説明

有機EL装置の製造方法

【課題】素子基板の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる有機EL表示装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、基板上に陽極と陰極と複数の有機化合物層とを有する素子基板を製造する素子基板製造工程(S301)と、陽極と陰極の間にエージング電圧を印加して素子基板をエージングするエージング工程(S302)とを備えている。ここで、素子基板製造工程(S301)では、複数の有機化合物層のうち、ガラス転移温度が最も低い第1の有機化合物層が、第1の有機化合物層よりガラス転移温度が高い第2および第3の有機化合物層の間で挟持されるように、複数の有機化合物層を形成する。また、エージング工程(S302)では、素子基板の周囲温度を第1の有機化合物層のガラス転移温度以上に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法に関し、特にその製造工程におけるエージングの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPD(Flat Panel Display)として有機EL(Electro Luminescence)表示装置が注目されている。有機EL表示装置は自発光表示素子であり、液晶表示装置と比較して視野角が広く、バックライトが不要なため薄型化が可能である。また、応答速度も速く、有機物が有する発光性の多様性から、次世代の表示装置として期待されている。
【0003】
有機EL表示装置は、画素となる有機EL素子を複数配置した有機EL表示素子を備えている。たとえば、パッシブ型の有機EL表示素子は、ストライプ状に配列された陽極配線と、当該陽極配線に交差するようにストライプ状に配列された陰極配線との交差部の間に有機発光層が挟持された構造となっている。この一つの交差部に、発光素子としての画素が形成されている。有機EL表示素子は、このような画素がマトリックス状に配列されることにより構成されている。この有機EL表示素子は、携帯電話機などの表示装置や光源装置などとしての利用が期待されている。
【0004】
しかしながら、有機EL表示素子の実用化における問題として、異物の混入、有機発光層の膜厚不均一性などによる素子特性の低下が挙げられる。これらは有機EL表示装置の輝度ムラ、画素の非発光や非選択画素の発光を引き起こし、表示品質を低下させる。また、これらの不良は有機EL表示装置の使用とともに拡大し、有機EL表示素子を表示不良に至らせることもある。従って、有機EL表示素子は製造段階から高い信頼性レベルが要求されている。
【0005】
このような有機EL表示素子を実用に供するのに、初期の発光時における発光特性の変化を取り除くために、数時間から数百時間に亘って発光を行わせ、発光特性の安定化を図る必要がある。この工程はエージングと呼ばれている。
例えば、有機EL表示素子の陽極配線の全てを、接続線を介して共通配線に短絡し、さらに、全ての陰極配線を、他の接続線を介して別の共通配線に短絡する。このエージング工程において、各共通配線から陽極配線の全てと陰極配線の全ての間に電圧パルスを印加する(たとえば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−146212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、エージング処理は有機EL素子が形成された素子基板の周囲温度を室温以上に設定して行われている。また、一般的に、エージングの際の素子基板の周囲温度を高くするほど、短時間で効率よくエージング処理を行うことができ、有機EL表示装置の駆動電圧を安定的に低下することができることが知られている。
【0007】
しかしながら、エージング処理の際の素子基板の周囲温度を、有機EL素子を構成する複数の有機化合物層の各ガラス転移温度(転移点)よりも高い温度にすると、いずれかの有機化合物層の物性が大きく変化してしまい、エージング処理を行わなかった場合と同様に、輝度ムラ、画素の非発光や非選択画素の発光を引き起こし、表示品質を低下させるという問題があった。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、素子基板の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る有機EL装置の製造方法は、基板上に第1および第2の電極と、第1および第2の電極間に配置された複数の有機化合物層とを有する素子基板を製造する素子基板製造工程と、第1および第2の電極間にエージング電圧を印加して素子基板をエージングするエージング工程とを備え、素子基板製造工程では、複数の有機化合物層のうち、ガラス転移温度が最も低い第1の有機化合物層が、第1の有機化合物層よりガラス転移温度が高い第2および第3の有機化合物層の間で挟持されるように、上記複数の有機化合物層を形成し、エージング工程では、素子基板の周囲温度を、第1の有機化合物層のガラス転移温度以上に設定して、素子基板をエージングすることを特徴とするものである。
