説明

有機EL素子及び有機EL素子の製造方法

【課題】長寿命化が可能な有機EL素子及び有機EL素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】発光層12が、燐光材料を含有し、正孔注入輸送層11は、陽極層3及び陰極層5で挟持された状態で、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子及び有機EL素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)素子は、薄型、全固体型、面状自発光及び高速応答であるといった特徴を有する発光装置であり、フラットディスプレイパネルやバックライトへの応用が期待されている。また、近年では、発光材料の三重項励起状態に起因する燐光を発光に用いる高効率な有機EL素子が提案されている。燐光材料が注目されているのは、燐光材料が原理的に高効率化を実現しやすい材料であると考えられているからである。すなわち、キャリア再結合により生成される励起子が一重項励起子と三重項励起子とからなり、その確率が1:3である。一重項を利用した有機EL素子では、一重項励起子から基底状態に遷移する際の蛍光を発光として取り出していたが、原理的にその発光収率が生成された励起子数に対して25%であってこれが原理的上限であった。しかし、三重項から発生する励起子からの燐光を用いれば、原理的に少なくとも3倍の収率が期待される。さらに、燐光を用いることにより、エネルギー的に高い一重項から三重項への項間交差による転移を考え合わせれば、原理的には4倍の100%の発光収率が期待できる。
【0003】
ところで、このような有機EL素子における有機発光層を構成する材料としては、大きく分けて高分子系のものと低分子系のものとに分類される。高分子系材料は、有機溶媒に対する溶解性が比較的高いため、インクジェット法などの液滴吐出法による選択塗布が可能となる。一方、低分子系材料は、高分子系材料と比較して発光特性に優れている。
そして、液滴吐出法などの湿式法により形成された高分子系材料を用いた有機EL素子では、正孔注入層から発光層への正孔注入を促進するために高い導電性を有する有機膜を正孔注入層として用いている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2005−276749号公報
【特許文献2】特開2005−276514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の有機EL素子においても、以下の課題が残されている。すなわち、低分子材料で構成されて燐光材料からなる発光層を有する有機EL素子では、高い導電性を有する材料により正孔注入層を形成すると、発光層内で正孔が過剰に存在することとなる。そのため、発光層内において注入された電子と再結合しない正孔が多量に存在し、発光層内が過酸化状態となったり、発光層を透過した正孔により電子輸送層が劣化したりするという問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、長寿命化が可能な有機EL素子及び有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明にかかる有機EL素子は、陽極層及び陰極層の間に正孔機能層及び発光層が設けられた有機EL素子であって、前記発光層が、燐光材料を含有し、該正孔機能層は、前記陽極層及び前記陰極層で挟持された状態で、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となることを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる有機EL素子の製造方法は、陽極層及び陰極層の間に正孔機能層及び発光層が設けられた有機EL素子の製造方法であって、前記正孔機能層を形成する工程は、前記陽極層及び前記陰極層で前記正孔機能層を挟持した状態で、前記陽極層及び前記陰極層の間の電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となる正孔機能材料を含有する液状体を塗布する工程を有し、前記発光層を形成する工程は、燐光材料を含有する液状体を塗布する工程を有することを特徴とする。
【0008】
この発明では、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となる正孔機能層を有することで、発光効率を維持したまま長寿命化が図れる。すなわち、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下にすると、正孔機能層の抵抗率が、5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下となる。このように、抵抗率を5×10Ω・cm以上とすることで、正孔が発光層内に存在することを防止する。これにより、発光層が過酸化状態となることを抑制して有機EL素子の長寿命化が図れる。また、抵抗率を5×1011Ω・cm以下とすることで、発光効率を維持できる。
【0009】
また、本発明にかかる有機EL素子は、前記正孔機能層は、前記陽極層及び前記陰極層で挟持した状態で、前記陽極層及び前記陰極層の間の電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上0.5mA/cm以下となることが好ましい。
