説明

有機EL表示装置

【課題】同一基板上の有機EL表示画素を良好に塗り分けるために、画素分離領域に凹凸構造を設け、下部電極上に形成された有機EL表示素子を良好に区画、分離し、複数の表示部を構成可能な生産性の高い有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】基板101上に形成された下部電極102と、下部電極102に対向して設けられた上部電極107と、下部電極102と上部電極107間に形成された有機発光層105とを備えている。また、下部電極102と上部電極107間に独立して駆動可能に区画された複数の画素領域と該画素領域を区画する画素分離領域とから構成されている。画素分離領域は、ウィスカ集合体103を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な表示性能を有し、生産性の高い有機EL表示素子を用いた有機EL表示装置を提供するための技術に関する。より詳しくは、基板上に表示画素となる有機薄膜を良好にパターン形成することで、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の複数の画素を良好に塗り分ける際に使用される画素分離領域を備えた薄膜パターン形成用基板を用いた有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置の製造方法として、蒸着法と塗布法とを挙げることができる。塗布法は、発光層を形成する材料の使用効率とスループットが蒸着法に比べて高い。そのため、塗布法により、低コストで大画面サイズの表示装置を製造することが可能となる。また、塗布法において、発光層を形成する画素を分離し、R、G、Bの複数画素を塗り分けるための隔壁を設け、その隔壁間にインクジェット法、ディスペンサー法等により有機EL表示素子を製造する技術が提案されている。
【0003】
その際、隔壁上面においては、インクが隔壁を乗り越えて流出するのを防ぐために撥液性が求められる一方、隔壁で囲まれた領域の表面においては、インクが領域内に均一に濡れ拡がるようにインクに対して高い親インク性が求められていた。
【0004】
以下、図5及び図6を参照して、前記課題について説明する。図5は、発光層(画素)中央部が厚い形状となる場合の有機EL表示装置の断面図である。また、図6は、発光層(画素)中央部が薄い形状となる場合の有機EL表示装置の断面図である。図5中、501は基板、502は隔壁、503は発光層の塗布インクをそれぞれ示す。また、図6中、601は基板、602は隔壁、603は発光層の塗布インクをそれぞれ示す。
【0005】
前記課題に対して、図5に示すように、隔壁501及び隔壁501間が塗布インク503に対して撥液性である場合に、塗布インク503が側壁との接触面ではじかれ、その部分の膜厚が薄くなり、発光層(画素)中央部が厚い形状となる問題があった。また、図6に示すように、隔壁602の側壁面の親液性が高すぎると隔壁602の側壁との接触面近傍の膜厚が大きくなって、塗布インク603の中央部が薄い形状となり、発光層(画素)中央部が厚い場合と同様に色むらを引き起こす問題があった。
【0006】
前記課題を解決するための具体的手法として、隔壁をフッ素系化合物等の撥液処理剤で表面処理する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1には、撥液性を示す層を隔壁表面に塗布し、親水性基を有する界面活性剤等で隔壁間を表面処理することが記載されている。また、特許文献2には、さらに紫外線等のエネルギー線の照射により凹部を親液性にすると記載されている。
【0007】
しかし、これらの表面改質方法は簡便で効果が大きい利点があるものの、塗布インクを下部電極の上面に塗布する場合、その表面を親液性にするためのUV/O3処理のO3の影響で、フッ素プラズマによる撥液性が悪くなる点で改善の余地があった。
【0008】
撥液処理剤を用いずに、隔壁表面を撥液性に改質する手段として、隔壁を粗面化する技術も知られている(特許文献3参照)。具体的には、隔壁表面に凹凸構造を設ける技術である。下記式は、液体浸透の解析の基本式として用いられるルーカス−ウォッシュバーンの式である。
【0009】
【数1】

【0010】
(ここで、l:浸透深さ、r:毛管半径、γ:液体の表面張力、θ:接触角、η:粘度、t:時間である。)l、r以外の変数は塗布インク特有のものであり、同じ塗布インクを用いると仮定すると、それらが定数となり、隔壁表面の凹凸間隔に対応するrが小さくなるほど、lも小さくなる。つまり、塗布インクが毛管内に浸透しにくくなることを意味し、撥液性が良くなる。
【0011】
特許文献3では、前記課題に関して、エンボスロールを用いたエンボス加工により凹凸構造を形成し、同一基板上に異なる薄膜を形成した。この技術によっても、凹凸間隔に関しては、サブミクロンオーダーが限界であり、また、基板にエンボス加工する前に予熱しておく工程が必要であった。さらに、有機EL表示素子の画素を分離するために十分な撥液性が得られず、撥液処理剤により隔壁の撥液性を向上させなければならなかった。
