説明

有機EL表示装置の製造方法、素子基板の検査方法及び有機EL表示装置

【課題】 隔壁の形状検査に伴う不良の増加を抑制することが可能な有機EL表示装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の一態様にかかる有機EL表示装置は、表示領域24外で陽極配線1の反端子部側に、陰極隔壁10aと実質的に同一の形状を有するダミー隔壁10cを形成する。ダミー隔壁10cと表示領域24内の端部画素との距離を、陰極隔壁10aと画素の距離よりも離し、またダミー隔壁10cの高さよりも大きくする。ダミー隔壁10cの検査を行うことによって、陰極隔壁10aの検査の代わりとする。これによって、触針式表面形状検査によるダミー隔壁10cの形状検査に伴ってダミー隔壁10cが破壊されても、破壊されたダミー隔壁10cが画素内に入ることがなく、形状検査に伴う不良素子の増加を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)表示装置の製造方法、素子基板の検査方法及び有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)素子は、有機発光性化合物を含む有機EL層を陽極配線と陰極配線との間に挟んだ積層体構造を有している。陽極配線と陰極配線の間に電圧を印加すると、陽極配線からは正孔が、陰極配線からは電子がそれぞれ有機EL層に注入されて再結合し、その際に生ずるエネルギーにより有機EL層に含まれる有機発光性化合物の分子が励起される。このようにして励起された分子が基底状態に失活する過程で発光現象が生じる。有機EL素子はこの発光現象を利用した自発光素子である。
【0003】
有機EL層は、正孔と電子が再結合して発光する発光層と呼ばれる有機層を少なくとも含み、必要に応じて、正孔が注入されやすくかつ電子を移動させにくい正孔輸送層と呼ばれる有機層、電子が注入されやすくかつ正孔を移動させにくい電子輸送層と呼ばれる有機層などを含む単層構造または多層積層構造を有している。
【0004】
近年、有機EL素子を使用した有機EL表示装置の開発が盛んに行われている。有機EL表示装置は、液晶表示装置と比較して視野角が広く、応答速度も速く、また有機物が有する発光性の多様性から、次世代の表示装置として期待されている。有機EL表示装置に用いられる有機EL素子は、基板上に陽極配線が形成され、陽極配線の上に有機EL層が形成される。そして、その有機EL層の上に、基板上に形成された陽極配線と対向するように陰極配線が形成されている。陽極配線、有機EL層及び陰極配線を重ねて配置した個所が画素となる。
【0005】
典型的な有機EL表示装置のひとつにおいて、有機EL層の上に設けられる陰極配線が隔離配置されるように隔壁が設けられる。このような構成は、例えば、特許文献1に記載されている。図6は、特許文献1に記載された隔壁の例を示す断面図である。基板111上には、陽極配線101が設けられ、その後、隔壁100が設けられる。隔壁100は、基板111から離れるにつれて断面が広がるように形成される。このような隔壁100の構造は、逆テーパ構造あるいはオーバハング構造と称されている。
【0006】
隔壁100を逆テーパ構造とすることで、陰極配線の分離をより確実なものとすることができる。隔壁100が設けられた状態で有機EL層(図6において、ホール注入輸送層102、発光層103、電子注入輸送層104から構成されている)を塗布法などにより形成すると、隔壁100により有機EL層が分離され、この結果、各隔壁100の間に上記のような複数の有機薄膜層から構成される有機EL層が形成される。その後、陰極配線105が、蒸着法などによって形成される。陰極配線105も隔壁100により分離され、パターニングされた陰極配線105が形成される。
【特許文献1】特開2001−351779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
隔壁を用いて形成した有機EL表示装置においては、基板上に隔壁を形成した後に有機EL層、陰極配線などが形成される。このため、基板上に、陽極配線、有機EL層及び陰極配線を備える有機EL素子が形成される他、隔壁上にも機能しない有機EL層及び陰極配線が形成される。通常、これらの膜は隔壁によって高低差が生じ、互いに分離されて接触しない。しかし、隔壁に欠損などの不良部が生じると、隣接する基板上の陰極配線と隔壁上の陰極配線とが接触し、正常な表示ができない不良素子が形成される。
【0008】
このために、隔壁を形成した後にSEMなどの電子顕微鏡を用いて観察を行い、隔壁の形状を確認することが行われている。また、有機EL層及び陰極配線を形成した有機EL素子の発光試験を行う検査方法も行われている。
【0009】
