説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】有機化合物層を除去する際に、破片等の異物の発生を抑制すると共に、歩留の高く発光効率が良好な有機EL表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】基板1と、基板1上に設けられる画素11と、から構成され、画素11が複数の副画素(12,13,14)からなり、該副画素が、少なくとも下部電極2と、第一中間電極層4と、上部電極8と、下部電極2と第一中間電極層4との間に設けられる第一有機化合物層3及び第一中間電極層4と上部電極8との間に設けられる第二有機化合物層5のいずれかと、を備える有機EL表示装置の製造方法において、以下に示す工程(A)〜(E)が含まれることを特徴とする、有機EL表示装置の製造方法。
(A)下部電極の形成工程
(B)第一有機化合物層の形成工程
(C)レーザー光を使用して第一有機化合物層を副画素単位で部分的に除去する工程
(D)第一中間電極層の形成工程
(E)第二有機化合物層の形成工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロスミネッセンス(以下、有機ELと記述する。)表示装置の製造方法に関するものであり、詳しくは低分子有機発光物質あるいは電子発光ポリマーを用いて多色表示が可能な表示装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイとして、自発光型デバイスである有機EL表示装置が注目されている。有機EL表示装置の表示部には、上部電極と、下部電極と、上部電極と下部電極との間に狭持される有機化合物層を備える有機EL素子が複数配列されている。またこの有機EL素子は複数集合することにより画素を形成する。そして有機EL表示装置は、画素を形成する有機EL素子が発光することにより画像を表示する。ここで多色表示させる方法としては、各画素を複数の副画素より構成し、各副画素にそれぞれ異なる色で発光する発光層を有する有機化合物層を設ける方法が一般的である。
【0003】
ここで各副画素にそれぞれ異なる色で発光するように有機化合物層を設ける方法は、発光層を構成する発光材料によって適宜選択される。具体的には、発光材料が低分子有機発光物質であればシャドーマスク法等が選択される。一方、発光材料が電子発光ポリマーであれば印刷法等が選択される。
【0004】
ここでシャドーマスク法は、蒸着によって有機化合物層を形成する際には便利な方法である。しかし異なる色で発光するように有機化合物層を設ける際には、各発光色それぞれについて個別のシャドーマスクを用意する必要があり、必然的に製造コスト上昇の一因となる。また、蒸着物質によるシャドーマスクの汚染等のために定期的にシャドーマスクを交換する必要があることも製造コスト上昇の原因となる。さらに、画素パターンが高精細になればなるほど微小な位置のずれが問題となり、大きいサイズの表示素子への対応も難しくなる。
【0005】
一方、印刷法は副画素ごとに異なる色で発光するように、電子発光ポリマーを各副画素に塗り分ける方法として従来より用いられている方法である。中でもインクジェットプリント法は微細な副画素を1単位としてポリマー液滴を滴下・塗布できるので近年検討が進んでいる。しかしながら、インクジェットプリント法で塗布・形成された有機化合物層の発光効率はスピンコーティングで塗布・形成された有機化合物層のそれよりも低い。また、インクジェットプリント法に最適化したなポリマー溶液の調製には技術的な課題が多い。さらに、インクジェットプリント法では微細なポリマー液滴を滴下・塗布できるとはいえ微細化には限界があり、高精細になればなるほど対応が難しくなる。
【0006】
このような問題に対して、レーザー除去法を利用した有機EL表示装置の製造方法が特許文献1に開示されている。特許文献1によると、以下の工程で有機EL表示装置を製造している。
【0007】
(1)絶縁基板上の表面上に第一電極層と、各副画素を分離するセパレータと、を設ける工程
(2)第一電極層とセパレータとを含む絶縁基板全面に有機化合物層と第二電極層とを順次形成する工程
(3)当該有機化合物層が不要な副画素において、レーザー光を用いたレーザー除去法によって第二電極層と有機化合物層とを除去する。
【0008】
