説明

有機EL装置の製造方法、及び有機EL装置、並びに有機EL装置の製造装置

【課題】有機EL層の膜密度を高める。
【解決手段】WIP法又はCIP法等の汎用のプレス法を用いて塗布膜30に均一に加圧し、塗布膜30に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層50を形成する。この際、隔壁部47の表面及び塗布膜30の表面に密着したパッキング部材80上から所定の温度に温度管理された水等の流体81を介して圧力を加える。凹凸が存在しても容易に塗布膜30の表面に加圧することが可能である。加えて、流体81は、パッキング部材80の表面に接するように基板1上において、加えられた圧力に応じて基板1上の凹部62内に入り込み、凹部62内に形成された塗布膜30の表面に均一に接し、且つ流体81に加えられた圧力を全ての方向に均一に伝達する。これにより、塗布膜30の表面をラミネートする密着部80aに流体81を介して均一に圧力が伝達され、塗布膜30の表面に均一に加圧できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット法等の塗布法を用いて有機EL層を形成する有機EL装置の製造方法、及びそのような製造方法によって形成された有機EL装置、並びに有機EL装置の製造装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の有機EL装置の製造方法では、有機EL層を形成する方法として、例えば真空蒸着法等の物理的蒸着法を用いて低分子材料を蒸着させる方法と、インクジェット法等の塗布法を用いて高分子材料を塗布する方法とがある。
【0003】
有機EL層の膜質は、有機EL装置の表示特性及び寿命を高めるために重要な因子であり、例えば特許文献1は、塗布法を用いて形成された有機EL層に加圧することによってその下層側に形成された他の層と有機EL層との密着性を高め、有機EL素子の長寿命化を図る技術を開示している。また、特許文献2に開示された技術によれば、有機化合物にラビング処理を施すことによって有機化合物の発光方向を電極側に向け、発光素子の光取り出し効率を高めている。特許文献3は、発光層にラビング処理を施すことによって薄膜且つ大面積の発光層を形成する技術を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開平8−306954号公報
【特許文献2】特開2005−100976号公報
【特許文献3】特開2005−26000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の有機EL装置の製造方法では、通常、有機EL層の一方の面側に、LiF等のアルカリ金属、或いはアルカリ土類金属を含む電子注入層と、Al等の金属薄膜からなる陰極を形成する。
【0006】
塗布法を用いて形成された有機EL層は、蒸着法を用いて形成された有機EL層に比べて粗膜であるため、蒸着法を用いて形成された有機EL層上に形成される電子注入層及び陰極と同様の成膜条件で電子注入層及び陰極を形成した場合、有機EL層の初期的な特性が低下してしまうことが多い。より具体的には、蒸着法を用いて形成された有機EL層上に形成される、例えば1nmの膜厚を有するLiF等からなる電子注入層及びこの電子注入層上に形成されるAl等からなる陰極と同様の電子注入層及び陰極を、塗布法を用いて形成された有機EL層上に形成した場合、化学的に不安定なLi原子或いはイオンが有機EL層に拡散してしまい、これら拡散した原子又はイオンに起因して有機EL層の特性が低下してしまう。
【0007】
一方、化学的に不安定な材料によって構成される電子注入層の膜厚を5乃至10nm程度まで厚くした場合、有機EL装置の寿命、即ち信頼性を低下させてしまう問題が生じてしまう。
【0008】
塗布法で形成された有機EL層の他方の面側には、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明導電材料で形成された陽極及び正孔注入層が形成される。塗布法を用いて形成された有機EL層は粗膜であるため、陽極から有機EL層に拡散したインジウム原子によって有機EL層の寿命が低下してしまう場合もある。
【0009】
このように、塗布法を用いて形成された有機EL層が粗膜であることを主たる要因として、有機EL装置に様々な不具合が生じる。
【0010】
そこで、本願発明者等は、有機EL材料を塗布してなる塗布膜をアニールする際のアニール条件を最適化することにより、塗布膜をアニールしてなる有機EL層の初期特性を高めることを検討した。
【0011】
しかしながら、有機EL層の表面平坦性を上げることによって有機EL装置の表示特性は向上するが、有機EL層が粗膜である点について根本的な解決が図られるに至っていないのが実情である。
【0012】
また、塗布法の一例であるインクジェット法を用いて有機EL材料を塗布する場合、有機EL材料が塗布される領域、即ち基板上の凹部を規定する、所謂隔壁部の存在によって基板上には凹凸が形成されている。凹部に形成された有機EL層に加圧するために特許文献2及び3に記載されたローラを応用した場合、隔壁部の存在によって有機EL層に均一にローラを接触させることが困難であり、十分、且つ均一に有機EL層に加圧することは難しい。加えて、特許文献1に開示された技術を応用して有機EL層に加圧した場合、加圧槽内に充填されたガス等の流体が有機EL層に直接接することになり、有機EL層の膜質を低下させてしまう虞がある。
【0013】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、インクジェット法等の塗布法を用いて形成される有機EL層の初期的な特性及び寿命が高められた有機EL装置を製造するための有機EL装置の製造方法、及びそのような製造方法を用いて製造された有機EL装置、並びに有機EL装置の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法は上記課題を解決するために、基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜工程と、前記塗布膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート工程と、流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成する加圧工程とを備える。
【0015】
本発明に係る有機EL装置の製造方法によれば、凹部は、例えば成膜工程に先んじて基板上に形成された隔壁部によって規定されており、各画素部の各々内に設けられている。
【0016】
成膜工程において、例えばインクジェット法等の塗布法を用いて有機EL材料を凹部に塗布し、後述するラミネート工程及び加圧工程を経て最終的に有機EL層となる塗布膜を形成する。このような塗布膜は、例えば赤色、緑色、及び青色の夫々の色に発光する有機EL材料をインクジェット法を用いて各凹部に塗り分けられることによって形成されていてもよいし、凹部の内壁面及び凹部を規定する隔壁部の表面に沿って連続した一枚の膜として、スピンコート法等を用いて形成されていてもよい。凹部に塗布膜が形成された基板上には、例えば凹部を規定する隔壁部の凹凸形状に応じた凹凸が形成されている。
