説明

有機EL表示パネルおよびその製造方法

【課題】有機発光層に水分が浸透することを防止して、画素の発光特性や寿命などを損なうことがない有機EL表示パネルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】有機発光層7や陰極電極8は、絶縁層6の端部に乗り上げるように形成される。そして、皮膜層12は、有機発光層7や陰極電極8よりも外側まで大きく形成され、端部が隔壁9の側面に接する。すなわち、有機発光層7や陰極電極8の端部は、金属材料などで形成された皮膜層12によって完全に覆われ、端面などが露出することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示パネルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示パネルとは、陽極電極と陰極電極の間に有機発光層を挟持してなる有機EL素子基板と、この有機EL素子基板に対向する封止基板とを、封止基板の外周部に配設した紫外線硬化型樹脂などのシール材により封止したものである。
【0003】
この有機EL表示パネルを構成する有機EL素子基板は、陽極電極の一面に、例えば画素に相当する矩形領域が複数配列された格子状に区画する絶縁層を形成し、このそれぞれの矩形領域ごとに、陽極電極の一面と絶縁層の一部とを覆う有機発光層と陰極電極とを順次積層することによって形成されている。
【0004】
ところで、この有機発光層は、水分が僅かに浸透しただけでも特性劣化を起こし、ダークフレームと称される非発光部分の拡大による輝度低下や画素の縮小、あるいは有機EL表示パネルの寿命低下などを生じさせる原因となる。このため、有機発光層に水分を浸透させないような構造にすることが求められている。
【特許文献1】特開2001−296819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の有機EL素子基板では、絶縁層によって区画された陽極電極上のそれぞれの矩形領域に、蒸着などによって有機発光層を積層した後、水の浸透しない材質からなる陰極電極を積層して有機発光層を覆うことによって、有機発光層に水分が浸透することを防止する構造であった。
【0006】
しかしながら、従来の有機EL素子基板では、有機発光層と陰極電極とは、ほぼ同じ大きさに形成されていた。このため、有機発光層の側端(エッジ部分)は陰極電極に完全には覆われずに露出する部分が生じてしまい、この有機発光層の側端から絶縁層と有機発光層との接合部分に沿って、水分が毛管現象あるいは拡散によって有機発光層の内部まで浸透してしまうという不具合が生じていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、有機発光層に水分が浸透することを防止して、画素の発光特性や寿命などを損なうことがない有機EL表示パネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、陽極電極の一面を複数の矩形領域に区画する絶縁層を形成する工程と、前記陽極電極の一面と前記絶縁層の一部とを覆うように複数の有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層の少なくとも一部を覆うように陰極電極を形成する工程と、前記有機発光層および前記陰極電極の周縁よりも外側まで延び、前記有機発光層および前記陰極電極を端部まで覆うような皮膜層を形成する工程とを備え、前記陰極電極を形成する工程を蒸着法によって行い、前記皮膜層を形成する工程をスパッタリング法によって行うことを特徴とする有機EL表示パネルの製造方法が提供される。
【0009】
前記皮膜層を形成するスパッタリング法は、200〜1×10−2Paの圧力範囲で、希ガスをスパッタリングガスとして用いればよい。
【0010】
また、本発明によれば、陽極電極の一面を複数の矩形領域に区画する絶縁層と、前記陽極電極の一面と前記絶縁層の一部とを覆う複数の有機発光層と、前記有機発光層の少なくとも一部を覆う複数の陰極電極と、前記有機発光層および前記陰極電極の周縁よりも外側まで延び、前記有機発光層および前記陰極電極を端部まで覆う皮膜層とを備えたことを特徴とする有機EL表示パネルが提供される。
【0011】
互いに隣接する前記陰極電極どうしの間には、前記絶縁層から立ち上がる隔壁がさらに形成されていればよい。また、前記皮膜層の端部は前記隔壁に接していればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機EL表示パネルの製造方法によれば、蒸着によって形成した有機発光層および陰極電極の上に、スパッタリングによって皮膜層を形成することで、例えば逆三角形状の隔壁の根元部分など、蒸着法では積層が難しい部分まで皮膜層が形成され、有機発光層の端面を露出させずに、有機発光層への水分の浸透を完全に防止することが可能になる。これにより、従来課題であった、有機発光層の端面から絶縁層との界面に沿って水分が有機発光層の奥まで浸透してしまうといったことを確実に防止することが可能になる。
【0013】
捕水材などで完全に捕捉しきれずに残留している水分があったとしても、有機発光層に浸透することが無く、有機発光層が水分の浸透によって特性劣化を起こし、ダークフレームなどの非発光部分の拡大による輝度低下や画素の縮小、あるいは有機EL表示パネルの寿命低下などの不具合の発生を効果的に防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る有機EL表示パネルについて、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る有機EL表示パネルの一例を示す概略断面図である。有機EL表示パネル1は、有機EL素子基板2と、有機EL素子基板2に対向する封止基板3と、これら基板を接合して有機EL素子を封止するシール材4と、有機EL素子基板2と封止基板3とシール材4とから形成される密封空間に設けた捕水材5とから概略構成されている。
