説明

有機EL装置および電子機器

【課題】 電源線に沿った短絡の連鎖を抑制することが可能な有機EL装置を提供する。
【解決手段】 画素領域26において発光層を挟持する陽極および陰極と、その陽極に電流を供給する電源線8とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、前記陰極の一部分には、陰極の他部分より電気抵抗の高い高抵抗部80が設けられ、その高抵抗部80は、格子状に配置された電源線8と平面視において重なるように、画素領域26のピッチと同期して画素領域26の周囲に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)が期待されている。
図9は従来の有機EL装置の説明図であり、図9(a)は平面図であり、図9(b)は図9(a)のB−B線における側面断面図である。図9(a)に示すように、一般的な有機EL装置は、複数の有機EL素子3をマトリクス状に配設して構成されている。具体的には図9(b)に示すように、ガラス基板2の表面に駆動回路部5が形成され、その駆動回路部5の表面に有機EL素子3が形成されている。有機EL素子3は、陽極となる画素電極23と、有機機能層(正孔注入層や発光層60、電子輸送層等)と、陰極50とを順次積層して構成されている。そして、画素電極23および陰極50によって有機機能層に電流を供給することにより、発光層60を発光させるようになっている。
【0003】
駆動回路部5には、基板2の周縁部から画素電極23に対して電流を供給する電源線8が配設されている。なお図9(a)に示すように、複数の有機EL素子3がマトリクス状に配設されているので、基板中央部の有機EL素子3では、電源線8の配線抵抗による電圧降下が顕著になる。この配線抵抗による電圧降下を抑制するため、電源線8は格子状に配設されている。そして縦横の電源線8により、各有機EL素子3に対して電流を供給しうるようになっている。
【特許文献1】特開2001―230086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9(b)に示すように、電源線8は有機EL素子3の周囲に配設されている。また、有機EL素子3の陰極50は基板2の全面に形成されている。有機EL素子は電流制御型素子であり、充分な輝度を得るため陰極50には大きな電流が流れるので、矢印55で示す電源線8と陰極50との間に短絡が発生するおそれがある。ひとたび短絡が発生すると、その部分に大きな電流が流れ、駆動回路を焼損させるだけでなく、隣接する部分が連鎖的に短絡することになる。そして図9(a)に示すように、電源線8が格子状に形成されているので、電源線8に沿った短絡の連鎖が基板全面に拡大するという問題がある。
【0005】
なお従来の有機EL装置では、陰極の面抵抗による電圧降下を低減するため、陰極を低抵抗化する傾向にあった(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこの構成では、陰極に流れる電流が増加するため、電源線との短絡が発生しやすくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、短絡の連鎖を抑制することが可能な有機EL装置の提供を目的とする。
また信頼性に優れた電子機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の有機EL装置は、第1の電極と、前記第1の電極を駆動する配線と、他の部分よりも電気抵抗の高い高抵抗部を有し、前記高抵抗部の少なくとも一部が前記配線と平面的に重なるように配置された第2の電極と、前記第1の電極および前記第2の電極によって挟持された発光層と、を有することを特徴とする。
なお「平面的に」とは、電極等の形成面に対して垂直となる方向から見た場合をいう。
この構成によれば、配線と第2の電極との間に短絡が発生して大きな電流が流れても、高抵抗部には大きな電流が流れないので、配線に沿った短絡の連鎖を抑制することができる。また第2の電極の一部分に高抵抗部が形成されているので、有機EL装置の発光性能を低下させることはない。
【0008】
また前記配線は、格子状に配設されていてもよい。
この場合でも、配線に沿った短絡の連鎖が平面的に拡大するのを抑制することができる。
【0009】
また複数の前記発光層が配列形成されるとともに、前記第2の電極は複数の前記高抵抗部を備え、前記複数の高抵抗部は、前記複数の発光層のピッチと同期して、前記発光層の周囲に配置されていることが望ましい。
この構成によれば、短絡の連鎖を最小限に抑制することができる。
【0010】
また前記高抵抗部は、格子状に配設された前記配線の交差部と平面視において重なるように配置されていることが望ましい。
