説明

有機EL素子

【課題】従来の有機EL素子においては、有機発光層で放出されて有機EL素子の内部で反射された光が干渉を生じる要因となっていた。
【解決手段】第1透明バッファー領域の上に第1透明電極層(陽極)、正孔輸送層、有機発光層、第2透明電極層(陰極)及び第2透明バッファー領域の各層、各領域を順次配置した構造とし、第1透明バッファー領域側及び第2透明バッファー領域側の両側から光を取り出せるようにした。そして、有機発光層の発光界面からの距離が発光界面から放出される光のPLスペクトルから求められた可干渉距離Lc未満の範囲内に存在する境界面に於ける屈折率段差を約0.6以下となるように設定する。なお、可干渉距離LcはLc=λ/Δλ(但し、λはPLスペクトルの中心波長、Δλはスペクトル半値幅)の式で算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入型エレクトロルミネッセンス(EL)とも称され、薄膜状とした有機EL物質に電子、正孔を注入し、再結合させることで発光を行なう有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機物発光層に電流を注入することによって電気エネルギーを光エネルギーに変換する自己発光型の表示素子であり、近年、研究・開発が活発に進められている。特に、芳香族ジアミンからなる有機正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体からなる有機発光層とを設けた有機EL素子がアントラセン等を使用した電界発光素子に比べて発光効率の改善がなされて以降、研究・開発への積極的な取り組みが行なわれている(例えば、非特許文献1参照。)
【0003】
有機EL素子の一般的な構造を図15に示す。透明基板の上に透明電極層(陽極)を設け、更にその上に正孔輸送層、有機発光層及び陰極層の各層を順次真空蒸着法によって形成した構成としている。そして、陽極となる透明電極層と陰極層との間に直流電圧を印加すると、透明電極層から注入された正孔と陰極層から注入された電子が有機層(正孔輸送層及び有機発光層)に到達して電子と正孔の再結合が行なわれ、その時、電気エネルギーが光エネルギーに変換されて有機発光層から光が放出される。
【0004】
この場合、陽極と陰極との間に設けられる有機層は陽極側から順に正孔輸送層/有機発光層の2層構造としているが、他に正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層の構造のものや、正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/の構造のものや、正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層の構造のもの等があり、前記有機発光層を多層として積層したものもある。
【0005】
正孔輸送層は陽極から正孔が注入され易くする働きと、電子をブロックする働きを有している。また、電子注入層は陰極から電子が注入され易くする働きを有している。
【0006】
陽極層を形成する材料には仕事関数の大きい金属、それらの合金及び化合物が使用され、ニッケル、金、白金、パラジウムやこれらの合金或いは酸化錫(SnO)、沃化銅、更にはポリピロール等の導電性ポリマー等が可能であるが、一般的にはITOの透明電極層が多く使用されている。
【0007】
陰極層は電子注入に有効な材料で形成する必要があるために、電子注入効率の向上が図られる仕事関数の小さい金属(低仕事関数金属材料)を使用することが好ましく、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウムインジウム合金、マグネシウムアルミニウム合金、マグネシウム銀合金及びアルミニウムリチウム合金等を用いて真空蒸着法やスパッタリング法のドライプロセスによって成膜される。
【0008】
有機材料によって成膜される有機層は、トリス(8−ヒドロキシキナリナト)アルミニウム(以下、Alqと略記する)及びN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、TPDと略記する)等の低分子系材料や、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)等の高分子系材料を使用することが試みられており、高輝度化及び多色化等のための研究・開発が活発に行なわれ、実用化も始まっている。
【0009】
また、近年では図16に示すような構造の有機EL素子が提案されている。それは、陽極及び陰極の両電極を透明電極とし、有機発光層から放出された光を素子の両面から取り出せるようにすると共に、非発光時には素子を通して反対側が見通せるようなシースルータイプの発光素子を実現しようとするものである(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0010】
更に、複数の発光位置がとびとびに分離して存在する有機EL素子も提案されている。それは、「2枚の対向する電極によって挟持された有機層が、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数個有したものであり、各発光ユニットが少なくとも1層からなる電荷発生層によって仕切られた構造の有機EL素子」というもので、従来の有機EL素子に比べて電流効率(cd/A)が飛躍的に向上するといった特徴があり、高輝度の発光を得ることができる。そして、この構造に於いても1対の電極を透明にすることによって両面発光でシースルータイプの素子を実現することができる(例えば、特許文献3参照。)。
【非特許文献1】Applied Physics Letters Vol.51、p.913、1987
【特許文献1】特開平10−162959号公報
【特許文献2】特許2002−289362号公報
【特許文献3】特開2003−272860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された発明は、両面発光及びシースルー化については実現可能であるが、そのままの構造では発光時に素子の両面から出射する光が互いに異なる色調のものになってしまうという問題点を有している。これは、陰極の透明電極層と大気(空気)との屈折率段差が大きく、その境界面が反射面として働くために、陽極側の透明基板から大気中に出射される光が、発光界面から陰極方向に放出されて陰極の透明電極層と大気との境界面で反射して陽極側に向かう光と、発光界面から陽極方向に放出された光との光路差によって生じる干渉の影響を受けるためである。
【0012】
陰極にAl等の不透明材料を使用した片面発光型の従来の有機EL素子の構造に於いては、透明電極や有機層の膜厚を適宜設定して干渉の影響を抑制することによって出射される光の色調を制御する方法が提案されている。
【0013】
しかし、透明電極や有機層の膜厚制御の本来の目的は、その発光機構に鑑み、注入されたキャリアの輸送、再結合及び発光が効率良く行なわれるようにすることであり、干渉現象の抑制のみを目的に膜厚制御を行なうと電圧−輝度特性が悪くなり、結果的に外部への光取り出し効率を低下させることになる。
【0014】
仮に、透明電極や有機層の膜厚を制御して素子から出射される光への干渉の影響を抑制するように試みたとしても、両面発光型の素子に於いては、夫々の面から出射される光の色調を個々に制御することを目的とした、透明電極や有機層の膜厚設定は極めて困難な作業にならざるをえない。
【0015】
また、特許文献3に記載された、複数の発光位置がとびとびに分離して存在する有機EL素子に於いても、陽極及び陰極の両電極を透明にすることで両面発光でシースルータイプの有機EL素子を実現することができる。
【0016】
しかし、この場合は膜厚が厚いために干渉効果が顕著であり、夫々の面から出射される光の色調ズレが更に激しくなるために、透明電極や有機層の膜厚制御のみで両面から出射される光の色調を合わせることは更に困難な作業となる。
