説明

有機EL素子

【課題】発光効率及び寿命の優れた有機EL素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物で構成された中間層と、中間層を挟持するように設けられ、且つ、中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置に代わる表示装置として、例えば有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機EL)を用いた自発光型の表示装置が期待されている。有機EL素子は、陽極及び陰極に挟まれた有機EL層に電流を流すことで、有機EL層を構成する有機分子が発光する。有機EL素子を用いた有機EL表示装置は、自発光型であることから薄型化や軽量化、低消費電力化の点で優れている。また、有機EL素子を用いた有機EL表示装置は、広視野角性を有するため、次世代のフラットパネルディスプレイの候補として大きな注目を集めている。実際に、その薄さや広視野角性を生かして、携帯型音楽機器や携帯電話のサブディスプレイとして実用化が広がりつつある。
【0003】
上記有機EL表示装置において、近年、駆動電流を変えずに輝度を上げる、即ち効率を改善する点から、複数の有機発光素子のユニットを中間層を介して電気的に直列に接合する構成の有機EL素子が研究・開発されている。ここで、中間層とは、電圧印加時において、電子輸送層側に配置された発光ユニットに対して電子を注入する一方、正孔輸送層側に配置された発光ユニットに対して正孔を注入する役割を果たす層である。中間層は、例えば、酸化バナジウム(V)や酸化レニウム(Re)のような金属酸化物を用いて構成されている
そして、このような構成の有機EL表示素子が、特許文献1や特許文献2等に開示されている。
【特許文献1】特開2006−173550号公報
【特許文献2】特開2006−210155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した構成の有機EL素子において、その中間層は、正孔輸送層に対しては容易に正孔を注入できるが、電子輸送層に対しては電子の注入が困難である。これに対し、従来、中間層から電子輸送層への電子注入効率を上げるために、電子注入層を発光ユニットにおける電荷発光層の電子輸送層側に設けると効果的であることが知られている。このような電子注入層としては、例えば、バソクプロイン(BCP)と金属セシウム(Cs)との混合層や、(8−キノリノラト)リチウム錯体(Alq3)と金属マグネシウム(Mg)との混合層が用いられる。
【0005】
しかしながら、上述のような構成の有機EL素子では、電子輸送層中の金属が発光ユニットに設けられる有機材料と反応することにより、素子の寿命が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発光効率及び寿命の優れた有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機EL素子は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物で構成された中間層と、中間層を挟持するように設けられ、且つ、中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、を備えたことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、第1及び第2有機発光素子ユニット間に設けられたアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物で構成された中間層が、従来の有機物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属とを混合した層、又は、アルカリ金属やアルカリ土類金属の単体等と比較して、非常に安定して存在する。このため、素子の発光効率及び寿命が良好となる。
【0009】
また、本発明に係る有機EL素子は、金属酸化物が、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化インジウム・スズ、酸化モリブデン、酸化鉄、及び、酸化亜鉛のうちの少なくともいずれか1種を含んでいてもよい。
【0010】
このような構成によれば、金属酸化物が、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化インジウム・スズ、酸化モリブデン、酸化鉄、及び、酸化亜鉛のうちの少なくともいずれか1種を含んでいるため、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と良好に混合されて、安定した中間層を作製することができる。
【0011】
さらに、本発明に係る有機EL素子は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が、それぞれ単体、塩化物、フッ化物、又は、酸化物として金属酸化物に含まれていてもよい。
【0012】
このような構成によれば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が、それぞれ単体、塩化物、フッ化物、又は、酸化物として金属酸化物に含まれるので、より安定した中間層を作製することができ、素子の発光効率及び寿命がより良好となる。
【0013】
また、本発明に係る有機EL素子は、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ部分が構成する膜の中間層全体に対する膜厚比が50%以下であってもよい。
【0014】
このような構成によれば、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ部分が構成する膜の中間層全体に対する膜厚比が50%以下であるため、中間層の電子輸送性を良好に保つことができる。従って、素子の発光効率及び寿命が良好となる。
【0015】
さらに、本発明に係る有機EL素子は、第1及び第2有機発光素子ユニットの一方には、中間層に対向するように電子輸送層が設けられており、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が、中間層における電子輸送層に対向する部分に含まれていてもよい。
【0016】
このような構成によれば、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が、中間層における電子輸送層に対向する部分に含まれているため、素子の電子注入障壁が低減される。従って、より安定した中間層を作製することができ、素子の発光効率及び寿命がより良好となる。
【0017】
また、本発明に係る有機EL素子は、第1及び第2有機発光素子ユニットの一方には、中間層に対向するように電子輸送層が設けられており、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が、中間層の電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に中間層内での濃度が低くなるように含まれていてもよい。