この発明では、電流密度を0.001mA/cm以上5mA/cm以下(抵抗率を1×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下)とすることで、より確実に発光効率を維持できる。
【0010】
また、本発明にかかる有機EL素子は、前記正孔機能層が、内部に分散配置された粒状体を有することとしてもよい。
この発明では、正孔機能層内に粒状体を分散配置することで、正孔機能層の抵抗率を5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下とする。
【0011】
また、本発明にかかる有機EL素子は、前記正孔機能層の表面に改質処理が施されていることとしてもよい。
この発明では、正孔機能層に改質処理を施すことにより、正孔機能層の抵抗率を5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔有機EL素子〕
以下、本発明における有機EL素子の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。ここで、図1は有機EL素子を示す概略構成図、図2は正孔注入輸送層の評価素子を示す説明図である。
【0013】
本実施形態における有機EL素子1は、図1に示すように、基板2と、基板2の上面に基板2側から順に積層された陽極層3、発光機能層4及び陰極層5とを備えている。すなわち、有機EL素子1は、発光機能層4で発光した光を陽極層3から射出するボトムエミッション構造を有している。
【0014】
基板2は、例えばガラスなどの透光性材料で構成された基板本体上に薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと称する)素子からなる駆動素子(図示略)や信号線(図示略)及び走査線(図示略)などを形成して構成されている。
【0015】
陽極層3は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極で構成され、上述した駆動素子や信号線及び走査線などと接続するようにパターニングすることで形成されている。
【0016】
発光機能層4は、陽極層3側から順に積層された正孔注入輸送層(正孔機能層)11、発光層12及び電子機能層13を備えている。
正孔注入輸送層11は、陽極層3で発生した正孔を発光層12に向けて移動させる機能を有している。
ここで、正孔注入輸送層11を構成する正孔注入輸送材料(正孔機能材料)としては、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)やポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、トリアリールアミン誘導体などが挙げられる。トリアリールアミン誘導体としては、例えばTAPC(1,1−ビス−(4−ビス(4−メチル−フェニル)−アミノ−フェニル)−シクロヘキサン)、TPD(4,4’−ビス(N−(m−トリル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル)、α−NPD(4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル)、m−MTDATA(4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、2−TNATA(4,4’,4”−トリス(2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、TCTA(4,4’,4”−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン)、スピロ−TAD(2,2,7,7−テトラ−(3−メチルジフェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン)、(DTP)DPPD、HTM1(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン)、TPTE1、NTPA(4,4’−ビス(N−(4’−(N”−(1−ナフチル)−N”−フェニルアミノ)ビフェニル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル)、TFLTFなどが挙げられる。
【0017】
また、正孔注入輸送層11には、微粒子14が分散配置されている。この微粒子14は、例えばSiO(二酸化シリコン)やアルミナ、ジルコニアなどの無機酸化物やSiN(窒化シリコン)などの無機窒化物のような絶縁体または半導体で構成されている。
ここで、微粒子14は、その平均粒径が0.5nm以上100nm以下となっており、正孔注入輸送層11に対して0.1重量%以上10重量%以下の濃度で分散している。このように微粒子14の平均粒径を0.5nm以上100nm以下にすることで、微粒子14によって正孔注入輸送層11中の正孔の移動が阻害されることを抑制し、陽極層3から注入された正孔を発光層12に移動させる正孔注入輸送層11としての機能が良好に維持される。また、微粒子14の分散濃度を0.1重量%以上10重量%以下とすることによっても、上述と同様に、正孔注入輸送層11としての機能が良好に維持される。
【0018】
なお、微粒子14の表面には、正孔注入輸送材料を溶解または分散させる溶媒または分散媒中に均一に分散させるための被覆膜を形成してもよい。例えば正孔注入輸送材料としてPEDOT/PSSを用いる場合には、微粒子14が無機酸化物で構成したときにおいて親水性であることから、界面活性剤を被覆膜とする。
