説明

有機EL装置、その製造方法、及び電子機器

【課題】 液滴吐出法を用いて均一な膜厚の機能層を形成してなる画素構造を具備した有機EL装置、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の有機EL装置は、基板2上に、画素電極111と、該画素電極111を区画するバンク部(隔壁)122とを備え、前記バンク部122に囲まれた領域の周縁部に、前記バンク部122に沿って延びる段差領域115が形成され、前記段差領域115上を含む前記領域に、液体材料を乾燥固化してなる機能層110が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置、その製造方法、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機蛍光材料等の機能材料をインク化し、該インク(液状体)を基材上に吐出する液滴吐出法により、機能材料のパターニングを行う方法を採用して、一対の電極間に該機能材料からなる機能層が挟持された構成の有機EL装置、特に機能材料として有機発光材料を用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置の開発が行われている。このような機能材料のパターニング法として、複数のノズルを配列してなるノズル列を有する液滴吐出ヘッドを用い、この液滴吐出ヘッドを表面にバンク(隔壁)を形成した基板に対して走査しつつ、前記ノズルからバンクに囲まれた領域内にインクを吐出することにより、基板上に機能層を形成する方法が知られている。このような方法は、マイクロオーダーの液滴を所定領域に配することが可能なため、材料の利用効率の点でスピンコート等の方法に比べて有効である。
【0003】
しかし、上記機能層を形成する領域(例えば画素領域)の周辺部では、配置したインクの乾燥むらにより同領域の周辺部において機能層の膜厚が厚くなったり、薄くなったりすることがある。このような膜厚の不均一が生じると、有機EL素子の特性が低下し、均一な発光が得られず、膜内での負荷の不均一により発光寿命が短くなるという問題を生じる。そこで、これを解決するために、例えば特許文献1のような技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−71432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、液滴吐出法を用いて形成した機能層には膜厚のむらが生じるのを前提として、電極に臨むバンク表面の傾斜角度を調整して膜厚が均一な部分のみを発光領域として用いることとしている。しかしながら、かかる技術は、特定形状の機能層形成領域に形成される特定の断面プロファイルを有する機能層についてのみ有効なものであり、例えば画素毎に異なる色種の発光層を形成するカラー有機EL表示装置では、色種毎に画素の平面形状やバンクの表面形状を変更しなければならない。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、液滴吐出法を用いて均一な膜厚の機能層を形成してなる画素構造を具備した有機EL装置、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、基板上に、電極と、該電極を区画する隔壁とを備え、前記隔壁に囲まれた区画領域の周縁部に、前記隔壁に沿って延びる段差領域が形成され、前記段差領域上を含む前記区画領域に、液体材料を乾燥固化してなる機能層が形成されていることを特徴とする有機EL装置を提供する。
この構成によれば、前記区画領域内に前記段差領域を設けていることで、液相法を用いて機能層を形成するに際して、かかる段差領域に前記液体材料の一部を流入させ、機能層の端縁部となる領域の液体材料を増量し、これにより機能層の膜厚が不均一になるのを防止することができ、電極上における機能層の膜厚の均一化、およびそれによる発光寿命の向上効果を得ることができる。なお、前記段差領域には電極が形成されていないので、段差領域が形成された領域は有機EL装置の発光領域として使用されないため、段差領域上で機能層の膜厚に不均一が生じていても発光特性に影響はない。
【0007】
本発明の有機EL装置では、前記段差領域が、平面視略矩形状の前記区画領域の少なくとも2辺に沿って延在している構成とすることができる。また本発明の有機EL装置では、前記段差領域が、前記区画領域のほぼ全周に渡り延在していることが好ましい。すなわち、前記段差領域は、電極の周囲を取り囲むようにして形成されていることが好ましい。少なくとも前記区画領域の2辺に沿って段差領域が設けられていれば、前記段差領域によって機能層の膜厚を均一化する作用を奏することができ、発光素子における発光面積の拡大、発光寿命の延長効果を得ることができる。
【0008】
本発明の有機EL装置では、前記段差領域が、一方向に長手の平面形状を有する前記区画領域の、短手方向の辺端部に沿って形成されている構成とすることが好ましい。前記区画領域が一方向に長手の平面形状である場合、その長手方向の端部に前記段差領域を設けておくことが好ましい。この構成により、区画領域に占める実発光領域を大きく確保しつつ機能層の膜厚の均一化を図ることができる。
【0009】
本発明の有機EL装置では、前記段差領域が、前記隔壁と、該隔壁と平面的に離間して配置された前記電極の端縁部との間に形成されている構成とすることもできる。
あるいは、本発明の有機EL装置では、前記段差領域が、前記電極と前記隔壁との間の前記基板表面に形成されている構成とすることもできる。
さらには、本発明の有機EL装置では、前記段差領域が、前記電極の表面に形成されている構成とすることもできる。
さらにまた、本発明の有機EL装置では、前記隔壁が、第1隔壁層と第2隔壁層とを積層してなる積層構造を備えており、前記段差領域が、前記電極に臨む前記第1隔壁層の端縁に沿って形成されている構成とすることもできる。
上記いずれの構造を採用した場合であっても、前記段差領域の作用により機能層の膜厚を均一化することができる。
【0010】
本発明の有機EL装置の製造方法は、基板上に電極を形成する工程と、前記電極を区画する隔壁を形成する工程と、前記隔壁に囲まれた区画領域内に液体材料を配置して機能層を形成する工程と、を含み、前記液体材料を配置する工程に先立って、前記区画領域の周縁に沿って延びる段差領域を形成する工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の有機EL装置の製造方法は、前記隔壁を前記電極の端縁から離間した位置に形成することで、前記電極の端縁と前記隔壁との間に前記段差領域を形成する製造方法とすることもできる。
【0012】
本発明の有機EL装置の製造方法は、前記基板上に電極を形成するに先立って、前記基板の表面に段差領域を形成する製造方法とすることもできる。
【0013】
本発明の有機EL装置の製造方法は、前記電極を形成した後、該電極の表面に前記電極を形成する製造方法とすることもできる。
【0014】
本発明の電子機器は、先に記載の本発明の有機EL装置を備えたことを特徴とする。この構成によれば、均一な明るさで長寿命の発光部を具備した電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の有機EL装置の第1の実施形態について、その構成及び製造方法を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(有機EL装置)
図1は、本実施形態の有機EL装置の配線構造図である。図2は、本実施形態の有機EL装置の模式平面図である。図3(a)は、本実施形態の有機EL装置の1画素領域を示す平面構成図、図3(b)は(a)図のB−B’線に沿う断面構成図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の有機EL装置1は、複数の走査線101と、走査線101に対し交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有している。画素領域Aは、走査線101と信号線102とに囲まれる領域に対応している。
【0018】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ側駆動回路104が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路105が接続されている。画素領域Aの各々には、走査線101を介して走査信号がゲートに供給されるスイッチング用薄膜トランジスタ112と、スイッチング用薄膜トランジスタ112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画素信号がゲートに供給される駆動用薄膜トランジスタ113と、駆動用薄膜トランジスタ113を介して電源線103に電気的に接続したときに当該電源線103から駆動電流が流れ込む陽極(画素電極)111と、この画素電極111と陰極(対向電極)12との間に挟み込まれた機能層110とが設けられている。画素電極111と陰極12と機能層110により構成される素子が有機EL素子(発光素子)である。