【0018】
このような構成によれば、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が、中間層の電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に中間層内での濃度が低くなるように含まれているため、素子の電子注入障壁が低減される。従って、より安定した中間層を作製することができ、素子の発光効率及び寿命がより良好となる。
【0019】
本発明に係る有機EL素子は、金属酸化物の層と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、で構成された中間層と、中間層を挟持するように設けられ、且つ、中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、を備えたことを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、中間層が、金属酸化物の層と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、で構成されているため、単層にするものよりさらに安定した中間層を作製することができ、素子の発光効率及び寿命がより良好となる。
【0021】
本発明に係る有機EL素子は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層と、で構成された中間層と、中間層を挟持するように設けられ、且つ、中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、を備えたことを特徴とする。
【0022】
このような構成によれば、中間層がアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層の他にp型ドーパントを含んだ金属酸化物の層を備えるため、素子の正孔輸送性・電子輸送性が高まる。従って、素子の発光効率がより良好となる。
【0023】
また、本発明に係る有機EL素子は、p型ドーパントが、フタロシアニン骨格、p−キノン骨格、o−キノン骨格、又は、キノジメタン骨格を有する有機化合物のうちの少なくともいずれか1種であってもよい。
【0024】
このような構成によれば、p型ドーパントが、フタロシアニン骨格、p−キノン骨格、o−キノン骨格、又は、キノジメタン骨格を有する有機化合物のうちの少なくともいずれか1種であるため、素子の正孔輸送性・電子輸送性がより高まる。従って、素子の発光効率がより良好となる。
【0025】
さらに、本発明に係る有機EL素子は、p型ドーパントが、遷移金属の酸化物であってもよい。
【0026】
このような構成によれば、p型ドーパントが、遷移金属の酸化物であるため、素子の正孔輸送性・電子輸送性がより高まる。従って、素子の発光効率がより良好となる。
【0027】
また、本発明に係る有機EL素子は、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層とが、それぞれ中間層全体に対する膜厚比が50%以下であってもよい。
【0028】
このような構成によれば、中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層とが、それぞれ中間層全体に対する膜厚比が50%以下であるため、中間層の電子輸送性を良好に保つことができる。従って、素子の発光効率及び寿命が良好となる。
【0029】
また、本発明に係る有機EL素子は、第1及び第2有機発光素子ユニットの一方には中間層に対向するように電子輸送層が設けられていると共に、他方には中間層に対向するように正孔輸送層が設けられており、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層が電子輸送層に対向するように設けられ、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層が正孔輸送層に対向するように設けられていてもよい。
【0030】
このような構成によれば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層が電子輸送層に対向するように設けられ、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層が正孔輸送層に対向するように設けられているため、素子の正孔輸送性・電子輸送性がより高まる。従って、素子の発光効率がより良好となる。
【0031】
さらに、本発明に係る有機EL素子は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層における電子輸送層に対向する部分に含まれ、p型ドーパントが、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層における正孔輸送層に対向する部分に含まれていてもよい。
【0032】
このような構成によれば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層における電子輸送層に対向する部分に含まれ、p型ドーパントが、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層における正孔輸送層に対向する部分に含まれているため、素子の正孔輸送性・電子輸送性がより高まる。従って、素子の発光効率がより良好となる。
【0033】
また、本発明に係る有機EL素子は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層の電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に該金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれ、p型ドーパントが、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層の正孔輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれていてもよい。
【0034】
このような構成によれば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層の電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に該金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれ、p型ドーパントが、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層の正孔輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれているため、素子の電子注入障壁及び正孔輸送障壁が低減される。従って、より安定した中間層を作製することができ、素子の発光効率及び寿命がより良好となる。
