説明

有機EL表示装置

【課題】 設計や部品調達の自由度が高く、設備費用が嵩むことがなく、製品コストの上昇が抑制できる有機EL表示装置を提供する
【解決手段】 可撓性基板(101)と、この可撓性基板(101)の一面側に形成された有機トランジスタ(21)と、この有機トランジスタ(21)上に絶縁層(107)を介して形成された有機EL素子(22)と、を備え、有機EL素子(22)の発光層(5)と絶縁層(107)との間に、発光層(5)から絶縁層(107)側に出射した光を反射する反射層(109)を有する。また、反射層(109)は、有機EL表示素子(22)のアノード(109)である。また、反射層(109)は、Crにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に係り、特に、可撓性の基板とその基板上に形成された有機トランジスタとこの有機トランジスタにより駆動され発光する有機EL素子とを備えた有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板上に有機EL素子と駆動用トランジスタとを形成して発光させる構成の可撓性を備えた有機EL表示装置が開発されており、その一例が特許文献1に記載されている。
この特許文献1に記載されている有機EL表示装置は、可撓性を有する高分子基板上にアモルファスシリコン型の薄膜トランジスタを形成し、さらに、この薄膜トランジスタのソース電極に接続した画素電極を有する有機EL素子を形成して高分子基板とは反対側に出光する構成とされたものである。
また、この有機EL表示装置の高分子基板は、発光層から外部に取り出される光の輝度低下を防止するために、その可視光透過率が70%以下に設定されている。
【特許文献1】特開2004−22392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に記載されたようなアモルファスシリコンやポリシリコン等の無機半導体を用いた薄膜トランジスタの製造においては、いくつかの課題がある。
具体的には、350℃以上の加熱処理工程が必要であり、これに耐え得る耐熱性を有する基板素材を採用しなければならないので基板材料が限定される。
また、この有機EL装置から取り出される光の輝度を充分に得るために可視光透過率が70%以下である材料を選択する必要があり、この点においても基板材料が限定され、設計や部品調達の自由度が損なわれるという問題があった。
一方、このような無機半導体層やその絶縁層を形成するためには、プラズマ化学気相成長(CVD)装置や、レーザアニール装置を用いる必要があるが、これらの装置は高額であるため、設備費用が嵩み、また、製品コストも高くなる。
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、設計や部品調達の自由度が高く、設備費用が嵩むことがなく、製品コストの上昇が抑制できる有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本願発明は次の〔1〕〜〔3〕の手段を有する。
〔1〕可撓性基板(101)と、この可撓性基板(101)の一面側に形成された有機トランジスタ(21)と、この有機トランジスタ(21)上に絶縁層(107)を介して形成された有機EL素子(22)と、を備え、
前記有機EL素子(22)の発光層(5)と前記絶縁層(107)との間に、前記発光層(5)から前記絶縁層(107)側に出射した光を反射する反射層(109)を有することを特徴とする有機EL表示装置(50)である。
〔2〕前記絶縁層(107)は、高分子層と無機層との積層構造、あるいは、いずれかの単層構造を有し平坦化されて成ることを特徴とする〔1〕に記載の有機EL表示装置(50)である。
〔3〕前記反射層(109)は、前記有機EL表示素子(22)のアノード(109)であることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の有機EL表示装置(50)である。
〔4〕前記反射層(109)は、Crにより形成されていることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の有機EL表示装置(50)である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、設計や部品調達の自由度が高く、設備費用が嵩むことがなく、製品コストの上昇が抑制できる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1及び図2を用いて説明する。
