説明

有機EL表示パネルおよび捕水材層形成装置

【課題】 パネル内の水分を確実に補足でき、かつ製造段階での破損や表示不良を発生させることのない有機EL表示パネルおよびこれを形成する捕水材層形成装置を提供する。
【解決手段】 捕水材層5は、直径tが5〜15μm程度の捕水材粒子5aをほぼ1層に500μm程度並べたの薄膜である。このような薄膜の捕水材層5は、従来の捕水材形成方法のように、パウダー状の捕水材を封入したり、捕水材を不活性オイルに混合した捕水材ぺ一ストを塗布したり、捕水材を含む粘着シートの貼着などでは形成できない。本発明の有機EL表示パネルの捕水材層5の形成は、捕水材の噴霧(スプレー塗布)によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示パネルおよびその製造に用いられる捕水材層形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示パネルとは、電極間に有機発光層を挟持してなる有機EL素子基板と、この有機EL素子基板に対向する封止基板とを、封止基板の外周部に配設した紫外線硬化型樹脂などのシール材により封止したものである。
【0003】
この有機EL素子基板上に形成された有機発光層は、有機EL表示パネルの製造時や製造後に、パネル内に侵入した水分により特性劣化を起こし、ダークフレームと呼ばれる暗部を発生し、輝度低下や画素の縮小、有機EL表示パネルの寿命低下を生じることが知られている。
【0004】
このような水分による有機EL表示パネルの劣化を防止する方法としては、水分を吸収する捕水材を有機EL表示パネル内に設けて、水分を捕らえる方法が知られている。従来、こうした捕水材を有機EL表示パネル内に設ける方法としては、例えば、有機EL素子基板に対向する封止基板に凹部を形成し、この凹部にパウダー状の捕水材を封入する方法(パウダータイプ)や、同じく封止基板に形成した凹部に、シリコーン系オイルやフッ素系オイルからなる不活性液体(オイル)中に捕水材を混合した捕水材ペーストを塗布する方法(ペーストタイプ)や、あるいは捕水材を含むシート材に粘着層を設けた捕水材粘着シートを封止基板に形成した凹部に貼り付けるなどの方法(粘着シートタイプ)が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平13−354780号公報
【特許文献2】特開2002−43055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように、多孔質無機材料(モレキュラシーブス)やCaO,BaO,MgOなどのアルカリ土類金属酸化物を、有機EL素子基板に対向する封止基板に形成した凹部に直接封入するパウダータイプでは、パネルの超音波洗浄工程での超音波振動によって、封入した捕水材粒子が激しく振動し、陰極や有機発光層を傷つけたり穴を開けてしまうという不具合が発生していた。
【0006】
また、捕水材を不活性オイルに混合した捕水材ぺ一ストを封止基板の凹部に塗布するペーストタイプでは、例えば80℃×90%程度の高温高湿環境下でも不活性オイルと捕水材とが分離して流出し、ダークフレームと呼ばれる暗部による表示不良が発生していた。また、上述したパウダータイプ、ペーストタイプ、粘着シートタイプのいずれにおいても、捕水材を設置するための凹部を有機EL素子基板に対向する封止基板に形成する必要があり、製造工程が複雑になりがちだった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、パネル内の水分を確実に補足でき、かつ破損や表示不良を発生させることのない有機EL表示パネルおよびこれを形成する捕水材層形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、電極間に有機発光層が挟持されてなる有機EL素子基板と、吸湿材を含有する捕水材を有機溶媒中に分散してなる捕水材分散液を噴霧して形成した捕水材層と、前記有機EL素子基板に対向する封止基板と、前記封止基板の外周部に配設され、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを封止するシール材とを備えたことを特徴とする有機EL表示パネルが提供される。
【0009】
前記捕水材分散液は、多孔質無機材料または/及びアルカリ土類金属酸化物からなる前記捕水材を、非プロトン性有機溶媒に分散させたものであればよい。前記捕水材層は、前記有機発光層以外の領域に配置されている構成であればよい。前記捕水材層は、厚みが20μm以下であれば好ましい。前記シール材は、紫外線硬化型シール材であればよい。
【0010】