配線の交差部では、配線が積層されて第2の電極との距離が短くなり、短絡が発生しやすくなっている。そこで上記構成とすることにより、短絡の連鎖を効果的に抑制することができる。
【0011】
また前記高抵抗部は、前記第2の電極を開口して形成されていることが望ましい。
この構成によれば、第2の電極を薄肉化して高抵抗部を形成する場合と比べて、製造プロセスを簡略化することができる。この場合でも、高抵抗部は発光層の周囲に配置されているので、有機EL装置の発光性能を低下させることはない。
【0012】
また複数の前記発光層が配列形成されるとともに、前記第2の電極は複数の前記高抵抗部を備え、前記複数の高抵抗部は、前記複数の発光層のピッチと同期しないように配置されていることが望ましい。
この構成によれば、高抵抗部と発光層との位置合わせを厳密に行う必要がないので、製造プロセスを簡略化することができる。
【0013】
また前記複数の高抵抗部は、前記複数の発光層の配列方向と交差する方向に整列配置されていることが望ましい。
この構成によれば、高抵抗部と配線とが平面視において重なる機会が多くなるので、短絡の連鎖を最小限に抑制することができる。
【0014】
また前記第2の電極において、少なくとも前記高抵抗部以外の部分は、正の温度係数を有する材料を含んで構成されていることが望ましい。
この構成によれば、配線と第2の電極との短絡が発生しても、その周囲の温度上昇に伴って電気抵抗を上昇させることが可能になり、短絡の連鎖を効果的に抑制することができる。
【0015】
一方、本発明の電子機器は、上述した有機EL装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、短絡の連鎖を抑制することが可能な有機EL装置を備えているので、信頼性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で参照する各図面においては、理解を容易にするために、各構成要素の寸法等を適宜変更して表示している。なお「平面視」とは、基板面に対して垂直となる方向から見ることをいう。
【0017】
(第1実施形態)
最初に、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置につき、図1ないし図3を用いて説明する。
図1は、一般的な有機EL装置の側面断面図である。有機EL装置は、素子基板2と、素子基板2の表面に配設された駆動回路部5と、駆動回路部5の表面の画素領域26に配設された有機EL素子3と、有機EL素子3を封止する封止基板30とを主として構成されている。この有機EL素子3は、平面視において矩形状や円形状、長円形状等に形成され、素子基板2上にマトリクス状に整列配置されている。本実施形態では、有機EL素子3における発光光を素子基板2側から取り出すボトムエミッション型の有機EL装置を例にして説明する。
【0018】
(有機EL装置)
ボトムエミッション型の有機EL装置では、発光層60における発光光を素子基板2側から取り出すので、素子基板2としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラスや石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等を用いることが可能であり、特にガラス基板が好適に用いられる。
【0019】
素子基板2上には、有機EL素子3の駆動用TFT4(駆動素子4)などを含む駆動回路部5が形成されている。なお、駆動回路を備えた半導体素子を素子基板2に実装して有機EL装置を構成することも可能である。
【0020】
図2は、画素回路の回路図である。画素領域26には、画素回路400が形成されている。画素回路400は、2個の薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下「TFT」と省略する)4,402と、容量素子410と、有機EL素子3とを備えている。このうち、pチャネル型のTFT4のソース電極Sは、画素接続点Qにおいて電源線Lr2に接続され、そのドレイン電極Dは有機EL素子3の陽極に接続されている。また、TFT4のソース電極Sとゲート電極Gとの間には、容量素子410が設けられている。一方、TFT402のゲート電極は走査線101に接続され、そのソース電極はデータ線103に接続され、そのドレイン電極はTFT4のゲート電極に接続されている。
【0021】
このような構成において、走査信号Yiがハイレベルになると、nチャネル型TFT402がオン状態となるので、接続点Zの電圧が電圧Vdataと等しくなる。このとき、容量素子410にはVddr−Vdataに相当する電荷が蓄積される。次に、走査信号Yiがローレベルになると、TFT402はオフ状態となる。なおTFT4のゲート電極における入力インピーダンスは極めて高いので、容量素子410における電荷の蓄積状態は変化しない。すなわち、TFT4のゲート・ソース間電圧は、電圧Vdataが印加されたときの電圧(Vddr−Vdata)に保持される。そして有機EL素子3に流れる電流Ioledは、TFT4のゲート・ソース間電圧によって定まるので、有機EL素子3には電圧Vdataに応じた電流Ioledが流れる。