このようにしたことにより、素子基板の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる。
【0009】
また、好ましくは、エージング工程では、上記素子基板の周囲温度を、上記第1の有機化合物層のガラス転移温度以上、且つ、上記第2または第3の有機化合物のガラス転移温度のうち、低いガラス転移温度以下に設定して、素子基板をエージングする。このようにしたことにより、確実に、素子基板の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、素子基板の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、有機EL表示装置の構成について、図に基づいて説明する。
図1は、有機EL表示装置の構成を示す図であって、図1(a)は電極が形成される側から基板を観察した状況を示す模式図であり、図1(b)は図1(a)のX−X切断線における断面図である。なお、図1(a)では封止基板8および捕水剤10を省略している。
【0012】
図1(a)および図1(b)に示されるように、有機EL素子基板100は、基板1上に陽極配線2、陰極配線5、複数の有機化合物層からなる積層体7、絶縁膜4、陰極隔壁6等が形成されて構成されている。
基板1上に陽極配線2がストライプ状に形成される。基板1には例えばガラス基板が用いられる。陽極配線2の材料には、例えばITO(Indium Tin Oxide)が用いられる。
【0013】
図1(a)および図1(b)に示されるように、陽極配線2上に積層して、開口部3を有する絶縁膜4が形成される。開口部3は、陽極配線2と陰極配線5との交差部に設けられる。図1(a)に示されるように、開口部3はマトリクス状に複数配列されており、これら複数の開口部3を囲うように表示領域100aが設けられている。
図1(a)および図1(b)に示されるように、複数の有機化合物層の積層体7は陽極配線2上に積層して形成される。なお、複数の有機化合物層の積層体7の構成については、図2を用いて後で詳述する。
図1(b)に示されるように、陰極配線5は、複数の有機化合物層の積層体7上に形成される。
【0014】
また、図1(a)および図1(b)に示されるように、陰極隔壁6が、陽極配線2と直交するように、絶縁膜4上に形成されている。陰極隔壁6が複数の有機化合物層の積層体7や陰極配線5を分離することにより、陰極隔壁6間に複数の有機化合物層の積層体7が形成され、ストライプ状にされた陰極配線5が形成される。陰極配線5の材料には、通常はアルミニウムAlまたはアルミニウム合金が用いられる。なお、AlやAl合金の他に、Li等のアルカリ金属、Ag、Ca、Mg、Y、Inやこれらを含む合金を、陰極配線5の材料に用いてもよい。陽極配線2と陰極配線5の交差部では、陽極配線2は陽極として、陰極配線5は陰極として機能する。
【0015】
ここで、図1(a)および図1(b)に示されるように、陰極隔壁6は、陰極配線5と平行に配設される。陰極隔壁6は、陰極配線5の配線同士が導通しないように、複数の陰極配線5を空間的に分離する役割を担っている。
図1(b)に示されるように、陰極隔壁6の断面形状は逆テーパ形状となっており、陰極隔壁6を逆テーパ形状にすることにより、陰極隔壁6の側壁およびの立ち上がり部分が影となり、製造工程において、複数の陰極配線5を空間的に分離することができる。
【0016】
図1(b)に示されるように、有機EL素子基板100の表面、すなわち基板1の有機化合物層の積層体7等が配置された面上には、封止基板8が対向するように配置され、基板1上の複数の有機化合物層の積層体7等が外気と遮断されるように封止されている。図1(b)に示されるように、封止基板8の基板1との対向側の中央部には、凹部8aが形成されている。
また、図1(b)に示されるように、封止基板8と基板1とは、封止基板8の外周に塗布されたシール材9により貼り合わされる。
基板1上の複数の有機化合物層の積層体7等は、両基板1、8およびシール材9によって封止されることで、空気中の酸素や水分にさらされないように保たれる。
【0017】
また、基板1と封止基板8との間の封止空間には、酸素や窒素等の支燃性ガスが封入されている。
図1(b)に示されるように、捕水剤10が、基板1上に形成された陽極配線2や陰極配線5や複数の有機化合物層の積層体7等と隙間を空けて、封止空間内に設けられている。捕水剤10は、封止基板8に、基板1の表面に対して対向するように取り付けられている。
