説明

有機EL表示装置

【課題】上面発光型有機EL表示装置の有機EL素子への光共振器構造の採用を容易にする。
【解決手段】本発明の有機EL表示装置は、光反射性及び光透過性を有する前面電極43と、背面電極41と、前面電極43と背面電極41との間に介在すると共に発光層421を含んだ有機物層42とを備え、前面電極43は、有機物層421と向き合った金属材料層431と、金属材料層431と有機物層42との間に介在した無機物からなる電子注入層432と、金属材料層431を被覆すると共に有機物層42が放出した光が内部で繰り返し反射干渉する光学調整層433とを含んだ有機EL素子40を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置では、通常、有機EL素子の陽極を下部電極とし、陰極を上部電極としている。陰極には、仕事関数が小さな材料を使用することが望まれるが、そのような材料の多くは光吸収が大きい。そのため、特に、上部電極が透過する光を表示に利用する上面発光型の有機EL表示装置には、陰極の光吸収を低減することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、陰極の光吸収を低減するために、陰極に以下の構造を採用することが記載されている。すなわち、陰極を内層と外層との二層で構成する。内層は、銀又は銀合金からなる半透明反射層とし、外層はインジウム錫酸化物(ITO)からなる透明電極層とする。
【0004】
この構造を採用すると、半透明反射層にマグネシウム合金を使用した場合と比較して、陰極の光吸収を低減することができる。しかしながら、銀は仕事関数が大きいため、先の構造を採用した場合には、有機物層への電子の注入に高い電圧の印加が必要となる、キャリアバランスが劣化して発光効率が低下するなどの問題を生ずる。
【0005】
特許文献2には、陰極に弗化物層と導電層との二層構造を採用することが記載されている。弗化物層は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弗化物からなる。導電層は、単体金属、合金、又は他の導電材料からなる。
【0006】
この構造を採用すると、弗化物層を省略した場合と比較して、発光効率を高めることができる。また、材料や膜厚を最適化すれば、陰極の光吸収を十分に低くすることができると考えられる。
【0007】
ところで、特許文献1及び3に記載されるように、有機EL素子には、光共振器構造を採用することができる。光共振器構造は、発光層が放出する光のうち、共振波長の光を強め、それ以外の波長の光を弱める。したがって、有機EL素子に光共振器構造を採用すると、有機EL表示装置の発光効率とこれが放出する光の色純度とを著しく高めることができる。
【0008】
この効果を得るためには、陽極と陰極との間の光路長(有機物層の光学的厚さ)並びに陽極及び陰極の光学特性を最適化する必要がある。しかしながら、有機物層の構造は、キャリアバランスなどを考慮して決定する。また、上面発光型有機EL表示装置では、先に説明したように、陰極の構造は電子注入に加えて光吸収などを考慮して決定する。そのため、現実的には、上面発光型有機EL表示装置において、有機EL素子に光共振器構造を採用することは難しい。
【特許文献1】特開2003−109775号公報
【特許文献2】米国特許第5776622号明細書
【特許文献3】特許第3508741号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上面発光型有機EL表示装置の有機EL素子への光共振器構造の採用を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、絶縁基板と、前記絶縁基板に支持され、前記絶縁基板と向き合うと共に光反射性及び光透過性を有する前面電極と、前記絶縁基板と前記前面電極との間に介在した背面電極と、前記前面電極と前記背面電極との間に介在すると共に発光層を含んだ有機物層とを備え、前記前面電極は、前記有機物層と向き合った金属材料層と、前記金属材料層と前記有機物層との間に介在した無機物からなる電子注入層と、前記金属材料層を被覆すると共に前記有機物層が放出した光が内部で繰り返し反射干渉する光学調整層とを含んだ有機EL素子とを具備したことを特徴とする有機EL表示装置が提供される。
【0011】
本発明の第2側面によると、絶縁基板と、前記絶縁基板に支持され、前記絶縁基板と向き合うと共に光反射性及び光透過性を有する前面電極と、前記絶縁基板と前記前面電極との間に介在した背面電極と、前記前面電極と前記背面電極との間に介在すると共に発光層を含んだ有機物層とを備え、前記前面電極は、前記有機物層と向き合った金属材料層と、前記金属材料層と前記有機物層との間に介在した無機物からなる電子注入層とを含んだ有機EL素子と、前記金属材料層を被覆すると共に前記有機EL素子が放出した光が内部で繰り返し反射干渉する光学調整層とを具備したことを特徴とする有機EL表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、上面発光型有機EL表示装置の有機EL素子への光共振器構造の採用が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の一態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示す有機EL表示装置の部分断面図である。図3は、図1及び図2の有機EL表示装置が含む有機EL素子の一例を概略的に示す断面図である。なお、図1及び図2では、有機EL表示装置を、その表示面、すなわち前面又は光出射面、が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。