しかし、SEMなどを用いた検査方法は時間と手間がかかるため、量産時の検査方法としては不適切であった。また、発光試験による方法は不良素子を容易に発見することができるが、有機EL層及び陰極配線の形成工程が含まれるため、これらの作業が無駄となってしまっていた。
【0010】
そこで、隔壁の形状を簡易に測定する方法として、触針式表面形状検査装置を用いた接触式の検査方法がある。この検査方法は、プローブの先端を隔壁に直接接触させ、プローブの位置の変化から、隔壁の形状を測定するものである。しかしながら、この方法では、プローブの接触に伴って隔壁が破壊されたり倒れてしまうという問題があった。この破壊された隔壁が画素に入ってしまうと、表示不良の原因になる。あるいは、解像度が高くなるにつれて隔壁と画素との距離が短くなり、隔壁の形状の正確な測定が困難となるという問題が生じている。
【0011】
本発明はこのような事情を背景としてなされたものであって、本発明の第1の目的は隔壁の検査に伴う不良の増加を抑制することである。本発明の第2の目的は、隔壁の欠陥による不良素子の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる有機EL表示装置の製造方法は、複数の画素を備え、前記複数の画素がそれぞれ第1の電極層と第2の電極層と前記第1及び第2の電極層間の有機EL層とを備える、有機EL表示装置の製造方法であって、基板上に前記第1の電極層を形成するステップと、前記複数の画素が形成される領域内に、前記第2の電極層の分離隔壁を形成するステップと、前記複数の画素が形成される領域外において、その延在方向に垂直な断面が分離隔壁と実質同一形状を有する帯状の壁構造体を形成するステップと、前記壁構造体の形状検査を行うステップと、前記第1の電極層よりも上層側に前記有機EL層を形成するステップと、前記有機EL層よりも上層側に前記第2の電極層を形成するステップと、を有する。これによって、前記壁構造体の形状検査によって分離隔壁の形状検査を代替することができ、分離隔壁の検査に伴う問題を解決することができる。
【0013】
前記壁構造体は前記分離隔壁と実質同一形状であり、前記分離隔壁と同時に形成されることが好ましい。これによって、前記分離隔壁と前記壁構造体の形成条件を近づけることができ、正確な検査行うことができる。
【0014】
前記壁構造体の形状検査はプローブによる触針式表面形状検査であることが好ましい。これによって、簡単に壁構造体の形状検査をすることができる。
【0015】
前記複数の画素が形成される領域内の端部に形成された画素と前記壁構造体との距離は、前記分離隔壁と画素との距離よりも離れていることが好ましい。これによって、壁構造体の形状検査に伴う不良の発生をより抑制することができる。
【0016】
前記分離隔壁の下の積層構造と前記壁構造体の下の積層構造とは同一構造であることが好ましい。これによって、前記分離隔壁と前記壁構造体の形成条件を近づけることができ、より正確な検査行うことができる。
【0017】
前記壁構造体は、有機EL表示装置の駆動回路と接続される端子部側とは反対側に形成されていることが好ましい。端子部側の反対側は、配線間隔が分離隔壁が形成されている表示領域内と同じであることから、前記分離隔壁と前記壁構造体の形成条件を近づけることができ、より正確な検査を行うことができる。
【0018】
本発明に係る素子基板の検査方法は、マトリクス状に配置される複数の画素を備え、前記複数の画素のそれぞれが第1の電極層と第2の電極層と前記第1及び第2の電極層間の有機EL層とを備える有機EL表示装置に使用される素子基板の検査方法であって、基板上に前記第1の電極層を形成するステップと、前記複数の画素が形成される領域内に、前記第2の電極層の分離隔壁を形成するステップと、前記複数の画素が形成される領域の外側において、その延在する方向に垂直な断面が、前記分離隔壁と同一形状を有する帯状の壁構造体を形成するステップと、前期壁構造体の形状検査を行うステップと、を有する。これによって、前記壁構造体の形状検査によって分離隔壁の形状検査を代替することができ、分離隔壁の検査に伴う問題を解決することができる。
【0019】
本発明に係る有機EL表示装置は、複数の画素を備える有機EL表示装置であって、基板上に形成された第1の電極層と、前記第1の電極層の上層側に形成された第2の電極層と、前記第1の電極層と第2の電極層の間に形成された有機EL層と、前記複数の画素が形成された領域内に前記第2の電極層を分離するように形成された分離隔壁と、前記複数の画素が形成された領域の外に形成され、その延在方向に垂直な断面が前記分離隔壁と同一形状を有する帯状の壁構造体と、を有する。