【0018】
捕水剤10は、吸水剤および不活性液体を主成分とする。吸水剤には、例えば、酸化カルシウムCaO、酸化バリウムBaO等のアルカリ土類金属酸化物、ゼオライト、珪藻土等が用いられる。
また、不活性液体には、例えば、不活性潤滑油が用いられる。捕水剤10に含まれる吸水剤や不活性液体は、それぞれ1種類だけ用いてもよいし、複数種類用いてもよい。
【0019】
次に、複数の有機化合物層の積層体7の構造について、詳細に説明する。
図2は、複数の有機化合物層の積層体を含む有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
図2に示されるように、複数の有機化合物層の積層体7は、正孔注入層7a、正孔輸送層7b、有機発光層7cおよび電子輸送層7dが順次積層されて形成されている。なお、陽極2、正孔注入層7a、正孔輸送層7b、有機発光層7c、電子輸送層7dおよび陰極5で、有機EL素子を構成するものとする。更に、陰極5からの有機発光層7cへの電子注入効率を高めるために、電子注入層を電子輸送層7dと陰極5の間に設けてもよい。
【0020】
正孔注入層7aは、陽極2と有機発光層7cとの間に、陽極2上に直接積層して形成されており、陽極2から有機発光層7cへの正孔注入効率を高めるために設けられている。正孔注入層7aの材料には、例えば、化学式(1)のフェナントリルフェニレンジアミン(PPD)や化学式(2)の銅フタロシアニンなどが用いられる。なお、材料は上記機能を満たすものであればよく、例示したものに限定されるものではない。
【化1】

【化2】

【0021】
正孔輸送層7bは、正孔注入層7aと有機発光層7cとの間に、正孔注入層7a上に直接積層して形成されており、正孔を円滑に有機発光層7cに移動させるためと、有機発光層7cに入った電子が陽極2側に移動してくるのを阻止するために設けられている。また、正孔注入層7bの材料には、例えば、化学式(3)のNPDなどが用いられる。なお、材料は上記機能を満たすものであればよく、例示したものに限定されるものではない。
【化3】

【0022】
有機発光層7cは、陽極2から注入された正孔と陰極5から注入された電子とを再結合させて励起子を生成し、この励起子を基底状態に失活させることにより発光現象を生じさせるために設けられている。有機発光層7cは、ホスト材料(固体媒体)に発光量子効率が高いドーパント(ゲスト材料)を微量(例えば1〜2%程度)混合して、正孔輸送層7b上に蒸着することにより形成される。ホスト材料には、例えば、化学式(4)のTBPBやアルミニウム錯体やベリリウム錯体やDPVBiが用いられる。ゲスト材料であるドーパントには、ペリエンやルブレンやDCMやDCJTBが用いられる。
【化4】

【0023】
電子輸送層7dは、有機発光層7cと電子注入層7eとの間に、有機発光層7c上に直接積層して形成されており、電子を円滑に有機発光層7cに移動させるためと、有機発光層7cに入った正孔が電子輸送層7dに移動してくるのを阻止するために設けられる。また、電子輸送層7dは、例えば、化学式(5)のAlq3などのアルミ錯体やオキサジアゾール類やトリアゾール類の有機化合物を蒸着することにより形成される。なお、材料は上記機能を満たすものであればよく、例示したものに限定されるものではない。
【化5】

【0024】
ここで、複数の有機化合物層の積層体7のうち、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)は、当該有機化合物層よりもガラス転移温度が高い有機化合物層(第2および第3の有機化合物層)の間で、両側から挟持されて形成されている。すなわち、例えば、第1の有機化合物層としての正孔輸送層7bにガラス転移温度が最も低い材料を用いた場合、正孔輸送層7bを両側から挟持する、第2および第3の有機化合物層としての正孔注入層7aおよび有機発光層7cは、正孔輸送層7bよりもガラス転移温度が高い材料により形成されている。この場合の例示として、正孔注入層7aにPPD(ガラス転移温度Tg=148℃)、正孔輸送層7bにNPD(ガラス転移温度Tg=95℃)、有機発光層7cに、TBPB(ガラス転移温度Tg=132℃)を用いることが挙げられる。
【0025】
このように、複数の有機化合物層の積層体7を構成したことにより、各有機化合物層7a〜7dの物性を大きく変化させず、発光特性や表示品質を低下させることなく、有機EL素子基板100の周囲温度を、複数の有機化合物層の積層体7のうち、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)のガラス転移温度よりも高い温度に設定して、エージング処理を行うことができる。
【0026】