【0017】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、干渉の影響を排除した両面発光タイプの有機EL素子を実現し、その結果、発光層を構成する発光材料特有の発光スペクトルを有する光を夫々の面から外部に出射することができることによって夫々の面から外部に出射する光の色調差が無くなり、且つ、素子を構成する各層の膜厚を干渉の影響を考慮しないで設定することができることによってキャリア輸送、再結合及び発光の最適化を図って光取り出し効率を高めた有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、少なくとも1層以上の発光層を含む薄膜多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記発光界面から放出される光の可干渉距離未満の範囲内に於いては、隣接する2つの層の屈折率段差が全て0.6以下であることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記発光界面から放出される光の可干渉距離に対応する位置が前記一対の透明電極の夫々の外側に形成されたバッファー領域内に存在することを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項2において、透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の有機層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、第2透明電極層の外側には透明な材料からなる透明バッファー層が形成され、前記発光層の発光界面から前記透明基板の外側表面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記透明バッファー層の外側までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記透明基板と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記透明バッファー層と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の請求項4に記載された発明は、請求項2において、透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の有機層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、前記透明基板と前記第1透明電極の間に第1透明バッファー層、前記第2透明電極の外側に第2透明バッファー層が夫々形成され、前記発光層の発光界面から前記透明基板/前記第1透明バッファー層の境界面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記第2透明バッファー層の外側までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記第1透明バッファー層と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記第2透明バッファー層と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の請求項5に記載された発明は、請求項2において、透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の有機層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、前記第2透明電極の上方に該第2透明電極と対向するように封止用透明基板が配置されて前記第2透明電極と前記封止用透明基板の間に透明物質が充填され、前記発光層の発光界面から前記透明基板の外側表面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記透明物質/前記封止用透明基板の境界面までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記透明基板と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記透明基板と前記透明物質と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の請求項6に記載された発明は、請求項2において、透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の薄膜層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、前記透明基板と前記第1透明電極の間に透明バッファー層が形成され、且つ、前記第2透明電極の上方に該第2透明電極と対向するように封止用透明基板が配置されて前記第2透明電極と前記封止用透明基板の間に透明物質が充填され、前記発光層の発光界面から前記透明基板/前記透明バッファー層の境界面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記透明物質/前記封止用透明基板の境界面までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記透明バッファー層と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記透明物質と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の請求項7に記載された発明は、少なくとも1層以上の発光層を含む発光ユニットを複数個有し、各発光ユニットが少なくとも1層以上からなる電荷発生層によって仕切られた有機層の多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記各発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記夫々の発光界面から放出される光の可干渉距離未満の範囲内に於いては、隣接する2つの層の屈折率段差が全て0.6未満であることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の請求項8に記載された発明は、請求項7において、前記各発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記夫々の発光界面から放出される光の可干渉距離に対応する位置が前記一対の透明電極の夫々の外側に形成されたバッファー領域内に存在することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の有機ELは、少なくとも1層以上の発光層を含む薄膜多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記発光界面から放出される光の可干渉距離未満の範囲内に於いては、隣接する2つの層の屈折率段差を全て0.6以下とした。
【0027】
また、少なくとも1層以上の発光層を含む薄膜多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記発光界面から放出される光の可干渉距離に対応する位置が前記一対の透明電極の夫々の外側に形成されたバッファー領域内に存在するようにした。
【0028】
両面発光型有機EL素子を上記構成にすることによって、夫々の側から出射される光に対する干渉の影響を排除することができた。
【0029】
そして、発光層の発光界面から放出される光の色調と夫々の側から出射される光の色調をほぼ同じにすることができた。
【0030】
同様に、夫々の側から出射される光同士の色調をほぼ同じにすることができた。
【0031】
また、素子を構成する各層の膜厚を干渉の影響を考慮しないで設定することができることによってキャリア輸送、再結合及び発光の最適化を図って光取り出し効率を高めた有機EL素子を実現することができた。
【0032】
更に、少なくとも1層以上の発光層を含む発光ユニットを複数個有し、各発光ユニットが少なくとも1層以上からなる電荷発生層によって仕切られた有機層の多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記各発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記夫々の発光界面から放出される光の可干渉距離未満の範囲内に於いては、隣接する2つの層の屈折率段差を全て0.6未満とした。
【0033】
また、前記各発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記夫々の発光界面から放出される光の可干渉距離に対応する位置が前記一対の透明電極の夫々の外側に形成されたバッファー領域内に存在するようにした。
【0034】