【0022】
このように電流Ioledの大きさは、TFT4のゲート・ソース間電圧(Vddr−Vdata)によって定まるので、各有機EL素子3において均一な輝度を得るためには、各画素回路400に対して同じ電圧Vddrを供給することが重要となる。そこで本実施形態では、電源線を格子状に配設して、配線抵抗に起因する電圧降下を低減する。
図3は、電源線の配線図である。電源線は、素子基板の周縁部に配置された主電源線LR,LG,LBと、第1副電源線Lr1,Lg1,Lb1と、第2副電源線Lr2,Lg2,Lb2とを含む。主電源線LR,LG,LBは、有機EL素子の発光色に対応して設けられている。発光色毎に主電源線LR,LG,LBを設けたのは、発光色毎に発光効率が相違する有機EL素子に対して、それぞれ適当な電流を供給することにより均一な輝度を得るためである。
【0023】
第1副電源線Lr1,Lg1,Lb1は、行方向に平行な配線であり、その一端が主電源線LR,LG,LBの一辺と接続されて、他端が画素領域26に延長されている。一方、第2副電源線Lr2,Lg2,Lb2は、列方向に平行な配線であり、その一端が主電源線LR,LG,LBに接続されて、他端が画素領域26に延長されている。第1副電源線Lr1,Lg1,Lb1と第2副電源線Lr2,Lg2,Lb2とは画素領域内で交差し、同一の主電源線に接続されたもの同士が副電源接続点P(図中の黒丸)で接続されている。また、第2副電源線Lr2,Lg2,Lb2と各画素回路400とが、画素接続点Q(図中の白丸)において接続されている。なお画素接続点Qは、第1副電源線Lr1,Lg1,Lb1または第2副電源線Lr2,Lg2,Lb2のうち少なくとも一方に設ければよい。
【0024】
このように、電源線を格子状に配設することによって、配線抵抗を大幅に低減することが可能になる。その結果、主電源線LR,LG,LBにおける電源電圧Vddr,Vddg,Vddbを、各画素回路400に対して均一に供給することが可能になり、輝度ムラおよび色ムラを大幅に改善することができるようになっている。
【0025】
図1に戻り、TFT4の周辺の具体的な構成について説明する。素子基板2の表面には絶縁材料からなる下地保護層281が形成され、その上に半導体材料であるシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO及び/又はSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。そのゲート絶縁層282の表面には、ゲート電極242が形成されている。このゲート電極242は、図示しない走査線の一部によって構成されている。なお前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と対向する領域がチャネル領域241aとされている。一方、ゲート電極242およびゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0026】
またシリコン層241のうち、チャネル領域241aの一方側には低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられ、チャネル領域241aの他方側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられている。このように、いわゆるLDD(Light Doped Drain )構造のTFT4が形成されている。
そして、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282および第1層間絶縁層283を貫通するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、上述した電源線の一部によって構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282および第1層間絶縁層283を貫通するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同層に配置されたドレイン電極244に接続されている。
【0027】
上述したソース電極243およびドレイン電極244、並びに第1層間絶縁層283の上層には、アクリル系やポリイミド系等の耐熱性絶縁性樹脂材料などを主体とする平坦化膜284が形成されている。この平坦化膜284は、TFT4やソース電極243、ドレイン電極244などによる表面の凹凸をなくすために形成されたものである。
【0028】
