説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】画素内で発生する発光ムラや輝度低下を抑制することが可能な有機EL素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板101と、基板101上に形成された第一電極102と、基板101上に形成され且つ第一電極102の周囲を囲む隔壁103と、隔壁103内で第一電極102上に形成されて画素を構成する発光媒体層108と、隔壁103及び発光媒体層108上に形成された第二電極109を備え、発光媒体層108の有機発光層106の膜厚が画素の中心から隔壁103に向かうほど厚さが厚くなる場合は、当該有機発光層106の上に形成される電子注入層107の膜厚も画素の中心から隔壁103にかけて厚く形成し、逆の場合は、電子注入層107の膜厚を画素の中心から隔壁にかけて薄く形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子と、その製造方法に関するものであり、特に、有機薄膜のEL現象を利用した有機EL素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極としての電極と、陰極としての電極との間に、少なくともEL現象を呈する有機発光層を挟持した構造を有しており、電極(陽極と陰極)間に電圧が印加されると、有機発光層に正孔と電子が注入され、この正孔と電子とが有機発光層で再結合することにより、有機発光層が発光する自発光型の素子である。
上記のような有機EL素子には、発光効率を増大させるなどの目的から、陽極と有機発光層との間に、正孔注入層、正孔輸送層、又は、有機発光層と陰極との間に、電子輸送層、電子注入層等が、適官選択して設けられている。そして、有機発光層と、上述した正孔注入層、正孔輪送層、電子輪送層、電子注入層等を合わせた層が、有機発光層と呼ばれている。
【0003】
また、有機発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料とがある。一般的に、低分子材料は、真空蒸着法等により薄膜を形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では、基板が大型化すればするほど、パターニング精度が出にくいという問題がある。また、真空蒸着法等による薄膜の形成では、真空中で成膜するために、スループットが悪いという問題がある。
【0004】
そこで、最近では、高分子材料を溶剤に溶かして塗工液とし、この塗工液をウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。高分子材料の塗工液を用い、ウェットコーティング法で有機発光層を含む発光媒体層を形成する場合の層構成は、陽極側から、正孔輸送層及び有機発光層を積層する二層構成が一般的である。
このとき、有機発光層は、カラーパネル化するために、赤(R)、緑(G)、青(B)の、それぞれの発光色をもつ有機発光材料を、溶剤中に溶解、または、安定して分散させてなる有機発光インキを用いて、塗り分ける必要がある。
【0005】
上述したような従来の有機EL素子において、例えば、図5に示すように、ウェットコーティング法で有機発光層106の形成を行うと、第一電極102(画素電極)を絶縁するために設けられた隔壁103の形状に沿って、ウェットコーティング法で形成した薄膜が厚膜化するため、有機発光層106の平坦性が悪化してしまう。なお、図5は、従来例の有機EL素子100の概略構成を示す断面図である。
【0006】
そのため、画素内での発光が不均一となり、一画素内のピーク輝度に対して、画素内全輝度が低滅する問題があった。さらに、有機発光層の膜厚が、ある程度まで厚くなると、有機発光層の導電性が悪くなり、発光しない部分が生じるため、実開口率が小さくなる間題もあった。このような問題を解決する方法として、例えば、下記特許文献1に示すような、有機発光層の膜厚を均一にする方法が提案されている。
【0007】
特許文献1には、インクジェット法による、有機発光層の膜厚の平坦性を高める方法として、予め、基板上に、フォトリソグラフィ法等を用いて、撥インキ性のある材料でバンクを形成し、そのバンクにインク液滴を着弾させることで、バンク形状に応じてインクが弾かれ、直線性のパターンが得られるという方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、弾いたインクが画素内に戻るときに、画素内部でインクが盛り上がり、画素内の有機発光層の膜厚に、ばらつきができてしまうという問題がある。
【0008】
また、特許文献1に開示されている方法とは別の方法として、下記特許文献2には、正孔輪送層を陽極上のみに選択的に形成することで陽極上だけを発光させて、発光画素の発光領域を均一にする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002‐305077号公報
【特許文献2】特開2008‐71872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では発光領域を均一にすることは可能であるが、有機発光層に膜厚の分布が存在するため、有機発光層が形成する発光領域に発生する画素内での発光ムラや輝度低下を抑制することが困難である。
本発明では、有機EL素子が備える発光媒体層において、有機発光層の平坦性が低いことに起因する、画素内での発光ムラや輝度低下を抑制することが可能な、有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち、請求項1に記載した発明は、基板と、当該基板上に形成された第一電極と、前記基板上に形成され且つ前記第一電極の周囲を囲む隔壁と、前記隔壁内で前記第一電極上に形成されて画素を構成する発光媒体層と、前記隔壁及び前記発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、前記発光媒体層は、電子注入層を除き、前記隔壁から画素の中心に近づくほど膜厚が減少又は増加している発光媒体層の膜上に、膜厚が不均一な電子注入注入層が少なくとも1層形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記発光媒体層は、有機発光層の下に形成された正孔注入層を含むことを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した発明であって、前記電子注入層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明であって、前記電子注入層は、有機物を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項1から請求項4のうち何れか一項に記戟した発明であって、有機発光層の発光強度が画素の中心より隔壁側が減少する場合、画素の中心から当該発光強度が10%減少する領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該発光強度が10%減少する領域から隔壁側の電子注入層の厚さを厚くし、有機発光層の発光強度が画素の中心より隔壁側が増大する場合、画素の中心から当該発光強度が10%増大する領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該発光強度が10%増大する領域から隔壁側の電子注入層の厚さを薄くしたことを特徴とするものである。