【0019】
上記回路構成において、走査線101から供給される駆動信号によりスイッチング用薄膜トランジスタ112がオンになると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、この保持容量capの状態に応じて、駆動用薄膜トランジスタ113のオン・オフ状態が制御される。そして、駆動用薄膜トランジスタ113のチャネルを介して、電源線103から画素電極111に電圧が印加され、陰極12との間に電流が流れる。機能層110は、この電流量に応じて発光する。
【0020】
次に、図2に示すように、有機EL装置1は、ガラス等からなる透明な基板2と、基板2上に平面視マトリクス状に配列された発光素子とを備えて構成されている。
基板2は、例えばガラス等の透明基板であり、基板2の中央に位置し、発光素子が機能する表示領域(機能領域)2aと、表示領域2a外周の発光素子が機能しない非表示領域(非機能領域)2bとに区画されている。表示領域2aは、マトリクス状に配列された発光素子によって形成される領域である。また、非表示領域2bは、表示領域2aに隣接して形成され、表示に寄与しない非表示領域(非機能領域)として構成されている。
【0021】
基板2の非表示領域2bには、電源線103(103R、103G、103B)が配線されている。また表示領域2aの図示両側には、走査側駆動回路105、105が配置されている。走査側駆動回路105、105の外側には、これら走査側駆動回路105、105に接続される駆動回路用制御信号配線105aと駆動回路用電源配線105bとが設けられている。表示領域2aの図示上側には検査回路106が配置されている。この検査回路106により、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるようになっている。電源線103の外側の最外周部には、各発光素子の陰極12と電気的に接続された陰極配線12aが設けられている。
基板2上に設けられた電源線103、105a、105bは、それぞれフレキシブル基板5上の配線5aと電気的に接続され、配線5aを介してフレキシブル基板5上に実装された駆動IC6と電気的に接続されている。
【0022】
図3(a)に示すように、有機EL装置1の表示領域2を構成する画素領域Aには、平面視略矩形状の画素電極111と、この画素電極111を取り囲むバンク部(隔壁)122とが設けられている。なお、図3(a)では図面を見やすくするために図3(b)に示す機能層110及び陰極12の図示を省略している。
【0023】
画素電極111の図示右側の辺端から延出されたコンタクト配線111aの部分を除くほぼ全周を取り囲んで、概略枠状の凹部である段差領域115が形成されており、前記バンク部122は、段差領域115を取り囲むようにして配置されている。上記コンタクト配線111aは、画素電極111からバンク部122と平面的に重なる位置まで延設され、その先端部において拡幅されてコンタクト部111bを形成している。コンタクト部111bと平面的に重なる位置にはコンタクトホール145が設けられており、かかるコンタクトホール145を介して下層側(基板2側)の前記駆動用薄膜トランジスタ(113)とコンタクト部111bとが電気的に接続されている。
【0024】
図3(b)に示す断面構造をみると、基板2上に、回路素子部14が形成されており、回路素子部14上に画素電極111と、機能層110と、陰極12とを積層してなる発光素子が形成されている。回路素子部14には、いずれもSiO、SiN等の透明絶縁材料からなる第1層間絶縁膜144a、第2層間絶縁膜144bが積層されており、基板2と第1層間絶縁膜144aとの間、及び第1層間絶縁膜144aと第2層間絶縁膜144bとの間に設けられた配線層に、先に記載の走査線、信号線、保持容量、スイッチング用薄膜トランジスタ、駆動用薄膜トランジスタ等が形成されている。従って、図3(a)に示すコンタクトホール145は、少なくとも第2層間絶縁膜144bを貫通して形成されており、かかるコンタクトホール145を介して駆動用薄膜トランジスタのドレインと画素電極111とが電気的に接続されている。
【0025】
上層側の第2層間絶縁膜144bの表面に、凹部144cが形成されており、この凹部144c内にITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電材料からなる画素電極111が形成されている。画素電極111の外周端は、凹部144cの内壁と、平面方向で離間されており、かかる構成により画素電極111の膜厚に相当する深さを有する段差領域115が画素電極111を取り囲むようにして形成されている。画素電極111の膜厚は50〜200nm程度とされ、本実施形態の場合、画素電極111の膜厚及び段差領域115の深さは100nm程度とされている。
画素電極111上に機能層110が形成され、この機能層110を区画するバンク部122が凹部144cを取り囲むように形成されている。機能層110及びバンク部122を覆うようにして平面ベタ状の陰極12が形成されて、発光素子を構成している。
【0026】
バンク部122は、画素電極111に臨む開口部122aを有している。開口部122aは、画素電極111の形成位置及び凹部144c(段差領域115)からなる領域(区画領域)に対応して設けられている。開口部122aは、図3に示すように、凹部144cの外周端よりやや広く形成されている。これにより、バンク部122と凹部144cとの間に、第2層間絶縁膜144bの表面が露出された平坦領域144dが形成されている。
【0027】
上記バンク部122は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶媒性のある材料を用いて形成されている。バンク部122の厚さ(高さ)は、0.1μm〜3.5μmの範囲が好ましく、特に2μm程度がよい。厚さが0.1μm未満では、後述する正孔注入/輸送層及び発光層の合計厚よりバンク部122が薄くなり、機能層110を開口部122a内に正確に形成できなくなるおそれがある。一方、厚さが3.5μmを超えると、開口部122aによる段差が大きくなって陰極12のステップカバレッジを確保できなくなるおそれがある。画素電極111のコンタクト部111bはバンク部122の下層側に形成されているので、バンク部122の厚さを2μm以上とすれば、陰極12とコンタクト部111b(駆動用薄膜トランジスタ)との絶縁を高められるという利点がある。
【0028】
バンク部122を含む画素領域Aには、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とが区画形成されている。親液性を示す領域は、画素電極111の表面、段差領域115、及び段差領域115とバンク部122との間の平坦領域144dであり、これらの領域は、例えば酸素を処理ガスとするプラズマ処理によって表面に親液性を付与されている。また、撥液性を示す領域は、バンク部122の表面であり、例えば4フッ化メタン(テトラフルオロメタン)を処理ガスとするプラズマ処理によって表面に撥液性を付与されている。なお、バンク部122を含フッ素系の樹脂材料により形成した場合は撥液性付与のためのプラズマ処理は不要である。
【0029】
次に、機能層110は、画素電極111上に積層された正孔注入/輸送層110aと、正孔注入/輸送層110a上に積層形成された発光層110bとを含んで構成されており、発光層110b上にさらに電子注入輸送層などの機能を有する他の機能層を積層してもよい。
正孔注入/輸送層110aは、正孔を発光層110bに注入する機能を有するとともに、正孔を正孔注入/輸送層110a内部において輸送する機能を有する。このような正孔注入/輸送層110aを画素電極111と発光層110bの間に設けることにより、発光層110bの発光効率、寿命等の素子特性が向上する。また、発光層110bでは、正孔注入/輸送層110aから注入された正孔と、陰極12から注入される電子が発光層で再結合し、発光が得られる。
【0030】
正孔注入/輸送層110aは、バンク部122の開口部122a内に位置して画素電極111上に形成されるとともに、その一部が画素電極111を取り囲む段差領域115を埋めるようにして形成され、さらに段差領域115の外側の平坦領域144d上にも乗り上げている。本実施形態の有機EL装置では、かかる構成によって画素電極111上の正孔注入/輸送層110aを平坦化することができるようになっており、正孔注入/輸送層110aの膜厚は、その平坦部分(画素電極111に対応する領域)において例えば50〜70nmの範囲で一定の厚さとなっている。
