説明

有機EL表示装置

【課題】 視野角特性に優れ反射防止効果が高い有機EL表示装置を提供する。
【課題手段】 非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂とを含む樹脂組成物(A)からなり、Re450<Re550<Re650の関係を満たし、かつ波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05である、位相差フィルムと偏光フィルムとを積層してなる円偏光板を備える有機EL表示装置。(ただし、Re450、Re550、およびRe650はそれぞれ、測定波長450nm、550nm、および650nmにおける位相差フィルムの面内方向のレターデーションを表し、Nz係数は(nx−nz)/(nx−ny)を表し、nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を表し、nyは位相差フィルムの面内の進相軸方向の屈折率を表し、nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に関する。より詳しくは、偏光フィルムと位相差フィルムとを積層してなる円偏光板を備え、視野角特性に優れ反射防止効果が高い有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光素子を用いた表示装置は、観測者に対して発光層の裏側に金属電極を有しており、外光が存在することによって、その金属電極からの反射光が発生したり、また観測者側の風景が写り込んだりすることにより、著しく表示品位を下げてしまうといった問題がある。その金属反射を防ぐ目的で円偏光板を反射防止フィルムとして発光素子の前面基板上に用いる技術が知られている。円偏光板は偏光板と四分の一波長板である位相差フィルムからなるが、この位相差フィルムとしては、高分子フィルムを延伸してなる高分子配向フィルム等を用いる技術が開示されている。
【0003】
このような従来の位相差フィルムを円偏光フィルムとして使用した場合には、位相差が四分の一波長となるある特定の波長のみで良好な反射防止効果が得られるが、可視光、例えば、波長400nm〜700nmといった広帯域において良好な反射防止を得ることができず、その結果、反射光が色付いたりするといった問題があった。
【0004】
特許文献1には、位相差フィルムとして波長450nm及び550nmにおける位相差が、|R(450)|<|R(550)|の関係を満たす(ただし、|R(450)|、|R(550)|はそれぞれ波長450nm、550nmにおける面内位相差の絶対値(nm)を表す。)反射防止フィルムを用いることで、電界発光表示素子内部に組み込まれた金属電極等の反射性の大きい反射面による光反射を、広帯域の波長で効果的に防止できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−249222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に開示される反射防止フィルムを有機EL素子に用いた場合、視野角特性が不十分であり、画面を斜め方向から見たときのコントラストが不足する場合があった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、視野角特性に優れ反射防止効果が高い有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、偏光フィルムと位相差フィルムとを積層してなる円偏光板において、前記位相差フィルムとして、非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル系樹脂とを含む樹脂組成物(A)からなり、面内方向のレターデーションおよび波長400〜700nmの全域におけるNz係数が特定の範囲にあるフィルムを用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
かくして本発明によれば、
光出射側から順に、基板、透明電極、発光層及び金属電極層を具備してなる有機EL表示装置であって、
前記基板の光出射側に偏光フィルムと位相差フィルムとを積層してなる円偏光板を備え、
前記位相差フィルムが、
非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂とを含む樹脂組成物(A)からなり、
Re450<Re550<Re650の関係を満たし、かつ
波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05である、有機EL表示装置が提供される。
(ただし、Re450、Re550、およびRe650はそれぞれ、測定波長450nm、550nm、および650nmにおける位相差フィルムの面内方向のレターデーションを表し、
Nz係数は(nx−nz)/(nx−ny)を表し、
nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を表し、
nyは位相差フィルムの面内の進相軸方向の屈折率を表し、
nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す。)
【0010】
前記位相差フィルムはその少なくとも一方の面に、屈折率が1.57〜1.61のハードコート層を有することが好ましい。
前記樹脂組成物(A)における非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂との割合は、非晶性ポリスチレン系樹脂:ポリアリーレンエーテル樹脂の重量比で、72:28〜76:24であることが好ましい。
前記ポリアリーレンエーテル樹脂は、フェニレンエーテル単位を含む重合体を含有することが好ましい。
前記位相差フィルムの測定波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe550は、110〜150nmであることが好ましい。
前記位相差フィルムは、前記樹脂組成物(A)からなる長尺の未延伸フィルムを、その長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に延伸してなるものであることが好ましく、該延伸は、前記樹脂組成物(A)のガラス転移温度(Tg)に対し、(Tg−3)℃以上(Tg+3)℃以下の温度で行ったものであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、視野角特性に優れ反射防止効果が高い有機EL表示装置を得ることができる。また、本発明に係る位相差フィルムに特定のハードコート層を設けることで、反射防止効果および強度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られる有機EL表示装置のコントラスト図である。
