説明

有機EL装置の製造方法

【課題】電極上に溶媒中の水分が付着することを防止して長寿命化が可能な有機EL装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】陽極層21を形成する工程と、陽極層21上に正孔注入層35をドライプロセスで形成する工程と、正孔注入層35上に正孔輸送層36をウェットプロセスで形成する工程と、正孔輸送層36上に発光層37をドライプロセスで形成する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)装置は、薄型、全固体型、面状自発光及び高速応答であるといった特徴を有する発光装置であり、フラットディスプレイパネルやバックライトへの応用が期待されている。
このような有機EL装置では、例えば真空蒸着法に代表されるドライプロセスや例えばスピンコート法やインクジェット法に代表されるウェットプロセスを用いて発光層などを形成している。ウェットプロセスの利点としては、形成される薄膜表面の均一性や、下地層にある凹凸のカバレッジ性などがある。
【0003】
しかし、例えばITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)で形成された陽極上にウェットプロセスによって塗布膜を形成した場合、塗布膜を形成する際に使用される溶媒中の水分や酸素が陽極上に付着する。そして、陽極上に水分や酸素が付着した状態で陽極及び陰極間に電流を流すと、水分中のイオンと陽極とが反応して塩や酸化物が発生することがある。そのため、陽極が水分中のイオンや酸素によって変質して抵抗値が上がり、寿命が短くなるという問題がある。そこで、ITOで形成された陽極上にウェットプロセスによって塗布膜を形成し、これを窒素雰囲気下で加熱、加圧することによって長寿命化を図ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−26000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の有機EL装置の製造方法においても、以下の課題が残されている。すなわち、上記従来の製造方法では、陽極上にウェットプロセスで塗布膜を形成しているため、溶媒が除去されるものの陽極に水分や酸素がいったんは付着することとなる。そのため、水分や酸素が陽極上に残存することがある。これにより、陽極及び陰極間に電流を流すと陽極が変質して陽極の導電性が低下し、有機EL装置の長寿命化が図れないおそれがある。ここで、溶媒の水分中のイオンを除去することが考えられるが、コストがかかるため、現実的でない。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、電極上に溶媒中の水分が付着することを防止して長寿命化が可能な有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明にかかる有機EL装置の製造方法は、第1及び第2電極と、該第1及び第2電極間に順に配置された第1から第3層を有する発光機能層と、を備える有機EL装置の製造方法であって、前記第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に前記第1層をドライプロセスで形成する工程と、前記第1層上に前記第2層をウェットプロセスで形成する工程と、前記第2層上に前記第3層をドライプロセスで形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明では、第2層を形成する工程において溶媒中の水分が第1電極に付着することを確実に防止することで、有機EL装置の長寿命化が図れる。
すなわち、第2層をウェットプロセスで形成しても第1電極上にドライプロセスで形成された第1層が設けられているため、溶媒中の水分や酸素は第1電極と接触しない。そのため、第1電極が溶媒中の水分に含まれるイオンや酸素によって変質、劣化して抵抗値が増大することを防止し、有機EL装置の長寿命化が図れる。
また、第2層をウェットプロセスで形成することにより、第1及び第2層間の空隙の発生をより確実に抑制し、第1及び第2層間の密着性が向上する。さらに、第2層の表面が平坦に形成されることにより、第2及び第3層間の空隙の発生をより確実に抑制し、第2層及び第3層の間の密着性が向上する。このため、第1及び第2層間の界面における抵抗値や第2及び第3層の間の界面における導電性が高まり、有機EL装置の長寿命化が図れる。
【0009】
また、本発明の有機EL装置の製造方法は、前記第1電極が、酸化インジウムスズで出構成されていることが好ましい。
この発明では、第1電極を構成する酸化インジウムスズ中のスズとイオンとが反応して塩が発生することを抑制し、第1電極の抵抗値が増大することを防止する。