【0031】
本実施形態において、正孔注入/輸送層110aは、正孔注入/輸送層形成材料を含む液体材料を、液滴吐出法によって開口部122a内に吐出配置し、溶媒を除去して形成されたものであるため、その乾燥過程において撥液領域であるバンク部122の近傍で乾燥むらを生じやすい。そこで本発明では、画素電極111の外周端とバンク部122の内周端との間に段差領域115を設けることで、かかる乾燥むらが発光領域A1(画素電極111の平面領域)にまで及ぶのを防止することを可能とした。かかる段差領域115を設けることにより発光領域A1における膜厚の均一化を実現できるのは、段差領域115の深さの分だけ液体材料が画素電極111の周囲に多く配されるので、乾燥過程で正孔注入/輸送層形成材料がバンク部122側(外周側)に濃縮されたとしても、その濃度上昇が緩和されること、及び形成される正孔注入/輸送層110aの膜厚が段差領域115では画素電極111上よりも厚くなるので、正孔注入/輸送層形成材料が濃縮されていても膜厚の不均一を生じ難くなることによると考えられる。
【0032】
発光層110bは、正孔注入/輸送層110a上に形成されており、発光領域A1での厚さが50nm〜80nmの範囲とされている。本実施形態の有機EL装置1はカラー表示装置であり、表示領域2aには、赤色(R)発光層、緑色(G)発光層、及び青色(B)発光層のいずれかの発光層110bを備えた3種類の発光素子が、図2に示すようにストライプ配置されている。
【0033】
本実施形態では、上述したように段差領域115の作用により正孔注入/輸送層110aが発光領域A1で均一な膜厚に形成されているので、その上に形成される発光層110bも発光領域A1で均一な膜厚を有するものとなり、機能層110は全体として発光領域A1内で均一な膜厚を有するものとなっている。本実施形態に係る発光層110bについても、液滴吐出法を用いて形成されるものであるため、撥液領域であるバンク部122表面と正孔注入/輸送層110aとの界面近傍で発光層110bの膜厚に不均一を生じやすいが、図3(b)に示すように、この領域は発光領域A1の外側の段差領域115上に位置するため、膜厚の不均一が発光素子の発光状態に影響することはない。
【0034】
なお、正孔注入/輸送層形成材料としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸(PSS)等の混合物を用いることができる。また、発光層110bの材料としては、例えば、ポリフルオレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、またはこれらの高分子材料にペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、例えばルブレン、ペリレン、9,10-ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープして用いることができる。
【0035】
次に陰極12は、基板2上の画素電極111と対になって機能層110に電流を供給するものであり、バンク部122を含む画素領域Aの全面に形成されている。有機EL装置全体で見ると、表示領域2a及び非表示領域2bを含む陰極配線12aの内側の領域にベタ状に形成されている。陰極12は、例えば、カルシウム層とアルミニウム層とが積層された構成とすることができる。かかる積層構造において、発光層110bに近い側の陰極に、低仕事関数のカルシウム層を設けることが好ましい。この構成により、発光層110bと当接して配置されたカルシウム層が、発光層110bへの電子注入効率を向上させる機能を奏する。また、発光層110bの構成材料によっては、発光効率を高めるために発光層110bと陰極12との間にフッ化リチウム層を形成してもよい。
【0036】
また、図3(b)では図示を省略しているが、有機EL装置1の陰極12上には、通常、陰極保護層や封止層と称される単層又は複層の保護層が形成される。そして、かかる保護層上には、ガラス基板や封止缶等の封止部材が配設される。上記保護層は、陰極12や発光層110bに酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、この封止作用により発光劣化等を抑えるようにしたものである。
【0037】
上記保護層は、例えば耐水性、耐熱性に優れる無機化合物からなるもので、好ましくはSi化合物、すなわちSiNやSiON、SiOなどによって形成される。保護層は水蒸気などのガスを遮断するため緻密で欠陥の無い被膜にする必要があるから、低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法であるプラズマCVD法やECRプラズマスパッタ法、イオンプレーティング法を用いて形成するのがよい。これらの成膜法を用いて、上述のSi化合物の被膜を形成することで、耐水性、耐熱性に優れる欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性に優れた保護層を形成することができる。なお、かかる保護層としては、Si化合物以外の材料を採用してもよく、例えばアルミナや酸化タンタル、酸化チタン、更には他のセラミックスなどからなっていてもよい。
【0038】
保護層の膜厚は、300〜700nmの範囲とすることが好ましく、400nm〜600nmの範囲とすることがより好ましい。保護層の膜厚が300nmよりも小さい場合では十分なガスバリア性を得ることができず、また、700nmよりも大きい場合では保護層の内部応力によりクラックが生じやすくなる。従って、上記の範囲で膜厚を規定することにより、ガスバリア性と耐クラック性とを共に実現したガスバリア層となる。また、特に400〜600nmの膜厚にすることで、ガスバリア性と耐クラック性とを向上させることができる。
【0039】
前記封止部材として例えばガラス基板等の表面保護基板を用いる場合には、かかる表面保護基板を接着層を介して前記保護層上に接着する。前記接着層には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン樹脂等の透明樹脂材料を用いると、トップエミッション型への適用が容易にな点で好ましく、透明で安価なアクリル樹脂が好適である。表面保護基板は、外傷防止、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる基材である。表面保護基板の材質は、上記ガラスのほか、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミドなど)が採用される。また、当該表面保護基板には、紫外線遮断/吸収層や光反射防止層、放熱層、レンズやミラーなどの光学構造が設けられていてもよい。
【0040】
本実施形態の有機EL装置1は、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置であり、機能層110から基板2側に発せられた光は、回路素子部14及び基板2を透過して基板2の下側(観測者側)に射出され、機能層110から基板2の反対側に発せられた光は、光反射性を有する陰極12により反射され、回路素子部14及び基板2を透過して基板2の下側(観測者側)に射出される。
【0041】
上記構成を具備した本実施形態の有機EL装置1では、図3に示したように、画素電極111を取り囲んむ概略枠状の段差領域115が設けられていることで、液滴吐出法を用いて形成される正孔注入/輸送層110a及び発光層110bの膜厚が、画素電極111の平面領域内(発光領域A1内)で均一なものとなっている。これにより、発光領域A1内で均一な発光を得ることができ、優れた表示品質を得ることができる。また発光が均一化される結果、発光領域A1内の機能層110に局所的な電流負荷が掛かるのを防止することができ、長寿命の発光素子を備えた有機EL装置を実現することができる。
【0042】
なお、有機EL装置1をいわゆるトップエミッション型とする場合には、陰極12に光透過性の材料を用い、画素電極111に光反射性を付与することで、陰極側から光を射出する構成とする。この場合、陰極12にはITO等の透明導電材料が主に用いられ、透光性が得られる範囲の厚さとするならばPt、Ir、Ni、Pd等の金属材料を用いてもよい。
【0043】
(有機EL装置の製造方法)
次に、本実施形態の有機EL装置1の製造方法について、図4及び図5を参照して説明する。なお、図4及び図5の各工程図は、図3(b)に示したB−B’断面図に対応する図である。