【0015】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、有機発光層の発光膜厚が、画素の中心より隔壁側が厚くなる場合、画素の中心膜厚から当該膜厚が5nm厚くなる領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該膜厚が中心より5nm以上厚くなる領域から隔壁側の電子注入層の厚さを厚くし、有機発光層の発光強度が画素の中心より隔壁側が増大する場合、画素の中心から当該膜厚が5nm薄くなる領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該膜厚が5nm以上薄くなる領域から隔壁側の電子注入層の厚さを薄くしたことを特徴とするものである。
【0016】
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項1から請求項6のうち何れか一項に記載した有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、前記発光媒体層に含まれる層のうち少なくとも一つの層は、ウェットプロセス法を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜厚分布のある有機ELパネルにおいて、有機発光層の膜厚の分布に応じて、電子注入層の膜厚を変化させるように形成することが可能となり、画素の中心より膜厚の厚い部分では、電子注入性を高くし、薄い部分では、電子注入性を低くすることが可能となる。このため、画素内において発生する輝度低下、及び、ムラ改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機EL素子の一実施形態を示す説明図であり、(a)は有機発光層の画素中心膜厚が薄い有機EL素子の縦断面図、(b)は有機発光層の画素中心膜厚が厚い有機EL素子の縦断面図である。
【図2】基板の詳細な構成を示す縦断面図である。
【図3】凸版印刷法に用いる凸版印刷装置の概略構成図である。
【図4】電子注入層の成膜に用いるメタルマスクパターンであり、(a)は有機発光層の画素中心膜厚が薄いときの電子注入層用メタルマスク、(b)は有機発光層の画素中心膜厚が厚いときの電子注入層用メタルマスクである。
【図5】従来の有機EL素子の一例を示す説明図であり、(a)は有機発光層の画素中心膜厚が薄い有機EL素子の縦断面図、(b)は有機発光層の画素中心膜厚が厚い有機EL素子の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ、本実施形態に係る有機EL素子の構成と、有機EL素子の製造方法について説明する。
(構成)
まず、図1を用いて、本実施形態の有機EL素子100の構成を説明する。図1は、本実施形態の有機EL素子100の概略構成を示す断面図である。図1に示すように、有機EL素子100は、基板101と、第一電極102と、隔壁103と、発光媒体層106と、第二電極109を備えている。本実施形態では、一例として、第一電極102を陽極
とし、第二電極109を陰極としたアクティブマトリクス駆動型の有機EL素子とした場合について説明する。この場合、第一電極102は、画素ごとに隔壁103で区画された画素電極として形成され、第二電極109は、素子全面に形成した対向電極として形成される。なお、また、有機EL素子100の構成は、上記の構成に限定するものではなく、例えば、各電極(第一電極102、第二電極109)がそれぞれ直交するストライプ状とした、パッシプマトリマトリックス駆動型の有機EL素子であってもよい。また、第一電極102を陰極とし、第二電極109を陽極とした逆構造としてもよい。
【0020】
(基板の詳細な構成)
以下、図1を参照しつつ、図2を用いて、基板101の詳細な構成について説明する。図2は、基板101として用いた薄膜トランジスタ(TFT)200の詳細な構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、基板101として、第一電極及び隔壁が設けられたTFT基板を用いた場合を例に挙げて説明する。本実施形態の有機EL素子100が備える基板101は、薄膜トランジスタ200と第一電極201(画素電極)が設けられている。薄膜トランジスタ200と第一電極102とは電気接続している。また、薄膜トラ
ンジスタ200は、基板101(支持体)で支持されている。基板101としては、機械的強度及び絶縁性を有し、寸法安定性に優れていれば、如何なる材料も使用することが可能である。
【0021】
ここで、基板101の材料としては、例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートを用いることが可能である。
また、基板101の材料としては、例えば、上記のプラスチックフィルムやシートに、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸窒化珪素等の金属酸窒化物、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等の高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた透光性基材や、アルミニウムやステンレス等の金属箔、シート、板等を用いることが可能である。
【0022】
さらに、基板101の材料としては、例えば、上記のプラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属膜を積層させた非透光性基材等を用いることが可能である。
ここで、基板101の透光性は、光の取出しをどちらの面から行うかに応じて選択すればよい。
【0023】
上記の材料からなる基板101は、有機EL素子100内への水分の侵入を避けるために、無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好適である。特に、発光媒体層106への水分の侵入を避けるために、基板101における含水率及びガス透過係数を小さくすることが好適である。
薄膜トランジスタ200としては、公知の薄膜トランジスタを用いることが可能である。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層203と、ゲート絶縁膜204及びゲート電極205から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。ここで、薄膜トランジスタ20の構造は、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。また、活性層22の構成は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料、または、チオフェンオリゴマー、ポリ(p‐フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することが可能である。