これによって、例えば、前記壁構造体の形状検査によって分離隔壁の形状検査を代替することができ、分離隔壁の検査に伴う問題を解決することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、隔壁の検査に伴う不良の増加を抑制する、もしくは、隔壁の欠陥による不良素子の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態が説明される。以下の説明は、本発明の実施形態を説明するものであり、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の第1の実施形態にかかる有機EL表示装置の有機EL素子が形成されている基板について図1を用いて説明する。図1(a)は有機EL素子が形成されている基板の構成を示す平面図である。1は陽極配線、5は陰極配線、10aは陰極隔壁、10bは流出防止壁、10cはダミー隔壁、11は基板、21は陰極補助配線、22は絶縁層、23は絶縁層22に形成された開口部、24は表示領域、25は絶縁層22に形成され陰極配線5と陰極補助配線21とを接続するためのコンタクトホールである。ここで、図1では、上層に設けられた陰極配線5などによって隠れてしまう構成部も図示している。また、図1(b)は、図1(a)のA−A’断面図である。図1(b)において、40は有機EL層であり、図1(a)と同じ要素には、同じ符号が付している。
【0023】
基板11上には、基板11の表面に接するように複数の陽極配線1が形成されている。複数の陽極配線1はそれぞれ平行に整列するように形成されている。陽極配線1の一方の端部にはそれぞれの陽極配線1に対応する陽極補助配線(不図示)が基板11の端部まで形成される。陽極補助配線は、各陽極配線1と一列になるようにそれぞれ配置される。陽極配線1の上には接続部(不図示)が形成され、陽極補助配線と接続される。陽極補助配線には外部配線、駆動回路などと接続するための端子部(不図示)が設けられる。そして、陽極配線1の他方の端部は、表示領域24の外側まで延在している。また、基板11上には、基板11と接するように陰極補助配線21が形成されている。陰極補助配線21は後述する陰極配線5の本数に対応して形成され、陽極配線1が延びる方向と垂直な方向に延在するように形成されている。
【0024】
陽極配線1は例えば、ITOなどの透明導電膜により形成される。陽極補助配線は、多層構造の金属膜により形成される。例えば、下からMo層、Al層、Mo層の順番で陽極補助配線となる積層金属膜が構成される。陰極補助配線21は陽極補助配線と同様に多層構造の金属膜により形成される。陰極補助配線21は陽極配線1と同じ工程により形成することができる。あるいは、透明導電膜と上記積層金属膜とを積層して陰極補助配線21を形成しても良い。これらの配線が形成された基板上には、絶縁層22が形成される。絶縁層22に、陽極配線1と陰極配線5とが交差する位置(すなわち画素となる位置)に開口部23が設けられる。
【0025】
表示領域24は、マトリクス状に配置された複数の画素から構成されている。表示領域24の外側において、陰極補助配線21と陰極配線5とを接続するため、絶縁層22にコンタクトホール25が形成されている。このコンタクトホール25を介して、陰極配線5と陰極補助配線21とが接続される。陰極補助配線21の端部には端子部(不図示)が設けられ、外部配線、駆動回路と接続される。これにより、開口部23において陽極配線1と陰極配線5に挟まれる有機EL層40に電流を流すことができ、有機EL層40が発光し、所望の画像を表示することができる。
【0026】
絶縁層22の開口部23には、有機EL層40、陰極配線5が順に積層されている。従って、有機EL層40は陰極配線5と陽極配線1に挟まれる構成となる。この有機EL層については、後に詳述する。また、有機EL層40を形成する前に、隣接する陰極配線5同士を分離配置するための陰極隔壁10aが設けられている。陰極隔壁10aは、陰極配線5を蒸着などにより形成する前に、所望のパターンに形成される。例えば、図1に示すように、陽極配線1と直交する複数の陰極配線5を形成するため、陽極配線1と直交する複数の陰極隔壁10aが陽極配線1及び絶縁層22上に形成される。
【0027】
陰極隔壁10aは、逆テーパ構造を有していることが好ましい。すなわち、基板11から離れるにつれて断面が広がるように形成されることが好ましい。これにより、陰極隔壁10aの側壁及び立ち上がり部分が蒸着の陰となり、陰極配線5を区分することができる。表示領域24内に形成される各陰極隔壁10aは、略等しい形状を有している。陰極隔壁10aは例えば、高さが3.4μmで、延在する方向に垂直方向の上面の幅が10μmで形成することができる。
【0028】