【0015】
図1及び図2に示す有機EL表示装置1は、アクティブマトリクス駆動方式を採用した上面発光型の有機ELカラー表示装置である。この有機EL表示装置1は、アレイ基板2と、封止部材3とを含んでいる。
【0016】
封止部材3は、この例ではガラス基板であって、そのアレイ基板2との対向面は例えば凹形状を有している。アレイ基板2と封止部材3とは、周縁部同士が例えば接着剤やフリットシールなどで結合しており、これにより、それらの間に気密な密閉空間を形成している。
【0017】
この密閉空間は、例えば、窒素ガスなどの不活性ガスを充填するか又は真空とする。或いは、アレイ基板2と封止部材3との間の密閉空間に樹脂などの固体を充填する封止技術を用いてもよい。或いは、封止部材3として、ガラス基板の代わりに、例えば、有機材料層、無機材料層、又は有機材料層と無機材料層との積層体を使用する薄膜封止技術を用いていてもよい。
【0018】
有機EL表示装置1は、その前面側の最表面上に、偏光板4をさらに含んでいてもよい。偏光板4は、表示面が外光を反射するのを抑制するうえで有用である。
【0019】
アレイ基板2は、ガラス基板などの絶縁基板10を含んでいる。
絶縁基板10上では、複数の画素がマトリクス状に配列している。各画素は、画素回路と有機EL素子40とを含んでいる。
【0020】
画素回路は、例えば、一対の電源端子間で有機EL素子40と直列に接続された駆動トランジスタ(図示せず)及び出力制御スイッチ20と、画素スイッチ(図示せず)とを含んでいる。駆動トランジスタのゲートは、画素の列に対応して敷設された映像信号線(図示せず)に画素スイッチを介して接続されている。駆動トランジスタは、映像信号線から供給される映像信号に対応した大きさの電流を、出力制御スイッチ20を介して、有機EL素子40へと出力する。画素スイッチのゲートは、画素の行に対応して敷設された走査信号線(図示せず)に接続されている。画素スイッチのスイッチング動作は、走査信号線から供給される走査信号によって制御される。なお、画素回路には、他の構造を採用することも可能である。
【0021】
絶縁基板10上には、アンダーコート層12として、例えば、SiNx層とSiOx層とが順次形成されている。アンダーコート層12上には、例えばチャネル、ソース及びドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層13、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)などを用いて形成されるゲート絶縁膜14、及び例えばMoWなどからなるゲート電極15が順次積層されており、それらはトップゲート型の薄膜トランジスタ(以下、TFTと称す)を構成している。この例では、画素スイッチ、出力制御スイッチ20、駆動トランジスタのTFTとして利用している。また、ゲート絶縁膜14上には、ゲート電極15と同一工程で形成可能な走査信号線がさらに配置されている。
【0022】
ゲート絶縁膜14及びゲート電極15は、例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiOxなどからなる層間絶縁膜17で被覆されている。層間絶縁膜17上にはソース及びドレイン電極16が配置されており、それらは、例えばSiNxなどからなるパッシベーション膜18で被覆されている。ソース及びドレイン電極16は、例えばMo/Al/Moの三層構造を有しており、層間絶縁膜17に設けられたコンタクトホールを介してTFTのソース及びドレインにそれぞれ電気的に接続されている。また、層間絶縁膜17上には、ソース及びドレイン電極16と同一の工程で形成可能な映像信号線がさらに配置されている。
【0023】
パッシベーション膜18上には、平坦化層19が形成されている。平坦化層19上には陽極41が、互いから離間して配列している。各陽極41は、パッシベーション膜18及び平坦化層19に設けた貫通孔を介して出力制御スイッチ20のドレイン電極16に接続されている。
【0024】
陽極41は、背面電極であって、この例では、光反射性を有している。陽極41は、例えば、図3に示すように光反射性導電層412と透明導電層411との積層体からなる。或いは、陽極41は、光反射性導電層412のみからなる。透明導電層411は、光反射性導電層412と比較して仕事関数がより大きい。透明導電層411の材料としては、例えば、ITO、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)などを使用することができる。光反射性導電層412の材料としては、例えば、Al、Ag、Au、Crなどの金属材料を使用することができる。
【0025】