そして、平坦化膜284の表面には、複数の画素電極23が形成されている。この画素電極23は、平坦化膜284の表面にマトリクス状に配設されている。画素電極23は、該平坦化膜284に設けられたコンタクトホール23aを介して、ドレイン電極244に接続されている。すなわち画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
【0029】
また、平坦化膜284の表面における画素電極23の周囲には、SiO等の無機絶縁材料からなる無機隔壁25が形成されている。さらに無機隔壁25の表面には、ポリイミド等の有機絶縁材料からなる有機隔壁221が形成されている。そして、有機EL素子3の形成領域に配置された画素電極23の上方には、無機隔壁25の側面25aおよび有機隔壁221の側面221aが配置されている。
【0030】
そして、無機隔壁25の側面25aおよび有機隔壁221の側面221aの内側に、複数の有機機能層が積層されて、有機EL素子3が構成されている。有機EL素子3は、陽極として機能する画素電極(第1の電極)23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔注入層70と、有機EL物質からなる発光層60と、陰極(第2の電極)50とを積層して構成されている。
【0031】
ボトムエミッション型の有機EL装置の場合、陽極として機能する画素電極23は、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電材料によって形成されている。
正孔注入層70の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられる。
なお、正孔注入層70の形成材料としては、前記のものに限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えば前記のポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが使用可能である。
【0032】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0033】
陰極50は、主陰極および補助陰極を積層して構成されている。主陰極として、仕事関数が3.0eV以下のCaやMg、LiF等の材料を採用することが望ましい。これにより、主陰極に電子注入層としての機能が付与されるので、低電圧で発光層を発光させることができる。また補助陰極は、陰極全体の導電性を高めるとともに、主陰極を酸素や水分等から保護する機能を有している。そのため補助陰極として、導電性に優れたAlやAu、Ag等の金属材料を採用することが望ましい。
【0034】
一方、陰極50の上方には、SiO等からなる無機封止膜51が形成されている。その無機封止膜51の上方に、接着層40を介して封止基板30が貼り合わされている。なお、陰極50の全体を覆う封止キャップを素子基板2の周縁部に固着し、その封止キャップの内側に水分や酸素等を吸収するゲッター剤を配置してもよい。
【0035】
上述した有機EL装置では、画像信号がTFT4を介して所定のタイミングで画素電極23に印加される。そして、その画素電極23から注入された正孔と、陰極50から注入された電子とが、発光層60で再結合して所定波長の光が放出される。その発光光は、透明材料からなる画素電極23、駆動回路部5および素子基板2を透過して外部に取り出される。これにより、素子基板2側において画像表示が行われるようになっている。なお、無機隔壁25は絶縁材料で構成されているので、無機隔壁25の側面25aの内側のみに電流が流れて発光層60が発光する。そのため、無機隔壁25の側面25aの内側が有機EL素子3の画素領域26となっている。
【0036】
(高抵抗部)
図4は、第1実施形態に係る有機EL装置の平面図である。第1実施形態に係る有機EL装置では、上述した陰極に高抵抗部80が設けられている。高抵抗部80は、陰極の他の部分より電気抵抗が高い部分である。高抵抗部80は、平面視において矩形状に形成され、駆動回路部に埋設された電源線8と平面視において重なるように配置されている。なお電源線8は、ボトムエミッション型の有機EL装置における開口率の低下を防止するため、マトリクス状に配置された画素領域26の周囲に格子状に配設されている。そこで高抵抗部80は、複数の画素領域26のピッチに同期して画素領域26の周囲に配置されている。すなわち、縦方向または横方向に隣接する画素領域26の間に、それぞれ高抵抗部80が形成されている。
【0037】