【0015】
有機EL素子基板2は、例えば厚さ0.4〜1.1mmの透明なガラス基板からなり、その上には、ITO等の透明な帯状の陽極電極11が複数形成されている。有機EL素子基板2の下部側10は、いわゆる視認側に当たる。
【0016】
そして、陽極電極11上には、光源となる有機発光層7,7・・・、アルミニウム等の金属材料からなる陰極電極8,8・・・、ポリイミド樹脂等からなる絶縁層6,6・・・が形成され、陽極電極11と陰極電極8とで有機発光層7を挟み込んで電流を印加できるようになっている。また、陰極電極8の上には、例えば陰極電極8と同様の金属材料からなる皮膜層12,12・・・が形成されている。絶縁層6,6・・・上には、ノボラック樹脂等からなる隔壁9,9・・・が立ち上がるように形成されている。
【0017】
封止基板3は、例えばガラス、アクリル系樹脂などからなり、有機EL素子基板2を覆うように設けられている。また、封止基板3の形状は、平板上の基板の外周部に凸部が設けられたものとなっており、この凸部が、シール材4を介して有機EL素子基板2と接合されることにより、有機EL素子が封止されている。
【0018】
シール材4は、例えばエポキシ系、アクリル系等の紫外線硬化型樹脂からなるものである。これらのなかでも、外部からの水分の浸入を防止する点から、透水性の低い樹脂であることが好ましい。
【0019】
凸部で囲まれた封止基板3の表面上には、全面に渡って捕水材5が設けられている。捕水材5は、凸部で囲まれた封止基板3の表面全面ではなく、一部に設けても良いが、パネル内における捕水効率を上げるために、全面に渡って設けることが好ましい。なお、捕水材とは、捕水機能を有する物質を粘性のある不活性溶媒に混合したものや樹脂中に混合したものであり、捕水機能を有する物質としては、例えば、ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、モレキュラーシーブなどの物理吸着型のものや、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸チタンなどの化学吸着型のものを挙げることができる。
【0020】
図2は、有機EL素子基板の部分拡大断面図である。有機EL表示パネル1は、互いに隣接する絶縁層6,6・・・どうしの間が、例えば1つの画素領域Pとされる。この画素領域Pにおいて、陽極電極11と陰極電極8に挟まれた有機発光層7に電流を印加することで、有機発光層7を発光させる。画素領域Pは絶縁層6によって区画されており、格子状の矩形領域となる。すなわち、絶縁層6は陽極電極11の上に積層形成され、画素領域Pに対応する位置に矩形状の開口が形成されている。この開口に有機発光層7および陰極電極8が積層される。
【0021】
こうした画素領域Pの外側で、それぞれの有機発光層7や陰極電極8は、絶縁層6の端部に乗り上げるように形成される。そして、皮膜層12は、有機発光層7や陰極電極8よりも外側まで大きく形成され、端部が隔壁9の側面に接する。すなわち、有機発光層7や陰極電極8の端部は、金属材料などで形成された皮膜層12によって完全に覆われ、端面などが露出することがない。
【0022】
このように、金属膜など透水性の無い材料で形成された皮膜層12によって有機発光層7と陰極電極8とを端部まで完全に覆うことによって、従来課題であった、有機発光層の端面から絶縁層6との界面に沿って水分が有機発光層の奥まで浸透してしまうといったことを確実に防止することが可能になる。
【0023】
これにより、捕水材5で完全に捕捉しきれずに残留している水分があったとしても、皮膜層12の作用によって、有機発光層7に浸透することが無く、有機発光層7が水分の浸透によって特性劣化を起こし、ダークフレームなどの非発光部分の拡大による輝度低下や画素の縮小、あるいは有機EL表示パネルの寿命低下などの不具合の発生を効果的に防止することが可能になる。なお、皮膜層12を構成する材料は、陰極電極8と同様の金属材料以外にも、陰極電極8とは異なる金属材料、水を透過させないSiN材料、あるいは捕水性のあるCa酸化物などが好ましく挙げられる。
【0024】
次に、本発明の有機EL表示パネルの製造方法について説明する。図3は、本発明の有機EL表示パネルを製造するにあたって、有機EL素子基板に有機発光層や電極などを形成する工程を示した説明図である。まず、図3(a)に示すように、例えば透明なガラスからなる基板有機EL素子基板2の一面上に、ITOからなる透明な陽極電極11を形成する。
【0025】
そして、この陽極電極11の一面11a上に、例えばポリイミド樹脂等からなる絶縁層6を格子状に形成し、陽極電極11を画素に相当する矩形領域ごと区画する。こうした絶縁層6を格子状に形成するには、例えば、絶縁材料を陽極電極11の一面11a全体に形成した後、フォトレジスト等によって絶縁材料のエッチングを行うことで形成すればよい。あるいは、格子状のマスクを用いて蒸着する方法で形成されればよい。
【0026】
次に、必要に応じて、図3(b)に示すように、絶縁層6の上面から立ち上がる隔壁9を、例えばノボラック樹脂等から形成する。隔壁9は、絶縁層6の上面から上に向かって幅が広がる逆三角形状に形成されればよい。こうした隔壁9は、例えばポジ型感光性樹脂を露光・現像することによって形成されればよい。
【0027】