【0017】
ラミネート工程において、ラミネート膜によって塗布膜の表面をラミネートする。塗布膜の表面をラミネートする際には、既存のラミネート法を用いればよい。ラミネート膜は、後述する加圧工程において流体が塗布膜に接しないように塗布膜の表面を保護する。
【0018】
加圧工程において、流体を介してラミネート膜上から塗布膜に均一に加圧する。流体を介して加圧することによって、凹部に塗布膜を形成した場合でも塗布膜に均一に加圧できる。より具体的には、ローラ等を用いて基板上から塗布膜に加圧した場合、凹凸の存在によって塗布膜に均一に接するように基板上においてローラを移動させることは困難である。しかしながら、流体は、加えられた圧力に応じて基板上の凹部内に入り込み、凹部内に形成された塗布膜の表面に均一に接することが可能である。
【0019】
加えて、流体は、流体に加えられた圧力を全ての方向に均一に伝達する。したがって、塗布膜の表面をラミネートするラミネート膜に流体を介して均一に圧力が伝達され、塗布膜の表面に均一に加圧できる。このような流体としては、例えば汎用のプレス工程で用いられる水或いはオイル等の圧力伝達媒体を用いればよい。
【0020】
流体に加えられた圧力がラミネート膜を介して間接的に塗布膜の表面に伝達されるため、例えば水或いはオイル等の流体を用いた場合でも、これら流体が塗布膜に接することがない。したがって、水又はオイル等の流体が塗布膜に接することによって塗布膜の膜質が低下することを抑制できる。
【0021】
加圧工程において、塗布膜に均一に加圧することによってこの塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成する。これにより、例えば化学的に不安定なアルカリ金属等の金属材料を有機EL層上に蒸着した場合、これら金属材料が有機EL層中に拡散することを低減でき、有機EL層の初期特性が低下することを低減できる。
【0022】
ここで、“膜密度”は、例えば、有機EL層の膜厚を基準とする、塗布膜の相対的な膜厚比によって定義される指標である。したがって、膜密度が1より大きければ、有機EL層の膜密度が塗布膜に比べて大きくなっていることになる。尚、以下の各発明において、“膜密度”は、本発明の膜密度と同様に定義されることに留意されたい。
【0023】
このように、本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法によれば、塗布法を用いて形成された塗布膜を基に、この塗布膜より膜密度が高い有機EL層を形成できる。したがって、膜密度が低い塗布膜をそのまま有機EL層等の発光層として用いる場合に比べて、有機EL層の初期特性及び寿命を高めることが可能である。
【0024】
本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法の一の態様では、前記ラミネート工程において、前記ラミネート膜を含む袋状のパッキング部材を用いることによって、前記塗布膜までが形成された基板をパッキングしてもよい。
【0025】
この態様によれば、例えば塗布膜までが形成された基板を袋状のパッキング部材内に収納した後、このパッキング部材内から空気を排気することによって、ラミネート膜及び塗布膜間に空気を介在させることなく、塗布膜の表面をラミネート膜によってラミネートできる。この場合、ラミネート膜は、袋状のパッキング部材の一部を構成する膜であり、パッキング部材内から空気を排気することによってラミネート膜を塗布膜の表面に密着させることが可能である。この態様によれば、ラミネート膜によって簡便に塗布膜の表面をラミネートできる。
【0026】
本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法は上記課題を解決するために、基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜工程と、前記塗布膜上に電極膜を形成する電極膜形成工程と、前記電極膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート工程と、流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成する加圧工程とを備える。
【0027】
本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法によれば、上述の本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、先ず塗布膜を形成する。
【0028】
次に、電極膜形成工程において、塗布膜上に電極膜を形成する。電極膜は、例えば蒸着法を用いて電極材料を用いて形成された膜であり、電極膜が陰極である場合には、アルカリ金属等を用いて塗布膜上に形成された電子注入層及びこの電子注入層上にAl等の金属材料を蒸着させてなる陰極本体を含む積層構造を有していてもよい。
【0029】
ラミネート工程において、電極膜の表面をラミネート膜によってラミネートする。これにより、上述の本発明の1の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、後述する加圧工程において流体が電極膜に接することを低減でき、流体によって電極膜が劣化することを低減できる。
【0030】
加圧工程において、塗布膜に均一に加圧することによってこの塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成する。上述の本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、塗布法を用いて形成された塗布膜を基に、この塗布膜より膜密度が高い有機EL層を形成できる。したがって、膜密度が低い塗布膜をそのまま有機EL層等の発光層として用いる場合に比べて、有機EL層の初期特性及び寿命を高めることが可能である。
【0031】
本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法の一の態様では、前記ラミネート工程において、前記ラミネート膜を含む袋状のパッキング部材を用いることによって、前記電極膜までが形成された基板をパッキングしてもよい。
【0032】
この態様によれば、上述の本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、電極膜の表面をラミネート膜によってラミネートできる。これにより、ラミネート膜を電極の表面に密着させることが可能である。この態様によれば、ラミネート膜によって簡便に電極膜の表面をラミネートできる。
【0033】
本発明の第1及び第2の発明に係る有機EL装置の製造方法の他の態様では、前記加圧工程が施された後、前記ラミネート膜を除去してもよい。
【0034】
この態様によれば、例えば膜密度が高められた有機EL層上に、例えば蒸着法を用いて電極膜を形成できる。また、電極膜をラミネート膜を除去することによって、基板上において直接電極膜に配線を電気的に接続することが可能である。
【0035】