【0010】
また、本発明の有機EL装置の製造方法は、前記第1層が、正孔注入材料で形成されていることが好ましい。
この発明では、第1層が正孔注入層として機能し、第1電極から第2層に向けて正孔を注入する。
【0011】
また、本発明の有機EL装置の製造方法は、前記第2層が、正孔輸送材料で形成されていることが好ましい。
この発明では、第2層が正孔輸送層として機能し、第1層から第3層に向けて正孔を輸送する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における有機EL装置を示す平面図である。
【図2】図1の有機EL装置の等価回路図である。
【図3】図1の有機EL装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明における有機EL装置の製造方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0014】
[有機EL装置]
まず、本実施形態における有機EL装置の製造方法によって製造される有機EL装置について説明する。
本実施形態における有機EL装置1は、アクティブマトリックス型のカラー有機EL装置であって、図1に示すように、平面視でほぼ矩形の素子基板2を備えている。
素子基板2の中央部分には、図1及び図2に示すように、複数の画素領域11、データ線12、走査線13及び電源線14が配置された実表示領域15が形成されている。また、素子基板2の実表示領域15の外側には、図1に示すように、データ線駆動回路16及び走査線駆動回路17が配置されたダミー領域18が形成されている。そして、素子基板2のダミー領域18の外側には、後述する陰極層(第2電極)22に接続される陰極用配線19が配置されている。この実表示領域15及びダミー領域18により、画素部20が形成されている。
【0015】
複数の画素領域11それぞれには、図2に示すように、画素電極となる陽極層(第1電極)21と、陰極層22と、陽極層21及び陰極層22の間に挟みこまれる発光機能層23とが設けられている。これら陽極層21、陰極層22及び発光機能層23により、有機EL素子が構成される。また、複数の画素領域11それぞれには、陽極層21をスイッチング制御するためのTFT素子24、25と、保持容量26とが設けられている。
【0016】
TFT素子24は、ゲートが走査線13に接続されて、ソースがデータ線12に接続され、ドレインがTFT素子25及び保持容量26に接続されている。また、TFT素子24は、走査線13を介して走査線駆動回路17から供給された走査信号に応じて、データ線12を介してデータ線駆動回路16から供給されたデータ信号を保持容量26に供給する構成となっている。
TFT素子25は、ゲートがTFT素子24のドレインに接続され、ソースが電源線14に接続され、ドレインが陽極層21に接続されている。そして、TFT素子25は、保持容量26で保持されたデータ信号に応じてオン・オフ状態が決定され、電源線14を介して供給される駆動電流を陽極層21に供給する構成となっている。
データ線12、走査線13及び電源線14は、実表示領域15内において格子状に配置されている。そして、データ線12はデータ線駆動回路16に接続され、走査線13は走査線駆動回路17に接続されている。
【0017】
次に、素子基板2の画素領域11における詳細な構成について説明する。
素子基板2は、図3に示すように、例えばガラスなどの透光性材料で構成された基板本体31と、基板本体31上に積層された素子形成層32、陽極層21、発光機能層23、陰極層22及び陰極保護膜33と、を備えている。
【0018】
素子形成層32には、データ線12、走査線13及び電源線14とTFT素子24、25とが適宜の絶縁膜を介して形成されている。
陽極層21は、図3に示すように、例えばITOなどの透光性の導電材料で形成されており、TFT素子25のドレインに接続されている。
発光機能層23は、陽極層21上に順に積層された正孔注入層(第1層)35、正孔輸送層(第2層)36、発光層(第3層)37及び電子輸送層38を備えている。
【0019】
正孔注入層35は、陽極層21から供給された正孔を陰極層22に向けて注入する機能を有している。ここで、正孔注入層35を構成する正孔注入材料としては、例えば銅フタロシアニンなど以下の構造式で表される材料のように、正孔輸送層36を形成する際に用いられる溶媒に対して不溶である材料で形成されている。なお、正孔注入層35の層厚は、例えば30nmとなっている。
【0020】
【化1】

【化2】

【0021】
正孔輸送層36は、正孔注入層35から注入された正孔を発光層37に向けて輸送する機能を有している。ここで、正孔輸送層36を構成する正孔輸送材料としては、例えば以下の構造式で表されるようなアミン骨格を有するポリマー材料などの高分子材料であって例えばキシレンやトルエン、テトラヒドロフランなどの溶媒に対して可溶である材料が挙げられる。なお、正孔輸送層36の層厚は、例えば20nmとなっている。