【図2】実施例1で得られる有機EL表示装置の色ずれを表す図である。
【図3】実施例2で得られる有機EL表示装置のコントラスト図である。
【図4】実施例2で得られる有機EL表示装置の色ずれを表す図である。
【図5】比較例1で得られる有機EL表示装置のコントラスト図である。
【図6】比較例1で得られる有機EL表示装置の色ずれを表す図である。
【図7】比較例2で得られる有機EL表示装置のコントラスト図である。
【図8】比較例2で得られる有機EL表示装置の色ずれを表す図である。
【図9】比較例3で得られる有機EL表示装置のコントラスト図である。
【図10】比較例3で得られる有機EL表示装置の色ずれを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0014】
本発明の有機EL表示装置は、光出射側から順に、基板、透明電極、発光層及び金属電極層を具備してなり、前記基板の光出射側に偏光フィルムと位相差フィルムとを積層してなる円偏光板を備える。
【0015】
(樹脂組成物(A))
前記位相差フィルムは、非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂とを含む樹脂組成物(A)からなる。非晶性ポリスチレン系樹脂は、スチレンもしくはスチレン誘導体の、単独重合体または他のモノマーとの共重合体を含む。これらは、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
スチレン誘導体とは、スチレンのベンゼン環またはα位に置換基が置換したものが挙げられる。スチレン類の例を挙げると、スチレン;メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等のアルキルスチレン;クロロスチレン等のハロゲン化スチレン;クロロメチルスチレン等のハロゲン置換アルキルスチレン;メトキシスチレン等のアルコキシスチレン;などが挙げられる。なお、スチレンまたはスチレン誘導体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
非晶性ポリスチレン系樹脂に用いられる前記他のモノマーとしては、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、およびブタジエンが好ましいものとして挙げられる。本発明においては、これらの中でも、位相差発現性が高いこと、および、ポリアリーレンエーテル樹脂との相溶性という観点から、スチレンまたはスチレン誘導体の単独重合体が好ましく、特にスチレンの単独重合体であるポリスチレンが好ましい。なお、他のモノマーを共重合する場合であっても、ポリアリーレンエーテル樹脂との相溶性の観点から、他のモノマーの重合比が5重量%より小さいことが望ましい。
【0018】
ポリアリーレンエーテル樹脂は、アリーレンエーテル骨格を有する繰り返し単位を主鎖に有する重合体を含む。中でも、ポリアリーレンエーテル樹脂としては、下記式(I)で表されるフェニレンエーテル単位を含む重合体が好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
式(I)中、Qは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、低級アルキル基(例えば炭素数7個以下のアルキル基)、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、または、ハロ炭化水素オキシ基(ただし、そのハロゲン原子と酸素原子とを少なくとも2つの炭素原子が分離している基)を表す。中でも、Qとしてはアルキル基及びフェニル基が好ましく、特に炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。
【0021】
式(I)中、Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基(例えば炭素数7個以下のアルキル基)、フェニル基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、または、ハロ炭化水素オキシ基(ただし、そのハロゲン原子と酸素原子とを少なくとも2つの炭素原子が分離している基)を表す。中でも、Qとしては水素原子が好ましい。
【0022】
ポリアリーレンエーテル樹脂は、1種類の構造単位を有する単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、2種類以上の構造単位を有する共重合体(コポリマー)であってもよい。
式(I)で表される構造単位を含む重合体が単独重合体である場合、当該単独重合体の好ましい例を挙げると、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位(「−(C(CH−O)−」で表される繰り返し単位)を有する単独重合体が挙げられる。
【0023】
式(I)で表される構造単位を含む重合体が共重合体である場合、当該共重合体の好ましい例を挙げると、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位(即ち、「−(CH(CH−O−)−」で表される繰り返し単位)と組み合わせて有するランダム共重合体が挙げられる。
また、ポリアリーレンエーテル樹脂は、アリーレンエーテル単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。この場合、ポリアリーレンエーテル樹脂は、アリーレンエーテル単位とそれ以外の構造単位とを有する共重合体となる。ただし、ポリアリーレンエーテル樹脂中のアリーレンエーテル単位以外の構造単位の比率は、本発明の効果を著しく損なわない程度に少なくすることが好ましく、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0024】
ポリアリーレンエーテル樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0025】
