説明

望遠鏡光学系及び撮像装置

【課題】 ピント合わせを容易に行うことができる望遠鏡光学系及び撮像装置を提供する。
【解決手段】 対物レンズ1によって結像された像3を観察するための接眼レンズ4を備えている望遠鏡光学系において、射出ひとみ位置における光束の径を絞る開口絞り11を、対物レンズ1と像3が結像する位置との間に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は望遠鏡光学系及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は従来の地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【0003】
この地上望遠鏡の鏡筒105A内に観察対象物(図示せず)から対物レンズ101、正立プリズム102及び接眼レンズ104が配置されている。
【0004】
対物レンズ101によって接眼レンズ104の手前に像103が結像され、この像103は接眼レンズ104を介して観察される。反転した像は正立プリズム102によってもとに戻されている。
【0005】
例えばバードウォチング等の自然観察は、20〜80倍程度の倍率の地上望遠鏡を用いて、眼視により行われる。
【0006】
近年、デジタルカメラが普及し、地上望遠鏡にデジタルカメラを組み合わせて野鳥等の観察対象物を撮影する人が増加している。
【0007】
地上望遠鏡の接眼レンズの後方にデジタルカメラを配置することによって、超望遠による撮影が可能になる。このときの撮影光学系の焦点距離は、デジタルカメラの焦点距離に地上望遠鏡の倍率を掛けた値となる。
【0008】
視野周辺までケラレなく撮影するためには、デジタルカメラの入射瞳位置と望遠鏡の射出瞳位置(アイポイント)とを一致させる必要がある。ズームタイプのデジタルカメラでは視野周辺までケラレなく撮影するために、入射瞳位置が出来るだけレンズの物体側に来るように、通常望遠側で撮影を行う。
【0009】
デジタルカメラの撮像素子のサイズは35mm判フィルムのサイズに比較して非常に小さいため、撮影光学系全体の焦点距離を35mm判カメラレンズの焦点距離に換算した場合、焦点距離が数千mmの超望遠レンズに相当する。
【0010】
焦点距離の長いレンズによれば観察対象物を大きく撮影できるが、被写界深度が浅くなる(観察対象物が近い場合、被写界深度は数cm程度となる)。
【0011】
撮影光学系の焦点距離と被写界深度との関係の一例を以下に示す。
地上望遠鏡倍率 30倍
地上望遠鏡対物レンズ径(開口絞り径) 80mm
デジタルカメラ焦点距離 15mm
撮影光学系焦点距離 450mm
デジタルカメラ画素サイズ 3μm
撮像素子上での像高 6μm
撮影距離 20m
被写界深度 ±6.4cm
【0012】
開口絞り径は地上望遠鏡の対物レンズの位置における視野中心光束径とした。
【0013】
また、被写界深度の計算では撮像素子上での像高を2点間に1画素を挟んだ場合の間隔での値とした。
【非特許文献1】特開平4―67115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、被写界深度が浅くなると、ピントの合う範囲が狭いため、野鳥等のように動く観察対象物や奥行きのある観察対象物のピント合わせが難しい。
【0015】
これに対し、被写界深度を深くすると、ピントの合う範囲が広がるため、野鳥等のように動く観察対象物や奥行きのある観察対象物のピント合わせが容易となる。
【0016】
開口絞りの径を小さくする(絞る)ことによって被写界深度を深くすることができる。
【0017】
しかし、地上望遠鏡では対物レンズの開口部(有効径)が開口絞りの役目をしているので、開口絞りの径を小さくすることができず、被写界深度をコントロールすることはできなかった。
【0018】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題はピント合わせを容易に行うことができる望遠鏡光学系及び撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、対物レンズによって結像された像を観察するための接眼レンズを備えている望遠鏡光学系において、射出ひとみ位置における光束の径を絞る開口絞りを備えていることを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の望遠鏡光学系において、前記開口絞りは前記対物レンズと前記像が結像する位置との間に配置されることを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の望遠鏡光学系において、前記開口絞りは前記対物レンズの物体側に配置されることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項3記載の望遠鏡光学系において、前記開口絞りは前記対物レンズの鏡筒から取り外し可能であることを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2記載の望遠鏡光学系において、前記開口絞りを前記対物レンズの光軸に沿って移動させる移動手段を備えていることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載の望遠鏡光学系において、前記対物レンズと前記像が結像する位置との間に、正立プリズムが配置されていることを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項記載の望遠鏡光学系の前記接眼レンズの後方に、撮像手段が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
