説明

有機EL素子の製造方法

【課題】
湿式法を用いて大気中で発光媒体層を成膜した際に生じる発光媒体層を構成する各層表面の変質によって生じる有機ELの輝度、寿命、効率といった特性低下を改善し、且つ処理基板ごとの特性を安定して得ることのできる有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
有機EL素子の製造方法であって、発光媒体層の少なくとも1層を大気中において湿式成膜法により成膜する工程と、次に、湿式成膜法により形成された層を加熱処理する工程と、次に、湿式成膜法により形成された層の表面の一部を溶媒で取り除く工程と、を有し、湿式成膜法により形成された層の表面の一部を溶媒で取り除く工程は、基板温度を周囲の温度よりも低温にして行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法としたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光媒体層のうち少なくとも一層を湿式法によって成膜される層を有する、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機EL素子とする)素子及びそれらを有する表示装置とその製造方法に関するものである
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極としての電極と、陰極としての電極との間に、少なくともエレクトロルミネッセンス現象を呈する有機発光層を挟持してなる構造を有し、電極間に電圧が印加されると、有機発光層に正孔と電子が注入され、この正孔と電子とが有機発光層で再結合することにより、有機発光層が発光する自発光型の素子である。
【0003】
さらに、発光効率を増大させるなどの目的から、陽極と有機発光層との間に正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層や、有機発光層と陰極との間に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層などが適宜選択して設けられている。そして、有機発光層とこれら正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層などを合わせて発光媒体層と呼ばれている。
【0004】
これら発光媒体層の各層は、有機材料や無機材料からなる。有機材料には分類上では低分子系材料と高分子系材料がある。
【0005】
低分子系材料を用いた例としては、例えば、正孔注入層に銅フタロシアニン(CuPc)、正孔輸送層にN,N’―ジフェニル―N,N’―ビス(3―メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル―4,4’ジアミン(TPD)、有機発光層にトリス(8―キノリノール)アルミニウム(Alq3)、電子輸送層に2―(4―ビフェニリル)―5―(4―tert―ブチル―フェニル)―1,3,4,―オキサジゾール(PBD)、電子注入層にLiFなどを用いたものが挙げられる。
【0006】
これら低分子系材料よりなる発光媒体層の各層は、一般に0.1〜200nm程度の厚みで、主に抵抗加熱方式などの真空蒸着法やスパッタ法などの真空中の乾式法(ドライプロセス)によって成膜されている。このため、低分子材料を用いる有機薄膜EL素子の製造のためには、複数の蒸着釜を連結した真空蒸着装置を必要とし、生産性が低く製造コストが高いなどの問題点があった(例えば特許文献1参照)。
【0007】
高分子系材料としては、例えば、有機発光層に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子中に低分子の発光色素を溶解させたものや、ポリフェニレンビニレン誘導体(以下、PPVと略す)、ポリアルキルフルオレン誘導体(以下、PAFと略す)等の高分子蛍光体、希土類金属系等の高分子燐光体が用いられている。
【0008】
これら高分子系材料は一般に、溶剤に溶解または分散され、塗布や印刷などの湿式法(ウエットプロセス)を用いて、1〜100nm程度の厚みで成膜されている。また低分子系材料においても、溶剤に溶解可能な組成に変えて湿式法で成膜される場合がある。湿式法を用いた場合、真空蒸着法などの真空中の乾式法を用いた場合に比べ、大気中で成膜が可能、設備が安価である、大型化が容易である、短時間に効率よく成膜可能である、などの利点がある。(例えば特許文献2及び3参照)
【0009】
しかしながら、大気中での成膜は水分、酸素、各種溶媒の揮発成分、オゾン等の影響やコンタミなどにより変質が生じる場合がある。特に、大気中で成膜した各層の表面部(成膜層の界面)の変質はキャリアの注入や、キャリア輸送性に大きな影響を与え発光輝度の低下や発光効率、寿命の低下といった問題を引き起こすことが懸念され、さらに特性のバラツキ要因となることがある。
【0010】
ここで、この様な膜表面の変質又はコンタミを改善するには劣化部分である層の最表面だけを除く方法がある。層の表面部を取り除く方法としては、溶媒によるリンスやプラズマ処理等が挙げられるが、高価な装置が必要なく扱いが簡易である点から溶媒でリンスする方法が適している。