樹脂組成物(A)における非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂との割合は、非晶性ポリスチレン系樹脂:ポリアリーレンエーテル樹脂の重量比で、72:28〜76:24、好ましくは72:28〜74:26である。樹脂の量がこの範囲にあることで、斜め延伸により位相差フィルムを成形する際に、後述するRe450/Re550およびRe650/Re550が所望の範囲にある位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0026】
本発明の効果を著しく損なわない限り、樹脂組成物(A)は、前記の非晶性ポリスチレン系樹脂およびポリアリーレンエーテル樹脂以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、樹脂組成物(A)は、上述した非晶性ポリスチレン系樹脂およびポリアリーレンエーテル樹脂以外にも重合体を含んでいてもよい。非晶性ポリスチレン系樹脂およびポリアリーレンエーテル樹脂以外の樹脂の量は、非晶性ポリスチレン系樹脂およびポリアリーレンエーテル樹脂の合計量を100重量部として、15重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下が特に好ましい。
【0027】
また、例えば、樹脂組成物(A)は、配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例を挙げると、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤:染料及び顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。なお、配合剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めればよく、例えば位相差フィルムの全光線透過率を85%以上に維持できる範囲である。
【0028】
樹脂組成物(A)のガラス転移温度は、通常100℃以上、好ましくは105℃以上、より好ましくは120℃以上である。樹脂組成物(A)のガラス転移温度が高いほど、位相差フィルムの耐熱性が優れる。ただし、樹脂組成物(A)のガラス転移温度を過度に高くすると位相差フィルムの製造が容易でなくなる可能性があるので、通常180℃以下、好ましくは160℃以下、より好ましくは130℃以下である。
【0029】
(位相差フィルム)
本発明に用いる位相差フィルムは、Re450<Re550<Re650の関係を満たす。ここで、Re450、Re550、およびRe650はそれぞれ、測定波長450nm、550nm、および650nmにおける位相差フィルムの面内方向のレターデーションを表す。これは通常、位相差フィルムが逆波長分散性を有することを意味する。このように逆波長分散性を有することにより、この位相差フィルムを有機EL表示装置に適用した場合に、観察角度による色調の変化を小さくしたり、広い波長においてレターデーションの補正等の効果を均質に得られるようにしたりできる。
【0030】
また、これに関し、Re450/Re550が0.95以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましい。また、Re650/Re550が1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。Re450、Re550及びRe650がこれらの関係を満たすことにより、広い波長におけるレターデーションの補正等の効果をより均質に得ることができる。
【0031】
さらに、本発明に係る位相差フィルムは、測定波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe550が、110nm以上150nm以下であることが好ましい。これにより、位相差フィルムを1/4波長板として機能させることができ、偏光フィルムと積層することで円偏光板とすることができる。
【0032】
なお、各測定波長における面内方向のレターデーション(Re450、Re550及びRe650)は、|nx−ny|×d(式中、nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を表し、nyは位相差フィルムの面内の進相軸方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。)で表される値である。
【0033】
本発明に用いる位相差フィルムは、波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05、好ましくは−0.18〜−0.10である。ここでNz係数は(nx−nz)/(nx−ny)で表される値である(式中、nxおよびnyは前記と同様であり、nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す)。Nz係数がこの範囲である位相差フィルムは、斜め延伸により容易に製造でき、かつ本発明の有機EL表示装置を視野角特性に優れるものとできる。
【0034】
位相差フィルムは、光学フィルムとして用いる観点から、その全光線透過率が85%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。ここで、前記全光線透過率は、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0035】
位相差フィルムのヘイズは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、位相差フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0036】
本発明の位相差フィルムは、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性を良好にできる。ここで、ΔYIはASTM E313に準拠して、日本電飾工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて同様の測定を5回行い、その算術平均値として求める。
【0037】
位相差フィルムの厚みは、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下である。
【0038】
(位相差フィルムの製造方法)