平坦化層19上には、図2に示すように、隔壁絶縁層50がさらに配置されている。この隔壁絶縁層50には、陽極41に対応した位置に貫通孔が設けられている。隔壁絶縁層50は、例えば、有機絶縁層であり、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0026】
陽極41上には、図3に示すように、発光層421を含んだ有機物層42が配置されている。発光層421は、例えば、発光色が赤色、緑色、又は青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。或いは、発光層421は、発光色が白色のルミネッセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。
【0027】
有機物層42は、発光層421以外の層をさらに含むことができる。有機物層42は、例えば、発光層421への正孔の注入を媒介する役割を果たす正孔注入層422をさらに含むことができる。また、有機物層42は、正孔輸送層423、電子輸送層424、正孔ブロッキング層425などもさらに含むことができる。
【0028】
隔壁絶縁層50及び有機物層42は、光反射性及び光透過性を有する陰極43で被覆されている。陰極43は、パッシベーション膜18と平坦化層19と隔壁絶縁層50とに設けられたコンタクトホール(図示せず)を介して、映像信号線と同一の層上に形成された電源線(図示せず)に電気的に接続されている。各有機EL素子40は、陽極41、有機物層42、陰極43によって構成されている。
【0029】
陰極43は、前面電極であって、この例では、全画素に対応した領域に広がった連続膜としての共通電極である。陰極43は、金属材料層431と電子注入層432と光学調整層433とを含んでいる。金属材料層431の材料としては、例えば、銀合金を使用することができる。この銀合金としては、例えば、銀と鉛との合金、銀と鉛と銅との合金、銀とニッケルとの合金などを使用することができる。
【0030】
金属材料層431における銀の濃度は、例えば75体積%以上とする。また、金属材料層31の厚さは、例えば、10nm乃至30nmの範囲内とする。この場合、優れた光透過性及び光反射性を実現すると共に、光吸収率を10%以下とすることができる。なお、特に断りがない限り、光吸収率及び光学的厚さなどの光学的特徴は、発光層421が放出する光を想定して記載している。
【0031】
金属材料層431における銀の濃度が高いと、蒸着の際に銀原子の過剰な凝集を生じ、銀が島状に堆積する可能性がある。金属材料層431における銀の濃度を例えば95体積%以下とすると、銀以外の金属原子が膜成長の核として十分に機能し、銀が島状に堆積し難くなる。
【0032】
電子注入層432は、金属材料層431と有機物層42との間に介在している。電子注入層432の材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、及びアルカリ金属の弗化物などを使用することができる。ここでは、一例として、フッ化リチウムを使用することとする。
【0033】
電子注入層432の厚さは、例えば0.5nm以上とする。電子注入層432が薄い場合、その電子注入能力が不十分となる可能性がある。
【0034】
電子注入層432の厚さは、例えば2nm以下とする。電子注入層432の材料としてアルカリ金属の弗化物又は酸化物を使用した場合、電子注入層432が厚いと、絶縁性が発生する可能性がある。
【0035】
光学調整層433は、金属材料層431を被覆している。光学調整層433は、有機物層42が放出した光が内部で繰り返し反射干渉するように、その光学的厚さが調節されている。光学調整層433の材料としては、例えば、ITO、IZO、ZnOなどの透明導電材料を使用することができる。
【0036】
光学調整層433の光学的厚さは、例えば230nm以下とする。例えば、光学調整層433の材料としてITO(屈折率n=約2)を使用した場合には、その厚さを例えば約100nm以下とする。この場合、光学調整層433の厚さに応じた透過率及び反射率変化の波長依存性が比較的小さい。
【0037】
光学調整層433の厚さは、例えば15nm以上とする。光学調整層433が薄いと、光学調整層433の厚さに応じて透過率及び反射率は変化するものの、後述する位相シフトΦ1は殆ど変化しない。
【0038】
この有機EL表示装置1において、有機EL素子40は、反射層と半透鏡層とを向かい合わせに配置してなる光共振器を形成している。すなわち、発光層421が放出する光の波長λは下記等式に示す関係を満足している。
【数1】

【0039】
なお、Lは反射層と半透鏡層との間の光路長であり、Φ1は半透鏡層で反射されることによる光の位相シフトであり、Φ2は反射層で反射されることによる光の位相シフトであり、mは整数である。また、反射層は、光反射性を有する層であり、典型的には金属薄膜である。半透鏡層は、光透過性と光反射性とを有する層である。半透鏡層は、反射層と比較して透過率がより大きい。反射層は、半透鏡層と比較して反射率がより大きい。例えば、反射層の反射率は30%以上であり、半透鏡層の反射率は15%以上である。この例では、反射層は光反射性導電層412であり、半透鏡層は陰極43である。
【0040】