発光位置がとびとびに分離して複数存在する両面発光型有機EL素子を上記構成にすることによって、上記同様の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の実施形態を図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0036】
図1は本発明の有機EL素子に係わる実施形態の構造を示す断面図である。第1透明バッファー領域の上に第1透明電極層(陽極)、正孔輸送層、有機発光層、第2透明電極層(陰極)及び第2透明バッファー領域の各層及び領域が順次形成されている。なお、以降に述べる実施例において、透明基板は、第1透明バッファー領域あるいはそれを形成するバッファー層の機能を担うものである。
【0037】
また、第1透明バッファー領域及び第2透明バッファー領域は夫々隣接する第1透明電極層及び第2透明電極層の外側に一定以上の厚みで配置されている。具体的には、発光層の発光界面から夫々の透明バッファー領域の外側表面(外部への光出射面)までの光学距離が「発光層から放出される光の可干渉距離」以上となるよう、夫々の透明バッファー領域の厚みが設定される。
【0038】
なお、本明細書で使用する用語「可干渉距離」は以下のように定義するものである。
【0039】
1つの発光体から放出される光波は図2に示すような減衰振動の形態をとり、その場合光波を実効的に波動とみなすことができるのは振幅が初期値の1/e(eは自然対数の底)となる有限の長さlまでと考えられる。
【0040】
1つの発光体はこのような波動を放出した後、続いて同一振動数の次の波動を放出するが、先行する波動と後続の波動の位相は異なっている。従って、同一光源から放出された波動を2分した後に再度重畳させたとしても、夫々の波動が辿る光路の光路差がlを超えていれば異なる位相の波面が重畳することになり、干渉現象は起こらない。
【0041】
本発明はこのような原理を利用して、有機EL素子の発光層から放出された光が外部に出射されるまでの光学系に対して干渉の影響を排除したものである。そこで、光の「可干渉距離」とは、上述の波動の有限な長さlに相当し、一般的に以下の関係式(1)によって表される。
Lc=λ/Δλ ・・・関係式(1)
(但し、Lcは可干渉距離、λは発光スペクトルの中心波長、Δλはスペクトル半値幅である)
【0042】
従来の片面発光型有機EL素子では、例えば、発光界面から陰極側方向に放出され、陰極の表面で反射されて陽極側に戻ってくる光と発光界面から陽極側に放出される光とで干渉が生じていた。この夫々の光が辿る光路の光路差は発光界面から陰極の反射面までの光学距離の2倍となる。従って、この光路差が可干渉距離Lcよりも大きければ干渉を生じないことになる。言い換えると、発光界面から陰極の反射面までの光学距離が可干渉距離Lc/2より大きければ干渉の影響を抑制できるものと考えられる。
【0043】
ところが、実際の片面発光型有機EL素子に於いては、発光界面から陰極の反射面までの光学距離を可干渉距離Lc/2より大きくしたとしても、干渉の影響は減少されるものの、不完全なために膜厚がズレると色度もズレてしまうことが判明した。そこで、実際上、色度等への干渉の影響を完全に抑制するためには、発光界面から陰極の反射面までの光学距離が可干渉距離Lc以上であることが望ましい。
【0044】
一方、両面発光型有機EL素子に於いては、隣接して配置された互いに異なる屈折率を有する媒質の境界面が重要な意味を持つことになる。つまり、屈折率の異なる媒質界面に光が入射するときに、両媒質の境界面に於いて光の一部が反射されることになり、屈折率差が大きいほどその反射率は大きくなる。従来の両面発光型有機EL素子では、例えば透明電極の屈折率と空気の屈折率との差が比較的大きいために、両者によって形成される境界面は反射率の大きな反射面として作用することになる。
【0045】
そのため、透明陰極上に数百nm程度の膜厚の保護層を設けることによって屈折率差を小さくすることも考えられるが、やはり保護層と空気との境界面が反射面として作用することになる。このような境界面は発光界面から光学距離がLc未満の位置に反射面として存在するため、干渉を起こす原因となってしまう。
【0046】
そこで、両面発光型有機EL素子の場合、干渉を生じさせる反射面として作用するほどの屈折率段差の大きな境界面を発光界面から光学距離がLc未満の位置に設けないことで干渉の影響を排除することができる。特に、陽極側及び陰極側に於いて発光界面に対して発光界面からの光学距離がLc未満の位置に屈折率段差の大きな境界面を設けないことで、素子両面から出射する光を干渉の影響を受けない光とすることができる。その結果、素子の両面から出射される光は互いに色調差の無い光となる。
【0047】
有機EL素子における発光光の可干渉距離Lcを算出するにあたって、上記関係式(1)に使用されている発光光の中心波長λ及びスペクトル半値幅Δλは発光層のPL(フォトルミネッセント)スペクトルから読み取ることができる。
【0048】
例えば、図3に示すPLスペクトルを有するAlqの可干渉距離は、PLスペクトルからλ=523nm、Δλ=105nmという数値が得られ、これを上記関係式(1)に代入すると2605nmとなる。従って、図1に示す本発明の有機EL素子において発光層をAlqで形成すると仮定した場合、発光界面から反射面までの光学距離を2605nm以上に設定することになる。
【0049】
よって、図1に示した両面発光型有機EL素子の陽極側から外部に出射される光に対する干渉の影響を排除するためには、発光界面から第2透明バッファー領域の外側表面(外部への光出射面)までの各層の膜厚は、以下の関係式(2)を満足するように設定されなければならない。
Lc≦d・n+dTO1・nTO1+d・n ・・・関係式(2)
【0050】
また、陰極側から外部に出射される光に対する干渉の影響を排除するためには、発光界面から第1透明バッファー領域の外側表面までの各層の膜厚は、以下の関係式(3)を満足するように設定されなければならない。
Lc≦d′・n+dTO1′・nTO1′+d′・n′・・・関係式(3)
【0051】
ここで、発光領域は、発光層内で一定の幅を有するものと考えるが、発光強度の高いと想定される所定の位置を発光界面として設計をおこなった。例えば、図1に示したような正孔輸送層と有機発光層からなるシンプルな構成に於いては、有機発光層の正孔輸送層側で発光強度が最大となるものと想定され、正孔輸送層と有機発光層との界面を発光界面と考えることができる。なお、発光界面から第1透明バッファー領域及び発光界面から第2透明バッファー領域までの光学距離に関しては特に上限はないが、有機EL素子の薄さの利点損なわないためには1000μm以内とすることが望ましい。一方、下限は光学距離Lc以上が望ましいが、干渉の影響を完全に排除するためにはLcの2倍程度が更に望ましい。
【0052】
また、1つの発光層を2種類以上の発光材料で形成した場合は、夫々の発光材料のPLスペクトルから算出された可干渉距離のうちの最も長いものを採用する。
【0053】
図4は本発明の有機EL素子に係わる他の実施形態の構造を示す断面図である。本実施形態は発光位置がとびとびに分離して複数存在するMPE構造「一対の対向する電極によって挟持された有機層が、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数個有したものであり、各発光ユニットが少なくとも1層からなる電荷発生層によって仕切られた構造」であり、このような構造の有機EL素子に於いても効果が得られる。この場合、3つの発光ユニットの夫々の発光材料に関してPLスペクトルから可干渉距離Lcを求める。
【0054】
なお、発光ユニットとは、主に有機化合物からなる少なくとも1層の発光層を含む層構造を有し、一般的な有機EL素子の構成要素のうち陽極及び陰極を除いた要素を指すものである。また、電荷発生層は、ITO、IZO、SnO、ZnO等の透明導電材料、V及び4F−TCNQ等、その上に成膜する正孔輸送材料と酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる物質が使用され、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットには正孔を注入し、陽極側に接する発光ユニットには電子を注入する層として働く。
【0055】
図4に示す有機EL素子の具体的な構造は、第1透明バッファー領域の上に第1透明電極層(陽極)が形成され、その上に第1発光界面を含む第1発光ユニット、第1電荷発生層、第2発光界面を含む第2発光ユニット、第2電荷発生層、第3発光界面を含む第3発光ユニット、第2透明電極層(陰極)及び第2透明バッファー領域が順次形成されている。