そして、正孔注入輸送層11は、微粒子14の構成材料や粒径、分散量を調整することにより、図2に示すように陽極層3及び陰極層5で正孔注入輸送層11を挟持した状態で、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となっている。なお、正孔注入輸送層11は、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上0.5mA/cm以下であることが好ましい。
【0019】
発光層12は、低分子系材料で構成されており、燐光を発光可能な燐光材料を含んで構成されている。ここで、燐光材料としては、PtOEP(白金ポルフィリン錯体)、BtpIr(イリジウム錯体)、PAT(ポリアルキルチオフェン)、Ir(ppy)(イリジウム錯体)、FIrpic(イリジウム錯体)誘導体などが挙げられる。PtOEP、BtpIr、PATは赤色燐光材料であり、Ir(ppy)は緑色燐光材料であり、FIrpicは青色燐光材料である。また、発光層12は、CBP(4,4−ジカルバゾール−4,4−ビフェニル)誘導体などのホスト材料を含んだ構成としてもよい。燐光材料をホスト材料に対する発光ドーパントとすることで、発光効率の高い有機EL素子とすることができる。
【0020】
電子機能層13は、発光層12側から順に正孔ブロック層15及び電子注入輸送層16を積層した構成となっている。
正孔ブロック層15は、発光層12において電子と再結合せずに発光層12を透過した正孔が電子注入輸送層16に到達することを阻止する機能を有している。これにより、電子注入輸送層16において正孔が過剰に存在することを防止して電子注入輸送層16が酸化反応により劣化することを防止する。
ここで、正孔ブロック層15を構成する正孔ブロック材料としては、正孔の注入に対して発光層12よりも高いバンド障壁を有する、トリアゾール誘導体やポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0021】
電子注入輸送層16は、陰極層5で発生した電子を発光層12に向けて移動させる機能を有している。ここで、電子注入輸送層16を構成する電子注入輸送材料としては、アントラキノン誘導体やオキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、フェナンソロリン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体などが挙げられる。
【0022】
陰極層5は、電子注入輸送層16上に形成されており、電子注入輸送層16の上面から順にLiF(フッ化リチウム)層、Ca(カルシウム)層及びAl(アルミニウム)層を積層した構成となっている。そして、陰極層5上には、封止層(図示略)が形成されている。
【0023】
〔有機EL素子の製造方法〕
次に、以上のような構成の有機EL素子1の製造方法を説明する。
まず、基板2を形成する。ここでは、上述した基板本体上にTFT素子や信号線、走査線、絶縁膜などを形成する。
次に、基板2上に陽極層3を形成する。ここでは、蒸着法などにより基板2上にITO膜を形成し、これをパターニングする。ここで、陽極層3が形成された基板2の洗浄後、大気圧において酸素プラズマ処理を施すことにより、陽極層3の表面を親液性に改質する。
【0024】
続いて、陽極層3上に正孔注入輸送層11を形成する。ここでは、正孔注入輸送材料を溶媒または分散媒に溶解または分散させた液状体を、インクジェット法などの液滴吐出法などにより陽極層3上に塗布する。ここで、正孔注入輸送材料を溶解または分散させる溶媒または分散媒としては、例えばシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン及びこれらを混合したものなどの無極性溶媒が用いられる。そして、塗布した液状体を乾燥させて溶媒を除去し、正孔注入輸送層11を形成する。
【0025】
次に、正孔注入輸送層11上に発光層12を形成する。ここでは、発光材料を溶媒に溶解させた液状体を、上述と同様にインクジェット法などの液滴吐出法などにより正孔注入輸送層11上に塗布する。そして、塗布した液状体を乾燥させて溶媒を除去し、発光層12を形成する。
続いて、発光層12上に正孔ブロック層15を形成する。ここでは、正孔ブロック材料を溶媒または分散媒に溶解または分散させた液状体を、上述と同様にインクジェット法などの液滴吐出法などにより発光層12上に塗布する。そして、塗布した液状体を乾燥させて溶媒または分散媒を除去し、正孔ブロック層15を形成する。
【0026】
次に、正孔ブロック層15上に電子注入輸送層16を形成する。ここでは、電子注入輸送材料を溶媒または分散媒に溶解または分散させた液状体を、上述と同様にインクジェット法などの液滴吐出法などにより正孔ブロック層15上に塗布する。そして、塗布した液状体を乾燥させて溶媒または分散媒を除去し、電子注入輸送層16を形成する。
続いて、発光層12上に陰極層5を形成する。ここでは、発光層12上に真空蒸着法などにより上記LiF層、Ca層及びAl層を順に形成する。その後、陰極層5上に上記封止層を形成する。以上のようにして、有機EL素子1を製造する。
【0027】
ここで、正孔注入輸送層11における微粒子14の分散量を変更した試料1〜6の輝度の半減寿命を測定した結果を表1及び図3に示す。なお、表1及び図3には、正孔注入輸送層11を陽極層3及び陰極層5で挟持して陽極層3及び陰極層5の間の電界強度を5×10V/cmとしたときの正孔注入輸送層11中の電流密度及びそのときの抵抗率を示している。また、表1及び図3では、各試料において発光層12を構成する燐光材料としてIr(ppy)(緑色燐光)、Pt(OEP)(赤色燐光)を用いたときの輝度の半減寿命をそれぞれ示している。