上記の位相差フィルムは、上記の樹脂組成物(A)からなる。通常は、樹脂組成物(A)を成形して長尺の延伸前フィルムを製造し、得られた延伸前フィルムに延伸処理を施すことにより、位相差フィルムを得る。ここで、フィルムが「長尺」とは、その幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。このような長尺のフィルムは製造ラインにおいて、長さ方向に連続的に製造工程を行なうことにより得られる。このため、位相差フィルムを製造する場合に、各工程の一部または全部をインラインで簡便且つ効率的に行なうことが可能である。
【0039】
延伸前フィルムの製造方法は、例えば流延法などを用いてもよいが、製造効率の観点、および、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点で、溶融押出成形が好ましい。溶融押出成形は、例えばTダイ法などにより行なうことができる。
【0040】
延伸前フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは120μm以上であり、好ましくは800μm以下、より好ましくは200μm以下である。前記範囲の下限値以上とすることにより、十分なレターデーション及び機械的強度を得ることができ、上限値以下とすることにより、柔軟性及びハンドリング性を良好なものとすることができる。
【0041】
得られた延伸前フィルムを延伸すると、フィルムにレターデーションが発現し、位相差フィルムが得られる。この際、発現したレターデーションは逆波長分散性を有することになる。逆波長分散性を発現する仕組みは、次の通りと推察される。
波長400nm〜700nmの可視領域において、通常、正の固有複屈折値を有するポリアリーレンエーテル樹脂の波長分散性が、負の固有複屈折値を有する非晶性ポリスチレン系樹脂の波長分散性よりも大きくなっている。さらに、本発明の樹脂組成物では、低波長側ではポリアリーレンエーテル樹脂の配向による影響よりも非晶性ポリスチレン系樹脂の配向による影響がやや大きく、かつ、長波長側に向かうにつれて非晶性ポリスチレン系樹脂の配向による影響がより大きく現れるように、その配合等が調整されている。
ここで、延伸前フィルムを延伸することにより発現するレターデーションは、通常、本発明の樹脂組成物が含むポリアリーレンエーテル樹脂が配向することにより発現するレターデーションと、非晶性ポリスチレン系樹脂が配向することにより発現するレターデーションとの差になる。そうすると、前記のように長波長側に向かうにつれて、非晶性ポリスチレン系樹脂の影響が大きくなるように調整してあれば、逆波長分散性の位相差フィルムを得ることができる。
【0042】
延伸の操作としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して長尺方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸);テンターを用いて幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸);縦一軸延伸と横一軸延伸とを順に行う方法(逐次二軸延伸);延伸前フィルムの長尺方向に対して斜め方向に延伸する方法(斜め延伸);等を採用できる。なかでも、斜め延伸を採用すると通常は斜め方向に遅相軸を有する長尺の位相差フィルムが得られるので、長尺の位相差フィルムから矩形の製品を切り出す際の無駄が少なく、大面積の位相差フィルムを効率よく製造できるから、好ましい。ここで「斜め方向」とは、平行でもなく、直交でもない方向を意味する。
【0043】
斜め延伸の具体的な方法の例としては、テンター延伸機を用いた延伸方法を挙げることができる。かかるテンター延伸機としては、例えば、延伸前フィルムの左右(すなわち水平に搬送される延伸前フィルムをMD方向から観察した際のフィルム幅方向両端の左右)において、異なる速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機が挙げられる。また、例えば、TD方向又はMD方向に左右等速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加し左右移動する距離が同じで軌道を非直線とすることにより斜め方向の延伸を達成しうるテンター延伸機も挙げられる。さらに、例えば、移動する距離を左右で異なる距離とすることにより斜め方向の延伸を達成しうるテンター延伸機も挙げられる。
【0044】
延伸を斜め方向に行う場合、延伸前フィルムの長尺方向に対して延伸方向がなす角度が、40°以上50°以下となる方向に延伸することが好ましい。これにより、長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に配向角を有する位相差フィルムが得られる。ここで「配向角」とは、長尺の位相差フィルムのMD方向と、当該位相差フィルムの面内の遅相軸とがなす角である。
位相差フィルムを矩形の形状のフィルム片として用いる場合、当該矩形の辺方向に対して40°以上50°以下の範囲に遅相軸を有することが好ましい。このような場合に、配向角が長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲にあれば、長尺の位相差フィルムから矩形の製品を切り出すときに、長尺方向に対して平行又は直交する向きに辺を有する矩形のフィルム片を切り出せばよくなるので、製造効率が良く、また大面積化も容易である。
【0045】
延伸する際のフィルム温度は、本発明の樹脂組成物のガラス転移温度をTgとして、(Tg−3)℃以上であることが好ましく、(Tg−1)℃以上であることがより好ましい。また、(Tg+3)℃以下であることが好ましく、(Tg+2)℃以下であることがより好ましい。
【0046】
延伸倍率は、1.2〜6倍が好ましく、2.0〜5.5倍がより好ましく、3.5〜5.0倍が特に好ましい。延伸倍率がこの範囲であると、厚さが薄く、Re450<Re550<Re650の関係を満たし、かつRe550が所望の範囲にある位相差フィルムを容易に得ることができる。また、(位相差フィルムの厚み)/(延伸前フィルムの厚み)は1/5〜2/3が好ましく、1/3〜3/5がより好ましい。上記組成物配合比において、厚みを薄くすることとRe550やRe450/Re550の特性を上記範囲内にすることを好適に両立できる。
なお、延伸の回数は、1回でもよく、2回以上であってもよい。
【0047】