表示領域24外において、陽極配線1の端子部側には流出防止壁10bが、陽極配線1の反端子部側には流出防止壁10b及び帯状のダミー隔壁10cが形成される。流出防止壁10bは、陽極配線1の端子部側、反端子部側に1本ずつ、陰極隔壁10aが形成される方向と同じ方向に延在して形成される。本実施形態では、有機EL層40を構成する少なくとも一つの有機層は、有機EL材料の溶液である有機EL材料溶液を塗布し、濃縮乾燥硬化することによって形成される。有機EL層40は、各陰極隔壁10aによって分離される。流出防止壁10bは、表示領域24外の周辺領域に有機EL材料溶液が流出するのを防止する役目を果たす。この流出防止壁10bは、表示領域24を囲うように四方に形成されていてもよい。
【0029】
この流出防止壁10bもまた、陽極配線1及び絶縁層22上に形成される。また、この流出防止壁10bは、確実に有機EL材料溶液の流出を防止するために、陰極隔壁10aよりも幅及び高さを大きく形成される。なお、流出防止壁10bを形成しないこともある。
【0030】
ダミー隔壁10cは、表示領域24外において、表示領域24内に複数形成されている画素のうち最外殻にある端部画素と陽極配線1の反端子部側に形成された流出防止壁10bとの間に設けられる。ダミー隔壁10cは、その形状検査をすることで、陰極隔壁10aの形状検査の代わりとするために設けられる。
【0031】
これらの陰極隔壁10a、流出防止壁10bおよびダミー隔壁10cが形成された後、有機EL層40が形成される。さらに有機EL層40の上に金属を蒸着する。蒸着された金属膜は逆テーパ構造の陰極隔壁10aにより分断され、複数の陰極配線5が形成される。陰極配線5となる金属膜は流出防止壁10bよりも外側には形成されないよう蒸着マスクを用いて蒸着される。有機EL素子が形成された基板は上述のような構成を備えている。この基板が対向基板(不図示)と対向配置されて有機EL表示装置が形成される。
【0032】
図1(b)は、図1(a)のA−A’断面図であり、表示領域24内に形成されている複数の画素のうち端部画素の部分を示している。図1(b)に示すように、基板11上において、最下層には陽極配線1が形成されている。陽極配線1は、ITOなどの透明導電性薄膜で形成される。陽極配線1の上には、ポリイミドなどからなる絶縁層22が形成されている。この絶縁層22には、陽極配線1と陰極配線5が交差する位置(すなわち画素が形成される位置)に開口部が設けられている。そして、この絶縁層22の開口部に有機EL層40が形成されている。
【0033】
なお、有機EL層40を構成する複数の層が形成されるが、図1(b)では、ひとつの層として有機EL層40を示している。有機EL層40形成後、陰極配線5が有機EL層40上に蒸着される。陰極隔壁10aが有機EL層40や陰極配線5を分離することにより、隔壁間に有機EL層40及びパターニングされた陰極配線5が形成される。
【0034】
絶縁層22は、有機EL層40と陽極配線1とが接触する開口部を画定する役割を果たしている。また、絶縁層22は、陽極配線1と陰極配線5のショートが発生しないように配設される。陽極配線1の反視認側には有機EL層40が形成されている。有機EL層40については、後に詳述する。
【0035】
陰極配線5を分離するために、例えばノボラック樹脂などからなる陰極隔壁10aが陽極配線1及び絶縁層22の上に設けられている。また、有機EL材料流出防止のために流出防止壁10b、形状の検査を行うためにダミー隔壁10cもまた陽極配線1及び絶縁層22の上に設けられている。すなわち、陰極隔壁10aとダミー隔壁10cの下の積層構造は、同一構造となっている。これによって、さらに陰極隔壁10aとダミー隔壁10cの形成条件を近づけることができ、より正確な検査を行うことが可能となる。
【0036】
陰極隔壁10a、流出防止壁10b、及びダミー隔壁10cは、同時に形成されることが好ましい。これによって、陰極隔壁10aとダミー隔壁10cの形成条件を近づけることができ、より正確な検査が可能となる。また、これらの形成にかかる工程の増加を防止することができる。
【0037】
後に詳述するが、このダミー隔壁10cの形状検査は、ダミー隔壁の延在する方向に垂直な方向に、プローブを走査させて、ダミー隔壁10cの高さ及び幅を測定する。したがって、ダミー隔壁10cの延在方向に垂直な断面は、陰極隔壁10aと同一形状である。これによって、正確な検査を可能としている。ダミー隔壁10cと表示領域24の端部画素との間の距離は、陰極隔壁10aと画素との距離よりも長くなっており、ダミー隔壁10cは、陰極隔壁10aが形成される方向と同じ方向に延在することが好ましい。
【0038】
ダミー隔壁10cは、陰極隔壁10aと実質的に同一の形状を有していることが好ましい。すなわち、同じ高さ、幅、長さに形成される。また、このダミー隔壁10cは、陽極配線1の反端子部側に設けられていることが好ましい。陽極配線1の反端子部側では、陰極隔壁10aが形成されている表示領域24内と同じように陽極配線1が形成されているからである。これによって、ダミー隔壁10cとの形成条件と陰極隔壁10aの形成条件とを近づけることができ、より正確な検査を行うことができる。また、ダミー隔壁10cの形状検査によって下地に傷が入ったとしても、信号の入力側ではないために、印加信号に悪影響を与えることがない。