図1は、本発明の有機EL表示装置の実施例を説明する断面図である。
図2は、本発明の有機EL表示装置の実施例を説明する平面図である。
【0008】
本発明の有機EL表示装置の実施例について、図1及び図2を用いて説明する。
この有機EL表示装置50は、スイッチングトランジスタ21a及びドライブトランジスタ21bを有する有機トランジスタ21と、有機EL素子22とを備えている。有機EL素子22の1画素を駆動するために、スイッチングトランジスタ21a及びドライブトランジスタ21bを各1つずつ使用する構成である。
まず、この有機EL表示装置50についての製造工程の概略を有機トランジスタ21の形成工程から説明する。図1及び図2は、この有機EL表示装置50の1画素分について説明する図である。
【0009】
可撓性基板であるポリイミド基板101の表面及び裏面に、SiO2(二酸化珪素)を成膜し、各面の保護膜101a,101bとする。
表面の保護膜101a上にゲート電極102を形成する。
次に、このゲート電極102を覆うようにSiO2によりゲート絶縁膜103を形成する。
次に、このゲート絶縁膜103上にペンタセンにより有機半導体膜104を製膜する。
この有機半導体膜104上にAu(金)によりソース電極105及びドレイン電極106を形成する。
以上により、スイッチングトランジスタ21aとドライブトランジスタ21bとを有する有機トランジスタ21が得られる。
【0010】
次に、この有機トランジスタ21により駆動される有機EL素子22の形成工程について説明する。
有機トランジスタ21を完全に覆い感光性のPVA(ポリビニルアルコール)を全面塗布して絶縁層107を形成する。
【0011】
次に、ドライブトランジスタ21bのドレイン電極106が露出するように絶縁層107にビアホール108を形成する。
【0012】
次に、絶縁層107上にアノード膜109を形成する。このアノード膜は、Cr(クロム)によりビアホール108に充填されるように製膜されるので、ドレイン電極106と電気的に接続される。
このアノード膜109上に、複数の層110を積層して有機EL素子22を形成する。
具体的には、CuPc層1,α−NPD層2,CBP〈6%Ir(ppy)3〉層3,BCP層4,Alq3層(発光層)5,LiF層6,Al層7,Au層8であり、この順に積層される。
特にカソードであるAl層7及びAu層8は、図1の矢印方向へ効率よく光が取り出せるように薄く製膜される。
【0013】
さらに、このような成膜により形成された有機EL素子22上に、SiO2を保護膜111として両面に製膜形成されたPC(ポリカーボネート)フィルムをこの可撓性基板全体に被せ、UV硬化樹脂により封止硬化させて有機EL表示装置50を得る。
【0014】
次に、この製造工程の詳細について説明する。
1)ポリイミド基板101の両面にSiO2をRFスパッタ法により厚さ200nmで製膜する。この膜は基板の保護膜101a,101bとなる。
【0015】
2)表面の保護膜101a上の全面にW(タングステン)膜をスパッタ法により厚さ200nmで形成する。
【0016】
3)このW膜上にレジストを塗布し、ベーキング後ゲート形状のフォトマスクを用いて露光する。
次に現像液により現像を行い、純粋洗浄後、窒素ブローして基板の水分を除去する。
そして、反応性イオンエッチング装置(RIE)に入れ、レジストが形成されていない部分のWを、SF6と反応させて除去する。
これにより、所望のパターン形状のゲート電極102が形成される。
残ったレジストは、剥離液によりゲート電極102から剥離する。剥離後、IPA(イソプロピルアルコール)により洗浄を行い、窒素ブローにより乾燥させる。
【0017】
4)次に、ゲート電極102を覆うように、SiO2をRFスパッタ法により200nmの厚さに形成し、3)のゲート電極102と同様の工程を経て所望のパターン形状のゲート絶縁膜103が得られる。
【0018】
5)ゲート絶縁膜103上に、ペンタセンを蒸着法により50nmの厚さで製膜形成し有機半導体膜104とする。
【0019】
6)次に、マイクロコンタクトプリンティング法により、Au(金)によるソース電極105及びドレイン電極106をペンタセンの有機半導体膜104上に転写して有機トランジスタ21が形成される。
【0020】
7)このソース電極105及びドレイン電極106を覆うように、スピンコート法によりPVAを1μmの厚さで塗布し絶縁層107とする。このスピンコートによる塗布で形成された絶縁層107により、有機トランジスタ21の部分や配線部が平坦化される。