このとき、Ir(ppy)を用いたときの初期状態の輝度は、4000cd/mであり、Pt(OEP)を用いたときの初期状態の輝度は、2000cd/mである。また、正孔注入輸送層11を構成する正孔注入輸送材料としては、PEDOT/PSSを用いている。そして、正孔ブロック層15を構成する正孔ブロック材料としては、BAlq(ビス(2メチル−8−キノリノラト)(パラフェニルフェノラート)アルミニウム錯体)などのトリアゾール誘導体を用いている。さらに、電子注入輸送層16を構成する電子注入輸送材料としては、Alq(トリス−8−キノリノラトアルミニウム錯体)などのアントラキノン誘導体を用いている。
【0028】
【表1】

【0029】
表1及び図3に示すように、電界強度を5×10V/cmとしたときに電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下(抵抗率が5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下)となる正孔注入輸送層11を用いることにより、発光効率を維持したままで長寿命化が図れていることがわかる。また、正孔注入輸送層11における電流密度を0.001mA/cm以上5mA/cm以下(抵抗率を1×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下)とすることで、より確実に発光効率を維持できる。
【0030】
以上のような構成の有機EL素子1は、例えば図4及び図5に示すような有機EL表示装置50を構成する。ここで、図4は、有機EL表示装置を示す概略平面図、図5は有機EL表示装置を示す等価回路図である。
有機EL表示装置50は、図4に示すように、平面視でほぼ矩形状の基板2の中央部分の実表示領域51a(図4中の二点差線で囲まれた領域)と実表示領域51aの周囲に形成されたダミー領域51b(図4中の一点鎖線で囲まれた領域と二点差線で囲まれた領域との間)とで構成された画素部51c(図4中の一点鎖線で囲まれた領域)が設けられている。
【0031】
また、有機EL表示装置50の実表示領域51aには、図5に示すような格子状に配置された複数の画素領域Aと複数のデータ線52、走査線53及び電源線54とが設けられている。そして、有機EL表示装置50のダミー領域51bには、図4及び図5に示すように、データ線駆動回路55及び走査線駆動回路56が設けられている。さらに、有機EL表示装置50の画素部51cの外側には、図4に示すように、陰極層5に接続される陰極用配線57が設けられている。
【0032】
複数の画素領域Aには、図5に示すように、それぞれ画素電極となる陽極層3と、陽極層3をスイッチング制御するためのTFT素子61、62と、保持容量63とが設けられている。
TFT素子61は、ゲートが走査線53に接続されており、ソースがデータ線52に接続されており、ドレインがTFT素子62及び保持容量63に接続されている。そして、TFT素子61は、走査線53を介して供給された走査信号に応じてデータ線52を介して供給された画像信号を保持容量63に供給する構成となっている。
TFT素子62は、ゲートがTFT素子61のドレインに接続されており、ソースが電源線54に接続されており、ドレインが陽極層3に接続されている。そして、TFT素子62は、保持容量63を介して供給された画像信号に応じて電源線54を介して供給される駆動電流を陽極層3に供給する構成となっている。
【0033】
データ線52、走査線53及び電源線54は、実表示領域51a内において格子状に配置されている。そして、データ線52がデータ線駆動回路55に接続されており、走査線53が走査線駆動回路56に接続されている。
これらTFT素子61、62、保持容量63、データ線52及び走査線53は、上述した基板2に形成されている。
なお、基板2上には、各画素領域Aを区画する隔壁(図示略)が設けられている。そして、各画素領域Aにおける発光機能層4は、隔壁により隣接する画素領域Aにおける発光機能層4と区画される。また、陰極層5は、実表示領域51aに配置された複数の有機EL素子1の陰極層5と一体的に形成されている。
【0034】
〔電子機器〕
以上のような構成の有機EL表示装置50は、例えば図6に示すような携帯電話機(電子機器)100の表示部101として用いられる。この携帯電話機100は、表示部101、複数の操作ボタン102、受話口103、送話口104及び上記表示部101を有する本体部を備えている。
【0035】
以上のように、本実施形態における有機EL素子1及び有機EL素子の製造方法によれば、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下にすると、正孔機能層の抵抗率が、5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下となる。ここで、抵抗率を5×10Ω・cm以上とすることで、正孔が発光層内に存在することを防止して有機EL素子の長寿命化が図れる。そして、抵抗率を5×1011Ω・cm以下とすることで、発光効率を維持できる。また、電流密度を0.001mA/cm以上0.5mA/cm以下(抵抗率を1×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下)とすることで、より確実に発光効率を維持できる。