図5(a)は、図4のA−A線における側面断面図である。図5(a)に示すように、陰極50の高抵抗部80の厚さは、陰極50の他の部分(以下「低抵抗部」という。)の厚さより、薄く形成されている。具体的には、低抵抗部の厚さが300〜400nm程度であるのに対して、高抵抗部80の厚さは50〜100nm程度に形成されている。これにより、高抵抗部の電気抵抗を低抵抗部より高くすることができる。なお、陰極50を構成する主陰極および補助陰極のうち、少なくとも補助陰極の厚さを変化させて、高抵抗部および低抵抗部を構成することが望ましい。導電性に優れた補助陰極の厚さを変化させることにより、高抵抗部80の電気抵抗を低抵抗部より高くすることができるからである。
【0038】
また補助陰極は、正の温度係数を有する材料を含んで構成されていることが望ましい。正の温度係数を有する材料とは、温度の上昇に伴って電気抵抗が上昇する材料であり、具体的には金属Ni等が該当する。この場合、電源線8と陰極との短絡が発生しても、その周囲の温度上昇に伴って電気抵抗を上昇させることができる。したがって、短絡の連鎖を効果的に抑制することができる。
【0039】
(有機EL装置の製造方法)
次に、第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法につき、図5(a)を用いて説明する。まず、素子基板の表面に駆動回路部(不図示)を形成する。その駆動回路部の表面に、画素電極23をマトリクス状に形成する。その画素電極23の周囲に、無機隔壁25および有機隔壁221を形成する。その無機隔壁25および有機隔壁221の開口部に、正孔注入層70や発光層60等の有機機能層を形成する。有機機能層の形成には、インクジェット法等の液相プロセスおよび減圧乾燥を採用することが望ましい。その場合、有機機能層の形成前に、予め画素電極23の表面に親液処理を施すとともに、有機隔壁221の側面および上面に撥液処理を施しておくことが望ましい。
【0040】
次に、蒸着法やスパッタ法等により陰極50を形成する。具体的には、まず素子基板の表面全体に主陰極を形成する。次に、主陰極の表面全体に下層補助陰極を形成する。この下層補助陰極の厚さは、積層された主陰極および下層補助陰極により高抵抗部80を構成しうる厚さとする。次に、高抵抗部80を遮蔽するハードマスクを用いて蒸着処理を行うことにより、下層補助陰極の表面に上層補助陰極を形成する。この上層補助陰極の厚さは、積層された主陰極、下層補助陰極および上層補助陰極により低抵抗部を構成しうる厚さとする。なお高抵抗部80を遮蔽するハードマスクについては第2実施形態で詳述する。以上により、高抵抗部80および低抵抗部を備えた陰極50が形成される。その後、陰極50の表面に無機封止膜51を形成する。
【0041】
図5(b)は、第1実施形態に係る有機EL装置の変形例の側面断面図である。この変形例では、陰極50を開口させて高抵抗部80が形成されている。その陰極50の開口には、SiO等の電気絶縁性材料からなる無機封止膜51が充填される。この高抵抗部80を形成するには、高抵抗部80を遮蔽するハードマスクを用いて、素子基板の表面に主陰極および補助陰極を順次形成すればよい。この構成によれば、蒸着処理の回数を低減することができるので、製造プロセスを簡略化することが可能になる。この場合でも、高抵抗部80は画素領域の周囲に配置されているので、有機EL素子の発光性能を低下させることはない。
【0042】
次に、第1実施形態に係る有機EL装置の作用について説明する。有機EL素子は電流制御型素子であり、充分な輝度を得るため陰極には大きな電流が流れるので、図9(b)に矢印55で示す電源線8と陰極50との間に短絡が発生するおそれがある。ひとたび短絡が発生すると、その部分に大きな電流が流れ、駆動回路を焼損させるだけでなく、隣接する領域が連鎖的に短絡することになる。そして図9(a)に示すように、電源線8が格子状に形成されているので、電源線8に沿った短絡の連鎖が基板全面に拡大するおそれがある。
【0043】
これに対して、図4に示す本実施形態の有機EL装置では、陰極の一部分に高抵抗部80が設けられ、その高抵抗部80は格子状に配置された電源線8と平面視において重なるように配置されている。この構成によれば、電源線8と陰極との間に短絡が発生して大きな電流が流れても、高抵抗部80には大きな電流が流れないので、電源線8に沿った短絡の連鎖を抑制することができる。しかも、複数の高抵抗部80が画素領域26のピッチと同期して画素領域26の周囲に設けられているので、短絡の連鎖を最小限に抑制することができる。これにより、短絡に伴う異常発熱を防止して、有機EL装置の信頼性を向上させることができる。
【0044】
なお第1実施形態では、縦方向または横方向に隣接する画素領域26の間にそれぞれ高抵抗部80を配設した。この場合、縦方向または横方向のいずれか一方向に延設された電源線8と平面視において重なるように、高抵抗部80が配設されることになる。これに対して、格子状に配設された電源線8の交差部9と平面視において重なるように、高抵抗部を配設してもよい。電源線8の交差部9では、電源線8が積層されて陰極との距離が短くなり、短絡が発生しやすくなっている。そこで、この交差部9と平面視において重なる部分に高抵抗部を配置することにより、短絡の連鎖を効果的に抑制することができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置につき、図6および図7を用いて説明する。