【0039】
また、ダミー隔壁10cの高さよりも表示領域24内に複数形成された画素の端部画素からダミー隔壁までの距離が大きいことが好ましい。このような構成を有することによって、後に詳述するダミー隔壁10cの形状検査時に、ダミー隔壁10cが倒れてしまっても、その倒れたダミー隔壁10cが画素内に入ることがなく、不良素子の発生を防止することができる。
【0040】
ここで、図2を参照して有機EL表示装置の構成を示す。図2は、有機EL表示装置の一部の概略断面図である。図1と同様の要素には同じ符号を付し、説明を省略する。上述した基板11の有機EL素子を形成した面に対向する位置に対向基板63が配置されている。対向基板63は、パネル中に水分や酸素が入らないように設けられる。対向基板63としては、ステンレス、アルミニウムまたはその合金などの金属類のほか、ガラス、アクリル系樹脂などの1種類または、2種類以上からなるものを使用することができる。対向基板63と基板11とを接着材64によって固着し、対向基板63と基板11の間に封止空間(領域)が形成する。封止空間内には、有機EL素子の他、有機EL素子への水分や酸素の影響を抑制し安定した発光特性を維持するための吸湿部材62が配設されている。吸湿部材62は、対向基板63上、有機EL素子と対向する面上に配設されている。
【0041】
基板11の視認側には、円偏光板65が配置される。この円偏光板65は、視認側から入って金属膜からなる陰極配線5によって反射される光を遮蔽し、有機EL表示装置の表示コントラストを改善するために設けられている。円偏光板65は、直線偏光板とλ/4波長板とからなる。また、基板11にλ/4波長板の機能を持たせて、直線偏光板だけを貼着するようにしてもよい。
【0042】
ここで、本実施形態の有機EL層40の構造について、図3を参照して説明する。図3は、有機EL層40の模式的断面図を示す図である。有機EL層40は、図3に示されるように、ポリマーバッファ層41、正孔注入層42、正孔輸送層43、発光層44、電子輸送層45、電子注入層46を順次積層した多層構造になっている。ただし、これとは異なる層構成を有することも可能である。
【0043】
ポリマーバッファ層41は例えば、シクロヘキサノールとN,N−ジメチルイミダゾリジノンと2−メチル−1−プロパノールを所定の割合で混合した溶媒に、1wt%のワニス(アミン系高分子)とドーパントを混合した溶液を用いることができる。また、正孔注入層42としては、例えば、0.5%(質量百分率)のポリビニルカルバゾールを溶解した安息香酸エチル溶液を用いることができる。ポリマーバッファ層41及び正孔注入層42は、それぞれの材料溶液をスプレー法を用いて塗布することによって形成される。
【0044】
また、正孔輸送層43としてN,N'−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N'−ジフェニル−ベンジジン(α―NPD)を用いることができる。そして、発光層44兼電子輸送層45としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)とゲスト化合物の蛍光性色素となるクマリン6を、電子注入層46としてはLiFを用いることができる。なお、発光層44と電子輸送層45は別々に形成することも可能であり、また、発光層にホール輸送材料、電子輸送材料を混合した発光層を形成してもよい。
【0045】
本形態における有機EL表示装置の製造方法について、図4を参照して説明する。図4は、本実施形態にかかる有機ELパネルの製造工程を示すフローチャートである。まず、基板11上に陽極配線1および陰極補助配線21を形成する(ステップS101)。基板11として、例えばガラス基板などの透明基板を用いる。陽極配線1および陰極補助配線21は、基板11上にITOを成膜して、そのITO膜にエッチングを施すことによって形成する。ITOはスパッタや蒸着によって、ガラス基板全面に均一性よく成膜することができる。フォトリソグラフィー及びエッチングによりITOパターンを形成する。このITOパターンが陽極となる。
【0046】
レジストとしてはフェノールノボラック樹脂を使用し、露光現像を行う。エッチングはウェットエッチングあるいはドライエッチングのいずれでもよいが、例えば、塩酸及び硝酸の混合水溶液を使用してITOをパターニングすることができる。レジスト剥離材としては例えば、モノエタノールアミンを使用することができる。
【0047】