【0011】
層の最表面だけ除く方法としては、層を形成した基板ごと溶媒中に浸漬するディッピングや、層を形成した基板を回転させながら、層上に溶媒を滴下するスピンコート法と同様の方法を用いることができる。溶媒に関しては層を構成する材料が可溶なものを選択する必要がある。(例えば特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3149991号
【特許文献2】特許第3249971号
【特許文献3】特許第3239991号
【特許文献4】特開2007−273093
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、有機発光材料を溶かす溶媒によっては有機発光材料の発光特性が劣化することがあるため、用いる溶媒は層を構成する材料を溶かすだけではなく、層を構成する材料の物性値を変化させないものを選ぶ必要があるため、選択できる溶媒が限られていた。
【0014】
また、劣化した層の表面部除去に際して、溶媒の選択や処理時間の変更といった条件設定のみでは膜厚調整の精度を十分に得ることが難しく、その結果除去される膜厚量が安定せず、処理基板ごとの輝度、効率、寿命といった発光特性を安定させることが困難であった。さらに、層表面の除去工程において使用した溶媒が、成膜層中にわずかに入り込み残留溶媒となり、この残留溶媒により発光特性や寿命の改善の妨げとなっていた。
【0015】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、湿式法を用いて大気中で発光媒体層を成膜した際に生じる発光媒体層を構成する各層表面の変質による有機EL素子の輝度、寿命、効率の低下を改善し、且つ処理基板ごとの特性を安定して得ることのできる有機EL素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明の請求項1に係る発明は、基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層を有する単層又は複数層から構成される発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有する有機EL素子の製造方法であって、前記発光媒体層の少なくとも1層を大気中において湿式成膜法により成膜する工程と、次に、前記湿式成膜法により形成された層を加熱処理する工程と、次に、前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を溶媒で取り除く工程と、を有し、前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を溶媒で取り除く工程は、基板温度を周囲の温度よりも低温にして行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法である。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記溶媒の温度は周囲の温度よりも低温又は高温であることを特徴とする有機EL素子の製造方法である。
【0018】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を取り除く工程は、回転している基板上に溶媒を滴下して処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子の製造方法である。
【0019】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を取り除く処理工程において、溶媒を平均粒子径が1mm以下の霧状で基板全体に均一に滴下することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法である。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る発明は、前記当該層表面の一部を取り除く処理工程において、不活性ガス環境下で行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法である。
【0021】
また、本発明の請求項6に係る発明は、前記湿式法が印刷法であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、湿式法を用いて大気中で成膜した際に生じる発光媒体層を構成する各層表面の変質部を取り除く表面除去工程において、基板を環境温度より低温とし、溶媒を環境温度より低温又は高温として処理を行うことで、残留溶媒の混入を防ぎ、且つ基板ごとの除去膜厚を安定させた条件設定が可能である。その結果、表面変質による有機EL素子の輝度、寿命、効率の低下を改善し、且つ特性バラツキの少ない有機EL素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の有機EL素子を用いた表示装置の一例を示す説明断面図である。