【0035】
さらに、本発明に係る有機EL素子は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層及び電子輸送層の間と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層及び正孔輸送層の間と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層及びp型ドーパントを含んだ金属酸化物の層の間と、のうちの少なくともいずれか一つの間に金属酸化物のみで構成されるバッファ層を備えてもよい。
【0036】
このような構成によれば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層及び電子輸送層の間と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層及び正孔輸送層の間と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層及びp型ドーパントを含んだ金属酸化物の層の間と、のうちの少なくともいずれか一つの間に金属酸化物のみで構成されるバッファ層を備えるため、バッファ層の上下の層の間で生じる金属と有機材料との反応を良好に抑制することができる。このため、素子の発光効率及び寿命がより良好となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、発光効率及び寿命の優れた有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施形態)
有機EL素子は、複数の画素領域がマトリクス状に配置された基板を備える。
【0040】
基板上には、複数の薄膜トランジスタ(TFT)、信号線等及び平坦化層が形成されており、平坦化層上には、第1電極(陽極又は陰極)が形成されている。これらにより、基板は、アクティブマトリクス基板を構成している。
【0041】
なお、基板は、アクティブマトリクス基板でなくてもよく、例えば、基板上に複数の信号線と第1電極が形成されたパッシブマトリクス基板を構成していてもよい。
【0042】
各画素領域の第1電極上には、複数の画素領域にそれぞれ設けられた中間層と、中間層を挟持するように設けられ、且つ、中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットとが設けられている。
【0043】
アクティブマトリクス基板上のTFT等のアクティブ素子部と、中間層、第1及び第2有機発光素子ユニットとは、平坦化層の機能を有する層間絶縁膜で分離されている。アクティブ素子部は、層間絶縁膜に穿たれたコンタクトホールを通し、コンタクトホールを埋める接続用の導電体を介して上層の第1電極に接続されている。このとき、接続用の導電体としては、有機ELの第1電極を用いることも可能である。
【0044】
アクティブ素子部のTFTには、アモルファスシリコン薄膜又は多結晶膜等で構成された半導体層が用いられている。TFTは、トップゲート型であってもよく、ボトムゲート型であってもよい。
【0045】
平坦化層としての機能を有する層間絶縁膜は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。TFT等の保護膜として窒化シリコン膜と、主として平坦化層として機能する樹脂等の積層膜が好適に用いられる。層間絶縁膜を平坦化層として機能ならしめるためには、アクリル系、エポキシ系、ポリイミド系等の樹脂層、SOG(Spin on Glass)等の液状ガラス材料等が好適に用いられるが、本発明はこれらに限定するものではない。平坦化層としては、少なくとも2μm以上の膜厚があることが好ましい。平坦化層の凹凸の大きさを本発明の100nm以下にする手法としては、平坦化層を厚くする、あるいは平坦化層表面を研磨すること等で実現できるが、これらに何ら限定するものではない。
【0046】
次に、本発明の実施形態に係る有機EL素子の積層構造について、図を用いて詳細に説明する。
【0047】
図1は、有機EL素子10の断面図を示す。有機EL素子10は、基板(不図示)上にそれぞれこの順に形成された、陽極11、第1有機発光素子ユニット12、中間層13、第2有機発光素子ユニット14及び陰極15で構成されている。
【0048】
第1及び第2有機発光素子ユニット12,14は、それぞれ低分子材料又は高分子材料が用いられた各種の機能性材料層の積層構造体により構成されている。具体的には、例えば下記(1)〜(4)の構成が挙げられる。
【0049】
(1) 正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層
(2) 正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層
(3) 正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(4) 正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
ここで、上記有機発光層は、一層でも多層構造でもよい。また母体材料にドーパントをドープした層でも構わない。
【0050】
有機発光層は公知の方法で成膜することが可能である。例えば、低分子有機発光層は、真空蒸着法で成膜することが可能である。また、高分子有機発光層は、有機発光層形成用塗液を用いて、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等のウェットプロセスで成膜することが可能である。
【0051】
以下、低分子有機発光層を用いた有機ELを例として説明をするが、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、無論、高分子有機発光層を用いても構わない。
【0052】
発光材料としては、有機LED素子用の公知の発光材料を用いることができる。このような発光材料には低分子発光材料、低分子発光材料の前駆体等に分類される。以下にこれらの具体的な化合物を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
低分子発光材料としては、例えば、ポリ(2―デシルオキシー1、4―フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2、5―ビスー[2―(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]―1、4―フェニルーアルトー1、4―フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2―(2’―エチルヘキシルオキシ)―5―メトキシー1、4―フェニレンビニレン](MEH−PPV)等が挙げられる。
【0054】
また、高分子発光材料の前駆体としては例えば、ポリ(P−フェニレンビニレン)前駆体(Pre−PPV)、ポリ(P−ナフタレンビニレン)前駆体(Pre−PNV)等が挙げられる