波長λと光路長Lと位相シフトΦ1及びΦ2とが上記等式に示す共振条件を満足している場合、この波長λの光は、繰り返し反射干渉によって強め合う。しかしながら、光学調整層433を省略した場合、波長λと光路長Lと位相シフトΦ1及びΦ2とに共振条件を満足させるべく、それらの何れかを変更すると、キャリアバランスや光吸収特性なども変化する。
【0041】
これに対し、陰極43に図3の構造を採用した場合、光学調整層433に使用する材料の種類及びその厚さに応じて、位相シフトΦ1を変化させることができる。光学調整層433は有機物層42と接触している層ではないので、光学調整層433に使用する材料の種類及びその厚さを変更しても、キャリアバランスが影響を受けることはない。また、光学調整層433は透明材料からなるので、これに使用する材料の種類及びその厚さを変更しても、陰極43の光吸収特性が大きな影響を受けることはない。
【0042】
したがって、キャリアバランスや光吸収特性などに殆ど影響を与えることなく、位相シフトΦ1を変化させることができる。すなわち、本態様によると、上面発光型有機EL表示装置の有機EL素子への光共振器構造の採用が容易になる。
【0043】
以上、光学調整層433を陰極43の一部としたが、光学調整層433は陰極43の一部でなくてもよい。すなわち、光学調整層433は、導電性である必要はない。但し、光学調整層433が導電性であると、例えば隔壁絶縁層50に設ける貫通孔の位置で金属材料層431に不連続部が生じたとしても、これに起因して接続不良が生じるのを防止できる。
【0044】
光学調整層433が絶縁性である場合、その材料としては、例えば、SiO2及びSiNなどの透明誘電体を使用することができる。
【0045】
また、光学調整層433の材料としては、例えば、α−NPD及びAlq3などの有機物を使用することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
本例では、ガラス基板上に、図3の有機EL素子40を作製した。
【0047】
ここでは、電子注入層432の材料としては、弗化リチウムを使用した。電子注入層432は、蒸着法により形成し、その厚さは1nmとした。
【0048】
金属材料層431は、銀とマグネシウムとを共蒸着することにより15nmの厚さに形成した。金属材料層431における銀の濃度は、銀の蒸着レートとマグネシウムの蒸着レートとを調節することにより、80体積%に設定した。
【0049】
光学調整層433の材料としては、ITOを使用した。光学調整層433は、RFスパッタリングにより形成し、その厚さは30nmとした。
【0050】
(比較例1)
本例では、電子注入層を省略したこと以外は実施例1と同様の方法により有機EL素子を作製した。
【0051】
次に、実施例1に係る有機EL素子40及び比較例1に係る有機EL素子の各々について、電流密度が10mA/cm2となるときの駆動電圧を測定した。その結果、実施例1に係る有機EL素子40の駆動電圧は、比較例1に係る有機EL素子の駆動電圧と比べて3.5Vも小さかった。
【0052】
(比較例2)
本例では、光学調整層を省略したこと以外は実施例1と同様の方法により有機EL素子を作製した。
【0053】
次に、実施例1に係る有機EL素子40及び比較例2に係る有機EL素子の各々について、電流密度を10mA/cm2としたときの発光スペクトルを測定した。
【0054】
図4は、実施例1及び比較例2に係る有機EL素子の発光スペクトルを示すグラフである。図中、横軸は波長を示し、縦軸は強度(任意単位)を示している。また、曲線Aは実施例1に係る有機EL素子40について得られた発光スペクトルを示し、曲線Bは比較例2に係る有機EL素子について得られた発光スペクトルを示している。
【0055】
図4に示すように、実施例1に係る有機EL素子40は、比較例2に係る有機EL素子と比べて、発光効率に優れている。具体的には、実施例1に係る有機EL素子40の発光効率は、比較例2に係る有機EL素子の発光効率の約1.4倍であった。
【0056】
(実施例2)
本例では、実施例1と同様の構造を有する有機EL素子40について、陰極43の透過率及び反射率並びに位相シフトΦ1の光学調整層433の厚さに対する依存性をシミュレートした。その結果を図5乃至図7に示す。
【0057】
図5は、光学調整層の厚さと陰極の透過率との関係の一例を示すグラフである。図6は、光学調整層の厚さと陰極の反射率との関係の一例を示すグラフである。図7は、光学調整層の厚さと位相シフトΦ1との関係の一例を示すグラフである。図5乃至図7において、横軸は光学調整層433の厚さを示している。また、図5において縦軸は陰極43の透過率を示し、図6において縦軸は陰極43の反射率を示し、図7において縦軸は位相シフト(反射位相)Φ1を示している。
【0058】
図5及び図6から明らかなように、光学調整層433の厚さを変化させても、陰極43の光吸収特性は殆ど変化しない。他方、位相シフトΦ1は、図7に示すように、光学調整層433の厚さに応じて変化する。具体的には、光学調整層433の厚さに応じて、位相シフトΦ1を最大で約0.5rad変化させることができる。
【0059】
なお、図5及び図6の曲線は極値を有しており、それら極値に対応した光学調整層433の厚さはほぼ等しい。したがって、例えば、光学調整層433の厚さが先の値とほぼ等しい場合には、金属材料層431や光学調整層433の膜厚のばらつきに起因して透過率及び反射率がばらつくのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。