さらに、本発明の位相差フィルムを製造する際には、上述した以外の工程を行ってもよい。例えば、延伸される前に延伸前フィルムに対して予熱処理を施してもよい。
さらに、必要に応じて、位相差フィルムの保護及び取り扱い性の向上のため、例えばマスキングフィルム等の他のフィルムを位相差フィルムに貼り合せてもよい。
【0048】
(ハードコート層)
上記の位相差フィルムは、その少なくとも一方の面に、ハードコート層を有することが好ましい。位相差フィルムはハードコート層を一方の面のみに有していてもよく、両方の面に有していてもよいが、少なくとも偏光フィルムと積層する側の面とは反対側の面にハードコート層を有していることが好ましい。位相差フィルムがハードコート層を有していることにより、円偏光板の反射防止効果や強度をより高めることができる。
【0049】
ハードコート層は、保護フィルムの硬度を補強するための層であり、JIS K5600−5−4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板を用いる)で「H」以上の硬度を示すことが好ましい。このようなハードコート層が設けられた位相差フィルムは、その鉛筆硬度が4H以上になることが好ましい。ハードコート層を形成する材料(ハードコート材料)としては、熱や光硬化性の材料であることが好ましく、有機シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系などの有機ハードコート材料;二酸化ケイ素などの無機系ハードコート材料;などを挙げることができる。これらの中でも、ハードコート材料としては、接着力が良好であり、生産性に優れる観点から、ウレタンアクリレート系および多官能アクリレート系ハードコート材料の使用が好ましい。
【0050】
ハードコート層の厚さに制限はなく、適宜決定されるが、好ましくは1〜20μm、より好ましくは3〜10μmである。
【0051】
ハードコート層は、所望により、屈折率の調整、曲げ弾性率の向上、体積収縮率の安定化、並びに耐熱性、帯電防止性、および防眩性などの向上を図る目的で、各種フィラーを含有できる。また、ハードコート層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、および消泡剤などの添加剤を含有できる。
【0052】
ハードコート層の屈折率や帯電防止性を調整するためのフィラーとしては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、五酸化アンチモン、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化錫(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびフッ素をドープした酸化錫(FTO)等を挙げることができる。フィラーとしては、透明性を維持できる点で、五酸化アンチモン、ITO、IZO、ATO、FTOが好ましい。これらフィラーの一次粒子径は、通常1nm〜100nm、好ましくは1nm〜30nmである。
【0053】
防眩性を付与するためのフィラーとしては、平均粒径が0.5μm〜10μmのものが好ましく、1.0μm〜7.0μmのものがより好ましく、1.0μm〜4.0μmがさらに好ましい。防眩性を付与するフィラーの具体例としては、ポリメチルメタクリレート樹脂、フッ化ビニリデン樹脂およびその他のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などの有機樹脂からなるフィラー;または酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化錫、酸化ジルコニウム、ITO、フッ化マグネシウム、酸化ケイ素などの無機化合物からなるフィラーを挙げることができる。
【0054】
ハードコート層の屈折率は、1.57〜1.61であることが好ましい。ハードコート層の屈折率がこの範囲であると、反射防止効果が優れる。
【0055】
(その他の層)
本発明に用いる位相差フィルムは、その光学的機能を阻害しない範囲で、任意に他の層を有していてもよい。例えば、光学フィルムの強度を高めるための他の樹脂層を有することができる。かかる樹脂層を構成する材料としては、位相差フィルムの強度を補える任意の透明樹脂を含む組成物を用いることができる。かかる透明樹脂としては、アクリル樹脂が好ましい。また、かかる透明樹脂は、前記延伸の条件において、光学異方性が発現しない樹脂であることが、樹脂組成物(A)からなる未延伸のフィルムとの共延伸を容易に行える観点から好ましい。透明樹脂としては、より具体的には、ノルボルネン樹脂、アクリル樹脂等を用いることができる。位相差フィルムはさらに、フィルムの滑り性をよくするマット層、反射防止層、防汚層等のさらなる任意の層を有していてもよい。
【0056】
(偏光フィルム)
本発明に用いる円偏光板は、偏光フィルムと上記の位相差フィルムとを積層してなる。具体的には、位相差フィルムの遅相軸と、偏光フィルムの吸収軸とがなす角が、40°以上50°以下の範囲となるように積層する。
【0057】
積層に用いる偏光フィルムは、長尺方向に吸収軸を有する長尺の偏光フィルムであることが好ましい。上記長尺の位相差フィルムと長尺の偏光フィルムとを長軸方向を揃えて積層するだけで、位相差フィルムの遅相軸の方向と偏光板の吸収軸の方向とを適切な角度に設定できるので、円偏光板の製造が容易だからである。
【0058】
長尺の偏光フィルムは、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、偏光フィルムとして、例えば、グリッド偏光板、多層偏光板などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光フィルムを用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光フィルムが好ましい。偏光フィルムの偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。偏光フィルムの厚さ(平均厚さ)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0059】