【0022】
【化3】

【0023】
発光層37は、低分子の有機発光色素や高分子発光体のような各種の蛍光物質や燐光物質などの発光物質、例えばAlq(トリス(8−キノリノール)アルミニウム)などで形成されている。発光物質となる共役系高分子の中では、アリーレンビニレンまたはポリフルオレン構造を含むものなどが特に好ましい。また、低分子発光体では、例えばナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ポリメチン系、キサテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキノリン及びその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン誘導体などが使用可能である。なお、発光層37は、電圧の印加により白色に発光するように形成されている。また、発光層37の層厚は、例えば40nmとなっている。
【0024】
電子輸送層38は、陰極層22から供給された電子を発光層37に向けて輸送する機能を有している。ここで、電子輸送層38を構成する電子輸送材料としては、例えばアキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体などが挙げられる。なお、電子輸送層38の層厚は、例えば40nmとなっている。
【0025】
陰極層22は、電子輸送層47側から順に例えば1nmのLiF(フッ化リチウム)膜及び例えば100nmのAl(アルミニウム)膜を積層した構成となっている。なお、陰極層22は、複数の画素領域11の全域にわたる共通電極となっている。
陰極保護膜33は、例えばシリコン酸化物やシリコン窒化物、シリコン窒酸化物などのシリコン化合物のような無機化合物で形成されており、製造工程において陰極層22が腐食することを防止する。
【0026】
また、素子基板2の上面には、接着層40によりカラーフィルタ基板41が貼付されている。カラーフィルタ基板41は、例えばガラスなどの透光性材料で形成された基板本体42と、基板本体42上に形成されたカラーフィルタ層43及び遮光層44とを備えている。
カラーフィルタ層43は、画素領域11に対応して配置されており、例えばアクリルなどで形成されて各画素領域11の表示色に対応する色材を含有している。
遮光層44は、各画素領域11の縁部に対応して配置されており、各画素領域11を縁取っている。
なお、基板本体42の内面側に凹部を設け、この凹部に水や酸素を吸収するゲッター剤(例えば、CaO、BaOなど)を配置してもよい。
【0027】
[有機EL装置の製造方法]
次に、以上のような構成の有機EL装置1の製造方法について説明する。
まず、基板本体31上にデータ線12、走査線13及び電源線14とTFT素子24、25とを適宜の絶縁膜を介して形成し、素子形成層32を形成する。そして、素子形成層32上に陽極層21を形成し、素子形成層32に形成されたTFT素子25のドレインと陽極層21とを接続する。
【0028】
続いて、陽極層21上に正孔注入層35を形成する。ここでは、例えば真空蒸着法を用いたドライプロセスによって陽極層21上に正孔注入層35を形成する。
そして、正孔注入層35上に正孔輸送層36を形成する。ここでは、キシレンからなる溶媒中に正孔輸送層36を構成する材料を溶解させた溶液を、例えばスピンコート法を用いたウェットプロセスによって正孔注入層35上に塗布する。このとき、正孔注入層35が溶媒であるキシレンやトルエン、テトラヒドロフランに対して不溶な材料で形成されているため、溶液を塗布しても、正孔注入層35は溶解しない。また、正孔注入層35の表面に凹凸が形成されていても、塗布膜がこの凹凸に入り込んで平坦化する。このため、正孔注入層35と正孔輸送層36とが密着する。その後、正孔輸送層36の塗布膜を乾燥させて溶媒を除去する。これにより、正孔輸送層36が形成される。
【0029】
続いて、正孔輸送層36上に発光層37を形成する。ここでは、例えば真空蒸着法を用いたドライプロセスによって正孔輸送層36上に発光層37を形成する。このとき、正孔輸送層36の上面が平坦化されているため、正孔輸送層36と発光層37とが密着する。そして、発光層37上に電子輸送層38を形成する。ここでは、例えば真空蒸着法を用いたドライプロセスによって発光層37上に電子輸送層38を形成する。
次に、電子輸送層38上に陰極層22及び陰極保護膜33を順に形成する。以上のようにして、素子基板2を製造する。
その後、別途形成したカラーフィルタ基板41を素子基板2上に接着層40を介して貼り合せる。以上のようにして、有機EL装置1を製造する。