また、陰極補助配線21にはAlあるいはAl合金などの低抵抗な金属材料を用いることも可能である。例えば、陽極配線1となるITOをパターニングした後に、Alなどをスパッタ又は蒸着により成膜する。あるいは陰極補助配線21を形成した後に陽極配線1を形成しても良い。そして、Al膜をフォトリソグラフィー及びエッチングによりパターニングして陰極補助配線21を形成することができる。
【0048】
次に、陽極配線1及び陰極補助配線21を設けた基板11の面に絶縁層22を形成する(ステップS102)。例えば、感光性のポリイミドの溶液をスピンコーティングにより塗布する。この絶縁層22の厚さは、例えば、0.7μmになるようにすればよい。この絶縁層22をフォトリソグラフィー工程でパターニングした後、キュアし、画素となる位置の絶縁層を除去し、開口部23を設ける。同時に陰極配線5と陰極補助配線21とのコンタクトホール25を形成する。例えば、開口部23は300μm×300μm程度で形成することができる
【0049】
続いて、絶縁層22(ポリイミドの層)の表面において、陰極配線5を分離配置できるように陰極隔壁10aを形成する。また、陰極隔壁10aの形成と同時に、流出防止壁10b及びダミー隔壁10cを形成する(ステップS103)。これら陰極隔壁10a、流出防止壁10b、ダミー隔壁10cは、絶縁層22の上層にノボラック樹脂、アクリル樹脂膜などの感光性樹脂を塗布することにより形成する。例えば、感光性樹脂をスピンコートして、フォトリソグラフィー工程でパターニングした後、光反応させて陰極隔壁10a、流出防止壁10b及びダミー隔壁10cを形成する。これら陰極隔壁10a、流出防止壁10b及びダミー隔壁10cが逆テーパ構造を有するようネガタイプの感光性樹脂を用いることが望ましい。
【0050】
ネガタイプの感光性樹脂を用いると、上から光を照射した場合、深い場所ほど光反応が不十分となる。その結果、上から見た場合、硬化部分の断面積が上の方より下の方が狭い構造を有する。これが逆テーパ構造を有するという意味である。このような構造にすると、その後、陰極配線5の蒸着時に蒸着源から見て陰になる部分は蒸着が及ばないため、陰極配線5同士を分離することが可能になる。さらに、開口部23のITO層の表面改質を行うために、酸素プラズマ又は紫外線を照射してもよい。
【0051】
これら陰極隔壁10a、流出防止壁10b、ダミー隔壁10cを形成した後、ダミー隔壁10cの検査を行う(ステップS104)。ダミー隔壁10cの検査には、触針式の形状検査装置を用いる。この触針式形状検査装置は、プローブの先端を、直接ダミー隔壁10cに接触させ、プローブの位置変化から、ダミー隔壁10cの形状を測定するものである。この検査方法については、後に詳述する。
【0052】
そして、有機EL層40を形成する(ステップS105)。まず、最下層にポリマーバッファ層41を形成する。ポリマーバッファ層41の材料としては、上述したシクロヘキサノールとN,N−ジメチルイミダゾリジノンと2−メチル−1−プロパノールを所定の割合で混合した溶媒に、1wt%のワニス(アミン系高分子)とドーパントを混合した溶液を用いる。この溶液をスプレー法によって塗布する。この溶液が塗布された基板11を、180℃で5分間仮焼成し、その後、240℃で10分間本焼成することによって、ポリマーバッファ層41を形成する。
【0053】
ポリマーバッファ層41の上層に、正孔注入層42を形成する。この正孔注入層42もまた、ポリマーバッファ層41と同じようにスプレー法を用いて形成する。正孔注入層42としては、例えば、0.5%(質量百分率)のポリビニルカルバゾールを溶解した安息香酸エチル溶液を用いることができる。次に、溶液を濃縮乾燥することによって硬化処理し、正孔注入層42を形成する。
【0054】
続いて、正孔注入層42の上層に有機EL層40を形成する他の有機層を形成する。例えば、まず、α−NPD(N,N'−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N'−ジフェニル−ベンジジン)を蒸着して膜厚40nmの正孔輸送層43を形成する。さらに、その上層に、発光層のホスト化合物となるAlq(トリス(8−ヒドロキシナト)アルミニウム)と、ゲスト化合物の蛍光性色素となるクマリン6とを同時に蒸着して、膜厚60nmの発光層44兼電子輸送層45を形成する。続いて、発光層兼電子輸送層の上層にLiFを蒸着して、膜厚0.5nmの電子注入層を形成する。
【0055】
その後、アルミニウムなどの金属材料を蒸着して、例えば膜厚100nmの陰極配線5を形成する(ステップS106)。この結果、陰極隔壁10aによってアルミニウム膜は分離され、それぞれの隔壁間に陽極配線1と交差する陰極配線5を形成することができる。
【0056】
これらの工程により基板11上に複数の有機EL素子が形成される。上述の有機EL素子の製造工程は典型的な有機EL表示装置に用いられる有機EL素子の製造工程の一例であり、有機EL素子の製造は上述の製造工程に限られるものではない。
