説明

有機ELDの製造方法

【課題】従来例のものよりも寿命の長い有機ELDの製造方法を提供する。
【解決手段】水分の浸入を遅滞させるためのトラップ溝115を備える封止部110を、第1のガラス基板20に、印刷法を用いて形成する工程と、封止部と有機ELD領域50が形成された第2のガラス基板60とを、封止部のトラップ溝を備える面と第2のガラス基板の有機ELD領域が形成された面とが対向するように、接着剤70を介して接合する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機ELDの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELD(有機エレクトロ・ルミネッセンス・ディスプレイ)は、様々な構造のものが広く普及している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下に、図3を参照して、有機ELDの一構成例を説明する。なお、図3は、従来例の有機ELDの概略図であり、従来例の有機ELDの一部分の断面構造を概略的に示している。
【0004】
図3に示すように、従来例の有機ELD1は、封止部10と、ガラス基板(以下、第1のガラス基板と称する場合も有る)20と、有機ELD領域50が形成されたガラス基板(以下、第2のガラス基板と称する場合もある)60とを有する構成となっている。
【0005】
なお、封止部10は、UV照射で硬化する高分子材料からなる接着剤である。この封止部10は、第1のガラス基板20と第2のガラス基板60とを接合させ、第1と第2のガラス基板20,60との間に密封した空間(以下、密封空間と称する)を形成している。この密封空間には、有機ELD領域50が配置されている。
【0006】
この有機ELD領域50を形成するELDは、水分に腐食され易い。そのため、有機ELD1は、密封空間から、水分を除去する必要がある。そこで、図3に示す例では、第1のガラス基板20の密封空間に露出する面に水分を吸収するための乾燥剤80が配置されている。
【0007】
以下に、図4(A)〜(C)を参照して、図3に示す、従来例の有機ELD1の製造方法につき説明する。なお、図4(A)〜(C)は、それぞれ、従来例の有機ELDの製造工程図である。
【0008】
図4(A)に示すように、第1のガラス基板20に対し、乾燥剤80が配置される溝75を形成する。
【0009】
次に、図4(B)に示すように、第1のガラス基板20の溝75が形成された面に、スクリーン印刷により封止部10を形成する。このとき、封止部10は、第1のガラス基板20の溝75を避けた領域で、かつ、第2のガラス基板60の有機ELD領域50を避けた領域に、形成される。この後、乾燥剤80を第1のガラス基板20の溝75に配置する。
【0010】
一方、図4(C)に示すように、第2のガラス基板60に対し、有機ELD領域50を形成する。なお、有機ELD領域50を形成する工程は、公知であるとともに、この発明との関連性が低いので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0011】
次に、第1のガラス基板20と第2のガラス基板60とを、封止部10の露出している面と第2のガラス基板60の有機ELD領域50が形成された面とが対向するように、この封止部10を介して接合し、UV照射を行って封止部10を硬化させる。これにより、第1のガラス基板20と第2のガラス基板60とを固定する。
【0012】
このようにして、従来例の有機ELD1を製造する。
【特許文献1】特開平4−71190号公報(第1図〜第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、既に説明したように、有機ELD領域を形成する有機EL素子は、水分により腐食し易い。そこで、封止部と第1と第2のガラス基板とによって、有機ELD領域の周囲を密封することにより、有機ELD領域への水分の浸入を防止し易くしている。しかしながら、封止部は、高分子で形成されるため、この封止部を通って、水の分子が有機ELD領域に浸入してしまう。
【0014】
そこで、この水の分子が封止部を通過しないようにするために、封止部材として、ガラス素材、例えばフリット・ガラスを用いて、封止部を形成することも考えられる。ガラス素材によって形成された封止部であれば、有機ELD領域への水分の浸入を好適に防止することが可能となる。
【0015】
しかしながら、その場合には、封止部と第2のガラス基板との間を、接着剤を用いて接合する必要がある。そうすると、この接着剤で封止した部分から、すなわち、ガラス素材によって形成された封止部と第2のガラス基板との間の接着層を経て、外部から有機ELD領域に浸入する水分を完全には遮断できない恐れがある。そのため、仮に、封止部としてフリット・ガラスを用いたとしても、外部から有機ELD領域に浸入する水分を完全に遮断することはできない。
【0016】
したがって、従来例の有機ELDは、外部から有機ELD領域に浸入する水分により有機ELDを腐食させ、これにより、寿命を短縮してしまうという課題があった。
【0017】
この発明は、従来例のものよりも寿命の長い有機ELDの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決するために、この発明に係る有機ELDの製造方法は、外部から有機ELD領域に浸入する水分の浸入を遅滞させるためのトラップ溝を備える封止部を、第1のガラス基板に、印刷法を用いて形成する工程と、封止部と有機ELD領域が形成された第2のガラス基板とを、封止部のトラップ溝を備える面と第2のガラス基板の有機ELD領域が形成された面とが対向するように、接着剤を介して接合する工程とを有する。
【0019】
なお、この製造方法は、好ましくは、トラップ溝が空間として残るように、封止部材と第2のガラス基板とを接着剤で接合するとよい。
【0020】
また、この製造方法は、好ましくは、封止部を構成するための封止部材としてフリット・ガラスを用いて、フリット・ガラスを第1のガラス基板に印刷した後、焼結させて、封止部を形成するとよい。
【発明の効果】
【0021】
この発明の製造方法によれば、封止部として、水分の浸入を遅滞させるためのトラップ溝が形成されたものを用いている。これにより、この製造方法で製造された有機ELDは、外部から有機ELD領域に浸入する水分を、封止部と第2のガラス基板との接合部分のトラップ溝で一時的に留めることができ、その結果、水分が有機ELD領域に到達するまでの時間を遅延させることができる。これにより、有機ELD領域には従来例よりも少量の水分ずつしか浸入しないので、乾燥剤により、充分に吸収することができる。したがって、この製造方法によれば、有機EL素子の水分による腐食を遅延させることができ、これにより、有機ELDの寿命を延ばすことができる。