尚、塗布膜を加圧することによって形成された有機EL層は、蒸着法を用いて形成された有機EL層に比べてその下地である凹部との密着力が高いため、加圧工程の後に有機EL層からラミネート膜を剥離した場合であっても、有機EL層が下地である凹部から剥離することはない。
【0036】
本発明の第1及び第2の発明に係る有機EL装置の製造方法の他の態様では、前記加圧工程において、冷間静水圧プレス、又は温間静水圧プレスによって前記塗布膜に加圧してもよい。
【0037】
この態様によれば、汎用の冷間静水圧プレス(CIP)、又は温間静水圧プレス(WIP)を用いて、簡便に膜密度が高められた有機EL層を形成できる。
【0038】
本発明の第3の発明に係る有機EL装置は上記課題を解決するために、基板と、前記基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって形成された塗布膜の表面をラミネートするラミネート膜に流体を介して均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められるように形成された有機EL層とを備える。
【0039】
本発明の第3の発明に係る有機EL装置によれば、本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、膜密度が低い塗布膜をそのまま有機EL層等の発光層として用いる場合に比べて、有機EL層の初期特性及び寿命が高められた有機EL装置を提供できる。
【0040】
本発明の第4の発明に係る有機EL装置は上記課題を解決するために、基板と、基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって形成された塗布膜上に形成された電極膜と、前記電極膜の表面をラミネートするラミネート膜と、流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められるように形成された有機EL層とを備える。
【0041】
本発明の第4の発明に係る有機EL装置によれば、本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、膜密度が低い塗布膜をそのまま有機EL層等の発光層として用いる場合に比べて、有機EL層の初期特性及び寿命が高められた有機EL装置を提供できる。尚、本発明の第4の発明に係る有機EL装置によれば、ラミネート膜が残された状態であっても、例えば基板におけるラミネート膜が形成されていない部分、或いはラミネート膜に形成された孔部から電極膜及び外部回路を電気的に接続できる。
【0042】
本発明の第5の発明に係る有機EL装置は上記課題を解決するために、基板と、基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって形成された塗布膜上に形成された電極膜と、前記電極膜の表面をラミネートするラミネート膜上から流体を介して前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められるように形成された有機EL層とを備える。
【0043】
本発明の第5の発明に係る有機EL装置によれば、本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、膜密度が低い塗布膜をそのまま有機EL層等の発光層として用いる場合に比べて、有機EL層の初期特性及び寿命が高められた有機EL装置を提供できる。
【0044】
本発明の第6の発明に係る有機EL装置の製造装置は上記課題を解決するために、基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜手段と、流体を介して前記塗布膜に均一に加圧することによって前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成するために、前記塗布膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート手段とを備える。
【0045】
本発明の第6の発明に係る有機EL装置の製造装置によれば、本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、有機EL材料を用いて形成された塗布膜の表面をラミネートできる。加えて、本発明の第6の発明に係る有機EL装置の製造装置によれば、例えばインクジェット装置等の成膜手段と、ラミネート装置等のラミネート手段とが併設されているため、塗布膜の形成及びラミネート膜による塗布膜表面のラミネートを連続した工程で、且つ迅速に行うことが可能である。したがって、インクジェット装置及びラミネート装置を別々に設ける場合に比べて、有機EL装置の生産性を高めることが可能である。
【0046】
本発明の第7の発明に係る有機EL装置の製造装置は上記課題を解決するために、基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜手段と、前記塗布膜上に形成された電極膜に流体を介して均一に加圧することによって前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成するために、前記電極膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート手段とを備える。
【0047】
本発明の第7の発明に係る有機EL装置の製造装置によれば、本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法と同様に、有機EL材料を用いて形成された塗布膜の表面をラミネートでき、有機EL装置の生産性を高めることが可能である。尚、電極膜を形成する、例えば蒸着装置は、本発明の第7の発明に係る有機EL装置に併設されていてもよいし、別に設けられていてもよい。
【0048】
本発明の第6及び第7の発明に係る有機EL装置の製造装置の一の態様では、前記流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧する加圧手段を備えていてもよい。
【0049】
この態様によれば、例えば、汎用の冷間静水圧プレス(CIP)装置、又は温間静水圧プレス(WIP)装置等の加圧手段をインクジェット装置及びラミネート装置と併設することによって、更に有機EL装置の生産性を高めることが可能である。
【0050】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、図面を参照しながら本発明に係る有機EL装置の製造方法、及び有機EL装置、並びに有機EL装置の製造装置の各実施形態を説明する。
【0052】
(第1実施形態)
(有機EL装置の構成)
図1乃至図7を参照しながら、本発明の第1の発明に係る有機EL装置の製造方法、及び本発明の第3の発明に係る有機EL装置、並びに本発明の第6の発明に係る有機EL装置の製造装置の各実施形態を説明する。
【0053】
先ず、図1乃至図3を参照しながら本実施形態に係る有機EL装置の構成を説明する。
図1は、本実施形態の有機EL装置10の全体構成を示すブロック図である。有機EL装置10は、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式で駆動される表示装置であり、有機EL装置10が有する各画素部70はサブ画素部71R、71G及び71Bを含んで構成されている。