【図3】本発明の凸版印刷法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態の説明において参照する図面は、本発明の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法等は、実際のものとは異なる。また、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
図1に、本発明の有機EL素子の一例を示す。図1は、本発明有機EL素子の断面の模式図である。図1に示す構造には基板101、第一電極(陽極)102、発光媒体層105、第二電極(陰極)106を備えている。発光媒体層105は1層以上の層構成を持つ有機発光層104を含んでおり、適時選択した機能層103を積層した構造となっている。機能層103層は正孔輸送層、正孔注入層、インターレイヤ層、電子ブロック層、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロック層などが構成要素としては考えられ、よく利用される配置として103aに正孔注入層、103bに正孔輸送層又はインターレイヤ層又は電子ブロック層、103cに電子輸送層又は正孔ブロック層、103dに電子注入層を構成する。本発明の有機EL素子では、発光媒体層として少なくとも、界面あるいは層内で発光させるために湿式法で形成された有機発光層を含むが、これ以外の積層構造は任意である。例えば、第一電極を陰極、第二電極を陽極とした逆構造でも良く、複数の正孔輸送層あるいは正孔注入層が積層されていても良い。
【0026】
図2は、有機EL表示装置の一例の断面図である。図1に示す本発明の実施形態に係る有機EL素子を基板上に配列した表示装置100では、基板101に、各発光層領域(画素)毎に具備された画素電極102と、画素電極の画素間を区画する絶縁層107とを備えている。絶縁層はショートを防ぐために画素電極の端部を覆うことが好ましく、一般的にはストライプ状あるいは格子状に形成される。アクティブマトリクス駆動の場合には、絶縁層下部に薄膜トランジスタ(TFT)を形成した構成としても良い。また後述のように湿式法で発光媒体層105を形成する場合には、塗液の混入を防ぐバンクの機能を有する。さらに発光媒体層として、図2の有機EL表示装置では、画素電極の上方に形成された正孔輸送層103aと、この正孔輸送層上に形成されたインターレイヤ103bと、インターレイヤ上に湿式法で形成された有機発光層104と、有機発光層上に全面を被覆するように形成された対向電極(陰極)106と、画素電極、絶縁層、正孔輸送層とインターレイヤと有機発光層を含む発光媒体層、対向電極を覆うように基板101と接触した封止体108とを備えた構成としている。
【0027】
<基板>
本発明で用いることのできる基板101としては、基板に積層される電極や有機発光媒体層を支持することができればよい。基板には、さらに、有機発光媒体層や電極の劣化を防ぐために、水分や酸素の透過率の低い材料や、透過を防ぐ処理を施してあることが好ましい。有機EL表示装置をアクティブマトリクス駆動とする場合には基板として薄膜トランジスタを形成したTFT基板を用いることができる。
【0028】
基板の材料としては、ステンレスや鉄などの金属、ガラス、プラスチックのフィルムまたはシートを用いることができる。0.2〜1.0mmの薄いガラス基板を用いれば、水分や酸素に対するバリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を作製することができる。第一電極側から光を取り出す、いわゆるボトムエミッションタイプの有機EL素子とする場合には、ガラスやプラスチック等の透光性を備えている基板を用いる。
【0029】
可撓性のあるプラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより連続的に有機EL素子の製造が可能であり、安価に素子を提供することができる。基板として用いることのできるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を用いることができる。また、第一電極102を製膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層すれば、よりバリア性が向上し、寿命の長い有機EL素子とすることができる。
【0030】
<第一電極>
第一電極102には、透明または半透明の電極を形成することのできる導電性物質を好適に使用することができる。
【0031】
第一電極102が陽極である場合、例えば、インジウムと錫の複合酸化物(以下、ITOと略す)、インジウムと亜鉛の複合酸化物(以下、IZOと略す)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等が挙げられる。特に、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性が高い等からITOを好ましく用いることができ、前記基板101上に蒸着またはスパッタリング法などにより成膜することができる。
【0032】
また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板101上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、金属としてアルミニウム、金、銀等の金属を半透明状に蒸着することもできる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0033】