【0021】
8)この絶縁層107におけるドライブトランジスタ21bのドレイン電極106上に、後の工程で形成する有機EL素子22のアノードを接続するためのビアホール108を設ける。このビアホール108は、ビアホール用のフォトマスクにより感光性のPVAを露光現像し、Auで形成されたドレイン電極106の電極表面を露出させるように形成される。
【0022】
9)絶縁層107上にCrによるアノード膜(層)109を200nmの厚さで形成する。このCr層は、ビアホール108の内部にも充填されるので、アノード膜109はドレイン電極106と電気的に接続される。また、この層はCrで形成され、反射率が極めて高い反射膜としても機能する。
【0023】
10)このアノード膜109上に、25nm厚のCuPc層1,25nm厚のα−NPD層2,35nm厚のCBP〈6%Ir(ppy)3〉層3,10nm厚のBCP層4,40nm厚のAlq3層(発光層)5,0.5nm厚のLiF層6,10nm厚のAl層7,15nm厚のAu層8をこの順で形成し有機EL素子22が得られる。
Al層7及びAu層8の電極上にはカソード電極の抵抗を下げるためのITO膜を製膜してもよい。このAl膜7及びAu膜8は、このカソード膜側から光が効率よく取り出せるように、透過率が50%以上得られることが必要である。
【0024】
11)この後、100nmのSiO2保護膜が両面に形成されたポリカーボネートを保護層111として基板上全体にかぶせ、UV硬化樹脂により封止して有機EL素子22と有機トランジスタ21とを備えた有機EL表示装置50が得られる。
【0025】
図2は、実施例の有機EL表示装置50における1画素分の平面図である。この図からわかるように、この有機EL表示装置50は、スイッチングトランジスタ21a及びドライブトランジスタ21bを有する有機トランジスタ21と、有機EL素子22とを備え、有機EL素子22は、有機トランジスタ21を覆うように形成されているのでその開口率は極めて大きい
【0026】
また、ビアホール108は、画素の端部側に設けることが望ましい。実施例では、このビアホール108を覆うように有機EL素子22の発光層5を設けているので、製造工程においてアノード膜109を形成する際にこのビアホール108に充填されると共に、アノード膜109の表面を平坦化した後、その面上に有機EL素子の各層を積層形成している。
ビアホール108をアノード膜109で埋めない場合は、有機EL表示素子22の発光部がこのビアホール108上に形成されないようにする。
【0027】
この実施例の有機トランジスタ21は、ソース電極105及びドレイン電極106が有機半導体膜104の上側に位置するトップコンタクト型であるが、ボトムコンタクト型でも同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、ソースドレイン電極の作成法も、マイクロコンタクト法に限定されるものではなく、例えば、フォトリソグラフィを用いて作成してもよい。
【0028】
可撓性基板101は、ポリイミドに限らず、絶縁性と可撓性を有する基板材料であれば、限定されるものではない。具体的例として、PET(ポリエチレンテレフタレート),PS(ポリスチレン),PC(ポリカーボネート)、あるいは、PES(ポリエーテルサルホン)等の有機材料を用いることができる。
【0029】
また、可撓性基板101を保護する層は、Si02に限るものではなく、SiN,SiON、あるいは、Al23を用いることができ、これらを複合あるいは積層した膜であってもよい。
これらの膜は、その酸素透過率が、10-2cc/m2/day 以下、水蒸気透過率が、10-5cc/m2/day 以下であることが好ましい。
【0030】
ソース電極105及びドレイン電極106は、導電性があれば材料は限定されず、例えば、Pt(白金),Cr,Al等の金属や、錫酸化物(例えばITO)等でもよい。
これらの膜は、積層形成されていてもよい。また、蒸着法,スパッタ法,めっき法等で形成され、その膜厚を5〜500nm程度として電気抵抗があまり高くないように形成されるのがよい。
【0031】
ゲート電極102は、ソース電極105とドレイン電極106との間のチャネルが形成される部分のみに形成されていればよく、ゲート電極102と、ソース電極105及びドレイン電極106とのオーバラップ部分は、極力小さくする必要がある。
このゲート電極102の材料は、Wに限らず、導電性を有する他の金属を用いることができるが、仕事関数の高い金属が好ましい。
【0032】