【0057】
次に上述の工程により形成された有機EL素子を封止するため、封止用の対向基板63を製造する工程について説明する。まず、有機EL素子を形成した基板とは別のガラス基板を用意する。このガラス基板を加工して吸湿部材62を収納するための吸湿部材収納部を形成する。吸湿部材収納部を形成するために、ガラス基板にレジストを塗布し、露光、現像により基板の一部を露出させる。この露出部分をエッチングにより薄くすることにより吸湿部材収納部を形成する。
【0058】
この吸湿部材収納部に吸湿部材62を配置した後、2枚の基板を重ね合わせて接着する(ステップS107)。具体的には、対向基板63の吸湿部材収納部が設けられた面に、ディスペンサを用いて接着材64を塗布する。接着材64として、例えば、エポキシ系紫外線硬化性樹脂を用いることができる。また、接着材64は、有機EL素子と対向する領域の外周全体に塗布する。二枚の基板を位置合わせして対向させた後、紫外線を照射して接着材を硬化させ、基板同士を接着する。
【0059】
その後、基板の外周付近の不要部分を切断除去し、陽極配線1に信号電極ドライバを接続し、陰極補助配線に走査電極ドライバを接続する(ステップS108)。基板端部において各配線に接続される端子部が形成されている。この端子部に異方性導電フィルム(ACF)を貼付け、駆動回路が設けられたTCP(Tape Carrier Package)を接続する。
【0060】
ここで、ダミー隔壁10cの検査(ステップS104)方法について説明する。従来、基板11上に陰極隔壁10aを形成した後に有機EL層40、陰極配線5などを形成する。このため、基板11上に、陽極配線1、有機EL層40及び陰極配線5を備える有機EL素子が形成される他、陰極隔壁10a上にも機能しない有機EL層及び陰極配線が形成される。通常、これらの膜は陰極隔壁10aによって高低差が生じ、互いに分離されて接触しない。しかし、陰極隔壁10aに欠損などの不良部が生じ、例えば、隔壁10aが所定高さ寸法より小さい値に形成された場合、隣接する陰極配線5が陰極隔壁10a上の陰極配線材料を介して接続され、正常な表示ができなくなる不良素子が作製されることがある。
【0061】
したがって、陰極隔壁10aの形状の検査をする必要がある。この形状検査には、触針式表面形状検査装置を用いる。この検査方法は、プローブの先端を陰極隔壁10aに直接接触させ、プローブの位置の変化から、陰極隔壁10aの形状を測定するものである。従来は、表示領域24内に形成されている陰極隔壁10aに直接プローブを接触させて形状の測定を行っていた。この測定では、陰極隔壁10aが延在している方向と直交する方向にプローブを走査し、陰極隔壁10aの高さ及び幅の測定を行う。
【0062】
しかし、このとき、プローブの接触によって陰極隔壁10aが、破損しまたは倒れてしまうことがあり、破損した陰極隔壁10aの一部が画素内に入ってしまうことがあった。これによって、表示不良が発生してしまうことがあった。また、解像度が高くなるにつれて、画素と陰極隔壁10aの距離が短くなり、正確な検査が困難となるという問題が生じていた。
【0063】
本実施形態によれば、ダミー隔壁10cと画素との距離は、陰極隔壁10aと画素との距離よりも長くなっているため、従来のように正確な検査を行うことができないという問題が解消される。
【0064】
また、表示領域24外に実質的に陰極隔壁10aと同一のダミー隔壁10cを設けており、そのダミー隔壁10cの形状測定を行うことで、陰極隔壁10aの形状測定の代わりとする。ダミー隔壁10cと画素との距離は、陰極隔壁10aと画素との距離よりも長くなっている。また、ダミー隔壁10cの高さよりも表示領域24内に複数形成された画素の端部画素からダミー隔壁までの距離が大きくなっている。これによって、プローブの接触に伴って、ダミー隔壁10cが倒れてしまったとしても、画素内に入ることがない。したがって、このダミー隔壁10cの形状の検査に伴う不良素子の増加を抑制することができる。
【0065】
このダミー隔壁10cは、陽極配線1の反端子部側に設けられていることが好ましい。また、ダミー隔壁10cは、陽極配線1及び絶縁層22が形成された上に設けられる。このように、陰極隔壁10aの形成条件と実質的に同じにすることで、正確な検査を行うことができる。
【0066】
図5を参照して、有機EL表示装置の他の形態について説明する。図5において図1と同様の符号を付された要素は、図1に関してすでに説明されており、説明を省略する。図5において、陽極配線1の反端子部側に形成された形状検査用のダミー隔壁10cは、流出防止壁10bの反表示領域側に形成されている。このダミー隔壁10cは、陰極隔壁10aと同じ方向に形成される。このとき、流出防止壁10bと表示領域24との距離は、陰極隔壁10aと表示領域との距離と略等しい値になっている。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態にかかる有機EL表示装置の有機EL素子が形成された基板の構成を示す図である。