【0056】
このような構造の有機EL素子において、3つの発光ユニットの夫々の発光界面から放出された光の間で干渉を生じさせないように第1透明バッファー領域及び第2透明バッファー領域の夫々の外側表面の位置を設定するには、各発光ユニットの夫々の発光界面から放出される光のPLスペクトルから上記関係式(1)を用いて夫々の可干渉距離を求め、夫々の発光界面から可干渉距離を保った位置のうち、陽極側に於いて第1透明電極層から最も距離が離れた位置及び陰極側に於いて第2透明電極層から最も距離が離れた位置を求める。その結果、図4に示すように陽極側、陰極側ともにLcが夫々の透明電極層から最も離れた位置にあることから、第1透明バッファー領域及び第2透明バッファー領域の夫々の外側表面をこの位置か、或いは各透明電極層に対してこれよりも更に離れた位置に設定する。それによって、各発光ユニットから放出される光の干渉の影響を全て排除することができる。
【0057】
図1及び図4において、第1透明バッファー領域及び第2透明バッファー領域は固体材料によって成膜された層でも良いし、気体あるいは液体材料を充填した層でも良い。これらバッファー領域を形成する層を、本発明においてバッファー層という。バッファー領域は、複数のバッファー層から形成されていてもよく、複数層からなる場合には、各層の屈折率が同じであることが理想的であり、隣接する2つの層の屈折率差は小さくすることが好ましい。また、第1透明バッファー領域が固体材料によって成膜された層、第2透明バッファー領域が液体材料を充填した層でも勿論良い。後述の実施例のように第1透明バッファー領域は、透明基板がその機能を担うものでもよく、透明基板と該透明基板の少なくともいずれかの主面に形成したバッファー層とで担うよう形成してもよい。
【0058】
液体材料の透明物質としては、脱水されたシリコーン系オイル、フッソ系オイル等が挙げられる。
【0059】
固体材料としては、TiO、SiO、SiNx、Ta、SiO、Al、ZrO、Sb、TiO、HfO、Y、MgO、CeO、Nb、MgF、SrF、BaF等の透明な金属酸化物、窒化物、弗化物或いは低分子系材料、透明エポキシ、アクリル、ナイロン等の高分子系材料でも良く、透明で膜厚をμmオーダーで形成できる物質であれば何でも良い。
【0060】
いずれにしても、第1透明バッファー領域及び第2透明バッファー領域は、発光界面からの光学距離が可干渉距離Lc未満の位置に屈折率段差の大きな境界面を形成させないために設置されるものであるため、透明な物質で構成され、隣接する透明電極との屈折率差が0.6以下となるような状態が確保できればどのような形態でも構わない。
【0061】
本実施形態を示す図1において、発光界面から各透明バッファー領域の外側表面までの間に存在する境界面は、有機層/有機層の境界面、有機層/透明電極層の境界面、及び透明電極/透明バッファー領域の境界面である。これら夫々の境界面は上述のように、発光界面からの光学距離が可干渉距離Lc未満となる位置に反射面として存在するため、反射率が大きくなると強い干渉を生じる原因となる。
【0062】
そのなかでも特に、第2透明電極層/第2透明バッファー領域の境界面が比較的大きな反射率の反射面となる可能性がある。例えば、第2透明電極層と境界面を形成する第2透明バッファー領域が気体或いは真空(屈折率:1.0)を充填した層で構成された場合、第2透明電極層として主に使用されるITO、IZO、ZnO及びSnO等(屈折率:約1.95)との屈折率の差が約0.95となり、この屈折率段差0.95の反射面では発光界面から第2透明電極層/第2透明バッファー領域の境界面までの光学距離が約300nmにおいては第1透明電極(陽極)側から出射される光に多少干渉の影響が現れる程度である。
【0063】
ところが、本発明の他の実施形態を示す図4のように、発光位置がとびとびに分離して複数存在するような、発光界面から第2透明電極層/第2透明バッファー領域(気体)の境界面までの光学距離が非常に長い構造の有機EL素子においては、第1透明電極(陽極)側から出射される光に干渉の影響が更に顕著に現れてくる。
【0064】
従って、干渉の発生を抑制するためには、発光界面から第2透明電極層/第2透明バッファー領域の境界面までの光学距離に応じて、第2透明電極層を形成する材料と第2透明バッファー領域を形成する材料とを適宜選択することによって両者の屈折率の差を設定することが必要である。
【0065】
そこで、図1で示すような、発光界面から第2透明電極層/第2透明バッファー領域の境界面までの光学距離が約300nmの構造の両面発光型有機EL素子においては、第2透明電極層/第2透明バッファー領域との屈折率の差を0.6未満にすることが干渉の発生を殆んど抑制することに繋がるために好ましいものである。
【0066】
一方、図4に示すような、発光位置がとびとびに分離して複数存在するような構造の両面発光型有機EL素子においては、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットの数の増加に伴なって、発光界面から第2透明電極層/第2透明バッファー領域の境界面までの光学距離が増加するために、第2透明電極層と第2透明バッファー領域との屈折率の差を更に小さくする必要がある。
【0067】
なお、第2透明電極層と第2透明バッファー領域との屈折率差は0が最も好ましく、その場合は発光界面から第2透明電極層/第2透明バッファー領域の境界面までの光学距離に関係なく干渉の影響を抑制することができる。
【0068】
ここまでは、有機EL素子の発光界面から第2透明バッファー領域の方向に放出された光に係わる干渉現象について様々な角度から検討を加えてきたが、発光界面から透明基板(第1透明バッファー領域)の方向に放出された光も同様に干渉現象に係わるものである。
【0069】
図1に示す有機EL素子の構造において、発光界面から透明基板の方向には、有機層/有機層の境界面、有機層/第1透明電極層の境界面及び第1透明電極層/第1透明バッファー領域の境界面が存在し、これら夫々の境界面は発光界面からの光学距離が可干渉距離Lc未満となる位置に反射面として存在する。従って、発光界面から透明基板の方向に放出されてこれらの境界面で反射された光と発光界面から第2透明電極層の方向に放出された光とで干渉が生じるため、夫々の境界面を形成する両者の屈折率の差を極力小さくすることによって干渉の発生を抑制することが望ましい。
【0070】
そのなかでも特に、第1透明電極層/第1透明バッファー領域の境界面が最も屈折率の差が大きい。例えば、第1透明バッファー領域(透明基板)としてソーダガラス(屈折率:約1.55)を使用し、第1透明電極に一般的なITO、IZO、ZnO及びSnO等(屈折率:約1.95)を使用すると、屈折率の差は約0.4となってしまう。この屈折率段差約0.4の反射面では、発光界面から透明基板までの光学距離が約400nmの従来の両面発光型透明素子においてはほとんど干渉の影響は現れない。
【0071】
ところが、本発明の他の実施形態を示す図4のように、複数の発光位置がとびとびに分離して存在するような、発光界面から透明基板までの光学距離が非常に長い構造の有機EL素子においては、干渉の影響が顕著に現れてくる。
【0072】
その場合、干渉の発生を抑制するためには、発光界面から透明基板までの光学距離に応じて、第1透明電極層を形成する材料と透明基板を形成する材料とを適宜選択することによって両者の屈折率の差を設定することが必要である。
【0073】
具体的には、第1透明電極層と透明基板の間に、第1透明電極層との屈折率の差が極めて小さいバッファー層を、発光界面から透明基板までの光学距離が発光層から放出される光の可干渉距離Lc以上となるような膜厚に形成する。つまり、バッファー領域は、透明基板とバッファー層により形成される。また、第1透明電極層に対して屈折率の差が極めて小さい透明基板を使用すれば、透明基板がバッファー層となり、透明基板のみでバッファー領域が形成できるため、透明基板以外のバッファー層を設ける必要はない。
【0074】
第1透明電極層に対して屈折率の差が極めて小さい透明基板の材料としては特に限定するものではないが、一例を挙げるとすればLaSFN9(SCHOTT GLAS社製)(屈折率:1.85)が使用できる。
【0075】
なお、第1透明電極層と第1透明バッファー領域との屈折率差は0が最も好ましく、その場合は発光界面から第1透明電極層/第1透明バッファー領域の境界面までの距離に関係なく干渉の影響を抑制することができる。