この方法によれば、シャドーマスク法やインクジェットプリント法等を利用する場合と比べて、簡単な方法で高いピクセル解像度を有する有機EL表示装置を製造することが可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−324672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで特許文献1では、レーザー光による除去工程(上記工程(3))を行う際に、有機化合物層とその上方にある電極層とを共に除去している。しかし、通常、電極層は金属や金属酸化物からなっており、下方にある有機化合物層を傷めないようにその電極層を選択的に除去することは困難である。なぜなら、下方にある有機化合物層にもレーザー光が届くとそのレーザー光によって当該有機化合物層の方が優先的に分解する場合があるからである。その結果、レーザー照射部の電極層の一部が捲れ破片となって周辺に飛散することになる。そして、この捲れ破片が他の有機化合物層や電極層を形成する際に電極層間短絡等の欠陥の原因となったり、歩留が大きく低下したり、経時変化により電極間短絡が発生したりする場合がある。
【0011】
また、有機化合物層を除去した後、表面に除去しきれなかった有機化合物層の残渣が僅かに存在しただけで、その上に別の有機化合物層を形成しても所望の発光効率を得ることができない。
【0012】
さらに、特許文献1では有機化合物層を除去する際に正孔輸送層を残し、その上の発光層までを除去するとしているが、その際にレーザー光照射による正孔輸送層へのダメージが無視できず、このため発光効率が低下する。
【0013】
本発明は、上述した課題に鑑み提案されたものである。本発明の目的は、有機化合物層を除去する際に、破片等の異物の発生を抑制すると共に、歩留の高く発光効率が良好な有機EL表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
有機EL表示装置の製造方法は、基板と、
該基板上に設けられる画素と、から構成され、
該画素が複数の副画素からなり、
該副画素が、少なくとも下部電極と、
第一中間電極層と、
上部電極と、
該下部電極と該第一中間電極層との間に設けられる第一有機化合物層及び該第一中間電極層と該上部電極との間に設けられる第二有機化合物層のいずれかと、を備える有機EL表示装置の製造方法において、
以下に示す工程(A)〜(E)が含まれることを特徴とする。
【0015】
(A)下部電極の形成工程
(B)第一有機化合物層の形成工程
(C)レーザー光を使用して第一有機化合物層を副画素単位で部分的に除去する工程
(D)第一中間電極層の形成工程
(E)第二有機化合物層の形成工程
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機化合物層を除去する際に、破片等の異物の発生を抑制すると共に、歩留の高く発光効率が良好な有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。即ち、有機化合物層を除去する際に、破片等の異物の発生を抑制して歩留の高い有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。また有機化合物層を除去した後で生じる残渣の影響を抑制するので、発光効率の高い有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。さらに有機化合物層を除去する際に、除去対象となる有機化合物層よりも下層にある有機化合物層へのダメージがないので、発光効率の高い有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、基板と、該基板上に設けられる画素と、から構成される有機EL表示装置の製造方法に関するものである。ここで有機EL表示装置を構成する画素は複数の副画素からなる。
【0018】
そしてこの副画素は、少なくとも下部電極と、第一中間電極層と、上部電極と、第一有機化合物層及び第二有機化合物層のいずれかと、からなるものである。ここで第一有機化合物層は、下部電極と該第一中間電極層との間に設けられ発光層を含む単層膜又は積層体である。また第二有機化合物層は、第一中間電極層と上部電極との間に設けられ発光層を含む単層膜又は積層体である。
【0019】
副画素は、好ましくは、さらに第二有機化合物層と上部電極との間に第二中間電極層と第三有機化合物層とがこの順に設けられる部材である。
【0020】
また本発明の有機EL表示装置の製造方法は、以下に示す工程(A)〜(E)が含まれることを特徴とする。