【0012】
【特許文献1】特開平9−203803号公報
【特許文献2】特開平9−230129号公報
【特許文献3】特開2003−190876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述した課題に鑑み提案されたもので、次の目的を有している。すなわち、同一基板上の有機EL表示画素を良好に塗り分けるために、画素分離領域に凹凸構造を設け、下部電極上に形成された有機EL表示素子を良好に区画、分離し、複数の表示部を構成可能な生産性の高い有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するため、本発明の有機EL表示装置は、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の有機EL表示装置は、基板上に形成された下部電極と、下部電極に対向して設けられた上部電極と、下部電極と上部電極間に形成された有機発光層を備えている。また、下部電極と上部電極間に独立して駆動可能に区画された複数の画素領域と該画素領域を区画する画素分離領域とから構成されている。そして、画素分離領域には、ウィスカ集合体を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機EL表示装置によれば、撥液表面処理剤が不要で、かつ従来技術よりも凹凸構造形成工程が簡便であり、凹凸間隔がナノオーダーで、画素を適確に塗り分けるのに十分な撥液性を有する画素分離領域を簡便に設けることができる。したがって、有機EL表示装置の有機薄膜形成プロセスにおいて、UV/O3処理により撥液性が低下することなく、有機EL表示素子が良好に区画、分離された複数の表示部からなる生産性の高い有機EL表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の有機EL表示装置の実施形態を説明する。
【0017】
本発明の有機EL表示装置は、基板上に形成された下部電極と、下部電極に対向して設けられた上部電極と、下部電極と上部電極間に形成された有機発光層を備えている。また、下部電極と上部電極間に独立して駆動可能に区画された複数の画素領域と該画素領域を区画する画素分離領域とから構成されている。そして、画素分離領域には、ウィスカ集合体を有している。ここで、画素分離領域は、電気絶縁性の隔壁で形成されており、該隔壁の表面にウィスカ集合体を有する構成とすることが可能である。また、有機発光層は、溶媒に溶解された塗布インクを用いた塗布法により形成することが可能である。また、このような構成からなる有機EL表示装置は、有機EL表示素子を駆動する複数の駆動回路を有している。
【0018】
上述したように、本発明の有機EL表示装置は、画素分離領域をウィスカ集合体とすることで、画素分離領域に物理的な撥液性を持たせている。
【0019】
本発明の有機EL表示装置において用いることができるウィスカ集合体とは、針状構造を有する物質の集合体である。針状構造を有する物質としては、主に、金属酸化物を挙げることができるが、針状構造を有するものであれば、特に限定されない。代表的な材料としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、酸化亜鉛、チタニアなどを挙げることができる。個々のウィスカ間隔は、100nm以下、太さ10乃至100nm、膜厚は、0.1乃至3μmであるものが好ましい。特に、撥液性を出すためには、前述した式から明らかなように、個々のウィスカ間隔が最も重要なパラメータとなる。なお、ここでの膜厚とは、ウィスカ集合体の膜厚を表す。ウィスカ集合体の凹凸高さは、好ましくは0.005乃至5.0μmであり、より好ましくは0.01乃至2.0μmである。ここでの「表面凹凸の高さ」は、被膜表面に形成された凸部の頂点と凹部の底点との高低差を指す。すなわち、被膜の表面凹凸の高さが、0.005乃至5.0μmとは、JIS−B−061の「表面粗さの定義と表示」に規定されている山頂と谷底との高低差を意味し、最大粗さ(Rmax)に相当するものである。
【0020】
本発明の有機EL表示装置において、有機EL表示画素を適確に塗り分けるのに十分な撥液性を出すために必要なウィスカ集合体の凹凸間隔は、液体の物性に依存するが300nm以下である(特許文献3参照)。すなわち、凹凸間隔が300nm以上の場合、十分な撥液性は得られず、撥液性を向上させるために表面処理剤が必要となることがある。
【0021】
なお、これらの材料の中で、1種のみを用いるよりも、2種を含有する方が、ウィスカ集合体自体の強度が上がり、かつ、ウィスカ集合体の下地の層との密着性も向上することが知られている(特開2005−275372号公報参照)。これらの化合物を溶媒に溶かした塗布液(ゾル溶液)を用いて、基板上に成膜した多成分系膜を温水処理することで、ウィスカ集合体を形成することができる。
【0022】