本実施形態の製造方法は、基板2上に回路素子部14を形成する回路素子部形成工程、回路素子部14上に画素電極111を形成する電極形成工程、画素電極111を区画するバンク部122を形成するバンク部形成工程、バンク部122を含む基板2の表面を処理するプラズマ処理工程、バンク部122の内側に機能層110を形成する機能層形成工程、さらには陰極形成工程、及び封止工程を含むものとされている。なお、本発明の製造方法はこれに限られるものではなく必要に応じてその他の工程が除かれる場合、また追加される場合もある。
【0044】
(1)回路素子部形成工程
まず、図4(a)に示すように、基板2上に回路素子部14を形成する。具体的には、基板2上に、第1層間絶縁膜144a、144bを積層しつつ、基板2とこれらの絶縁膜との間の配線層に、スイッチング用薄膜トランジスタや駆動用薄膜トランジスタ、これらに接続される走査線や電源線、データ線等を形成する。本実施形態では層間絶縁膜144a、144bが2層である場合について図に示しているが、スイッチング素子等の形成工程に適合するようその積層数は変更することができる。そして、上記スイッチング素子や配線構造の形成には公知の方法を適用することができる。
【0045】
回路素子部14の最上層である第2層間絶縁膜144bまでを形成したならば、図4(a)に示すように、開口部222aを有するレジスト222を第2層間絶縁膜144b上にパターン形成する。その後、プラズマ230により、レジスト222をマスクとして第2層間絶縁膜144bの表面をエッチングすることで、図4(b)に示すような例えば100nm程度の深さの凹部144cを第2層間絶縁膜144bの表面に部分的に形成し、次いで有機剥離液による洗浄処理によってレジスト222を剥離する。第2層間絶縁膜144bは、例えば、SiO又はSiNからなる絶縁膜であるから、上記プラズマエッチングには、CF(テトラフルオロカーボン)等のフルオロカーボンガスを用いたエッチング処理を好適に用いることができる。
【0046】
(2)電極形成工程
次に、図4(c)に示すように、第2層間絶縁膜144b表面の凹部144c内に、画素電極111をパターン形成する。具体的には、スパッタ法等を用いてITO等の透明導電膜を100nm程度の厚さに形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて、図3(a)に示した平面形状の画素電極111(コンタクト配線111a及びコンタクト部111bを含む。)をパターン形成する。
【0047】
この電極形成工程において、図3及び図4に示すように、画素電極111を凹部144cより狭い範囲内に形成し、画素電極111の端縁部と凹部144cの内側壁とを所定間隔を空けて離間配置することで、画素電極111のほぼ全周を取り囲む概略枠状の段差領域115が形成される。本実施形態の場合、段差領域115の深さは画素電極111の膜厚に相当し、100nm程度である。
【0048】
(3)バンク部形成工程
次に、図4(d)に示すように、バンク部形成工程では、基板2上にバンク部122を形成する。バンク部122は、感光性アクリル樹脂や感光性ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶剤性を有する樹脂材料を用いて形成することができる。そして、これらの樹脂材料を基板2上に塗布して樹脂膜を形成した後、かかる樹脂膜に対して露光、現像処理を施すことで、画素電極111に臨む開口部122aを有するバンク部122を形成する。表示領域2aに形成するバンク部122全体では、各画素領域Aを形成するために開口部122aをマトリクス状に配列してなる平面形状に形成する。
【0049】
開口部122aは、図4(d)に示すように、基板2の上方に向かって広口の形状であり、そのため開口部122aの表面が基板2の法線方向に対して傾斜したテーパー状を成している。本実施形態の製造方法においては、このようなテーパー形状をバンク部122に付与するため、上記露光、現像処理により樹脂膜をパターニングした後、さらに熱処理を施す。例えばバンク部122をアクリル樹脂により形成する場合には、アクリル樹脂の軟化温度程度に基板2を加熱してバンク部122を軟化させ、角部を鈍らせて側壁をテーパー形状とする。
【0050】
(4)プラズマ処理工程
バンク部122を形成したならば、次に、基板2の表面をプラズマ330に曝すプラズマ処理を行う。これは画素電極111の表面を活性化し、さらにバンク部122の表面を改質処理することで、基板2上に液体材料に対する親和性の異なる複数の領域(親液領域及び撥液領域)を形成することを目的として行う。本実施形態では、まず、基板2を加熱する予備加熱工程を行った後、プラズマ330として酸素ガスを用いたプラズマによる第1のプラズマ処理を行い、その後、CFガス等のフルオロカーボンガスを用いたプラズマによる第2のプラズマ処理を行う。
【0051】
予備加熱工程では、ホットプレートやランプヒータを用いて基板2を加熱することで、基板2を所定温度(例えば70〜80℃)にまで昇温する。この予備加熱工程は、続いて行われるプラズマ処理工程において基板2の温度が変動し、表面処理に不均一を生じるのを防止するために行われる。従って、後続のプラズマ処理工程においても、例えばホットプレートを用いて基板2の温度を維持しつつ処理を行うことが好ましい。
【0052】
上記第1のプラズマ処理工程では、酸素ガスプラズマによって画素電極111の洗浄、仕事関数調整とともに、基板2表面の親液領域形成を行う。プラズマ処理条件を例示すると、大気圧プラズマ処理装置を用いる場合で、プラズマパワー100〜800kW、酸素ガス流量50〜100ml/min、板搬送速度0.5〜10mm/sec、基板温度70〜90℃の条件である。大気圧プラズマ処理装置を用いる場合には、処理ガスに酸素ガスとヘリウムガスとの混合ガスを用いることで、プラズマの発生を容易にし、安定性を高めることができる。真空装置を用いた減圧環境下でプラズマ処理を行う場合には、処理ガスは酸素ガスでよい。
この第1のプラズマ処理により、画素電極111の表面、画素電極111とバンク部122との間に露出している第2層間絶縁膜144bの表面(段差領域115を含む。)に親液性が付与される。
【0053】
次に、第2のプラズマ処理工程では、撥液化工程として、大気雰囲気中でテトラフルオロメタンを処理ガスとするプラズマ処理(CF4プラズマ処理)を行う。
CF4プラズマ処理の条件は、例えば、プラズマパワー100〜800kW、4フッ化メタンガス流量50〜100ml/min、基体搬送速度0.5〜1020mm/sec、基体温度70〜90℃の条件で行われる。なお、基板の加熱は主として予備加熱された基板2の保温のために行われる。
なお、処理ガスは、テトラフルオロメタン(四フッ化炭素)に限らず、他のフルオロカーボン系のガスを用いることができ、大気圧プラズマ処理装置を用いる場合には、ヘリウムガスとの混合ガスを用いるとプラズマの発生を容易にし、安定性を高めることができる。一方、減圧環境下でプラズマ処理を行う場合にはフルオロカーボンガスを単体で処理ガスとして用いることができる。
【0054】
第2のプラズマ処理により、バンク部122の表面が撥液処理される。すなわち、CFガスを用いたプラズマ処理により、バンク部122の表面にフッ素基が導入されて撥液性が付与される。バンク部122を構成するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機物はプラズマ状態のフルオロカーボンを照射されることで容易に撥液化すことができる。また、酸素ガスプラズマにより前処理した方がフッ素化されやすい、という特徴を有しており、本実施形態には特に有効である。画素電極111の電極面及び第2層間絶縁膜144bの露出面もこのCF4ガスを用いたプラズマ処理の影響を多少受けるが、濡れ性に影響を与える事は少なく、第1のプラズマ処理による親液性を保持した状態となる。
【0055】
なお、上記第2のプラズマ処理工程が終了したならば、基板2を所定温度まで冷却しておくことが好ましい。続いて行われる機能層110を形成する工程中に基板2の温度が変動するのは工程の安定性を得る上で好ましくないからである。
【0056】
(5)正孔注入/輸送層形成工程(機能層形成工程)
次に、機能層110のうち正孔注入/輸送層110aの形成工程を行う。正孔注入/輸送層形成工程では、液滴吐出装置を用いた液滴吐出法により、正孔注入/輸送層形成材料を含む第1の組成物(液体材料)を電極面上に吐出し、その後に乾燥処理及び熱処理を行い、画素電極111上に正孔注入/輸送層110aを形成する。この正孔注入/輸送層形成工程を含めこれ以降の工程は、水、酸素の無い雰囲気で処理を行うことが好ましく、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0057】