【0076】
透明基板の材料としては、ガラス、PET、ポリカーボネート及び非晶質ポリオレフィン等が使用されるが、透明で所望する屈折率を有するものであれば材料に関して限定はない。また、第1透明電極層及び第2透明電極層はITO、IZO、SnO、及びZnO等の透明導電膜として形成されるのが好ましく、膜厚は10〜500nmの範囲内であることが望ましい。
【0077】
有機EL素子の構造は、上記図1及び図4に示すものの他に、透明基板の上の第1透明電極側からの有機層を正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/としたものや、正孔注入層/正孔輸送層/発光層としたものや、正孔輸送層/発光層/電子輸送層としたものや、前記発光層を多層に積層したもの等が可能である。
【0078】
正孔輸送層は第1透明電極層から正孔が注入され易くする働きと、電子をブロックする働きを有しており、正孔移動度が高く、透明で成膜性の良好なものが好ましく、TPD等のトリフェニルアミン誘導体、フタロシアニン、銅フタロシアニン等のポリオレフィン系化合物、ヒドラゾン誘導体及びアリールアミン誘導体等が用いられる。
【0079】
なお、正孔輸送層は、陽極からの正孔の注入を容易にする働きを有する正孔注入層と、正孔を輸送する働き及び電子を妨げる働きを有する正孔輸送層とに分けて設けても良い。その場合、正孔注入層及び正孔輸送層の膜厚は共に10〜200nmの範囲内であることが望ましい。
【0080】
また、電子注入層は、第2透明電極層から電子が注入され易いように、有機発光層或いは電子輸送層の上に設けても良い。電子注入層を形成する材料は、Li、Ca、Sr、及びCs等の仕事関数が低い金属が主に使用され、有機層の上に極微量蒸着される。
【0081】
また、発光層は、電子と正孔の再結合による発光効率が高く、薄膜性が良好で、輸送材料との境界面で強い相互作用のないことが望ましく、アルミキレート錯体(Alq)、ジスチリルビフェニル誘導体(DPVBi)等のジスチリルアリーレン(DSA)系の誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン、クマリン及びペリレン系等の材料が用いられる。そして、これらの材料を単独で、或いは2種類以上を混合して発光層が形成される。また発光層は多層として積層しても良い。なお、発光層の膜厚は10〜200nmの範囲内であることが望ましい。
【0082】
電子輸送層を形成する材料は、アルミキレート錯体(Alq)、ジスチリルビフェニル誘導体(DPVBi)、オキサジアゾール誘導体、ビスチリルアントラセン誘導体、及びベンゾオキサゾールチオフェン誘導体等が用いられ、膜厚は10〜200nmの範囲内であることが望ましい。
【0083】
次に、本発明の有機EL素子に係わる実施例1〜8及び比較例1〜3について説明する。なお、実施例1〜7及び比較例1〜2は本発明の有機EL素子に係わる実施形態を示す図1の構造を基本構造として採用し、実施例8及び比較例3は本発明の有機EL素子に係わる実施形態を示す図4の構造を基本構造として採用している。そこでまず、実施例1〜8について説明し、次に比較例1〜3について説明する。
【実施例1】
【0084】
実施例1の構成は、第1透明バッファー領域(透明基板)となるガラス基板の上に第1透明電極層(陽極)となるITO透明電極をスパッタ法によって100nmの膜厚に形成した。ガラス基板の屈折率は450nmの波長の光に対して1.55であり、ITOは屈折率が450nmの波長の光に対して1.95、シート抵抗値が10Ω/□であった。そして、ITO透明電極を所定の形状にエッチングして、アセトン及びイソプロピルアルコール等で超音波洗浄した後に乾燥させた。このガラス基板を更にUV−O洗浄した後に真空蒸着槽内にセットして槽内を約1×10−5Torrまで減圧し、ITO透明電極の上に正孔輸送層を100nmの膜厚に蒸着した。次いで、図5に示す発光スペクトルの光を放出する青色発光材料(以下、青色発光ドーパントと記す)を重量比1%の濃度で共蒸着して有機発光層を85nmの膜厚に形成し、その上に電子注入層を微量蒸着し、その上に第2透明電極(陰極)としてIZO透明電極をスパッタ法により50nmの膜厚に形成した。有機発光層の屈折率は450nmの波長の光に対して1.80であり、IZO透明電極の屈折率は450nmの波長の光に対して1.95であった。そして更にIZO透明電極の外周部に18μmのギャップ剤を分散したUV硬化性シール剤を塗布し、その上にIZO透明電極と対向するように封止用ガラス基板を配置して接着・固定し、IZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.55のオイルを充填したものである。
【実施例2】
【0085】
実施例2の条件は、実施例1に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.33のオイルを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例1と同様とした。
【実施例3】
【0086】
実施例3の条件は、実施例1に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.37のオイルを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例1と同様とした。
【実施例4】
【0087】
実施例4の条件は、実施例1に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.43のオイルを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例1と同様とした。
【実施例5】
【0088】
実施例5の構成は、第1透明バッファー領域(透明基板)となるガラス基板の上に第1透明電極層(陽極)となるITO透明電極をスパッタ法によって125nmの膜厚に形成した。ガラス基板の屈折率は560nmの波長の光に対して1.53であり、ITOは屈折率が560nmの波長の光に対して1.90、シート抵抗値が10Ω/□であった。そして、ITO透明電極を所定の形状にエッチングして、アセトン及びイソプロピルアルコール等で超音波洗浄した後に乾燥させた。このガラス基板を更にUV−O洗浄した後に真空蒸着槽内にセットして槽内を約1×10−5Torrまで減圧し、ITO透明電極の上に正孔輸送層を100nmの膜厚に蒸着した。次いで、図6に示す発光スペクトルの光を放出する黄色発光材料(以下、黄色発光ドーパントと記す)を重量比1%の濃度で共蒸着して有機発光層を80nmの膜厚に形成し、その上に電子注入層を微量蒸着し、その上に第2透明電極(陰極)としてIZO透明電極をスパッタ法により50nmの膜厚に形成した。有機発光層の屈折率は560nmの波長の光に対して1.75であり、IZO透明電極の屈折率は560nmの波長の光に対して1.90であった。そして更にIZO透明電極の外周部に18μmのギャップ剤を分散したUV硬化性シール剤を塗布し、その上にIZO透明電極と対向するように封止用ガラス基板を配置して接着・固定し、IZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.55のオイルを充填したものである。
【実施例6】
【0089】
実施例6の条件は、実施例5に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.33のオイルを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例5と同様とした。
【実施例7】
【0090】
実施例7の条件は、実施例5に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.43のオイルを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例5と同様とした。
【実施例8】
【0091】