続いて、図3(c)に示すように、互いに隣接する絶縁層6どうしの間から、絶縁層6の端部に至る部分に、陽極電極11の露出部分と絶縁層6の端部とを覆う有機発光層7が形成される。こうした有機発光層7の形成は、開口21を形成したマスク22を用いて、蒸着によって有機発光層7の形成材料を積層することにより、マスク22の開口21の部分だけ、すなわち、陽極電極11の露出部分と絶縁層6の端部を覆う有機発光層7が形成される。なお、マスク22は、隔壁9の頂部と接する程度に接近させて蒸着を行えばよい。
【0028】
図4(a)に示すように、有機発光層7の上には陰極電極8が形成される。この陰極電極8の形成にあたっては、前工程で用いたものと同様のマスク22を用いて、蒸着によって陰極電極8の形成材料を積層すればよい。
【0029】
そして、図4(b)に示すように、有機発光層7や陰極電極8の端部よりも外側まで皮膜層12を積層する。皮膜層12は、有機発光層7や陰極電極8を端部まで完全に覆うとともに、側端が隔壁9に接する位置まで形成すればよい。この皮膜層12の形成にあたっては、皮膜層12の構成材料をターゲット13としたスパッタリングによって行えばよい。
【0030】
こうしたスパッタリングの際の好ましい条件としては、低真空環境、例えば200〜1×10−2Paの圧力範囲が良く、ターゲットガスとしては希ガスを用いればよい。特に、隔壁9の形状が逆三角形状の時には、この隔壁9の根元部分まで皮膜層12を形成して有機発光層7の端部まで完全に覆うために、通常のスパッタリングでよく用いられるArよりも質量数が大きい(重い)Kr,Xeなどを用いるのが好ましい。質量数が大きい希ガスを用いることによって、スパッタリング時のターゲット粒子(皮膜材料)の拡散性が増加して乱反射しやすくなり、逆三角形状の隔壁9の根元部分など、蒸着法では積層が難しい部分に有機発光層7を端部まで覆う皮膜層12を積層させることが可能になる。
【0031】
このように、蒸着によって形成した有機発光層7および陰極電極8の上に、スパッタリングによって皮膜層12を形成することで、逆三角形状の隔壁9の根元部分など、蒸着法では積層が難しい部分まで皮膜層12が形成され、有機発光層7の端面を露出させずに、有機発光層7への水分の浸透を完全に防止することが可能になる。
【0032】
なお、本発明の実施形態では、有機発光層7および陰極電極8の形成に開口21を有するマスク22を用いたが、これに限定されず、隣接する有機発光層7や隣接する陰極電極8を分離するのに隔壁を用いてもよい。蒸着において形成される有機発光層7や陰極電極8は隔壁9の根元部分まで延在できないが、本発明のスパッタリング法で形成される皮膜層12は隔壁9の根元部分まで被覆することができ、有機発光層7や陰極電極8の形成方法によらず、有機発光層7の端面を露出させない。すなわち、有機発光層7への水分の浸透を完全に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の有機EL表示パネルの一例を示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の有機EL表示パネルの製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の有機EL表示パネルの製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1…有機EL表示パネル、2…有機EL素子基板、3…封止基板、6…絶縁層、7…有機発光層、8…陰極電極、9…隔壁、12…皮膜層、13…ターゲット、21…開口、22…マスク。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極の一面を複数の矩形領域に区画する絶縁層を形成する工程と、前記陽極電極の一面と前記絶縁層の一部とを覆うように複数の有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層の少なくとも一部を覆うように陰極電極を形成する工程と、前記有機発光層および前記陰極電極の周縁よりも外側まで延び、前記有機発光層および前記陰極電極を端部まで覆うような皮膜層を形成する工程とを備え、前記陰極電極を形成する工程を蒸着法によって行い、前記皮膜層を形成する工程をスパッタリング法によって行うことを特徴とする有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項2】
前記皮膜層を形成するスパッタリング法は、200〜1×10−2Paの圧力範囲で、希ガスをスパッタリングガスとして用いることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項3】
陽極電極の一面を複数の矩形領域に区画する絶縁層と、前記陽極電極の一面と前記絶縁層の一部とを覆う複数の有機発光層と、前記有機発光層の少なくとも一部を覆う複数の陰極電極と、前記有機発光層および前記陰極電極の周縁よりも外側まで延び、前記有機発光層および前記陰極電極を端部まで覆う皮膜層とを備えたことを特徴とする有機EL表示パネル。
【請求項4】
互いに隣接する前記陰極電極どうしの間には、前記絶縁層から立ち上がる隔壁がさらに形成されていることを特徴とする請求項3に記載の有機EL表示パネル。
【請求項5】
前記皮膜層の端部は、前記隔壁に接していることを特徴とする請求項4に記載の有機EL表示パネル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−141645(P2007−141645A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333827(P2005−333827)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】