【0024】
上記の活性層203は、例えば、以下の(a)から(c)に記載する方法を用いて形成する。
(a)アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法。具体的には、SiHガスを用いて、LPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法。
(b)Siガスを用いたLPCVD法により、また、SiHガスを用いたPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニルし、さらに、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)。
(c)減圧CVD法またはLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000[℃]以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極8を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)。
【0025】
ゲート絶縁膜204としては、一般的にゲート絶縁膜として使用されているものを用いることが可能である。即ち、ゲート絶縁膜204としては、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2や、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO等を用いることが可能である。ゲート電極205としては、一般的にゲート電極205として使用されているものを用いることが可能である。即ち、ゲート電極205の材料としては、例えば、アルミ、銅等の金属(チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属)や、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。なお、薄膜トランジスタ200の構造は、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が三つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、一つの画素中に二つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0026】
また、本実施形態の有機EL素子100は、薄膜トランジスタ200が有機EL素子100のスイッチング素子として機能するように接続されている必要がある。このため、薄膜トランジスタ200のドレイン電極207と、第一電極102を電気的に接続している。なお、図2では、ソース電極に符号206を付し、走査線に符号208を付し、薄膜トランジスタ200と第一電極102及び隔壁103との間に介装したトランジスタ絶縁膜に、符号209を付している。
【0027】
(第一電極の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、第一電極102の詳細な構成について説明する。第一電極102は、基板101上にパターン化して形成されており、隔壁103によって区画されて、各画素に対応した画素電極を形成している。第一電極102の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や、金、白金等の金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂等に分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものを、いずれも使用することが可能である。
【0028】
ここで、第一電極102を陽極とする場合には、ITO等の仕事関数の高い材料を選択することが好適である。特に、通常の有機EL素子100では、陽極を通して光が放出されるために、陽極が透明であることが要求され、ITO等の導電性金属酸化物が用いられる。また、有機EL素子100が、上方から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造の場合は、透明であることは必要ではないが、ITO、IZO(インジウムと亜鉛の複合酸化物)等の導電性金属酸化物を用いて、第一電極102を形成してもよい。
【0029】
さらに、第一電極102の材料として、ITO等の導電性金属酸化物を用いる場合、その下に反射率の高い反射電極(Cr、A1、Ag、Mo、W等)を用いることが好適である。この場合、反射電極は、導電性金属酸化物よりも抵抗率が低いため、補助電極として機能するとともに、後述する有機発光層106にて発光される光を、第二電極109側に反射して、光の有効利用を図ることが可能となる。また、有機EL素子100が、下方から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の場合は、透光性のある材料を選択する必要がある。さらに、必要に応じて、第一電極102の配線抵抗を低くするために、銅やアルミニウム等の金属材料を補助電極として併設してもよい。
【0030】
(隔壁の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、隔壁103の詳細な構成について説明する。隔壁103は、基板101上に形成されており、第一電極102の周囲を囲むことにより、画素に対応した発光領域を区画するように形成されている。ここで、一般的に、アクティブマトリクス駆動型の有機EL素子100は、各画素(サブピクセル)に対して第一電極102が形成されており、それぞれの画素が、できるだけ広い面積を占有しようとするため、第一電極102の端部(側面)を覆うように形成される隔壁103の最も好適な形状は、第一電極102を最短距離で区切る格子状を基本とする。
【0031】
また、隔壁103の材料は、少なくとも、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤及びアルカリ可溶性バインダーを含有する。さらに、隔壁103の材料は、界面活性剤等を含有することが好適であり、溶剤も含有している。隔壁103の好適な高さは、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内であり、より好適には、0.5[μm]以上2[μm]以下の範囲内程度である。その理由は、隔壁103の高さが高すぎる場合、第二電極109(対向電極)の形成及び封止を妨げ、隔壁103の高さが低すぎる場合、第一電極102の端部を覆い切れない、又は、発光媒体層106の形成時に、隣接する画素と混色してしまうためである。