本実施形態では、図5(a)に示すように、表示領域2a上にて液滴吐出ヘッド350(液滴吐出装置)を走査しつつ、そのノズルから各開口部122aに対して、第1の組成物の液滴110cを吐出することで、第1の組成物を基板2上に配置する。このとき、開口部122aの底部に位置する画素電極111、段差領域115、及び平坦領域144dの表面は、先のプラズマ処理工程での表面処理により親液領域となっているので、第1の組成物110cは開口部122aに囲まれる領域内に隙間無く濡れ広がり、段差領域115内にも隙間無く充填される。
【0058】
上記第1組成物としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸(PSS)等の混合物を、極性溶媒に溶解させた組成物である。極性溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、ノルマルブタノール等を挙げることができる。
なお、正孔注入/輸送層形成材料は、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の発光層110bに対して同じ材料を用いてもよく、各色毎に異なるものを用いてもよい。
【0059】
第1の組成物110cを開口部122a内に吐出配置したならば、次に、乾燥工程を行う。この乾燥工程を行うことにより、第1の組成物110cに含まれる極性溶媒を蒸発させ、図5(b)に示すような正孔注入/輸送層110aをバンク部122の開口部122a内に形成する。
上記乾燥処理の過程では、第1の組成物110cに含まれる極性溶媒の蒸発が主にバンク部122に近い位置で進行しやすく、極性溶媒の蒸発に伴い正孔注入/輸送層形成材料がバンク部122の近傍で濃縮される。そのため、従来の有機EL装置の製造工程においては、形成する正孔注入/輸送層110aの周縁部において膜厚の不均一が生じやすくなっていた。これに対して、本実施形態では、画素電極111の周囲に段差領域115を設け、その内部に第1の組成物110cを充填するようにしたことで、正孔注入/輸送層110aの周縁部における膜厚の不均一を緩和するとともに、発光素子の実発光領域となる画素電極111上の領域で正孔注入/輸送層110aの膜厚を均一化することができるようになった。
【0060】
(6)発光層形成工程(機能層形成工程)
次に、機能層110の発光層110bの形成工程を行う。該発光層形成工程では、正孔注入/輸送層の形成工程と同様、液滴吐出装置を用いた液滴吐出法により、発光層形成材料を含む第2の組成物(液体材料)を正孔注入/輸送層110a上に吐出配置し、その後に乾燥処理及び熱処理を行うことで、図5(c)に示すように、正孔注入/輸送層110a上に発光層110bを形成する。
【0061】
上記第2の組成物としては、溶質として発光層110bを形成する材料として、例えばポリフルオレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等を用いることができる。また、溶媒として、正孔注入/輸送層110aに対して不溶なものが好ましく、例えば、シクロへキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン等を用いることができる。このような溶媒(非極性溶媒)を用いることにより、正孔注入/輸送層110aを再溶解させることなく第2の組成物を吐出できるようになる。
【0062】
前記第2の組成物の液滴を正孔注入/輸送層110a上に吐出配置した後、乾燥工程を行う。乾燥工程を行うことにより、第2の組成物に含まれる溶媒が蒸発し、図5(c)に示すような発光層110bが形成される。このとき、本実施形態では、画素電極111上の領域において、正孔注入/輸送層110aが高い平坦性をもって形成されているので、正孔注入/輸送層110a上に形成する発光層110bについても、画素電極111上の領域で均一な膜厚に形成することができる。発光層形成工程での乾燥処理に際しても、先の正孔注入/輸送層形成工程と同様、バンク部122の近傍で第2の組成物の溶質(発光層形成材料)が濃縮されやすくなる傾向があるが、かかる濃縮作用によって発光層110bの周縁部に膜厚の不均一な部位が生じたとしても、画素電極111上の領域では平坦で均一な膜厚を有する発光層110bを形成可能である。また、上記膜厚の不均一な部位については、図5(c)に示すように、画素電極111の外側の領域であるため、有機EL装置1の動作時には発光しない領域であり、かかる発光層110bの不均一性が有機EL装置の発光特性、発光寿命に影響することはない。
【0063】
(7)陰極形成工程
機能層110を開口部122a内に形成したならば、次に、陰極形成工程により、図5(d)に示すように、発光層110b、バンク部122を覆う全面に陰極12を形成する。本実施形態の場合、陰極12は例えばカルシウム層とアルミニウム層との積層膜であるので、発光層110bに近い側には仕事関数が小さいカルシウム層を形成し、カルシウム層上にアルミニウム層を形成する。また、フッ化リチウム層等の電子注入層を形成する場合には、陰極12を形成するに先立ってフッ化リチウム層を形成しておく。
【0064】
陰極12は、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法等で形成することができる。特に蒸着法で形成することが、熱による発光層110bの損傷を防止できる点で好ましい。また、フッ化リチウム層を形成する場合であっても、特定色(例えば青色)の発光層110b上のみに形成する工程や、さらに所定の色に対応して形成する工程が採用できる。
【0065】
(8)封止工程
上記陰極12を形成したならば、陰極12を含む基板2上の領域に保護層を形成し、さらに封止部材を用いて発光素子及び保護層を封止する。この封止工程については、公知の工程を適用することができ、詳細は省略することとする。なお、封止工程は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。大気中で行うと、陰極12にピンホール等の欠陥が生じていた場合にこの欠陥部分から水や酸素等が陰極12に侵入して陰極12が酸化される惧れがあるので好ましくない。さらに、図2に例示した基板5の配線5aに陰極12を接続するとともに、駆動IC6に回路素子部14の配線を接続し、本実施形態の有機EL装置1が得られる。
【0066】
以上、本実施形態の有機EL装置1の製造方法を示したが、本実施形態では、発光素子の機能層110の形成工程において液滴吐出法を採用している。そして、このような液相法を採用する場合において、組成物を乾燥して得られる機能層の膜厚を画素電極111上の領域で均一化するために、図5に示すように画素電極111を取り囲む段差領域115を形成し、吐出した第1の組成物110cを段差領域115内に充填するようにした。これにより、吐出配置した第1の組成物110cを乾燥させる際に、バンク部122近傍での膜厚の不均一を緩和し、さらに膜厚の不均一となる領域を画素電極111の外側に配することで、発光領域となる画素電極111上の領域における機能層110の膜厚を均一化した。従って本実施形態の製造方法によれば、均一な発光特性を有する長寿命の発光素子を備えた有機EL装置1を製造することができる。
【0067】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、図6及び図7を参照しつつ説明する。
【0068】
(有機EL装置)
図6(a)は、本実施形態の有機EL装置の1つの画素領域Aを示す平面構成図であり、図6(b)は、(a)図のD−D’線に沿う断面構成図である。
本実施形態の有機EL装置は、第1実施形態の有機EL装置と同等の全体構成を具備し、その画素領域Aにのみ第1実施形態の有機EL装置と異なる構成を有している。したがって、以下では画素領域Aの特徴的な構成について主に説明することとする。なお、図6に示す各構成要素のうち、図3と共通のものには、同一の符号を付して説明を省略することとする。また、図6(a)では図面を見やすくするために図6(b)に示す機能層110及び陰極12の図示を省略している。
【0069】
図6(a)に示すように、本実施形態に係る有機EL装置の画素領域Aには、平面視略矩形状の画素電極111と、この画素電極111を取り囲むバンク部(隔壁)122とが設けられている。画素電極111の図示右側の辺端から延出されたコンタクト配線111aの部分を除くほぼ全周を取り囲んで、概略枠状の凹部である段差領域115が形成されている。前記バンク部122は、段差領域115を取り囲むようにして配置された第1バンク層112aと、第1バンク層112aの画素電極111側の端縁部を取り囲むように配置された第2バンク層112bとにより構成されている。画素電極111は、先の実施形態の有機EL装置と同様、コンタクト配線111aの先端部に設けられたコンタクト部111bにおいて、コンタクトホール145を介して下層側(基板2側)の駆動用薄膜トランジスタ(113)と電気的に接続されている。
【0070】