【0022】
なお、この発明の製造方法によれば、トラップ溝により外部から有機ELD領域に浸入する水分を一時的に留めることを思想としている。そのため、封止部材と第2のガラス基板との間は、トラップ溝が空間として残るように接着剤で接合することが好ましい。
【0023】
また、この発明の製造方法によれば、ガラス素材によって形成された封止部であれば、有機ELD領域への水分の浸入を好適に防止することが可能となる。そのため、封止部は、封止部材としてフリット・ガラスを用いて、フリット・ガラスを第1のガラス基板に印刷した後、焼結させることにより形成することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図を参照してこの発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、各構成要素を、この発明を理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、この発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0025】
以下に、図1を参照して、この発明により製造した有機ELDの構成例を説明する。なお、図1は、この発明の有機ELDの概略図であり、この発明の有機ELDの一部分の断面構造を概略的に示している。
【0026】
なお、図1中、従来例と同様の構成(図3参照)については、同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0027】
図1に示すように、この発明により製造した有機ELD100は、従来例の封止部10の代わりに、水分の浸入を遅滞させるためのトラップ溝115を備える封止部110を第1のガラス基板20に印刷法を用いて形成したものである。
【0028】
このトラップ溝115は、有機ELD100の外部から、第1と第2のガラス20,60と封止部110と接着剤70とによって形成された密封空間に侵入する水分を、一時的に留める。その結果、トラップ溝115は、水分が有機ELD領域50に到達するまでの時間を遅延させることができる。
【0029】
なお、この発明の有機ELD100は、封止部にトラップ溝を備える点以外は、従来例の有機ELD1と同じである。
【0030】
以下に、図2(A)〜(C)を参照して、図1に示す、この発明の有機ELD100の製造方法につき説明する。なお、図2(A)〜(C)は、それぞれ、この発明の有機ELDの製造工程図である。
【0031】
図2(A)に示すように、従来例と同様に、第1のガラス基板20に対し、乾燥剤80が配置される溝75を形成する。
【0032】
次に、図2(B)に示すように、第1のガラス基板20の溝75が形成された面に、スクリーン印刷により封止部110を構成するための封止部材を形成する。このとき、封止部材は、第1のガラス基板20の溝75を避けた領域で、かつ、第2のガラス基板60の有機ELD領域50を避けた領域に、印刷形成される。この後、封止部材と第1のガラス基板20とを焼結させて、封止部材を封止部110に変える。そして、乾燥剤80を第1のガラス基板20の溝75に配置する。なお、封止部110は、例えばフリット・ガラスによって構成されると、外部から密封空間に浸入する水分を好適に遮断することができる。
【0033】
一方、図2(C)に示すように、第2のガラス基板60に対し、有機ELD領域50を形成する。
【0034】
この後、封止部110と第2のガラス基板60とを、封止部110のトラップ溝115が形成されている面と第2のガラス基板60の有機ELD領域50が形成された面とが対向するように、接着剤70を介して接合する。
【0035】
なお、このとき、封止部110と第2のガラス基板60との間は、トラップ溝115が空間として残るように接着剤70で接合することが好ましい。
【0036】
このようにして、この発明の有機ELD100を製造する。
【0037】
以上の通り、この発明によれば、有機ELD100の外部から密封空間に浸入する水分をトラップ溝115で一時的に留めることができ、その結果、水分が有機ELD領域50に到達するまでの時間を遅延させることができる。これにより、有機ELD領域50には従来例よりも少量の水分ずつしか浸入しないので、乾燥剤80により、充分に吸収することができる。したがって、この発明によれば、有機ELD領域50を形成する有機EL素子の水分による腐食を遅延させることができ、これにより、有機ELD100の寿命を延ばすことができる。
【0038】
なお、この発明は、前述の実施の形態に限定されることなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や変形を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の有機ELDの概略図である。
【図2】(A)〜(C)は、この発明の有機ELDの製造工程図である。
【図3】従来例の有機ELDの概略図である。
【図4】(A)〜(C)は、従来例の有機ELDの製造工程図である。
【符号の説明】
【0040】
20,60 …ガラス基板
50 …有機ELD領域
70 …接着剤
75 …溝
80 …乾燥剤
100 …有機ELD
110 …封止部(フリット・ガラス)
115 …トラップ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から有機ELD領域に浸入する水分の浸入を遅滞させるためのトラップ溝を備える封止部を、第1のガラス基板に、印刷法を用いて形成する工程と、
前記封止部と、前記有機ELD領域が形成された第2のガラス基板とを、前記封止部の前記トラップ溝を備える面と当該第2のガラス基板の前記有機ELD領域が形成された面とが対向するように、接着剤を介して接合する工程とを有する
ことを特徴とする有機ELDの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機ELDの製造方法において、
前記封止部と前記第2のガラス基板とを接合する工程では、前記接着剤は、前記トラップ溝が空間として残るように、前記封止部と前記第2のガラス基板とを接合する
ことを特徴とする有機ELDの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の有機ELDの製造方法において、
前記封止部を構成するための封止部材としてフリット・ガラスを用いて、該フリット・ガラスを前記第1のガラス基板に印刷した後、焼結させて、前記封止部を形成する
ことを特徴とする有機ELDの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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