また、本発明によれば、上述した有機EL表示パネルの製造に用いられる捕水材層形成装置であって、吸湿材を含有する捕水材を有機溶媒中に分散してなる捕水材分散液を貯留するタンク部及び前記捕水材分散液を噴霧する噴霧部が不活性ガス雰囲気とされていることを特徴とする捕水材層形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機EL表示パネルによれば、有機EL素子基板の任意の位置に自在に捕水材層を配置できることにより、有機EL表示パネルの設計の自由度を高めることに寄与する。また、捕水材層を最も水分が進入しやすいシール材付近に配置すれば、ダークフレームなど水分の存在による輝度低下や表示ムラなど、表示不良の発生を確実に抑制することが可能になる。
【0012】
また、本発明の捕水材層形成装置などを用いて噴霧(スプレー塗布)によって捕水材層を連続して配置できるため、従来のような捕水材ペーストを用いた塗布や捕水材粘着シートの貼着などに比べて格段に製造効率を良くすることが可能になる。そして、噴霧(スプレー塗布)によって捕水材層を形成するため、従来問題であった、パウダータイプなどでの封入した捕水材粒子の振動による陰極や有機発光層への損傷や、ペーストタイプなどでの高温高湿環境下での不活性オイルと捕水材との分離、流出といった不具合が発生することが無い。
【0013】
そして、こうした噴霧(スプレー塗布)によって有機EL素子基板上に捕水材層を形成することによって、従来必要であった封止基板に捕水材を設置するための凹部の形成が不要になる。このため、予め封止基板に凹部を形成する工程が無くなって製造コストを低減できるとともに、封止基板を形成する凹部の深さに相当する厚み分を薄くすることが可能になり、有機EL表示パネルの薄型化に大いに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る有機EL素子基板について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の有機EL素子基板の一例を示す概略断面図である。本実施形態に係る有機EL表示パネル1は、有機EL素子基板2と、有機EL素子基板2に対向する封止基板3と、これら基板を接合して封止するシール材4と、有機EL素子基板2と封止基板3とシール材4とから形成される密封空間Pに形成された捕水材層5とから概略構成されている。
【0015】
有機EL素子基板2は、厚さ0.4〜1.1mmの透明なガラス基板からなり、その上には、ITO等の透明な陽極電極30が形成されている。有機EL素子基板2の下部側10は、いわゆる視認側に当たる。
【0016】
そして、陽極電極30上には、自発光源となる有機発光層7、アルミニウム等の金属材料からなる陰極電極8、ポリイミド樹脂等からなる絶縁層6,6・・・、及び厚さが5μm程度の隔壁9,9・・・が形成されていて、陽極電極30と陰極電極8とで有機発光層7を挟み込んで電流を印加できるようになっている。なお、有機発光層7,7・・・が配設されている領域を区画するように有機発光層7,7・・・の外側に周辺隔壁が形成されている。
【0017】
有機発光層7は、例えば、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層など、周知の複層構成で形成されていれば良い。
【0018】
有機EL素子基板2を覆うように、ガラス、アクリル系樹脂などからなる透明な封止基板3が設けられている。封止基板3の形状は、従来のような基板の中央部を掘り込んで凹部を形成したものとは異なり、少なくとも密封空間P側に凹凸のない平板状を成している。
また、この平板状の封止基板3と、対向する有機EL素子基板2との周縁には、例えば厚さ5〜20μm程度のシール材4が配設されている。そして、有機EL素子基板2と封止基板3とは、シール材4によって封止され、密封空間Pを区画している。この時、密封空間Pの厚み方向の寸法はシール材4の厚さによって規制される。即ち、シール材4の厚みが5μmの場合、密封空間Pの厚み方向の寸法は5μmとなる。
【0019】
このシール材4は、例えば、エポキシ系、アクリル系等の紫外線硬化型樹脂から形成されれば良い。そのなかでも、外部からの水分の浸入を防止する点から、透水性の低い樹脂であるのが好ましい。このシール材4は、ディスペンサ塗布により、封止基板3の外周部または有機EL素子基板2上の接合させる面に形成し、紫外線を照射してシール材4を露光重合し、有機EL素子基板2と封止基板3とを接合させる。
【0020】