実施例8の構成は、本発明の有機EL素子に係わる他の実施形態を示す図4の構造を基本構造として採用している。但し、この場合は発光位置を2つで構成している。具体的な構成は、透明基板となるガラス基板の上に第一透明電極層(陽極)となるITO透明電極をスパッタ法によって形成した。ITOのシート抵抗は10Ω/□であった。そして、ITO透明電極を所定の形状にエッチングして、アセトン及びイソプロピルアルコール等で超音波洗浄した後に乾燥させた。このガラス基板を更にUV−O洗浄した後に真空蒸着槽内にセットして槽内を約1×10−5Torrまで減圧し、ITO透明電極の上に正孔輸送層を形成した。次いで、図5に示す発光スペクトルの光を放出する青色発光ドーパントを重量比1%の濃度で共蒸着して有機発光層を形成した。この正孔輸送層と有機発光層の積層構造を発光ユニットとし、この発光ユニットの上に電荷発生層を形成した後に図6に示す発光スペクトルの光を放出する黄色発光ドーパントを重量比1%の濃度で共蒸着した有機発光層を有する他の発光ユニットを形成した。更にその上に電子注入層を微量蒸着し、その上に陰極としてIZO透明電極を50nmの膜厚に形成した。有機発光層の屈折率は450nmの波長の光に対して1.80であり、IZO透明電極の屈折率は450nmの波長の光に対して1.95であった。そして更にIZO透明電極の外周部に18μmのギャップ剤を分散したUV硬化性シール剤を塗布し、その上にIZO透明電極と対向するように封止用ガラス基板を配置して接着・固定し、IZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間に屈折率1.60のオイルを充填したものである。以上の構成により、2箇所の発光部がとびとびに存在する有機LED素子とした。
【0092】
次に、比較例1〜3について説明する。
[比較例1]の条件は、実施例1〜4に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間にNガスを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例1〜4と同様とした。
【0093】
[比較例2]の条件は、実施例5〜7に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間にNガスを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例5〜7と同様とした。
【0094】
[比較例3]の条件は、実施例8に対してIZO透明電極と封止用ガラス基板とシール剤で囲まれた空間にNガスを充填したことのみが異なり、それ以外は実施例8と同様とした。
【0095】
以上、本発明の有機EL素子に係わる実施例1〜8及び比較例1〜3の構成について説明したが、以下にそれらの光学特性について説明する。
【0096】
まず、実施例1〜4及び比較例1に関する光学特性を説明する。図7は比較例1の両面発光型有機EL素子において、ガラス基板側及び封止用ガラス基板側から出射された光を測定して得られた発光スペクトルと、有機発光層に添加された青色発光ドーパント特有の発光スペクトルとを同一グラフ上にプロットしたものである。
【0097】
このグラフにおいて、ガラス基板側から出射される光の発光スペクトルと封止用ガラス基板側から出射される光の発光スペクトルとは異なるスペクトル分布を示している。これは、ガラス基板側から出射される光と封止用ガラス基板側から出射される光の色調が微妙に異なることを意味している。
【0098】
また、封止用ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布は青色発光ドーパントのPL(フォトルミネッセント)スペクトル分布とほぼ同様であるのに対し、ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布は青色発光ドーパントのPLスペクトル分布とは異なるものとなっている。
【0099】
これは、封止用ガラス基板側から出射される光については、発光界面からの距離が図5に示す青色発光ドーパントのPLスペクトルから求められた可干渉距離Lc4.2μm未満の範囲内に存在するITO透明電極とガラス基板との境界面に於いて屈折率差が存在するが、屈折率段差が0.4の反射面として作用するために干渉の影響をあまり受けないものと思われる。
【0100】
一方、ガラス基板側から出射される光については、発光界面からの距離が可干渉距離Lc4.2μm未満の範囲内に存在するIZO透明電極とNガスとの境界面に於いていて屈折率差が存在し、屈折率段差が0.95の反射面として作用するために干渉の影響を大きく受けるものと思われる。
【0101】
図8は実施例1の両面発光型有機EL素子において、ガラス基板側及び封止用ガラス基板側から出射された光を測定して得られた発光スペクトルと、有機発光層に添加された青色発光ドーパント特有の発光スペクトルとを同一グラフ上にプロットしたものである。
【0102】
このグラフにおいて、ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布と封止用ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布とはほぼ同様であり、更に、青色発光ドーパントのPLスペクトル分布ともほぼ同様なものとなっている。これは、発光界面からの距離が可干渉距離Lc4.2μm未満の範囲内に存在するITO透明電極とガラス基板との境界面、及びIZO透明電極と屈折率1.55のオイルとの境界面に於いて屈折率差が存在するが、夫々の屈折率段差が共に0.4の反射面として作用するために干渉の影響をあまり受けないものと思われる。
【0103】
これは、ガラス基板側から出射される光と封止ガラス用基板側から出射される光の色調がほぼ同じであると共に、有機発光層に添加された青色発光ドーパントのスペクトル分布の光がほぼ忠実に出射されていることを意味している。
【0104】
また、発光界面からの距離が可干渉距離Lc4.2μm未満の範囲内に屈折率段差が存在したとしても、屈折率段差を極力小さな値とすることで外部に出射される光に対する干渉の影響を抑制することが可能であることがわかる。
【0105】
図9は実施例1〜4及び比較例1に於いて、IZO透明電極と該IZO透明電極と境界面を形成する物質との屈折率段差に対して、ガラス基板側から出射される光の色度(x,y)を示したものである。屈折率段差が小さくなるに伴なってガラス基板側から出射される光への干渉の影響が小さくなり、ガラス基板側から出射される光の色度(x,y)が青色発光ドーパント特有のPLスペクトルから求めた色度(x,y)に近づいていくことがわかる。
【0106】
そして、屈折率段差が0.6以下になると青色発光ドーパントの色度(x,y)に対するズレが0.01以下となり、人間の色識別能力では識別できない領域まで色度ズレを抑えることが可能となることがわかる。
【0107】
以上の結果より、0.95程度の屈折率差であっても、それが有機発光層の発光界面からの距離が光学距離で発光界面から放出される光の可干渉距離Lc未満の範囲内に存在する場合は、干渉を起こす要因となることがわかった。また、この屈折率差を小さくすることで干渉の影響を抑制できることがわかった。
【0108】
次に、実施例5〜7及び比較例2に関する光学特性を説明する。図10は比較例2の両面発光型有機EL素子において、ガラス基板側及び封止用ガラス基板側から出射された光を測定して得られた発光スペクトルと、有機発光層に添加された黄色発光ドーパント特有の発光スペクトルとを同一グラフ上にプロットしたものである。
【0109】
このグラフにおいて、ガラス基板側から出射される光の発光スペクトルと封止用ガラス基板側から出射される光の発光スペクトルとは異なるスペクトル分布を示している。これは、ガラス基板側から出射される光と封止用ガラス基板側から出射される光の色調が微妙に異なることを意味している。
【0110】
また、封止用ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布は黄色発光ドーパントのPL(フォトルミネッセント)スペクトル分布とほぼ同様であるのに対し、ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布は黄色発光ドーパントのPLスペクトル分布とは異なるものとなっている。
【0111】
これは、封止用ガラス基板側から出射される光については、発光界面からの距離が図6に示す黄色発光ドーパントのPLスペクトルから求められた可干渉距離Lc4.8μm未満の範囲内に存在するITO透明電極とガラス基板との境界面に於いて屈折率差が存在するが、屈折率段差が0.37の反射面として作用するために干渉の影響をあまり受けないものと思われる。
【0112】
一方、ガラス基板側から出射される光については、発光界面からの距離が可干渉距離Lc4.8μm未満の範囲内に存在するIZO透明電極とNガスとの境界面に於いていて屈折率差が存在し、屈折率段差が0.90の反射面として作用するために干渉の影響を大きく受けるものと思われる。