図6は、第2実施形態に係る有機EL装置の平面図である。第2実施形態に係る有機EL装置は、複数の高抵抗部80が画素領域26のピッチと同期しないように配置されている点で、第1実施形態と相違している。なお第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0046】
第2実施形態に係る有機EL装置の陰極にも、複数の高抵抗部80が設けられている。この高抵抗部80は、画素領域26より面積の大きい矩形状とされ、画素領域26の配列方向と交差する方向に整列配置されている。すなわち第2実施形態では、複数の高抵抗部80が、複数の画素領域26のピッチと同期しないように配置されている。なお第1実施形態と同様に、電源線8は画素領域26の周辺に、格子状に配設されている。これにより高抵抗部80は、その少なくとも一部が、駆動回路部に埋設された電源線8と平面視において重なるように配設されている。このように、画素領域26の配列方向と交差する方向に複数の高抵抗部80を整列配置することにより、高抵抗部80と電源線8とが平面視において重なる機会が多くなるので、短絡の連鎖を最小限に抑制することができる。
【0047】
なお第2実施形態では、高抵抗部80と画素領域26とが平面視において重なる部分も多い。しかしながら、島状に形成された高抵抗部の周囲には網目状に低抵抗部が形成されているので、各高抵抗部に対して画素領域の駆動に必要な電流を供給することができる。したがって、有機EL装置の発光性能を低下させることはない。
【0048】
第1実施形態と同様に、陰極の高抵抗部80の厚さは、陰極の低抵抗部の厚さより薄く形成されている。このような陰極を形成するには、まず素子基板の表面全体に主陰極を形成する。次に、主陰極の表面全体に下層補助陰極を形成する。この下層補助陰極の厚さは、積層された主陰極および下層補助陰極により高抵抗部80を構成しうる厚さとする。次に、高抵抗部80を遮蔽するハードマスクを用いて、下層補助陰極の表面に上層補助陰極を形成する。この上層補助陰極の厚さは、積層された主陰極、下層補助陰極および上層補助陰極により低抵抗部を構成しうる厚さとする。
【0049】
図7は、高抵抗部を遮蔽するハードマスクの平面図である。陰極において高抵抗部は島状に形成されるため、ハードマスク81における高抵抗部の遮蔽部82は遊離することになる。そこで、複数の遮蔽部82を細い連結部材84で連結してハードマスク81が構成されている。そして、このハードマスク81を素子基板の表面に配置する。なお第2実施形態では、画素領域のピッチと同期しないように高抵抗部を形成するので、素子基板に対してハードマスク81を厳密に位置合わせする必要がない。次に、蒸着法やスパッタ法等により上層補助陰極を形成する。この場合、蒸着粒子は遮蔽部82に遮られて高抵抗部の形成領域に付着せず、低抵抗部の形成領域のみに付着する。なお低抵抗部の形成領域には連結部材84が配置されているが、ハードマスク81を素子基板の表面から少し離して配置することにより、蒸着粒子が細い連結部材84を回り込んで付着する。また連結部材84の位置において低抵抗部の厚さが若干薄く形成されても、有機EL装置の発光性能を低下させることはない。さらに高抵抗部の輪郭が鮮明に形成されなくても、有機EL装置の発光性能に影響を与えることはない。
以上により、図6に示す高抵抗部80および低抵抗部を備えた陰極が形成される。
【0050】
図6に示す第2実施形態の有機EL装置では、高抵抗部の少なくとも一部が、平面視において電源線8と重なるように配設されている。この構成によれば、電源線8と陰極との間に短絡が発生して大きな電流が流れても、高抵抗部80には大きな電流が流れないので、電源線8に沿った短絡の連鎖を抑制することができる。そして第2実施形態では、画素領域のピッチと同期しないように高抵抗部を配設するので、素子基板に対してハードマスクを厳密に位置合わせする必要がない。したがって、製造プロセスを簡略化することができる。
【0051】
(電子機器)
図8は、本発明に係る電子機器の一構成例である薄型大画面テレビの斜視構成図である。図8に示す薄型大画面テレビ1200は、上記実施形態の有機EL装置からなる表示部1201と、筐体1202と、スピーカ等の音声出力部1203とを主体として構成されている。
【0052】