(A)下部電極の形成工程
(B)第一有機化合物層の形成工程
(C)レーザー光を使用して第一有機化合物層を副画素単位で部分的に除去する工程
(D)第一中間電極層の形成工程
(E)第二有機化合物層の形成工程
【0021】
本発明の有機EL表示装置の製造方法において、好ましくは、工程(E)の後の工程として以下に示す工程(F)〜(H)が含まれる。
(F)レーザー光を使用して第二有機化合物層を副画素単位で部分的に除去する工程
(G)第二中間電極層の形成工程
(H)第三有機化合物層の形成工程
【0022】
以下、図面を参照ながら本発明の有機EL表示装置の製造方法について詳細に説明する。
【0023】
[下部電極の形成工程]
図1は、下部電極が形成された基板を示す断面概略図である。図1に示すように、本発明においては、まず基板1上に下部電極2を形成する。
【0024】
基板1は、主にガラス等の絶縁性基板が挙げられるが、必要に応じてTFT等のスイッチング素子を当該絶縁性基板上に形成したものを基板1としてもよい。
【0025】
下部電極2の構成材料としては、Cr、Al、Ag、Au、Pt等の金属単体、ITO、IZO、ZnO等の金属酸化物等といった有機EL表示装置の電極材料として公知の無機材料を使用することができる。また、下部電極2は、一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。ここで下部電極2が複数の層で構成される場合は、具体的な層構成として、金属単体の層と金属酸化物の層とからなる積層体が挙げられる。
【0026】
下部電極2を設けた後、図1に示すように、必要に応じて画素11を構成する各副画素(第一副画素12、第二副画素13、第三副画素14)を副画素単位で区画する画素分離膜9を形成する。画素分離膜の構成材料として絶縁性の材料が好適に使用され、具体的には、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂材料が好適に使用される。尚、画素分離膜9は、後の工程で形成される有機化合物層、並びに中間電極層及び上部電極を副画素ごとに分断し、各副画素を確実に分離するためにその形状が逆テーパー形状とするのが好ましい。
【0027】
[第一有機化合物層の形成工程]
図2は、第一有機化合物層が形成された基板を示す断面概略図である。画素分離膜9を形成した後、図2に示すように、下部電極2及び画素分離膜9を含む基板1の全面に第一発光層を含む第一有機化合物層3を形成する。第一有機化合物層3は、発光層を含んでいればその層構成は特に限定されない。例えば、発光層の他に正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の機能を持つ層が含まれていてもよい。
【0028】
第一発光層を構成する有機発光物質としては、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体あるいは複合オリゴ体が使用できるが、本発明の構成として例示の材料に限定されるものではない。
【0029】
第一有機化合物層3に正孔注入層及び正孔輸送層のいずれかが含まれる場合、これらの層の構成材料である正孔輸送物質として、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物、Eu錯体等が使用できる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
第一有機化合物層3に電子注入層及び電子輸送層のいずれかが含まれる場合、これらの層の構成材料である電子輸送物質として、アルミに8−ヒドロキシキノリンの3量体が配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体系等が使用できる。
【0031】
第一有機化合物層3を構成する各層の形成方法は、低分子有機発光物質であれば蒸着法、電子発光ポリマーであればスピンコーティング法が好ましい。
【0032】
[第一有機化合物層の部分的な除去工程]
図3は、第一有機化合物層が部分的に除去された基板を示す断面概略図である。本発明では第一有機化合物層3を形成した後、所定の副画素に形成された第一有機化合物層3を選択的に除去する工程を行う。例えば、図3に示すように、第一副画素12として指定した副画素以外の副画素(第二副画素13及び第三副画素14)に形成されている第一有機化合物層3を除去する。
【0033】