捕水材層5は、水分を吸収する捕水材、例えば、多孔質無機材料(ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、モレキュラーシーブ)などの物理吸着型のものや、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属酸化物および硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸チタンなど化学吸着型の材料から形成された薄膜であり、厚みTが20μm以下、例えば5〜15μmに積層される。また、捕水材層5を配設する位置としては、捕水材粒子の振動による陰極や有機発光層7への損傷を抑制するために、有機発光層7以外の領域、即ち、シール材4と周辺隔壁との間が好ましい。捕水材層5の幅Wは例えば500μm程度に形成される。なお、図1は、幅W方向を圧縮して表現しているが、実際には捕水材層5は薄膜が広がるように形成されている。
【0021】
このような捕水材層5によって、有機EL素子基板2と封止基板3およびシール材4によって区画された密封空間Pの内部に存在する水分を確実に吸収し、密封空間Pの内部を水分の無い乾燥状態にする。これによって、この有機EL素子基板2上に形成された有機発光層7に水分が作用して特性劣化を起こし、ダークフレームと呼ばれる暗部を発生して輝度低下や画素の縮小などの不具合が発生することを確実に防止する。
【0022】
捕水材層5は、図2に示すように、直径tが5〜15μm程度の捕水材粒子5aをほぼ1層に500μm程度並べた薄膜である。このような薄膜の捕水材層5は、従来の捕水材形成方法のように、パウダー状の捕水材を封入したり、捕水材を不活性オイルに混合した捕水材ぺ一ストを塗布したり、捕水材を含む粘着シートの貼着などでは形成できない。本発明の有機EL表示パネル1の捕水材層5の形成は、捕水材の噴霧(スプレー塗布)によって形成される。
【0023】
また、密封空間Pの厚み方向の寸法は、捕水材粒子5aの直径tとほぼ同等の寸法から直径tに隔壁9の厚みを加えた寸法とすることが好ましい。このようにすることで、周辺隔壁の外側に配設した捕水材粒子5aが有機発光層7の領域に侵入することがなくなる。従って、陰極や有機発光層7の損傷を防ぐことができる。
【0024】
図2に示すような捕水材層5の形成方法は、多孔質無機材料やアルカリ土類金属酸化物などの微細な粉末(平均粒径5〜15μm)を非プロトン性の有機溶媒、例えばアセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミドおよびベンゼンなどに均一に分散させた捕水材分散液を用いる。この捕水材分散液を有機EL素子基板2の所定位置(例えばシール材4の近傍)に噴霧(スプレー塗布)することによって、図2に示すような、直径が5〜15μm程度の捕水材粒子5aをほぼ1層に並べた極めて薄い捕水材層5の薄膜を形成することが可能になる。
【0025】
こうした捕水材分散液の噴霧(スプレー塗布)にあたっては、図3に示すように、本発明の捕水材層形成装置(スプレー装置)20が用いられる。捕水材層形成装置(スプレー装置)20は、捕水材微粉末を非プロトン性の有機溶媒に分散させた捕水材分散液21を貯留するタンク(タンク部)22と、このタンク(タンク部)22に連結され、有機EL素子基板2上を移動可能にされたスプレーノズル23とを備える。また、これらタンク22やスプレーノズル23、有機EL素子基板2は、気密なチャンバ24に入れられる。このチャンバ24の内部は、不活性ガス、例えば、窒素やアルゴンなどで満たされる。なお、有機EL素子基板2を載置したステージが動く構成であっても良い。
【0026】
このような構成の捕水材層形成装置(スプレー装置)20を用い、不活性ガスの雰囲気中でスプレーノズル23を有機EL素子基板2上で破線矢印で示すような所定パターンで移動させつつ、有機EL素子基板2上に捕水材分散液21を噴霧(スプレー塗布)する。これにより、有機EL素子基板2の所定位置に厚みが5〜15μm程度の極めて薄い捕水材層5の薄膜が形成される。特に、シール材4と最外郭に位置する周辺隔壁との間に捕水材層5を形成する場合、所定位置を開口させた噴霧マスクを介して捕水材分散液21を噴霧すればよい。
【0027】
以上のように、本発明の有機EL表示パネル1は、有機EL素子基板2の任意の位置に自在に捕水材層5を配置できる。これにより、有機EL表示パネル1の設計の自由度を高めることに寄与する。また、捕水材層5を最も水分が進入しやすいシール材4付近に配置する事で、ダークフレームなど水分の存在による輝度低下や表示ムラなど、表示不良の発生を確実に抑制することが可能になる。
【0028】
また、上述したような本発明の捕水材層形成装置(スプレー装置)20などを用いて噴霧(スプレー塗布)によって捕水材層5を連続して配置できるため、従来のような捕水材ペーストを用いた塗布や捕水材粘着シートの貼着などに比べて格段に製造効率を良くすることが可能になる。そして、噴霧(スプレー塗布)によって捕水材層5を形成するため、従来問題であった、パウダータイプなどでの封入した捕水材粒子の振動による陰極や有機発光層への損傷や、ペーストタイプなどでの高温高湿環境下での不活性オイルと捕水材との分離、流出といった不具合が発生することが無い。
【0029】