このような大画面テレビ1200では、多数の有機EL素子がマトリクス状に配設されているので、中央部の有機EL素子では電源線の配線抵抗による電圧降下が顕著になる。この配線抵抗による電圧降下を抑制するため、大画面テレビ1200では、電源線が格子状に配設されている。したがって、上記実施形態の有機EL装置を表示部1201に採用することにより、短絡の連鎖が画面全体に拡大するのを抑制することができる。これにより、信頼性に優れた大画面テレビを提供することができる。
【0053】
なお本発明の有機EL装置は、電源線が格子状に配設されている場合だけでなく、電源線がストライプ状に配設されている場合にも適用することが可能である。また本発明にいう配線には、電源線だけでなく走査線やデータ線等の制御線も含まれる。そのため、本発明の有機EL装置は、制御線と陰極との短絡の連鎖を抑制する場合にも適用することが可能である。
【0054】
したがって、本発明の有機EL装置を備えた電子機器としては、大画面テレビに限られず、例えばデジタルカメラやパーソナルコンピュータ、小型テレビ、携帯用テレビ、ビューファインダ型・モニタ直視型のビデオテープレコーダ、PDA、携帯用ゲーム機、ページャ、電子手帳、電卓、時計、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器などを挙げることができる。また本発明における有機EL装置を備えた電子機器として、車載用オーディオ機器や自動車用計器、カーナビゲーション装置等の車載用ディスプレイ、プリンタ用の光書き込みヘッドなどを挙げることもできる。
【0055】
なお、本発明の技術範囲は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、各実施形態で挙げた具体的な材料や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。例えば、上記実施形態ではボトムエミッション型の有機EL装置を例にして説明したが、トップエミッション型の有機EL装置に本発明を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一般的な有機EL装置の側面断面図である。
【図2】画素回路の回路図である。
【図3】電源線の配線図である。
【図4】第1実施形態に係る有機EL装置の平面図である。
【図5】第1実施形態に係る有機EL装置の側面断面図である。
【図6】第2実施形態に係る有機EL装置の平面図である。
【図7】高抵抗部を遮蔽するハードマスクの平面図である。
【図8】薄型大画面テレビの斜視構成図である。
【図9】従来の有機EL装置の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
8‥電源線 26‥画素領域 80‥高抵抗部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極を駆動する配線と、
他の部分よりも電気抵抗の高い高抵抗部を有し、前記高抵抗部の少なくとも一部が前記配線と平面的に重なるように配置された第2の電極と、
前記第1の電極および前記第2の電極によって挟持された発光層と、
を有することを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記配線は、格子状に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
複数の前記発光層が配列形成されるとともに、前記第2の電極は複数の前記高抵抗部を備え、
前記複数の高抵抗部は、前記複数の発光層のピッチと同期して、前記発光層の周囲に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記高抵抗部は、格子状に配設された前記配線の交差部と平面的に重なるように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記高抵抗部は、前記第2の電極を開口して形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の有機EL装置。
【請求項6】
複数の前記発光層が配列形成されるとともに、前記第2の電極は複数の前記高抵抗部を備え、
前記複数の高抵抗部は、前記複数の発光層のピッチと同期しないように配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記複数の高抵抗部は、前記複数の発光層の配列方向と交差する方向に整列配置されていることを特徴とする請求項6に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記第2の電極において、少なくとも前記高抵抗部以外の部分は、正の温度係数を有する材料を含んで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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