【0054】
図1において、有機EL装置10の画素領域110には、縦横に配線されたデータ線114及び走査線112が設けられており、それらの交点に対応する各サブ画素部71R、71G、及び71Bはマトリクス状に配列され、これら3つのサブ画素部を一組として一つの画素部70が構成されている。後述するように、サブ画素部71R、71G及び71Bの夫々は、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の各色の波長を有する光を出射する。これにより、有機EL装置10は、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150による画素部70の制御下で画像をフルカラー表示できる。
【0055】
画素領域110には各データ線114に対して配列されたサブ画素部71R、71G及び71Bに対応する電源供給線117が設けられている。
【0056】
画素領域110の周辺に位置する周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130は複数の走査線112に走査信号を順次供給する。データ線駆動回路150は、画素領域110に配線されたデータ線114に画像信号を供給する。尚、走査線駆動回路130の動作とデータ線駆動回路150の動作とは、同期信号線160を介して相互に同期が図られる。
【0057】
電源供給線117には、外部回路から画素部70を駆動するための画素駆動用電源が供給される。図1中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子72R、72G及び72Bが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78がサブ画素部毎に設けられている。スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74のドレイン電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のソース電極には有機EL素子72の陽極が電気的に接続されている。
【0058】
尚、本実施形態に係る有機EL装置は、図1に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム方式の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0059】
次に、図2乃至図3を参照しながら有機EL装置10の具体的な構成を説明する。図2は、有機EL装置10の概略構成を示す平面図であり、図3は図2のIII−III´線断面図である。
【0060】
図2及び図3において、有機EL装置10は、基板1上の画素領域110に形成された複数の画素部70を備えている。
【0061】
画素部70は、基板1上における画素領域110にマトリクス状に配設されている。画素部70は、図中横方向に沿って配列された3つのサブ画素部71R、71G及び71Bを一組として構成されており、画素領域110の図中縦方向及び横方向の夫々に沿って配列されている。各サブ画素部71のうち隔壁部47に囲まれた凹部62に有機EL素子72が形成されている。
【0062】
図3において、有機EL装置10は、基板1、有機EL素子72R、72G及び72B、隔壁部47、及び封止部20を備えている。
【0063】
有機EL素子72は、有機EL層50、各有機EL層50上に形成された陰極49、各有機EL層50の下層側に形成された陽極34、光反射膜31、及び腐食防止膜33を備えている。
【0064】
有機EL層50は、隔壁部47によって規定された凹部62にインクジェット法を用いて形成されている。より具体的には、有機EL層50は、赤色に発光する有機EL材料、緑色に発光する有機EL材料、及び青色に発光する有機EL材料をサブ画素部71毎に規定された凹部62に塗り分けることによって形成された塗布膜が加圧されることによって形成されている。したがって、有機EL素子72R、72G及び72Bが備える有機EL層50R、50G及び50Bは、加圧されていない塗布膜に比べて膜密度が相対的に高められている。このような有機EL層50によれば、膜密度が低い塗布膜をそのまま発光層として用いる場合に比べて、陰極49に含まれるアルカリ金属等の化学的に不安定な金属が有機EL層50に拡散することを低減でき、有機EL素子72の初期特性及び寿命を高めることが可能である。
【0065】
尚、本実施形態では、有機EL層50が、サブ画素部71毎に設けられた凹部62に有機EL材料を塗り分けることによって形成された場合を説明するが、本発明の第3の発明に係る有機EL装置は、凹部62の内壁面及び凹部62を規定する隔壁部47の表面に沿って連続した一枚の膜として、スピンコート法等を用いて形成された有機EL層を有していてもよい。このような有機EL層も、後述する加圧工程によって加圧されることによって膜密度が高められる。
【0066】
各有機EL層50から出射された赤色光、緑色光、及び青色光は、有機EL層50の下層側に形成された光反射膜31によって図中上側に反射される。これにより、有機EL装置10は画像をフルカラー表示できる。尚、有機EL層50は発光層として機能する層だけでなく、電子注入層或いは電子輸送層等の各種層を含んでいてもよい。腐食防止膜33は、有機EL素子72の動作によって光反射膜31が腐食することを防止する。
【0067】
陽極34は、基板1上に順次形成された平坦な層間絶縁膜41、保護層45、光反射膜31及び腐食防止膜33のうち腐食防止膜33上に形成されている。陽極34は、例えばITO等の透明な導電材料によって形成されている。陽極34は、サブ画素部71R、71G及び71Bの夫々に有機EL層50の下層側に形成されており、有機EL層50から出射された光を透過させる。陽極34を透過した光は、光反射膜31によって図中上側に反射される。したがって、本実施形態に係る有機EL装置10は、所謂トップエミッション型の有機EL装置である。尚、本発明の第3の発明に係る有機EL装置は、基板1側に向かって光を出射する、所謂ボトムエミッション型の有機EL装置にも適用可能である。
【0068】
陰極49は、有機EL層50を介して陽極34に対向するようにサブ画素部71R、71G及び71Bに共通に形成されている。より具体的には、陰極49は、各サブ画素部70を互いに分ける隔壁部47の表面及び各有機EL層50の表面を被うように形成され、異なるサブ画素部71R、71G及び71Bの夫々が有する有機EL素子72R、72G及び72Bに共通とされる共通電極である。陰極49は、Al等の金属薄膜或いは複数の金属薄膜が積層された積層膜であり、各有機EL層50から出射された赤色光、緑色光及び青色光を有機EL層50の上層側に透過させるように薄く形成されている。
【0069】