以下、ウィスカ集合体の材料としてアルミナを用いた場合について説明する。ウィスカ集合体は、アルミニウムの酸化物または水酸化物、またはそれらの水和物を主成分とする針状結晶により形成される。特に好ましい結晶として、ベーマイトがある。また、これらのウィスカ集合体が、選択的に薄膜層の表面に対して垂直方向に配置されることが好ましい。
【0023】
本発明の有機EL表示装置で用いるウィスカ集合体は、公知のCVD、PVDの気相法、及びゾル−ゲルの液相法より形成することができる。これらの手法により、予め透明層を形成した後、アルミナを主成分とする針状結晶を設けることができる。また、アルミナとジルコニア、シリカ、チタニア、酸化亜鉛のいずれかを含む1層または2層以上の酸化物層を形成してから、その表面を選択的に溶解または析出させることにより、ウィスカ集合体を設けてもよい。その中で、アルミナを含むゾル−ゲルコーティング液を塗布して形成したゲル膜を温水で処理して、ウィスカ集合体を成長させる方法が好ましい。
【0024】
ゲル膜の原料としては、ジルコニウム、シリコン、チタニウム、亜鉛の各々の化合物の中から1種の化合物とアルミニウム化合物を用いる。ジルコニア、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、アルミナの原料として、各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの塩化合物を用いることができる。成膜性の観点から、特に、ジルコニア、シリカ、チタニア原料として金属アルコキシドを用いることが好ましい。
【0025】
ジルコニウムアルコキシドの具体例として、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド等を挙げることができる。
【0026】
シリコンアルコキシドとしては、一般式Si(OR)4で表される各種のものを使用し、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の同一または別異の低級アルキル基を挙げることができる。
【0027】
チタニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン等を挙げることができる。
【0028】
亜鉛化合物としては、例えば酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛などを挙げることができ、特に酢酸亜鉛、塩化亜鉛が好ましい。
【0029】
アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−sec−ブトキシド、アルミニウム−tert−ブトキシド、これらのオリゴマー、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどを挙げることができる。
【0030】
ジルコニウム、シリコン、チタニウム、亜鉛またはアルミニウムの化合物については、有機溶媒に溶解させて、ジルコニウム、シリコン、チタニウム、亜鉛またはアルミニウム化合物の溶液を調製する。ジルコニウム、シリコン、チタニウム、亜鉛またはアルミニウムの化合物に加える有機溶媒の添加量は、化合物に対してモル比で20程度とすることが好ましい。
【0031】
なお、「Aの添加量はBに対してモル比で20」とは、「添加するAのモル量がBのモル量に対して20倍」であることを表している。
【0032】
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、などのアルコール類、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの各種のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルのような各種のエーテル類、クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類、N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミドのような、非プロトン性極性溶剤等を挙げることができる。本発明で使用される塗布溶液を調製する際に、溶液の安定性の点から上述した各種の溶剤類のうちアルコール類を使用することが好ましい。
【0033】
アルコキシド原料を用いる場合、特にジルコニウム、チタニウムまたはアルミニウムのアルコキシドは水に対する反応性が高いため、空気中の水分や水の添加により急激に加水分解され溶液の白濁、沈殿を生じる。また、亜鉛化合物は有機溶媒のみでは溶解が困難であり、溶液の安定性が低い。
【0034】