本工程を行う際には、レーザー光を使用したレーザー除去法を用いるのが好ましい。このとき、下部電極2は無機化合物よりなる層であるので、第一有機化合物層3よりもレーザー光によって分解されにくい。このため照射するレーザー光の強度(レーザーパワー)を適宜調整することにより第一有機化合物層3のみを選択的に除去することができる。
【0034】
本工程で使用されるレーザー光は、好ましくは、波長190nm〜300nmのエキシマレーザーである。またレーザー光の強度は、好ましくは、10mJ/cm2〜200mJ/cm2である。また、必要に応じてレーザー光を複数回照射してもよい。
【0035】
[第一中間電極層の形成工程]
図4は、第一中間電極層が形成された基板を示す断面概略図である。第一有機化合物層の部分的な除去工程を行った後、図4に示すように、基板1の全面に第一中間電極層4が形成される。
【0036】
第一中間電極層4は下部電極2と同様にCr、Al、Ag、Au、Pt等の金属単体、ITO、IZO、ZnO等の酸化物等といった有機EL表示装置の電極材料として公知の無機化合物を使用することができる。また、第一中間電極層4は、一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。ここで第一中間電極層4が複数の層で構成される場合は、具体的な層構成として、金属単体の層と酸化物の層とからなる積層体が挙げられる。
【0037】
第一中間電極層4は、好ましくは、上述した無機化合物よりなる層である。またこの無機化合物よりなる層は、好ましくは、少なくとも金属単体よりなる層(金属層)を有する層である。ここで第一副画素11に設けられている第一中間電極層4が有する金属層は、下方にある第一有機化合物層3にレーザー光が到達しないように膜厚を調整するのが好ましい。具体的には、5nm〜100nmに調整する。
【0038】
ところで、前工程(第一有機化合物層の部分的な除去工程)において、第一有機化合物層3を除去処理したことにより露出される下部電極2の表面には、僅かに第一有機化合物層3の構成材料の残渣が存在する。このため本工程において、第一中間電極層4は、その残渣を覆うように形成することが望ましい。また、第一中間電極層4の仕事関数が次の工程で形成される第二有機化合物層5に正孔又は電子を注入しやすいように最適化することが可能となるように、第一中間電極層4の構成材料を適宜選択するのが望ましい。これによって第二有機化合物層5の発光効率が改善される。
【0039】
第一中間電極層4は、蒸着法、スパッタリング法等によって形成される。
【0040】
[第二有機化合物層の形成工程]
図5は、第二有機化合物層が形成された基板を示す断面概略図である。第一中間電極層4を形成した後、図5に示すように、第二発光層を含む第二有機化合物層5が基板1の全面に形成される。第二有機化合物層5は、第一有機化合物層3と同様に発光層を含んでいればその層構成は特に限定されない。例えば、発光層の他に正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の機能を持つ層が含まれていてもよい。
【0041】
ここで第二有機化合物層5の構成材料として、第一有機化合物層3の構成材料と同様の材料を使用することができる。また第二有機化合物層5は、第一有機化合物層3と同様の方法により形成することができる。
【0042】
[第二有機化合物層の部分的な除去工程]
図6は、第二有機化合物層が部分的に除去された基板を示す断面概略図である。本発明では第二有機化合物層5を形成した後、所定の副画素に形成された第二有機化合物層5を選択的に除去する工程を行う。例えば、図6に示すように、第三副画素14に形成されている第二有機化合物層5を除去する。
【0043】
本工程を行う際には、レーザー光を使用したレーザー除去法を用いるのが好ましい。このとき、第一中間電極層4は無機材料より構成されているので、第二有機化合物層5よりもレーザー光によって分解されにくい。このため照射するレーザー光の強度(レーザーパワー)を適宜調整することにより第二有機化合物層5のみを選択的に除去することができる。
【0044】
また本工程において、使用されるレーザーは、第一有機化合物層3の部分的な除去工程で使用されるレーザーと同様のものを使用することができる。
【0045】
[第二中間電極層の形成工程]
図7は、第二中間電極層が形成された基板を示す断面概略図である。第二有機化合物層の部分的な除去工程の後、図7に示すように、基板1の全面に第二中間電極層6が形成される。