封止板20は、ガラス等の光透過性を有する材料を用いて形成されており、水分が有機EL装置10の外部から有機EL層50に浸入することを防止する。より具体的には、封止板20は、基板1上に接着剤によって接着されており、有機EL素子72が大気に触れないように封止する。封止板20は、例えば封止板20の周縁部にディスペンサ等の塗布手段を用いて塗布された接着剤を介して基板1に接着され、封止されている。これにより、例えば大気中に含まれる水分によって有機EL素子72が劣化することを低減でき、有機EL装置10の寿命を延ばすことが可能である。
【0070】
(有機EL装置の製造方法)
次に、図4乃至図6を参照しながら、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法を説明する。図4は、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程フローを示した工程図である。図5は、図4に示すラミネート工程を模式的に示した工程図である。図6は、図4に示す加圧工程を模式的に示した工程図である。
【0071】
図4において、基板1上の画素領域110を構成する複数の画素部70の各々内に設けられた凹部62にインクジェット法を用いて有機EL材料を塗布し、塗布膜を形成する(S10)。この成膜工程において形成された塗布膜は、後述する加圧工程を経て最終的に形成される有機EL層50の基になる膜である。
【0072】
次に、乾燥工程において塗布膜を乾燥させた(S20)後、ラミネート工程において、乾燥させた塗布膜の表面をラミネート膜によってラミネートする(S30)。これにより、塗布膜の表面がラミネート膜によって保護される。
【0073】
ここで、図5を参照しながら、ラミネート工程を詳細に説明する。尚、図5では、説明の便宜上、図3に示した基板1上の詳細な構成を省略している。
【0074】
図5(a)において、袋状のパッキング部材80内に、各凹部62に塗布膜30までが形成された基板1を収納する。パッキング部材80は、その端に排気口82を備えている。パッキング部材80内の空気は、例えば、排気口82に接続されたポンプ等の排気手段によって排気口80からパッキング部材80の外部に排気される。
【0075】
図5(b)は、パッキング部材80によって基板1がパッキングされた状態を示す。図5(b)に示すように、空気が排気されたパッキング部材80は、基板1、基板1上に形成された塗布膜30及び凹部62を規定する隔壁部47に密着する。したがって、パッキング部材80の塗布膜30に密着する密着部80aが、本発明の「ラミネート膜」の一例を構成する。密着部80aは、密着部80a及び塗布膜30間に空気を介在させることなく、塗布膜30の表面をラミネートする。加えて、パッキング部材80は、基板1上に形成された凹部62及び凹部62を規定する隔壁部47の表面に密着する。したがって、パッキング部材80によれば、基板1上に凹凸が存在する場合でも、この凹凸に応じて基板1に密着でき、塗布膜30の表面を簡便にラミネートすることが可能である。加えて、パッキング部材80は、後述する加圧工程において水等の流体が塗布膜30に接しないように、塗布膜30を保護する。これにより、流体81が塗布膜30に接することによって有機EL層50の膜質が低下することを抑制できる。
【0076】
尚、本実施形態では、パッキング部材80を用いて塗布膜30までが形成された基板1をパッキングしているが、塗布膜30の表面をラミネートする際には、汎用のラミネート法を用いて塗布膜30の表面のみをラミネートしてもよい。
【0077】
再び、図4に戻り、密着部80aによってラミネートされた塗布膜30に加圧し、塗布膜30の膜密度を高める(S40)。
【0078】
ここで、図6を参照しながら、塗布膜30に加圧する加圧工程を詳細に説明する。図6に示すように、WIP法又はCIP法等の汎用のプレス法を用いて塗布膜30に均一に加圧し、塗布膜30に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層50を形成する。この際、隔壁部47の表面及び塗布膜30の表面に密着したパッキング部材80上から所定の温度に温度管理された水等の流体81を介して圧力が加えられる。
【0079】
流体81を用いて塗布膜30に圧力を加えることによって、ローラ等を用いて基板1上から塗布膜30に加圧する場合のように凹凸の存在によって塗布膜30に加圧することが困難な場合に比べて容易に塗布膜30の表面に加圧することが可能である。加えて、流体81は、加えられた圧力に応じて基板1上の凹部62内に入り込み、凹部62内に形成された塗布膜30の表面に均一に接し、且つ流体81に加えられた圧力を全ての方向に均一に伝達する。これにより、塗布膜30の表面をラミネートする密着部80aに流体81を介して均一に圧力が伝達され、塗布膜30の表面に均一に加圧できる。このようにして、塗布膜30に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層50が形成される。
【0080】
尚、流体81としては、例えば汎用のプレス工程で用いられる水以外の他にオイル等の圧力伝達媒体を用いてもよい。このような流体を用いた場合でも、水を用いた場合と同様に均一に膜密度が高められた有機EL層50を形成できる。
【0081】
再び、図4に戻り、剥離工程においてパッキング部材80を有機EL層50から剥離する(S50)。有機EL層50は、塗布法の一例であるインクジェット法を用いて形成された塗布膜30に加圧することによって形成されているため、蒸着法を用いて形成された有機EL層に比べて通常凹部62との密着力が高い。したがって、有機EL50からパッキング部材80を剥離する際に、有機EL層50が凹部62から剥離することはない。
【0082】
次に、陰極形成工程において、LiF層等の電子注入層を含む陰極49を蒸着法を用いて有機EL層50上に形成する(S60)。有機EL層50は、塗布膜30に比べて相対的に膜密度が高められているため、化学的に不安定なLi等のアルカリ金属を含む薄膜を有機EL層上に蒸着法を用いて形成した場合でも、Li等のアルカリ金属が有機EL層50中に拡散することを低減できる。したがって、有機EL層50によれば、Li等のアルカリ金属の拡散によって有機EL層50の初期特性が低下することを抑制できる。
【0083】
最後に、陰極49までが形成された基板1及び封止板20とを接着し(S70)、図3に示した有機EL装置10を組み上げる。
【0084】
このように、本実施形態の有機EL装置の製造方法によれば、塗布法を用いて形成された塗布膜30を基に、塗布膜30より膜密度が高い有機EL層50を簡便に形成できる。したがって、膜密度が低い塗布膜30をそのまま有機EL層等の発光層として用いる場合に比べて、有機EL層の初期特性及び寿命を高めることが可能である。
【0085】
(有機EL装置の製造装置)
次に、図7を参照しながら、本実施形態に係る有機EL装置の製造装置の構成を説明する。図7は、本実施形態に係る有機EL装置の製造装置の概略構成を示す平面図である。
【0086】
図7において、有機EL装置の製造装置(以下、単に“製造装置”と称す。)90は、インクジェット装置91、乾燥装置92、ラミネート装置93、加圧装置94、搬送室95、搬送ロボット96、シャッターSH1、SH2、SH3及びSH4を備えている。
【0087】