第一電極102は、必要に応じてエッチング等によりパターニングを行うことができる。また、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行うこともできる。
【0034】
<絶縁層>
絶縁層107は、各画素に対応した発光領域を区画するように形成することができる。画素電極102の端部を覆うように形成するのが好ましい。一般的にアクティブマトリクス駆動型有機EL表示装置100は、各画素に対して画素電極102が形成され、それぞれの画素ができるだけ広い面積を占有しようとするため、画素電極102の端部を覆うように形成される。絶縁層107の最も好ましい形状は各画素電極102を最短距離で区切る格子状を基本とする。
【0035】
絶縁層107の材料としては、絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、無機の絶縁層形成材料として、SiO、TiO等の無機絶縁材料を用いることもできる。
【0036】
絶縁層107の好ましい高さは0.1μm以上30μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上2μm以下程度である。20μmより高すぎると対向電極106の形成及び封止を妨げ、0.1μmより低すぎると画素電極102の端部を覆い切れない、あるいは発光媒体層104形成時に隣接する画素とショートしたり混色したりしてしまうからである。
【0037】
絶縁層107の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法など既存の成膜法を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0038】
絶縁層107のパターニング方法としては、材料や成膜方法に応じて、基体(基材101及び画素電極102)上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、基体上に感光性樹脂を塗工し、フォトリソグラフィ法により所定のパターンとする方法が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。必要に応じてレジスト及び感光性樹脂に撥水剤を添加したり、親水性材料と疎水性材料の多層構造にしたり、プラズマやUVを照射したりして形成後に次の成膜材料に対する撥水性または親水性を付与することもできる。
【0039】
<発光媒体層>
発光媒体層105は1層以上の層構成を持つ有機発光層104及び、適時選択した機能層103を積層した構造となっている。機能層103層は正孔輸送層、正孔注入層、インターレイヤ層、電子ブロック層、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロック層などが構成要素としては考えられ、よく利用される配置として103aに正孔注入層、103bに正孔輸送層又はインターレイヤ層又は電子ブロック層、103cに電子輸送層又は正孔ブロック層、103dに電子注入層と構成される。
【0040】
本発明の実施の形態に係る正孔注入層103a及びインターレイヤ層又は正孔輸送層又は電子ブロック層103bのとしては、正孔輸送材料として一般に用いられているものを好適に使用することができ、有機材料としては例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが挙げられる。
【0041】
無機材料としては、Li、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Sm、Eu、Gd、Ybなどのランタノイド系元素、Au、Cu、Al、Si、Ge、Fe、Ni、Ru、Sn、Pb、Cr、Ir、Nb、Pt、W、Mo、Ta、PaおよびCoなどの金属元素、またはこれら金属元素の酸化物、炭化物、窒化物、硼化物などの化合物がある。
【0042】
正孔注入層及び正孔輸送層として有機材料を用いる場合には溶媒に溶解または分散させ、スピンコータ等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いて形成される。また、材料として無機材料を用いる場合には、上記の金属材料の単体や酸化物を真空蒸着法やスパッタリング法、CVD法を用いて形成される。
【0043】
本発明の実施の形態に係る有機発光層104に用いる有機発光体としては、一般に有機発光材料として用いられているものを好適に使用することができ、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系等、一重項状態から発光可能な蛍光性低分子系材料や、希土類金属錯体系の三重項状態から発光可能な公知の燐光性低分子系材料が挙げられる。
【0044】
前述した材料をトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて有機発光塗布液として用いれば、大気中の湿式法による成膜ができる。
【0045】