【0046】
第二中間電極層6は下部電極2及び第一中間電極層4と同様にCr、Al、Ag、Au、Pt等の金属単体、ITO、IZO、ZnO等の酸化物等といった有機EL表示装置の電極材料として公知の無機材料を使用することができる。また、第二中間電極層6は、一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。ここで第二中間電極層6が複数の層で構成される場合は、具体的な層構成として、金属単体の層と酸化物の層とからなる積層体が挙げられる。
【0047】
第二中間電極層6は、好ましくは、上述した無機化合物よりなる層である。またこの無機化合物よりなる層は、好ましくは、少なくとも金属単体よりなる層(金属層)を有する層である。ここで第一副画素11及び第二副画素12に設けられている第一中間電極層4が有する金属層は、下方にある第二有機化合物層5にレーザー光が到達しないように膜厚を調整するのが好ましい。具体的には、5nm〜100nmに調整する。
【0048】
ところで、前工程(第二有機化合物層の部分的な除去工程)において、第二有機化合物層5を除去処理したことにより露出される第一中間電極層4の表面には、僅かに第二有機化合物層5の構成材料の残渣が存在する。このため本工程において、第二中間電極層6は、その残渣を覆うように形成することが望ましい。また、第二中間電極層6の仕事関数が次の工程で形成される第三有機化合物層7に正孔又は電子を注入しやすいように最適化することが可能となるように、第二中間電極層6の構成材料を適宜選択するのが望ましい。これによって第三有機化合物層7の発光効率が改善される。
【0049】
第二中間電極層6は、第一中間電極層4と同様に、蒸着法、スパッタリング法等によって形成される。
【0050】
[第三有機化合物層の形成工程]
図8は、第三有機化合物層が形成された基板を示す断面概略図である。第二中間電極層6を形成した後、図8に示すように、第三発光層を含む第三有機化合物層7が基板1の全面に形成される。第三有機化合物層7は、第二有機化合物層5と同様に発光層を含んでいればその層構成は特に限定されない。例えば、発光層の他に正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の機能を持つ層が含まれていてもよい。
【0051】
ここで第三有機化合物層7の構成材料として、第一有機化合物層3及び第二有機化合物層5の構成材料と同様の材料を使用することができる。また第三有機化合物層7は、第一有機化合物層3及び第二有機化合物層5と同様の方法により形成することができる。
【0052】
[上部電極の形成工程]
第三有機化合物層を形成した後、基板1の全面に上部電極が形成される。
【0053】
上部電極は下部電極2、第一中間電極層4及び第二中間電極層6と同様にCr、Al、Ag、Au、Pt等の金属単体、ITO、IZO、ZnO等の酸化物等といった有機EL表示装置の電極材料として公知の無機材料を使用することができる。また、上部電極は、一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。ここで上部電極が複数の層で構成される場合は、具体的な層構成として、金属単体の層と酸化物の層とからなる積層体が挙げられる。
【0054】
上部電極を設けることにより、図9に示される有機EL表示装置を得ることができる。
【0055】
以上に述べた工程のうち、画素分離膜の形成工程は省略してもよい。ただし、画素分離膜の形成工程を省略する場合は、上部電極8を形成した後、レーザー光を用いたレーザー除去法等により、副画素間の有機化合物層及び電極層を一括して取り除くことにより有機化合物層及び電極層を副画素ごとに区画するのが望ましい。
【0056】
本発明の製造方法により製造される有機EL表示装置は、例えば、コンタクトホール等を用いてそれぞれの副画素を駆動回路に電気接続することによって各有機化合物層が発光する。具体的には、画素を形成する領域の外側まで下部電極2以外の電極層(第一中間電極層4、第二中間電極層6、上部電極8)をそれぞれ形成し、画素を形成する領域の外側に設けられたコンタクトホールを介して駆動回路に接続する方法が挙げられる。また、各副画素にコンタクトホールを設けておいて下部電極2以外の電極層をコンタクトホールで駆動回路に接続してもよい。
【0057】