正孔輸送層及び電子輸送層(合わせて電荷輸送層)は、それぞれ単層構造でも多層構造でも良い。
【0055】
電荷輸送層は発光層材料と同様に公知の方法で成膜が可能である。
【0056】
電荷輸送材料としては、公知の材料が使用可能である。以下にこれらの具体的な化合物を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
正孔輸送材料としては、例えば、ポルフィリン化合物、N,N’―ビス―(3―メチルフェニル)―N,N’―ビス―(フェニル)―ベンジジン(TPD)、N,N’―ジ(ナフタレン―1―イル)―N,N’―ジフェニル―ベンジジン(NPD)等の芳香族第3級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等の低分子材料、ポリアニリン、3,4-ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等の高分子材料、ポリ(P―フェニレンビニレン)前駆体、ポリ(P―ナフタレンビニレン)前駆体等の高分子材料前駆体が挙げられる。
【0058】
電子輸送材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、フルオレン誘導体等の低分子材料、ポリ[オキサジアゾール]等の高分子材料が挙げられる。
【0059】
陽極11及び陰極15には、それぞれ公知の電極材料を用いることが可能である。また陽極11及び陰極15と第1及び第2有機発光素子ユニット12,14との界面には必要に応じてキャリア注入層等の膜を挿入することもできる。
【0060】
陽極11としては、仕事関数の大きな金属材料(Au,Ni,Pt等)や導電性金属酸化物(ITO,IZO,ZnO,SnO等)を単層あるいは複数の材料の積層膜として用いることができる。また、これらの陽極11上に導電性を大きく妨げない程度の厚み(例えば1nm程度)の酸化物を第1及び第2有機発光素子ユニット12,14に接する側に積層したものを用いてもよい。例えば、SnO等の薄い酸化物層を設けることにより、有機発光材料塗液やキャリア輸送材料塗液の被覆性をさらに良好なものにすることができる。
【0061】
陰極15として用いる電極材料としては、仕事関数が4.0eV以下の低仕事関数を有するCa、Ce、Cs、Rb、Sr、Ba、Mg、Li等を用いることが可能であるが、高分子有機発光層に対しては、Ca、Baが好適に用いられる。陰極15は、前述の低仕事関数の電極が酸素や水等による変質を抑えるために、Ni、Os、Pt、Pd、Al、Au、Rh、Ag等の、科学的に比較的安定な金属との合金、あるいは積層構造が好適に用いられる。更に、トップエミッション型の有機ELでは、前述の陰極15には透光性を与えるために薄く形成する必要がある。したがって、電極として十分な導電性を確保するために、ITO、IZO、ZnO、SnO等の導電性金属酸化物を透明電極層として透光性を有する金属層上に形成することが出来る。透明電極層は、単層あるいは複数の材料の積層膜としてもよい。
【0062】
中間層13は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物で構成されている。中間層13の金属酸化物は、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化インジウム・スズ、酸化モリブデン、酸化鉄、及び、酸化亜鉛のうちの少なくともいずれか1種を含んでいる。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、それぞれ単体、塩化物、フッ化物、又は、酸化物として金属酸化物に含まれている。中間層13は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ部分が構成する膜の、中間層13全体に対する膜厚比が50%以下となるように形成されている。
【0063】
また、本発明の実施形態に係る有機EL素子の中間層は、図1に示すものに限らず、例えば、図2〜6に示すようなものであってもよい。
【0064】
図2に示す有機EL素子20の中間層23は、金属酸化物で構成されており、その金属酸化物の第1有機発光素子ユニット12に設けられた電子輸送層に対向する部分に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が含まれている。すなわち、中間層23は、金属酸化物のみの層22と、金属酸化物にアルカリ金属又はアルカリ土類金属が含まれた層21とで構成されている。
【0065】
図3に示す有機EL素子30の中間層33は、第1有機発光素子ユニット12に設けられた電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に中間層33内でのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の濃度が低くなるように、すなわち濃度勾配を設けて構成されている。
【0066】
図4に示す有機EL素子40の中間層43は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層41と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層42と、で構成されている。
【0067】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層41が第1有機発光素子ユニット12の電子輸送層に対向するように設けられ、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層42が第2有機発光素子ユニット14の正孔輸送層に対向するように設けられている。
【0068】
p型ドーパントは、フタロシアニン骨格、p−キノン骨格、o−キノン骨格、又は、キノジメタン骨格を有する有機化合物のうちの少なくともいずれか1種で構成されている。なお、p型ドーパントは、遷移金属の酸化物で構成されていてもよい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層41と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層42とは、それぞれ中間層43全体に対する膜厚比が50%以下となるように形成されていてもよい。
【0069】
なお、アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層41における電子輸送層に対向する部分に含まれていてもよい。また、p型ドーパントは、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層42における正孔輸送層に対向する部分に含まれていてもよい。
【0070】