これらを防止するために安定化剤を添加し、溶液の安定化を図ることが好ましい。安定化剤としては、例えば、アセチルアセトン、ジピロバイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどのβ−ジケトン化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸−tert−ブチル、アセト酢酸−iso−ブチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル、3−ケト−n−バレリック酸メチルなどのβ−ケトエステル化合物類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類等を挙げることができる。安定化剤の添加量は、アルコキシドに対しモル比で1程度にすることが好ましい。
【0035】
安定化剤を含まない塗布溶液を用いて薄膜を形成する際には、塗布を行う雰囲気を乾燥空気もしくは乾燥窒素等の不活性気体雰囲気とすることが好ましい。乾燥雰囲気の相対湿度は30%以下にすることが好ましい。
【0036】
さらに、薄膜を形成する溶液塗布法として、例えばインクジェット法、ディスペンサー法、ノズルプリンティング法、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、並びにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。膜厚は、ディッピング法における引き上げ速度やスピンコート法における基板回転速度などを変化させることと、塗布溶液の濃度を変えることにより制御することができる。なかでも、ディッピング法における引き上げ速度は、必要な膜厚によって適宜選択することができるが、浸漬後、例えば約0.1乃至3.0mm/秒程度の静かな均一速度で引き上げることが好ましい。
【0037】
前記手法によって作製したアルミナ多成分系ゲル膜は、室温で30分程度乾燥させればよい。また、必要に応じてさらに高い温度で乾燥あるいは熱処理することも可能であり、熱処理温度が高いほど、より安定したウィスカ集合体を形成することができる。
【0038】
次いで、前記アルミナ多成分系ゲル膜を温水に浸漬処理することにより、アルミナのウィスカ集合体を形成する。温水に浸漬することより、アルミナ多成分系ゲル膜の表層が解膠作用等を受け、一部の成分は溶出するものの、各種水酸化物の温水への溶解度の違いにより、アルミナを主成分とするウィスカ集合体が該ゲル膜の表層に析出、成長する。なお、温水の温度は40℃乃至100℃とすることが好ましい。温水処理時間は、約5分間乃至24時間程度である。このようなアルミナ多成分系ゲル膜の温水処理では、各成分の温水に対する溶解度の差を用いて結晶化させているため、アルミナ単成分膜の温水処理とは異なり、無機成分の組成を変化させることでウィスカ集合体のサイズを広範な範囲にわたって制御できる。その結果、ウィスカ集合体を形成する微細な凹凸を前記の広範な範囲にわたって制御することが可能となる。
【0039】
本発明のウィスカ集合体では、膜の透明薄膜層において、ジルコニア、シリカ、チタニア、酸化亜鉛の含有量は、膜重量に対して重量比で0.001以上1.0未満、より好ましくは0.005以上0.8以下である。前記各材料の含有量が重量比で0.001以上1.0未満であると、該表面上のアルミナを主成分とするウィスカ集合体のサイズ、結晶間距離が変化し、微細な凹凸構造の高さ、あるいは中心線平均面粗さRa’を前記範囲内で制御することができる。
【0040】
また、画素分離領域の内部までウィスカ集合体を形成せずともよく、画素領域を分離するための電気絶縁性の隔壁表面にウィスカ集合体を形成しても構わない。
【0041】
以下、画素分離領域を形成後、有機発光層、陰極を順次形成し、有機EL表示装置を製造する方法について詳細に説明する。
【0042】
画素分離領域を構成するウィスカ集合体の下地となる下部電極について、有機EL表示素子がボトムエミッション型である場合、下部電極は透明導電材料によって形成される必要がある。透明導電材料としてはITO(Indium Tin Oxide)が一般的に用いられる。ITO以外にも、例えば酸化錫、酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス材料(Indium Zinc Oxide:IZO)等を用いてもよい。透明導電材料については、沢田豊監修「透明導電膜の新展開」シーエムシー刊(1999年)に詳細に記載されている材料等も用いることができる。下部電極の形成法は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられ、膜厚は、特に限定されず、50乃至200nmが好ましい。
【0043】
ホール輸送材料は、下部電極からホールを注入する機能、ホールを輸送する機能、及び上部電極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば、特に限定されない。低分子材料であっても高分子材料であってもよい。具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン化合物、ポルフィリン化合物、ポリシラン化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