この発明の望遠鏡光学系及び撮像装置によれば、ピント合わせを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1はこの発明の第1実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【0029】
地上望遠鏡(望遠鏡光学系)5の接眼レンズ4の後方にはデジタルカメラ(撮像装置)8が配置されている。
【0030】
地上望遠鏡5は対物レンズ1と正立プリズム2と接眼レンズ4と開口絞り11とを備えている。
【0031】
デジタルカメラ8は結像レンズ系6と撮像素子(撮像手段)7とを備える。
【0032】
地上望遠鏡5の射出瞳位置(図示せず)はデジタルカメラ8の入射瞳位置(図示せず)に一致している。
【0033】
対物レンズ1の有効径はφSである。
【0034】
開口絞り11は対物レンズ1の有効径を変更し、射出ひとみ位置における光束の径を絞る。
【0035】
開口絞り11は対物レンズ1と対物レンズ1によって結像された像3の位置との間に配置されている。
【0036】
開口絞り11の径を変化させるためのリング部材12は鏡筒5Aの外周面に回転可能に設けられている。
【0037】
リング部材12は変換機構13を介して開口絞り11に接続されている。変換機構13はリング部材12の回転を開口絞り11の径の変化に変換する。
【0038】
なお、リング部材12に代えて開口絞り11の径を変化させるレバー(図示せず)を鏡筒5Aの外周面に設けてもよい。
【0039】
対物レンズ1によって接眼レンズ4の手前に像3が結像される(反転した像は正立プリズム2によってもとに戻される)。接眼レンズ4を介して地上望遠鏡5から射出した光束は射出瞳(入射瞳)を通過し、接眼レンズ6を介して撮像素子7に再結像される。
【0040】
デジタルカメラ8を用いて撮影を行うとき、必要に応じてリング部材12を回転させる。
【0041】
リング部材12を回転させたとき、リング部材12の回転に応じて開口絞り11の径が絞られる。その結果、対物レンズ1の有効径(φS)が絞られ(地上望遠鏡5の射出瞳位置における光束の径が絞られ)、被写界深度が深くなる。
【0042】
開口絞り11の径を変化させたとき、被写界深度は以下のように変化した。
撮影距離:20m
開口絞り径 80mm 70mm 60mm
被写界深度 ±6.4cm ±7.3cm ±8.5cm
【0043】
なお、地上望遠鏡5及びデジタルカメラ8の使用は以下のとおりである。
地上望遠鏡倍率 30倍
地上望遠鏡対物レンズ径 80mm
デジタルカメラ焦点距離 15mm
撮影光学系焦点距離 450mm
デジタルカメラ画素サイズ 3μm
【0044】
この実施形態によれば、開口絞り11の径に応じて被写界深度を深くしてピントの合う範囲を広げることができるので、ピント合わせを容易に行うことができる。
【0045】
図2は開口絞りの一例を示す平面図である。
【0046】
開口絞り11は複数(図2では5枚)の絞り羽根11a〜11eを組み合わせて構成されている。絞り羽根11a〜11eの一端部を中心として回転させることによって開口11Aの面積が変化する。開口11Aの面積が最大のとき、図示のようにほぼ円形になる。
【0047】
図3はこの発明の第2実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図であり、第1実施形態と共通する部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0048】
この実施形態は開口絞り21を対物レンズ1の物体側(地上望遠鏡(望遠鏡光学系)15の鏡筒15Aの物体側)に配置した点で第1実施形態と相違する。
【0049】
地上望遠鏡15は対物レンズ1と正立プリズム2と接眼レンズ4と開口絞り21とを備えている。
【0050】
開口絞り21は第1実施形態と同様に複数の絞り羽根を組み合わせたものである。
【0051】
開口絞り21の径を変化させるためのリング部材22は鏡筒15Aの外周面に回転可能に設けられている。
【0052】
リング部材22は変換機構23を介して開口絞り21に接続されている。変換機構23はリング部材22の回転を開口絞り21の径の変化に変換する。
【0053】
なお、リング部材22に代えて開口絞り21の径を変化させるレバー(図示せず)を鏡筒15Aの外周面に設けてもよい。
【0054】
デジタルカメラ8を用いて撮影を行うとき、必要に応じてリング部材22を回転させる。
【0055】
この実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、開口絞り21を対物レンズ1の前面に近接して配置したので、撮影の際、有効に周辺光束を使用することができる。
【0056】
図4はこの発明の第3実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図であり、第1実施形態と共通する部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0057】
この実施形態は開口絞り31を対物レンズ1の物体側(地上望遠鏡(望遠鏡光学系)25の鏡筒25Aの物体側)に取り外し可能に配置した点で第1実施形態と相違する。
【0058】
地上望遠鏡25は対物レンズ1と正立プリズム2と接眼レンズ4と開口絞り31とを備えている。
【0059】
開口絞り31は鏡筒25Aの内周面に対して摺動可能な円筒部31aと円筒部31aの一端に一体に形成されたドーナツ状の円板部31bとで構成される。円板部31bによって対物レンズ1の有効径(φS)(地上望遠鏡25の射出瞳位置における光束の径)が絞られる。
【0060】
デジタルカメラ8を用いて撮影を行うとき、必要に応じて対物レンズ1の物体側に開口絞り31を取り付ける。
【0061】
なお、この実施形態は第1、2実施形態のように連続的に絞り径を変更するものではないが、絞り径(円板部31bの開口部の径)の異なる開口絞り31を予め複数用意しておけば実用上問題なく撮影することができる。