図5に示す有機EL素子50の中間層53は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層51の電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれている。また、p型ドーパントは、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層52の正孔輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれている。すなわち、各金属酸化物の層51,52には、それぞれアルカリ金属又はアルカリ土類金属又はp型ドーパントの濃度勾配が形成されている。
【0071】
図6に示す有機EL素子60の中間層63は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層61とp型ドーパントを含んだ金属酸化物の層62との間に、金属酸化物のみで構成されるバッファ層64が設けられている。なお、これに限らず、バッファ層64は、中間層63において、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層61と第1有機発光素子ユニット12の電子輸送層との間に設けられていてもよい。また、バッファ層64は、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層62と第2有機発光素子ユニット14の正孔輸送層との間に設けられていてもよい。さらに、上記の構成から任意に選択される複数の層間に設けられていてもよい。
【0072】
なお、上記実施形態における有機EL素子10〜60において、第1有機発光素子ユニット12、中間層13〜63、及び、第2有機発光素子ユニット14の積層パターンは、さらに何回繰り返してもよい。具体的には、中間層13〜63を介して設けた第1及び第2有機発光素子ユニット12,14の上側又は下側(或いは両側)に、さらに中間層13〜63を介して第3(或いは第3及び第4)有機発光素子ユニットを設けてもよく、それ以上の積層パターンを設けてもよい。
【実施例1】
【0073】
次に、本発明の有機EL素子の実施例1について、図を用いて詳細に説明する。
【0074】
(有機EL素子の構成)
図7は、本発明の実施例1に係る有機EL素子70の断面図を示す。有機EL素子70は、ITOガラス基板(不図示)、陽極71、第1有機発光素子ユニット72、中間層73、第2有機発光素子ユニット74及び陰極75が、この順で積層されている。
【0075】
(有機EL素子70の製造)
まず、ITOガラス基板(不図示)を準備する。なお、基板としては、ITOガラス基板に限らない。例えば、トップエミッション型有機EL素子では、基板と反対側から光を取出すために基板に透光性を必要としない。このため、シリコンウェハー等の半導体基板を用いてもよい。
【0076】
次に、ITOガラス基板上にプラズマCVD法によりシリコン半導体膜を形成し、結晶化処理を施して多結晶シリコン半導体膜を形成した。
【0077】
続いて、多結晶シリコン薄膜をエッチング処理し、複数の島状パターンを形成した。
【0078】
次に、複数の島状パターンの上にゲート絶縁膜及びゲート電極層を順次形成し、エッチング処理によってパターニングを行った。
【0079】
続いて、ドーピングにより島状パターンの多結晶シリコン半導体膜の各島に、ソース領域及びドレイン領域を形成することで複数のTFTを作製し、さらに平坦化層としての機能を有する層間絶縁膜を形成した。本実施例の層間絶縁膜は、プラズマCVD法で形成した窒化シリコン膜とスピンコーターで形成したアクリル系樹脂層との積層で構成される。
【0080】
層間絶縁膜の作製としては、まず、窒化シリコン膜を形成した後、ゲート絶縁膜と一緒にエッチングによりソース領域及び/又はドレイン領域に通ずるコンタクトホールを形成した。その後、ソース配線を形成し、さらにアクリル系樹脂層を形成した後、ゲート絶縁膜及び窒化シリコン膜に穿孔したドレイン領域のコンタクトホールと同じ位置にドレイン領域に通ずるコンタクトホールを形成した。平坦化層としての機能は、アクリル系樹脂層で実現される。アクリル系樹脂層は、表面の凹凸の大きさを100nm以下とするために8μmの厚さで形成した。これにより、平坦化層であるアクリル系樹脂層表面の凹凸の大きさは、最大で48nmであった。平坦化層であるアクリル系樹脂層表面の凹凸の大きさは、触針式段差計を用いて計測した。
【0081】
次に、平坦化層を形成した基板上に平坦化層に設けたスルーホールを通して、TFTのドレイン電極と接続するように陽極71を形成した。陽極71にはNiを使用し、膜厚は150nmとした。次に陽極71のエッジ部を覆うように、SiO絶縁膜で1画素毎に画素電極を取り囲むようにカバーを形成した。これによって得られた隔壁に囲まれた開口部は、50×50μmであった。
【0082】
続いて、陽極71上に、第1層目の正孔輸送層72aとして、α-NPDを真空蒸着法により30nm( 蒸着速度1Å/sec) の膜厚となるように形成した。さらに、ホストとしてのCBPと、ドーパントとしてIr(ppy)とを、30nm(CBP:蒸着速度1Å/sec、Ir(ppy):蒸着速度0.1Å/sec)の膜厚となるように共蒸着することにより発光層72bを形成した。
【0083】
次に、バッファ層72cとしてBCPを10nm(蒸着速度1Å/sec)の膜厚で形成し、その後、電子輸送層72dとしてAlqを40nm(蒸着速度1Å/sec)の膜厚で形成することにより、第1有機発光素子ユニット72を形成した。
【0084】
続いて、第1有機発光素子ユニット72上に、共蒸着により中間層73を酸化モリブデン(MoO3)とCaを20nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、Ca:蒸着速度0.1Å/sec)で形成した。
【0085】
次に、中間層73上に第2有機発光素子ユニット74を陽極71上の第1有機発光素子ユニット72の形成と同じ手順で形成した。ここで、図7における第2有機発光素子ユニット74を構成する複数の層(74a〜74d)は、それぞれ第1有機発光素子ユニット72を構成する複数の層(72a〜72d)に対応するものである。
【0086】
続いて、電子注入層76としてLiFを真空蒸着法により0.5nmの膜厚で形成し( 蒸着速度1Å/sec)、さらに陰極75としてAl膜(陰極75)を500nmの膜厚で形成することにより、有機EL素子70を作製した。
【比較例】
【0087】
次に、比較例として、図8に示す構成の有機EL素子80を作製した。ここで、有機EL素子80は、上記実施例1の有機EL素子70と比較して、中間層83の金属酸化物にアルカリ金属等が含まれていない点が特徴である。また、有機EL素子80は、第1有機発光素子ユニットの中間層に対向する側にキャリア注入層86が形成されている。これら以外の構成要素は実施例1と同様であるため、同符号を付している。
【0088】
有機EL素子80の作製において、陽極71側の電子輸送層72dの形成時に、電子注入能力を上げるために、Alq3を実施例1と同様に40nm(蒸着速度1Å/sec)の膜厚で形成した後、Alq3と金属カルシウム(Ca)を共蒸着により10nm(Alq3:蒸着速度1Å/sec、Li:蒸着速度0.5Å/sec)の膜厚となるように形成した。その後、酸化モリブデン(MoO)を真空蒸着法により、20nm(蒸着速度1Å/sec)の膜厚で形成し、有機EL素子80の中間層83を形成した。