インクジェット装置91は、隔壁部47によって凹部62までが形成された基板1上に有機EL材料を含むインクを塗布する。インクジェット装置91は、凹部62にインクが塗り分けるノズルをチャンバー内に備えており、各色に発光する有機EL材料を含むインクが凹部62毎に塗り分けられる。
【0088】
搬送室95は、シャッターSH1、SH2、SH3、SH4、及びSH5を介してインクジェット装置91、乾燥室92、ラミネート装置93及び加圧装置94と接続されている。搬送室95内に設けられた搬送ロボット96は、順次開閉されたシャッターSH1及びSH2を介して、塗布膜30が形成された基板1をインクジェット装置91から乾燥装置92に搬送する。
【0089】
乾燥装置92は、基板1上に形成された塗布膜30を乾燥させる。搬送ロボット96は、順次開閉されたシャッターSH2及びSH3を介して基板1を乾燥装置92からラミネート装置93に搬送する。
【0090】
ラミネート装置93は、乾燥装置92によって乾燥させた塗布膜30をラミネートする。ラミネート装置93は、例えばパッキング部材80を用いて基板1をパッキングすることによって塗布膜30の表面をラミネートする。
【0091】
搬送ロボット96は、順次開閉されたシャッターSH3及びSH4を介してラミネートされた基板1を加圧装置94に搬送する。成膜装置91、乾燥装置92及びラミネート装置93によって、一つの製造装置90内において連続的に成膜工程、乾燥工程及びラミネート工程を連続して行うことによって、製造装置90とは別に設けられたラミネート装置によってラミネート工程を施す場合に比べて、有機EL装置の生産性を高めることが可能である。
【0092】
加圧装置94は、例えばWIP法或いはCIP法統の汎用のプレス装置であり、塗布膜30に均一に加圧することによって膜密度が高められた有機EL層50を形成する。尚、WIP装置又はCIP装置等の加圧装置は、通常インクジェット装置、乾燥装置およびラミネート装置に比べてサイズが大きいため、製造装置90とは別に設けられていてもよい。有機EL層50が形成された基板1は、シャッターSH5を介して加圧装置94から不図示の剥離装置及び蒸着装置に搬送され、パッキング部材が基板1から除去された後、蒸着装置によって陰極49が形成される。
【0093】
尚、製造装置90は、加圧工程が施された基板1からパッキング部材80を除去する剥離装置を備えていてもよいし、更に陰極を形成するための蒸着装置を備えていてもよい。また、製造装置90とは別に設けられた剥離装置によって基板1からパッキング部材を除去した後、剥離装置と同様に製造装置90とは別に設けられた蒸着装置によって陰極49が形成されてもよい。
【0094】
このように、本実施形態の有機EL装置の製造装置90によれば、本実施形態の有機EL装置の製造方法を迅速、且つ効率的に実施可能である。したがって、本実施形態の有機EL装置の製造装置90によれば、本実施形態の有機EL装置の製造方法の利点を生かしつつ、優れた表示性能を有する有機EL装置10を効率良く製造できる。
【0095】
(実施例)
次に、表1及び表2を参照しながら、本願発明者等が本実施形態に係る有機EL装置について行った試験及びその試験結果を説明する。本試験では、有機EL層50の加圧方法及び有機EL層上に形成されたLiF膜の夫々の膜厚が異なる有機EL装置を試料A、B、C、D、E及びFとし、各試料における有機EL層の単位面積当りの輝度が所定の輝度以下になるまでの時間を測定した。より具体的には、試料A乃至Fの輝度が、1000cd/cm以下になるまでの時間を測定した。
【0096】
尚、試料A乃至Fの夫々は、有機EL装置10と同様の構成を有しており、表1に示した有機EL層に対する加圧条件が異なる点で互いに相違する。試料A乃至Fは、基板、ITOで形成された陽極、正孔注入層であるPEDOT膜及び発光層である有機EL層、更にその上にLiF及びCaからなる複合膜として形成された電子注入層、及びAlを蒸着させることによって形成された陰極を備えている点で共通の構成を有している。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

表1及び表2に示すように、本試験では、膜密度が高い試料ほど、所定の輝度以下になるまでの時間、即ち寿命が延びることが分かった。より具体的には、有機EL層に加圧しなかった試料Aに比べて試料C、D及びEでは、有機EL層に加圧する際の温度、圧力を上げるほど有機EL層の膜密度が向上し、これに伴い有機EL装置の寿命が延びることが分かった。また、LiF膜の膜厚が互いに異なる試料E及びFでは、寿命が6500時間から8000時間以上に向上している。この原因の一つとしては、本願発明者等は、LiF膜の膜厚を薄くしたこと及び有機EL層の表面平坦性が高められたことが有機EL装置の寿命が延びた原因の一つであると推察している。また、試料Bは、ローラによって有機EL層に加圧されていないため、膜密度が高められていない結果となった。
【0099】
このようの、本願発明者等が行った試験によれば、有機EL層の膜密度を高めることによって有機EL装置の寿命が延びることが確認された。したがって、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によれば、加圧工程を施した有機EL層によって、長期間に亘って優れた表示性能を維持できる有機EL装置を提供可能であることが確認された。
【0100】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法、本発明の第4及び第5の発明に係る有機EL装置、及び本発明の第7の発明に係る有機EL装置の製造装置の各実施形態を説明する。尚、以下の有機EL装置の製造方法、及び有機EL装置並びに有機EL装置の製造装置では、第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法、及び有機EL装置、並びに有機EL装置の製造装置と共通する部分について共通の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0101】
(有機EL装置の構成)
図8を参照しながら、本実施形態の有機EL装置の構成を説明する。図8は、本実施形態の有機EL装置の構成を示す図であり、図3に対応する断面図である。
【0102】
図8において、本実施形態の有機EL装置210は、陰極49上にラミネート膜55が残されている点において、第1実施形態の有機EL装置10と構成が異なる。ラミネート膜55は、後述する本実施形態の有機EL装置の製造方法において、陰極49上から陰極49に加圧する際に陰極49の表面を保護する。ラミネート膜55は、光透過性を有する材料で構成されており、各有機EL素子72から図中上側に向かって出射される光を透過させる。尚、図8では図示していないが、ラミネート膜55を部分的に除去することによって形成された孔部を介して、或いはラミネート膜が形成されていない部分を介して陰極49及び陰極49上の他の導電部、即ち、外部回路等を電気的に接続できる。
【0103】
加えて、有機EL装置210によれば、陰極49上から有機EL層50に加圧した後、ラミネート膜55を剥離しなくてもよいため、ラミネート膜55を陰極55から剥離する際に生じる陰極55の損傷を低減でき、且つ有機EL装置の製造プロセスも簡便にできる。
【0104】