偏光フィルムと位相差フィルムとを積層する場合、接着剤を用いてもよい。接着剤としては、光学的に透明であれば特に限定されず、例えば、水性接着剤、溶剤型接着剤、二液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、感圧性接着剤などが挙げられる。この中でも、水性接着剤が好ましく、特にポリビニルアルコール系の水性接着剤が好ましい。なお、接着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
接着剤により形成される層(接着層)の平均厚みは、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0061】
偏光フィルムに位相差フィルムを積層する方法に制限は無いが、偏光フィルムの一方の面に接着剤を塗布した後、ロールラミネーターを用いて偏光フィルムと位相差フィルムとを貼り合せ、乾燥させる方法が好ましい。貼り合せの前に、位相差フィルムの表面に、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。乾燥時間及び乾燥温度は、接着剤の種類に応じて適宜選択される。
【0062】
得られた円偏光板は、必要に応じ適宜な大きさに裁断して、本発明の有機EL表示装置の反射防止フィルムとして用いられる。このような反射防止フィルムを有機EL表示装置の光出射面側に、位相差フィルムを有機EL表示装置の発光層側に位置するように設けることにより外光存在下でも視認性の良い有機EL表示装置を提供することができる。
【0063】
(基板)
本発明の有機EL表示装置に用いる基板は、透明なものであれば特に限定されず、その厚さは、通常、50μm〜2.0mm程度である。基板に用いられる材料としては、ガラス材料、樹脂材料、または、これらの複合材料からなるもの、例えば、ガラス板に保護プラスチックフィルムもしくは保護プラスチック層を設けたもの等が用いられる。
【0064】
上記の樹脂材料、保護プラスチック材料としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。この他の樹脂材料であっても、有機EL表示装置用として使用できる高分子材料であれば、使用可能である。
【0065】
このような基板は、有機EL表示装置の用途にもよるが、水蒸気や酸素等のガスバリアー性の良好なものであれば更に好ましい。また、基板に水蒸気や酸素等の透過を防止するガスバリアー層を形成してもよい。このようなガスバリアー層としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機酸化物をスパッタリング法や真空蒸着法等の物理蒸着法により形成したものが好ましい。
【0066】
(透明電極)
透明電極は陽極として用いられ、基板上に形成された信号線、走査線と、駆動素子であるTFT(薄膜トランジスタ)とともに、電極配線パターンを構成するものである。このような透明電極の材質は、通常の有機EL表示装置に使用されるものであれば特に限定されず、金属、合金、これらの混合物等を使用することができ、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛、酸化第二錫、または金等の薄膜電極材料を挙げることができる。透明電極は正孔が注入し易いように、仕事関数の大きい(4eV以上)透明材料であるITO、IZO、酸化インジウム、金が好ましい。また、透明電極は、シート抵抗が数百Ω/□以下であることが好ましく、材質にもよるが、その厚みは、例えば、0.005〜1μm程度とすることが好ましい。
【0067】
(発光層)
発光素子の発光層は有機EL表示装置に通常使用されるものであれば特に限定されず、低分子型および高分子型のいずれも用いることができる。発光層は、例えば、透明電極層側から正孔注入層、発光層、および電子注入層が積層された構造、発光層単独からなる構造、正孔注入層と発光層とからなる構造、発光層と電子注入層とからなる構造、さらに、正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層を介在させた構造、発光層と電子注入層との間に電子輸送層を介在させた構造等とすることができる。また、発光波長を調整したり、発光効率を向上させる等の目的で、上記の各層に適当な材料をドーピングすることもできる。
【0068】
(金属電極層)
金属電極層は陰極として用いられる。金属電極層の材料としては、通常の有機EL表示装置に使用されるものであれば特に限定されず、金、マグネシウム合金(例えば、MgAg等)、アルミニウムまたはその合金(AlLi、AlCa、AlMg等)、銀等を挙げることができる。金属電極層は、電子が注入し易いように仕事関数の小さい(4eV以下)マグネシウム合金、アルミニウム、銀等が好ましい。このような金属電極層はシート抵抗が数百Ω/□以下が好ましく、このため、金属電極層の厚みは、例えば、0.005〜0.5μm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。なお、実施例および比較例中の部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0070】
実施例及び比較例において、各特性の測定は、下記に基づき行った。
【0071】
(レターデーション及びNz係数)
王子計測器社製複屈折計KOBRA−WRを用いて、平行ニコル回転法により測定した。
【0072】
(ハードコート層の屈折率)
プリズムカプラ−(Metricon社製、model2010)を用いて測定した。
【0073】
(ガラス転移温度)
示差走査熱量計(セイコーインストルメンツ社製EXSTAR6220)を用いて昇温速度20℃/分で測定した。
【0074】
(有機EL表示装置の視野角特性)
反射板、位相差フィルム単体、偏光フィルムをこの順に積層したモデルで、4x4マトリクスを用いた光学シミュレーションを行うことによりコントラストを計算し、コントラスト図として表示した。コントラスト図において、等高線の数値は輝度の大きさを示し、色が濃いほど高コントラストであることを表す。色味図において、数値は中心からの色ずれの度合いを表し、色が薄いほど色ずれが大きいことを表す。
【0075】
また、位相差フィルムを有機EL表示装置のガラス基板と偏光フィルムとの間に配置して、上下左右方向からの斜視表示特性を目視により確認し、以下の基準で判定した。
A:外の景色の映り込みや色味変化が見られない。
B:外の景色の映り込みや色味変化が僅かに見られる。
C:外の景色の映り込みや色味変化が少し見られる。
D:外の景色の映り込みや色味変化が大きく見られる。
【0076】
[製造例1]