また、有機発光層104の高分子系材料としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系等の蛍光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものや、PPV系やPAF系等の高分子蛍光発光体や、希土類金属錯体を含む高分子燐光発光体などの高分子発光体を用いることができる。
【0046】
これら高分子系材料はトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて有機発光塗布液とし大気中の湿式法により成膜できる。
【0047】
特にトルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン等の芳香族系溶媒は高分子系材料の溶解性が良く、また大気圧中での沸点が180℃以下であることから扱いも容易であり、有機発光層成膜後の溶媒除去の点で好ましい。
【0048】
また有機発光媒体層の各層を形成する塗布液は必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤等を添加しても良い。
【0049】
本発明の実施の形態に係る電子輸送層又は正孔ブロック層103c、電子注入層103dの材料には一般に電子輸送材料として用いられているものであれば良く、トリアゾール系、オキサゾール系、オキサジアゾール系、シロール系、ボロン系等の有機低分子系材料、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩や酸化物等の無機材料を用いる場合には真空蒸着法やスパッタによる成膜が可能である。また、これらの電子輸送性材料およびこれら電子輸送材料をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて電子注入塗布液とし、印刷法により成膜できる。
【0050】
発光媒体層の膜厚は、単層または積層により形成する場合においても、1000nm以下であり、好ましくは50〜200nm程度である。
【0051】
<湿式法による発光媒体層の形成方法>
発光媒体層105を湿式法で形成する場合、湿式法としては塗布法、印刷法などがあるが、塗布法にはスピンコータ、バーコータ、ロールコータ、ダイコータ、グラビアコータ等があるが、これらは直接パターンを形成することが困難であるのに対し、印刷法は容易に直接パターンを形成することができるため、湿式法により発光媒体層105を成膜する際には、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、ノズルプリント法、インクジェット印刷法などの印刷法を用いることが好ましい。
【0052】
特に凸版印刷法、ノズルプリント法、インクジェット印刷法は、塗布液の粘性特性が良好な粘度範囲で、基材を傷つけることのなく印刷することができ、塗布液材料の利用効率が良いため特に好ましい。
【0053】
発光媒体層を塗布形成する方法の一例として凸版印刷法により形成する場合には、図3に示すような、発光媒体層105の材料を有する塗布液を電極等が形成された被印刷基板201上に直接塗布する凸版印刷装置200を用いることが出来る。なお、本発明の発光媒体層105の形成方法はこれに限るものではない。
【0054】
本発明の実施の形態に係る凸版印刷装置200は、インクタンク202、インクチャンバ203、アニロックスロール204、凸版が設けられた版205がマウントされた版胴206を有している。インクタンク202には、発光媒体層105の材料を有する塗布液が収容されており、インクチャンバ203にはインクタンク202より塗布液が送り込むことができる。アニロックスロール204はインクチャンバ203の塗布液供給部に接して回転可能に指示されている。塗布液供給部はインキを溜まりにアニロックスロールが浸かるインキ壷、又はアニロックスロール上にインキを吐出するダイコーターを用いることが出来る。
【0055】
アニロックスロール204の回転に伴い、アニロックスロール204の表面に供給された塗布液の塗布層204aは均一な膜厚に形成される。この塗布層204aはアニロックスロール204に近接して回転駆動される版胴206にマウントされた版205の凸部に転移する。
【0056】
平台207には、被印刷基板201が版205の凸部による印刷位置にまで図示していない搬送手段によって搬送されるようになっている。そして、版205の凸部にあるインクは被印刷基板201に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経ることで、被印刷基板201上に、好適に発光媒体層105を成膜することができる。
【0057】
凸版が設けられた版205は、感光性樹脂凸版が好ましい。感光性樹脂凸版は、露光した樹脂版を現像する際に用いる現像液が有機溶剤である溶剤現像タイプのものと現像液が水である水現像タイプのものがあるが、溶剤現像タイプのものは水系のインクに対し耐性を示し、水現像タイプのものは有機溶剤系のインクに耐性を示す。発光媒体層105の材料を有する塗布液の特性に従い、溶剤現像タイプ、水現像タイプを好適に選ぶことができる。
【0058】