尚、各副画素にそれぞれ形成された有機化合物層(3,5,7)に含まれる発光層がそれぞれ異なる光の色を発する場合は、製造される有機EL表示装置は多色表示が可能となる。
【0058】
ところで、本発明の製造方法で製造される有機EL表示装置の態様は図9で示される態様に限定されるものではない。例えば、図10に示されるように、各副画素に有機化合物層が一層ずつ設けられる態様も含まれる。この態様の場合、好ましくは、上記工程(F)(第二有機化合物層の部分的な除去工程)において少なくとも第一副画素12に設けられている第二有機化合物層5を除去する。尚、図10に示される有機EL表示装置の製造方法については後述する実施例において詳細に説明する。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の有機EL表示装置の製造方法を実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内であれば種々の変更を行うことが可能である。
【0060】
<実施例1>
図9に示される有機EL表示装置を以下に示す方法で作製した。
【0061】
まず、ガラス基板上に、p−SiからなるTFTを備える駆動回路と、コンタクトホールを備える平坦化膜と、を順次形成した。このように平坦化膜まで形成されたガラス基板を基板1として次の工程で使用した。
【0062】
次に、スパッタリング法により、平坦化膜上に、AgとIZOとを順次積層・成膜して下部電極2となる積層薄膜を形成した。このとき当該積層薄膜の膜厚を150nm(Ag層100nm、IZO層50nm)とした。次に、この積層薄膜について、フォトリソグラフィにより、画素回路に対応した副画素の形状にパターン形成した。尚、このようにパターン形成された下部電極2は、平坦化膜内に設けられているコンタクトホール(不図示)を介して対応する画素回路にそれぞれ電気接続されている。また図9に示されるように、1つの画素は3つの副画素(第一副画素12、第二副画素13、第三副画素14)を備えている。
【0063】
次に、基板1及び下部電極2の上面をポリイミド樹脂でコーティングし、フォトリソグラフィによるパターニングを行うことで各副画素を区画する高さ2μmの素子分離膜9を形成した。
【0064】
次に、基板1を真空加熱した後、抵抗加熱蒸着法により、下部電極2上に、第一有機物化合物層3を形成した。この第一有機化合物層3は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に形成されている積層体であり、また第一有機化合物層3に含まれる発光層は赤色を発する発光層である。また第一有機化合物層3を構成する層はいずれも公知の有機材料からなる層である。
【0065】
次に、第二副画素13及び第三副画素14に相当する領域にレーザー光を部分的に照射することにより、第二副画素13及び第三副画素14にて形成されていた第一有機化合物層3を除去した。レーザー光の照射をする際には、波長248nmのエキシマレーザー及びフォトマスクを用いた。このときレーザーパワー及び照射回数を調整することにより、下部電極2にダメージを与えないようにした。
【0066】
次に、真空蒸着法により、AgとIZOとを順次積層・成膜して第一中間電極層4を形成した。このとき第一中間電極層4の膜厚を65nm(Ag層15nm、IZO層50nm)とした。
【0067】
次に、抵抗加熱蒸着法により、第一中間電極層4上に、第二有機物化合物層5を形成した。この第二有機化合物層5は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に形成されている積層体であり、また第二有機化合物層5に含まれる発光層は緑色を発する発光層である。また第二有機化合物層5を構成する層はいずれも公知の有機材料からなる層である。
【0068】
次に、第三副画素14に相当する領域にレーザー光を部分的に照射することにより、第三副画素14にて形成されていた第二有機化合物層5を除去した。尚、レーザー光の照射条件は第一有機化合物層3の部分的除去のときと同様の条件にし、レーザーパワーを調整することにより、第一中間電極層4にダメージを与えないようにした。
【0069】
次に、真空蒸着法により、AgとIZOとを順次積層・成膜して第二中間電極層6を形成した。このとき第二中間電極層6の膜厚を65nm(Ag層15nm、IZO層50nm)とした。
【0070】