そして、こうした噴霧(スプレー塗布)によって有機EL素子基板2上に捕水材層5を形成することによって、従来必要であった封止基板3に捕水材を設置するための凹部の形成が不要になる。このため、予め封止基板3に凹部を形成する工程が無くなって製造コストを低減できるとともに、封止基板3を形成する凹部の深さに相当する厚み分を薄くすることが可能になり、有機EL表示パネル1の薄型化に大いに寄与する。
【実施例】
【0030】
上述したような本発明の有機EL表示パネルにおける捕水材層形成の具体的な実施例について例示する。
まず、所定の方法で積層基板を作製する。次に、平均粒径が15μmのCaO粉末(関東化学社製)を580℃のNパージ下で加熱脱水後、室温に戻した。蒸留したジメチルホルムアミド溶液にCaOを2wt%の濃度で、超音波を30分印加しながら分散させた後、Nパージされたスプレー塗布装置(藤森技研製)のシリンジに、捕水材分散液を充填した。積層基板上に、陰極部とシール位置以外が開口されたマスクを介して、0.5ml/minの液量で捕水材分散液を塗布した。塗布は、スプレーノズルの往復移動動作に同期して、積層基板と噴霧マスクを載せたステージをスプレーノズルの移動方向に対して直交方向に断続的に移動させた。このように、噴霧マスクを介してシール材配設位置と周辺隔壁との間に捕水材分散液を塗布した後、80℃のホットプレートで1分間ベークさせた。そして、シール材を介して、この積層基板と対向基板を重ね合せた後、パネル切断して有機EL表示パネルを完成させた。
【0031】
上述した実施例で製造した有機EL表示パネルを超音波洗浄を有する洗浄工程で洗浄を行ったが、陰極や有機膜に穴が開く等の不具合は発生しなかった。また、有機EL表示パネルの内部にオイル等の液体が存在しないので、80℃×90%の高温高湿放置試験後に表示不良が発生することはなかった。これにより、本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の有機EL表示パネルの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す捕水材層の拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明の刷捕水材層形成装置の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1…有機EL表示パネル、2…有機EL素子基板、3…封止基板、4…シール材、5…捕水材層、5a…捕水材粒子、20…捕水材層形成装置(スプレー装置)、21…捕水材分散液。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に有機発光層が挟持されてなる有機EL素子基板と、吸湿材を含有する捕水材を有機溶媒中に分散してなる捕水材分散液を噴霧して形成した捕水材層と、前記有機EL素子基板に対向する封止基板と、前記封止基板の外周部に配設され、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを封止するシール材とを備えたことを特徴とする有機EL表示パネル。
【請求項2】
前記捕水材分散液は、多孔質無機材料または/及びアルカリ土類金属酸化物からなる前記捕水材を、非プロトン性有機溶媒に分散させたものであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示パネル。
【請求項3】
前記捕水材層は、前記有機発光層以外の領域に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL表示パネル。
【請求項4】
前記捕水材層は、厚みが20μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機EL表示パネル。
【請求項5】
前記シール材は、紫外線硬化型シール材であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の有機EL表示パネル。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の有機EL表示パネルの製造に用いられる捕水材層形成装置であって、吸湿材を含有する捕水材を有機溶媒中に分散してなる捕水材分散液を貯留するタンク部及び前記捕水材分散液を噴霧する噴霧部が不活性ガス雰囲気とされていることを特徴とする捕水材層形成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−35331(P2007−35331A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213498(P2005−213498)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】