図6(b)に示す断面構造をみると、基板2上に、第1層間絶縁膜144aと第2層間絶縁膜144bとを有する回路素子部14が形成されており、回路素子部14上に画素電極111と、機能層110と、陰極12とを積層してなる発光素子が形成されている。上層側の第2層間絶縁膜144bの表面に、凹部144cが形成されており、この凹部144c内にITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電材料からなる画素電極111が形成されている。画素電極111は、その外周端が凹部144cの内壁と平面方向で離間されており、かかる構成により画素電極111の膜厚に相当する深さを有する段差領域115が画素電極111を取り囲むようにして形成されている。本実施形態の場合、画素電極111の膜厚は100nm程度であり、従って段差領域115の深さdも100nm程度である。また、段差領域115の幅w1は、本実施形態の場合、1〜5μm程度である。
【0071】
バンク部122は、基板2側に位置する第1バンク層112aと、陰極12側に位置する第2バンク層112bとを積層してなる構成である。本実施形態では、下層側の第1バンク層112aは、段差領域115の外周を取り囲む領域に対応する下部開口部(区画領域)112cを有して形成されており、本実施形態において、第1バンク層112aは第2層間絶縁膜表面の凹部144cよりやや外側(後退した位置)に形成されており、その後退幅w2は5μm程度以下である。
【0072】
また、第2バンク層112bには、画素電極111の形成位置及び下部開口部112cに対応して上部開口部112dが設けられている。上部開口部112dは、図6に示すように、下部開口部112cよりさらに広く形成されている。すなわち、第2バンク層112bは下部開口部112cより後退した位置に形成されており、その後退幅w3は、5μm程度以下である。また第2バンク層112bは外側に向かって広口の開口形状であり、従って上部開口部112dを構成する第2バンク層112bの内側壁は基板法線方向に対して傾斜したテーパー形状を成している。
【0073】
第1バンク層112aは、例えば、SiO、TiO等の無機材料を用いて形成されていることが好ましい。また第1バンク層112aの膜厚は、50nm〜200nmの範囲が好ましく、特に150nmがよい。膜厚が50nm未満では、第1バンク層112aが後述する正孔注入/輸送層より薄くなり、第1バンク層112aの近傍で正孔注入/輸送層の平坦性を確保できなくなるおそれがある。一方、膜厚が200nmを超えると、下部開口部112cによる段差が大きくなって、正孔注入/輸送層上に積層する後述の発光層の平坦性を確保できなくなる場合がある。
【0074】
第2バンク層112bは、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶媒性のある材料から形成されている。この第2バンク層112bの高さは、先の第1実施形態に係るバンク部122と同様、0.1μm〜3.5μmの範囲であり、2μm程度であることが好ましい。
【0075】
本実施形態の場合も、バンク部122を含む画素領域Aに、機能層を形成するための組成物(液体材料)に対する親液性を示す親液領域と、撥液性を示す撥液領域とが、バンク部122に形成されている。親液領域は、第1バンク層112aの画素電極111に臨む部分と、画素電極111の表面、及び段差領域115、第2層間絶縁膜の平坦領域144dである。撥液領域は、上部開口部112dの壁面及び第2バンク層112bの上面である。なお、第2バンク層112bを、フッ素ポリマーを含有する材料により形成することで撥液性を有するものとしてもよい。そして、このような撥液領域と親液領域とを具備した画素領域Aに、正孔注入/輸送層110aと発光層110bとを積層してなる機能層110が形成され、機能層110及びバンク部122を覆うように陰極12が形成されている。
【0076】
本実施形態の有機EL装置においても、画素電極111を取り囲んで形成された段差領域115の作用により、正孔注入/輸送層110aが発光領域A1で均一な膜厚に形成されているので、その上に形成される発光層110bも発光領域A1で均一な膜厚を有するものとなり、機能層110は全体として発光領域A1内で均一な膜厚を有するものとなっている。これにより、発光領域A1内で均一な発光を得ることができ、優れた表示品質を得ることができる。また発光が均一化される結果、発光領域A1内の機能層110に局所的な電流負荷が掛かるのを防止することができ、長寿命の発光素子を備えた有機EL装置を実現することができる。
【0077】
特に本実施形態では、バンク部122の下層側に親液領域を形成する第1バンク層112aが形成されているので、液滴吐出法を用いて正孔注入/輸送層110aを形成するための第1組成物を、液滴状にしてバンク部122に囲まれた領域内に吐出配置した際に、第2バンク層112bよりも画素電極111側に突出した第1バンク層112aによって上記第1組成物がバンク部122の開口部内で均一に隙間無く濡れ広がる。その結果、均一な膜厚で欠陥のない正孔注入/輸送層110aを画素電極111上に形成できるようになっている。
【0078】
(製造方法)
図7は、本実施形態の有機EL装置の製造方法を説明するための断面工程図である。本実施形態の有機EL装置の製造方法は、バンク部122を形成する工程以外は、先に記載の第1実施形態の有機EL装置の製造方法と同様であるため、図7にはバンク部122の製造工程のみを示し、その他の製造工程は省略することとする。
【0079】
まず、図7(a)に示すように、図4に示した第1実施形態に係る製造方法と同様の工程により、基板2上に回路素子部14を形成し、さらに第2層間絶縁膜144bの表面に部分的に凹部144cを形成した後、凹部144c内に画素電極111を形成する。このとき、画素電極111が凹部144cの側壁と離間して形成されることで、画素電極111をほぼ取り囲んだ段差領域115が基板2上に形成される。
【0080】
次に、図7(b)に示すように、第2層間絶縁膜144b上に第1バンク層112aをパターン形成する。具体的には、例えばCVD法、コート法、スパッタ法、蒸着法等を用いて、画素電極111上を含む第2層間絶縁膜144b上の全面にSiO等の無機物膜を形成し、その後、かかる無機物膜をフォトリソグラフィ法等によりパターニングすることにより、開口部を有する形で形成する。この開口部は、凹部144c形成位置に対応するもので、下部開口部112cとして設けられる。このとき、第1バンク層112aは、凹部144cの端縁部より外側のやや後退した位置に形成され、これにより段差領域115と第1バンク層112aとの間に、平坦領域144dが形成される。
【0081】
次に、図7(c)に示すように、第1バンク層112a上に第2バンク層112bを形成する。この第2バンク層112bの形成工程は、第1実施形態におけるバンク部122の形成工程と同様である。すなわち、有機絶縁材料である感光性のアクリル樹脂等の樹脂膜を第1バンク層112a上を含む基板2上の領域に形成し、これを露光、現像処理することで、第1バンク層112a上に、上部開口部112dを有する第2バンク層112bを形成する。その後、上記樹脂材料の軟化温度にまで加熱することでパターニング後の樹脂膜の角部を鈍らせて、図7(c)に示すようにテーパー形状の内側壁を備えた第2バンク層112bを形成する。以上の工程により、基板2上に第1バンク層112aと第2バンク層112bとの積層構造を有するバンク部122を形成することができる。
【0082】
また、第2バンク層112bは、第1バンク層112aの端縁部より外側のやや後退した位置に形成する。これにより、第2バンク層112bの基板2側の端部から画素電極111側へ第1バンク層112aが一部突出した構造とすることができる。
【0083】
以上の工程により基板2上に画素電極111、及び画素電極111を区画するバンク部122を形成したならば、先の第1実施形態と同様に、基板2表面にプラズマ処理を施す。その後、バンク部122に囲まれる領域内に第1組成物を吐出配置して正孔注入/輸送層110aを形成し、さらに正孔注入/輸送層110a上に第2組成物を吐出配置して発光層110bを形成する。そして、発光層110bとバンク部122とを覆うように陰極12を形成した後、必要な封止工程を経て、本実施形態の有機EL装置を製造することができる。
【0084】
本実施形態の有機EL装置の製造方法では、バンク部122の下層側に無機絶縁材料からなる親液性の第1バンク層112aを設けているので、正孔注入/輸送層110aを形成する工程で下部開口部112c及び上部開口部112d内に吐出配置された第1組成物が、第1バンク層112aの作用により上記開口部内に隙間無く均一に充填されるようになっている。従って本実施形態の製造方法によれば、画素電極111を取り囲んで設けられた段差領域115の作用と相まって、画素電極111上の領域(発光領域A1)に均一な膜厚の正孔注入/輸送層110aを形成することができ、これにより、均一な発光特性と長い発光寿命とを備えた発光素子を形成することができる。