(評価結果1)
【0089】
実施例1及び比較例で作製した有機EL素子70,80の発光効率及び素子寿命を比較評価した。発光効率は、実施例1及び比較例の差がほぼ生じなかった(実施例1:62cd/A、比較例1:64cd/A)。ただし、素子寿命については、実施例1の有機EL素子70の方が大幅に延びることが確認された(実施例1:8000時間、比較例:1200時間 at 2000cd/m)。
【0090】
この結果から、電子輸送層中に存在する金属が有機材料と反応しやすいために、複数の有機発光素子ユニットを備えたマルチフォトン(タンデム)素子の寿命が良好ではなかったが、本実施例1のように金属酸化物と金属が存在すればそれらの反応が抑えられるために素子の寿命が良好となることがわかった。
【0091】
有機発光素子ユニットの有機材料は、炭素原子、あるいはシリコン原子と酸素原子、硫黄原子、あるいはハロゲン原子の結合が存在するときは、酸素原子、硫黄原子、あるいはハロゲン原子上でマイナスに局在化しやすい。そして、そのマイナスに局在化した部位に金属のプラスに局在化した部位が配位する。このため、炭素原子、あるいはシリコン原子と酸素原子、硫黄原子、あるいはハロゲン原子の結合が弱まり、有機材料と金属が反応しやすくなる。一方、金属酸化物と金属とを組み合わせたときには、金属酸化物中の酸素原子は、有機材料ほどマイナスに局在化しない。このため、金属酸化物と金属との反応性は、有機材料と金属の反応性に比べて低くなる。金属酸化物と金属との反応性は低いが、金属を比較的高濃度(10〜40%)でドープすることにより、電子注入性を高めることはできる。
【実施例2】
【0092】
次に、実施例2に係る有機EL素子90について図を用いて詳細に説明する。
【0093】
図9は、実施例2に係る有機EL素子90の断面図である。実施例2に係る有機EL素子90と、実施例1に係る有機EL素子70とは、その中間層73,93の構成のみ異なっている。
【0094】
実施例2に係る有機EL素子90の中間層93は、陽極71側の第1有機発光素子ユニット72における電子輸送層72dのAlq3と中間層93中の金属との反応、さらに陰極75側の第2有機発光素子ユニット74におけるα―NPDと金属との反応を、それぞれ抑制するように構成されている。具体的には、中間層93は、陽極71側の第1有機発光素子ユニット72を形成した後に、MoOの層97を1nmの膜厚で形成し、その後、MoOとCaとの層98を共蒸着により20nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、Ca:蒸着速度0.1Å/sec)の膜厚で形成した。その後、MoOの層97を1nmの膜厚で形成した。中間層93以外の陽極71、第1及び第2有機発光素子ユニット72,74、及び、陰極75に関しては、それぞれ実施例1と同じ手順で形成した。
【実施例3】
【0095】
次に、実施例3に係る有機EL素子100について図を用いて詳細に説明する。
【0096】
図10は、実施例3に係る有機EL素子100の断面図である。実施例3に係る有機EL素子100と、実施例1に係る有機EL素子70とは、その中間層73,103の構成のみ異なっている。
【0097】
本実施例3では、陽極71側の第1有機発光素子ユニット72を形成した後、MoOの層107を1nmの膜厚で形成し、その後、MoOとCaとの層108を共蒸着により10nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、Ca:蒸着速度0.1Å/sec)の膜厚で形成した。続いて、さらにMoOの層107を1nmの膜厚で形成し、その後、MoOとFTCNQとの層109を共蒸着により10nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、FTCNQ:蒸着速度0.1Å/sec)の膜厚で形成した。最後に、MoOの層107を1nmの膜厚で形成し、中間層103を作製した。中間層103以外の陽極71、第1及び第2有機発光素子ユニット72,74、及び、陰極75に関しては、それぞれ実施例1と同じ手順で形成した。
(評価結果2)
【0098】
実施例1〜3で作製した有機EL素子70,90,100について、駆動電圧、発光効率、及び、素子寿命をそれぞれ比較評価した。
【0099】
駆動電圧は、実施例1の有機EL素子70が6.4Vであり、実施例2の有機EL素子90が6.5Vであり、両者はほぼ同等であった。これに対し、実施例3の有機EL素子100は6.2Vとなり、実施例1及び2と比較して、低かった。
【0100】
発光効率は、実施例1の有機EL素子70及び実施例2の有機EL素子90の間でほぼ差がなかった(実施例1:62cd/A、実施例2:64cd/A)。しかし、実施例3の有機EL素子100の発光効率は、実施例1及び2と比較してやや低かった(58cd/A)。
【0101】
素子寿命は、実施例1の有機EL素子70及び実施例2の有機EL素子90の間でほぼ差がなかった。これに対し、実施例3の有機EL素子100の寿命は、大幅に実施例1及び2よりも延びることが確認された(実施例1:8000時間、実施例2:9000時間、実施例3:13000時間 at 2000cd/m)。
【0102】
上記結果から、中間層に存在する金属を隣接する有機材料に近づけなくすることで、金属と有機材料との反応を抑制させ、素子の長寿命化を図れることが確認された(実施例1〜3と比較例との比較から)。また、中間層を、陽極付近では電子注入性が増すように、陰極付近では正孔注入性が増すように、それぞれ配置させることで、より低い電圧で駆動し、発光効率の高い素子を得ることができた(実施例1及び2と実施例3との比較から)。中間層に存在する金属が隣接する有機材料に近づけなくすることで、金属と有機材料との反応を抑制できるメカニズムについては評価結果1で述べたものと同様である。
【実施例4】
【0103】
次に、実施例4に係る有機EL素子110について図を用いて詳細に説明する。
【0104】
図11は、実施例4に係る有機EL素子110の断面図である。実施例4に係る有機EL素子110と、実施例1に係る有機EL素子70とは、その中間層73,113の構成のみ異なっている。
【0105】
本実施例4では、陽極71側の第1有機発光素子ユニット72を形成した後に、MoOの層117を1nmの膜厚で形成した。その後、MoOとCaとの層118を共蒸着により10nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、Ca:蒸着速度0.20Å/secから0.05Å/sec)の膜厚で形成した。その際、Caの蒸着速度は変化させる一方、MoOの蒸着速度は一定にして濃度勾配を設けた。その後、MoOの層117を1nmの膜厚で形成した。続いて、MoOとFTCNQとの層119を共蒸着により10nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、FTCNQ:蒸着速度0.20Å/secから005Å/sec)の膜厚で形成した。この際もFTCNQの蒸着速度を変える一方、MoOの蒸着速度は一定として勾配を設けた。最後にMoOの層117を1nmの膜厚で形成し、中間層113を作製した。中間層113以外の陽極71、第1及び第2有機発光素子ユニット72,74、及び、陰極75に関しては、それぞれ実施例1と同じ手順で形成した。