次に、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の製造方法を図に基づいて説明する。図3は、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法の工程を示すフロー図である。
有機EL素子基板製造工程(S301)では、基板1の表面に、複数の陽極配線2と、複数の陽極配線2に対して交差して配置された複数の陰極配線5と、陽極配線2および陰極配線5の交差部の間に配置された複数の有機化合物層7とを有する有機EL素子基板100を製造する。
【0027】
具体的には、基板1の表面上にITOを成膜し、感光性樹脂をITO上に塗布し、露光、現像、エッチングをして、複数の陽極配線2を形成する。このとき、同時に、複数の陽極配線2の全てを接続する陽極用共通配線(不図示)を形成する。この陽極用共通配線2は、陽極配線2の全てを短絡させるために設け、後述のエージング工程(S303)で用いられる。
【0028】
また、各有機EL表示素子内の引き回し配線を、フォトリソグラフィ及びエッチングによって形成する。このとき、同時に、この複数の陰極配線5の全てを接続する陰極用共通配線(不図示)を形成する。この陰極用共通配線は、陰極配線5の全てを短絡させるために設け、陽極用共通配線と同様に、後述のエージング工程(S303)で用いられる。
【0029】
次に各有機EL表示素子内の引き回し配線や陽極配線2などの上に、絶縁膜4を塗布し露光、現像を行って開口部3を形成する。さらに、陰極隔壁6を形成した後、正孔注入層7a、正孔輸送層7b、有機発光層7cおよび電子輸送層7dを順次積層形成して、複数の有機化合物層の積層体7を形成する。
このとき、複数の有機化合物層の積層体7のうち、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)が、当該有機化合物層よりもガラス転移温度が高い有機化合物層(第2および第3の有機化合物層)の間で、両側から挟持されるように形成する。すなわち、例えば、正孔輸送層7bにガラス転移温度が最も低い材料を用いた場合、この正孔輸送層7bを両側から挟持する正孔注入層7aおよび有機発光層7cを、正孔輸送層7bよりもガラス転移温度が高い材料により形成する。ここでは、正孔注入層7aにPPD(ガラス転移温度Tg=148℃)、正孔輸送層7bにNPD(ガラス転移温度Tg=95℃)、有機発光層7cにTBPB(ガラス転移温度Tg=132℃)、電子輸送層7dにAlq3(結晶性材料のため、ガラス転移温度Tgはない)を用いた。
【0030】
そして、陰極配線5を形成し、陰極配線5を引き回し配線に接続する。このとき、陰極隔壁6が複数の有機化合物層7や陰極配線5を分離することにより、陰極隔壁6間に複数の有機化合物層の積層体7が形成され、ストライプ状にされた陰極配線5が形成される。
有機EL素子基板製造工程(S301)が終了すると、基板1上に形成された複数のパッシブ型の有機EL表示素子における各陽極配線2が陽極用共通配線(不図示)に接続され、複数の陽極配線2の全てに陽極用共通配線から同じ信号を供給することができる。また、複数の有機EL表示素子における各陰極配線5が陰極用共通配線(不図示)に接続され、複数の陰極配線5の全てに、陰極用共通配線から同じ信号を供給することができる。
【0031】
封止工程(S302)では、有機EL素子基板製造工程(S301)で基板1上に形成された複数の有機化合物層の積層体7を空気中の水分から守るために、封止基板8を基板1に対して対向配置し、シール材9によって双方の基板1、8を接合する。このとき、2枚の基板1、8とシール材9により形成された封止空間内に、酸素や窒素等の支燃性ガスを封入する。酸素や窒素等の支燃性ガスを封入することにより、エージング工程(S303)の際に、陽極配線2や陰極配線5や複数の有機化合物層7を効率よく燃焼させることができる。
次に、エージング工程(S303)を実施する。このエージング工程(S303)の詳細については、後述する。
【0032】
次に、切断工程(S304)を実施する。表示領域100aを囲むように切断線を設定し、切断線に沿って基板1および封止基板8を切断して複数の有機EL表示素子に分離する。次に光学フイルム貼付工程(S305)で偏光板等の光学フイルムを有機EL表示素子に貼り付ける。そして、実装工程(S306)で、駆動回路などの周辺回路を各有機EL表示素子に実装して有機EL表示装置を得る。
【0033】
次に、エージング工程(S303)について、詳細に説明する。