【0085】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について、図8を参照しつつ説明する。
【0086】
(有機EL装置)
図8(a)は、本実施形態の有機EL装置の1つの画素領域Aを示す平面構成図であり、図8(b)は、(a)図のE−E’線に沿う断面構成図である。
本実施形態の有機EL装置は、第1実施形態の有機EL装置と同等の全体構成を具備し、その画素領域Aにのみ第1実施形態の有機EL装置と異なる構成を有している。したがって、以下では画素領域Aの特徴的な構成について主に説明することとする。なお、図8に示す各構成要素のうち、図3と共通のものには、同一の符号を付して説明を省略することとする。また、図8(a)では図面を見やすくするために図8(b)に示す機能層110及び陰極12の図示を省略している。
【0087】
図8(a)に示すように、本実施形態に係る有機EL装置の画素領域Aには、平面視略矩形状の画素電極111と、この画素電極111を取り囲むバンク部(隔壁)122とが設けられている。画素電極111の図示右側の辺端から延出されたコンタクト配線111aの部分を除くほぼ全周を取り囲んで、概略枠状の凹部である段差領域115が形成されている。前記バンク部122は段差領域115を取り囲むようにして配置されている。画素電極111は、先の実施形態の有機EL装置と同様、コンタクト配線111aの先端部に設けられたコンタクト部111bにおいて、コンタクトホール145を介して下層側(基板2側)の駆動用薄膜トランジスタ(113)と電気的に接続されている。
【0088】
図8(b)に示す断面構造をみると、基板2上に、第1層間絶縁膜144aと第2層間絶縁膜144bとを有する回路素子部14が形成されており、回路素子部14上に画素電極111と、機能層110と、陰極12とを積層してなる発光素子が形成されている。上層側の第2層間絶縁膜144bの表面には、第1実施形態の有機EL装置と異なり、凹部144cは形成されておらず、平坦面上に画素電極111が形成されており、この画素電極111の外周端から離れた位置にバンク部122が形成されることで、画素電極111とバンク部122との間に、画素電極111の膜厚に相当する深さを有する段差領域115が形成されている。本実施形態の場合、画素電極111の膜厚は100nm程度であり、従って段差領域115の深さも100nm程度である。また、段差領域115の幅は1〜5μm程度である。
【0089】
バンク部122は、先の第1実施形態と同様の構成であり、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶媒性のある材料から形成されている。このバンク部122の高さは、先の第1実施形態に係るバンク部122と同様、0.1μm〜3.5μmの範囲であり、2μm程度であることが好ましい。
【0090】
本実施形態の場合も、バンク部122を含む画素領域Aに、機能層を形成するための組成物(液体材料)に対する親液性を示す親液領域と、撥液性を示す撥液領域とが形成されている。親液領域は、画素電極111の表面、及び段差領域115であり、撥液領域は、バンク部122の表面である。そして、このような撥液領域と親液領域とを具備した画素領域Aに、正孔注入/輸送層110aと発光層110bとを積層してなる機能層110が形成され、機能層110及びバンク部122を覆うように陰極12が形成されている。
【0091】
本実施形態の有機EL装置においても、画素電極111を取り囲んで形成された段差領域115の作用により、正孔注入/輸送層110aが発光領域A1で均一な膜厚に形成されているので、その上に形成される発光層110bも発光領域A1で均一な膜厚を有するものとなり、機能層110は全体として発光領域A1内で均一な膜厚を有するものとなっている。これにより、発光領域A1内で均一な発光を得ることができ、優れた表示品質を得ることができる。また発光が均一化される結果、発光領域A1内の機能層110に局所的な電流負荷が掛かるのを防止することができ、長寿命の発光素子を備えた有機EL装置を実現することができる。
【0092】
特に本実施形態では、段差領域115を形成することを目的として第2層間絶縁膜144bに形成される凹部144cが不要であるため、工数を減らすことができ、低コストに発光の均一性、寿命に優れた有機EL装置を提供することが可能である。
なお、本実施形態の有機EL装置は、先の第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法のうち、第2層間絶縁膜144bに凹部144cを形成する工程を省略するのみで製造することができる。
【0093】
[第4の実施形態]
上記第1〜第3の実施形態では、画素電極111のほぼ全周を取り囲んで段差領域115を形成する場合について説明したが、本発明に係る有機EL装置において、前記段差領域は、画素電極111の一部の辺端に沿って設けることもできる。図9は、かかる構成を備えた有機EL装置における1画素領域を示す図であり、以下では、図9に示す有機EL装置を、本発明の第4の実施形態として説明する。
【0094】
本実施形態の有機EL装置は、第2実施形態の有機EL装置と同等の全体構成を具備し、その画素領域Aにのみ第2実施形態の有機EL装置と異なる構成を有している。したがって、以下では画素領域Aの特徴的な構成について主に説明することとする。なお、図9に示す各構成要素のうち、図6と共通のものには、同一の符号を付して説明を省略することとする。また、図9(a)では図面を見やすくするために図9(b)に示す機能層110及び陰極12の図示を省略している。
【0095】
図9(a)に示すように、本実施形態に係る有機EL装置の画素領域Aは、一方向(図示左右方向)に長手の平面視略矩形状の画素電極111を有しており、かかる画素電極111の平面形状に対応し、画素電極111を取り囲んで配置されたバンク部(隔壁)122とを備えている。画素電極111の図示右側の辺端からコンタクト配線111aが延出されており、画素電極111は、先の実施形態の有機EL装置と同様、コンタクト配線111aの先端部に設けられたコンタクト部111bにおいて、コンタクトホール145を介して下層側(基板2側)の駆動用薄膜トランジスタ(113)と電気的に接続されている。
【0096】
そして、本実施形態に係る画素領域Aでは、画素電極111の長手方向端部の各辺縁(短辺部)に沿って段差領域115が形成されている。前記バンク部122は、画素電極111とその短辺端に沿って延びる2つの段差領域115とを取り囲むように配置された第1バンク層112aと、第1バンク層112aの画素電極111側の端縁部を取り囲むように配置された第2バンク層112bとをにより構成されている。
【0097】
図9(b)に示す断面構造をみると、基板2上に、第1層間絶縁膜144aと第2層間絶縁膜144bとを有する回路素子部14が形成されており、回路素子部14上に画素電極111と、機能層110と、陰極12とを積層してなる発光素子が形成されている。上層側の第2層間絶縁膜144bの表面には、第2実施形態の有機EL装置とは異なり、2箇所の凹部144cが形成されており、かかる凹部144cによって先の段差領域115が形成されている。
【0098】
バンク部122は、先の第2実施形態と同様、基板2側に位置する第1バンク層112aと、陰極12側に位置する第2バンク層112bとを積層してなる構成である。下層側の第1バンク層112aは、画素電極111と段差領域115とに対応する下部開口部112cを有している。第1バンク層112aはまた、画素電極111の長辺端に沿った部分では当該画素電極111に一部乗り上げるようにして配置され、凹部144cの辺縁に沿う部分ではその一部が凹部144c内に配置されている。また、画素電極111も、その短辺端が凹部144c内に配置されている。そのため、図9(b)に示すように、凹部144c内に配置された画素電極111と第1バンク層112aとが前記段差領域115の側壁部分を構成しており、従って本実施形態の場合、段差領域115の深さは、凹部144cの深さに画素電極111の膜厚又は第1バンク層112aの膜厚を加算した長さに相当する。
【0099】
また第2バンク層112bには、画素電極111の形成位置及び下部開口部112cに対応して上部開口部112dが設けられている。上部開口部112dは、図9に示すように、下部開口部112cよりさらに広く形成されており、外側に向かって広口の開口形状でとなっている。なお、第1バンク層112a及び第2バンク層の材質、膜厚(高さ)等は先の第2実施形態と同様である。
【0100】