【0032】
隔壁103の断面形状としては、順テーパ形状、逆テーパ形状等の台形状や、半円形等が挙げられ、また、多段状になっていても良い。ここで、隔壁103の断面形状が多段状である場合には、下の基板側の下段と上の基板側の上段とが異なる材料・形成方法であっても、同じ材料・形成方法であってもよい。この場合、例えば、下段はSiN等の無機材料からなり、上段は上述した材料からなる構成等が挙げられる。
【0033】
(発光媒体層の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、発光媒体層106の詳細な構成について説明する。発光媒体層106は、隔壁103内で第一電極102上に形成されて、第一電極102と第二電極109との間に挟まれており、正孔注入層104と、有機発光層106と、電子注入層107と、インターレイヤー層105を含んでいる。正孔注入層104は、電子又は正孔を注入するキャリア注入層を構成しており、第一電極102上及び隔壁103上、具体的には、第一電極102上と、隔壁103上の全面とを覆うように形成されている。これにより、画素領域での膜形状が平坦になるため、画素ごとの膜厚を均一にすることが可能となる。なお、正孔注入層104の詳細な構成については、後述する。
【0034】
有機発光層106は、発光に寄与する層であり、正孔注入層104上に形成されている。即ち、正孔注入層104は、有機発光層106の下に形成されている。図1aの場合の有機発光層106は、画素の中心が最も薄く、隔壁103にむかうにつれて厚くなっている。また、図1bの場合の有機発光層106は、画素の中心が最も厚く、隔壁103にむかうにつれて、薄くなっている。なお、有機発光層106の詳細な構成については、後述する。
【0035】
電子注入層107は、電子を注入する層であり、有機発光層106上に形成されている。また、電子注入層107の膜厚は、有機発光層106の膜厚同様、画素の中心から隔壁にかけて分布を持っている。なお、電子注入層107の詳細な構成については、後述する。
インターレイヤー層105は、正孔注入層104と有機発光層106との間に形成されて、正孔注入層104及び有機灘光層14と積層している。また、インターレイヤー層105は、電子注入層や電子ブロック層を形成している。また、発光媒体層108は、隔壁103内で第一電極102上に形成されることにより、有機EL素子100を、画素(サブピクセル)として配列することを可能とし、画像表示装置とすることが可能となる。即ち、各画素を構成する有機発光層106を混色することなく、例えば、R(赤色)、G(緑色)及びB(青色)の三色に塗り分けることで、フルカラーのディスプレイパネルを作製することが可能となる。
【0036】
(正孔注入層の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、正孔注入層104の詳細な構成について説明する。正孔注入層104の膜厚は、20[nm]以上100[nm]以下の範囲内であることが好適である。これは、正孔注入層104の膜厚が20[nm]よりも薄くなると、ショート欠陥が生じやすくなり、また、正孔注入層104の膜厚が100[nm]を超えると、高抵抗化により低電流化してしまうためである。正孔注入層104の材料としては、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。これらの材料は、溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いることにより、正孔注入層104を形成する。
【0037】
また、正孔注入層104の材料として無機材料を用いる場合、無機材料としては、例えば、CuO、Cr、Mn、FeOx(x〜0.1)、NiO、CoO、Pr、AgO、MoO、Bi、ZnO、TiO、SnO、ThO、V、Nb、Ta、MoO、WO、MnO等の無機材料を用いる。そして、蒸着法、または、スパッタリング法を用いて、正孔注入層104を形成する。ただし、上記の材料は、これらに限定されるものではない。
【0038】
(有機発光層の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、有機発光層106の詳細な構成について説明する。有機発光層106は、正孔と電子を再結合させることで発光する層であり、有機発光層106から放出される表示光が単色の場合は、インターレイヤー層105を被覆するように形成するが、多色の表示光を得るためには、必要に応じてパターニングを行うことにより、好適に用いることが可能である。
【0039】
有機発光層106を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが、本実施形態では、これらの材料に限定するものではない。
【0040】
また、上記の有機発光材料は、溶媒に溶解または安定に分散させることにより、有機発光インキとなる。ここで、有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独、又は、これらの混合溶媒が挙げられる。特に、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が、有機発光材料の溶解性の面から好適である。
また、上記の有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添如されていてもよい。
【0041】
(電子注入層の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、電子注入層107の詳細な構成について説明する。電子注入層107の材料としては、例えば、透過性が高く、有機発光層106への電子注入効率が高い、仕事関数の高い材料を用いる。この場合、具体的な材料としては、LiF、BaF、CsF等の、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物が挙げられ、これ以外にも、電子注入層107の材料としては、例えば、有機材料として、A1qが挙げられるが限定するものではない。
【0042】
また、電子注入層107は、有機発光層106の中心から隔壁103へ向かう方向へ、有機発光層106の発光強度が低下する図1aの場合は、10[%]低下領域から、隔壁103にかけて厚くなるように形成されている。一方、有機発光層106の中心から隔壁103へ向かう方向へ、有機発光層106の発光強度が増加する図1bの場合は、10[%]増加する領域から、隔壁103にかけて薄くなるように形成されている。
【0043】
ここで、有機発光層106の中心から隔壁103へ向かう方向へ有機発光層106の膜厚が厚くなる図1aの場合、画素の中心膜厚から5nm厚くなる領域から有機発光層106の発光強度が10[%]低下するため、電子注入層107は画素の中心膜厚から5nm厚くなる領域から隔壁103に掛けて電子注入層107が厚くなるように形成されている。このように、高い電子注入性の必要な膜厚が厚い領域には電子注入層を厚くすることで電子注入層からの電子注入効率を向上させ、膜厚の厚い画素周辺領域と画素中央領域での発光ムラや駆動電圧を低下することができる。