次に、抵抗加熱蒸着法により、第二中間電極層6上に、第三有機物化合物層7を形成した。この第三有機化合物層7は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に形成されている積層体であり、また第三有機化合物層7に含まれる発光層は青色を発する発光層である。また第三有機化合物層7を構成する層はいずれも公知の有機材料からなる層である。
【0071】
次に、真空蒸着法により、AgとIZOとを順次積層・成膜して上部電極8を形成した。このとき上部電極8の膜厚を65nm(Ag層15nm、IZO層50nm)とした。
【0072】
以上により有機EL表示装置を得た。尚、本実施例で得られた有機EL表示装置は、画素領域の外側に設けられたコンタクトホールを介して、第一中間電極層4、第二中間電極層6及び上部電極8がそれぞれ個別に駆動回路に接続されている。これによってフルカラー表示が可能となる。
【0073】
また本実施例により有機EL表示装置を製造する際に、特に、第一有機化合物層3及び第二有機化合物層5の除去工程において異物の発生が抑制されていることが確認されたため、電極層の表面にて発生する残渣の影響を抑制することができた。これによって、高い歩留で発光効率の高い有機EL表示装置を作製できることが確認された。
【0074】
<実施例2>
図10に示される有機EL表示装置を以下に示す方法で作製した。
【0075】
まず実施例1と同様の方法により、基板1上に第二有機化合物層5までの部材を順次形成した。
【0076】
次に、第一副画素12及び第三副画素14に相当する領域にレーザー光を部分的に照射することにより、第一副画素12及び第三副画素14にて形成されていた第二有機化合物層5を除去した。レーザー光の照射をする際には、波長248nmのエキシマレーザー及びフォトマスクを用いた。このときレーザーパワーを調整することにより、第一中間電極層4にダメージを与えないようにした。また、第一中間電極層4を構成するAg層の膜厚を調整してレーザー光の透過を抑制することにより、第一副画素12に相当する領域に設けられている第一有機化合物層3にレーザー光によるダメージが及ばないようにした。
【0077】
次に、真空蒸着法により、AgとIZOとを順次積層・成膜して第二中間電極層6を形成した。このとき第二中間電極層6の膜厚を65nm(Ag層15nm、IZO層50nm)とした。
【0078】
次に、抵抗加熱蒸着法により、第二中間電極層6上に、第三有機物化合物層7を形成した。この第三有機化合物層7は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に形成されている積層体であり、また第三有機化合物層7に含まれる発光層は青色を発する発光層である。また第三有機化合物層7を構成する層はいずれも公知の有機材料からなる層である。
【0079】
次に、第一副画素12及び第二副画素13に相当する領域にレーザー光を部分的に照射することにより、第一副画素12及び第二副画素13にて形成されていた第三有機化合物層7を除去した。レーザー光の照射をする際には、波長248nmのエキシマレーザー及びフォトマスクを用いた。このときレーザーパワーを調整することにより、第二中間電極層6にダメージを与えないようにした。また、第二中間電極層6を構成するAg層の膜厚を調整してレーザー光の透過を抑制した。これにより、第一副画素12に相当する領域に設けられている第一有機化合物層3及び第二副画素13に相当する領域に設けられている第二有機化合物層5にレーザー光によるダメージが及ばないようにした。
【0080】
次に、真空蒸着法により、AgとIZOとを順次積層・成膜して上部電極8を形成した。このとき上部電極8の膜厚を65nm(Ag層15nm、IZO層50nm)とした。
【0081】
以上により有機EL表示装置を得た。ここで本実施例により有機EL表示装置を製造する際に、特に、有機化合物層(3,5,7)の除去工程において異物の発生が抑制されていることが確認されたため、電極層の表面にて発生する残渣の影響を抑制することができた。これによって、高い歩留で発光効率の高い有機EL表示装置を作製できることが確認された。
【0082】
また本実施例では、電極層を構成し光反射性のAg層の膜厚を調整することによって、レーザー光の透過を抑制した構成となっている。これによりレーザー光による有機化合物層の除去工程を行う際に、電極層の下方に設けられている有機化合物層へのダメージを抑制している点に特徴がある。これによって、本実施例によって作製される有機EL表示装置は、各副画素に各色の有機化合物層のみが形成されることとなる。
