみを実施して有機EL素子2を製造しても良い。例えば、異物10のサイズが数十nmと微小な場合、完全な電極間ショートではなく微小な電流リーク(pA以下のオーダー)が発生して、有機EL素子2の輝度が低下することがある。このとき、微細な異物10が外観観測などの検査で検出できない可能性があるため、リペア(図11におけるステップS2)を実施せず、輝度向上のみを実施すればよい。これにより、輝度を向上させた有機EL素子2を製造することが可能である。また、導電性の有機層24を備えることで、有機EL素子2の輝度を、導電性の有機層24を備えない状態に比べて高めることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、有機ELディスプレイや有機EL照明などに用いられる有機EL素子の製造に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
2 有機EL素子
3 陰極
4 有機材料層
8 陽極
11 パルスレーザ
16 非点灯部
17 点灯部
18 絶縁化部
21 輝度向上部
23 有機層
24 導電性の有機層
50 非発光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明の第1の電極と、
当該第1の電極に対向する第2の電極と、
当該第1及び第2の電極の間に配置された、第1の電気抵抗値を有する第1の有機層とを有する有機EL素子の製造方法であって、
前記有機EL素子を準備するステップと、
前記第1の電極を透過させてパルスレーザを前記第1の有機層に照射して、前記第1の電気抵抗値より低い第2の電気抵抗値を有する第2の有機層を当該第1の有機層中に形成するステップとを備える有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の有機層は前記照射されたパルスレーザによってアブレーション加工される請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記照射されたパルスレーザのパルス幅が1fs以上且つ1000ps以下であり、エネルギーが30nJ以上且つ60nJ以下である、請求項1及び請求項2のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記第2の有機層は、前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方と非接触に形成される、請求項1、請求項2、及び請求項3のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記パルスレーザは、前記第1の有機層の厚さが最も大きい部分に照射される、請求項1、請求項2、請求項3、及び請求項4のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の有機層に非発光部を形成するステップを更に有し、
前記パルスレーザは、前記第1の有機層において、前記非発光部が形成された部分の周囲の部分に照射される、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、及び請求項5のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
透明の第1の電極と、
当該第1の電極に対向する第2の電極と、
当該第1及び第2の電極の間に配置された、第1の電気抵抗値を有する第1の有機層と、
当該第1の有機層中に配置された、前記第1の電気抵抗値より低い第2の電気抵抗値を有する第2の有機層とを備える有機EL素子。
【請求項8】
前記第2の有機層は、炭化した前記第1の有機層である請求項7に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記第2の有機層は、パルス幅が1fs以上且つ1000ps以下であり、エネルギーが30nJ以上且つ60nJ以下であるパルスレーザが前記第1の有機層に照射されて形成される、請求項7及び請求項8のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記第2の有機層は、前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方と非接触である、請求項7、請求項8、及び請求項9のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記第2の有機層は、前記第1の有機層の厚さが最も大きい部分に位置する、請求項7、請求項8、請求項9、及び請求項10のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項12】
前記第1の有機層は、非発光部を有し、
前記第2の有機層は、前記非発光部とは異なる位置に配置される、請求項7、請求項8、請求項9、請求項10、及び請求項11のいずれかに記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−238573(P2012−238573A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26721(P2012−26721)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】