一方、有機発光層106の中心から隔壁103へ向かう方向へ有機発光層106の膜厚が薄くなる図1bの場合は、画素の中心膜厚から5nm薄くなる領域から有機発光層106の発光強度が10[%]増加するため、電子注入層107は画素の中心膜厚から5nm薄くなる領域から隔壁103に掛けて電子注入層107が薄くなるように形成されている。このように、発光輝度が高くなり易い膜厚が薄い領域には電子注入層を薄くすることで電子注入層からの電子注入効率を抑えて発光輝度を抑え、膜厚の薄い画素周辺領域と画素中央領域での発光ムラや駆動電圧を低下することができる。
【0044】
(第二電極の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、第二電極109の詳細な構成について説明する。第二電極109は、基板2及び発光媒体層108上に形成されており、第一電極102と対向している。ここで、第二電極109は、例えば、電子注入層107への、水や酸素の浸入を防ぐために、隔壁103及び発光媒体層108全体を覆うように形成する。第二電極109の材料としては、第二電極109を陰極とする場合には、例えば、Mg、Al、Yb等の金属単体を用いる。
【0045】
(封止体について)
有機EL素子100を、上述したトップエミッション方式で作成する場合、発光媒体層108から、基板101と反対側の封止体を通して放射される表示光を取り出すためには、可視光波長領域に対して、光透過性が必要となる。また、有機EL素子100は、電極(第一電極102、第二電極109)間に発光材料(発光媒体層108)を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機発光層106の材料である有機発光材料は、大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまう。このため、通常、有機EL素子100には、外部と遮断するための封止体(図示せず)を設ける。このような封止体は、例えば、封止材上に樹脂層を設けて形成することが可能である。
【0046】
上記の封止材の材料としては、水分や酸素の透過性が低い基材を用いる必要がある。ここで、封止材の材料としては、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルム等を挙げる
ことができる。耐湿性フィルムとしては、例えば、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルム、または、吸水剤を塗布した重合体フィルム等がある。ここで、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、1×10−6[g/m/day]以下であることが好適である。
【0047】
樹脂層の材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン樹脂等からなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、二液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物等の熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。
【0048】
また、樹脂層を封止材の上に形成する方法としては、例えば、溶剤溶液法、押出ラミネーション法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法等を挙げることができる。この場合、必要に応じて、吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることも可能である。ここで、封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL表示装置の大きさや形状により任意に決定されるが、5[μm]以上500[μm]以下の範囲内程度が好適である。
【0049】
なお、上記の説明では、封止体を、封止材上に樹脂層として形成したが、封止体を、有機EL素子100側に、直接形成することも可能である。また、有機EL素子100と封止体との貼り合わせは、封止室で行う。ここで、封止体を、封止材と樹脂層の二層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好適である。一方、樹脂層に熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに、硬化温度で加熱硬化を行うことが好適である。また、樹脂層に光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことが可能である。
【0050】
なお、上述したような封止材を用いて封止を行う前や、その代わりに、例えば、パッシベーション膜として、EB蒸着法やCVD法等のドライプロセスを用いて、窒化珪素膜等無機薄膜による封止体を用いることも可能である。また、これらを組み合わせた封止体を用いることも可能である。この場合、上述したパッシベーション膜の膜厚は、100[nm]以上500[nm]以下の範囲内とすることが可能である。特に、材料の透湿性や、水蒸気光透過性等により異なるが、パッシベーション膜の膜厚を、150[nm]以上300[nm]以下の範囲内とすることが好適である。また、有機EL素子100を、上述したトップエミッション型の構造とした場合、上記の特性に加え、光透過性を考慮する必要があるため、可視光波長領域の全平均で70[%]以上であれば好適である。
【0051】
(有機EL素子の製造方法)
以下、図1及び2を参照しつつ、図3を用いて、有機EL素子100の製造方法を説明する。有機EL素子100を製造する際には、まず、基板101上に第一電極102を形成する、第一電極形成工程を行う。即ち、有機EL素子100の製造方法には、第一電極形成工程を含む。第一電極形成工程において、第一電極102を形成する方法としては、第一電極102の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。また、第一電極102を形成する方法としては、乾式成膜法以外にも、グラビア印刷法や、スクリーン印刷法等の湿式成膜法等を用いることが可能である。
【0052】
ここで、第一電極102のパターニング方法としては、第一電極102の材料や成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法等の既存のパターニング法を用いることが可能である。なお、基板101としてTFT200を形成した基板(図2参照)を用いる場合は、下層の画素に対応して導通を図ることができるように形成する。
【0053】