エージング工程(S303)では、全ての陽極配線2が接続されている陽極用共通配線(不図示)と、全ての陰極配線5が接続されている陰極用共通配線(不図示)との間に、エージング用の電圧印加装置を接続し、エージング電圧を陽極配線2と陰極配線5との間に印加することにより通電処理を行ない、陽極配線2と陰極配線5が短絡した欠陥部を破壊し除去する。なお、エージング工程(S303)を行うことにより、欠陥部の陽極配線2や、陰極配線5や、陽極配線2および陰極配線5の交差部の有機発光層7、またはこれらの組合せが、封止空間内に封入された酸素や窒素等の支燃性ガスを用いて燃焼され、また、飛散される。
【0034】
このエージング工程(S303)では、有機EL素子基板100の周囲温度を、複数の有機化合物層の積層体7のうち、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)のガラス転移温度以上に設定して、エージング処理を行う。ここで、有機EL素子基板100の周囲温度は、上記条件に加え、室温以上、好ましくは80℃以上の高温(一定値)に設定される。
このようにしたことにより、有機EL素子基板100の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる。
【0035】
好ましくは、有機EL素子基板100の周囲温度を、複数の有機化合物層の積層体7のうち、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)のガラス転移温度以上、且つ、第1の有機化合物層を両側から挟持する有機化合物層(第2および第3の有機化合物層)のガラス転移温度のうち、低いガラス転移温度以下に設定して、エージング処理を行う。ここで、有機EL素子基板100の周囲温度は、上記条件に加え、室温以上、好ましくは80℃以上の高温(一定値)に設定される。
このようにしたことにより、各有機化合物層7a〜7dの物性を大きく変化させることなく、有機EL素子基板100の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、駆動電圧を効率よく低減することができる。
【0036】
例えば、正孔注入層7aにPPD(ガラス転移温度Tg=148℃)、正孔輸送層7bにNPD(ガラス転移温度Tg=95℃)、有機発光層7cにTBPB(ガラス転移温度Tg=132℃)、電子輸送層7dにAlq3(結晶性材料のため、ガラス転移温度Tgはない)を用いた場合、有機EL素子基板100の周囲温度を、ガラス転移温度が最も低い正孔輸送層7b(NPD:Tg=95℃)のガラス転移温度95℃以上、且つ、正孔輸送層7bを両側から挟持する正孔注入層7a(PPD:Tg=148℃)または有機発光層7c(TBPB:Tg=132℃)のガラス転移温度のうち、低いガラス転移温度132℃以下に設定して、エージング処理を行う。
【0037】
なお、エージング工程(S303)時の有機EL素子基板100の周囲温度を、複数の有機化合物層の積層体7のうち、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)のガラス転移温度以上に設定できるのは、エージング電圧を印加することにより、ガラス転移温度が最も低い有機化合物層(第1の有機化合物層)と、この第1の有機化合物層を両側から挟持する有機化合物層(第2および第3の有機化合物層)との間の界面が、組成的に安定となるものと考えられる。
【0038】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
図4は、有機EL表示装置のエージング工程における実施例および従来例のエージング条件をまとめた図である。図5は、エージング前後の有機EL表示装置の駆動電圧および電流効率を、実施例および従来例について、まとめた図である。
【0039】
実施例および従来例ともに、有機EL素子基板100には、陽極配線2に膜厚20nmのITO、正孔注入層7aに膜厚80nmのPPD(Tg=148℃)、正孔輸送層7bに膜厚20nmのNPD(Tg=95℃)、有機発光層7cに膜厚40nmのTBPB(Tg=132℃)、電子輸送層7dに膜厚20nmのAlq3(結晶性材料のため、ガラス転移温度Tgはない)、陰極配線5に膜厚80nmのAlが形成されたものを用いた。
【0040】
実施例.
実施例では、エージング工程(S303)にて、有機EL素子基板100の周囲温度を100℃にして、所定のエージング電圧(例えば、逆バイアス電圧を−a(V)、順バイアス電圧を+b(V)、周波数をc(Hz)。但し、0≦a≦15、10≦b≦30、50≦c≦400)を陽極および陰極の間に2時間印加した。すなわち、有機EL素子基板100の周囲温度は、複数の有機化合物層7a〜7dのうち、ガラス転移温度Tgが最も小さいNPD(正孔輸送層7b)のガラス転移温度(Tg=95℃)以上、且つ、NPD(正孔輸送層7b)を両側から挟持するPPD(正孔注入層7a)またはTBPB(有機発光層7c)のガラス転移温度のうち、低いガラス転移温度(Tg=132℃)以下に設定されている。
【0041】
従来例.