ゲート絶縁膜103は、SiO2に限定されるものではなく、無機絶縁膜、有機絶縁膜のいずれでもよい。具体的には、酸化シリコン,窒化シリコン,酸化アルミニウム,酸化タンタル,酸化チタン,酸化ジルコン等を用いて蒸着法、スパッタ法、CVD法等により形成される。
また、スピンコート法やLB単分子累積法を用いれば、ポリエチレン,ポリビニルカルバゾール,ポリイミド,ポリパラキシレン等で形成することができる。
このゲート絶縁膜103の膜厚は、10〜1000nm程度とされる。
【0033】
有機半導体膜104は、蒸着法,スピンコート法,インクジェット法等により、ペンタセン以外に、テトラセン,ペリレン等の縮合芳香族炭化水素,及び,これらの縮合芳香族炭化水素の誘導体と高分子系材料、例えば、ポリアセチレン,ポリアセン等の共役炭化水素ポリマーや、ポリアニリン,ポリピロル,ポリチオフェン等の共役複素環式ポリマー等を用いることができる。
【0034】
有機トランジスタ21上に形成する平坦化膜である絶縁層107の材料として、ポリイミド,UV硬化樹脂等の有機膜単層や、窒化シリコン,酸化アルミニウム等の無機膜単層を用いてもよい。その際、有機半導体の特性劣化を起こさない条件で層を形成することが必要である。
【0035】
有機EL素子22としては、上述した実施例以外に、蛍光材の発光層を有するもの、高分子有機材料の発光層を有するものであってもよい。
そして、この有機EL素子22を保護する保護膜としては、SiO2やSiNのような無機膜や、さらにその上にポリイミド,PVA,UV硬化樹脂等の有機層が積層された膜であってもよい。単層とした場合においても、有機EL素子22の各膜の特性劣化が生じないように形成できるものであればよい。
【0036】
上述した実施例によれば、トランジスタが有機半導体膜である有機トランジスタを有する構成であるので、350℃以上の加熱処理工程が不要であり、基板素材が耐熱性を有するものに限定されない。また、発光層5に対して可撓性基板側に形成されたアノード膜109を反射率の高い反射層にしてあるので、発光層5から可撓性基板側に出射した光を、効率よくこのアノード膜109で反射してカソード側から基板外部に取り出すことができる。
従って、発光効率が良好であると共に、可撓性基板の可視光透過率になんら制限がないので、基板材料がこの点でも限定されることがない。従って、設計や部品調達の自由度が極めて高い
この反射膜は、アノード膜とは別に設けてもよい膜(層)である。
例えば、実施例における絶縁層107とアノード膜109との間に独立して設けてもよい。
半導体層が有機半導体層であるから、特別高価な設備を用いなくても製造が可能であり、製品コストの上昇を招くことはない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の有機EL表示装置の実施例を説明する断面図である。
【図2】本発明の有機EL表示装置の実施例を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0038】
5 Alq3層(発光層)
21 有機トランジスタ
21a スイッチングトランジスタ
21b ドライブトランジスタ
22 有機EL素子
50 有機EL表示装置
101 基板
102 ゲート電極
103 ゲート絶縁膜
104 有機半導体膜
105 ソース電極
106 ドレイン電極
107 絶縁層
108 ビアホール
109 アノード膜
111 保護膜(層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性基板と、
この可撓性基板の一面側に形成された有機トランジスタと、
この有機トランジスタ上に絶縁層を介して形成された有機EL素子と、を備え、
前記有機EL素子の発光層と前記絶縁層との間に、前記発光層から前記絶縁層側に出射した光を反射する反射層を有することを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記絶縁層は、高分子層と無機層との積層構造、あるいは、いずれかの単層構造を有し平坦化されて成ることを特徴とする請求項1記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記反射層は、前記有機EL表示素子のアノードであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記反射層は、Crにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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