そして、基板101上に第一電極102を形成した後、第一電極102の周囲を囲む隔壁103を基板101上に形成する、隔壁形成工程を行う。即ち、有機EL素子100の製造方法には、隔壁形成工程を含む。隔壁形成工程において、第一電極102を形成した基板101上に隔壁103を形成する方法としては、例えば、第一電極102を形成した基板101上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、第一電極102を形成した基板101上に感光性樹脂を積層し、フォトリソ法により所定のパターンとする方法が挙げられる。
【0054】
また、必要に応じて、隔壁103の材料に、撥水剤を添加することや、プラズマやUVを照射して、隔壁103の形成後に、隔壁103に対して、インクに対する撥液性を付与することも可能である。隔壁形成工程により基板101上に隔壁103を形成した後、発光媒体層108を第一電極102上に形成する、発光媒体層形成工程を行う。即ち、有機EL素子100の製造方法には、発光媒体層形成工程を含む。
【0055】
発光媒体層形成工程は、正孔注入層104を第一電極102上が覆うように形成する正孔注入層形成工程と、有機発光層106を正孔注入層104上に形成する有機発光層形成工程と、電子注入層107を有機発光層106上に形成する電子注入層形成工程を含む。
正孔注入層形成工程では、正孔注入層104の材料に応じて、正孔注入層104の材料を溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法やスリットコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、凸版印刷法によって形成する方法や、抵抗加熱蒸着法によって形成する方法を用いる。
【0056】
また、これらの方法以外に、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライ成購法や、スピンコート法、ゾルゲル法等のウェット成膜法等、既存の成膜法を用いてもよい。なわち、発光媒体層108が含む層(正孔注入層104、有機発光層106、電子注入層107)のうち少なくとも一つの層は、ウェットプロセス法を用いて形成してもよい。
【0057】
有機発光層形成工程では、有機発光層106の材料に応じて、インクジェット印刷法、ノズルプリント印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等のウェット成膜法等既存の成膜法を用いる。特に、有機発光材料を、溶媒に溶解、または、安定に分散させた有機発光インキを用いて、有機発光層106を各発光色に塗り分ける場合には、隔壁103間にインキを転写してパターニングできるインクジェット法、ノズルプリント法、凸版印刷法が好適である。
【0058】
即ち、有機発光層形成工程では、第一電極102上を覆うように形成された正孔注入層104上に、有機発光層106の材料である有機発光材料を溶媒に溶解または分散させた有機発光インキを塗工して、有機発光層106をパターン化して形成する。また、有機発光層形成工程は、印刷法、インクジェット法及びノズルプリント法のうち何れかを用いて行う。なお、上述した成膜法以外の方法を用いて、有機発光層106を形成してもよい。
【0059】
ここで、図3を用いて、上記の凸版印刷法により、有機発光層106を形成する手順を説明する。図3は、凸版印刷法に用いる凸版印刷装置300の概略構成を示す図である。
図3に示すように、凸版印刷装置300は、有機発光材料からなる有機発光インキを、第一電極102、正孔注入層104、インターレイヤー層105が形成された基板101上にパターン印刷する際に用いる装置であり、インキタンク301と、インキチャンバー302と、アニロックスロール303と、凸部を有する凸版305がマウントされた版胴306を有している。
【0060】
インキタンク301には、溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー302には、インキタンク301から、有機発光インキが送り込まれるようになっている。アニロックスロール303は、インキチャンバー302のインキ供給部に接して、インキチャンバー302へ回転可能に支持されている。
上記のパターン印刷を行う際には、アニロックスロール303の回転に伴い、アニロックスロール303の表面に供給された有機発光インキのインキ層304が、均一な膜厚に形成される。このインキ層304のインキは、アニロックスロール303に近接して回転駆動される版胴306にマウントされた凸版305の凸部に転移する。そして、ステージ308に、被印刷基板307(基板101)が設置されており、凸版305の凸部にあるインキが被印刷基板307(基板101)に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経て、基板101上に有機発光層106が形成されることとなる。
【0061】
なお、他の発光媒体層(例えば、インターレイヤー層105)をインキ化して塗工する場合についても、上記と同様の形成方法を用いて、基板101上に層を形成することが可能である。ここで、本実施形態の有機EL素子100は、発光媒体層108が、正孔注入層104と、有機発光層106と、電子注入層107に加え、インターレイヤー層105を含んでいる。このため、本実施形態では、有機発光層形成工程の後工程として、インターレイヤー層105を形成するインターレイヤー層形成工程を行う。即ち、本実施形態では、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層105を形成するインターレイヤー層形成工程を含んでいる。
【0062】
インターレイヤー層105形成工程において、インターレイヤー層105を形成する際には、インターレイヤー層105の材料として、ポリビニルカルバゾール、またはその誘導体、側鎖、または主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等の、芳香族アミンを含むポリマー等を用い、これらの材料を、溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法やインクジェット法、ノズルプリント法、凸版印刷法、スリットコート法、バーコート法を用いて形成する。
【0063】
電子注入層107形成工程では、有機発光層106よりも面積が小さいマスクパターンを用いて、電子注入層107の材料に応じ、抵抗過熱法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等を用いて、電子注入層107を形成する。
なお、本実施形態では、有機発光層106形成工程の後工程として、電子注入層107形成工程を行う。
【0064】
上述した発光媒体層形成工程により発光媒体層108を形成した後、基板101及び発光媒体層108上に、第二電極109を形成する、第二電極形成工程を行う。即ち、有機EL素子100の製造方法には、第二電極形成工程を含む。第二電極形成工程において、第二電極109を形成する方法としては、第二電極109の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。第二電極109を形成した後、上述した封止体を形成して、有機EL素子100の製造を終了する。
【0065】