【図2】本実施形態にかかる有機EL表示装置の模式的断面図である。
【図3】本実施形態にかかる有機EL層の模式的断面図である。
【図4】本実施形態にかかる有機EL表示装置の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の形態を説明する図である。
【図6】従来の有機EL表示装置の素子基板の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 陽極配線、5 陰極配線、10a 陰極隔壁、10b 流出防止壁
10c ダミー隔壁、11 基板、21 陰極補助配線、22 絶縁層
23 開口部、24 表示領域、25 コンタクトホール
40 有機EL層、41 ポリマーバッファ層、42 正孔注入層
43 正孔輸送層、44 発光層、45 電子輸送層、46 電子注入層
62 吸湿部材、63 対向基板、64 接着材、65 円偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素を備え、前記複数の画素がそれぞれ第1の電極層と第2の電極層と前記第1及び第2の電極層間の有機EL層とを備える、有機EL表示装置の製造方法であって、
基板上に前記第1の電極層を形成するステップと、
前記複数の画素が形成される領域内に、前記第2の電極層の分離隔壁を形成するステップと、
前記複数の画素が形成される領域外において、その延在方向に垂直な断面が前記分離隔壁と実質同一形状を有する帯状の壁構造体を形成するステップと、
前記壁構造体の形状検査を行うステップと、
前記第1の電極層よりも上層側に前記有機EL層を形成するステップと、
前記有機EL層よりも上層側に前記第2の電極層を形成するステップと、
を有する有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記壁構造体は前記分離隔壁と実質同一形状であり、前記分離隔壁と同時に形成される、請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記壁構造体の形状検査はプローブによる触針式表面形状検査である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記複数の画素が形成される領域内の端部に形成された画素と前記壁構造体との距離は、前記分離隔壁と画素との距離よりも離れている、請求項1、2または3に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記分離隔壁の下の積層構造と前記壁構造体の下の積層構造とは同一構造である、請求項1、2、3または4に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記壁構造体は、有機EL表示装置の駆動回路と接続される端子部側とは反対側に形成されている、請求項5に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項7】
マトリクス状に配置される複数の画素を備え、前記複数の画素のそれぞれが第1の電極層と第2の電極層と前記第1及び第2の電極層間の有機EL層とを備える有機EL表示装置に使用される素子基板の検査方法であって、
基板上に前記第1の電極層を形成するステップと、
前記複数の画素が形成される領域内に、前記第2の電極層の分離隔壁を形成するステップと、
前記複数の画素が形成される領域の外側において、その延在する方向に垂直な断面が前記分離隔壁と同一形状を有する帯状の壁構造体を形成するステップと、
前記壁構造体の形状検査を行うステップと、
を有する素子基板の検査方法。
【請求項8】
複数の画素を備える有機EL表示装置であって、
基板上に形成された第1の電極層と、
前記第1の電極層の上層側に形成された第2の電極層と、
前記第1の電極層と第2の電極層の間に形成された有機EL層と、
前記複数の画素が形成された領域内に前記第2の電極層を分離するように形成された分離隔壁と、
前記複数の画素が形成された領域の外に形成され、その延在方向に垂直な断面が前記分離隔壁と同一形状を有する帯状の壁構造体と、
を有する有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−66111(P2006−66111A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244664(P2004−244664)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】