【0062】
この実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。また、撮影をしないで眼視観察だけを行う場合には開口絞り31を点線で示したように取り外すことができるので、地上望遠鏡25の軽量化を図ることができ、持ち運び易い。更に、開口絞り11等の径を変化させるための機構を必要としないので、地上望遠鏡25を安価に提供することができる。また、開口絞りを内蔵していない従来の地上望遠鏡に対しても開口絞り31を取り付けることができるので、多くの費用をかけることなく撮影対象を広げることができる。
【0063】
図5はこの発明の第4実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図であり、第1実施形態と共通する部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0064】
この実施形態は開口絞り41を対物レンズ1の光軸に沿って移動可能とした点で第1実施形態と相違する。
【0065】
地上望遠鏡(望遠鏡光学系)35は対物レンズ1と正立プリズム2と接眼レンズ4と開口絞り41とを備えている。
【0066】
開口絞り41はドーナツ状の円板であり、光軸L上の位置aと位置b(光束を制限しない位置)との間を移動する。開口絞り41を移動させることによって対物レンズ1から入射する光束の径を小さくすることができる。
【0067】
鏡筒35Aの外周面には、開口絞り41を移動させるための回転リング42が回転可能に設けられている。鏡筒35A内には、回転リング42の回転力を開口絞り41の直線運動に変換する変換機構45が配置されている。
【0068】
回転リング42と変換機構45とで請求項5の移動手段が構成される。この移動手段は望遠鏡や双眼鏡のピントリング(回転リング42に対応)を用いて光学系内部の合焦レンズを光軸方向へ移動させて合焦させるための機構と同様である。
【0069】
なお、リング部材42に代えてレバー(図示せず)を設けてもよい。
【0070】
撮影を行うとき、必要に応じてリング部材42を回転させる。
【0071】
この実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0072】
なお、第1、4実施形態において、開口絞り11,41の位置が像面3に近い場合、撮影時、被写界深度に主に影響する視野中心光束が減少しないで、視野周辺光束だけを減少させてしまうおそれがあるので、視野中心光束から減少させることができる位置(開口絞り11,41が像面3から遠い位置)とするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1はこの発明の第1実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【図2】図2は開口絞りの一例を示す平面図である。
【図3】図3はこの発明の第2実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【図4】図4はこの発明の第3実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【図5】図5はこの発明の第4実施形態に係る地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【図6】図6は従来の地上望遠鏡の断面を示す概念図である。
【符号の説明】
【0074】
1 対物レンズ
2 正立プリズム
3 像
4 接眼レンズ
5,15,25,35 地上望遠鏡(望遠鏡光学系)
5A,15A,25A,35A 鏡筒
7 撮像素子(撮像手段)
8 デジタルカメラ(撮像装置)
11,21,31,41 開口絞り
12 リング部材(径変更手段)
42 回転リング
45 変換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズによって結像された像を観察するための接眼レンズを備えている望遠鏡光学系において、射出ひとみ位置における光束の径を絞る開口絞りを備えていることを特徴とする望遠鏡光学系。
【請求項2】
前記開口絞りは前記対物レンズと前記像が結像する位置との間に配置されることを特徴とする請求項1記載の望遠鏡光学系。
【請求項3】
前記開口絞りは前記対物レンズの物体側に配置されることを特徴とする請求項1記載の望遠鏡光学系。
【請求項4】
前記開口絞りは前記対物レンズの鏡筒から取り外し可能であることを特徴とする請求項3記載の望遠鏡光学系。
【請求項5】
前記開口絞りを前記対物レンズの光軸に沿って移動させる移動手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の望遠鏡光学系。
【請求項6】
前記対物レンズと前記像が結像する位置との間に、正立プリズムが配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の望遠鏡光学系。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の望遠鏡光学系の前記接眼レンズの後方に、撮像手段が配置されていることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−78937(P2006−78937A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265038(P2004−265038)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(501439264)株式会社 ニコンビジョン (86)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】