【0030】
このような構成の有機EL装置1では、陽極層21及び陰極層22の間に電圧を印加すると、正孔が陽極層21から陰極層22に向けて移動すると共に、電子が陰極層22から陽極層21に向けて移動する。ここで、正孔注入層35を介して陽極層21上に正孔輸送層36をウェットプロセスで形成しているため、陽極層21にウェットプロセスにおける溶媒が接触しない。これにより、陽極層21に溶媒中の水分や酸素が付着したままとなることを防止し、有機EL装置1の製造後に陽極層21及び陰極層22間に電流を流したときに水分中のイオンと陽極層21を構成するITOのスズとが反応して塩状態となることなど、陽極層21が変質することを回避する。
また、正孔注入層35と正孔輸送層36とが間隙なく形成され、正孔注入層35と正孔輸送層36との密着性が向上しているため、正孔注入層35及び正孔輸送層36の間の界面抵抗が増大しない。同様に、正孔輸送層36と発光層37との密着性が向上しているため、正孔輸送層36及び発光層37の間の界面抵抗が増大しない。
このため、抵抗の増大による発熱に起因した有機EL素子の劣化が抑制される。
【0031】
以上のように製造された有機EL装置1と、正孔輸送層をドライプロセスによって形成した有機EL装置との寿命特性を比較した。この結果、有機EL装置1は、76時間の寿命特性を有し、50時間の寿命特性を有する比較された有機EL装置よりも1.5倍の寿命を有することが分かった。ここで、寿命とは、駆動開始時の発光輝度に対して発光輝度が20%低下するまでの時間としている。
【0032】
以上のように、本実施形態における有機EL装置1の製造方法では、正孔注入層35上に正孔輸送層36をウェットプロセスで形成しており、正孔輸送層36の形成時に溶媒が陽極層21に付着しないため、陽極層21を構成するITOのスズが塩状態となることを防止し、有機EL装置1の長寿命化が図れる。
また、ウェットプロセスで形成された正孔輸送層36によって正孔輸送層36と正孔注入層35及び発光層37との密着性が向上し、各界面における抵抗値が低くなることによっても有機EL装置1の長寿命化が図れる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、第1電極は、ITOで構成されているが、第1電極上にウェットプロセスで層を形成すると溶媒中の水分に含まれるイオンによって変質するような材料であれば、例えばアルミニウムなど他の材料で構成されてもよい。
また、第1層が正孔注入層として、第2層が正孔輸送層として、第3層が発光層として機能しているが、ウェットプロセスで形成される第2層がドライプロセスで形成された第1層上に形成されて陽極層上に直接形成されていなければ、それぞれ他の機能を有してもよい。
そして、有機EL装置は、発光層が白色に発光するように構成されており、カラーフィルタ層を通すことによってR、G、Bの各色光を出力するように構成されているが、発光層がR、G、Bの各色光を出力するように構成してカラーフィルタ層を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 有機EL装置、21 陽極層(第1電極)、22 陰極層(第2電極)、23 発光機能層、35 正孔注入層(第1層)、36 正孔輸送層(第2層)、37 発光層(第3層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2電極と、該第1及び第2電極間に順に配置された第1から第3層を有する発光機能層と、を備える有機EL装置の製造方法であって、
前記第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に前記第1層をドライプロセスで形成する工程と、
前記第1層上に前記第2層をウェットプロセスで形成する工程と、
前記第2層上に前記第3層をドライプロセスで形成する工程と、を備えることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1電極が、酸化インジウムスズで出構成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1層が、正孔注入材料で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2層が、正孔輸送材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−231927(P2010−231927A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75914(P2009−75914)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】