【図2】図1に示す有機EL表示装置の部分断面図。
【図3】図1及び図2の有機EL表示装置が含む有機EL素子の一例を概略的に示す断面図。
【図4】実施例1及び比較例2に係る有機EL素子の発光スペクトルを示すグラフ。
【図5】光学調整層の厚さと陰極の透過率との関係の一例を示すグラフ。
【図6】光学調整層の厚さと陰極の反射率との関係の一例を示すグラフ。
【図7】光学調整層の厚さと位相シフトΦ1との関係の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0061】
1…有機EL表示装置、2…アレイ基板、3…封止部材、4…偏光板、10…絶縁基板、12…アンダーコート層、13…半導体層、14…ゲート絶縁膜、15…ゲート電極、16…ソース及びドレイン電極、17…層間絶縁膜、18…パッシベーション膜、19…平坦化層、20…出力制御スイッチ、40…有機EL素子、41…陽極、42…有機物層、43…陰極、50…隔壁絶縁層、411…透明導電層、412…光反射性導電層、421…発光層、422…正孔注入層、423…正孔輸送層、424…電子輸送層、425…正孔ブロッキング層、431…金属材料層、432…電子注入層、433…光学調整層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板に支持され、前記絶縁基板と向き合うと共に光反射性及び光透過性を有する前面電極と、前記絶縁基板と前記前面電極との間に介在した背面電極と、前記前面電極と前記背面電極との間に介在すると共に発光層を含んだ有機物層とを備え、前記前面電極は、前記有機物層と向き合った金属材料層と、前記金属材料層と前記有機物層との間に介在した無機物からなる電子注入層と、前記金属材料層を被覆すると共に前記有機物層が放出した光が内部で繰り返し反射干渉する光学調整層とを含んだ有機EL素子とを具備したことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
絶縁基板と、
前記絶縁基板に支持され、前記絶縁基板と向き合うと共に光反射性及び光透過性を有する前面電極と、前記絶縁基板と前記前面電極との間に介在した背面電極と、前記前面電極と前記背面電極との間に介在すると共に発光層を含んだ有機物層とを備え、前記前面電極は、前記有機物層と向き合った金属材料層と、前記金属材料層と前記有機物層との間に介在した無機物からなる電子注入層とを含んだ有機EL素子と、
前記金属材料層を被覆すると共に前記有機EL素子が放出した光が内部で繰り返し反射干渉する光学調整層とを具備したことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
前記金属材料層は銀とマグネシウムとの合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記金属材料層は銀を75体積%乃至95体積%の濃度で含有していることを特徴とする請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記金属材料層の厚さは10nm乃至30nmの範囲内にあることを特徴とする請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記金属材料層の光吸収率は10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記電子注入層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、及びアルカリ金属の弗化物からなる群より選択される材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記電子注入層はフッ化リチウムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項9】
前記電子注入層の厚さは0.5nm乃至2nmの範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の有機EL表示装置。
【請求項10】
前記光学調整層の光学的厚さは230nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項11】
前記光学調整層の光学的厚さは230nm以下であり、前記光学調整層はインジウム錫酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項12】
前記光学調整層の厚さは15nm乃至100nmの範囲内にあることを特徴とする請求項11に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−103303(P2007−103303A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295152(P2005−295152)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】