発光層は、電流駆動型の表示装置に関するものであれば、特に限定されない。発光層が有機層である場合、材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。他に、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)、1,4ビス(p−トリル−p−メチルスチリルフェニルアミノ)ナフタレン、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体などのポリシラン系高分子が好適に用いられる。また、発光効率を向上させるために、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、テトラフェニルブタジエン、クマリン6、キナクリドン、イリジウム錯体等の低分子材料をドープして用いることもできる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。有機発光層の膜厚は、発光色により異なるが、50乃至150nmが好ましいとされている。
【0045】
電子輸送材料は、上部電極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、及び下部電極から注入されたホールを障壁する機能のいずれかを有しているものであれば特に限定されない。例えば、セシウム化合物、リチウム化合物、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタロフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール等を配位子とする金属錯体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が使用可能である。
【0046】
電子輸送層の上に、上部電極を真空蒸着法により形成する。上部電極は、有機EL表示素子部の全面に形成され、下部電極と対になって有機発光層に電流を流す役割を果たす。上部電極を形成する材料としては、仕事関数が小さい材料が好ましく、例えばアルミニウム、カルシウム、マグネシウムなどを挙げることができる。アルミニウムの膜厚は、60乃至100nmが好ましい。これにより、有機EL表示画素が画素分離領域により区画され、複数部分に塗り分けられる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
以下、図1を参照して、本発明の有機EL表示装置の具体的な実施例を説明する。図1は、実施例1を説明する表示装置の断面図である。なお、本発明の有機EL表示装置は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0048】
図1中、101は有機EL表示素子の基体となる透明なガラスからなる基板であり、本実施例では、クリア・フロートガラス透明基板(組成はソーダライムシリケート系)を用いた。その基板101をイソプロピルアルコール(以下IPAと略す)で超音波洗浄し、乾燥させた。
【0049】
次いで、基板101の一面上に、透明導電材料として、ITOをスパッタリング法により形成した。その膜厚は150nmとした。次いで、基板101上に、レジスト(ZEP520−22、日本ゼオン社)をスピンコートした後、ベークし、約200nm厚のレジスト薄膜を作製した。その後、隔壁を設けるために、レジストをパターニングする電子線描画装置(ELS−7000、エリオニクス社)で描画を行った。描画後、現像液(ZED−50N、日本ゼオン社)で現像した後、リンス液(ZMD−D、日本ゼオン社)でリンスを行った。以上の手順で、レジストがパターニングされた基板101を形成した。図1において、素子分離領域間、つまり、有機EL表示素子が形成される幅は、160μmとした。
【0050】
ウィスカ集合体103の材料は、アルミナを用いて、その下地となる薄膜はジルコニアを用いた。まず、ウィスカ集合体103の材料を溶媒に溶かした溶液(ゾル液)を作製した。本発明で使用される塗布溶液を調製するにあたり、一貫して、IPAを用いた。
【0051】
アルミニウム−sec−ブトキシド[Al(O−sec−Bu)3]をIPA中に溶解させ、安定化剤としてアセト酢酸エチル(以下、EAcAcと略す)を添加し、3時間室温で攪拌することにより、Al23ゾル溶液を調製した。ここで、溶液のモル比は、Al(O−sec−Bu)3:IPA:EAcAc=1:20:1の割合とした。
【0052】
一方で、ジルコニウム−iso−プロポキシド〔Zr(O−iso−Pr)4〕もIPA中に溶解させ、EAcAcを添加し、3時間室温で攪拌することにより、ZrO2ゾル溶液を調製した。溶液のモル比は、Zr(O−iso−Pr)4:IPA:EAcAc=1:20:1の割合とした。
【0053】
このZrO2ゾル溶液を、Al23ゾル溶液中に、重量比で、Al23:ZrO2=0.7:0.3となるように添加し、30分間攪拌した後、0.01M希塩酸(以下、HClaq.と略す)を添加し、3時間室温で攪拌した。以上のようにして、Al23−ZrO2ゾルである溶液を調製した。ただし、HClaq.の添加量はモル比でAl(Osec−Bu)3とZr(O−iso−Pr)4の各々2倍量の合計量とした。