【0083】
一方、実施例1によって作製される有機EL表示装置は、第一副画素12及び第二副画素13において複数の有機化合物が積層されている構造であるため、トップエミッションタイプの有機EL表示装置に適用すると光取り出し効率が低下する。他方、実施例2によって作製される有機EL表示装置は、このような問題がないため、トップエミッション構造ではより望ましい構造である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】下部電極が形成された基板を示す断面概略図である。
【図2】第一有機化合物層が形成された基板を示す断面概略図である。
【図3】第一有機化合物層が部分的に除去された基板を示す断面概略図である。
【図4】第一中間電極層が形成された基板を示す断面概略図である。
【図5】第二有機化合物層が形成された基板を示す断面概略図である。
【図6】第二有機化合物層が部分的に除去された基板を示す断面概略図である。
【図7】第二中間電極層が形成された基板を示す断面概略図である。
【図8】第三有機化合物層が形成された基板を示す断面概略図である。
【図9】実施例1において作製された有機EL表示装置を示す断面概略図である。
【図10】実施例2において作製された有機EL表示装置を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0085】
1 基板
2 下部電極
3 第一有機化合物層
4 第一中間電極層
5 第二有機化合物層
6 第二中間電極層
7 第三有機化合物層
8 上部電極
9 画素分離膜
11 画素
12 第一副画素
13 第二副画素
14 第三副画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられる画素と、から構成され、
該画素が複数の副画素からなり、
該副画素が、少なくとも下部電極と、
第一中間電極層と、
上部電極と、
該下部電極と該第一中間電極層との間に設けられる第一有機化合物層及び該第一中間電極層と該上部電極との間に設けられる第二有機化合物層のいずれかと、を備える有機EL表示装置の製造方法において、
以下に示す工程(A)〜(E)が含まれることを特徴とする、有機EL表示装置の製造方法。
(A)下部電極の形成工程
(B)第一有機化合物層の形成工程
(C)レーザー光を使用して第一有機化合物層を副画素単位で部分的に除去する工程
(D)第一中間電極層の形成工程
(E)第二有機化合物層の形成工程
【請求項2】
さらに前記第二有機化合物層と前記上部電極との間に第二中間電極層と第三有機化合物層とがこの順に設けられ、前記工程(E)の後の工程として以下に示す工程(F)〜(H)が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法。
(F)レーザー光を使用して第二有機化合物層を副画素単位で部分的に除去する工程
(G)第二中間電極層の形成工程
(H)第三有機化合物層の形成工程
【請求項3】
前記下部電極が副画素単位で区画されており、
前記工程(C)において第一副画素として指定した副画素以外の副画素に設けられている前記第一有機化合物層を除去することを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記工程(F)において少なくとも前記第一副画素に設けられている前記第二有機化合物層を除去することを特徴とする、請求項3に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記第一有機化合物層に含まれる第一発光層と、前記第二有機化合物層に含まれる第二発光層と、前記第三有機化合物層に含まれる第三発光層と、からそれぞれ発する光の色が異なることを特徴とする、請求項1乃至4に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記第一中間電極層及び前記第二中間電極層のうちいずれかが少なくとも金属層を有する層であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−86846(P2010−86846A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256152(P2008−256152)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】