【0106】
なお、濃度勾配は、インライン蒸着等の蒸着源が固定され、基板が搬送される方法を利用しても容易に形成できる。
(評価結果3)
【0107】
実施例3及び実施例4で作製した有機EL素子100,110の駆動電圧、発光効率、及び、素子寿命を比較評価した。実施例3で作製した有機EL素子100に対して、実施例4で作製した有機EL素子110は、素子寿命が5割長くなり、発光効率は同等であった。
【0108】
濃度勾配を設けることで電子及びホール注入障壁が低減され、電気化学的に安定になることがわかった。ドープ濃度を変えると、仕事関数が変わり、それにより各地点での電子及びホールの注入又は移動が容易になるためである。また、濃度勾配は、隣接する層同士の仕事関数から均等であることが望ましい。その際の電子およびホール移動の障壁が最も小さくなるためである。(参考文献:K. Okamoto et al. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 7014.)
【実施例5】
【0109】
次に、実施例5に係る有機EL素子について説明する。
【0110】
実施例5に係る有機EL素子と、実施例2に係る有機EL素子90とは、その中間層93の構成のみ異なっている。
【0111】
実施例5に係る有機EL素子の中間層として、まず、実施例2に係る有機EL素子90と同様の陽極71及び第1有機発光素子ユニット72を形成した。続いて、MoOの層を1nmの膜厚で形成し、さらに、MoOとCaとの層を共蒸着により20nm(MoO:蒸着速度1Å/sec、Ca:蒸着速度0.5Å/sec)の膜厚で形成した。次に、MoOの層を1nmの膜厚で形成した。また、第2有機発光素子ユニット74、及び、陰極75に関しては、それぞれ実施例2と同じ手順で形成した。
(評価結果4)
【0112】
実施例2及び実施例5でそれぞれ作製した有機EL素子の駆動電圧、発光効率、素子寿命を比較評価した。実施例5では、MoOに対して、相対膜厚比で50%のCaをドープした(実施例2では20%)。実施例2の有機EL素子90に対して、実施例5で作製した有機EL素子は、素子寿命が1割短くなる結果が得られた。
【0113】
MoOに対して、金属を50%以上ドープしたあたりから素子寿命が短くなる結果が得られた。つまり、Caが周囲と反応する活性点が増え、反応後に電子輸送性が落ちるために、全体として素子寿命が短くなったと考えられる。
【実施例6】
【0114】
次に、実施例6に係る有機EL素子について説明する。
【0115】
実施例6に係る有機EL素子と、実施例3に係る有機EL素子100とは、その構成要素が同じであり、その中間層103の構成のみ異なっている。
【0116】
実施例6に係る有機EL素子の中間層は、実施例3係る有機EL素子100の中間層103の作製において、そのMoOとFTCNQとの共蒸着速度をMoO:蒸着速度1Å/sec、FTCNQ:蒸着速度0.5Å/secとし、10nmの膜厚で形成した。
(評価結果5)
【0117】
実施例3及び実施例6でそれぞれ作製した有機EL素子の駆動電圧、発光効率、素子寿命を比較評価した。実施例6ではMoOに対して、相対膜厚比で50%のFTCNQをドープした(実施例3では20%)。実施例3で作製した有機EL素子100に対して、実施例6で作製した有機EL素子は、素子寿命が1割短くなる結果が得られた。
【0118】
MoOに対して、金属を50%以上ドープするあたりから素子寿命が短くなる結果が得られていることから、Caが周囲と反応する活性点が増え、反応後に電子輸送性が低下するために全体として素子寿命が短くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上説明したように、本発明は、有機EL素子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子10の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る有機EL素子20の断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る有機EL素子30の断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係る有機EL素子40の断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に係る有機EL素子50の断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係る有機EL素子60の断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例1に係る有機EL素子70の断面図である。
【図8】図8は、比較例に係る有機EL素子80の断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施例2に係る有機EL素子90の断面図である。
【図10】図10は、本発明の実施例3に係る有機EL素子100の断面図である。
【図11】図11は、本発明の実施例4に係る有機EL素子110の断面図である。
【符号の説明】
【0121】
10,20,30,40,50,60,70,90,100,110 有機EL素子
11,71 陽極
12,72 第1有機発光素子ユニット
13,23,33,43,53,63,73,93,103,113 中間層
14,74 第2有機発光素子ユニット
15,75 陰極
21,41,51,61 アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層
22 金属酸化物のみの層
42,52,62 p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層
64 バッファ層
72a 正孔輸送層
72b 発光層
72c バッファ層
72d 電子輸送層
76 電子注入層
86 キャリア注入層
97,107,117 MoOの層
98,108,118 MoOとCaとの層
109,119 MoOとFTCNQとの層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物で構成された中間層と、
上記中間層を挟持するように設けられ、且つ、該中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、
を備えた有機EL素子。
【請求項2】
請求項1に記載された有機EL素子において、