【0054】
次いで、前記基板101を、該ゾル溶液中に浸漬した後、ディッピング法(3mm/秒の引き上げ速度、20℃、56%R.H.)で、基板101の表面にAl23−ZrO2薄膜を形成した。次いで、アルミナ多成分系ゲル膜を温水に浸漬処理することにより、ウィスカ集合体103を形成させた。温水に浸漬することより、アルミナ多成分系ゲル膜の表層が解膠作用等を受け、一部の成分は溶出するものの、各種水酸化物の温水への溶解度の違いにより、ウィスカ集合体103が該ゲル膜の表層に析出、成長する。なお、温水の温度は100℃とした。本実施例では、Al23−ZrO2薄膜が形成されている基板101を乾燥し、100℃で1時間熱処理し、透明なアモルファスAl23−ZrO2系ゲル膜を得た。その後、100℃の熱水中に30分間浸漬した後、100℃で10分間乾燥させ、ウィスカ集合体を得た。
【0055】
得られた膜表面の電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)観察、走査型プローブ顕微鏡(SPM)観測を行った。FE−SEM像を図3に示す。また、基板101のダイシングソーによる切り出しを行った後、フォーカスイオンビーム(FIB)法により断面方向の薄片化を行い、断面TEM観察及びEDX測定により微細な凹凸部分の組成分析を行った。断面TEM観察結果を図4に示す。
【0056】
なお、図3は、実施例1において、基板上に形成された、ウィスカ集合体のFE−SEMによる上面からの観察結果を示す写真であって、3万倍の写真を示すものである。また、図4は、実施例1において、ガラス基板上に形成された、ウィスカ集合体のTEMによる断面観察結果を示す写真であって、約20万倍の写真を示すものである。図中、aは本発明におけるウィスカ集合体103、bはウィスカ集合体103を支持する薄膜層、cは基板101を表す。
【0057】
図3から明らかなように、アモルファス複合膜表層には針状結晶からなる微細構造が形成されていることがわかる。また、図4の断面TEM像を見ると、基板101上に、やや黒色がかった層上に、高さ約200nm、平均凹凸間隔が数10nmのウィスカ集合体が形成されていることがわかる。やや黒色がかった層は、ジルコニアを主成分とする膜である。これらの結果から、基板101上にはジルコニア及びアルミナからなるアモルファス複合膜が形成され、該膜表層にウィスカ集合体が形成されていることが明らかになった。
【0058】
次いで、基板101の凹部に形成されているレジストとその上に形成されたウィスカ集合体103を剥離液で剥離した。
【0059】
ウィスカ集合体103が剥離された後のITO下部電極102上に、ホール輸送層104、有機発光層105の材料を溶媒に溶解させた塗布インクを、インクジェット法により塗布した。ホール輸送層104は赤色、緑色、青色に関わらず、一貫してPEDOT−PSS(化1)を用いた。有機発光層105は、赤色の場合、ホスト材料にポリフルオレン(化2)、ゲスト材料にIr(C8piq)(化3)、緑色の場合ホストにポリビニルカルバゾール(化4)、ゲストにIr(C8ppy)3(化5)、青色の場合ポリフルオレン(化1)を用いた。有機発光層105の膜厚は、発光色により異なり、赤色は100nm、緑色は80nm、青色40nmとした。
【0060】
【化1】

【0061】
【化2】

【0062】
【化3】

【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
有機発光層105上には、電子輸送層106として、赤色、緑色、青色に共通して、炭酸セシウムを真空蒸着法により形成した。膜厚は2.4nmとした。
【0066】
電子輸送層106の上に、Alを上部電極107として真空蒸着法により形成した。Alの膜厚は80nmとした。これより、有機EL表示素子が隔壁により区画され、複数部分に分離される。
【0067】
これら区画された複数部分が下部電極102と重なり合う領域に、有機EL表示素子が複数格子状に構成される。各有機EL表示素子が駆動回路であるトランジスタ108により駆動され、発光する場合、上部電極107が真空蒸着される前の有機EL表示素子が格子状に構成されている有機EL表示素子全体を上から見た状態を図2に示す。図2において、各有機EL表示素子は、隣接する発光素子の駆動回路であるトランジスタ108により駆動され発光する。
【0068】
各有機EL表示素子において、下部電極102と上部電極107との間に直流電圧を印加することにより、有機発光層105にホール及び電子が注入され、両者が再結合する際のエネルギーによって有機発光層105が発光する。光学顕微鏡を用いた観察により、隣接する画素を形成する塗布インクが互いに交じり合っていないことが確認され、本発明における画素分離領域に用いたウィスカ集合体103が、有機EL表示画素を適確に塗り分けるのに十分な撥液性を有していることがわかった。