上記構成を具備した本実施形態の有機EL装置においても、画素電極111の短辺端に沿って設けられた段差領域115の作用により、正孔注入/輸送層110aが発光領域A1で均一な膜厚に形成され、その上に形成される発光層110bも発光領域A1で均一な膜厚を有するものとなり、機能層110は全体として発光領域A1内で均一な膜厚を有するものとなっている。これにより、発光領域A1内で均一な発光を得ることができ、優れた表示品質を得ることができる。また発光が均一化される結果、発光領域A1内の機能層110に局所的な電流負荷が掛かるのを防止することができ、長寿命の発光素子を備えた有機EL装置を実現することができる。
【0101】
特に本実施形態では、発光面積に寄与しない段差領域115の面積を低減することができるため、画素電極111を取り囲んで段差領域115を形成する場合に比して、発光領域A1を広く確保することができ、明るく高画質の表示装置を構成できる有機EL装置を提供することができる。
なお、本実施形態の有機EL装置は、先の第2実施形態に係る有機EL装置の製造方法において、第2層間絶縁膜144b上に凹部144cを形成する際に、凹部144cの形成位置を変更するのみで製造可能である。
【実施例】
【0102】
次に、上記第1、第2の実施形態の有機EL装置において、画素領域A内の各部の寸法による特性の変化を検証するため、(表1)に示す複数のサンプルを作製して特性試験を行った。
【0103】
表1において、サンプル1〜4は、バンク部122が単層の有機物バンクである第1実施形態の構成において、表の左側に示す各条件で有機EL装置を作製したものである。サンプル5〜8は、バンク部122が無機物バンクと有機物バンクの積層構造である第2実施形態の構成において各条件で有機EL装置を作製したものである。そして、前記各条件で作製したサンプルについて、正孔注入/輸送層及び発光層の膜厚の均一性、発光素子の発光面積、及び発光寿命について評価した結果を表の右側に併記している。なお、第1実施形態の構成を採用したサンプル1〜4では、バンク部122は単層構造であるため、有機物材料からなる第2バンク層として表記している。
【0104】
表1から分かるように、本発明に係る実施形態のサンプル1〜8は、いずれも比較サンプルに対して広い発光面積と、長い発光寿命を備えたものとなっており、先の段差領域115を画素領域A内に設け、かかる段差領域115の作用により機能層110を発光領域A1内で平坦化することが、発光素子の発光面積拡大、及び寿命の工場に極めて有効であることが分かる。
【0105】
より詳細にみると、第1実施形態の構成を採用したサンプル1〜4についてみると、段差領域115の深さを大きくしたもの(サンプル3)、段差領域115の幅を大きくしたもの(サンプル2)、及びバンク部122の後退幅を大きくしたもの(サンプル4)が、発光面積、発光寿命について良好な結果が得られている。またサンプル5〜8については、第1バンク層と第2バンク層の双方を画素電極から後退させて形成したもの(サンプル8)について、発光面積、発光寿命の双方で良好な結果が得られている。
【0106】
【表1】

【0107】
(電子機器)
次に、本発明の電子機器について説明する。
電子機器は、上述した各実施形態の有機EL装置を表示部として有したものであり、具体的には図10に示すものが挙げられる。図10(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。携帯電話1000は、上述した実施形態の有機EL装置1を用いた表示部1001を備えている。(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。時計1100は、上述した実施形態の有機EL装置を用いた表示部1101を備えている。(c)は、ワープロ、パソコンなどの情報処理装置の一例を示した斜視図である。情報処理装置1200は、キーボードなどの入力部1201、上述した実施形態の有機EL装置を用いた表示部1202、情報処理装置本体(筐体)1203を備えている。
図10(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、上述した実施形態の有機EL装置を備えた表示部1001,1101,1202を具備しているので、均一な発光表示が得られ、かつ発光素子の長寿命化が図られたものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】第1実施形態に係る有機EL装置の回路構成図。
【図2】同、有機EL装置の全体を示す平面構成図。
【図3】同、1画素領域を示す平面構成図及び断面構成図。
【図4】同、製造方法を説明するための断面工程図。
【図5】同、製造方法を説明するための断面工程図。
【図6】第2実施形態に係る有機EL装置の1画素領域を示す図。
【図7】同、製造方法を説明するための断面工程図。
【図8】第3実施形態に係る有機EL装置の1画素領域を示す図。
【図9】第4実施形態に係る有機EL装置の1画素領域を示す図。
【図10】電子機器を例示する説明図。
【符号の説明】
【0109】
1 有機EL装置、2 基板、12 陰極、110 機能層、111 画素電極(電極)、112a 第1バンク層(第1隔壁層)、112b 第2バンク層(第2隔壁層)、115 段差領域、144c 凹部、122 バンク部(隔壁)、122a 開口部、A 画素領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、電極と、該電極を区画する隔壁とを備え、
前記隔壁に囲まれた区画領域の周縁部に、前記隔壁に沿って延びる段差領域が形成され、
前記段差領域上を含む前記区画領域に、液体材料を乾燥固化してなる機能層が形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記段差領域が、平面視略矩形状の前記区画領域の少なくとも2辺に沿って延在していることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記段差領域が、前記区画領域のほぼ全周に渡り延在していることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記段差領域が、一方向に長手の平面形状を有する前記区画領域の、短手方向の辺端部に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記段差領域が、前記隔壁と、該隔壁と平面的に離間して配置された前記電極の端縁部との間に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記段差領域が、前記電極と前記隔壁との間の前記基板表面に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記段差領域が、前記電極の表面に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記隔壁が、第1隔壁層と第2隔壁層とを積層してなる積層構造を備えており、
前記段差領域が、前記電極に臨む前記第1隔壁層の端縁に沿って形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項9】
基板上に電極を形成する工程と、前記電極を区画する隔壁を形成する工程と、前記隔壁に囲まれた区画領域内に液体材料を配置して機能層を形成する工程と、を含み、
前記液体材料を配置する工程に先立って、前記区画領域の周縁に沿って延びる段差領域を形成する工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
前記隔壁を前記電極の端縁から離間した位置に形成することで、前記電極の端縁と前記隔壁との間に前記段差領域を形成することを特徴とする請求項9に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
前記基板上に電極を形成するに先立って、前記基板の表面に段差領域を形成することを特徴とする請求項9に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
前記電極を形成した後、該電極の表面に前記電極を形成することを特徴とする請求項9に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか1項に記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−95606(P2007−95606A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286397(P2005−286397)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】