(第一実施形態の効果)
以下、第一実施形態の効果を記載する。本実施形態の有機EL素子100及びその製造方法であれば、画素の中心の有機発光層106の膜厚を基準にして、隔壁103に向かって有機発光層106の膜厚が厚くなる場合は電子注入層107の膜厚を厚くし、逆に薄くなる場合は、電子注入層107も薄くし、膜厚の厚い部分と薄い部分で電子注入性を調整することが可能となる。このため、有機EL素子100が備える発光媒体層108において、有機発光層106の画素の中心膜厚より厚い部分や、薄い部分での輝度ムラや輝度低下を抑制することが可能となる。その結果、画素内で発生する発光ムラや輝度低下を抑制することが可能な、有機EL素子100及びその製造方法を提供することが可能となる。
【0066】
(変形例)
以下、第一実施形態の変形例を列挙する。
(1)本実施形態の有機EL素子100では、発光媒体層108の構成を、正孔注入層104と、有機発光層106と、インターレイヤー層105を含んでいる構成としたが、これに限定するものではなく、発光媒体層108の構成に、インターレイヤー層105を含んでいない構成としてもよい。
(2)本実施形態の有機EL素子100の製造方法では、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層105を形成するインターレイヤー層105形成工程を含んでいるが、これに限定するものではなく、発光媒体層106形成工程が、インターレイヤー層105形成工程を含んでいなくともよい。
【0067】
(実施例)
以下、図1から図3を参照しつつ、図4を用いて、上述した第一実施形態の有機EL素子100と、二種類の比較例の有機EL素子を製造し、両者に対する物性の評価を行った結果について説明する。なお、以下の説明では、第一実施形態の二種類の有機EL素子100を実施例1、実施例2と記載する。同様に、以下の説明では、二種類の比較例の有機EL素子を、それぞれ、比較例1、比較例2と記載する。ここで、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の有機EL素子は、全て、有機発光層106の色を青色とした。
【0068】
(実施例1)
実施例1の有機EL素子100を製造する際には、基板101として、基板101上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタ200と、その上方に形成された第一電極102(画素電極)とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。また、アクティブマトリクス基板のサイズは、200[mm]×200[mm]である。さらに、上記のアクティブマトリクス基板は、その中に対角が5インチであり、画素数が320×240のディスプレイが中央に配置されている。そして、上記のアクティブマトリクス基板上に、スパッタ法を用いて、厚さ150[nm]のITO膜を形成し、これを第一電極102とした。
【0069】
さらに、第一電極102の周囲を囲んで画素を区画するような形状で、隔壁103を形成した。ここで、隔壁103を形成する際には、まず、アクリル系のフォトレジスト材料を、アクティブマトリクス基板の全面に厚さ2[μm]で形成した後、上記のフォトレジスト材料に対して、フォトリソグラフィ法により、第一電極102上に幅30[μm]の隔壁103を形成した。
【0070】
次に、上記のように形成した第一電極102及び隔壁103上に、厚さ20[nm]の酸化モリブデン(MoOx)を、スパッタリング製膜により成膜して、正孔注入層104を形成した。そして、インターレイヤー層105の材料であるポリビニルカルバゾール誘導体を、濃度が0.5[%]となるように、トルエンに溶解させたインキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極102の真上に、そのラインパターンに合わせて、凸版印刷法で印刷を行った。このとき、300[線/インチ]のアニロックスロール及び感光性樹脂版を使用した。その結果、印刷・乾燥後のインターレイヤー層105の膜厚は、20[nm]となった。
【0071】
次に、青色の有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を、その濃度が1[%]となるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極102の真上に、そのラインパターンに合わせて、有機発光層106を凸版印刷法で印刷した。このとき、150[線/インチ]のアニロックスロール405及び水現像タイプの感光性樹脂板を使用した。その結果、印刷・乾燥後の有機発光層106の膜厚は、画素の中心が最も薄く60[nm]で、隔壁103に向かうにつれて厚くなり、画素の端から10μm離れた画素内の点における膜厚が、画素の中心膜厚より5nm厚くなり、この点から画素の端まで膜厚が増加した。
【0072】
次に、電子注入層107として、2種類のメタルマスクを用いた真空蒸着法により2回に分けてBaを形成した。ここで、上記のメタルマスクは、画素の端から、画素の中心に向かって10[μm]以内の範囲が開口している第1メタルマスク(図4a)と、画素全体が開口している第2マスク(図示せず)を用いた。まず、第1メタルマスクを用い、画素の端から10[μm]までの領域にBaを1.2[nm]形成し、次に第2メタルマスクを用い画素全体にBaを4.0[nm]形成した。
【0073】
さらに、第二電極109として、アルミニウム膜を、第2メタルマスクを用いた真空蒸着法により、隔壁103及び発光媒体層108の上面を覆う広さで、厚みが150[nm]となるように成膜した。そして、上記のように第二電極109を成膜したアクティブマトリクス基板に対し、封止材としたガラス板を、発光領域全てをカバーするように載せた後、約90[℃]で一時間程度、接着剤を熱硬化させて封止を行った。
【0074】
(実施例2)
隔壁を形成する工程までは、実施例1と同じ工程により作成を行なった。次に、第一電極102及び隔壁103上に、厚さ20[nm]の酸化モリブデン(MoOx)を、スパッタリング製膜により成膜して、正孔注入層104を形成した。そして、インターレイヤー層105の材料であるポリビニルカルバゾール誘導体を、濃度が0.5[%]となるように、トルエンに溶解させたインキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極102の真上に、そのラインパターンに合わせて、インクジェット法で印刷を行った。その結果、印刷・乾燥後のインターレイヤー層105の膜厚は、20[nm]となった。
【0075】
次に、青色の有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を、その濃度が1[%]となるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極102の真上に、そのラ
インパターンに合わせて、有機発光層106をインクジェット法で印刷した。その結果、