例えば、正孔注入層103aを真空中で設けた後、インターレイヤ層103b、有機発光層104を、大気中で凸版印刷装置200を用いた凸版印刷法により形成し、真空中で電子注入層103cを形成し製造することができる。
【0059】
<湿式法による成膜面の除去工程>
発光媒体層のうち、大気中で湿式法により成膜された層の表面は空気中の水分や酸素、各種溶媒の揮発成分、オゾンなどの影響を受け変質している可能性があり、また、大気中の成分や浮遊粒子等の異物が膜表面に吸着するなどのコンタミが発生している可能性がある。そこで、本発明では変質又はコンタミが生じている可能性がある発光媒体層の最表面を取り除き、発光媒体層界面の変質やコンタミによる特性劣化という問題を改善するものである。発光媒体層の最表面を取り除く方法としては、溶媒によるリンスやプラズマ処理等のエッチングが挙げられるが、プラズマ処理には高価な装置が必要となるため、扱いが簡易で高価な装置の必要のない溶媒でリンスする方法が適している。
【0060】
発光媒体層の最表面リンスのために用いる溶媒としては、リンスの対象となる上記の発光媒体層のいずれかの層を構成する材料を可溶で、かつ、その材料を劣化しないものを選択する。さらに、可溶ではあるが、溶解度の小さいものであると、層の膜厚調整が容易であり好ましい。溶媒の一例としてはトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、n―デカン、n―テトラデカン1,2―ジクロロエタン、塩化t―ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、シクロヘキサン等の溶媒を用いることができる。また必要に応じて混合溶媒を用いることができる。
【0061】
発光媒体層の最表面を除く前の手順として、湿式法で成膜した層の乾燥、密着性向上、熱架橋などの各種目的で熱処理を行った後に行う。層の最表面だけ除く方法としては、回転している基板に溶媒を滴下させる方法や基板を溶媒中に浸漬するディッピングする方法がある。回転している基板に溶媒を滴下する方法を処理方法例として手順を述べると、層を成膜後熱処理した基板を、周囲の環境の温度以下の温度に冷却し、回転させた基板上に溶媒を滴下、処理時間後溶媒を乾燥させ、その後残留溶媒分を取り除くために再度熱処理を行うという手順となる。除去の際の溶媒温度は、使用する溶媒と層の材料の組み合わせにより適切な温度に設定する。
【0062】
処理溶媒の温度に関しては、溶媒と層の材料の組み合わせにより周囲の環境の温度より低温が好ましい場合と、周囲の環境の温度より高温が好ましい場合がある。これは、溶媒の溶解度が温度によって変動し、さらに溶媒の溶解度は層の材料の種類によっても異なるためであり、処理溶媒の温度の目安としては溶解度パラメーターの温度依存性を参考に、処理溶媒を周囲の環境の温度より高温・低温にすることが出来る。温度の決定に際しては処理時間が1分以下の範囲において処理速度が遅くなるように設定するのが好ましい。
【0063】
回転している基板への溶媒の滴下については基板面内に均一に滴下されれば良い。望ましい方法としては、溶媒を平均粒子径が1mm以下の霧状で基板全体に均一に滴下することで面内の除去膜厚バラツキなく処理を行うことができる。
【0064】
層における表面変質の主要因が大気中成分であるなど、除去工程環境中から取り除くことの難しい場合においては、不活性ガス中で層表面除去処理を行うことが最も効果的である。また、除去処理に用いる溶媒は、酸素等の発光媒体層の劣化の原因となるガスや、埃などの異物を取り除いておくことが望ましい。
【0065】
最表面の除去処理後は、用いた処理溶媒や層の構成材料に応じた適切なプロセス温度で基板を加熱処理することが望ましく、加熱することにより処理工程で混入した溶媒を揮発させ、発光媒体層中に溶媒が残留することを防ぐことができる。しかし、高温での熱処理及び長時間の熱処理は層の構成材料へのダメージとなり、その結果、熱処理が不十分で残留溶媒による特性劣化が生じる場合がある。
【0066】
そこで、少なくとも基板温度を環境温度以下に冷却して処理を行うことで、溶媒が発光媒体層中に分散するのを抑制することができ、加熱処理にて除去されない残留溶媒の発生を抑制することができる。
【0067】
また、溶媒温度を処理速度が適切、かつ溶媒分子の分散が抑制される温度に設定することでも残留溶媒の発生を抑制され、かつ、溶媒の温度を調整することで発光媒体層の最表面の除去速度がコントロールされることで、処理基板ごとの除去膜厚を安定させることが可能となる。少なくとも基板の温度を環境温度以下にするため、除去処理に用いる溶媒の溶解度が小さい場合には基板上の発光媒体層を溶解できる温度まで加熱もしくは基板の温度より高温にすることが望ましく、溶媒の溶解度が大きい場合には基板上の発光媒体層の溶解速度を下げるために基板の温度よりも低温にすることが望ましい。
【0068】