【0036】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、微粒子を分散配置させることで正孔注入輸送層の抵抗率を5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下としているが、正孔注入輸送層に改質処理を施すなど他の方法を用いることで正孔注入輸送層の抵抗率を調節してもよい。ここで、改質処理としては、正孔注入輸送層を形成した後に表面にUVオゾンや酸素プラズマ、CF(四フッ化メタン)プラズマを照射すること、アニール処理を行うことが挙げられる。また、液滴吐出法などの湿式法を用いて正孔注入輸送層を形成する場合には、溶媒や分散媒を除去する乾燥時の加熱温度や加熱雰囲気(例えば酸素雰囲気や窒素雰囲気など)を調節することで改質処理を行ってもよい。なお、改質処理としては、正孔注入輸送層の表面形状に大きくダメージを与えない処理を用いることが好ましい。
また、微粒子を分散配置させることで正孔注入輸送層の抵抗率を5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下としているが、あらかじめ抵抗率が5×10Ω・cm以上5×1011Ω・cm以下である材料を正孔注入輸送層材料として用いてもよい。
【0037】
また、正孔注入輸送層、発光層、正孔ブロック層及び正孔注入輸送層は、インクジェット法などの液滴吐出法により形成されているが、スピンコーティング法など他の湿式法を用いて形成してもよい。
【0038】
また、正孔機能層は、正孔注入輸送層のみで構成されているが、正孔注入層と正孔輸送層とを積層した構成や、正孔注入層と正孔輸送層とのいずれかのみを有する構成、発光層との間に電子ブロック層を設ける構成としてもよい。ここで、電子ブロック層は、電子が陽極層に到達することを防止する機能を有している。
そして、電子機能層は、電子注入輸送層及び正孔ブロック層を積層して構成されているが、上述と同様に、電子注入層と電子輸送層とを積層した構成や、電子注入層と電子輸送層とのいずれかのみを有する構成、正孔ブロック層を設けない構成としてもよい。
【0039】
また、有機EL素子は、基板上に陽極層を設けた構成となっているが、基板上に陰極層を設ける構成としてもよい。すなわち、陰極層よりも上層に発光層を形成すると共に、発光層上に正孔機能層を形成した構成としてもよい。
そして、有機EL素子は、基板の下面側から光を射出するボトムエミッション構造となっているが、基板の上面側から光を射出するトップエミッション構造であってもよい。このとき、発光機能層よりも上層に形成される電極層をITOなどの透光性の導電材料で形成する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態における有機EL素子を示す概略断面図である。
【図2】正孔注入輸送層の抵抗率の評価素子を示す説明図である。
【図3】正孔注入輸送層の抵抗率と輝度半減寿命との関係を示すグラフである。
【図4】有機EL表示装置を示す概略平面図である。
【図5】図4の等価回路図である。
【図6】有機EL表示装置を備える携帯電話機を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1 有機EL素子、3 陽極層、5 陰極層、11 正孔注入輸送層(正孔機能層)、12 発光層、14 微粒子、50 有機EL表示装置(表示装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極層及び陰極層の間に正孔機能層及び発光層が設けられた有機EL素子であって、
前記発光層が、燐光材料を含有し、
該正孔機能層は、前記陽極層及び前記陰極層で挟持された状態で、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記正孔機能層は、前記陽極層及び前記陰極層で挟持された状態で、電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上0.5mA/cm以下となることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記正孔機能層が、内部に分散配置された粒状体を有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記正孔機能層の表面に改質処理が施されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
陽極層及び陰極層の間に正孔機能層及び発光層が設けられた有機EL素子の製造方法であって、
前記正孔機能層を形成する工程は、前記陽極層及び前記陰極層で前記正孔機能層を挟持した状態で、前記陽極層及び前記陰極層の間の電界強度を5×10V/cmとしたときの電流密度が0.001mA/cm以上10mA/cm以下となる正孔機能材料を含有する液状体を塗布する工程を有し、
前記発光層を形成する工程は、燐光材料を含有する液状体を塗布する工程を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−277648(P2008−277648A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121456(P2007−121456)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】