【0069】
[実施例2]
図7に、実施例2として、ウィスカ集合体の内部に電気絶縁性の隔壁を有する有機EL表示装置の断面図を示す。以下、実施例2の有機EL表示装置の製造方法について説明する。
【0070】
実施例2では、実施例1と同様に、洗浄した基板201の一面上にITO下部電極202をスパッタ法により、実施例1と同じく150nm成膜した。次に、パターニングされた隔壁203を形成した。隔壁203の材料として、実施例2では、ポリイミド系の感光性有機絶縁膜を用いた。ITO下部電極202の上にパターニングされた隔壁203を形成する方法として、実施例2では、スピンコート法により膜厚が2μmになるように液状の隔壁材を塗布した。次に、フォトリソグラフィにより隔壁203をパターニングした。なお、隔壁203の幅は特に限定されず、実施例2では25μmとし、隔壁203の上部幅15μmとなるように隔壁パターンを形成した。
【0071】
次に、隔壁203間に実施例1におけるウィスカ集合体が形成されないように、レジスト(ZEP520−22、日本ゼオン社)をスピンコートした。その後、ベークし、約200nm厚のレジスト薄膜を作製した。これにより、隔壁203間にレジストが形成された基板201を形成した。次いで、基板201を、実施例1で作成したAl23−ZrO2系ゾル溶液中に浸漬した後、ディッピング法(3mm/秒の引き上げ速度、20℃、56%R.H.)で、基板201の表面にAl23−ZrO2薄膜を形成した。乾燥後、100℃で1時間熱処理し、透明なアモルファスAl23−ZrO2系ゲル膜を得た。その後、100℃の熱水中に30分間浸漬した後、100℃で10分間乾燥させた。基板201のレジスト上に形成されたウィスカ集合体204を剥離液で剥離した。
【0072】
ウィスカ集合体204が剥離されている部分に、ホール輸送層205及び有機発光層206を積層し、有機EL表示装置を形成する方法については、実施例1と同様である。光学顕微鏡を用いた観察により、隣接する画素を形成する塗布インクが互い交じり合っていないことが確認され、本発明における画素分離領域に用いたウィスカ集合体204が、有機EL表示画素を適確に塗り分けるのに十分な撥液性を有していることがわかった。
【0073】
なお、図7中、207は電子輸送層、208は上部電極をそれぞれ示す。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1の有機EL表示装置を示す断面図である。
【図2】実施例1の上部電極成膜前の有機EL表示装置全体を上面から見た図である。
【図3】ウィスカ集合体のSEM像である。
【図4】ウィスカ集合体のTEM像である。
【図5】発光層(画素)中央部が厚い形状となる場合の有機EL表示装置の断面図である。
【図6】発光層(画素)中央部が薄い形状となる場合の有機EL表示装置の断面図である。
【図7】実施例2の有機EL表示装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0075】
101 基板
102 下部電極
103 ウィスカ集合体
104 ホール輸送層
105 有機発光層
106 電子輸送層
107 上部電極
108 トランジスタ
201 基板
202 下部電極
203 隔壁
204 ウィスカ集合体
205 ホール輸送層
206 有機発光層
207 電子輸送層
208 上部電極
501 基板
502 隔壁
503 塗布インク
601 基板
602 隔壁
603 塗布インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された下部電極と、下部電極に対向して設けられた上部電極と、下部電極と上部電極間に形成された有機発光層を備え、下部電極と上部電極間に独立して駆動可能に区画された複数の画素領域と該画素領域を区画する画素分離領域とから構成された有機EL表示装置において、
前記画素分離領域には、ウィスカ集合体を有することを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記画素分離領域は、電気絶縁性の隔壁で形成され、該隔壁の表面にウィスカ集合体を有することを特徴とする請求項1記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記有機発光層は、溶媒に溶解された塗布インクを用いた塗布法により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
有機EL表示素子を駆動する複数の駆動回路を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−295484(P2009−295484A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149399(P2008−149399)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】