(有機EL装置の製造方法)
次に、図9及び図10を参照しながら、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法を説明する。図9は、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程フローを示す工程図である。図10は、加圧工程を詳細に説明するための図である。
【0105】
図9において、第1実施形態と同様に成膜工程(S10)及び乾燥工程(S20)を経て、有機EL材料からなる塗布膜を形成する。続いて、蒸着法を用いて陰極49を形成し(S60)、陰極49の表面をラミネート膜55によってラミネートする。次に、WIP法又はCIP法等の流体を用いたプレス法を用いてラミネート膜55上から陰極49に加圧する(S40)。
【0106】
ここで、図10を参照しながら、塗布膜30に加圧する加圧工程を詳細に説明する。図10に示すように、WIP法又はCIP法等の汎用のプレス法を用いて流体81を介して塗布膜30に均一に加圧し、塗布膜30に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層50を形成する。隔壁部47の表面及び塗布膜30の表面に渡って形成された陰極49には、予めラミネート膜55が形成されている。塗布膜30は、ラミネート膜55及び陰極49を介して加えられる圧力によって均一に加圧される。
【0107】
このように、陰極49上に形成されたラミネート膜55を介して塗布膜30に圧力を加えることによって、第1実施形態の有機EL装置の製造方法と同様に、塗布膜30に均一に加圧でき、膜密度が高められた有機EL層50を形成できる。これにより、陰極49の下側に形成された塗布膜に均一に加圧され、塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層50を形成する。
【0108】
再び図9に戻り、封止板20によって基板1上に形成された有機EL素子72を封止し(S70)、有機EL装置210を組み上げる。
【0109】
このように、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によれば、ラミネート膜55を剥離する工程を経ることなく、有機EL装置210を形成できる。したがって、第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法に比べて、寿命の長い有機EL装置を簡便に製造できる。
【0110】
尚、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法を実施可能な有機EL装置の製造装置は、第1実施形態に係る有機EL装置の製造装置と同様の構成を有している。但し、塗布膜3が形成された基板1をラミネート装置93内に搬送するに先んじて、基板1を別途設けられた蒸着装置内に搬送し、この蒸着装置内で陰極49が形成された基板1を再び製造装置90内のラミネート装置93に搬送することによって陰極49の表面をラミネートする。その後、加圧装94内でラミネート膜55を介して陰極49、さらには下側に形成された塗布膜30に加圧する。
【0111】
(第3実施形態)
次に、本発明の第5の発明に係る有機EL装置の実施形態、本発明の第2の発明に係る有機EL装置の製造方法の他の実施形態、及び本発明の第7の発明に係る有機EL装置の製造装置の他の実施形態を説明する。尚、本実施形態に係る有機EL装置及び有機EL装置の製造装置は、第1実施形態の有機EL装置及び有機EL装置の製造装置を同様の構成を有しているため、詳細な説明を省略する。図11は本実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程フローを示した工程図である。
【0112】
図11において、成膜工程(S10)及び乾燥工程(S20)を経て有機EL材料によって形成された塗布膜30を形成する。次に、蒸着法を用いて陰極49を形成し(S60)、パッキング部材80の一部であるラミネート膜によって陰極49の表面をラミネートする(S30)。次に、ラミネート膜を介してWIP法又はCIP法等の流体を用いたプレス法を用いてらラミネート膜上から陰極49及びその下側に形成された塗布膜30に均一に加圧する(S40)。これにより、塗布膜30に比べて膜密度が高めたれた有機EL層50が形成される。次に、陰極49からラミネート膜を剥離し(S50)、封止工程(S70)を経て有機EL装置を組み上げる。
【0113】
本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によれば、陰極49上からラミネート膜が除去されているため、有機EL層50の膜密度が高められていることに加え、陰極49及び陰極49上に形成された他の回路部を容易に電気的に接続できる利点がある。
【0114】
(電子機器)
次に、上述の各実施形態に係る有機EL装置を備えた各種電子機器について説明する。
【0115】
<A:モバイル型コンピュータ>
図12を参照しながらモバイル型のコンピュータに上述した有機EL装置を適用した例について説明する。図12は、コンピュータ1200の構成を示す斜視図である。
【0116】
図12において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、図示しない有機EL装置を用いて構成された表示部1005を有する表示ユニット1206とを備えている。表示部1005は、表示性能に優れ、且つ寿命特性に優れた有機EL素子を備えているため、長期間に亘って高品位で画像をフルカラー表示できる。
【0117】
<B:携帯型電話機>
更に、上述した有機EL装置を携帯型電話機に適用した例について、図13を参照して説明する。図13は、携帯型電話機1300の構成を示す斜視図である。
【0118】
図13において、携帯型電話機1300は、複数の操作ボタン1302と共に、本発明の一実施形態である有機EL装置を有する表示部1305を備えるものである。
【0119】
表示部1305は、上述の表示部1005と同様に高品質の画像を表示することができる。また、表示部1305が備える複数の有機EL素子は、膜密度が高められた有機EL層を有しているため、信頼性も高められている。
【0120】
なお、本発明に係る有機EL装置は、上述した電子機器に応用される場合に限定されるものではなく、例えば、高品位の表示が可能な、投射型表示装置、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネル、及び電子ペーパなどの電気泳動装置等などの各種電子機器に応用可能である。
【0121】
尚、本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う有機EL装置の製造方法、及び有機EL装置、並びに有機EL装置の製造装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】第1実施形態に係る有機EL装置10の全体構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置10の概略構成を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III´線断面図である。