五酸化アンチモン変性アルコールゾル(触媒化成社製、固形分濃度30%)100部に、ウレタンアクリレート(日本合成化学工業社製、UV−7000B)50部と光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、IRGACURE184)2部とを加え、攪拌機を用いて攪拌することにより、ハードコート液Aを得た。
【0077】
[製造例2]
五酸化アンチモン変性アルコールゾルの量を90部とし、ウレタンアクリレートオリゴマーの量を60部とした他は製造例1と同様にして、ハードコート液Bを得た。
【0078】
[製造例3]
ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業社製、UV−1700B)100部に、光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、IRGACURE184)3部を加え、攪拌機を用いて攪拌することにより、ハードコート液Cを得た。
【0079】
[実施例1]
(未延伸フィルムの製造)
非晶性ポリスチレン(PSジャパン社製、商品名「HF77」、ガラス転移温度78℃)74部とポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)(アルドリッチ社カタログNo.18242−7)26部と酸化防止剤1部とを2軸押出機で混錬し、透明な樹脂組成物のペレットを作製した。ガラス転移温度は113℃であった。この樹脂組成物のペレットを単軸押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、押出成形することにより、厚さ150μmの未延伸フィルムを得た。
【0080】
(延伸フィルムの製造)
次いで、この未延伸フィルムをテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように斜め延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物のガラス転移温度より2℃高い温度である115℃、延伸倍率は3.6倍とした。これにより、厚さ60μmの長尺の位相差フィルムAを得た。得られた位相差フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムは、Re550が140nmであり、かつRe450<Re550<Re650の関係を満たしていた。また、Nz係数は−0.13であった。
【0081】
この位相差フィルムA上に、上記ハードコート液Aを塗布し、硬化して厚さ5μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムAを得た。このハードコートフィルムAを用いて視野角特性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例2]
非晶性ポリスチレンの量を72部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を28部、酸化防止剤の量を2部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物のペレットを作製した。ガラス転移温度は114℃であった。この樹脂組成物のペレットを単軸押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、押出成形することにより、厚さ160μmの未延伸フィルムを得た。
【0083】
次いで、この未延伸フィルムをテンター延伸機で、まずMD方向に延伸倍率1.1倍で縦一軸延伸し、次いで遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように延伸倍率3.5倍で斜め延伸した。延伸時の温度は、縦一軸延伸および斜め延伸のいずれも、樹脂組成物のガラス転移温度と同じ温度である114℃とした。これにより、厚さ100μmの長尺の位相差フィルムBを得た。得られた位相差フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムは、Re550が140nmであり、かつRe450<Re550<Re650の関係を満たしていた。また、Nz係数は−0.20であった。
【0084】
この位相差フィルムB上に、上記ハードコート液Bを塗布し、硬化して厚さ5μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムBを得た。このハードコートフィルムBを用いて視野角特性を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られた位相差フィルムA上に、上記ハードコート液Cを塗布し、硬化して厚さ5μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムCを得た。このハードコートフィルムcを用いて視野角特性を評価した。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例1]
セルロースエステルのフィルム(カネカ社製、商品名「KA」)を斜め延伸し、厚さ100μmの長尺の位相差フィルムaを得た。得られた位相差フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムは、Re550が140nmであり、かつRe450<Re550<Re650の関係を満たしていた。また、Nz係数は+1.13であった。
【0087】
この位相差フィルムa上に、上記ハードコート液Cを塗布し、硬化して厚さ5μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムaを得た。このハードコートフィルムaを用いて視野角特性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例2]
非晶性ポリスチレンの量を82部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を18部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物のペレットを作製した。ガラス転移温度は110℃であった。この樹脂組成物のペレットを単軸押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、押出成形することにより、厚さ130μmの未延伸フィルムを得た。
【0089】