印刷・乾燥後の有機発光層106の膜厚は、画素の中心が最も厚く60[nm]で、隔壁
103に向かうにつれて薄くなり、画素の端から10μm離れた画素内の点における膜厚が、画素の中心膜厚より5nm薄くなり、この点から画素の端まで膜厚が減少した。
【0076】
次に、電子注入層107として、2種類のメタルマスクを用いた真空蒸着法により2回に分けてBaを形成した。ここで、上記のメタルマスクは、画素の中心から隔壁に向かって距離が±5[μm]まで開口している第3メタルマスク(図4b)と、画素全体が開口している前記第2メタルマスクを用いた。まず、第3メタルマスクを用い、画素の中心から10[μm]までの領域に、Baを1.2[nm]形成し、次に第2メタルマスクを用いて画素全体にBaを4.0[nm]形成した。
(比較例1)
比較例1の有機EL素子は、電子注入層を、有機発光層全体を均一な膜厚で覆うように形成した。その他の材料、各層の厚さ、工程は、上述した実施例1と同様とした。比較例1においても、画素の端から10μm離れた画素内の点における膜厚が、画素の中心膜厚より5nm厚くなり、この点から画素の端まで膜厚が増加した。
(比較例2)
比較例2の有機EL素子は、電子注入層を、有機発光層全体を均一な膜厚で覆うように成した。その他の材料、各層の厚さ、工程は、上述した実施例2と同等とした。比較例2においても、画素の端から10μm離れた画素内の点における膜厚が、画素の中心膜厚より5nm薄くなり、この点から画素の端まで膜厚が減少した。
【0077】
(実施例及び比較例に対する物性の評価)
上記の手順によって得られた、実施例1及び2、比較例1及び2の有機EL素子に対して、7V駆動時の輝度及び発光状態の顕微鏡による目視確認、150[cd/m]時の駆動電圧を測定し、比較を行った。
発光状態の目視の確認の結果、実施例1及び2では画素内での輝度ムラや輝度低下は見られなかった。一方、比較例1では、画素の端から10μm離れた画素内の点における膜厚が画素の中心膜厚より5nm厚くなっている点から発光強度が10[%]低下し、比較例2では、画素の端から10μm離れた画素内の点における膜厚が画素の中心膜厚より5nm薄くなっている点から発光強度が10[%]増加し、輝度ムラとなって観測された。
また、表1に示した輝度と電圧の比較結果から、実施例1は比較例1と比較して30%の輝度が向上し、150[cd/m]時の駆動電圧が0.5V低電圧化した。実施例2では、比較例2と比較して30%の輝度が向上し、150[cd/m]時の駆動電圧が0.7V低電圧化した。以上のことにより、本発明を実施することにより輝度ムラや輝度低を抑制できただけでなく、輝度が向上し、駆動電圧の低電圧化するという結果が得られた。
【0078】
【表1】

【符号の説明】
【0079】
100・・・有機EL素子
101・・・基板(支持体)
102・・・第1電極
103・・・隔壁
104・・・正孔輸送層
105・・・インターレイヤー層
106・・・有機発光層
107・・・電子注入層
108・・・発光媒体層
109・・・第2電極(陰極)
200・・・薄膜トランジスタ(TFT)
201・・・画素電極
202・・・支持体
203・・・活性層
204・・・ゲート絶縁膜
205・・・ゲート電極
206・・・ソース電極
207・・・ドレイン電極
208・・・走査線
209・・・絶縁膜
210・・・TFT付き基板
211・・・隔壁
300・・・凸版印刷装置
301・・・インキタンク
302・・・インキチャンバー
303・・・アニロックスロール
304・・・インキ層
305・・・凸版
306・・・版胴
307・・・被印刷基板
308・・・ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板上に形成された第一電極と、前記基板上に形成され且つ前記第一電極の周囲を囲む隔壁と、前記隔壁内で前記第一電極上に形成されて画素を構成する発光媒体層と、前記隔壁及び前記発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、前記発光媒体層は、電子注入層を除き、前記隔壁から画素の中心に近づくほど膜厚が減少又は増加している発光媒体層の膜上に、膜厚が不均一な電子注入注入層が少なくとも1層形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記発光媒体層は、有機発光層の下に形成された正孔注入層を含むことを特徴とする請求項1に記載した有機EL素子。
【請求項3】
前記電子注入層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物を用いて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した有機EL素子。
【請求項4】
前記電子注入層は、有機物を用いて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した有機EL素子。
【請求項5】
有機発光層の発光強度が画素の中心より隔壁側が減少する場合、画素の中心から当該発光強度が10%減少する領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該発光強度が10%減少する領域から隔壁側の電子注入層の厚さを厚くし、有機発光層の発光強度が画素の中心より隔壁側が増大する場合、画素の中心から当該発光強度が10%増大する領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該発光強度が10%増大する領域から隔壁側の電子注入層の厚さを薄くしたことを特徴とする請求項1から請求項4のうち何れか一項に記載した有機EL素子。
【請求項6】
有機発光層の発光膜厚が、画素の中心より隔壁側が厚くなる場合、画素の中心膜厚から当該膜厚が5nm厚くなる領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該膜厚が中心より5nm以上厚くなる領域から隔壁側の電子注入層の厚さを厚くし、有機発光層の発光強度が画素の中心より隔壁側が増大する場合、画素の中心から当該膜厚が5nm薄くなる領域まで電子注入層の厚さを均一とし且つ当該膜厚が5nm以上薄くなる領域から隔壁側の電子注入層の厚さを薄くしたことを特徴とする請求項1から請求項4のうち何れか一項に記載した有機EL素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうち何れか一項に記載した有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、前記発光媒体層に含まれる層のうち少なくとも一つの層を、ウェットプロセス法を用いて形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216810(P2012−216810A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−71355(P2012−71355)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】