従来例では、エージング工程(S303)にて、有機EL素子基板100の周囲温度を90℃にして、所定のエージング電圧(例えば、逆バイアス電圧を−a(V)、順バイアス電圧を+b(V)、周波数をc(Hz)。但し、0≦a≦15、10≦b≦30、50≦c≦400)を陽極および陰極の間に2時間印加した。すなわち、有機EL素子基板100の周囲温度は、複数の有機化合物層7a〜7dのうち、ガラス転移温度Tgが最も小さいNPDのガラス転移温度(Tg=95℃)以下に設定されている。
【0042】
図5に示されるように、従来例ではエージング後の駆動電圧を14.08Vにまでしか低減できなかったのに対し、実施例ではエージング後の駆動電圧を12.77Vにまで低減することができた。また、従来例では駆動電圧がエージング前後で2.5V低下したのに対し、実施例では駆動電圧がエージング前後で3.6V低下している。また、従来例では電流効率がエージング前後で0.82cd/A増加しているのに対し、実施例では電流効率がエージング前後で1.18cd/A増加している。
このように、実施例の方が、従来例と比較して、有機EL素子基板100の周囲温度をより高い温度にして効率よくエージング処理を行うことができ、有機EL表示装置の駆動電圧を効率よく低減することができ、更に有機EL表示装置の電流効率を高めることができた。
【0043】
以上のように、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の製造方法を採用することにより、欠陥部を確実に修復しつつ、エージング後の輝度の初期低下を低減することができ、高い輝度をより長期間維持することができる。
以上の説明は、本発明を実施の形態を説明するものであり、本発明が以上の実施の形態に限定されるものではない。また、当業者であれば、以上の実施の形態の各要素を、本発明の範囲において、容易に変更、追加、変換することが可能である。上記発明の実施態様では、パッシブ型有機EL表示装置として説明したが、アクティブ型有機EL表示装置にも本発明を適用できる。また、上記発明の実施態様では、有機EL表示装置として説明したが、有機EL照明装置等の表示以外の目的で製造された有機EL装置にも本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】有機EL表示素子の構成を示す図であって、図1(a)は電極が形成される側から基板を観察した状況を示す模式図であり、図1(b)は図1(a)のX−X切断線における断面図である。
【図2】複数の有機化合物層の積層体を含む有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL表示装置の製造方法の工程を示すフロー図である。
【図4】有機EL表示装置のエージング工程における実施例および従来例のエージング条件をまとめた図である。
【図5】エージング前後の有機EL表示装置の駆動電圧および電流効率を、実施例および従来例について、まとめた図である。
【符号の説明】
【0045】
1 基板
2 陽極配線
3 開口部
4 絶縁膜
5 陰極配線
6 陰極隔壁
7 複数の有機化合物層の積層体
7a 正孔注入層
7b 正孔輸送層
7c 有機発光層
7d 電子輸送層
8 封止基板
9 シール材
10 捕水剤
100 有機EL素子基板
100a 表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1および第2の電極と、上記第1および第2の電極間に配置された複数の有機化合物層とを有する素子基板を製造する素子基板製造工程と、
上記第1および第2の電極間にエージング電圧を印加して上記素子基板をエージングするエージング工程とを備え、
上記素子基板製造工程では、上記複数の有機化合物層のうち、ガラス転移温度が最も低い第1の有機化合物層が、上記第1の有機化合物層よりガラス転移温度が高い第2および第3の有機化合物層の間で挟持されるように、上記複数の有機化合物層を形成し、
上記エージング工程では、上記素子基板の周囲温度を、上記第1の有機化合物層のガラス転移温度以上に設定して、上記素子基板をエージングすることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
上記エージング工程では、上記素子基板の周囲温度を、上記第1の有機化合物層のガラス転移温度以上、且つ、上記第2または第3の有機化合物のガラス転移温度のうち、低いガラス転移温度以下に設定して、上記素子基板をエージングすることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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