次いで、この未延伸フィルムをテンター延伸機で、延伸時の温度を樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度である114℃とした他は実施例1と同様にして斜め延伸し、厚さ51μmの長尺の位相差フィルムbを得た。得られた位相差フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムは、Re550が140nmであり、Re450>Re550>Re650の関係となっていた。また、Nz係数は−0.13であった。
【0090】
この位相差フィルムb上に、上記ハードコート液Aを塗布し、硬化して厚さ5μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムbを得た。このハードコートフィルムbを用いて視野角特性を評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例3]
非晶性ポリスチレンの量を77部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を23部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物のペレットを作製した。ガラス転移温度は114℃であった。この樹脂組成物のペレットを単軸押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、押出成形することにより、厚さ150μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムをテンター延伸機で、MD方向およびTD方向に同時二軸延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物のガラス転移温度より4℃高い温度である118℃、延伸倍率はMD方向が2.5倍、TD方向が2.0倍とした。これにより、厚さ30μmの長尺の位相差フィルムcを得た。得られた位相差フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して垂直であった。この位相差フィルムは、Re550が140nmであり、かつRe450<Re550<Re650の関係を満たしていた。また、Nz係数は−1.00であった。
【0092】
この位相差フィルムc上に、上記ハードコート液Bを塗布し、硬化して厚さ5μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムcを得た。このハードコートフィルムcを用いて視野角特性を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
以上の実施例および比較例から明らかなように、本発明の有機EL装置は高コントラストで色ずれが小さく、視野角特性に優れることが分かる。一方比較例の有機EL装置は、コントラストが低く色ずれが大きく、視野角特性に劣るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光出射側から順に、基板、透明電極、発光層及び金属電極層を具備してなる有機EL表示装置であって、
前記基板の光出射側に偏光フィルムと位相差フィルムとを積層してなる円偏光板を備え、
前記位相差フィルムが、
非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂とを含む樹脂組成物(A)からなり、
Re450<Re550<Re650の関係を満たし、かつ
波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05である、有機EL表示装置。
(ただし、Re450、Re550、およびRe650はそれぞれ、測定波長450nm、550nm、および650nmにおける位相差フィルムの面内方向のレターデーションを表し、
Nz係数は(nx−nz)/(nx−ny)を表し、
nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を表し、
nyは位相差フィルムの面内の進相軸方向の屈折率を表し、
nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す。)
【請求項2】
前記位相差フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率が1.57〜1.61のハードコート層を有する、請求項1記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記樹脂組成物(A)における非晶性ポリスチレン系樹脂とポリアリーレンエーテル樹脂との割合が、非晶性ポリスチレン系樹脂:ポリアリーレンエーテル樹脂の重量比で、72:28〜76:24である、請求項1又は2記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記ポリアリーレンエーテル樹脂がフェニレンエーテル単位を含む重合体を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記位相差フィルムの測定波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe550が110〜150nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記位相差フィルムが、前記樹脂組成物(A)からなる長尺の未延伸フィルムを、その長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に延伸してなるものである、請求項1〜5のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記延伸を、前記樹脂組成物(A)のガラス転移温度(Tg)に対し、(Tg−3)℃以上(Tg+3)℃以下の温度で行ったものである、請求項6に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−226996(P2012−226996A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93884(P2011−93884)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】