上記金属酸化物は、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化インジウム・スズ、酸化モリブデン、酸化鉄、及び、酸化亜鉛のうちの少なくともいずれか1種を含む有機EL素子。
【請求項3】
請求項1に記載された有機EL素子において、
上記アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、それぞれ単体、塩化物、フッ化物、又は、酸化物として上記金属酸化物に含まれている有機EL素子。
【請求項4】
請求項1に記載された有機EL素子において、
上記中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ部分が構成する膜の、該中間層全体に対する膜厚比が50%以下である有機EL素子。
【請求項5】
請求項1に記載された有機EL素子において、
上記第1及び第2有機発光素子ユニットの一方には、該中間層に対向するように電子輸送層が設けられており、
上記中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、該中間層における上記電子輸送層に対向する部分に含まれている有機EL素子。
【請求項6】
請求項1に記載された有機EL素子において、
上記第1及び第2有機発光素子ユニットの一方には、該中間層に対向するように電子輸送層が設けられており、
上記中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、該中間層の上記電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に該中間層内での濃度が低くなるように含まれている有機EL素子。
【請求項7】
金属酸化物の層と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、で構成された中間層と、
上記中間層を挟持するように設けられ、且つ、該中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、
を備えた有機EL素子。
【請求項8】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層と、で構成された中間層と、
上記中間層を挟持するように設けられ、且つ、該中間層を介して電気的に直列に接合された第1及び第2有機発光素子ユニットと、
を備えた有機EL素子。
【請求項9】
請求項8に記載された有機EL素子において、
上記金属酸化物は、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化インジウム・スズ、酸化モリブデン、酸化鉄、及び、酸化亜鉛のうちの少なくともいずれか1種を含む有機EL素子。
【請求項10】
請求項8に記載された有機EL素子において、
上記p型ドーパントは、フタロシアニン骨格、p−キノン骨格、o−キノン骨格、又は、キノジメタン骨格を有する有機化合物のうちの少なくともいずれか1種である有機EL素子。
【請求項11】
請求項8に記載された有機EL素子において、
上記p型ドーパントは、遷移金属の酸化物である有機EL素子。
【請求項12】
請求項8に記載された有機EL素子において、
上記アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、それぞれ単体、塩化物、フッ化物、又は、酸化物として上記金属酸化物に含まれている有機EL素子。
【請求項13】
請求項8に記載された有機EL素子において、
上記中間層のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層と、p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層とは、それぞれ該中間層全体に対する膜厚比が50%以下である有機EL素子。
【請求項14】
請求項8に記載された有機EL素子において、
上記第1及び第2有機発光素子ユニットの一方には該中間層に対向するように電子輸送層が設けられていると共に、他方には該中間層に対向するように正孔輸送層が設けられており、
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層が上記電子輸送層に対向するように設けられ、
上記p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層が上記正孔輸送層に対向するように設けられた有機EL素子。
【請求項15】
請求項14に記載された有機EL素子において、
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、該アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層における上記電子輸送層に対向する部分に含まれ、
上記p型ドーパントは、該p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層における上記正孔輸送層に対向する部分に含まれている有機EL素子。
【請求項16】
請求項14に記載された有機EL素子において、
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、該アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層の上記電子輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に該金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれ、
上記p型ドーパントは、該p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層の上記正孔輸送層に対向する側からその反対側に向かうにつれて、徐々に該金属酸化物の層内での濃度が低くなるように含まれている有機EL素子。
【請求項17】
請求項14に記載された有機EL素子において、
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層及び上記電子輸送層の間と、
上記p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層及び上記正孔輸送層の間と、
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含んだ金属酸化物の層及び上記p型ドーパントを含んだ金属酸化物の層の間と、
のうちの少なくともいずれか一つの間に金属酸化物のみで構成されるバッファ層を備えた有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−43612(P2009−43612A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208241(P2007−208241)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】