尚、層の最表面を取り除く工程は、発光媒体層105を構成し、大気中で湿式成膜法により形成された少なくとも1層以上の有機層に対して行う。特に、有機発光層104の劣化は素子の発光効率及び寿命に大きく関ることから、有機発光層104に対してこの最表面の除去工程を行うことが好ましい。最表面除去工程で除去する膜厚は対象となる層全体の厚みの1〜20%程度、より好ましくは2〜10%程度であるが、層の機能を発揮できる程度の厚みは残すことが好ましい。また、除去が十分に行われない場合には劣化した箇所を残したままの有機EL素子を得ることになる。例えば有機発光層104を除去の対象とする場合、5nm以上を除去し、少なくとも50nm〜150nmは残すように最表面除去工程を施すことが好ましい。また、除去する厚みは2nm以上であることが、劣化部分を確実に除去でき好ましい。そのため、発光媒体層105各層を、予め除去工程における除去分を考慮にいれて厚膜に成膜し、最終的に目的の膜厚に調整してもよい。
【0069】
<第二電極>
第二電極106を陰極とする場合には、発光媒体層105への電子注入効率の高い、仕事関数の低い物質を用いる。具体的にはMg,Al,Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体層と接する界面にLiや酸化Li,LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いてもよい。または電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数が低いLi,Mg,Ca,Sr,La,Ce,Er,Eu,Sc,Y,Yb等の金属1種以上と、安定なAg,Al,Cu等の金属元素との合金系を用いてもよい。具体的にはMgAg,AlLi,CuLi等の合金が使用できる。
【0070】
第二電極106の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法を用いることができる。
【0071】
<封止体>
有機EL素子に大気のガスが到達しないようにするために通常は、外部と遮断するために封止材と樹脂層とを有する封止体を設けることができる。あるいはキャップ状の封止材をと接着剤を用いて密閉封止した封止体の構成としても良い。
【0072】
封止材としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、封止材の材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10−6g/m/day以下であることが好ましい。
【0073】
樹脂層の材料の一例として、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL素子の大きさや形状により任意に決定されるが、5μm〜500μmが望ましい。なお、ここでは封止材上に樹脂層として形成したが直接有機EL素子側に形成することもできる。
【0074】
最後に、有機EL素子と封止体との貼り合わせを封止室で行う。封止体を、封止材と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。
【0075】
こうして本発明の有機EL素子を製造することができる。本発明の課題を解決し、効果を得ることができるかぎり、他の構成要素は任意に置き換えが可能である。
有機EL素子としては、単一の第一電極と第二電極を対向するように配置し、全面を発光させる単純な構造の他、情報表示可能なディスプレイ用途に向く駆動方式として、第一電極と第二電極を互いに直交するストライプ状に形成し、交点への電流の印加によって発光させるパッシブマトリクス型の有機EL素子とすることも、一方の電極を複数の画素に区画し、それぞれの画素にトランジスタを形成し個別に電流のオン−オフが可能としたアクティブマトリクス型の有機EL素子とすることもできる。
また、本明細書では光の取り出し方向が基板側であるボトムエミッションタイプの有機EL素子について主に説明したが、第二電極及び封止方法を透光性のものとし、基板とは反対側から光を取り出すトップエミッション構造とすることもできる。また、第一電極を陰極とし、第二電極を陽極とし、有機発光媒体層の積層順を逆とすることもできる。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
まず、ガラス基板を基板として用いる。この基板上に、陽極材料であるITOをスパッタ法により真空中で形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして発光電極部を設けた。
【0077】
次に発光電極部を形成したガラス基板上に、絶縁層材料として、アクリル系のフォトレジスト材料を全面にスピンコートした。スピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させた後、500rpmで20秒間回転させ、高さ1.5μmの塗膜を得た。その後、フォトリソ法により、発光電極部に格子状のパターンを形成した。
【0078】
次に、正孔注入層及び正孔輸送層として酸化モリブデンを真空中で蒸着法により成膜した。
【0079】
次に、有機発光材料であるPPV誘導体の重量濃度が1%、キシレン及びアニソールの重量濃度がそれぞれ84%、15%の塗布液を使用し、大気中で凸版印刷法にて、正孔輸送層上に有機発光層を形成した。この後、大気中で60分間基板の保管を行った。その後ホットプレート上で130℃、10分の条件で不活性ガス空間中において熱乾燥を行い膜厚が80nmの有機発光層を形成した。
【0080】