【0113】
図11は実施例5の両面発光型有機EL素子において、ガラス基板側及び封止用ガラス基板側から出射された光を測定して得られた発光スペクトルと、有機発光層に添加された黄色発光ドーパント特有の発光スペクトルとを同一グラフ上にプロットしたものである。
【0114】
このグラフにおいて、ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布と封止用ガラス基板側から出射される光のスペクトル分布とはほぼ同様であり、更に、黄色発光ドーパントのPLスペクトル分布ともほぼ同様なものとなっている。これは、発光界面からの距離が可干渉距離Lc4.8μm未満の範囲内に存在するITO透明電極とガラス基板との境界面、及びIZO透明電極と屈折率1.55のオイルとの境界面に於いて屈折率差が存在するが、夫々の屈折率段差が0.37及び0.35の反射面として作用するために干渉の影響をあまり受けないものと思われる。
【0115】
これは、ガラス基板側から出射される光と封止ガラス用基板側から出射される光の色調がほぼ同じであると共に、有機発光層に添加された黄色発光ドーパントのスペクトル分布の光がほぼ忠実に出射されていることを意味している。
【0116】
また、発光界面からの距離が可干渉距離Lc4.8μm未満の範囲内に屈折率段差が存在したとしても、屈折率段差を極力小さな値とすることで外部に出射される光に対する干渉の影響を抑制することが可能であることがわかる。
【0117】
図12は実施例5〜7及び比較例2に於いて、IZO透明電極と該IZO透明電極と境界面を形成する物質との屈折率段差に対して、ガラス基板側から出射される光の色度(x,y)を示したものである。屈折率段差が小さくなるに伴なってガラス基板側から出射される光への干渉の影響が小さくなり、ガラス基板側から出射される光の色度(x,y)が黄色発光ドーパント特有のPLスペクトルから求めた色度(x,y)に近づいていくことがわかる。
【0118】
そして、屈折率段差を0.6以下にすると黄色発光ドーパントの色度(x,y)に対するズレを0.01以下に抑制できることがわかった。
【0119】
発光界面からほぼ同じ光学距離の位置に屈折率段差を有する複数の有機EL素子を想定した場合、発光界面から放出される光の波長が長波長であるほど屈折率段差が多少大きくても色度のズレを小さくすることができる。また、人間の色度差に対する感度は青色近辺で高く、その他の緑色、黄色及び赤色近辺では青色近辺に比較して低くなる。つまり、青色近辺の光は僅かな色度差でも感知できるが、緑色、黄色及び赤色近辺の光はより大きな色度差がないと感知することができない。
【0120】
従って、発光界面からの距離が可干渉距離Lc未満の範囲内に屈折率段差が存在する場合、その屈折率段差を0.6以下にして色度(x,y)ズレをx、y共に0.01以下に抑えることで、どのような色調であっても発光材料特有の光源色と同等であると認識できる光を得ることができる。
【0121】
次に、実施例8及び比較例3に関する光学特性を説明する。図13は比較例3の両面発光型有機EL素子において、ガラス基板側及び封止用ガラス基板側から出射された光を測定して得られた発光スペクトルを同一グラフ上にプロットしたものである。
【0122】
このグラフにおいて、ガラス基板側から出射される光の発光スペクトルと封止用ガラス基板側から出射される光の発光スペクトルとは著しく異なるスペクトル分布を示している。これは、ガラス基板側から出射される光と発光スペクトルと封止用ガラス基板側から出射される光の色調が著しく異なることを意味している。
【0123】
これは、封止用ガラス基板側から出射される光については、500nmより短波長側のスペクトル分布は図5に示す青色発光ドーパントのPLスペクトル分布に近く、510nmより長波長側のスペクトル分布は図6に示す青色発光ドーパントのPLスペクトル分布に近いものとなっている。これは、上記比較例1及び比較例2と同様に、ガラス基板とITO透明電極との屈折率段差が比較的小さいためと考えられる。
【0124】
一方、ガラス基板側から出射される光については、図5に示す青色発光ドーパントのPLスペクトルから求められた可干渉距離Lcは約4.2μm、図6に示す黄色発光ドーパントのPLスペクトルから求められた可干渉距離Lcは約4.8μmであり、よって、少なくとも黄色の光を放出する発光界面からの距離が光学距離で4.8μm未満の範囲内に屈折率段差の大きな境界面が存在しないことが望ましい。ところが、IZO透明電極と該IZO透明電極と境界面を形成するNガスとの屈折率差0.95による反射面が存在するため、ガラス基板側から出射される光が干渉の影響を受けているものと思われる。
【0125】
図14はIZO透明電極と該IZO透明電極と境界面を形成する物質を屈折率1.60のオイルとし、両者の屈折率差が0.35である実施例8の両面発光型有機EL素子において、ガラス基板側及び封止用ガラス基板側から出射された光を測定して得られた発光スペクトルを同一グラフ上にプロットしたものである。
【0126】
上記封止用ガラス基板側から出射される光と同様に、ガラス基板側から出射される光についても、500nmより短波長側のスペクトル分布は図5に示す青色発光ドーパントのPLスペクトル分布に近く、510nmより長波長側のスペクトル分布は図6に示す青色発光ドーパントのPLスペクトル分布に近いものとなっている。その結果、封止用ガラス基板側から出射される光とガラス基板側から出射される光は色調がほぼ一致するものとなる。また、実施例1〜8に於いては、第2透明バッファー領域は、各屈折率を有するオイルの層で形成されている。第2透明バッファー領域をオイルの層と封止用ガラス基板とで形成することも可能であるが、発光界面から発光光の可干渉距離が封止用ガラス基板内に存するため、オイルの層と封止用ガラス基板との界面における屈折率段差も0.6以下とする。
【0127】
つまり、発光界面からの距離が可干渉距離Lc未満の範囲内に存在する屈折率段差を極力小さな値とすることで、外部に出射される光に対する干渉の影響が効果的に抑制されている。
【0128】
以上より、本発明の有機EL素子においては、2枚の対向する透明電極によって挟持された有機層が、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数個有したものであり、各発光ユニットが少なくとも1層からなる電荷発生層によって仕切られた構造の両面発光型透明有機EL素子、に於いても1層の発光層を有する有機EL素子と同様の効果が得られることがわかった。
【0129】
なお、発光材料特有のPLスペクトルから求められる色度(x,y)に対して封止用ガラス基板側及びガラス基板側の夫々の側から出射される光の色度(x,y)のズレをx、y共に0.01以下に抑制したとしても、発光材料特有のPLスペクトルから求められる色度(x,y)を基準としたとき、封止用ガラス基板側及びガラス基板側の夫々の側から出射される光のx同士及び/又はy同士が互いに異なる符合を示し、且つ絶対値の和が0.01以上になる場合(例えば、+0.004と−0.007)は、両側から出射される色度ズレは0,01以内とはならなくなり、多少異なった色調を呈することになる。
【0130】
このような場合には、屈折率段差を小さく設定する、屈折率段差を生じる境界面を形成する物質の屈折率の大小関係を反転させる、或いは各層の膜厚や光学膜厚を調整すること等によって対処することができる。
【0131】
ここで、本発明の実施形態及び実施例に係わる効果について説明する。まず、有機EL素子を、第1透明バッファー領域の上に第1透明電極層(陽極)、正孔輸送層、有機発光層、第2透明電極層(陰極)及び第2透明バッファー領域の各層、各領域を順次配置した構造とし、第1透明バッファー領域側及び第2透明バッファー領域側の両側から光を取り出せるようにした。そして、有機発光層の発光界面からの距離が発光界面から放出される光のPLスペクトルから求められた可干渉距離Lc未満の範囲内に存在する境界面に於ける屈折率段差を約0.6以下とすることで下記のような効果が得られることがわかった。なお、可干渉距離LcはLc=λ/Δλ(但し、λはPLスペクトルの中心波長、Δλはスペクトル半値幅)の式で算出される。
【0132】
(1)第1透明バッファー領域側及び第2透明バッファー領域側の夫々の側から出射される光に対する干渉の影響を排除することがでる。
【0133】
(2)上記(1)によって、発光材料特有のPLスペクトルから求められる色度(x,y)に対して第1透明バッファー領域側及び第2透明バッファー領域側の夫々の側から出射される光の色度(x,y)のズレをx、y共に0.01以下に抑制することができる。