【図4】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程図である。
【図5】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法におけるラミネート工程を模式的に示した工程図である。
【図6】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法における加圧工程を模式的に示した工程図である。
【図7】第1実施形態に係る有機EL装置の製造装置の概略構成を示す平面図である。
【図8】第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図9】第2実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程図である。
【図10】第2実施形態に係る有機EL装置の製造方法における加圧工程を模式的に示した工程図である。
【図11】第3実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程図である。
【図12】本発明に係る有機EL装置を備える電子機器の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明に係る有機EL装置を備える電子機器の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0123】
1・・・基板、10、210・・・有機EL装置、30・・・塗布膜、47・・・隔壁部、50・・・有機EL層、80・・・パッキング部材、80a・・・密着部、81・・・流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜工程と、
前記塗布膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート工程と、
流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成する加圧工程とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記ラミネート工程において、前記ラミネート膜を含む袋状のパッキング部材を用いることによって、前記塗布膜までが形成された基板をパッキングすること
を特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜工程と、
前記塗布膜上に電極膜を形成する電極膜形成工程と、
前記電極膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート工程と、
流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成する加圧工程とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記ラミネート工程において、前記ラミネート膜を含む袋状のパッキング部材を用いることによって、前記電極膜までが形成された基板をパッキングすること
を特徴とする請求項3に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記加圧工程が施された後、前記ラミネート膜を除去すること
を特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
前記加圧工程において、冷間静水圧プレス、又は温間静水圧プレスによって前記塗布膜に加圧すること
を特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
基板と、
前記基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって形成された塗布膜の表面をラミネートするラミネート膜に流体を介して均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められるように形成された有機EL層とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置。
【請求項8】
基板と、
基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって形成された塗布膜上に形成された電極膜と、
前記電極膜の表面をラミネートするラミネート膜と、
流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められるように形成された有機EL層とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置。
【請求項9】
基板と、
基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって形成された塗布膜上に形成された電極膜と、
前記電極膜の表面をラミネートするラミネート膜上から流体を介して前記塗布膜に均一に加圧することによって、前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められるように形成された有機EL層とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置。
【請求項10】
基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜手段と、
流体を介して前記塗布膜に均一に加圧することによって前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成するために、前記塗布膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート手段とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置の製造装置。
【請求項11】
基板上の画素領域を構成する複数の画素部の各々内に設けられた凹部に有機EL材料を塗布することによって塗布膜を形成する成膜手段と、
前記塗布膜上に形成された電極膜に流体を介して均一に加圧することによって前記塗布膜に比べて相対的に膜密度が高められた有機EL層を形成するために、前記電極膜の表面をラミネート膜によってラミネートするラミネート手段とを備えたこと
を特徴とする有機EL装置の製造装置。
【請求項12】
前記流体を介して前記ラミネート膜上から前記塗布膜に均一に加圧する加圧手段を備えたこと
を特徴とする請求項10又は11に記載の有機EL装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−128799(P2007−128799A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321823(P2005−321823)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】