続いて、有機発光層までを成膜した基板を、不活性ガス中において、イソプロピルアルコールをスピン条件500rpmで回転している基板に均一に滴下し、6秒間処理を行った。この時、環境温度23℃に対して基板温度5℃、溶媒温度5℃として処理を行った。その後130℃、3分の条件で乾燥処理行った。それにより膜厚が65nmの有機発光層が得られた。
【0081】
次に、電子注入材料であるBaを、真空中で真空蒸着法により、マスクを使用し、厚さ5nmの電子注入層を形成した。
【0082】
最後に、陰極材料であるAlを使用し、ITOで形成された陽極と直交するように、真空中の真空蒸着法により、マスクを使用し、厚さ150nmの電極を形成した。そしてガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し有機EL素子を得た。
【0083】
作成した素子は7Vにおける輝度が1250cd/mであり、また初期輝度1500cd/mにおける輝度半減時間は280時間であった。
【0084】
有機発光層の表面を除去する工程を5枚連続して行った際の膜厚を、5枚5ポイント測定したところ、3σ=11.6であった。
【0085】
(比較例1)
実施例1と同様の方法及び材料を用い、その際、有機層の表面除去工程において基板温度ならびに溶媒温度を環境温度23℃で実施したこと以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。処理時間は3秒と設定した。それにより膜厚65nmの有機発光層が得られた。
【0086】
作成した素子は7Vにおける輝度が980cd/mであり、また初期輝度1500cd/mにおける輝度半減時間は205時間であった。
【0087】
有機発光層の表面を除去する工程を5枚連続して行った際の膜厚を、5枚5ポイント測定したところ、3σ=16.7であった。
【0088】
(比較例2)
比較例2においては有機層の表面除去工程を行わなかったこと以外は、実施例1同様の方法及び材料を用いて有機EL素子を作製した。
【0089】
作成した素子は7Vにおける輝度が480cd/mであり、また初期輝度1500cd/mにおける輝度半減時間は155時間であった。
【0090】
以上の結果を以下の表1にまとめた。表1から、本願発明の表面除去工程により、有機EL素子の輝度及び寿命が改善されることがわかる。
【0091】
【表1】

【符号の説明】
【0092】
101:基板
102:第一電極(例として陽極)
103:機能層
103a:正孔注入層
103b:インターレイヤ層又は正孔輸送層又は電子ブロック層
103c:電子輸送層又は正孔ブロック層
103d:電子注入層
104:有機発光層
105:発光媒体層
106:第二電極(例として陰極)
107:絶縁層
108:封止体
109:樹脂層
110:封止材
200:凸版印刷機
201:被印刷基板
202:インキタンク
203:インキチャンバ
204:アニロックスロール
204a:塗布層
205:版
206:版胴
207:平台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層を有する単層又は複数層から構成される発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有する有機EL素子の製造方法であって、
前記発光媒体層の少なくとも1層を大気中において湿式成膜法により成膜する工程と、
次に、前記湿式成膜法により形成された層を加熱処理する工程と、
次に、前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を溶媒で取り除く工程と、
を有し、
前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を溶媒で取り除く工程は、基板温度を周囲の温度よりも低温にして行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒の温度は周囲の温度よりも低温又は高温であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を取り除く工程は、回転している基板上に溶媒を滴下して処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記湿式成膜法により形成された層の表面の一部を取り除く処理工程において、溶媒を平均粒子径が1mm以下の霧状で基板全体に均一に滴下することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記当該層表面の一部を取り除く処理工程において、不活性ガス環境下で行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記湿式法が印刷法であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−74277(P2012−74277A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218575(P2010−218575)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】