【0134】
(3)その結果、第1透明バッファー領域側から出射される光と第2透明バッファー領域側から出射される光の色調がほぼ同じとなる。
【0135】
(4)また、第1透明バッファー領域側から出射される光と第2透明バッファー領域側から出射される光の色調は発光材料特有のPLスペクトルから求められる色調とほぼ同じとなる。
【0136】
(5)有機発光層の発光界面からの距離が発光界面から放出される光のPLスペクトルから求められた可干渉距離Lc未満の範囲内に存在する境界面に於ける屈折率段差を約0.6以下とすることで、干渉の影響を考慮することなく素子を構成する各層の膜厚を設定することができるため、キャリア輸送、再結合及び発光の最適化を図って光取り出し効率を高めた有機EL素子を実現することができる。
【0137】
(6)膜厚が変わっても出射光のスペクトル分布(色調)に変化は生じない。そのため製造工程の歩留まりと、生産性向上を図ることができる。
【0138】
(7)更に、第1透明バッファー領域の上に第1透明電極層(陽極)が形成され、その上に発光層を含む発光ユニットが電荷発生層を挟んで複数個設けられ、その上に形成された第2透明電極層(陰極)の上に第2透明バッファー領域を配置した構造の本発明の他の実施形態の有機EL素子においても、上述と同様の効果を奏することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明に係わる実施形態の有機EL素子を示す概略断面図である。
【図2】発光体から放出される光波の減衰振動を示す波形図である。
【図3】Alqのフォトルミネッセント(PL)スペクトルを示すグラフである。
【図4】本発明に係わる他の実施形態の有機EL素子を示す概略断面図である。
【図5】青色発光ドーパントのPLスペクトルを示すグラフである。
【図6】黄色発光ドーパントのPLスペクトルを示すグラフである。
【図7】比較例1及び青色発光ドーパントのPLスペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例1及び青色発光ドーパントのPLスペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例1〜4及び比較例1の屈折率段差と出射光の色度座標との関係を示すグラフである。
【図10】比較例2及び黄色発光ドーパントのPLスペクトルを示すグラフである。
【図11】実施例5及び黄色発光ドーパントのPLスペクトルを示すグラフである。
【図12】実施例5〜7及び比較例2の屈折率段差と出射光の色度座標との関係を示すグラフである。
【図13】比較例3のPLスペクトルを示すグラフである。
【図14】実施例8のPLスペクトルを示すグラフである。
【図15】一般的な有機EL素子の概略構造図である。
【図16】同じく、一般的な有機EL素子の概略構造図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層以上の発光層を含む薄膜多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記発光界面から放出される光の可干渉距離未満の範囲内に於いては、隣接する2つの層の屈折率段差が全て0.6以下であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記発光界面から放出される光の可干渉距離に対応する位置が前記一対の透明電極の夫々の外側に形成されたバッファー領域内に存在することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の有機層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、第2透明電極層の外側には透明な材料からなる透明バッファー層が形成され、前記発光層の発光界面から前記透明基板の外側表面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記透明バッファー層の外側までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記透明基板と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記透明バッファー層と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の有機層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、前記透明基板と前記第1透明電極の間に第1透明バッファー層、前記第2透明電極の外側に第2透明バッファー層が夫々形成され、前記発光層の発光界面から前記透明基板/前記第1透明バッファー層の境界面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記第2透明バッファー層の外側までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記第1透明バッファー層と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記第2透明バッファー層と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の有機層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、前記第2透明電極の上方に該第2透明電極と対向するように封止用透明基板が配置されて前記第2透明電極と前記封止用透明基板の間に透明物質が充填され、前記発光層の発光界面から前記透明基板の外側表面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記透明物質/前記封止用透明基板の境界面までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記透明基板と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記透明基板と前記透明物質と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項6】
透明基板/第1透明電極/発光層を含む複数の薄膜層/第2透明電極からなる有機EL素子であって、前記透明基板と前記第1透明電極の間に透明バッファー層が形成され、且つ、前記第2透明電極の上方に該第2透明電極と対向するように封止用透明基板が配置されて前記第2透明電極と前記封止用透明基板の間に透明物質が充填され、前記発光層の発光界面から前記透明基板/前記透明バッファー層の境界面までの光学距離と前記発光層の発光界面から前記透明物質/前記封止用透明基板の境界面までの光学距離が前記発光界面から放出される光の可干渉距離以上であり、且つ、前記透明バッファー層と前記第1透明電極の屈折率段差及び前記透明物質と前記第2透明電極の屈折率段差が共に0.6以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項7】
少なくとも1層以上の発光層を含む発光ユニットを複数個有し、各発光ユニットが少なくとも1層以上からなる電荷発生層によって仕切られた有機層の多層構造が、対向する一対の透明電極によって挟持された有機EL素子であって、前記各発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記夫々の発光界面から放出される光の可干渉距離未満の範囲内に於いては、隣接する2つの層の屈折率段差が全て0.6未満であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項8】
前記各発光層の発光界面からの距離が光学距離で、前記夫々の発光界面から放出される光の可干渉距離に対応する位置が前記一対の透明電極の夫々の外側に形成されたバッファー領域内に存在することを特徴とする請求項7に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−165034(P2006−165034A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349769(P2004−349769)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】